レクス・ゴドウィン&セイバー◆aptFsfXzZw




 ある日の夜。
「すまない……一つ、確認させて欲しい。貴方が、俺のマスターなのか?」
 スノーフィールドの某所に累々と並ぶ無数の人影、その中心で、一つの出会いが繰り広げられていた。

 辺り一面に横たわった、昏倒した人間達――彼らの命が、聖杯を欲し、そのための力を求めた魔術師の手にかかり、喪われようとしたその瞬間。
 サーヴァントを従えた絶対強者に、立ち向かえる者などどこにもいまいと思われた窮地にあって、一迅の風の如く駆けつけた者が居た。

 歴史上の偉人、神話の英雄、人類の知性が抽出して来た概念に、人々の想念を織り込みし英霊――その再現事象であるサーヴァントに対抗できる存在など、極めて限られている。
 故に。魂の捕食者と戦える者が不在の絶望の地に出で、悪しきを阻んだこの剣士もまた、サーヴァントとして現界した存在に相違なかった。

「どうやら、そのようですね」

 輝きと共に光臨し、一刀の下に弱者を喰らう魔を切り捨てた黄金の騎士は、しかし――彼以外に、この場で唯一直立を続けている偉丈夫の首肯を受け取った直後、素顔を隠す仮面のような兜を俯けた。

「……本当にすまない、マスター」

 謝罪の言葉と共に。大勢の命を救った英雄であるはずの彼は、微かな月明かりを金色に照り返す重厚な鎧を鳴らし、悄然とその肩を落としていた。

「何を謝ることがあるのです?」

 その様に対する当然の疑問として、彼と対峙した壮年の――そのサーヴァントの召喚者(マスター)たる男は、微かに小首を傾げていた。
 問いかけに対し、サーヴァント――セイバーは、即座の答えは返さなかった。
 ただ、その腰に留めた尾錠、その箱状の部分から。現れた時と同様の眩い黄金の光を、今度は背後に放ち――板状に展開されたそれにゆっくりと、己を通過させてみせた。
 果たして、その光の去った後にあったのは――先程までの、どこか時代錯誤な威容を誇る鎧騎士ではなく。当世風の黒い上下に身を包んだ、痩せぎすの若い男の姿だった。

「俺は、本来召喚されるはずのない……絶対に勝ち残ってはならないサーヴァントなんだ」

 そして、その真意を述べる声は。彼の揮う力の強大さと裏腹に、微かな震えを孕んでいた。







 聖杯戦争。

 世界のすべて――運命さえも変えられる権利を巡る、たった一人きりを決める戦い。

“彼”は……セイバーの本体である英霊はかつて、それと類似した争いに関わった人間だった。






 人間であった頃の“彼”が身を置いていたのは、人類が万物の霊長たる座に至った謎、そして生命誕生の秘密を解き明かすための組織だった。

 二十一世紀の初頭、チベットのとある洞窟から発掘された一つの石版。そこには従来の進化論だけでは解き明かせなかった、人類の基盤が記されていた。

 確かに生物は、斯くあれと全能の神が手がけた設計図通りの創造物ではなかった。
 しかし、生命の発生は単なる偶然ではなく。「生命あれ」と奇跡を願いし者は、確かに存在していた。
 そして、人類という種を地上の覇者足らしめた要素は、単なる幸運以外にも、確かに存在していたのだ。

 そんな、人類史観を一変させるエヴィデンスは、超常の力によってカードに封印された、不死の生命として残されていた。

 如何なる手段を講じても、命を絶つことのできない怪物達。
 故にアンデッドと呼称される彼らこそは、現代の地球上で生を謳歌する生物種の起源となった生命体。
 自らを満たせ、という――神でも異星の知性体でもなく、他ならぬ地球(ガイア)自身の願いに応え発生した、原初の一たる星の胤子であった。

 母なる星に愛され、始まりであるが故に終わりを持たぬ生命種の始祖達にはもう一つ、彼らだけが担う特別な役割が課せられていた。
 それこそがバトルファイト――地上の支配権を巡る代理戦争だった。

 四つの属性(スート)、十三の位階(カテゴリー)。都合五十二の参加券の一つを授けられた種の代表として、異種族のアンデッドすべてを封印した最後の一体にのみ、地球上の全生命を自由にする権利を授ける特別な儀式。

 ……石碑によれば、一定周期で繰り返されるその生存競争における最新の勝利者こそが人類の始祖――ヒューマンアンデッドであったとされる。
 つまりは一万年前、偉大なる始祖がバトルファイトで勝ち残ったからこそ、人類は霊長の座に着くことができたのだ。

 従来の常識を完全に打ち砕くその驚愕の事実を証明するために、人々は密かに研究を続けていた。
 しかし、アンデッドという超常の存在は、人の手で管理するには荷が勝ち過ぎた。
 事故によって制御を外れ、世に解き放たれてしまった不死身の怪物達を再び封じるための戦士が、人類には必要とされた。

 そして、その戦士の一人こそが、“彼”だった。



 ……星の胤子たる不死者達との、熾烈を極める戦いの中。やがて“彼”は、未知の戦士の存在に気づいた。
 秘密裏に行われていたアンデッドの研究。その落とし子として与えられた自分達の力。
 それと似通った力を揮いアンデッドを狩る黒金の戦士は、“彼”の組織に連なる者ではなかった。

 否、むしろセイバー達の持つアンデッドを封じる力こそが、その戦士から掠め取った紛い物に過ぎない。

 その戦士こそは、母なる地球の遣わせた死神(ジョーカー)。すべての命を刈り取る星の刃。
 系統樹なき、虚無(ゼロ)の不死者(アンデッド)だった。

 星という巨大な生命が選択肢の一つとして備えた、滅びという名の機構(システム)である彼は、しかし――そのあるべき姿から外れた、異常と呼ぶべき状態に陥っていた。

 星の掃除屋として、すべての生命に対する殺戮本能だけを与えられた虐殺器官であるはずの死神は……とある無力な人間の母娘の、その傍らで生きていた。
 そこには確かに、敢えて刈り取られることで死神に内から働きかけた、ヒューマンアンデッドの思惑もあったのかもしれない。

 だが理由はさておき、結果として無慈悲な殺戮装置に過ぎなかったはずの死神はヒトの心を識り、愛を得た。

 そして、肩を並べて戦う“彼”の友となっていた。



 だが、運命は死神を宿業から手放さなかった。

 人類の手が介在したことで本来の周期から外れ、現代で再開されていたバトルファイト。その終焉の時が訪れた。

 最後に残ったアンデッドは、ジョーカーだけだった。

 彼が選ばれたその瞬間。地球は「その時」が来たと判断し、全ての生命を無に還し始めた。
 その「心」の在りようを何ら関知せず、死神に世界を滅ぼす本来の役割をただただ強制しながら。

