ON THE ROAD ◆ACT//GA03c
――目撃せよ。
▼ ▼ ▼
未だ朝日の昇らない住宅街を、12分の1スケールのサイドカーがアスファルトの路面を削り取らんばかりに疾駆する。
そのマシン――ダブルチェイサーのハンドルを握るマゼンタ色の操縦者、
仮面ライダーディケイドは、サイド座席の青い相棒に向かって声を張った。
「振り切れたか!?」
「駄目だ、追ってきてる! あの図体でなんて速さだ――うわっ!?」
運転に専念しているディケイドに代わって後方上空へと目を凝らしていた
仮面ライダーブレイドが、その言葉を最後まで言い切る前に、車体が大きく左へ逸れた。
その直後、本来ダブルチェイサーが走り抜けるはずだったルートを、紫色に発光する粒子の奔流が一直線にえぐり取った。
一瞬で路面をはぎ取るように分解したその威力を横目で確認し、ディケイドは「チッ」と舌打ちしながら更なるアクセルを掛けた。
振り向くまでもない。街灯の明かりが地上に投げかけている、大きく翼を広げた悪魔めいた影が、追跡者の存在を何より雄弁に証明している。
異様に執念深い敵だ。ディケイドの支給品であるこのダブルチェイサーでの移動中に襲撃を受けて以来、奴は二人を完全に獲物として認識しているらしい。
「ブレイド! このまま逃げ切れると思うか?」
「なんとかなる、って言いたいとこだが厳しいだろうな……あんなの一発でも食らったらマシンがオシャカだ」
「バッテリー切れを待つ手もあるが、確実とは言えないな。だったらどうする?」
聞いてはみたが、ディケイドには既に返ってくる答えは分かっていた。
「決まってるさ。あんな危険な奴を他のフィギュアのところに案内するわけにはいかない」
「あれだけのスペックだ。勝てる保証は無くてもか?」
「当たり前だろ。勝てるかどうかじゃない、だって俺達は――」
「仮面ライダー、だろ。いちいち言うな、俺も同じ考えだ」
予想通りの返答に奇妙な満足を感じながら、ディケイドはハンドルを操作する。
直後、ダブルチェイサーの車体が左右に割れた。
まさに直撃せんと迫り来る紫の光線をこの分離で回避し、マシンは二台のバイク「ロンリーチェイサー」となる。
ディケイドが赤の、ブレイドが緑のロンリーチェイサーのハンドルを同時に切ると、それぞれの車体は後輪でアスファルトを擦り弧を描きながら急停車した。
そしてマシンから降り立った二人は、遂に敵と対峙する。
咆吼しながらその悪魔めいた翼を羽ばたかせて突進してくる、赤黒い巨体の持ち主と。
速い。そして、想像以上に大きい。
サイズは目測で250ミリ。平均的なアクションフィギュアが150ミリであることを考えれば、ほとんど規格外だ。
既にブレイドがネットツールで敵の正体は掴んでいた。完全に能力を把握する余裕は無かったが、その脅威だけははっきりと分かる。
まさに怪獣。まさにモンスター。あれが完全生命体――デストロイア、その完全体。
「ブレイド! 狙われてるぞ!」
「分かってる! ハァッ!」
もはや砲弾。その巨体そのものを武器として突撃するデストロイアを、仮面ライダーブレイドは正面から迎え撃つ。
《 - METAL - 》
醒剣ブレイラウザーが電子音声を発したのはデストロイアとの激突の僅かに直前。
しかし、全身を硬化させる「メタル」が効果を発揮するには十分な時間だった。
「ウェェェェェェェイ!」
自らを覆い尽くすほどの威容を誇る赤の巨獣を、ブレイドはその体全てを盾として受け止めた。
メタルの効果を持ってしても止めきれないその勢いを意地で相殺し、両足と旧型モデルゆえ柔軟とは言えない関節部を酷使して、その場に釘付けにする。
そして握り込んだ拳で殴る――相手は動じない。ダメージが通っていないのか。ブレイドは更なる拳打を叩き込んだ。
「くそっ、これでも怯まない! なんて奴だ!」
「いや、上出来だブレイド。そのまま足止めしていろ」
ブレイドが組み付いている隙にデストロイアの背面へと回り込んだディケイドが、その言葉と同時に跳躍した。
《 ATTACK RIDE ―― "SLASH"! 》
手にした剣、ライドブッカー・ソードモードを振りかぶり、そして振り下ろす。狙いはデストロイアの翼。まずは機動力を殺す、それがディケイドの狙いだった。
が。
