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薄暗い部屋の中、いくつものモニターが放つ不気味な光が、男の歪んだ笑顔を照らし出していた。
男の名は、ネット上で「セイザージュウガ」を名乗る超能力者。しかしその実態は、歪んだ特撮オタクとしての執念が、未知の闇の力によって怪人へと変貌した姿だった。
「ふははは! 見ろ、この炎上を! 私の言葉一つで、この公式アカウントも、あのファンアートを描いた奴も、すべて大バッシングの嵐だ!」
セイザージュウガは四つの目と硬質な外殻を持つ醜悪な怪人でありながら、人間の姿の時と変わらず、キーボードを叩き続けていた。彼の能力は、ネット上の「悪意」を可視化し、それを物理的な破壊エネルギーに変換すること。そして、気に入らない作品や自分と意見の合わないファンをネット上で「晒し」、事実を歪曲した「ネガキャン」を仕掛けて精神的に追い詰めることだった。
彼の撒き散らす悪意の毒電波は、ネットを通じて現実世界の人々にも頭痛や絶望を植え付け、社会を静かに蝕んでいた。
その頃、美杉家。
津上翔一は、庭で丹精込めて育てたトマトを収穫していた。いつものように穏やかな笑顔を浮かべていたが、ふと、その手が止まる。
「……悲しい風が吹いている。誰かが、すごく傷ついてるみたいだ」
翔一の脳裏に、理不尽な誹謗中傷に晒され、涙を流しながらスマホの画面を見つめる見知らぬ人々の姿が、ビジョンとなって浮かび上がった。
アギトの力を持つ彼は、人間の放つ強烈な絶望の精神波を感じ取ったのだ。
「行かなきゃ。みんなの居場所を守るために」
翔一は愛車マシントルネイダーに跨がり、悪意の源泉へと急行した。
郊外の寂れた廃ビル。そこがセイザージュウガの根城だった。
不気味なノイズを放つ巨大な電波塔の前に佇む怪人に向けて、マシントルネイダーが爆音を響かせて突入する。バイクから鮮やかに飛び降りた翔一は、鋭い眼差しで怪人を見据えた。
「お前が……みんなを苦しめているんだね」
「ふん、誰かと思えば『仮面ライダーアギト』か! 現実のヒーロー気取りか? 笑わせるな! お前のような古臭いデザイン、今のトレンドじゃネガキャンの格好の餌食だ。ネットで叩き潰してやる!」
セイザージュウガは嘲笑いながら、スマホ型の異形デバイスを天に掲げた。すると、ネット上に渦巻く何万もの「晒し」「叩き」のコメントが黒い文字の嵐となり、物理的な鋭いカッターとなって翔一に襲いかかる。
翔一は静かに腰に手を当てた。
「変身!」
オルタリングが眩い光を放ち、中央の賢者の石「シャイニングカル」が輝く。光の中から現れたのは、黄金の鎧を纏った超越生命体、仮面ライダーアギト・グランドフォームだった。
アギトは押し寄せる悪意の文字の嵐を、鍛え上げられた肉体と鉄拳で次々と打ち砕いていく。
「何だと!? 私の集めた、人間の最高に醜い『本音のエネルギー』が効かないというのか!」
「それは本音なんかじゃない。他人の痛みを想像できない、ただの弱い心だ!」
アギトは果敢に踏み込み、セイザージュウガの胸元に強烈なストレートを叩き込む。怪人の硬い外殻が火花を散らした。
激昂したセイザージュウガは、自身の能力を最大に出力した。
「うるさい、うるさい! 私は神だ! ネットの世論を支配する神なのだ! お前の『過去の失敗』も『不都合な真実』も、すべて捏造して晒し上げてやる!」
怪人の背中から触手が伸び、周囲の空間に巨大なスクリーンが幾つも現れた。そこには、過去にアギトが戦いの中で傷ついた姿や、誤解された瞬間の映像が、悪意あるテロップと共に映し出される。
しかし、アギトの心は一切揺らがなかった。
「僕はただ、みんなの居場所を守りたいだけだ。君がどれだけ泥を塗ろうとしても、人間の温かい心や、誰かを応援したいという純粋な気持ちは、絶対に消せない!」
その強い意志に応えるように、アギトの身体から眩いばかりの光が溢れ出す。光の波動は、セイザージュウガが展開していた悪意のスクリーンを、まるで朝日に溶ける霧のように一瞬で消し去った。
「ば、馬鹿な……! 私のネガキャンが、完全に無効化されただと……!?」
驚愕し、後退りするセイザージュウガ。
アギトの頭部の角「クロスホーン」が静かに開き、6本のツノとなる。足元には、黄金に輝くアギトの紋章が浮かび上がった。大地から、そして地球そのものから溢れる無限のエネルギーが、アギトの右足へと収束していく。
「これで、終わりだ」
アギトは大地を蹴り、空中へと高く舞い上がった。
「やめろ! 私を倒せば、ネットでどんな噂を流されるか分からんぞ! 覚悟しろ!」
見苦しく叫びながら、最後の悪意の障壁を張るセイザージュウガ。
しかし、アギトの放つライダーキックは、そんな虚飾の壁など物ともしなかった。
黄金の光の矢となったアギトの蹴りが、セイザージュウガの胸へと突き刺さる。
「ア、アギトオオォォッ! 私の、私の神聖なアカウントがァァ崩壊するぅぅッ!!」
断末魔の叫びと共に、セイザージュウガの身体にアギトの紋章が焼き付けられる。怪人は光の爆発を起こし、その悪意に満ちた肉体も、人々を陥れてきたスマホも、跡形もなく消滅した。
同時に、ネット上に蔓延していた原因不明の不穏な空気やバッシングの嵐は、嘘のようにピタリと収まり、元の静けさを取り戻していった。
戦いが終わり、変身を解除した翔一は、静かに夜空を見上げた。
そこには、怪人が隠そうとしていた綺麗な星空が広がっている。
「さあ、帰ってご飯の支度をしなきゃ。みんなが待ってる」
翔一はいつもの穏やかな笑顔に戻ると、マシントルネイダーに跨がり、温かい光が待つ我が家へと走り去っていった。

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最終更新:2026年08月02日 23:42