 あの母娘を護るために。そして、“彼”の愛する人類を救うために。滅びを止めるべく、死神は“彼”に自らを封印するよう懇願する。
 不死者ゆえに自らを終わらせることもできない友の、血を吐くような叫び。
 だがかつて大切な家族を護れなかった“彼”にとって、この優しい死神もまた、その幸福を護りたいと願った相手に他ならなかった。

 友か、世界か。どちらかしか救えない命題を突きつけられた“彼”は、そのどちらをも選べなかった。

 だから“彼”は、両方を救う選択をした。
 ジョーカーに由来する死神の力。そのすべてを引き出すことで、自らを第二のジョーカーへと変生させて……

“彼”が、人間であることを捨て去った結果。アンデッドが二体存在することによりバトルファイトは再開され、滅びは一先ず中止された。
 だが、残されたアンデッドは二人のジョーカーしかいない。どちらが勝っても、地球の生命はリセットされてしまう――今度こそ、止めようもなく。
 そして、一度その時が来たと判断した星は次代のため、結果の訪れを待ち望んでいた。残されたアンデッドに決着を付けるよう、強く強く促していた。

 星という無限のバックアップ。地上に満ちた全生命の集合無意識から注ぎ込まれる、底なしの戦闘意欲。
 この世にたった二人の同属、無二の親友同士であろうと、このままでは理性を無くした二匹の獣と化し、殺し合うまで猶予はなかった。

 だから“彼”は、姿を消した。

 友を残し、仲間と別れ。ただ一人、運命と戦うために。

 そして――勝ってみせるために。






 それがセイバー――その元となる英霊が誕生するまでの経緯だった。

 アンデッドが持つのは不死なる生命。死神の鎌に刈り取られようと、星の揺り籠であるカードに封じ込まれるだけで――星そのものが滅びる終焉まで、決して死を迎えることはない。
 故に、“彼”は今も、地上に存在し続けている。異形となった肉体、不死となったその生命を、なおも人々を護るために行使し続け、星の強制する運命と戦い続けている。

 そんな彼の一側面が、仮にもサーヴァントとして現界せしめたのは……その在り方が英雄達とも縁深い、神霊種と同様であったからだ。
 不死であり生命の始祖である原初の精霊種、アンデッドは発生した時点で高位の存在であり、ムーンセルは英霊の座と相互に重なる位相のデータベースにその観測情報を保存していたのだ。

 そして、本来召喚されることのないサーヴァントを次々と召喚した聖杯戦争の舞台を模したからこそ。本来招かれるはずのない“彼”が、召喚され得る下地が用意されてしまっていた。

 しかし――――それでも“彼”は、本来召喚されるはずのない存在だった。

 何故なら、他ならぬ“彼”自身が、それを何より望んでいなかったから。

“彼”は正当な英雄ではなく、第二のジョーカーアンデッドとして英霊の座に刻まれている。故にその本質は、あらゆる生命の天敵たる死神なのだ。

 万能の力を得られたバトルファイトと同様、勝利者の願いが叶う戦いに己が加わってしまえば……やがてジョーカーの本能に支配される。
 抗い続けたとしても、自刃も叶わぬ身でもしも最後まで生き残ってしまえば……かつての友と同様、その心の在り方など関与することなく。すべての生命を刈り取るという機能が、真っ先に願いとして受理されてしまうだろう。

 下手をすれば、ムーンセルが無作為にバラ撒いた『白紙のトランプ』により接続された、並行世界の地球にまで、その被害が及んでしまう。
 そんな災厄を望むはずもなかった“彼”は、ムーンセルの行いに刺されるような痛みを覚えながらも、傍観者として耐え続けていた。



 だが結果として、“彼”はセイバーとして聖杯戦争に参加することとなってしまった。



 今自分が生きている時代を超えた座(ばしょ)から、ふと観測できてしまった俯瞰風景。従来以上に地上の聖杯戦争の再現性を上げたという今回の試みで繰り広げられていたのは、かつてセイバーが抗った悪逆そのものだった。
 ただ、ムーンセルが身勝手に判定した資格があるからと。有無を言わさず連れ去られ、記憶さえも取り上げられ利用される戦えない人々から、今度は命すら奪おうとする魔術師の行いに、“彼”は強い憤りを覚えるしかなかった。

 しかし、いくらこの胸を怒りに震わせても。座に保管された情報に過ぎず、戦場に上がることすらできない今の“彼”には、その邪智暴虐を止める術などありはしなかった。

 だが――その蛮行の前に、身を乗り出した一人の男が居た。

 ……次元を越えた境界における認識力は、その男の経歴を仔細に伝えてきた。サーヴァントと化し現界した今は、その知見も記憶のアジャストに合わせ、幾分薄れてしまったが。
 それでも、覚えていることはある。

 その男もまた、かつてヒトの意志など介在できない巨大な運命に、抗おうとした人間だった。

 徴(しるし)と共に人々に力を分け与えし赤き竜と、死者を操り冥界より浮上する邪神群の、地上の支配権を巡る争い。
 五千年周期で繰り広げられる、バトルファイトと酷似したその戦いに、多くの人々が翻弄され、数えきれないほどの犠牲が齎された。
 これ以上の悲劇を止めるために。その男もまた、“彼”と同じように人間を捨て、孤独の戦いを選ぼうとした。

 だが男は――結果として、孤独の道を歩むことはなかった。

 男の偽りに、それでも導かれた勇者達。そして神の配ったカードに狂わされたはずだった、最愛の兄。
 多くの人々の絆が、男を孤独の神ではなく、人間として運命に立ち向かわせるに至ったのだ。

 それが孤独を選んだ“彼”とは異なり、人々の持つ絆の力で運命に勝利した男の過去だった。

 ……それから、どんな因果の果てなのか。神々の課した宿業を断ち切り、代償としてその生命を終えたはずだった男は、再び肉体を伴ってムーンセルに招かれていた。

 そして、同じく偶然魂狩りに巻き込まれた人々が、ここで犠牲となる運命を良しとせず――あるいは大義のために過ちを犯した、在りし日の贖罪のために。
 単身、サーヴァントに挑もうとしていたのを――“彼”は、目撃してしまった。

 しかし、再び人間として在る今の男では、サーヴァントには敵わない。歯向かう虫として殺されるだけだ。

 ……かつて二柱の神を降霊させたその男の、マスターとしての適正はすこぶる高い。
 屈強な肉体に宿した意志は、なお纏わり付く邪神の呪いすら霞ませる気高い物だ。

 なのに、何故。彼のサーヴァントが召喚されないのか。

 他の英雄達は、どうして誰も、彼らに救いの手を差し伸べようとしないのか。

 なら“俺”はこのまま、戦えない人々が目の前で踏み潰されるのを、ただ黙って見ているしかないというのか――!