デストロイアが低く唸ったその瞬間、ディケイドは目の前の相手がそんな手の通用するほど生易しい敵ではないことを悟った。
直後、その長大な尾が鞭のようにしなり、化け物じみたタイミングでディケイドに叩き込まれた。
空中では回避も防御もままならず、ディケイドの体は勢いそのままに路面をバウンドする。
「ぐうっ……こいつ、俺の動きを……!?」
「ディケイドッ!!」
「だ、大丈夫だ、それより……まずい! 離れろっ!」
ライドブッカーを杖代わりに辛うじて身を起こしたディケイドが目にしたのは、デストロイアのその凶悪な口内に紫の光が満ちる瞬間。
そして解き放たれたエネルギー――至近距離からのオキシジェンデストロイヤー・レイの直撃を受け、崩れ落ちるブレイドの姿だった。
駆け寄ろうとするディケイドの方へと完全生命体は向き直る。その両の複眼に残忍な光を湛えながら。
そしてその尾は……その場に膝を突くブレイドへと延びている。
まずい、と思った時にはもう遅かった。
デストロイアの尾はブレイドを文字通り玩具のように持ち上げ、そのまま石でも投げるようにその体をディケイドへと叩きつけた。
「ぐあぁぁぁっ……!」
激突する二人のライダー。
もつれるように倒れながらも、ダメージの浅いディケイドが先に立ち上がりブレイドを助け起こす。
「くそっ、やってくれる……無事か、ブレイド?」
「……なんとか。メタルの効果が残ってなかったら、胸部アーマーに穴が開いてたかもしれないけどな」
その言葉の通りあれだけの光線の直撃を受けたにしては損傷は軽いようだが、ブレイドは明らかにそれ以上に疲弊していた。
ディケイドの不審の視線に気付いたのか、ブレイドは呻くように言葉をこぼす。
「あの尻尾で掴まれた時、電力を吸い取られたみたいだ」
「なるほどな……文字通りの化け物ってわけか。だいたい分かった」
「分かったって、何がだ?」
訝しげな目を向けるブレイドに、振り返りもせずディケイドは答える。
その右手に握られているのは、自身と同じ黒とマゼンタで彩られたタッチパネル端末型のパーツ。
本物のディケイドがネガの世界で手に入れたお宝……その12分の1スケールの複製品。
「――規格外には規格外。こっちも切り札を切る必要があるってことだ」
「切り札……俺にとってのキングフォームみたいなものか?」
「そんな感じだ、ブレイド。バテてるところ悪いが、十秒でいい、時間稼ぎを頼む」
「気楽に言ってくれてるが、勝算はあるんだろうな?」
「当然だ。俺は世界の破壊者だからな」
この状況ですら不遜な態度を崩さないディケイドに対してブレイドは呆れ混じりの笑いで応えた。
「変なヤツだな……よし、乗った! だったらこっちもぶっつけ本番で行かせてもらう!」
そう言い切るやいなや、ブレイドはディケイドの前、デストロイアの正面へと躍り出る。
咆哮を上げ、地響きを上げんばかりの勢いで突進するデストロイア。
その巨体へ向かってブレイラウザーを突き出し、能力を発動させる。
《 -TIME- 》
タイムスカラベ。本物のブレイドが遂に一度も使うことのなかった幻のカード。
スペードの10、スカラベアンデッドを封印したカードによって発揮される、範囲内の時間を停止させる能力。
時間停止の再現は不可能であるため、この能力は相手フィギュアのコアと駆動系を一時的にフリーズさせる機能として実装されていた。
もちろん代償も大きい。対象のほぼ全身に干渉するこのカードは、僅かな時間の発動だけでも莫大な電力を消費する。
今の電力残量を考えれば、せいぜい十秒弱が限度といったところだろう。
「長くは保たない! 急げ、ディケイド!」
ブレイドの切羽詰まった声が誇張でもなんでもないことはディケイドにも理解できていた。
感情を抑え、努めて冷静にその指をケータッチのタッチパネルに滑らせ、九つのライダーシンボルに触れていく。
《 "KUUGA"! 》《 "AGITO"! 》《 "RYUKI"! 》《 "FAIZ"! 》《 "BLADE"! 》《 "HIBIKI"! 》《 "KABUTO"! 》《 "DEN-O"! 》《 "KIVA"! 》
これがケータッチの、仮面ライダーディケイドの真の力。
自らが巡った九つの世界のライダーの力をひとつに集め……そしてその身に纏う!
