レメディウス・レヴィ・ラズエル&バーサーカー◆aptFsfXzZw
大昔の話よ。
ウルムンは悪い王様に支配されていた。民は苦しみ、怨嗟の声は地に満ちた。人々は神に祈ったが、答えはなかった。
悪王に夫と子供と両親を殺された一人の女がいた。女は絶望のあまり、荒涼としたデリラ山に登って死のうとした。
死と静寂の山を七日七晩歩いた。それでも死ねず、嘆きの声は山を渡り、谷に谺した。
女が我に返ると、そこには古き砂礫の竜、ズオ・ルーがいた。
女はズオ・ルーに助けを求めた。『竜よ私たちを助けたまえ、我らは悪王に虐げられ死を待つのみです』と。
だが、竜は答えた。『我は人喰いの罰でこの山に封じられ、長い眠りで力を失い、力にはなれない』と……。
女は言った。『ならば私を喰らえ、この血と肉を竜の力として、悪王を倒したまえ』と。そして女はズオ・ルーの口に飛び込んだ。
血と肉の供物により力を取り戻した人喰い竜は、封印より放たれた。ズオ・ルーは山を越え、砂漠を越えて飛び、宮殿に舞い降りた。
竜は泣き叫ぶ悪王を喰い殺し、その手先たちもすべて喰らった。血の海となった宮殿から尖塔に登り、ズオ・ルーは人々に告げた。
『血と肉を捧げよ、さすれば我は何度でも現れ、ウルムンの敵を喰らうであろう』と哀しい声で吠えた。
竜は灰となった。そして竜の灰は空の彼方へと消えていった。再び血と肉が捧げられるまで、竜は眠っているの。今でも、ね……
ナリシア「ズオ・ルー伝説」 皇暦四九六年
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
――――夢を見る。
欲望渦巻く世界の変革を願った、一人の青年の生涯を。
――”俺”は、世界中を旅していた。
困っている人を、少しでも助けたかった。争いも悲しみもない、平和で幸福な世界が欲しかったからだ。
今までのように、俺ならそれができると信じて疑わなかった。
…………だけどそれは、大きな間違いだった。
一族の庇護から飛び出した現実の世界という広大な盤面に対して、俺には本当に小さなことしかできなかった。
この世界を変えたいという大きな欲望を抱えていても、それを成し遂げるための力が足りていなかった。
――善意のつもりの施しは、俺の想った人々に届くことなく、彼らの血を吸う死の商人達が潤うために費やされていた。
そのせいで更なる苦しみに晒された人達がいると知って、俺は居ても立ってもいられず駆けつけた。
彼らを救うために。そして、過った世界の在り方を正さなければという、言い知れぬ焦燥のままに。
突然の来訪者となった俺を、人々は警戒していた。
どうして彼らを救いたいのか――なぜ、よりによって”彼ら”なのか。俺に、言えるはずがなかったから。
平和ボケした金持ちの道楽だと思われていたのだろう。それでも、一緒に暮らして、共に汗を流し、時には遊んだりするうちに、いつしか笑顔を見る機会が増えた。
……そのきっかけになってくれたのは、きっと、誰より早く心を開いてくれたあの少女なのだと俺は思う。
内戦で疲れ果てていた彼らは、それでも日々を懸命に生きていた。いつかきっと、争いが終わって幸福に生きられる日が来るという希望を共有していたからだ。
誰も無意味に殺されたり、飢えて死ぬこともない平和な世界――俺の軽率な行いが、遠退けてしまった未来(あした)。
間違った世界に盗まれたそれを、一日も早く彼女達に返してあげたくて、俺は奔走し続けた。
なのに世界は、それを動かす人々の欲望は、取り返しの付かないほどに呪われていた。
そして俺は、そんな世界(欲望)に対して、どうしようもなく無力だった。
失われた希望を皆で育んでいた日々は、呆気なく破られた。
前触れのない攻撃を受け、今朝挨拶をしたばかりだった村人が身体に穴を空けていなくなった。
……おそらくは、俺の寄付した金で買われた兵器によって。
爆風と轟音に煽られた俺には、喪われることへの恐怖を我が身以上に覚えたものがあった。運次第で次の瞬間には切り離されてしまうかもしれない世界の中を、俺は必死に駆け回った。
――ようやく少女(ルウ)の小さな姿を見つけて、目立った怪我がないことを認めた時、俺は心から安堵していたと思う。
だけど引切り無しに爆音や銃声の響く中、ルウはまだ恐怖の最中に囚われ、身動きできずにいた。
そんな恐ろしい世界から助けて欲しいと、彼女は俺に手を伸ばし。俺はすぐ傍に行くよと頷いて――不意の暴力に、無様に転がされた。
情けない俺の姿に、ルウが一層悲鳴を上げたその時。俺も悲鳴を上げてしまった。
自分の身に迫った脅威にではなく――彼女の背後から迫る、空を飛ぶ爆弾を目の当たりにして。
立ち上がる暇もなかった。ただ、届くはずのない手を伸ばすことしかできなかった。
届くはずのないその手は、当然のように何も掴めなかった。
視界を奪う爆発が晴れたその後には、俺と最初に打ち解けてくれたあの少女は、痕跡すら残さず消え失せていた。
――彼女は、殺されたのだ。
ただの流れ弾で、何の意味もなく。
あるべき未来を手にする前に、その生涯に終わりを迎えた。
無力な俺には、ただ、声の限りに絶叫するしかできなかった。
その声すらも、闘争の中に掻き消されながら。
……その後のことは、詳しくは覚えていない。
俺の居た村を占拠した勢力に捕らえられ、生き残った人々と共に身代金を請求するための人質となった。
だが、貧しい村のために動けるほど、国にも余力は残っていなかった。武装勢力もそれを踏まえて、見せしめとして俺達を用意していたのだ。
俺は、何とか生き残った人達と一緒に脱出する方法を模索していたのだと思う――その頭の片隅に、俺に何かができるはずがないなんて、遅すぎる諦念を多分に抱えながら。
それでも生き残った以上は何かをなさねばならないと、そんな強迫観念だけで動いていたのだろう。
――――なのに。
それなのに。
……俺だけが、解放された。
今の今まで支援の一つもくれなかった実家が、身代金を用意したからだった。
あの時の、残された人々の浮かべた表情を、俺は今でも覚えている。忘れられるはずがない。
……彼らがその後辿った、運命も。
そして、事実は捻じ曲げられた。
結局は道楽の範疇で、家の庇護下という小さな世界から一歩も踏み出せていなかった俺は、帰国と同時、思いもよらぬ――悍ましい美談の主人公となった。
――偶然巻き込まれた内戦から、命懸けで村を救った政治家一族の御曹司という、センセーショナルな報道によって。
偶然……違う。あの内戦は、俺のせいで起きたんだ。
命を懸けて村を救った? 親の金で命を救われ、村を置いて来たこの俺が?