 ――どんなに願っても。ただ待っていたところで、救いのヒーローなど現れない。
 それはあの日、両親を炎の中に喪ったその時から、己は理解していたはずではなかったか。

 だから“俺”は、この手で皆を護りたいと――仮面ライダーになったのではなかったか。

 疑問と、感情と。次々と溢れてきたそれらが、かつてこの胸に宿っていた物に、再び熱を灯したその時。

“彼”は“俺”として、確かに――――



「――願って、しまっていたんだ」






「在ってはならないモノなのに。俺は……ここに居る人達を護りたいと、願ってしまった」

 罪と呼ぶには、あまりに人間らしい感情を持ってしまったことを、セイバーは懺悔する。
 だが自らの振る舞いは、生命ある者達にとって究極的な敵対行為であると、セイバー自身が誰より深く理解していたからには……慚愧の念に囚われずには、居られなかった。
 極少数のために、大多数を危険に晒す。それが誤った選択であることは、セイバーにも理解できていたのだ。

 勿論、どれだけ心が求めても、理性は最後の一線を引いていた。
 自らの意志で、それを踏み越えたわけではない。
 だが、まるでこの街に拐われて来たマスター達のように――願いを持つ瞬間を、まるで月が手ぐすね引いて待ち構えていたかのように。
 そんな想いを抱いた次の瞬間には、セイバーとしてこの街に降り立ってしまっていたのだ。

「……マスターなら、見ればわかるだろう。俺は自分の意志でこの聖杯戦争を降りることができない」

 召喚された結果、魂狩りの対象として襲われていた人々を救えたこと。
 それ自体は紛れも無く、喜ぶべきことだ。
 だが、予想できていたサーヴァントとしての己の特性を事実として再認識すれば、やはり、浮かれることなどできはしない。

「だけど俺は、絶対に聖杯を掴んではならない。最後まで生き残ってしまえば、世界を滅ぼすことになってしまうんだ」

 自主的に舞台を降りることすらできない、いつ暴発するとも知れぬ無差別破壊兵器。それがセイバーなのだ。
 だとしても。一人きりの孤独なら、まだ良かった。いずれ真っ当な英雄を見つけ出し、頃合いを見計らって討って貰えれば、それで済むことなのだから。
 だが今のセイバーには、運命共同体たるマスターが……

「成程。それは好都合です」
「――!?」

 勝手に召喚されておいて、決して勝ち残ってはならないなどと宣う――そんなサーヴァントに対する物としては、予想だにしなかった返答に、セイバーは思わず面を上げた。

「私の都合に恩人を付き合わせてしまうのはと頭を悩ませていましたが、そういう事情ならば杞憂というもの」

 淡々と述べるマスターに、セイバーの中を悪寒が駆け抜ける。
 今こそ鎮められていても、彼の魂に巣食う邪悪の気配は、座での観測で把握している。
 だが、まさか読み違えたかと慄然としたセイバーに向かって、マスターである壮年の男は諧謔的に笑ってみせた。

「何故なら私も、決して聖杯を掴んではならない者なのですから」

 そしてセイバーのマスター……レクス・ゴドウィンは、何の気負いもなく。むしろ胸のつかえが下りたとばかりに、晴れやかに告白を終えていた。






 聖杯戦争に消耗品として巻き込まれ、危うく大量虐殺の憂き目に合うところだった被害者達の保護のため、警察への通報を行った後。
 ゴドウィンとセイバーは、なおも会話を続けていた。

「赤き竜と冥界の王の戦いが、不動遊星ら当代のシグナーと、そして私達兄弟の手で終止符を打たれた後のことです。
 理由は定かではありませんが、私は再び現世に蘇っていました」

 五千年周期で行われるシグナーの戦いのことを、既にセイバーは朧気ながらに把握している様子だった。
 それも座により齎された知識なのだろうが、しかし彼はそれ以上のゴドウィンの事情を知らなかった。

「おそらくは冥界の王の、最後の足掻きだったのでしょう。私以外にも、一年半前の戦いに駆り出されたダークシグナー達が復活していました」

 しかし、その大半は呪縛より解き放たれ、再びの人生を謳歌していた者達だ。
 直接、冥界へと旅立った自身と兄を除いた彼らは、あるいは地縛神の残留思念から再現された端末に過ぎなかったのかもしれない……などと、ゴドウィンは今更に推測する。

「私はダークシグナーであると同時に、抜け殻とはいえシグナーでもある存在。故に赤き竜の加護で正気を保つことができましたが、他のダークシグナーはそうもいきませんでした」
「じゃあ、マスターは……」
「ええ。私は人間として再び生を得たわけではありません。偶然再現された過去の亡霊、動くだけの死人と言えるでしょう」

 仮初の受肉こそ果たしてはいるが、正しく生者ではない――そのことは、このサーヴァントにはきちんと断っておくべきだとゴドウィンは判断していた。
 おそらくはその方が、余計な気遣いをされずに済むからだ。

「ともかく、シグナーを葬ろうとする彼らを阻むことが、私の責務でした。そして新たな戦いに臨んでいたシグナーを巻き込むことなく、私は他のダークシグナーを全て倒すことに成功しました。
 ですが……私もまた、その魂の半分がダークシグナーである存在。我が兄がそうだったように、この身体もいずれ地縛神に占有されることは明白でした。
 故に私には、最後に残ったダークシグナーを始末する必要があった」

 しかし、自害を目論めばそれは死に近づくこと。つまりダークシグナーとして染まってしまう行為だ。
 そもそもダークシグナーとは邪神の尖兵たる神秘の存在。同じく神秘を纏ったシグナーやそれに準じる者でなければ倒せない。
 シグナーと直接対面すれば、内より響く地縛神の声に抗うことができず、下手をすれば彼らに危害を及ぼしてしまう。
 途方に暮れていたその最中に、いつの間にか手元にあった『白紙のトランプ』に導かれ、ゴドウィンはこの偽りのスノーフィールドに招かれていた。

「次元を隔絶したこの月の街には、赤き竜の干渉も限られている。写し身(カード)が私と共に召喚されてしまった地縛神の声に抗い続けることはできません。
 そんな状態で、万が一にも聖杯が我が手に収まることがあれば……どれほどの危機が訪れるかは想像するまでもありません」

 それこそ、セイバーが勝ち残った場合と同じように。世界中の生命を破滅させ、現世が冥界の一部として取り込まれるような結末を迎えてしまうことだろう。
 場合によってはムーンセルと接続してしまった数多の並行世界にまで、その猛威は及ぶかもしれない――絶対に許してはならない事態だ。