《 FINAL KAMEN RIDE ! "DECADE"! 》
最後に触れたのは自分自身のシンボル。その名を呼ぶ電子音声と共に、ディケイドが姿を変える。
マゼンタを基調としていた全身は新たに黒と銀をベースとしたボディへと切り替わる。
大型化した胸部と両肩のアーマーには、9つの世界のライダーカードが配置される。
そしてその額に輝くのは、ディケイド自身のカードだ。
人呼んで、歩く完全ライダー図鑑。その名は、仮面ライダーディケイド・コンプリートフォーム。
「離脱しろブレイド! デストロイアにとどめを刺す!」
ディケイドはそう宣告しながら、間髪入れずにケータッチのスペードのマークを押した。
《 "BLADE"! KAMEN RIDE-"KING"- 》
音声とともに、ディケイドの傍らにブレイドがストラーフ戦で見せた姿……キングフォームのフィギュアが出現する。
ディケイドと同じS.H.Figuartsの技術で作られたそれは、しかしディケイドと違い意志を持たない文字通りの人形だ。
眼前のデストロイアが吼える。それは急激な状況変化に対する戸惑いか。新たに出現したフィギュアへの警戒か。
(だが、反応する時間をくれてはやらない!)
《 FINAL ATTACK RIDE ! B-B-B-BLADE ! 》
右腰のドライバーバックルを起動。音声とともにディケイドとキングフォームがシンクロした構えを取る。
仮面ライダーブレイドの最強最後の必殺技、ロイヤルストレートフラッシュを放つための構えを。
ライドブッカーとキングラウザー、それぞれの刃が光を帯びる。
「これで終わりだ! デストロイア!」
ディケイドが振るった刃は空を裂く光の斬撃となって、一直線にデストロイアへと疾駆した。
もはやデストロイアには回避も防御も出来はしない。そして、少なからずダメージを受けた体でこの最強技を受け切ることもだ。
紅の巨獣が悔しげに唸った。そして直撃する。ロイヤルストレートフラッシュ、その二重の光刃が。
爆発。
デストロイアがいたはずの場所を中心に爆炎が上がり、粉々になり黒焦げたパーツが四方八方に飛び散った。
それは完全生命体の最期としては、ひどくあっけないものだった。
▼ ▼ ▼
「終わってみれば、あっさりしたもんだ。おいブレイド、生きてるか」
「当たり前だろ。あれ以上時間を止めていたら、バッテリーがヤバかったけどな」
通常フォームに戻ったディケイドの彼なりの労いを、ブレイドはあまりお気に召さなかったらしい。
相当消耗が激しいだろう体を無理に動かして、停車している緑のロンリーチェイサーの元へ歩いていった。
「あまり無理するな。装着変身は旧型モデルだ、関節部にガタが来ても知らないぞ」
「旧型って言うな。余計なお世話だっての」
やれやれ、とディケイドは肩を竦め、デストロイアの残骸の方へと足を進めようとした。
死体漁りのようで気が引けるが、あの怪獣は戦闘中に一切拡張パーツを使っていない。
つまり、もしかしたら未使用のパーツが入手できるかもしれない。今後の戦いのことを考えての行動だった。
「……なあ、ディケイド」
その背中からブレイドの言葉が投げかけられ、ディケイドは振り返った。
ブレイドは相変わらず自分のバイクのところにいて、ディケイドの方に顔を向けるでもなく、半分独り言のように呟いている。
「あいつの、その、人格って言っていいのか分からないけどさ。あいつの自我も、人間にインプットされたのかな」
「あいつ? デストロイアのことか? それはそうだろう。オリジナルがいる以上、AIはそれをモデルに造られてるはずだ」
「やっぱり、そうだよな……」
ブレイドの背中からは感情は読み取れない。だがその声色は、彼の苦悩を雄弁に物語っていた。
「あいつは言葉も話せなかった。ただ破壊するかされるか、それだけの存在として作られたんだな」
「……ブレイド、感傷的になるな。やらなきゃ俺達が、いやそれ以上の犠牲者が出ていたかもしれないんだ」
「そんなことは分かって……いや、悪い。頭に血が上ってたみたいだ。忘れてくれ」
「血も涙もないフィギュアロボットの頭に血が上るとは、パッとしないジョークだな。俺達は最善を尽くした、それでいいだろ」
