会社員たちの喧騒が居酒屋の中で響き渡るような、平凡な時間が穏やかに過ぎて行く。
高層ビル群と近未来らしい電子広告が点在し、町往く誰もが目まぐるしい技術の進歩に驚きもせず。
これが見滝原にとっての『平凡』を象徴しているかのように。
間もなく聖杯戦争が開幕する。
事情を知るのはマスターと彼らに召喚されたサーヴァントのみ。
主従の一組。
ブローノ・ブチャラティが都心へ足を運んだのには、幾つか理由があった。
一つは、討伐令をかけられたセイヴァーの目撃情報が最もある場所であるから。
最も、ブチャラティは討伐令の報酬が目当てじゃない。
セイヴァーの行動の節々が『悪』を醸し、許し難い存在だと本能的に察知していたのもあるが。
彼自身、喉に小骨が引っ掛かっている違和感、疑問点を解消したかった。
(討伐令の報酬に『聖杯戦争の放棄』……主催者は『戦う意志』のない者の存在を把握しているのか)
ブチャラティも望んで聖杯戦争に導かれたのではない。
戦えない訳ではない。スタンドなる能力を兼ね備えているとはいえ、全ての人間が『そう』とは限らず。
主催者は『あえて』報酬に『聖杯戦争の放棄』を見せびらかす事で。
聖杯を望まぬ者の戦意を無理にかき立てる算段なのだろう。
だとすれば。
聖杯戦争に導かれたマスターの選出手段は、どうやらランダムな仕様か?
でなければ聖杯を望みそうな者だけを意図的に選べばいい話だ。
故意じゃあない、不可抗力?
まだ、ブチャラティにも聖杯戦争の全貌を見通せる情報は限りなく少ない状態。
彼は今できる行いを取るだけであった。
「あそこだな」
遠目から目的地を発見し、ブチャラティが立ち止まると。人目がないのを確認して、セイバー・
リンクが実体化した。
下見のようなもの。
彼らは『テレビ局』の現状を確認しに来た。
赤い箱のウワサを象徴する猟奇殺人犯・怪盗Xの犯行声明のせいで、明らかに警察関係者の警備が強固だ。
だが、彼らの努力は虚しく終わる。
サーヴァントは霊体化で姿を消して、意図も容易く建造物に侵入してしまえる。
ある意味、サーヴァントそのものが怪盗染みていた。
テレビ局の前では報道陣が撮影し、即席で作られたであろうカンペの内容を読み上げるアナウンサーの姿が見られた。
現時点でアヤ・エイジアの出演に関しては不透明らしい。
予定通りテレビに出演するか否か……彼女がマスターなら故意に出演を望むのも、ありえるが。
特別目立った動きがないのを確認したブチャラティは、人気の多い場所へと踵を返した。
闇雲に行動はしない。
薄々、ブチャラティもセイヴァーの行動が読めた。
奴は見滝原の住人を『利用』する為に、悪意ある行動を取っている……ならば
接触し優位になりえる人物が現れそうな場所。
単純に考えれば権力者など。彼らが居る可能性が高いのは、庶民が足運ぶ場所じゃあなく、高級店だ。
「セイバー、サーヴァントの気配は?」
高級店で統一されたビルの付近で、ブチャラティの問いにリンクは首を横振る。
地味な作業だが、仕方ない。セイヴァーは恐らく本格的に仕掛けて来る。動かない訳がない。
その時。リンクが一般人の視線を気にし、ビル脇の道へ入ったが――
「なにッ!? セイバー!」
ブチャラティは驚愕した。どう見ても脇道へ移動しただけのリンクが、突如として姿を消してしまった。
これは……霊体化ではない! 敵サーヴァントの攻撃!?
