Father◆T9Gw6qZZpg




 夢を見た。
 一人の父親の夢だった。

 娘を救おうと伸ばした手は、遂に娘を二度と撫でること無く堕ちていく。
 救えなかった娘の命は、きっと悪魔に殺され消えることとなる。
 娘が、希望が、最早為す術なく砕け散っていく。

 それはまるで、『私』の末路かと錯覚してしまうほどに似通っていて。
 彼が『私』の同類なのだと察するには十分なものであって。

 決して相容れることの無いはずだった男の想いを、痛ましいまでに『私』は理解してしまった。






「…………ぐぁ」

 連続的に襲い来る爆風の勢いに圧され吹き飛ばされた身体が、背中からコンクリート壁に叩きつけられた。
 死にはしない。ある程度は防ぎ軽減したダメージは、戦闘の続行には支障の無い程度のものに過ぎない。
 それなのに、身体は幾百もの重石でも括りつけられたかのように動こうとしてくれない。
 奴を止めろ。害意を撒き散らす、吐き気を催す邪悪と言うべきこの男に屈するな。
 立ち上がらねばならない理屈を頭で何度唱えても、身体が抗うことをやめてしまっている。
 そんな私の姿を見て、決着は付いたとでも言うかのようにキャスターのサーヴァントは白の装束で覆っていた本来の姿を再び晒した。
 私とさほど年齢の変わらないように見える、壮年の男の姿だった。

「貴様では私に勝てない。その精神を、正義を貫く意志を捨てた貴様では私を止められない。諦めるんだな」

 侮蔑的に吐き捨てたキャスターは、他のマスターに命じられて私と戦ったのではない。
 当然だ。キャスターのマスターは、他の何者でもなくこの私自身なのだ。
 キャスターは聖杯を求めている。そのためなら他の何者を切り捨てることも、絶望の底へと突き落とすことも最早一切躊躇しない。
 この男は同類だ。百年にも渡って人間を食い物にしてきたあの邪悪の権化と、イカれた性癖のために罪の無い人々の命を奪った殺人鬼と、何ら変わらない。
 怒りの感情を頭で燃え上がらせることで、私は「召喚してしまったこのキャスターを倒す」と決意し、挑みかかり、しかし、敗れた。
 それほどまでにこのサーヴァントは強敵であった。この敗北は、私の力が及ばなかったがための結果。

「……その令呪で『死ね』と一言命じれば、それだけで全てが終わっていた。強い弱い以前の問題だ。貴様は、私に戦いを挑む必要すら無かったのだ」

 右手の甲に刻まれるのは、赤い紋章。
 初めて目にした時と変わらない形状を保っているそれは、今に至るまで私が「令呪によってキャスターを自害させる」という選択肢を取らなかった証明だった。

「全ての人々の希望を守る……そんな綺麗事を言うのは、いい加減にやめればいい。自らの死よりも深い絶望を味わった貴様に、貴様自身の聖杯への望みを諦めることなど出来ない」

 威圧的で、確信的なキャスターの物言い。
 自らの歪みを指摘されてなお、私の口が正しさで構築された反論を紡ぐことはなく、ぎりぎりと噛み締めるだけだった。
 呆れたように、キャスターは背を向けた。

「何処へ行く」
「他のサーヴァントを倒すための策を弄しに行くだけだ」
「私が、それを許すとでも……」
「ああ、許すだろうな。貴様はいずれ、暦の未来を願う私と共に歩む。その黄金の精神に泥を塗りたくり、貴様は私と同じ殺人者となる。絶望を撒き散らす怪物だ。だが、それを恥じるな」

 自らが悪であることをキャスターは罪だと考えない。そのための倫理観を、既に失っている。
 この男は、どうしようもなく狂ってしまっている。
 そして私もまたこの男のように狂い果てる……なんて予言など、やれやれと聞き流すだけで済む妄言だ。
 妄言の、はずだった。
 それなのに、ナイフでするりと切り開いてから刺し込むように、キャスターの言葉は私の胸へと冷たく侵入する。
 くぐもった声が、私の口から洩れ出すのを聞いた。

「私と同じ絶望を知った貴様こそ、私と同じ希望を胸に抱ける。変身しろ。その意思を黒く染めろ。貴様には最早その道しか残されていないと、認めるんだ」

 背を向けたキャスターの姿が、遠ざかっていく。
 時を止めれば、握り締めた拳を伸ばせば、まだ奴を殴り飛ばせる。
 そう頭で分かっていても、私はただ奴の背中を眺めるだけだった。

空条承太郎。聖杯こそ、貴様の最後の希望だ」

 最後に残された声は、甘美な響きを纏って私の耳に届いた。






 エンリコ・プッチのスタンド、メイド・イン・ヘブンに頭を潰され、私は死んだはずだった。
 そのはずが、こうして死を免れ見知らぬ地で生を実感することが許されている。
 だから、何だ。
 私の希望は、既に摘み取られている。
 最後の決戦の場からおめおめと逃げたに等しい姿を晒していること、ではない。
 プッチの言う天国とやらの実現のために世界が崩壊を迎えたこと、ではない。