適当にあしらうようにして話を切り上げながら、ディケイドはブレイドの言い分も分かると内心では思っていた。
邪悪な存在ではなく、邪悪であるようにと造られた存在。それがこのバトルロワイアルにおける怪獣というもの。
それを滅ぼすのが、本当に正義なのか。しかし、誰かがやらなければならないことなのだ。
(あいつも熱血直情タイプに見えて、意外とナイーブだな。だからこそ仮面ライダーらしいのかもしれないが……)
少なくとも正義の味方には自分よりもあいつのような人間のほうが相応しいだろう、と考えながら、ディケイドは踵を返した。
正確には、残骸の方角へと踵を返そうとして、思い留まった。足元に転がっている「何か」に、気を取られたからだ。
「……ん?」
軽く屈み、「それ」を拾い上げる。
言ってしまえば、それはただのガラクタだった。先ほどの爆発で飛び散った、パーツの外装のひとつに過ぎない。
鈍い光沢を放ち無機質な曲線を描くそれは、取るに足りないスクラップパーツのひとつとして見過ごされるようなものだ。
「……なんだこれは。どういうことだ」
だが、ディケイドの擬似人格は、電脳内で激しいアラートを発していた。
これが人間ならば呼吸は乱れ、鼓動は早鐘を打ち、意識が朦朧としてもおかしくないくらいの衝撃だった。
何故ならば、あるはずがないからだ。こんな無機的な人工パーツがあるはずがないからだ。
――今、この場で飛び散っている外装パーツは、怪獣デストロイアのそれでなければならないはずだ!
そして、その瞬間だった。
「ぐああああああああああああっ!?」
ディケイドは絶叫した。
何だ。何が起こった。いや、何が起こっているのか。
体の自由が効かない。何かに組み付かれている。複数の脚のようなものが、背後からディケイドを拘束している。
そして激痛。スーツの装甲の切れ目である首筋に何かが突き刺さって……いや首筋を『食い破られている』。
更にそこから何かが流れ込む感覚。これは毒? いや、フィギュア相手に馬鹿馬鹿しい。
しかし現実に破壊されている。仮面ライダーディケイドのフィギュアを構成するメカニックが、内側から着実に。
理解が追いつかない。だがこれだけは間違いない。これだけは断言できる。
(は……嵌められたのか、俺達は……!?)
――完全生命体は、その機能を停止してなどいなかった。
▼ ▼ ▼
「ディケイドォォォォォォッ!」
叫んだ。叫びながら、ブレイドは醒剣ブレイラウザーを振り回した。
自分が背を向けている僅かな間に、ディケイドが奇襲を受けた。それだけは分かる。
今もディケイドに背後からのしかかり、首筋に食らいついているのがその卑劣なる敵だ。
爆散した残骸に潜み、ディケイドが油断した隙に不意を打った。そして毒のようなもので攻撃している。
それは理解できる。だが納得できない。何故なら、その襲撃者の姿は。
「どういうことだよ……『こいつら』もデストロイアだっていうのかよ!?」
ディケイドに組み付く赤黒い甲殻生物と酷似した、一回り小さなフィギュアの攻撃を刃で弾く。
カニかクモのようなその外骨格は先ほどの巨獣とは似ても似つかない。だが、それと同時に似通ってもいる。
その禍々しい体色も、鋭角的なフォルムも、そして口から吐く物質分解攻撃……ミクロオキシゲンのそれも。
「あいつ、ディケイドの攻撃でやられたんじゃなかったのか! 分裂したっていうのかよ!」
食いつこうと飛びかかる小型デストロイアを足の裏で押し止め、蹴り飛ばすようにして引き剥がす。
(いや、違う……! いくら怪獣っていったって、分裂なんか出来るわけがない! あいつもフィギュアなんだ!
分裂して見えるこれだって、フォームチェンジみたいなものだ! だったらあるはずだ、コアとCSCが!)
熱くなりすぎる自分をブレイドは諌めた。刃だけは鋭く振るいながら、冷静に状況を把握しようとする。
二匹に分裂したデストロイア。だが本体は存在するはずだ。何故ならフィギュアはコア無くして存在できないから。
そしてコアとセットアップチップも不可分である以上、それらを備えた個体が確かにいるはずだ。
だが、どちらだ。より体の大きいディケイドの側のデストロイアが本体なのか。
しかし足止めの別個体がいるとはいえ、明らかに先程より耐久力に劣るボディで奇襲を掛けるだろうか?