ルウの未来を奪ったまま、壊してしまったこの俺が……?
……その一件以来、俺は実家を離れ、祖父の姓を使って一人で生きるようになった。
少しのお金と明日のパンツさえあれば良い、なんて程度のその日暮らしを続けながら、各地を放浪し困っている人を見つけては首を突っ込んだ。
多くの人を不幸にした俺は、その分も困っている人を助けなくてはならないと思ったからだ。
政治家として大成すれば、もっと効率は良かったかもしれない。だけどそのためには、あの村のような犠牲を統計上の単なる数字と見て、利用しなければならない時がきっと来る――そんなことには、耐えられなかった。
今度は、この手の届く範囲で。
俺の願いが、渦巻く欲望に翻弄されてしまうことのないように。
そして、その手がどこまでも届くように。
今度こそルウを救えるように――世界の理不尽に敗けないだけの力がないのなら、そのために捨てられるものは全部捨ててでも。
そんな想いで、俺は必死ながら、どこか乾いた日々を過ごしていた。
……そして、あの日。
「――――メダルを三枚ここに嵌めろ。力が手に入る」
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
そこで、彼の意識は覚醒した。
久しく体験していなかった、”夢”という生理現象。彼には不要なはずの、記憶の整理に伴うこの状態を招いた要因が何であるのか――学ぶことなく記憶に刻まれた知識から、自然と正解は導き出せた。
「今のが貴様の過去というわけだな。バーサーカー」
「……多分、そうですね。レメディウス博士」
傍らに立つ東洋人風の青年――バーサーカーは、どこか気まずそうに返事をした。
「貴様も私を見ている、というわけか」
対し、レメディウスと呼ばれた男は、錆びた声で現状を認識する。
告げた覚えのない名前を、今日になってバーサーカーが口にしたのは因果線(ライン)を通した共鳴夢の影響なのだろう。
それを理解した上で、半身を起こしたレメディウスはその名を改めよと己がサーヴァントに告げる。
「此度の舞台で与えられた役割も、な」
故国に過度な干渉を行う大国(アメリカ)への警告を行うため、その事前準備としてこのスノーフィールドに潜伏中の武装組織『曙光の鉄槌』の党首、通称「砂礫の人喰い竜」ズオ・ルー。
『白紙のトランプ』により誘われる以前と、ほぼ同一の肩書と立ち位置を以って聖杯戦争に挑むマスターの一人――それが今のレメディウス・レヴィ・ラズエルの置かれた状況だった。
「ならば何一つ、私の為すことに変わりはない。ウルムンの民のため、戦い続けるだけだ」
縦横に傷跡を走らせた顔に遮光眼鏡を掛けて、その翡翠の瞳を隠しながら――レメディウスは静かに狂気を口にする。
浅慮と無知ではなく、知性故に選択した破壊と闘争の意志を。
そう――聖杯戦争に参加する以前から、レメディウスは戦っていた。
破壊だけを残された手段として、人民を虐げる独裁者と、貧しき国々を搾取する大国と。
そしてそんな歪みを許した、人類(世界)の在り方そのものと。
……本来のレメディウスは、そんな革命のために命を賭す人間ではなかった。
巨大咒式工業であるラズエル財団の未来を担う天才として生を受け、それ故の束縛に不平を漏らす程度の、典型的な富める者だった。
視察に赴いたウルムンという国で武装組織に誘拐された後でも、まさか自分が死ぬはずがないなどと――その国に、自らが開発した兵器群が売られていたとしても、道具に善悪などなく、使い手次第であるなどと、どこか他人事にしか認識できていなかった。
だが、それは誤りだった。
平和のための抑止力にと想いを込めた、人間が持つ個人の可能性を広げるものであるはずの咒式。
それが人間を虐げるために使われている現実を見て、レメディウスはようやく己が欺瞞を理解できた。
設計者であるレメディウスがどんな想いを込めようと、武器は武器でしかなく。そして、砂漠の人々の血を吸ってラズエル財団を潤すための商品でしかなかった。
言語と意味に呪われた世界では、そんな、明らかな不正義が罷り通っている。
だが、呪文で魔法が起こらないように。胸の内で祈るだけでは、口先だけで愛と平和を唱えるだけでは、何も変わらない。
変革という奇跡は、勝ち取った者だけが手にできる報酬なのだから。
……ならば。
「聖杯を掴む。願望器の持つ絶対の力で救国を、救世を成し遂げる」
無間に続く、人の世の業を絶つためにこそ、レメディウスはその奇跡を行使する。
「……そのために、他のマスターを殺すんですか?」
そんな主人の渇望に、狂戦士のクラスで召喚されたサーヴァントは悲しみを滲ませた声で、咎めるような問いを投げた。
「無論。必要とあればいくらでも殺してみせる」
「それは……ナリシアさんのためですか?」
「そうだ。そして、全ての人類のためでもある」
核心を衝こうとするバーサーカーの言葉にも、レメディウスは揺らがなかった。
ナリシア。
家名も何もない、ただのナリシア。
砂漠の国に生きた、心優しく素朴な少女。
そしてレメディウスをズオ・ルーとして生き永らえさせるため、その身を捧げた供物の名。
「争いもなく、誰もが平和で幸福な世界。ナリシアの祈る、人類共通の悲願を実現することだけが、私の全てに他ならない」
思い出してなどいない。忘れたことなど、一刹那すらありはしない。
彼女だけではない。予選のためのムーンセルの干渉を唯一の例外として、完全記憶能力を持つレメディウスはこれまでに体験した全ての出来事を、一ビットルすら漏らすことなく記憶し続けている。
故に彼には過去はなく、全てが現在と等価値で、全く同時に存在している。
それは、自らをチェルス将棋の大陸王者に導いた一手を指した瞬間の高揚感や、昨夜の死地において紙一重でバーサーカーの召喚が間に合った安堵のみならず。
ゼムンの背信に過ぎった悪寒も、ドムルが息を引き取る際の絶望も、ハタムに浴びせられる呪いの言葉も、ナジクとナバロを贄とした手触りも、ナリシアを嚥下する悍ましい喉の感触も。
忘却という恩寵を失くした人中の竜は、全ての痛みを克明に抱えた記憶の焔に焼かれ続けている。
その灼熱に苛まれる限り、人喰い竜の歩みが緩まることはあり得ないのだ。