「しかし、神秘はより強い神秘に敗れる。ダークシグナーが仮にも神に由来する存在とはいえ、所詮は使い捨ての手足。シグナーでなくとも、英霊なら充分に滅ぼすことができるでしょう。
 だから、私は安心していました……もしその前にサーヴァントが召喚されるようなことになっていれば、その英霊には私などを見込んだ不運と思って貰えば良い、と」

 記憶を取り戻してからは、そのことばかりを考えていた。
 神々の身勝手に振り回される今の世界を一度破壊して、人智の及ばぬ領域で定められた破滅の未来なき新世界を創造する――兄の末路を目にしてから憑かれていた、そんな妄執にも似た過ちを贖うには程遠いが、それでもやっと、後顧の憂いを断てるのだと。
 それを喜ばしく思っていた矢先に、偶然から先程のキャスターと出くわした。

「……それでも、魂食いなどと。戦えない者を私欲のために貪ろうとする者を、未来を託すに相応しい英雄などと認めることは、できませんでした」

 それではまるで英霊ではなく、忌むべき地縛神どもと同じではないか。
 静かな怒りが裡を満たした時、気づけばただ一人記憶を取り戻していた――サーヴァントに比べれば許される力は卑小とはいえ、ただ一人神秘を纏っていたゴドウィンは、生身一つでキャスターに挑んでいた。

「確かに貴方が召喚されたことで、私は危険な我が身を滅ぼす絶好の機会を失い、更には全生命を存亡の危機に晒すババを引くことになってしまいました」

 ゴドウィンの漏らした現状の追認に、セイバーは微かに顔をしかめる。

「ですが、貴方が来てくれなければここに居る三十人は死んでいました。それは紛れも無い事実なのです」

 あの時。贖罪の意識こそあったとしても、死なねばならない、などという義務感はゴドウィンの中には残っていなかった。
 ここで己が屈すれば、戦えない人々にまで危害が及ぶ。それを許せないとする想いの方が、遥かに強かったのだ。
 それだけの決意を以ってしても、最早為す術のない絶体絶命の窮地に追い込まれたその時――ただ一人駆けつけてくれた英霊が、このセイバーだった。

「私や貴方が、決して勝ち残ってはならないのだとしても。倒されるべきそのいつかが、『今』である必要はありません」

 ゴドウィンの告げた言葉に、セイバーの表情が変わった。
 まるで暗闇の中で途方に暮れていた男が、光差す道を目の当たりにしたかのように。
 その様子に、微かに口端が緩むのを自覚しながら、ゴドウィンは言う。

「先程のキャスターとそのマスターのように。己の願いのためならば、他者に犠牲を強いることも躊躇わない者が、この街にはまだいることでしょう」

 それこそ、かつての愚かな自身のように。
 そんな忸怩たる思いは胸中だけに留め、ゴドウィンは今、口にすべき言葉を続けた。

「そしてこの街に拐われた大多数は、聖杯戦争の参加者となることはないまま、抗う力も奪われたまま巻き込まれ、時に理不尽に命を喪うことになります。それが彼らの辿ることになる運命です。
 ならば私は、その運命から彼らを救いたい。貴方には私とともに、戦えないすべての人々の代わりに戦って欲しいのです」

 自分達は、在ってはならないモノ。仮令一時為し得たことがあったとしても、その尽くをも無に帰す時限式の生きた災厄。
 だが……だからといってただ見ているだけでは、喪われてしまうものがそこにあるのなら――――この手を、伸ばしたい。
 このままでは踏み潰されてしまうちっぽけなものを、護るために。

「私達には、それができる力がある。なら我々が消えるのは、その役目を終えてからでも充分だと……そうは思いませんか、セイバー」

 その時感じる自分達の哀切を捨て去る方が楽なのだとしても、最大限、為せることを為してみたいと。
 ジレンマを前に沈黙するのではなく、ほんの少しでも、不可能を壊す叫びを上げたいと――ゴドウィンは、セイバーに胸の内を述べていた。

「……そうだな。そのとおりだ」

 そして、セイバーはそんなゴドウィンの呼びかけに頷きを返した。

「諦めることは、いつだってできる。だったらその時まで……俺達が何者だとしても、人を護ったっていいはずだ」

 先程までの、後悔と罪悪感に塗れた暗い顔から、希望と覚悟に満ちた男のそれに――セイバーの表情は、変わっていた。

「……ありがとう、マスター。こんな俺を受け入れてくれて」
「お互い様です、構いませんよ」

 命の恩人が漏らした感謝の言葉に、ゴドウィンもまた微笑みを返す。

「私こそ感謝します。まさに運命の切札(デスティニー・ドロー)の如く、危機を救ってくれた貴方に」

 そこで、ふと――そんな決闘者(デュエリスト)らしい言葉を口にしたことで、ゴドウィンは胸中の疑問に思う。
 自分達二人の邂逅は、あまりにも作為的であるようにも感じられた――ということを。

 勝ち残ることの許されない、しかし邪神の徒に転ぶ恐れのあるマスターに。勝ち残ることの許されない、しかし死神に堕ち兼ねないサーヴァントが宛てがわれる。
 ただの偶然なのか、あるいは。
 月が待ち構えていたようだった、というセイバーの言と合わせて考えれば――この出会いを導いた、何かしらの見えざる手が介在したのではあるまいかと……

 ほんの一瞬だけ、そんな不安がゴドウィンの脳裏を過ぎり、そして霧散した。

「……一先ず、話はこれで終わりですね」

 もしも、姿を見せない何者かが、遥かな高みで運命の糸を握っているのだとしても関係ない。
 自分達は、決して諦めない――運命と戦い、勝利するその時まで。
 ならば、為すべきことに何の変わりもありはしないから。

「続きは後にして、行きましょう。剣崎一真――いえ、セイバー」

 知らないという罪と、知りすぎる罠。
 そんな物に惑わされ、動けなくなる前に――悲しみを終わらせる、未来へと。



 そうして――絆を結んだこの夜、この瞬間。
 絶対に勝ち残ってはならない男達の、決して負けられない戦いがここに、幕を開けた。












【出展】仮面ライダー剣
【CLASS】セイバー
【真名】剣崎一真=ジョーカーアンデッド
【属性】中立・善
【ステータス】
筋力A 耐久A+ 敏捷D 魔力B 幸運D 宝具A
(※宝具発動時のステータス)

【クラス別スキル】
対魔力:A+
 原初の時代に星の集合意識が生み出した不死生命体、生物の祖に連なる者として強大な神秘を宿しており、魔術による干渉をAランク分削減・無効化する。
 宝具である鎧を装備している間はその身に纏う神秘の飛躍的な向上から更に効力を倍加し、事実上純粋な魔術でダメージを与えることはほぼ不可能となる。

