未来の話(Side咲綾)
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未来の話(Side咲綾)
「社長! 次のプロモーションなんすけど――」
「社長! 二次選考の通過者リストの確認――」
「社長! 浜口さんの出演作が――」
中央区のオフィス街に本社を構える041グループは、今日も活気にあふれている。整然とデスクが並ぶメインオフィスはCDだが、それがかえって新鮮に映る。
このオフィスの最奥、窓際にある大きなデスクに、彼女の姿はあった。
「とりあえずリスト見せて。――うーん、この子はイマイチかなぁ。それよりあの子は? ネヴァーランド出身っていうあの子。ちょっと変わった子だけどこっちの子より素質があるわ」
「で、でもあれはCD――」
「でももヘチマもないの。うちの社訓は?」
「“ARよりも素敵な夢を魅せる”です」
「そう。CDかどうかは関係ない。人の心を動かす魅力を育むのがうちのスタイルよ。憶えておいてね」
新人社員に教育する彼女。その昔は一介のクグツに過ぎなかったが、17歳の頃に個人事務所“041プロダクション”を設立。今ではグループ11社を擁する一大エンターテイメント企業の社長となっている。
「プロモーションにはXを切るわ。司政官へのアポのとり方はわかるわね?」
「え、稲垣司政官すか? 確かマニュアルにあったような……。というか、あんなのが私たちに手を貸してくれるんすか」
「あのオヤジともなんだかんだで古い付き合いでね、そう簡単にNOとは言わせないわ。プラチナムを持ってかれるくらいは覚悟しなきゃだけど」
「ニューロ! やっぱ社長はすげーや!」
男性社員に称賛を受ける経営手腕は、過去に所属していた企業の会長を思わせるものだ。しかし、売るのは武器ではなく夢。彼女は他企業のトップと比べても、現実的な夢の見方に長けていると言えるであろう。
「で、晴佳ちゃんの出演作がどうしたの」
「はい、そのことなんですが――」
女性社員が話し始めようかという時に、彼女のポケットロンが鳴った。CMで放映中の新曲だ。ディスプレイには“浜口晴佳”の文字が覗いている。
「ちょっとあんた、遅いじゃない」
「遅いっていってもこればっかりはね。それで何があったの、晴佳ちゃん」
「そっちの情報は早いみたいね。何があったもなにも、撮影現場が急に襲撃されたんだけど。まさかあんた、なにか仕組んだんじゃないでしょうね」
「まさか。私がそんな事できないのは知ってるでしょ。今行くから待ってて」
「どうだか。まあ期待せずに待っておくわ」
通話を切った彼女は、デスクの背後に飾ってあった盾を手に取り、上着を羽織る。その顔は、なにかを懐かしむような、それでいて高揚感に包まれたような、社員の誰も見たことのないものだった。
「司政官を脅すのは一旦中止! 私は晴佳ちゃんのところに行くから、留守は頼んだわよ!」
「脅すって一体――あ、消えちゃった。社長、昔は凄腕のカブトやってたって聞いたけど、まさか自分からインヴァりにいくなんて……」
「大きなビズより目の前の一人。あんなだから社長はモテるのよね、まったく」
女性社員はため息交じりに新人社員を見る。少女漫画かといわんばかりにキラキラした瞳だ。
「まあ、それが社長のいいところなんだけどね。さ、聞いたわね? 社長が帰ってくるまでに具体的なプロモーション内容詰めるわよ」
女性社員が手をパンパンと叩くと、社員たちはもとの仕事へ戻っていく。
「社長! 二次選考の通過者リストの確認――」
「社長! 浜口さんの出演作が――」
中央区のオフィス街に本社を構える041グループは、今日も活気にあふれている。整然とデスクが並ぶメインオフィスはCDだが、それがかえって新鮮に映る。
このオフィスの最奥、窓際にある大きなデスクに、彼女の姿はあった。
「とりあえずリスト見せて。――うーん、この子はイマイチかなぁ。それよりあの子は? ネヴァーランド出身っていうあの子。ちょっと変わった子だけどこっちの子より素質があるわ」
「で、でもあれはCD――」
「でももヘチマもないの。うちの社訓は?」
「“ARよりも素敵な夢を魅せる”です」
「そう。CDかどうかは関係ない。人の心を動かす魅力を育むのがうちのスタイルよ。憶えておいてね」
新人社員に教育する彼女。その昔は一介のクグツに過ぎなかったが、17歳の頃に個人事務所“041プロダクション”を設立。今ではグループ11社を擁する一大エンターテイメント企業の社長となっている。
「プロモーションにはXを切るわ。司政官へのアポのとり方はわかるわね?」
「え、稲垣司政官すか? 確かマニュアルにあったような……。というか、あんなのが私たちに手を貸してくれるんすか」
「あのオヤジともなんだかんだで古い付き合いでね、そう簡単にNOとは言わせないわ。プラチナムを持ってかれるくらいは覚悟しなきゃだけど」
「ニューロ! やっぱ社長はすげーや!」
男性社員に称賛を受ける経営手腕は、過去に所属していた企業の会長を思わせるものだ。しかし、売るのは武器ではなく夢。彼女は他企業のトップと比べても、現実的な夢の見方に長けていると言えるであろう。
「で、晴佳ちゃんの出演作がどうしたの」
「はい、そのことなんですが――」
女性社員が話し始めようかという時に、彼女のポケットロンが鳴った。CMで放映中の新曲だ。ディスプレイには“浜口晴佳”の文字が覗いている。
「ちょっとあんた、遅いじゃない」
「遅いっていってもこればっかりはね。それで何があったの、晴佳ちゃん」
「そっちの情報は早いみたいね。何があったもなにも、撮影現場が急に襲撃されたんだけど。まさかあんた、なにか仕組んだんじゃないでしょうね」
「まさか。私がそんな事できないのは知ってるでしょ。今行くから待ってて」
「どうだか。まあ期待せずに待っておくわ」
通話を切った彼女は、デスクの背後に飾ってあった盾を手に取り、上着を羽織る。その顔は、なにかを懐かしむような、それでいて高揚感に包まれたような、社員の誰も見たことのないものだった。
「司政官を脅すのは一旦中止! 私は晴佳ちゃんのところに行くから、留守は頼んだわよ!」
「脅すって一体――あ、消えちゃった。社長、昔は凄腕のカブトやってたって聞いたけど、まさか自分からインヴァりにいくなんて……」
「大きなビズより目の前の一人。あんなだから社長はモテるのよね、まったく」
女性社員はため息交じりに新人社員を見る。少女漫画かといわんばかりにキラキラした瞳だ。
「まあ、それが社長のいいところなんだけどね。さ、聞いたわね? 社長が帰ってくるまでに具体的なプロモーション内容詰めるわよ」
女性社員が手をパンパンと叩くと、社員たちはもとの仕事へ戻っていく。
これは、これから歩むかもしれない未来の話。そして、誰かが望んでいるかもしれない幸せの形。