躊躇する余裕もない。ブチャラティは己の背後にスタンドを出現させる。
「『スティッキィ・フィンガーズ』!」
虚空に拳を振るった瞬間、ありえないがブチャラティは『見つけた』。
答えを先に知ってしまったが、理屈や過程も自然と判明した。
成程、ブチャラティは虚空にできた『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーを眺める。
「俄かに信じがたいが……別空間がある。この先にな。どうやらコイツは『アーチ』を境目に出現しているらしい」
アーチ。
見滝原の都内、その一部に点在しているもの。
特別な理由ではない。地域の境目だったり、昔からの名残を残す場合もある。
ビル脇にあるアーチは『居酒屋』が犇めく飲食街の境界として設置されている部類だった。
「妙に人が居ないのは、他の人間を別空間に引き込んでいるからじゃあないだろうな」
ジッパーで開けた先は、別世界だったが上空は夜。周辺は自然の緑が点在する、現代に失われた美しさのある光景。
つまり見滝原と別世界。固有結界だ。ここじゃ敵サーヴァントが優位にある。
しかし、ブチャラティが侵入したと同時に、強力な力でジッパーは消滅。
敵がブチャラティ達を閉じ込めたのだろう。
リンクは剣を構えた。
森よりヌゥと姿を見せる奇妙な生物たちが、敵意を持って登場する。
どうやら、まずは敵の……使い魔たちを片づけなければならない。
「必ず敵サーヴァント本体が潜んでいる筈だ。セイバー……極力戦闘を避けていくぞ」
連戦を強いられては魔力消費の負担ばかり背負う。
固有結界のサーヴァントの狙いも、ブチャラティたちの消耗を狙っている。
使い魔も木々の奥から姿を露わにすれば不気味で歪な、恐怖が体現されたかのような形状だ。
だが、ブチャラティもリンクも、怪物に恐れ成すことはない。
彼らの精神は、この程度で怯む事は無いのだから……
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]数十万程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の打破
1.固有結界のサーヴァントを捕捉する。場合によっては倒す。
2.出来れば協力者が欲しい
3.セイヴァーとの接触
4.アヤ・エイジアの殺害は阻止したい
5.どこかに居るであろう
ディアボロへの警戒
[備考]
※固有結界のサーヴァントが魂食いを行っていると疑っています。
※セイヴァー(
DIO)とジョルノの関係性を感じ取っています。
※ウワサの内容から時間泥棒がディアボロではないかと睨んでいます。
※リンクから時を静止させる存在が居る事を把握しております。
【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
[状態]健康、実体化
[ソウルジェム]無
[装備]『時を超える退魔の剣(マスターソード)』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:ブチャラティの方針に従う
1.固有結界のサーヴァントを捕捉する。場合によっては倒す。
2.見滝原に響く時の音が気になる。
[備考]
※杳馬が『天国への階段』を阻止する時の音が聞こえていますが
確証のない情報の為、マスターのブチャラティには打ち明かしてません。
※ブチャラティからディアボロに関する情報を把握しています。
※時に関する能力の発動を認識しております。
☆
「逃げられてしまったんでしょうか……」
一人の少女――
マシュ・キリエライトは呼吸を整えていた。
彼女は、遠目からリンクのステータス等を視認し、急いで現場に駆け寄ったが。
既にリンクも、マスターであるブチャラティの姿もない。
だが、ほんの一瞬だ。僅かな間で……サーヴァントが霊体化するのはともかく、マスターまでも消えるとなれば。
周囲を確認し、
ブローディアがマシュの隣で実体化した。
「魔力の残り香を感じる」
「私が視認したセイバーのものですか?」
「流石に、そこまでは分からないな。あまりにも微細だが……
似たような感覚は、見滝原と呼ばれるこの地帯全土に及んでいる。例の奴だ」
「……なるほど」
マシュが険しい表情を浮かべる。
見滝原全土にある微細な魔力の残り香。この世界の裏側に巣作る固有結界との繋がり、境目の残痕だ。
ナーサリー・ライム。
マシュは、そのアサシンの『異なる側面』を対面した経験があるが。
彼女の情報でサーヴァントの看破に至れる事はなかった。
だが、この魔力をセイバーのものと軽率な判断を下すべきではないだろう。
僅かであれサーヴァントを捕捉したのは、幸運だったか。
第一。マシュが足を運んだのは、討伐令にかけられたセイヴァーとの接触を狙っての行動である。
しかしながら、マシュの目的は討伐令の報酬でも、聖杯獲得ですらない。
ブローディアが再び霊体化しつつ、念話でマシュと言葉を続けた。
『相手は一筋縄にいく部類ではないだろう。承知の上なんだな』
『はい。この聖杯戦争を解き明かすのに、避けては通れないと考えています』
根本的な議題――何故、セイヴァーが討伐令にかけられたのか?
