一方そのころ
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一方そのころ
――東京N◎VA
――地下1300メートル
――ベリューレンコーポレーション地下大実験場
「やぁ、お目覚めですね。十三。よく眠れましたか?夢などを見ていたのだとしたら、ぜひお教え願いたいものですねぇ」
窓越しに見えるのは拘束された13番機のレプリカ……私のオリジナルが死んだ少し後程度の記憶が刷り込まれている人間だ。まぁハードとしてはGSUよりは多少骨のある人間だが。
「オイ社長、ここは何処だ?お前確かくたばったはずじゃねぇのか?」
言語中枢に問題は無し、意識もはっきりとしているようです。恐らく会話も問題はないでしょう。
「ふむ……直前までの記憶に齟齬は有りませんね。これでこの実験は32回目ですが、貴重なデータを転送して下さった0番機には感謝しないといけませんね。えぇ、そう思うでしょうα?」
「全くだな。私もあちらと役割を交代したいものだよ。ここは退屈だし、何よりこの実験は気が滅入る。私はね」
「ふむ……やはりマキナは素晴らしいですね。私はこの実験が非人道的であるという認識はありますが、貴方のような人間らしさを会得する事は恐らく不可能でしょう。私は所詮ここの管理とベリューレンコーポレーションの未来を管理するAIでしかないので。えぇ、実験に一喜一憂はしますが」
「一喜一憂?私には、ただ愉しんでいる様にしか見えないがね?」
「おや、そのような評価を頂けるとは、感謝の極みです。……さて、混乱しているでしょうが十三、貴方にはある選択をしてもらいます」
「……てめぇ翔太だな?一体どういう……まさかお前らまだまだ居るとかいう……」
「いえいえ、その話は貴方が最初ですが私とαはもう後この世には1体ずつしか存在しませんよ。いや、私はまだ14番機が居ましたね。あちらはまだ上手く誤魔化せているようで助かります」
「俺に何をやらせようってんだ……」
「いえいえ、簡単な話ですよ、貴方にはある選択をしてもらいます。前の壁にご注目下さい」
ガラガラと壁が開いていき、その奥には二つの檻が設置されていた。
「さぁ、選択の時です、十三、今から貴方の前に二つのボタンが現れます。どちらか一つ、貴方の銃口で押してください。音楽を流しますので、それが終わるまでには……」
手元のスイッチをオンにする。グリーグの『ペールギュント』第一組曲が流れ始める。
「……そういう事かよ……なぁ舞……どっちもお前なんだな……?」
32回目はどんな反応をするのか、楽しみですねぇ……
「ううん父さん!こっちが本物よ!」
「違うの!私が舞!そいつは嘘をついてる!」
「違うの!私が舞!そいつは嘘をついてる!」
「どちらも本物の乾舞から生み出した全く同じクローンです。さぁ、選びなさい。貴方にはその権利と義務と責任があります」
あぁ……愉しいですねぇ……
「……俺は……」
1分30秒を超えた。ここまで来たのは17回目でしたか
「……オレ……hァ……」
「おや、ゲームオーバーですか。記録は2分13秒……まだ脆弱性に関してはいかんともしがたいですねぇ……その点、貴方は素晴らしいですよ……また実験に協力もせずおしゃべりなんて、ジーニーは可愛いですねぇ……」
目の前には小さな女の子……乾舞の幼体に、選ばれた乾舞と選んだ乾十三の精神を入れたモノが一人でぼうと、正確には二人でぼうと立っていた。
「……分かったよ、やりゃあ良いんだろ?」
「おや、また貴方ですか、出来れば選ばれた方の意見も偶には聞いてみたいものなのですが」
「知るか、俺達にはお前の興味なんか関係ねぇ」
「そうですか。あぁそうだ。お昼ご飯はいつもの場所に置いてあるので、チンして食べてください。今日のは手によりを掛けて作りましたので」
ばたんとドアがしまる。
「おや、偶にはお礼位聞きたいものなのですが。……αは気に入りましたか?」
「あぁ……だが正直お前の感性については、理解できんがね」
「おや、手厳しい。今度はイタリアンではなく中華に戻しますか」
「……はぁ、まあ良い、片付けはしておく。お前はデータの収集でもしておけ」
「ありがとうございます。ではこの辺で」
東京N◎VA地下1300メートルで、魔物は確かに、息を潜めて生きていた。