騎乗:C
 正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせる。


【保有スキル】

原初の一:A
 アンデッド。星の集合意志(ガイア)が神代以前の原初に一体ずつ産み落とした、各生物種の始祖たる怪物。最初の産声を上げた星の胤子たち。始まりが故に終わりを持たぬ不死存在。
 あくまでサーヴァントのために劣化しているとはいえ、その特性からセイバーの生命そのものを直接対象とした呪い・概念干渉等を一律無効化し、更にHPが0になった際、必要な魔力が供給されていれば幸運判定で復活の機会を得ることができる。
 また、自らの意志や令呪による強制・補助を以ってしても自害、及びそれに繋がる行為ができない。

 このスキルは受肉した精霊種の一部が保有するスキルで、ランクに応じて該当する存在や、その特性を示す効果内容が変化する。
 そのため、厳密には原初の生まれではなく後天的にアンデッドと化した身でありながら、統制者に正真正銘のアンデッドと認められているセイバーも、他のアンデッドと同ランクでこのスキルを保有している。

無貌の切札:B
 ワイルド。
 いかなる生物の系統樹でもないという、ジョーカーのみの特性。
 特定の種族に適用する効果を一律無効化する。
 但し準札(エキストラ・ジョーカー)であるセイバーは正規のジョーカーよりもランクが低下し、派生するはずの変化スキルを持ち得ていない。

狂化:E-
 アンデッドとして植え付けられた、抗い難い闘争本能。
 普段セイバーはこの本能を自らの意志で押さえつけているため理性を保ったままであり、滅多なことではこのスキルも機能しない。
 しかしそれは彼が常に運命と戦っていることに他ならず、何らかの要因で判定に失敗すると、理性を喪失し最終勝利者となるための殺戮を繰り返す暴走状態に陥ってしまう。
 また、聖杯戦争に参加しているサーヴァントの残数が減るほどに判定の成功率が低下してしまう。

守護騎士:A+
 怪物から人々を守護する、都市伝説の仮面騎士。
 宝具である鎧を装備している時にのみ付与されるスキル。
 他者を守る時、人を護りたいというセイバーの意志により、宝具である鎧との融合係数が向上することで、一時的に防御力を上昇させることができる。


【宝具】

『母なる星、清めし死の札(ジョーカーエンド・アポトーシス)』
ランク:- 種別:対生宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

 生命の天敵として存在する抑止力の一種、ガイアの死神とも呼ぶべき異端の不死者・ジョーカーアンデッドの在り方が、宝具として再現されたもの。命を刈り取る星の刃。
 母なる地球に出生を由来した、あらゆる命に対する殺害権利を保持する怪物として、セイバーからの殺傷を阻害するあらゆる概念干渉・生物的特性を無効化することができる。
 また、対象の生物としての純粋度、完全性に応じて追加ダメージを発生させ、一定値を超えた場合に即死判定を働かせることが可能。

 通常時の効果適用範囲は個体レベルでしかないが、願望器を巡る争いにおいて最終勝利者となった時にその本来の機能を発揮。眷属の無限召喚能力を獲得して地球全土にまで殺害範囲を増大し、母なる星から全ての生命を消し去るための装置と化す。
 命を滅ぼしながら星は滅ぼさない、星の自浄作用であり自壊衝動の一つ。故に、地球に出生を由来する生命でも唯一、星そのものが不死のバックアップとなっている精霊種に対してはその機能を適用できず、代わりに封印という結末を齎すに留まる。
 そのため、星側の存在であることを示す神性スキルを持つサーヴァントは、そのランクに応じて追加ダメージを削減することができる。また性質上、地球上の生物ではないもの、生物の版図を越えてしまったもの、そもそも生物でないものには対精霊種以上に意味を成さない。

 本来のランクはEXだが、本人の霊格が落ちていること、彼自身がこの在り方を拒否していること、そしてセイバーとしての側面のみの現界であるためジョーカーへの変身能力を喪失し、それに伴い前述した戦闘用宝具としての効果は全く機能していない。
 しかし完全に放棄することはできないため、無貌の切札等のスキルや緑色の血などの身体的特徴として、今もセイバーに影響を及ぼし続けている。
 何より、最終勝利者となった場合の機能は変わらず保持されている。そのためセイバーが聖杯戦争の優勝者となった場合、地球の生命全てを死滅させる災厄が発生してしまう。



『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』
ランク:A 種別:結界、対人(自身)宝具 最大補足:1人

 ブレイバックルを介してセイバーがその身と融合させる黄金の鎧。便宜上の呼称こそ同じでも、本来想定されていたそれを上回った、仮面ライダーブレイドの最強形態。
 各生物の祖である、星の集合意識が作り上げた原初の精霊種・アンデッドの内13体の力を封じ込めた鎧であるため莫大な神秘を帯びており、宝具としての純粋な耐久値に加えて他の神秘への強い抵抗力を示す。
 特にそれぞれのアンデッドが司る力と似通った性質の干渉に対しては宝具ランク分の耐性として機能するため、打撃や刃物、雷を用いた攻撃などには絶大な防御力を発揮する。
 但し、セイバーのクラスとして現界した都合上、アンデッドクレストから剣に関与しない力を引き出すことは不可能となっている。

 また、変身時に発生させるオリハルコンエレメントはランク相応の結界宝具でもあり、担い手以外のあらゆるものを弾き飛ばすという特性を有し、それ自体を攻撃にも防御にも用いることができる。


 なお――本来、彼が正しい経緯で英霊と化していた場合、宝具となるのはキングフォームそのものではなく、ブレイバックルである。
 しかし第二のジョーカーとして英霊の座に記録された剣崎一真はそれに関連する力、即ちジョーカーに等しい力であり、彼を第二のジョーカーへと変化させたキングフォームの力のみ、『母なる星、清めし死の札』以外の宝具として有することを許されている。
 そのため、セイバーは本来挟むべき形態を無視して直接この宝具を発動することが可能となっているが、結果として他の形態への変身能力を喪失してしまっている。



『始祖束ねし王者の剣(キングラウザー)』
ランク:A+ 種別:対神宝具 レンジ:1~50 最大補足:100人

『原初纏う黄金の鎧』と対となる、人(セイバー)の想いが星のシステムたるアンデッドの力を束ねたことで、人(開発者)の意志を介さずに生まれた黄金の大剣。
 選ばれなかった未来、辿り着かなかった可能性ながら、古の巨大邪神を一刀の下に斬滅することも事実として可能な神殺しの剣であるため、神性を持つ相手に追加ダメージを発生させる性質を帯びている。
 その出自から鎧同様、在り方はヒトの技術の産物というよりも神造兵装に近しい宝具。