そんな思考の袋小路に陥りかけたブレイドを現実に呼び戻したのは、相棒の声だった。
「ぶ、ブレイド……!」
「ディケイド!? 大丈夫か!?」
声を張り上げる。
大丈夫かと問いながらも、その声が明らかに平静でないのを感じて、ブレイドは嫌な予感に震えた。
「俺のことは、いい……それよりも、あいつ……俺の攻撃を、自分のクレイドルを盾にして……!」
「フィギュアの生命線だぞ!? そんなこと、本来の使い方を知らないヤツにしか出来やしない!」
「ああ、そうかもな……だが、同時に未知の道具を躊躇なく使い捨ててでも、俺達を出し抜こうとするヤツでもあるってことだ……!」
ディケイドの声が警告の色を帯びる。
「ヤツには知能の良し悪しを越えた、本能レベルの狡猾さがある……! 何か、まだ裏が、ぐあああっ!?」
「ディケイドッ!?」
更なる苦悶の声を上げるディケイドを直接的に救う手立ては、今のブレイドにはない。
だが少なくとも、自身を襲うもう一体のデストロイアの攻撃を凌ぎながらでも、考えることぐらいは出来る。
(本当にヤツが狡猾な怪獣なら、みすみす弱点を晒したりしないはずだ。本当にデストロイアは『この二体』なのか!?)
ブレイドは考える。
もしもデストロイアが二体だけでないのなら。他に本体がいて、遠くからこの二体を操っているのだとしたら。
だとしたらそいつは、二体の分身を同時に確認できるところにいるはずだ。つまり――
「――上かッ!!」
見上げる夜空を旋回する小さな影。ブレイドの推測通り、赤い翼を持つ飛行型フィギュアが空を飛んでいる。
フォルムこそあのデストロイアとは異なるが、あの角、あの牙間違いない。あれが本体……デストロイア飛翔体!
ブレイド達は知る由もないが、本来ディケイドを襲った集合体とブレイドを攻撃した分裂体はサイズが違うだけの同一存在。
デストロイアは自身の体を複数の集合体に分裂させられ、また集合体は飛翔体へと姿を変えることが可能。
つまり、原作では一度も披露してはいないが、集合体・分裂体・飛翔体は本来同時に存在することができるはずなのだ。
そしてそれら三体のフィギュア――『デストロイアエボリューションセット』は、デストロイア完全体の別フォームとして登録されていた。
原作と異なりどれか一体が本体という制約はあるものの、一種のフォームチェンジで群体としての活動が可能。それが真相だ。
「キサマぁぁぁぁぁ!」
ブレイドの怒りの叫びと共に、星条旗のカラーリングに塗り分けられた円形の盾が転送された。
伝説のヒーロー、キャプテン・アメリカのサークルシールド。
原作ではあらゆる衝撃を防ぐとされるが、今はあくまでフィギュアの素材で造られた少し頑丈なだけの盾に過ぎない。
しかし自由と正義の象徴であり続けるその盾でブレイドは分裂体の攻撃を弾き、そしてフリスビーのように投擲した。
「ウェェェェェェェェイッ!!」
狙いは上空の飛翔体。シールドは高速回転しながら直進し、まさに飛翔体の胴体に直撃した。
飛翔体が叫び声を上げる。だが、見るからにダメージが浅い。距離がありすぎる。
ブレイドは弧を描いて戻ってきたシールドを受け止め、再度の攻撃を放とうとして……固まった。
「嘘だろ……!?」
急降下する飛翔体の元に、さっきまでブレイドにまとわりついていた分裂体が向かっている。
ディケイドを拘束しミクロオキシゲンを注入していた集合体もまた同様の行動を取った。
そして三体の分身が重なり合うように接触し……そして、再び、それは降臨した。
――デストロイア完全体。
悪魔めいた翼、別の生き物のように蠢く尾、残虐な笑みにすら見える牙立ち並ぶ口、額の一本角、光を放つ両の複眼。
コンプリートフォームによるファイナルアタックライドをほぼ無傷で凌ぎ切ったその姿は、戦闘を開始した時と何も変わらなかった。
戦闘前よりエネルギーの消耗はあるだろう。しかしこちらの消耗と損害は間違いなくそれ以上。
考えるまでもなかった。元々分の悪い戦いだったが今や戦況は完全にあちら側へと傾いていた。
「ディケイド……!」
「……情けない声を出すな。捨てられた子犬か、お前は」
その憎まれ口も、今のブレイドにはただの痩せ我慢にしか聞こえない。
集合体の攻撃を受け続けていたディケイドの外見は、ほとんどダメージを受けていないように見える。
だが首筋に空いた傷跡は深く内部メカが覗いている。更にその傷から分解粒子を注ぎ込まれたということは……。
目の前が暗くなる思いだった。恐らく今のディケイドは、立っているのもやっとのはずだ。