「徐倫」

 この世界の中で、過去から未来までの時間の中で、たった一人だけの私の娘。
 私の死より少し先の未来で彼女が殺されることこそ、私にとって最も大きな、絶望。
 時を止められない彼女では、エンリコ・プッチに勝てる道理が無い。
 私が直接目にしていないだけで、空条徐倫が負けて死ぬ運命は既に決まっている。

 あの時、徐倫を救おうとしなければ、プッチを殺すことは出来ただろう。
 それなのに徐倫を救うために手を尽くしたことで私はプッチに負け、徐倫も結局は負ける。
 つまり、徐倫はどの道生きられなかった。
 その事実に気付くまでの時間は、この地に訪れた私が全ての記憶を取り戻してから一分もかからなかった。

 悪のカリスマというべきあの吸血鬼を討ち取った十七歳の空条承太郎なら間違いなく選択する道を、今の私も選ぼうとした。
 しかし、揺らいでしまった。
 二十四年という時間が、空条承太郎を変えてしまった。
 無鉄砲にして無敵の強さを武器とした戦士を戸惑いと迷いに溺れさせる力を持った、出会いというものを経験してしまった。
 家族へ捧げる愛と、それを奪われる絶望を知ってしまったから。

 キャスターは吐き気を催す邪悪であると断言して立ち向かうべきなのに。
 私には未だ、それが出来ない。
 それは、聖杯戦争を勝ち抜くための仲間としての側面を持つからか。
 或いは、彼もまた私と同じ絶望を知る者であると、悟ってしまったからなのか。

 我欲に身を堕とすなど、空条徐倫ならば有り得ない。
 それは遥か昔に逝ったというジョナサン・ジョースターも同じだろう。
 数十年の時を経て戦ったジョセフ・ジョースターも。
 人々の生きる街の平和を愛した東方仗助も。
 そして、遂に出会うことのなかったジョルノ・ジョバァーナもだ。
 私も、そうあるべきはずなのだ。
 有無を言わさず犠牲を強いる聖杯を徹底的に叩き潰し、元いた世界へと帰る。
 それが正しい。
 ……娘のいない世界へと、帰ることが。

「最後の、希望」

 縋り付くように零れゆく言葉を、私は抑え込むことが出来なかった。












【クラス】
キャスター

【真名】
笛木奏@仮面ライダーウィザード

【パラメーター】
通常時⇒筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運D 宝具C
変身時⇒筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具C

【属性】
中立・悪

【クラススキル】
  • 陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
キャスターの場合、空間それ自体に位相の異なる他次元の領域を作り出すことをも可能とする。
その他、後述の宝具発動のための陣地も作成可能。

  • 道具作成:A
魔術的な道具を作成する技能。
さらには、後述する宝具の再生産も可能とする、

【保有スキル】
  • 高速詠唱:-
魔術の詠唱を高速化するスキル。
呪文詠唱は全て宝具が代行するため、必要としない。
上級魔術であっても一瞬で詠唱を終えることが可能。

  • ウィザードローブ:C
変身によって身に纏うローブによる特性。対魔力と魔力放出の複合スキルで、それぞれCランク相当。
なお、このスキルは変身前の状態では一切機能しない。

  • 勇猛(偽):A+
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
精神干渉の無効化は、実際には精神汚染スキルを内包しているために実現されることとなる。
ただの一人の父親でしかなかった笛木奏は、歴戦の英霊達のような気高き黄金の精神など持たない。
愛する娘を喪った絶望と狂気。ただそれだけを糧に、彼は『魔法使い』へと変わり果てた。

【宝具】
  • 『詠うは白き慟哭の声(ワイズドライバー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
キャスターが腰に装着する、ベルト状の呪文代行詠唱装置。
普段はベルトに偽装されているが、ドライバーオンの指輪で本来の姿を取り戻す。
ウィザードリングを翳すことでそれぞれに対応した音声を発し、本人の詠唱無しで呪文を行使する。
『白い魔法使い・ワイズマン』に変身した状態では各能力が上昇し、ウィザードローブのスキルを獲得する。
性能は事実上『指輪の魔法使い・ウィザード』が持つ同型の宝具の上位互換であり、数々の上級魔術を行使可能。

道具作成スキルの応用により、同型の物を擬似的な宝具として再生産することが可能。勿論、相応の魔力の消費が伴う。
キャスター以外の者でも魔法使いへの変身が可能となるが、擬似宝具によって変身するのは『メイジ』という下位の魔法使いである。
『ワイズマン』への変身を可能とするのは、あくまでキャスター自身が持つオリジナルの宝具のみ。
また、体内にファントムを宿さない人間がドライバーのみで魔法使いに変身することは出来ないため、その点を解決する必要もある。