交わした約束を果たすその時まで――否、その末に、楽園へ辿り着いた後さえも。
「そのために、聖杯戦争で優勝しようと? 争いのない平和な世界のために、今ここで殺し合いを選択するんですか?」
「賢しげに理想を唱えるだけの愚か者には、何もできないし何も変えられない。そのような者は、存在していないに等しい」
矛盾を追求しようとするバーサーカーの詰問も、それ自体はレメディウスを小動もさせはしない。
だが、値踏みにしては執拗に過ぎる疑問には、微かな苛立ちが蓄積されていた。
故にだろう。次に舌に載せた言葉には、恣意的に選んだ狂気ではなく、純粋な憎悪が滲んでいた。
「そして覚悟なき偽善など、害悪にしかなりえない」
その感情のまま、夢により与えられた、己とバーサーカーの縁となったであろう体験を、レメディウスは突き返す。
「他ならぬ貴様もよく知っているだろう、バーサーカー……いや、仮面ライダーオーズ。無力な偽善が招いた犠牲を知り、その欲望を貫き通す力と覚悟で再起した英雄よ」
前後し並列した過去の出来事の中で、レメディウスは”アンク”と出会った後のバーサーカーの生前もある程度把握できていた。
絶大な力を秘めた欲望の結晶(メダル)の力を操る戦士、仮面ライダーオーズとして戦う日々を。
時には大禍つ式(アイオーン)や長命竜(アルター)すら越える怪物達を薙ぎ倒し、人々を救うというかつて果たせなかった欲望を満たし続けた男の過去を。
――そのオーズが集めた力の中でも、此度の召喚で唯一持ち込めたという紫の宝具(メダル)が、一際危険な代物であるということも。
「……俺が変わったのは、オーズの力のせいじゃないですよ」
その過去を知っているからこそ、同じ感情を抱いた砂礫の人喰い竜に授けられた”力”であると目していた英霊は、しかしレメディウスの予想に反する答えを返した。
「……何?」
「確かに俺は力が欲しかった。どこまでも届く、どんな人でも救えるだけの力が欲しかった。オーズの力は、確かにそんな俺の欲を叶えてくれました。
だけど、違ったんです。結局あんな腕じゃ……一番近くに居たあいつの手だって、最後は掴むことができなかった」
その時のことを思い出しているのか。何もない掌の中に残された、何かの欠片を見るように視線を下げていたバーサーカーは、その拳を握り締めてレメディウスと対峙する。
「力に頼るのは簡単です。でも力だけに頼ったところで、必ず限界があります。どんなにあっても足りることはない――強すぎれば、守りたいものまで壊してしまうのに。
……そんなものじゃ、俺の欲望は満たせなかった」
沈痛な面持ちで吐き出されたそれは、これまでに出会った他の誰かしたのなら。所詮は空虚な理念、単なる言葉の羅列としか認識できなかったことだろう。
「――私の戦いは愚かであると?」
しかしレメディウスにとって、今回だけは違った。その言葉を口にしたのが、他ならぬバーサーカーであったからだ。
「そうは言いたくありません。あなたの気持ちもわかりますから。
だけど、その手段は間違っています。絶対に」
「……では、代案を示せ」
譲ることなく向かい合うバーサーカーに、遮光眼鏡を外したレメディウスは、その緑の鬼火となった視線に載せて、絶対零度の言葉を投げた。
「他に、どのような方法ならウルムンの民を救える? 体制に逆らい、内臓を引き出されて殺される男を、何十人もの兵士に陵辱される女を、飢えと病で死んでいく子供を、そしてルウとナリシアを、どんな方法が、言葉が救う?」
かつて、青年達の認識はあまりに狭く幼かった。
それまでは想像すらしなかったあの地獄は、何ら特別なものではなく――世の中にありふれた、何の生産性もない出来事に過ぎなかった。
誰もが幸福を望んでいるというのに。貧困が、無知が、憎悪が欲望が齎す地獄が、人の世には偏在していたのだ。
そしてその死によって齎される再分配で、富める自分達だけは安穏と生きていた。
そんな世界は間違っている。
ならば、正さなければならない。
――――――――だが。
「……頼む。もしそれを知るなら教えてくれ、異邦の英霊よ。何がおまえを満たし、変えたのかを。人々を救う方法を、誰も傷つけないで済む方法を! ルウとナリシアを救うその術を!」
レメディウスが吐いたのは、世界の歪みを憎悪する砂礫の人喰い竜の詰問ではなかった。
それは理不尽を前に立ち尽くすしかない、己の無力さに耐えられない少年の漏らした静かな慟哭だった。
あるいは痛ましさのあまりに、直視に耐えないかもしれない、弱々しい絶叫だった。
「……ありますよ」
しかしバーサーカーは、レメディウスと同じ地獄を見て、正しく絶望し、なお生まれる希望のために戦った欲望の王は。
同じ祈りのために戦い抜き、生涯を駆け抜けた英霊は、レメディウスの痛みから逃げなかった。
自らの見出した答えを告げるために、彼は、英雄は、レメディウスの下にやって来てくれたのだから。
「皆で、手を繋ぐんです。一人一人、お互いを助け合えるように……いつか、世界中の皆で」
そして真摯に示された答えは、余りにも単純だった。
「……何?」
「どんなに大きな力を手に入れても、どんなに凄い天才でも。一人の手が届く範囲なんて、広い世界のほんの片隅にしかならないんです。
だから……一人で何とかしようとした俺の手は、あの子に届かなかった。あなたの手も、ナリシアさんには届かなかった」
自分達を踏み潰したこの世界(地獄)を振り返るバーサーカーの顔に、微かに悲痛な影が射す。
それを晴らしたのは、彼の手に入れた絶大な力ではなく――その口から吐き出された、生涯を通して得た答えだった。
「それでも、皆で手を繋ぎ合えば――それは、どんな遠くにも届く、無限を越えた俺達の腕になるんです」
そんなありふれた、誰でも考えつくような綺麗事を。
世界を救いたいという己の欲望のために、地獄を経てなお全力で生き抜いたはずの、神にも到る力を得た英雄であるはずの彼は、大真面目に語ってみせた。
それが、己の見出した貴き解であるのだと、心底からの確信を以って。
「……繋いでいると思う手を、突き放される時にはどうするつもりだ?」
「その時は……まだ、手を繋いでいる人達と一緒に頑張ります。もう一度、その人とも手を繋ぐことができるように」