「……逃げろ、ディケイド」
気付くと、ブレイドはそう口に出していた。
「俺が盾になる。キングフォームのアーマーは超合金製だ。あいつの攻撃にもしばらくは耐えられる」
嘘だった。
確かにキングフォームのアーマーならば攻撃を凌ぐことも出来るだろう。
だが、それだけだ。恐らくそのフォームチェンジで、ブレイドはバッテリー残量の殆どを使い果たす。
デストロイアによるエネルギー吸収、擬似時間停止の使用、そしてシールドの転送。
元々連戦で余裕のなかったブレイドの電力残量は今にも底を尽きそうなほど心許ない。
キングフォームにチェンジすれば、文字通りの盾にしかならない。無駄に重装甲な、ただのカカシだ。
だが、それでも。
「頼む、逃げてくれ、ディケイド。俺は、お前を死なせたくない……!」
ブレイドは一歩を踏み出そうと軸足に力を込めた。
片手に醒剣ブレイラウザーを、もう片手にサークルシールドを携えて。
勝ち目はない。デストロイアはほぼ健在だ。犬死ににしかならないかもしれない。
それでも立ち向かわなければならないと、ブレイドは思った。なぜなら、それこそが――。
「……まったく、仮面ライダーなんてのは、本当に馬鹿なやつばっかりだな」
だが、先に一歩を踏み出したのは、満身創痍のディケイドだった。
「よ、よせ! 何をする気だディケイド! お前の旅はまだ終わっちゃいないんだろう!」
ブレイドは直感した。ディケイドがやろうとしていることを。
いや、直感というよりは共感と呼ぶべきかもしれない。二人の間に存在する、仮面ライダーという絆を通じた。
ブレイドがたった今、命を懸けようとしたように、ディケイドもまた決断を下そうとしている。
「……冷静に考えたまでのことだ。今の俺は見た目以上にボロボロでね。内部メカが相当やられちまってる。
一方のお前は目立ったダメージはない。充電すればまた戦える。どっちを温存すべきかは子供でも分かるだろ」
「違う! そうじゃない! 戦力とか、温存とか、そういうことじゃないんだ!」
ブレイドの必死の叫びもディケイドには届かない。ブレイド自身にも、届かないだろうという確信があった。
何故なら自分が同じ立場なら、決して引くことはしないだろうから。
「それと、俺の旅は途中だって言ったな。確かにその通りだ。だがな、それが全てじゃない」
ディケイドが振り返る。
表情の伺えないそのマスクから放たれるのは有無を言わさぬ意志と決意の力だ。
「誰だって旅の途中なんだ……本当の自分自身に出会うためのな! だから歩き続けるんだ、今を! 俺達は、みんな旅人なんだよ!」
その言葉を引き金とするがごとく、ディケイドのマスクが変貌した。
両目に当たる緑のディメンジョンヴィジョンが滲み出すように禍々しく広がり、額のポインターの色が黄色から紫へと変わる。
世界の破壊者たるディケイドのもうひとつの姿――仮面ライダーディケイド『激情態』。
しかしその破壊の象徴であるはずの瞳に宿るのは、全てのライダーを破壊するための昏い光ではなかった。
ドライバーを操作するその動きにはまったく迷いも躊躇いもなく、ただ今の自分の役目を成し遂げる意志だけがあった。
彼の決意に応え、ディケイドライバーが電子音声を発する。
《 ATTACK RIDE ! "AUTO-VAJIN"! 》
瞬間、ブレイドの傍らにあったロンリーチェイサーを「Φ」の紋章が通過し、その姿を銀色のバイクへと変えた。
仮面ライダー555の専用マシンである「オートバジン」。自身のマシンをそれに変化させるのがこのアタックライドの効果。
「他のライダーを強制的にファイナルフォームライド出来る激情態の干渉力なら、俺のマシン以外にも可能かもしれないと思ったが……やってみるもんだな」
「よせ、何をする気だ! ディケイド! ディケイドォッ!」
「……オートバジン! ブレイドを安全な場所まで退避させろ!」
主人の命令を受けて瞬時に人型形態バトルモードへと変形したオートバジンが、ブレイドを掴む。
抵抗しようともがこうにも、それを振り払うだけの気力はブレイドには残されていなかった。
「行け、ブレイド! お前はお前の旅を続けろ!」
それが、ディケイドがブレイドに託した最後の言葉になった。
ブレイドはディケイドの名を呼んだ。何度も、何度も、何度も。だが、届かなかった。
オートバジンが推力を上げた。瞬きほどの時の間に、相棒の姿は米粒のように小さくなっていった。
▼ ▼ ▼
「……わざわざ待っていてくれてありがとう、とでも言えばいいのか?