  • 『煌めく亜獣(カーバンクル)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1体
生前のキャスターによって生み出された人造ファントム。科学と魔法の融合による産物。
このファントムを自らの肉体に融合させることにより、キャスターは『魔法使い』となることを可能とした。
生前はこのファントムの姿を表出させること、およびファントム自体を肉体から分離させること可能であった。
しかし宝具と化した現在では、他者と一体化して以後は表出も分離も不可能となる。
そのためキャスターが自らの力を行使するパワーソース、一種の魔力炉としての機能が主となっている。
また、魔法石の原石を精製するという元来の能力は現在も残されている。
魔法石の原石には「道具作成スキルによって新たにウィザードリングを作成する」「そのまま魔力に再変換して回復を図る」の二通りの利用方法がある。

道具作成スキルの応用により、同型の物を擬似的な宝具として再生産することが可能。勿論、相応の魔力の消費が伴う。
他者の肉体に取り込まれるまでの間は単独での行動を可能とするが、戦闘能力自体はさほど高くない。
このファントムと身体を一体化させ、ドライバーを用いることで初めてキャスター以外の者も魔法使いに変身可能となる。

  • 『屍殻穿つ魔杖(ハーメルケイン)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:1体
キャスターが武具として用いる杖。笛と横槍を合わせたような形状。
魔力で構成された物品・肉体に対しては特に有効な破壊力を与えられる。
刃自体で魔術を切り伏せることだけでなく、魔力による障壁を発生させることも可能とする。
また、キャスター以外の者であっても武器として問題なく使用可能。

  • 『蝕まれし希望の光、絶望の幕開け(サバト・トゥ・ラスト・ディスパイア)』
ランク:EX 種別:対人・対界宝具 レンジ:? 最大補足:?
数多の罪無き人々を犠牲にして得た魔力を願望器に込める、贄の儀式。キャスターの反英雄としての象徴。
解放のために必要な条件は少なくとも四つ。
日食を人為的に引き起こすエクリプスリング、及び効果発動に要する多量の魔力。
生前に拿捕した『魔法使い』の代替となる、強大な魔力を有する四人の生者。
魔方陣の発動によって魔力を吸い上げられるスノーフィールド全市民。
そして、魔力を込める器となる『賢者の石』あるいはその代替物。
これらを宝具解放のために設けた陣地に集めることで、初めて解放可能となる。
その実態は、言うなればスノーフィールド全域で一斉に発生させる魂喰い。そして聖杯戦争の完遂すら要さずに起こされ得る奇跡の実現。
仮にこの宝具の効果が完全に発揮された時、何が遺されるか誰にも予測し得ない。
故にランクは測定不能。

【weapon】
  • ウィザードリング
宝具『詠うは白き慟哭の声』で呪文を行使するための指輪。
生前に使用した指輪は既に一通り揃えられている。
また、道具作成スキルにより魔法石の原石から新たに指輪を作成することも可能。

【人物背景】
かつて娘を喪った一人の父親。
絶望の中、娘にもう一度生きてほしい一心で魔法の力へと手を伸ばした。
そしてあまりにも多くの人々へ痛苦と非業を振り撒いた彼は、しかし娘の蘇生を果たせず逝った。
手を下したのは一体のファントム。他ならぬ笛木によって絶望させられた青年の、成れの果て。
笛木の愛を起点とした絶望の連鎖は、笛木自身を終わらせた。

【サーヴァントとしての願い】
暦の幸福な未来。






【マスター】
空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン

【マスターとしての願い】
徐倫の幸福な未来。

【weapon】
特に無し。

【能力・技能】
  • 『スタープラチナ』
 破壊力 - A / スピード - A / 射程距離 - C(2m) / 持続力 - A / 精密動作性 - A / 成長性 - E
空条承太郎の持つ近距離パワー型スタンド。
破壊力・スピード・精密性の三点において最上級の能力を持ち、こと近接戦闘においては無類の強さを誇る。
パワーを集中させた指を伸ばす「流星指刺(スターフィンガー)」という技も持つ。

  • 『スタープラチナ・ザ・ワールド』
宿敵DIOとの決闘の中で発現した時間停止能力。光速をも超えたスピードによって辿り着く極致。
記憶喪失から復活した承太郎は全盛期の頃に近い能力を取り戻しつつあり、現時点では主観計測で約5秒間の時間停止が可能。

【人物背景】
かつて悪の帝王DIOを討ち倒したスタンド使い。
勇者と評するに値する少年は、時を経て家族を愛する一人の父親となった。
その家族を庇ったために、彼はDIOの意志を継ぐエンリコ・プッチの前に斃れた。
悪を滅ぼす黄金の精神は、愛へと姿を変えて彼自身を滅ぼした。

【方針】
聖杯戦争を止める――――?









第四階位(カテゴリーフォー):巴マミ&アーチャー 投下順 第六階位(カテゴリーシックス):レメディウス・レヴィ・ラズエル&バーサーカー
時系列順
GAME START 空条承太郎 OP2:オープニング
キャスター(笛木奏)

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最終更新:2017年02月28日 22:32