「貴様はそれで、世界を変えることはできたのか?」
「俺が生きてる間にってことなら……多分、少しだけ」
しかし、確かに変えられたのだと。
そしてその変革は……彼の手を繋いだ誰かの空いた手が掴んだ次の誰か、そのまた次の誰かへと受け継がれ、これからも続いて行くのだと。
バーサーカーは、暗に告げた。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「あなたが受けた裏切りは、俺の体験したものよりずっと酷いと思います。でも、だからって絶望に身を任せて欲しくないんです」
今も彼を苛む記憶の痛みを思いながらも、バーサーカーはレメディウスに耐えて欲しいという望みを伝える。
「……あなたは確かに世界が変わることを望んでいた。けれどそれは、人間の可能性を信じていたからのはずです――力でその芽を摘む前に、もう少しだけ、信じてみて貰えませんか」
人は、世界は変わっていく。欲望がある限り、何かが生まれ、変わっていく。
時に行き過ぎた欲望に振り回されることがあるとしても、いつか人類は成長しその幼年期を終えるのだと、バーサーカーは信じている。
何故なら、誰もがより良い明日を望み、欲しているのだから。
世界(地獄)を楽園へ変革するという奇跡は、いつの日にか人類が正当に獲得する報酬であるのだと、信じていた。
だから、たった一人でそれを与えてみせるというかつての己の、そしてレメディウスの理想は、恵まれているが故の傲慢さに起因する安易な救世主願望に過ぎない。
誰も取り零したくないという気持ちは本物でも。たった一人によって救われるような世界とは即ち、そのたった一人の物でしかないディストピアなのだから。
旅先で出会った人々がその地域によってまるで異なる人生観を抱えていたように、一人一人の見ている世界は違うものだ。
それをたった一人が急いて救済する、などと言っても。仮令聖杯の奇跡を以ってしても、必ず歪みが生まれてしまう。
ならば、都合の良い誰か一人が全てを背負うのではなく、一人一人、皆で変えていくしかない……だから、焦らないことが肝要なのだ。
その、一人一人が変わるための、最初の一歩となる祈りを抱えた青年にそれを伝えるために――そして、その時まで支えるために。
バーサーカーは、ここまで来た。
「今すぐじゃなくても構いません。だけどその時までは、俺が、あなたの手を掴んでいますから」
かつて、アンクがこの手を掴んでくれたように。
今度は自分が、レメディウスの手を掴む。
そんな決意の視線を前に、レメディウスは感情を殺したままに吐息を一つ、砂漠の夜風のように零していた。
「……貴様は、恵まれているのだろうな」
「そう思います。勿体無いくらい、たくさんの仲間に助けて貰いましたから」
レメディウスが、記憶の檻に囚われた人中の竜が恵まれていると指したのはおそらく、それだけではないのだろうとバーサーカーも理解していた。
だとしても。オーズの力も、無慈悲な忘却の救済も彼には与えられることがないのだとしても、それだけは彼にも掴めるはずだと信じていたから、頷くことができた。
レメディウスもその首肯を認め、一言一言、噛み締めるようにゆっくりと口を開いた。
「貴様の望む方法でウルムンに、世界に平和を呼べれば良いのだろう。かつてのレメディウスも、そのような美しい理論で成り立つ世界に憧れている」
完全な記憶力のために、逆説的に過去を失くした男は奇妙な文法で、バーサーカーの訴えに理解を示した。
「だが、それは所詮傲慢な夢想に過ぎない。あるいはいつかの未来に訪れる救済の奇跡だとしても、今この現実の前にはどこまでも無力だ。
それでは今すぐに、全てを救うことなどできはしない」
しかしそれは、何の意味もない言葉のやり取り、会話の中での一定の譲歩に過ぎなかった。
「愚挙だとしても構わぬ。可能性が低かろうが、今苦しむ者すら救えるのであれば、私は悪鬼羅刹の道を選択する」
何故なら、レメディウスとバーサーカーは別の人間で……二人の見ている世界は、同一の物ではなかったからだ。
死者(バーサーカー)は、未来を信じていた。そして生者(レメディウス)は、今と過去に囚われていた。
「……本気なんですか」
バーサーカーは微かに声を震わせながら、己がマスターを詰問する。
「本気でウルムンの人のためなら、聖杯戦争に巻き込まれた人は死んでもいいって言うんですか!?」
「召喚に応じた以上は、貴様にも協力して貰うぞバーサーカー。貴様が望む世界の実現のために、この争いで流れる血をこの世最後の犠牲としてみせろ」
それで会話は終わりだとばかりに背を向けたレメディウスに、バーサーカーは待ったをかけた。
「……あなたはかつて、ズオ・ルーのお伽話を哀しい物語だと言いました」
垣間見たレメディウスの記憶。愛する少女に教えて貰った伝説に、そんなものに縋るしかなかった彼女達の境遇にレメディウスが覚えた感情から目を背けるなと、バーサーカーは訴える。
「哀しむ人たちが、本当には救われていない。それをなぞることが、本当にナリシアさんとの約束を果たすことになるんですか!?」
「黙れ」
だが――それが人中の竜の、逆鱗に触れてしまった。
「ナリシアの遺志も含めて私自身の意思。それを選び取った私の意志が私を動かす。それは最早私にも、誰にも止められない」
錆びた声を前に、いいや止めてみせる、と微かに構えたバーサーカーに対して、見せつけるようにレメディウスはその掌を返した。
「覚悟の足りぬ貴様にもだ、バーサーカー」
誇示された令呪。
それを見咎めた瞬間。その時点で造反していれば、続く文言は阻止できたかもしれない。
しかし、バーサーカーは――
火野映司は、血に塗れた杯で私欲を満たすためではなく、レメディウスを救うためにここに来た。
――彼を殺すことなど、できるはずがなかった。
その躊躇が、以後の彼の運命を決めた。
「令呪を以って我が傀儡に命ずる。私に使われる力として、何もかもを忘れ、狂い続けていろ」
砂礫の人喰い竜が呪いの息吹として放ったその言葉は……あるいは、嫉妬と羨望、そして慈悲であったのかもしれない。
だが、それを確かめる時間など与えられることもなく、火野映司の意識は令呪の補助で働きを増した狂化スキルにより塗り潰された。