燃料投下を狙ったものと安直に捉えそうだったものの。マシュは『理由』があるのでは、と引っ掛かっていた。
どんな犯罪にも『動機』があるように。
セイヴァーが討伐令にかけられたのも『理由』がある。
マシュは聖杯戦争の謎を、別の表現で異世界の『特異点』の解決に通ずる糸口になりうる可能性を見出している。
もう一つ。マシュは言う。
『あとは協力者の捜索……いえ「ダ・ヴィンチちゃん」の捜索をしたいのですが
今日までハッキリとした目撃証言らしいものが無く、厳しいです』
ダ・ヴィンチちゃん。
親しみ込めた名称でマシュが呼ぶ人物、否――英霊。
レオナルド・ダ・ヴィンチ。
モナ・リザのウワサを体現するのは、紛れもない。彼女だろう。
分かっている。マシュの知る、カルデアに居るダ・ヴィンチとは別人だ。
別人、という表現も間違っているかもしれない。
だけど、カルデアでの記憶を持つレオナルド・ダ・ヴィンチである保証は一切無い。
マシュはこれまで、様々な特異点で同一のサーヴァントと巡り合っても
自分たちと邂逅した記憶のない者が少なからず存在していた。この特異点でも………
それでもレオナルド・ダ・ヴィンチなのに変わりは無い、根本は、魂は同じだ。
フム、とブローディアは提案する。
『闇雲に探すのはマスターの負担になる。いっそ、必ずサーヴァントと接触できる機会を狙うべきだ』
『必ず……? あ。見滝原中学、でしょうか。アヤ・エイジアの犯行予告も同じくですが』
『ああ。大食い探偵も、高校へ向かえば出会えるかもしれないが。必ず、となればその二つだ』
セイヴァーやダ・ヴィンチが現れるか不明だが、確実に他サーヴァントと接触できる可能性の高い二択。
問題は、マシュが二択に関連した場所に潜入しにくい事。
サーヴァントであるブローディアはともかく、マシュだけ取り残されるのは危険だ。
マシュは少し間を開け、それから答える。
『もう少し見回りしてから考えます。まだセイヴァーや他の主従の方々と接触できるかも分かりません』
『そうだが……マスター、夜更かしは体に悪いぞ。無理は良くない』
『は、はい。頃合いを見て、切り上げます』
心配するブローディアの気持ちに、マシュも申し訳なさと納得を感じる。
聖杯戦争開幕により、興奮し寝付けないなら仕方ないが。
マシュは、セイヴァーとの接触を狙う為、あえて夜更かしするハメになっていた。
昼間でもよいが、セイヴァーの目撃情報は『夜』だけ。昼間、町中で巡り合ったウワサはSNSでも流れない。
「………あ」
夜、だけ………?
