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前回の戦いから数ヶ月後。世界は再び、大魔王の消滅によってもたらされた偽りの平和に酔いしれていた。
救世主となった小鳥遊春人(ハルト)は、名声や富、王女たちからの求婚をすべて辞退し、ただひたすらに異世界の深山幽谷を巡っていた。
「うーん、ここのアケビは日当たりが良いから、一段と実が大きくて紫色が濃いな。おまけに魔力の含有量も桁違いだ」
サラサラの黒髪をなびかせ、誰もが見惚れるほどの美貌に爽やかな笑みを浮かべ、ハルトは背負った大きなカゴに極上のアケビを収穫していた。
前回の世界救済を経て、ハルトの固有スキル【木通開果(アケビ・エボリューション)】はさらなる進化を遂げていた。摂取したアケビの総数はすでに数万個。彼の基礎ステータスは、もはや神々すら計測不能な「次元の壁を超越した何か」へと変貌していた。
その時だった。
突如として、異世界の空が引き裂かれた。
「──ゴゴゴゴゴゴゴ……!!」
太陽の光が遮られ、世界全土が禍々しい漆黒の雲に覆われる。大気が激しく震え、大陸全土に大地震が走った。王都の方角から、前回の大魔王バーンとは比較にならない、それこそ星そのものを圧殺せんばかりの、絶望的なプレッシャーが放たれた。
「おのれ人間ども、そして余の軍団を滅ぼした不届き者め……! 目を覚ますがい、これぞ余の真の姿。全知全能の肉体を取り戻した──真・大魔王バーンである!!」
その声は世界の理を歪め、海を割り、山を崩した。
かつてハルトが倒したバーンは、叡智(魔力)を司る老人の肉体であった。だが今、バーンはかつて凍結して封印していた「最強の肉体」と融合し、若々しくも圧倒的な戦闘力を誇る『真・大魔王バーン』として完全復活を遂げたのだ。
「フハハハ! この肉体、このパワー! もはや余に敵など存在せぬ。世界を、宇宙を、今度こそ我が手の中に収めてくれよう!」
真・バーンは王都の上空に君臨し、その圧倒的な武力を見せつけるように、片手を軽く振った。それだけで、周囲の空間が消滅していく。
「あ、ハルトさんだ!」
王都の避難所で怯える人々が、地平線の向こうから歩いてくる人影を見つけた。
カゴいっぱいにアケビを詰め、いつものように涼しげな顔をした好青年、ハルトである。
「ほう……お前が余の軍団を『種』で滅ぼしたという男か」
真・バーンは鋭い眼光をハルトに向けた。その視線だけで並の勇者なら精神が崩壊するレベルだったが、ハルトは「こんにちは」と爽やかに挨拶を返した。
「ずいぶんと元気そうですね、大魔王さん。せっかく復活したのに申し訳ないんですが、僕、今ちょうど採りたてのアケビをデザートに食べようと思っていたところなんです。邪魔をしないでいただけますか?」
「ふん、不遜な小僧め。アケビなどという下俗な果実と共に、塵に還るが良い!」
真・バーンが超高速で動いた。
「喰らえ! 『カラミティエンド』!!」
神の衣服すら切り裂くという、真・バーンの最強の暗黒闘気の魔手。それは一瞬でハルトの喉元へと迫った。あまりの速さに、周囲の時間すら止まっているかのように錯覚させる一撃。
しかし、ハルトは動じない。
左手でカゴから、ひときわ大きく輝く「特級五葉アケビ」を取り出すと、パカッと綺麗に二つに割った。そして、とろりとした白い果肉を上品に口に含んだ。
モグモグ、とハルトの顎が動く。
【ピコーン! 固有スキル『木通開果・極』が発動。超高濃度魔力アケビ(果肉)を摂取。全ステータスが9999無量大数倍に上昇。特権能力『木通殻機動(アケビ・シールド・アドバンス)』が自動展開されました】
ガキィィィィィン!!!