ただ、誰かが自分達を止めてくれることを。そして記憶の焔に苛まれるレメディウスの魂に、一抹の救いが訪れることを、最後の瞬間まで祈りながら。
斯くして――全ての欲望を否定する紫の氷竜は、今、砂礫の人喰い竜が盟に加わった。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
狂化スキルの影響で強制発動した宝具によって、バーサーカーは異形への”変身”を果たした。
その状態を維持するために要求される咒力は決して少なくはなかったが、超級の咒式士たるレメディウスには差し支えのない程度に過ぎなかった。
とはいえ、悪目立ちが過ぎるのも事実。故に彼は、最早外れることの無い仮面に素顔を隠した己のサーヴァントを霊体化させ、生者の視界から消失させた。
「……言われるまでもない」
そうしてひとりきりになった部屋の中で、レメディウスは独白する。
「いつか私は破滅する。徹底的に、壊滅的に、己自身にすら裏切られて」
人の相互理解のための言語が、意味が、その始まりから呪われていたのだとしても。
聖杯という奇跡があれば、あるいは人類は諦めていた楽園に辿り着けるかもしれない。
だが、レメディウスだけは、そこに立つことはできないだろう。
僅か足りとも損なうことのできない過去が、彼の魂を捕らえて離さないのだから。
そんなレメディウスの見ている景色が、砂漠の街角でナリシアの望んだ世界とも、火野映司が変えた世界とも異なっている可能性など、とうの昔に理解している。
だとしても、あの出会いの日から、全ては決まっていたのだろうから。
そして血と肉の誓約が、この身を生かし続けているのならば。
「それでも、それでも私は、僕は……この選択を、し続ける」
嗄れた声が漏らしたのは、泣き笑いのような決意の再認だった。
【出展】仮面ライダーOOO
【CLASS】バーサーカー
【真名】火野映司
【属性】混沌・狂
【ステータス】
筋力A+ 耐久A 敏捷B+ 魔力C 幸運D 宝具B
(※宝具発動時、狂化補正込みのステータス)
【クラス別スキル】
狂化:E+++
理性の代償として能力を強化する。体内の紫のコアメダルに由来するスキル。
通常時は恩恵を受けない代わりに正常な思考力を保てるが、ダメージを負うか命の危機を認識するたびに幸運判定を行い、失敗すると暴走する。
現在は令呪の効力によって、常時暴走している状態に固定されているため、実質スキルとしてはBランクに相当する状態にある。そのため理性の大半を奪われ、全ステータスが向上している。
【保有スキル】
擬似生命・欲望結晶:B-
グリード。地球上の生命の持つ欲望を結晶化したメダルを核とする擬似生命体。
バーサーカーの場合、特定のクラスでのみ発現するスキル。
純粋な生命としての性質が薄れ、逆説的に生物的な死の概念への耐性を獲得している。
またバーサーカーの場合は、生前には幾つかの要因で持ち得なかったセルメダルの作成を可能とする道具作成スキルを内包し、本能的に行使可能。
魔力放出(氷):A
宝具『凍てつく古の暴君』発動時に付与されるスキル。
冷気が魔力として肉体に宿る。生身で触れれば即座に凍結してしまうほどの凄まじい冷気で、自らの周辺を氷河期のように変えてしまう。
また翼で起こした突風や、口から放つ息吹にも同様の効果を付与できる。なお、凍結させる対象はある程度指向性を持たせて選択することが可能。
心眼(偽):B-
宝具『凍てつく古の暴君』発動時にのみ獲得する、動物的な直感・第六感による危険回避。
本能的な働きのスキルであるため、狂化中にも有効に機能している。
プテラシールドの気流感知能力と合わせ、視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
【宝具】
『凍てつく古の暴君(プトティラコンボ)』
ランク:B 種別:対人(自身)宝具 最大補足:1人
絶滅動物と幻想種の欲望を結晶化させた、無の属性を司る紫のコアメダルによって変身した形態。仮面ライダーオーズが誇る多彩な形態の中でも、無敵のコンボと称される力。
発動することでバーサーカーはサーヴァントとしてのパラメーターを与えられ、幾つかのスキルが付与されるが、狂化の幸運判定に失敗し易くなる補正が掛かる。また狂化判定の失敗時にはバーサーカー自身の意思を無視して自動的に発動する。
力の源の都合上、この宝具発動中のバーサーカーは竜種寄りの幻想種としての属性を付与されており、変身後はその身体能力とスキル、更に伸縮自在の角や尾を凶器とした獣のような攻撃を交えた、狂戦士にしても人間離れした形の戦闘を行う。
また感情の根源である欲望を否定する力を持つため、この宝具を発動したバーサーカーはランク以下の概念的な加護を判定次第で無効化するという、適用範囲こそ異なれど一部の”死徒”とも似通った特性を有している。
『今は無き欲亡の顎(メダガブリュー)』
ランク:B+ 種別:対人、対軍宝具 レンジ:1~50 最大補足:100人
古の暴君竜の頭部を思わせる、戦斧と大砲を模した二つの形態を有した手持ち武器としての宝具。
紫のコアメダル由来の武装だが、他のメダルで変身した際にも使用可能であるため、独立した宝具として登録されている。本体同様、欲望を否定する性質を持つ。
また目にした他者に本能的な畏れを与える力を持ち、幸運判定に成功すると筋力と敏捷、魔力を1ランク低下させる”重圧”を与えることができる。
この効果は味方となる者にも作用してしまうが、精神干渉に対抗するスキルで無効化が可能。また一度失敗した相手に対しては二度と判定が行われない。
更に、セルメダルを”喰らう”ことで行えるスキャニングチャージと呼ばれる擬似的な真名解放を両形態に有し、それを介することで真の破壊力を発揮することが可能。
スキャニングチャージによる攻撃は、消費したセルメダルに応じ破壊力を上昇させる特性を持っており、特に《グランド・オブ・レイジ》はランクを越え理論上無限に威力を向上させることができる。その際どれだけの負荷に晒されても、強靭な自己修復能力を持つために武器としての性能は変わることなく維持される。