『原初纏う黄金の鎧』と融合したギルドラウズカードを読み込ませることで、その力に呼応した星の輝きを放つことができる。
 刀身から放たれる光は直線のまま拡散しないため一度に補足できる人数は限られるものの、膨大な神秘を攻撃に転用したその威力は凄絶の一言。
 特に最大解放の一撃は鎧に融合したアンデッド十三体全ての力を引き出して攻撃に転化するため、鎧の宝具ランク分威力が更に上乗せされる必殺の一撃となるが、引き換えとしてその間の鎧の防御力が低下する脆弱性を秘めている。



【weapon】

  • 『原初纏う黄金の鎧』
  • 『始祖束ねし王者の剣』
  • 醒剣ブレイラウザー:ブレイド専用の剣型カードリーダーだが、サーヴァントの身では『原初纏う黄金の鎧』発動時にしか現界させられず、その時にはギルドラウズカードしか持ち得ないためその機能は事実上封印されている。故に、宝具ではないサブウェポンの剣としてのみ使用可能。
  • ブレイバックル:変身ベルト。スペードのカテゴリーAと合わせて、『原初纏う黄金の鎧』の装着に必要となるツール。
  • ラウズカード:アンデッドを封印したカード。特殊なアンデッドであるジョーカーを元に開発されたライダーシステムを用いることでその力を引き出すことが可能となる。セイバーはスペードスートのラウズカード13枚を所有。



【人物背景】

 かつて人を捨て、永遠の孤独と引き換えに、運命との戦いに挑んだ男。

 十一歳のある日、両親を火事で喪い、大切な人を護れなかったことで心に深い傷を負った彼は、同じ哀しみを他の誰かに味わわせないために、「人を護る」ことを人生の目標とするようになった。

 そんな彼が行き着いたのは、人類基盤史研究所BOARD――脱走したアンデッドの回収役である、仮面ライダーの資格者という在り方だった。
 不死の怪物であり、人に仇なすアンデッドを無力化できるのは封印の力を持つ仮面ライダーだけ。やがて組織が壊滅しても、人を護るために彼は戦うことを止めなかった。

 そんな戦いの中、剣崎はBOARDと関係を持たない仮面ライダー・カリスに変身する相川始と出会う。
 アンデッドが正体であった彼と幾度かの激突を繰り返した後、種族の壁を超えたかけがえのない友として絆を育むようになった。

 だが、運命は二人の共存を許さなかった。
 相川始の真の正体は、どんな生物の始祖でもない特別なアンデッド――ジョーカーであり、最後に勝ち残れば世界を破滅させてしまう死神。
 そのために他のアンデッド達から集中して狙われる始を、彼と共に暮らす人間の母娘のためにも護り続けた剣崎はやがて、その素質からジョーカーにも等しい力に覚醒する。
 それ故に齎された双方の暴走も収束し、乱れていた他の仮面ライダーとの協調にも成功した剣崎であったが、遂に始を封印できないままバトルファイトを終結させてしまう。

 始まってしまった世界の滅び。他の仮面ライダーも皆倒れた中、始はジョーカーとしての機能に支配され、彼と戦える者は剣崎だけとなってしまった。
 最愛の友を永遠の孤独に封印するか、彼に情けをかけて世界を滅ぼすか。究極の二者択一を迫られた剣崎が掴んだ選択は、誰も失わない方法だった。

 それは、すべてのアンデッドと融合することができる己の素地を最大限発揮して、自分自身が新たなアンデッドとなること。
 友と等しい存在となることで、剣崎は彼を孤独から救ったのだった。
 ……ヒトの生と、永遠の孤独を代償にして。

 第二のジョーカーへと変身した剣崎は、どちらかが倒れることで再び破滅が起きないよう、始と、彼とともに在る人間達の前から姿を消した。
 運命と戦い――そして、勝利するために。



 不死であるアンデッドだが、生物の始祖という強大な神秘は発生した時点でムーンセルに記録されている。
 このサーヴァントはそこから召喚に応じた存在であり、英霊の本体と分身のサーヴァントとの関係のようなもの。
 地上では、「剣崎一真」は今も運命と戦い続けている。




【キーワード】

  • アンデッド:

 神代より更に以前、自らを生命で満たそうとした星が最初に産み落とした、各生物種の祖たる怪物のこと。
 荒ぶる自然現象(カミガミ)に畏敬する生命すらいなかった時代に存在した、受肉した最古の精霊種。原初の一たる星の胤子。
 後に、地球に満ちた全生命が抱える繁栄への祈りを受け、星の集合無意識が具現化した”統制者(ガイア)”によって執り行われるバトルファイトの参加者、繁栄を賭け戦う代表となった、各種族最大の守護者達。

 ジョーカーアンデッドはその中でも例外中の例外。アンデッドでありながらあらゆる生命の系統樹に存在せず、生命の進化のために絶えず生存本能を刺激する脅威として君臨し、必要があれば星に充ちる全生命をリセットするための装置として産み落とされたガイアの死神である。
 後天的に変貌した非純正品、しかも一側面のデッドコピーとはいえ使役するとなれば、術者に掛かる負荷は尋常ではないと言えるだろう。



 追記:真祖との相違点について。

 同じく人の信仰に由来しない、受肉した精霊種ではあっても、アンデッドと真祖は別の時代、古きに分岐した並行世界で、それぞれが異なる要請の元に生み出された存在である以上、やはり別種として多くの差異を抱えている。

 西暦以後の物理法則で安定した地球における触覚、物理法則の体現者である真祖と異なり、霊長が定まる以前、神代すら到来していない時代に最初の胤子として発生したアンデッドは神秘に拠って成立している。
 そのため双方が行使できる空想具現化は厳密には別物となる。傾向としてはカテゴリーという枠組が与えられることや、バトルファイトの報酬の価値を高めるためか、アンデッドの方が制約は多く、特に下級の個体は特定一種の自然現象を小規模で操作する権限しか与えられていない。

 脅威に対する自衛のためではなく、繁栄の祈りを糧に生み出されたことから、アンデッドは星に被害を及ぼす破壊力よりも、星を延長させるための不死性を重視して設計されている。
 純粋な攻性生物として評価すれば真祖に、不死の存在としての完成度を見ればアンデッドに軍配が上がると言える。

 とはいえその不死性もサーヴァントという写し身では不完全である以上、決して慢心できるものではない。



【サーヴァントとしての願い】

 また、朋友達と触れ合いたい――彼にもそんなささやかな願いはあるが、ジョーカーの存在意義である「命を刈り取る」という本能はそれを許さない。
 優勝した瞬間、聖杯には生命絶滅という機能が願いとして真っ先に受理されてしまうからだ。