世界を滅ぼすはずの真・バーンの『カラミティエンド』は、ハルトの顔面の数センチ前で、目に見えない紫色の「アケビのオーラ」に阻まれ、完全に停止した。それどころか、衝撃で真・バーンの腕の骨がバキバキと音を立てて砕け散った。
「ぐわああああっ!? な、何だと!? 余の、全知全能の肉体の一撃が、片手すら使わずに防がれただと……!?」
驚愕し、後ろへと飛び退く真・バーン。瞬時に肉体を再生させながら、冷や汗を流す。
ハルトは、アケビのバナナに似た芳醇な甘みをゆっくりと味わうと、ふぅ、と息を吐いた。そして、美しく微笑みながら、口に残った大量の黒い種を、大魔王に向けて「ペッ」と吐き出した。
『特権能力:流星雨連射種弾(スターダスト・シード・バースト)』
ハルトの口から放たれた数十粒の黒い種。それはただの種ではない。一粒一粒が、銀河を崩壊させるほどの質量と超重力を纏った、破壊の概念そのものだった。
「しまっ──!? させるかぁぁぁ!! 『天地魔闘の構え』!!!」
真・バーンは瞬時に、大魔王の究極の奥義を展開した。攻撃・防御・呪文の三要素を完全に同時に行う、無敵の構えである。放たれた種に対し、真・バーンは最強の防御技『フェニックスウイング』で弾き返そうとした。
しかし。
「あ、それ、無駄ですよ」とハルト。
ドガゴゴゴゴゴゴゴォォォォォン!!!!
天地魔闘の構えなど、ハルトの「アケビの種」の前には紙屑同然だった。フェニックスウイングは接触した瞬間に蒸発。種は真・バーンの四肢を容赦なく貫き、彼の自慢の「無敵の肉体」をボロ雑巾のように破壊し尽くした。
「ば、馬鹿な……っ! 天地魔闘の構えが、破られた……? 攻撃の隙すらなく、ただの、ただの果物の種ごときにィィィ!!」
地面に叩きつけられ、血反吐を吐きながら絶叫する真・バーン。
ハルトは一歩、また一歩と優雅に近づく。その手には、先ほど剥いた「アケビの紫色の皮」が握られていた。
「大魔王さん。アケビはね、皮も美味しく食べられるんですよ。油で炒めて、味噌で味付けすると最高なんです。あなたにも、この深みのある苦味(ほろにが)を知ってほしかったな」
ハルトはアケビの皮をパクリと口に入れ、噛み締めた。
【ピコーン! アケビ(果皮)を摂取。特権能力『因果律拒絶(アケビ・リセット)』が発動。敵のあらゆる防御、不死性、概念的耐性を完全に消滅させます】
ハルトの全身から、この世のものとは思えないほど美しく静かな、深い紫色の光の粒子が立ち昇る。
「ヒッ……化け物め! 余は、余は大魔王バーンだ! こんなところで、アケビマニアの男に滅ぼされてたまるかぁぁぁ!!」
恐怖に狂った真・バーンは、自身の心臓である「黒の核晶(コア)」を暴走させ、星ごとハルトを消し飛ばそうと最後の悪あがきを試みた。
「終わりです」
ハルトは懐から、春に摘んで乾燥させておいた「アケビの新芽(お浸し風)」を取り出し、上品に口に含んで飲み込んだ。
『神速究極特権:終焉木通・一木一草(ジ・エンド・オブ・アケビ)』
ハルトが静かに右手を天に掲げると、真・バーンの足元から、超巨大なアケビのつるが突如として生えてきた。そのつるは真・バーンの肉体を瞬時に絡め取り、彼の魔力、魂、そして暴走しかけた黒の核晶のエネルギーさえも、すべて「アケビの養分」として一瞬で吸い尽くしてしまった。
「ア……アケビの……栄養に……余が……される……というの……か……。おのれ……アケビぃぃぃぃぃぃっ!!!」
真・大魔王バーンは、断末魔と共に文字通り「一本のアケビの木」へと変化し、そのままサラサラと光の塵になって消滅した。
完全復活を遂げた最強の真・大魔王、その生存時間は、ハルトがアケビをデザートとして味わうまでの、わずか数十秒の出来事だった。

空は元の美しい青空へと戻り、王都には再び暖かい光が差し込んだ。
信じられないほどの瞬殺劇を目の当たりにした人間たちは、もはや歓声をあげることすら忘れ、ただただハルトの神々しさにひれ伏していた。
ハルトはカゴを背負い直し、みんなに向かって爽やかに微笑んだ。
「皆さん、お騒がせしました。大魔王さんはもう大丈夫です。あ、もしよかったら、このアケビの木から採れた実は皆さまで分けて食べてくださいね。とっても甘くて美味しいですから」
そう言い残すと、ハルトは次のアケビの群生地を探すため、風のように去っていった。
こうして、異世界は二度にわたり、一人の美形好青年と、彼が愛した「アケビ」によって救われたのだった。
(真・異世界アケビ転生・完)

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最終更新:2026年06月20日 23:23