【weapon】
- オーズドライバー&オースキャナー:仮面ライダーオーズの変身に用いるアイテム。本来ならこのベルトも独立した宝具足り得るが、バーサーカーとして召喚された際は変身できる姿はプトティラコンボのみであることから、今回は『凍てつく古の暴君』の一部という形で現界している。プトティラコンボへの変身、及びスキャニングチャージの一種《ブラスティングフリーザ》の発動の際に用いられる。
- 紫のコアメダル:時の錬金術士達によって生み出された、絶滅動物と幻想種の欲望を結晶化させた魔術礼装。オーズドライバー同様、『凍てつく古の暴君』の一部として現界している。
欲望の結晶という半概念的な物質であるため本来破壊することはできず、その特性を活かして宝具を発動していないバーサーカーの身を守る盾として自律的に動くことが可能。
- セルメダル:道具作成で作り出すことのできるオーメダルの一種。コアメダルとは違い、単純な強度以外に損壊への耐性を持たない消耗品。生前実際に行ったことこそないものの、グリードとしてヤミーという使い魔を生み出すこともできる。しかしバーサーカーとしての召喚であるため再現されていない。
【人物背景】
右腕だけの怪人アンクのコアメダルを拾った事を契機に、彼から託されたオーズの力で仮面ライダーとして、世界の存亡と人の欲望を巡るグリードとの戦いに身を投じた青年。
元は裕福な政治家一族の出身で、世界中の子供達を救うことや世界を変えることを目標とし、多額の寄付や援助を目的とした紛争地帯への旅を行っていた。
ところがその寄付を内戦の資金に利用されて情勢が悪化し、結果として訪れた紛争地帯の村で心を通わせた少女を目の前で死なせてしまうことになる。
この時現地の人々とともに武装勢力の人質にされたが、政治家である家族の根回しによりただ一人釈放され、さらにこの一件を「戦地を救った勇敢な政治家の息子」という美談に仕立て上げられてしまった。
己の夢を他者の欲望に振り回された挙句、世界という現実への無力感、無思慮な善意で多くの人を犠牲にした自分だけが無事に生還してしまった罪悪感に打ちのめされた彼は、この事件を契機に自分自身の欲望や己の命に対する執着を失ってしまう。
かつて世界を望んだ程の大器でありながら、中身の枯れてしまった欲望の空白は、より多くの欲望を受け止めるための器として彼をオーズの最適格者とするも、やがて復活した紫のコアメダルの付け入る隙となってしまい、暴走する危険性とグリード化による人間性の喪失という二つの危険を孕んだ爆弾の様な状態となってしまう。
紫のメダルを制御するために「自分の欲を取り戻す」ことを提案された映司は、「どこまでも届く、誰をも助けることのできる腕」が、自分が人を助けるためにそれに見合う「力」が欲しかったこと、そしてそれを既にアンクが叶えてくれていたことに気づく。
続く激闘の末アンクと、アンクの意識が宿った割れたタカ・コア以外の全てのメダル、即ち手にしていた力の全てを失ったが、自分が欲していた本当の力は「どこまでも届く、誰をも助けることのできる腕」=「自分と他者を繋ぎ紡がれていき、そして広がっていく手」つまりは絆であると悟り、自らの欲望を取り戻す。そしてもう一度夢を叶えるため、そしていつか割れたタカ・コアを復元してアンクと再会する術を探すために、再び世界を巡る旅に出た。
その後の彼は、未来から時空を越えて飛来したコアメダルを巡る騒動の中でオーズの力を取り戻し、事態解決のために中心的な活躍を見せ、また紛争地で戦いを止める人達と交流し、彼らの声を届かせるために一人の死者も出さず全兵器を破壊することで内戦を強制的に終結させたり、多くの仮面ライダーの力が必要となる戦いに幾度と無く駆けつけたりと、少しでも優しい世界を実現するために最期まで戦い続けたと言われている。
【サーヴァントとしての願い】
火野映司の欲望は果てしなく、きっと満たされることはない。もしも聖杯を使う機会を得られれば、彼は世界から悲劇を消すように願うことだろう。
しかし、そのために犠牲を払う必要があるのなら、彼は聖杯を否定する。それは彼の願いに真っ向から対立するものなのだから。
故に、レメディウス・レヴィ・ラズエルのサーヴァントとして火野映司が召喚されたのは、欲望のままその手に聖杯を掴むためではない。
かつての己と重なる、しかしより理不尽な悲劇に見舞われたレメディウスに、手を差し伸べること。それがこのサーヴァントが、彼の下に馳せ参じた理由だった。
その言葉が聞き届けられず、令呪によって理性を奪われた純然たる殺戮兵器へと変貌させられてしまった今も、狂気の澱に眠る彼の想いは変わらない。
これ以上、この優しい青年が苦しむことがないように、手を差し伸べる誰かが現れてくれること。そのただ一つだけを願い続けている。
それを成せるのが己ではないと理解した今は、これ以上彼が罪過に苦しむことがないように――自分達を止めてくれる誰かが、一刻も早く現れるのを。彼はただ、待ち続けている。
【基本戦術、方針、運用法】
本来はバーサーカーながら、平常時は狂化を抑えて十分な思考力を保った戦士としての活躍も期待できるサーヴァントだった。
しかし令呪により、常にその狂化を全開にしているために人格はほぼ消滅。マスターの忠実な尖兵と化し戦力を安定させた代わりに独自の判断力を喪失し、また座から得た知識を活用できなくなった。
常に狂化と自己強化の宝具、そしてそれによって付与されるスキルを全開としているためスペックは安定しており、要求される膨大な魔力量もレメディウスの咒力(魔力)なら十分に賄えている。
結果、攻防どちらにも適用できる魔力放出(氷)と心眼(偽)に加え、呪いや毒、病等への抵抗や宝具に概念防御への耐性、判定次第で他者のステータスを低下させる”重圧”まで併せ持つなど、多くの能力が高水準で纏まっており、狂化で得た高ステータスを存分に活かすことが可能となっている。ただし竜種寄りの幻想種としての属性を付与されているため、竜殺しや対幻想種の属性を持つ相手は天敵となり得る。
また狂戦士故に繊細な立ち回りを要求することは難しく、座の知識を活用できず駆け引きにおいて不利になっているなど、場合によってはあっさりと不覚を取る可能性も捨てきれず、マスターには慎重な運用が求められている。