 それは、どこか己と似通った運命と戦った男、レクス・ゴドウィンと彼の護ろうとした無辜の人々を救いたいと思ってしまったが故に、偽りの街に喚ばれてしまった今も変わらない。
 自己犠牲を覚悟するマスターを救う術もなければ、自らが勝ち残った果てに何かを残すことさえできない。
 自主退場すら許されないまま、最初から何も為すことができぬと詰まされているサーヴァント。それがセイバー・剣崎一真の運命だ。

 ――それでも。

 聖杯に拐われた人々を救済する術が未だ見当もつかず、自らの存在が更なる災厄を齎す可能性を生むのだとしても。
 仮令、聖杯を掴んではならない呪われた身なのだとしても。自らに英霊としての資格があるのなら、誰かの願いを叶えることができるはずだと。

 戦えないすべての人々の代わりに、彼は戦う。
 その道の先に、一筋の光が差すことを信じて。


 運命に勝つ。
 それこそが、このサーヴァントの戦う意義である。



【基本戦術、方針、運用法】

『母なる星、清めし死の札』を戦闘に用いることができないため、『原初纏う黄金の鎧』の装着が大前提となるものの、干渉を限定する相手にもある程度通じ得る優れた攻撃力と、純粋な高数値と数々の耐性に裏打ちされた圧倒的な防御力を併せ持ち、真っ向勝負で安定した強さを発揮できるサーヴァント。

 しかしアンデッド十三体と同時融合したこの宝具が秘めた神秘は絶大なものとなっており、それを維持するための魔力消費もまた莫大。
 シグナーにしてダークシグナーであるゴドウィンならば本来支えきれるのだが、魔力消費が激しいとセイバーの前にゴドウィンが地縛神に乗っ取られ暴走してしまう危険性が存在するため、実際の継戦可能時間は著しく制限されることとなる。

 また面を制圧する類の攻撃手段に乏しく、短所である鈍重さもあって素早い敵に翻弄される・物量に勝る相手に消耗戦を挑まれるなどした場合はその燃費の極悪さが響いて苦戦は必至。
 逃げに徹されれば仕留め切れず取り逃がすことも多く、下手をすれば受ける魔力供給量を自重せざるを得なくなって弱体化し、意外なほどあっさり敗北してしまう可能性も少なからず存在している。

 他にもこれまた鈍足と燃費が響いてマスターの安全を確保する能力にも不安が残り、特に遠距離攻撃に徹されてはほぼ打つ手がなくなるなど、その脅威の戦闘力に反し見掛け倒しのサーヴァントともなりかねない弱味は多い。
 戦闘開始時の見かけのステータスよりも、より多くの魔力をコンスタントに供給出来るマスターのスタミナこそが勝敗を左右する重要な要素になるという、ある意味ではサーヴァントの性質を体現した脆さを抱えていると言える。

 逆に戦闘開始直後なら、正面切っての白兵戦で遅れを取ることはほぼないと考えられるため、どれだけ己の土俵に相手を引き込めるか、一戦一戦をどれだけ短期決戦に徹しきれるかが戦いを制す上での焦点となる、決戦用のサーヴァントである。

 ちなみに上述の理由から考えられる通り、セイバー自身が致命傷を受けることは稀ながら大量の使い魔を操るキャスターや遠距離攻撃に徹せられる真っ当なアーチャー全般、場合によってはアサシン等も天敵となり得る。
 これらの弱点は、本来なら『■■■』さえ入手できればかなり緩和できるものの、そもそもゴドウィンが消耗すると地縛神に乗っ取られてしまうことが最大の問題であるため、この主従にとっては魔力消費量を増やす『■■■■』に頼るのは悪手。
 そして、『母なる星、清めし死の札』の特性上、セイバー自身が最後まで勝ち残るわけにはいかないという都合も踏まえ、目的を果たすためには小聖杯の確保よりも、志を同じくする仲間を探すことが急務といえるだろう。





【出展】遊戯王5D's+遊戯王ファイブディーズタッグフォース6(?)
【マスター】レクス・ゴドウィン
【参加方法】
 WRGP期に地縛神の力によって復活、他のダークシグナーを全て倒した後、その過程で偶然入手していた『白紙のトランプ』に導かれ参戦

【人物背景】

 かつて人を越え、運命を支配する孤独な神の座を目指した男。
 十七年前、兄ルドガーと共にモーメントの開発者・不動博士の助手を務めていたが、ネオ童実野シティを襲った未曾有の大災厄ゼロ・リバースに遭遇。
 その直前に、不動博士からはシグナーの竜のカードを、またダークシグナーとなる決心をした兄からは、シグナーの証である「ドラゴンヘッド」が刻まれた彼の左腕を託され一人生き延びることになった。

 兄の最期を心に刻みながらも、当面の彼はゼロ・リバースの影響で分断されたネオ童実野シティのサテライトとシティを繋ぐダイダロスブリッジの建築により、貧富の格差で荒れる故郷が本来の姿を取り戻すことを夢見ていた。
 だが治安維持局の実働部隊セキュリティに追い詰められ、未完成のダイダロスブリッジをD・ホイールで飛翔した事で左腕を損失してしまう。
 この出来事を経た彼は伝説のD・ホイーラーとしてサテライトの語り草となるが、本人は「人が己を取り巻く運命を変えるには、人を越えねばならない」という考えを抱くようになってしまった。

 やがて、謎の組織イリアステルの助力を得、第三百六十代星護主となった彼はサテライト出身という身分を隠し、かつて自らを追い詰めた治安維持局の長官として君臨する。
 その地位を用いて当代のシグナーであるジャック・アトラス、不動遊星らと接触し、彼らにダークシグナーとの因縁とシティに迫る危機を打ち明け対抗させる。
 そしてシグナーとダークシグナーとの戦いが始まった頃、自らは単身モーメントの最深部に向かいルドガーと決闘。わざと敗北し落命することでナスカの「コンドル」の地上絵を持つダークシグナーとなり、さらにドラゴンヘッドの刻まれたルドガーの左腕を身体に繋ぎ、その身に二つの神の力を宿すようになる。
 彼の真の目的は、冥界の王の力で世界を破壊し、赤き竜の力で世界を再生させること。つまりはかつての兄のように、神々の戦いに為す術なく翻弄され傷ついていく世界の運命を、神となった自らが干渉し変えることであった。

 赤き竜の力により集まったシグナー達との最終決戦の中、あらゆる絆を否定し人は皆孤独だと説くが、戦いの果てにそれらの言葉は虚構であり実は兄と共に運命に抗おうとしているのだと、遊星に真意を見透かされ敗北。
 戦いが終わると穏やかな表情を取り戻し、直に人間として蘇るダークシグナー達の未来を遊星に託すと、兄弟の絆で運命に決着をつけるべく光の中へと旅立った。