それともお前にとっちゃ、獲物が一人でも二人でも気にしやしないってとこか?」
ブレイドの離脱を確認したディケイドは、赤い悪魔へと不遜な視線を投げた。
デストロイアはその威圧的な巨体をそのままに、ディケイドの様子を伺っているようだった。
奴に人間の言葉が理解できるとは思えない。何か攻撃を仕掛けないでいた理由があるのだろうか。
いや、もしかしたら奴は理解できずにいるのかもしれない、とディケイドは思った。
ディケイドがここに残った理由。仲間だけを逃して自分が足止めとなる、その理由をだ。
(……そんなもの、俺にだって分かるものか)
ディケイドは内心で嘯いた。
門矢士は、こういう時に命を懸けるような人間だっただろうか。
そうであるような気がするし、そうではないような気もする。だが、どちらでも今や関係なかった。
肝心なのは、今の自分が、案外清々しい気分だということだった。
デストロイアが不快感を露わにするように吼える。
案外自分の推測は的外れでもないのかも知れないと感じたディケイドは、心の中だけでニヤリと笑った。
あの忌々しい怪獣野郎に最後に一発見舞ってやれたのなら、こんな旅の終わりも悪くない。
「お前は何者だ、って顔してるな。サービスだ、特別に教えてやるよ」
自分の傍らに赤のロンリーチェイサーを再転送し、ディケイドは躊躇わずに跨った。
エンジンを吹かし、目標を見定める。ボロボロの体に鞭打って、最後の一矢をつがえるのだ。
「俺は、全てを破壊し全てを繋ぐ……通りすがりの仮面ライダーだ! 覚えておけッ!」
その決め台詞が、合図だった。
ディケイドがロンリーチェイサーを急発進させるのと、デストロイアがオキシジェンデストロイヤー・レイを放つのはほぼ同時。
迫り来る紫色の光線を、ほとんど直感だけでディケイドは回避しながら突進した。
ロンリーチェイサーの車体が滑るように突っ込み、デストロイアの巨体に激突する。それだけでは十分なダメージとは言えない。
だが、デストロイアは警戒を緩めない。ディケイドは激突直前に後方へ宙返りしながら跳躍し、攻撃態勢を取っていたのだから。
《 FINAL ATTACK RIDE ! 》
ディケイドライバーの無機質な音声すら、今は決意は込めた言葉となる。
ディケイドは空中で反転し、渾身の一撃……ライダーキックの構えを取った。
《 DE-DE-DE-DECADE ! 》
そして加速する。その進路を指し示すように立ち並ぶカード状のオーラをくぐり抜けながら。
敵を破壊するための必殺技。しかし、その威力は今のディケイドには諸刃の剣だった。
感覚が遠くなっていく。ファイナルアタックライドの負担に、既に限界であるボディが耐えられなかったのか。
体のあちこちがエラーを吐き、反応を返さなくなっていく。
攻撃が到達するまでのほんの僅かな時間が、幾億年にも引き伸ばされて感じる。
ディケイドには自分が今何処にいるのかすら、徐々に分からなくなってきていた。
最期のディメンジョンキックはデストロイアに届いたのか。届いてもらわなければ困る。
そのうちうっすらと、自分のボディが崩壊していくのが感覚としてわかった。
後悔はなかった。未練もなかった。起動して数時間。自分の短い短い旅が、早くも終わるだけのことだ。
だが、これは自分だけの旅ではない。自分が切り開いた旅路が、他の誰かの旅路と繋がるのならば。
きっと、いつか、それは。
新しい夜明けへと続く、道に変わるのだろう。
【仮面ライダーディケイド@S.H.シリーズ 機能停止】
▼ ▼ ▼
デストロイアは、低く咆哮した。
しかしそれは勝利の雄叫びとは程遠い響きだった。
それは不快の噴出であり、やり場のない憤りの膨張の発露であった。
腹の傷が疼く。
仮面ライダーディケイドの崩壊しながらの一撃は、確かにデストロイアに届いていた。
その一撃でCSCを粉砕するには至らなかったものの、デストロイアの腹部は重篤な損傷を受けていた。