幸い、レメディウスにとってはサーヴァントという勝利の鍵ではあっても、必勝を期待する切札は別の形で存在しているため、自然とそのような運用になることだろう。
『■■■』を入手すれば低下したレメディウスの自衛能力の改善されるのは当然だが、中でも籠城戦略を補強できること、レメディウスや禍つ式達がある程度対魔術防御を用意できること、そして『■■■■』とバーサーカーの戦力維持の兼ね合いを図れる公算の高さと、レメディウスが切札として確保している禁断の咒式兵器・〈六道厄忌魂疫狂宴(アヴァ・ドーン)〉発動の妨害阻止と制御をより確実なものとできる可能性から、積極的に狙う標的としてはキャスターのサーヴァントを狙うのが望ましいと言えるだろう。
【出展】
されど罪人は竜と踊る Dances with the Dragons
【マスター】
レメディウス・レヴィ・ラズエル
【参戦方法】
武器商人パルムウェイとの交渉後、時計塔にエリダナの咒式士が踏み込むまでの間に、偶然入手した『白紙のトランプ』により、自らの術式で支配する禍つ式諸共に参戦
【人物背景】
巨大咒式企業であるラズエル社の御曹司である青年。天才咒式研究員として世界にその名を知られていたが、ある時、仕事で訪れたウルムン共和国で反政府組織『曙光の戦線』に誘拐される。
ウルムン共和国は独裁者ドーチェッタにより圧政を敷かれており、搾取や虐殺が人々を苦しめていた。そのため『曙光の戦線』などの反政府組織による内乱が続発。そしてウルムン共和国政府にはラズエル社が武器を売っていたために、レメディウスは人質として囚われることになったのだ。
しかし、構成員の少女であるナリシアとの交流を始め、様々な出来事を経てレメディウスは『曙光の戦線』と親しくなり、また、人々のためにと自らが設計した咒式具が虐殺に用いられているウルムン共和国の現状を知る。
やがてナリシアを守るため、そしてウルムンの現状を何とかするために、彼も『曙光の戦線』の一員として戦うようになる。
特に戦闘訓練は受けていなかったが、いつか大陸最高峰に連なると言われていた攻性咒式士としての才能、更には趣味だったチェルス将棋から転じた指揮官としての優れた能力を開花させ、民衆の希望となって行ったレメディウス。
しかし、ある時、故国から送り込まれた工作員であった『曙光の戦線』の党首によってナリシアや一部の仲間と共に、ドーチェッタへと売られることとなる。
そしてレメディウスは拷問を受け、ナリシアを目の前で陵辱された挙句、その人々を助けたいという理想が折れるところを見たいというドーチェッタの悪意でまともに水も食べ物もないデリラ山に仲間と共に放り出される。
全員で生き延びようとするものの、追い詰められた末の仲間割れによって殺し合いが発生し、約二ヶ月後にはレメディウスとナリシアだけが残されることに。
飢えと渇きと疲労と負傷、そして絶望によって動けず、死を待つだけとなった二人だったが、ウルムンを救い得る天才であり、想い人であるレメディウスを生かすために、ナリシアは愛の告白と自らを食べて生き残って欲しいという願いを言い残し自決してしまう。
これらの悲劇を目の当たりにし、元々の優しさと「一度記憶したものは二度と忘れることが出来ない」という天才的な性質が、彼にウルムンの伝説にある、女を喰らい独裁者を滅ぼした救国の人喰い竜「ズオ・ルー」を名乗らせ、その超人的な咒力と知識によって最悪の怪物である〈禍つ式〉の召還、更には大量虐殺咒式の使用も辞さない烈しい革命家へと変えてしまうことになる。
全てはナリシアのような悲劇が、二度と繰り返されない世界のために。
【weapon】
素朴な中に繊細な美しさを秘めた、長い刀身をしている鈍色の魔杖剣。最愛の少女の名を冠した、天才咒式博士レメディウスの最高傑作。咒式弾倉の形状は不明。
この魔杖剣自体が強力な咒式干渉能力を有しており、レメディウス自身の能力と合わせることで千歳級の長命竜(アルター)や形式番号五〇〇前後の大禍つ式(アイオーン)と同等の強力な咒式干渉結界の展開が可能。
咒力と魔力を互換と見做す場合には事実上、対魔術防御結界を恒常的に展開できる魔術礼装と化しており、全開のバーサーカーを使役しながらでもレメディウス自身に神秘を纏わない、もしくは生物と接触していない物質を量子分解し、更にBランクの対魔力を持つ結界を発生・随伴させる優れた防御力を与えている。
更にレメディウスならば数法系を始めとする高位咒式を多重展開することも可能だったが、こちらの機能は現在、禍つ式の制御式の書き換えで咒弾を使い果たしているために使用不可となっている。
量子世界の基本単位である、作用量子(プランク)定数hを操作し、森羅万象を生み出す力、咒力。これを操り、組成式を書き出し、人工的にプランク密度を作り出して基本物理定数を変異させることで特定の事象を引き起こす術を咒式と呼ぶ。
咒式によって生み出される現象は全て実在する化学現象であり、科学化された魔法とも、魔法の域に達した科学とも称される。ムーンセルには、独自の体系で発展した魔術として分類されている。
人間がこの力を扱う場合は、レメディウス級の高位咒式士でも魔杖剣などの咒式具と呼ばれる専用の器具による補助と、触媒となる消耗品の咒弾が必要不可欠となるが、禍つ式を初めとする〈異貌のものども〉は、一部の特異体質者と同様に、咒式具なしでの咒式の発動を可能とする。
・超定理系第七階位咒式弾頭〈六道厄忌魂疫狂宴(アヴァ・ドーン)〉
レメディウスの咒式研究を元に開発されたジェルネ条約違反の準戦略級咒式弾頭。
結界内に次元の穴を開き、疫病を司る〈疫鬼〉と呼ばれる禍つ式を大量に顕現させ、効果範囲内のあらゆる生物を死滅させることを目的に開発された最悪の大量虐殺兵器。
結界内の全てが次元の穴となっているため、少なくともその内部においてはあらゆる遮蔽物を無為化し、取り込まれた生物を確実に死に至らしめる。
更に発動が続く間は疫鬼は現界し続け、結界外にまでその殺戮範囲を膨張し続ける災厄と化す。