 その一年半後、タッグフォース6の専用シナリオでは地縛神の力によってか突如として現世に復活を遂げる。
 ダークシグナーでありながら赤き竜の力を持つために唯一正気を保っており、復活した他のダークシグナーから遊星達チーム5D'sと世界を守るため、密かに激闘を繰り広げた。

 このゴドウィンもほぼ同様の経歴を持つが、タッグフォース時空とは異なり、ゲームオリジナル主人公が存在せずゴドウィンが単身、誰にも知られることなく過去の清算を果たした平行世界の出身となっている。


【weapon】

  • マヤ文明デッキ
 ゴドウィンが持つデュエルモンスターズのデッキ。
 ゴドウィンがダークシグナーであるため、デュエルモンスターズカードの原典となった古代魔術を行使する礼装としての運用が可能。
 但し、ダークシグナーとしての力を行使する=地縛神の闇の力に染まる行為であるため、ダークシグナーに堕ちることを望まないゴドウィンは余程のことがない限りそのような使用をする意志はない。
 また決闘を行う場合は、ダークシグナーであるため自動的にゲームのルールに照らしつつ実際に心身を蝕む魔術儀式『闇の決闘(デュエル)』が発動してしまい、やはり地縛神に乗っ取られる危険性が高まってしまう。
 これらの事情から、ゴドウィンはカードの魔術効果を戦闘に用いることを避けようとしているため、基本的にはただの紙束か、殺傷力の低い投擲武器にしかなり得ていない。


   ・《地縛神 Wiraqocha Rasca》

 地縛神ウィコラチャラスカ。ナスカの「コンドル」の地上絵に封じられた、五千年前の地縛神の中でも最強を誇った一柱。
 現在はデュエルモンスターズカードの一枚という写し身に宿り、常にゴドウィンの精神を支配しようと干渉し続けている。

 邪悪な神霊であり、カードゲームとして召喚するにもゲーム中で設けられているコストの他にも、対戦相手以外の人間の魂が生贄として多数必要。
 つまり、召喚するだけで大規模な魂食いが行われることになるが、サーヴァント、及び令呪という神秘を纏ったマスターならばその捕食に抗うことは可能である。
 決闘中のカードとしての運用に留まらず、決闘の対戦者以外の第三者をもルールを越えて物理的・霊的に害することも可能な、一種の使い魔とも言える存在。

 神霊の写し身だけのことはあり、サーヴァントの神秘であってもカードの破壊は極めて困難。仮に手放しても、余程の封印を施さない限りゴドウィンの元に戻って来ることだろう。
 また、ダークシグナーであるゴドウィンの生命線でもあり、この地縛神の干渉が及ばなくなった場合ゴドウィンも闇に還ることとなる。


【キーワード】
  • デュエルモンスターズ:
 古代エジプトの石版に遺された、魔物や精霊を使役する魔術儀式を原典に開発されたトレーディングカードゲーム。
 その由来のためか、現代に名も無きファラオの魂が蘇ったことに呼応して、古代エジプトの精霊達がカードを依代に現代へと舞い戻る事態が多発するようになる。
 それが呼び水となり、カードゲームの世界観が拡がるに合わせて他の神話や魔術伝承の存在達もカードを現世における写し身として復活する例が増え、表は一般社会に普及しながら、裏でも降霊魔術の一種としてその世界における最大の魔術体系としても確立した。そのため異能者が使えば人を殺傷することが可能で、場合によっては世界を破滅に導くこともできる危険な代物と化している。
 科学の発達した現代においてもこれほどの力を持った神秘の写し身として成立し得たのは、宇宙の始まり――即ち根源が、この世界では一枚のカードとして顕現していたことも一つの要因だと推測されている。

  • 地縛神:
 地球に生命が生まれてから、五千年周期で赤き竜(=神霊ケツァルコアトル)の勢力と地上の支配権を巡り対立する冥界の住人達。
 冥界の王を盟主とし、別次元から襲来する邪神の軍勢であり、地球を滅亡させ冥府に取り込むことを目的としている。
 少なくとも五千年前に出現した地縛神はナスカの地上絵という形で封印されており、それとよく似た黒い身体に単色のラインを走らせた巨躯を正体としている。
 現代ではシグナーのドラゴンと同様にデュエルモンスターズのカードとして存在しているが、本体はシグナーの竜によってナスカの大地に封印されたアストラル体であり、カードを媒介に人間の魂を糧として召喚される。

  • 赤き竜:
 地縛神の侵攻に対する地球の抑止力(カウンター・ガーディアン)を担う神霊。アステカではケツァルコアトルの名で奉じられた蛇神である。
 眷属である六柱の竜を従え、五千年ごとに素質ある人間をシグナーとして見初め、その力を貸与え地縛神を阻止していた。
 現代では地縛神らと同様、眷属であるシグナーの竜はデュエルモンスターズカードの精霊として転生しているため、優れた決闘者達をシグナーとして選んでいた。


【能力・技能】
 シグナー、及びダークシグナーとして赤き竜と地縛神の二柱の神霊から力を賜っているため、異常な負担を強いるセイバーをも使役できるだけの莫大な魔力量を誇る。
 しかし、彼が現在ダークシグナーとして地縛神に意識を奪われていないのは赤き竜の加護とゴドウィン自身の意志によるものであり、その均衡が崩れると地縛神に乗っ取られてしまう危険性がある。
 次元を隔絶されてしまった赤き竜と、写し身であるカードが手元に存在する地縛神とではゴドウィンへの干渉力にも差が出てしまっており、赤き竜から与えられた魔力が一定値を下回ると完全に地縛神に支配されてしまうため、実際にセイバーの戦闘を支えられる時間は限られてしまっている。

 なお上記の通り『闇の決闘』は可能だが、一度始めると地縛神に乗っ取られ易くなるため、少なくとも正気の間は行うつもりはない。
 また、自らを更に死人=ダークシグナーに近づけてしまう行為であることから、自殺を図ると地縛神に完全支配されてしまうため、実質自害ができない躯でもある。

 神秘を伴わない攻撃に耐性を持つダークシグナーだが、目立たぬよう生前の姿を取ることもできる。ゲーム中とは違い日中も活動可能。


【マスターとしての願い】
 聖杯戦争に巻き込まれた人々を、悲劇の運命から解き放つ。


【令呪】
 左腕に三つに分割可能な形で刻まれた竜頭の紋章(※不動遊星に託されたドラゴンヘッドの痣と同じデザイン)


【方針】

 セイバーと共に聖杯戦争を止める。
 自分達は決して優勝してはならない以上、他に志を同じくする者が存在することを祈り、探し出す。







番外位(ジョーカー):ありす&バーサーカー 投下順 OP2:オープニング
時系列順
GAME START レクス・ゴドウィン
セイバー(剣崎一真)

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最終更新:2017年02月28日 23:22