これ以上のダメージを受ければ、腹部の外装は完全に破損し、その下のCSCを露出させるだろう。
かつて『本物のデストロイア』が弱点である腹部を突き破られ、大量の体液を撒き散らした時のように。
デストロイアは再び唸り、尻尾で地面を鞭打った。
ディケイドの残骸にはほとんど電力は残っていなかったが、バイクの方には十分なバッテリーがあった。
それを吸収することで空腹感は満たされたが、しかしこの怒りまでは収まらない。
ふとデストロイアは、ディケイドの残骸の周囲に、見覚えのあるパーツがあるのを目に留めた。
それはコンプリートフォームによる攻撃を動物的本能で防ぐ時に使用したのと同じユニット。
クレイドル。それにデストロイアが触れると、所有者の機能停止によりリセットされていた登録機能が稼働した。
そして忽然と姿を消した。デストロイアの本能による指示で、別空間へと送還されたのだ。
ようやくデストロイアは満足気な響きを持った咆哮を上げた。
それは自覚していない機能が自身に備わっていることに気付いたことへの歓びだった。
さっきの青いやつや、金色に輝くロボットと戦っている間に見失った獲物。
それらやあるいはまだ見ぬ獲物を狩るためには、この体に眠る力を自覚し、引き出さなければ。
成長する本能。それこそがデストロイアという生命を衝き動かすもの。そしてそれはフィギュアであっても同じだ。
――デストロイア“完全体”。しかしこの段階で、デストロイアが進化を止める保証は、無い。
【黎明/エリアH(車道)】
【デストロイア(完全体)@S.H.シリーズ】
【電力残量:40%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ1~2(未確認)】
【状態:体前面にダメージ中、腹部ほぼ破損】
【思考・行動】
基本方針:動物的本能に従う
1:他のフィギュアを襲い、捕食する(=エネルギーを吸収する)
2:青いフィギュア(=仮面ライダーブレイド)か女のフィギュア(=沙英)を探す
※パーツの転送方法を学習しました。ただしパーツ自体の意味は理解できていません。
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オートバジンがその姿を失い、元のロンリーチェイサーに戻るのを見て、ブレイドは何が起きたのかを悟った。
ディケイドの支給品であったはずの緑のマシン。その使用者登録が解除されているのを確認し、その場で膝を突く。
所有権を任意で放棄したのではない。そんな余裕はなかっただろう。ならば、理由は唯一つだった。
「なんで……なんであいつが死んで、俺が生き残ったんだ……」
返事など返ってくるはずもない。
そして、絶望に打ちひしがれる時間すら、ブレイドには与えられていなかった。
バッテリーの残量が危ない。生きようとするならば、安全な場所を確保してクレイドルを展開する必要がある。
そう、生きようとするならば。生き続けようとするのならば。
「俺の旅を続けろ、か……厄介な遺言残しやがって……」
疲弊感と電力不足で朦朧とする意識を無理に励起させて、ブレイドは相棒の遺品に跨った。
後悔は後でいくらでもしよう。そのためにも、今は今を生きるために。
生きて、自分の旅路を往くために。
【黎明/エリアG(路地裏)】
【仮面ライダーブレイド@装着変身シリーズ】
【電力残量:10%】
【装備:ブレイラウザー、ロンリーチェイサー(
ワイルドタイガー機)@S.H.シリーズ(電力残量:90%)】
【所持品:クレイドル、サークルシールド(キャプテン・アメリカ)@Figma、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:仮面ライダーとして殺し合いを止める
1:ディケイドの遺志を継ぐ
【備考】キングフォームにフォームチェンジ可能です。
最終更新:2014年06月06日 01:42