疫鬼よりも遥かに強大な神秘の塊であるサーヴァントには結界内であろうとその殺傷力も通用しないが、生きた人間であるマスターがその作用を受ければまず死を免れない。
更に、次元の穴を開いている間に組成式に術者が張り付き干渉することで、接続した位相空間から疫鬼以外の禍つ式、レメディウスですら召喚困難な伯爵級以上の大禍つ式を呼び込むことも可能と目されている。
作中では直径六百メルトル(=メートル)を効果範囲として起動されたが、発動前に弾頭の計算式を調整すれば、最低でもその十倍にまで次元の穴を拡大することができる。
レメディウスや五〇〇番前後級の大禍つ式でも数十人の咒式士という生贄と、専用の咒式弾頭があって初めて発動可能となる超咒式だが、エリダナでの暗躍の結果、既に一発分はその条件が満たされている。
しかし発動前に弾頭を破壊されたり、展開した結界の全てを攻撃範囲に含む大規模攻撃に晒される等の妨害や、場合によっては次元の穴が開いてから禍つ式が召喚されるまでに結界の組成式をキャスターのサーヴァントに書き換えられる恐れすらあるため、その発動は慎重に慎重を期す必要がある。
一方、サーヴァントに通用しないことから『■■■』できるマスターが多くなればその分有効性が低下するため、早期に炸裂させることが望ましい面もあり、運用の悩ましい切札となっている。
アルコーン。咒力を持った生命体・異貌のものどもの内、太古より悪魔や魔神と呼ばれた存在の総称。他の異貌のものどもと違い本来三次元の存在ではなく、熱的崩壊に瀕する高次元宇宙から奇跡的な確率で干渉して来る情報生命体。真性悪魔。
一部の数法系咒式士は彼らを使い魔として呼び出すことができ、特にレメディウス程の超高位咒式士ともなれば複数の大禍つ式すら召喚可能。
術者の咒式で予めある程度の行動を制限でき、一度召喚すれば外部から咒力(魔力)や物質を取り込むことで単独行動が可能ではあるが、本質的に人間とは根本の異なる認識しか持てないため、相互理解や忠誠心を望むことはできない。
彼の魔術礼装の一部として、既に召喚し支配下にあった個体群が共にムーンセルに召喚されており、存在そのものが異次元に存在する咒式であるためサーヴァントの神秘にも対抗し、攻撃が有効となっている。
しかし、記憶を取り戻してからバーサーカー召喚までの間に襲撃してきた敵サーヴァントによって、大禍つ式である〈戦の紡ぎ手〉ヤナン・ガランを含む複数体が撃破されてしまっている。
装備が万全ならば新たな大禍つ式の召喚も可能だったが、〈六道厄忌魂疫狂宴(アヴァ・ドーン)〉の以外の咒弾を使い果たしている現状では、その最終兵器を例外とするとアムプーラの力を借りても形式番号のない名無しの下級禍つ式を少しずつ揃えて行くのが限界となるだろう。
但し、〈六道厄忌魂疫狂宴(アヴァ・ドーン)〉の炸裂による次元の穴を固定した瞬間だけは例外で、伯爵級以上の大禍つ式すら複数追加召喚できる可能性があり、そのためこの最悪の咒式の発動が咒式弾頭の効果による敵マスターの一掃と一大戦力の拡充を兼ねた戦略の要となっている。
現状、アムプーラ以外の下級禍つ式は大半が非力なアサシンのサーヴァントとの正面戦闘でも鎧袖一触されかねないが、個体によっては強力な干渉結界を持つためキャスタークラスのサーヴァントには幾らか消耗を強いる見込みもあり、また同様の理由から下手な魔術師では太刀打ちできない怪物でもある。
・〈墓の上に這う者〉秩序の第四九八式アムプーラ
レメディウスがナジクを生贄に召喚した毒蛇が化身した、子爵級の大禍つ式(アイオーン)。これまでにレメディウスが召喚した中でも最強の禍つ式。
左右の半身にそれぞれ石化と猛毒の中位咒式を宿し、超人的な体術と数法量子系第七階位〈軀位相換転送移(ゴアープ)〉による瞬間転移と瞬間再生の能力を持つ。
但し、咒力を魔力の互換と見た場合、神秘の高いサーヴァントには中位咒式では効きが悪い上に対魔力で更に削減されるため効果が薄く、不死性以外の身体能力や体術も平均的なサーヴァントには劣る程度のため、単騎で敵サーヴァントを撃破することは困難。
しかし、十数メルトル(メートル)程度の距離なら瞬間転移が可能であり、また脳と心臓を同時に潰されなければ容易に瞬間再生できるため、ある程度の防戦ならば望めなくもない独立戦力となっている。
また余程の例外を除くと敵マスターの暗殺にも有効な駒とはなるが、長距離の転移はできないため、多くの場合目視され得る状況から仕掛けることとなる。そのためサーヴァントの妨害のみならず、『■■■■』を許している場合には敵マスターからの反撃にも考慮する必要があると言える。
【能力・技能】
到達者と言われる高位咒式士達を遥かに越え、千年を生きた長命竜や大禍つ式ら高位の〈異貌のものども〉と同等の、人間離れした演算能力と咒力を持つ。
〈異貌のものども〉である竜は幻想種である竜には及ばないが、それでも咒力を魔力の互換と見た場合、超一流とされる魔術師を越える魔力量を誇ることは疑う余地もない。
そのためレメディウスは高ランクの防御結界を恒常的に随伴するという芸当を熟しながら、バーサーカーの最高スペックを維持して軽々と使役することができている。
更に本来ならば確率を操作する数法系咒式の大陸有数の使い手として攻撃性能にも優れていたが、既に手持ちの咒弾を使い果たしてしまったため、現在レメディウス本人は〈内なるナリシア〉の干渉結界と〈六道厄忌魂疫狂宴(アヴァ・ドーン)〉以外の一切の咒式を使うことができなくなっている。
結果、〈内なるナリシア〉の干渉結界と数法系咒式士として強化された脳の処理速度以外は常人程度の身体能力であり、個人レベルでの戦闘力は総合的には並の魔術師の範疇に収まっている。
そのため、主な戦力は当面バーサーカーと手元に残った禍つ式、及びそれらが召喚する更に下級の禍つ式ら使い魔に依存することとなる。
また先述の絶対記憶能力を有しており、チェスに似た競技であるチェルス将棋の大陸一の指し手。反政府組織を纏め上げた指揮官としての能力にも秀でている。
【マスターとしての願い】
ウルムンの救国。そして世界を変革し、二度と悲劇を起こさせない
【方針】
聖杯を掴む。そのために手段を選ぶつもりはない。
最終更新:2017年05月14日 00:36