まさか、とは思ったが証拠もない。可能性とはありえなくないが……
吸血鬼。
人類の誰しもが知る、夜を統べる怪物のウワサがあった。
【B-5 都心/月曜日 未明】
【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]端末機器
[所持金]両親からの仕送り分
[思考・状況]
基本行動方針:元のカルデアに戻る。特異点の解決。
1.セイヴァーとの接触
2.協力者の捜索。ダ・ヴィンチちゃんと出会えれば良いが……
3.前述を達成する為、見滝原中学かテレビ局に向かうべきか悩み中
[備考]
※セイヴァーの討伐令には理由があるのではないかと推測しております。
※セイヴァーが吸血鬼の可能性を考えましたが、現時点で憶測に留めています。
※見滝原内に点在する魔力の残り香(ナーサリー・ライム)について把握しています。
※セイバー(リンク)のステータスを把握しました。
【シールダー(ブローディア)@グランブルーファンタジー】
[状態]霊体化
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:自分の居るべき世界への帰還
1.マシュの方針に従う
[備考]
※見滝原内に点在する魔力の残り香(ナーサリー・ライム)について把握しています。
★
どうやら気付かれていない。
サーヴァントも人目を警戒して、すぐ霊体化したお陰なのだろう。彼女・スノーホワイトが気付かれなかったのは。
一息ついて、スノーホワイトは魔法少女の脚力でビルからビルに飛び移り、移動をする。
彼女の目的は、新たなサーヴァントとの契約。
強力かつ、自分がコントロールしえる、聖杯狙いの、そんな部類を探していた。
勢力を見極めるついでも兼ねている。
少なくとも『声』を聞く限り、シールダーとセイバーの主従は双方共に聖杯獲得に動いていない。
それと……固有結界のサーヴァント。
魂食いを派手に行っている様子から聖杯獲得を狙っている節が見られるものの。
特異のテリトリーでの戦闘に持ち込むスタイル……正直『強い』か分からなかった。
セイヴァー。
スノーホワイトは彼の弱点を把握してはいる。ただセイヴァーも愚かではあるまい。
紛れもなく見滝原中学に現れる可能性が低いのだ。
何故なら根本的な問題。見滝原中学の『構造』そのものにある。
スタイリッシュで近代的なデザインを追求した結果なのだろうか。
見滝原中学は全面ガラス貼り、校舎内の教室に至るまで壁という障害がガラスに変換され、スケスケなのだ。
確かに、バーサーカーが憤るのは当然だろう。
あんな場所にセイヴァーは現れない。太陽光が差しこむどころか、普通のサーヴァントも身を隠せない。
とは言え……
スノーホワイトがセイヴァーをコントロール可能な部類とは、毛頭考えちゃいない。
だが、彼がマスターの『
暁美ほむら』を失う可能性は、高い。何故なら
(屁理屈だけど、セイヴァーか暁美ほむらか……どちらかを殺せば報酬が貰えるということ)
そう。
原理として暁美ほむらを倒せば、セイヴァーが消滅するから。の意味合いで
主催者も『そのように』討伐令を配布したのだろう。が、暁美ほむらさえ倒せば良いのだ。
ここにはそう記述されているのだから。
セイヴァーが強力なサーヴァントだと理解可能が故に、マスターのみを狙えば報酬は得られる。
(ただし、その場合。セイヴァーの魂が誰に回収されるか分からない)
聖杯獲得を狙う者にとっては一番の問題がそこだ。
ウワサの数が正しければ、20以上のサーヴァントがいるものの。聖杯作成に7騎の魂が必要ならば
早い者勝ちである。
どうせなら、セイヴァーを倒し魂の確保を狙うべきだろう。
スノーホワイトは再び、自らの魔法に集中し他の主従の捕捉を試みた。
【B-5 都心/月曜日 未明】
【
スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]魔力消費(小)、魔法少女に変身中、プク・プックの洗脳
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]『ルーラ』
[道具]『四次元袋』
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得。全てはプク様の為に
1.再契約するサーヴァントを見極める。
2.セイヴァーとの契約は最悪の場合のみにしておく。
[備考]
※バーサーカー(
ヴァニラ・アイス)への魔力供給を最低限抑えています。
※ブチャラティ組、マシュ組の動向を把握しました。
※セイヴァー(DIO)が吸血鬼であることを知っています。
※セイヴァー狙いで見滝原中学に向かうつもりはありません。
※現在、プク・プックの洗脳は継続されています。
最終更新:2018年07月02日 23:42