Regret nothing ◆QotHY4VA.M
集合住宅。
本来ならばそこには幾つもの人の営みがあっただろう。
だが今そこに人間はいない。
いるのは、手のひらサイズの小人(ミクロマン)たちだけだ。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
「……!」
ユニコーンのダブルハーケンとハンターの持つ片手剣・イフリートマロウが正面からぶつかり合い、火花を上げる。
ハンターに比べれば小柄なユニコーン少女――雪菜=シュネーライン。
しかし背中のバーニアが一際大きく炎を吹き上げる。
そのまま押し切ろうとするその力に、腕のリボルバージョイントが軋みを上げる。
「くそっ、何てパワーだ……!」
パワーだけではない。
先ほどの加速を見るにスピードも自分より速い。
つまり今から自分たちはそんな彼女を相手になるべく傷つけずに倒す――いや制するというクエストに挑戦しなければならないのだ。
「最初から高難易度の試練(クエスト)にも程があるだろうが……!
少しはゲームバランス考えろ!」
……とはいえ、やるしか無い。
このまま、目の前の少女を放っておくわけにもいかない。
武器越しに襲いかかってきた少女の瞳を見すえる。
赤く光る両の瞳。
そこにあのおどおどしていた少女型フィギュアの姿はない。
冷静。冷徹。そこにあったのは敵を破壊する狩猟者の眼差しだった。
「なんて目してんだ……正気にもどれよ、雪菜=シュネーライン!」
だがその言葉は届かない。
代わりに返されたのは髪の毛に隠された頭部バルカンの乱射だった。
「くっ……!」
フィギュア大に設定されたそれは所詮豆鉄砲。
鎧装備のハンターにとってはまともなダメージを与えられない。
だがユニコーンの目的はそこではなかった。
――マズルフラッシュ。
まだ明け方で周囲が暗いこと、至近距離で乱射されたことでハンターは一瞬その姿を見失う。
ユニコーンにとってはそれだけで十分だった。
「がはっ……!」
その隙を突いて繰り出されたのはミドルキック。
彼女のモチーフとなったユニコーンガンダム、そのライバル機体であるシナンジュのお株を奪うような蹴撃だった。
サイコフレームによって強化されたパワーは、たやすくハンターのボディを吹き飛ばす。
「は、ハンターさん!」
駆け寄ろうとするアーンヴァル。
だがユニコーンは今度はそちらに狙いを定め、加速を開始した。
「こ、来ないで! 来ないでくださいっ!」
ハンドガン・アルヴォPDW11を狙いも付けずに撃ちまくる。
だがそんな盲撃ちがそうそう当たるはずもない。
たまにある紛れ当たりも転送されたシールドで防がれ、あっという間に距離を詰められる。
「ひっ……!」
至近距離で自身を睨みつける真紅の瞳。
ただ殺意だけを載せたその視線に射すくめられ、アーンヴァルは硬直する。
動かなければ――そう頭では思うものの、全身は震えるばかりで反応を返さない。
棒立ちの神姫に対し雪菜はビームサーベルを抜き放ち、振りかぶって――
「さ・せ・る・かぁあああああああああ!!」
だがそこに復帰したハンターが割り込む。
ハンターにとって巨大獣に吹き飛ばされることなど日常茶飯事。
故に間に合った。イフリートマロウを抜刀し、斬りかかる。
そして接触するビームサーベルと実体剣。
火龍素材の武器だからか、それとも一方的な戦いは面白く無いという趣向からなのか。
火花を散らしながらも実体剣と光剣は拮抗していた。
「アーンヴァル、今のうちにコイツを……!」
だがそこまで言ってハンターは言葉を切った。
彼の視界に入ったアーンヴァルは震えていた。
まるで悪夢に怯える幼子のように。
いや、事実彼女は幼子なのだ。
ブリスターパックから解き放たれたばかりのひな鳥。
自分たちのように"原作記憶"を持たない、チュートリアルすらこなしていない新人(ニュービー)。
それをこんな戦場に放り込んだのは誰だ。
「……俺、か。……だったら多少無茶でもやるしかねぇか!」
意を決しハンターは剣を手放した。
道理として支えのとれたビームサーベルが丸腰のハンターを両断せんと迫る。
だが、そのビームサーベルを握る右手を――
「う、おりゃあああああああああああああっ!」
気合とともにハンターは"蹴りあげた"。
ほぼ垂直まで掲げられた右足――リボルテック故の可動域の広さが実現した原作にはない、ありえないアクション。
意表を突かれたユニコーンは体勢を崩し、動きが一瞬停止する。
「悪いな! この瞬間を、待っていたんだっ!」
その隙を突いてハンターはあるものを転送する。
それは、ハンターにとって未知の物体だった。
よく似た形状のヘビィボウガンは知識としてあるが、どうやらそういうものでもないらしい。
しかも試しに転送してみたところ、どうやら意識があるようだ。
……つまるところオトモアイルーのようなものなのだろう。
手足がないのでアイテムは使えないが、それでもこの局面では役に立ってくれるはずだ。
「――バトルホッパー!」
転送されたのは新緑のバッタを模した創世王の乗機。意思あるマシーン。
エグゾーストノートがハンターの呼び声に応え、急加速。
体勢を崩したユニコーンへ、スケールスピード500km/hの高速体当たりを敢行する。
「……!」
瞬時にシールドで防ぐものの、加速度による衝撃は耐えられるはずもない。
ユニコーン少女の華奢な体が宙を舞い、そのまま地面に何度もバウンドする。
一瞬、雪菜が無事かどうかを心配する。
だが彼女の防御力を信じ、意識を切り替える。
それにそれよりも今はこっちの心配をするべきだ。
「少し我慢してろよ!」
「え……きゃ、きゃあっ!」
アーンヴァルを抱え、撤退を開始した。
倒れたままのユニコーン少女に背を向け、脇目もふらずに全力疾走する。
勿論雪菜をこのままにしておく訳にはいかない。
だが、アーンヴァルをこんなことに巻き込むのは違うことだ。
目を白黒させるアーンヴァルに向かって話しかける。
「……その、無理言って悪かったな」
「え……」
「お前、戦うの初めてだもんな。そりゃ怖いよな。
しかもまぁゲームじゃない、負けたら終わりのこんなところでさ……。
だからあの階段のところまで言ったら、お前は撤退しろ」
「え、で、でも……それじゃ、ハンターさんは……」
「あいつをあのまま放っておく訳にはいかないだろ。
それに、おとなしく逃してくれるとは思わないし」
アーンヴァルが逃げるまでの時間稼ぎとクエストの続行。
頭のなかにはソロ狩りの経験もある。
多少厳しくはなるが、まだ諦めるほどではない。
「……どうして?」
「ん?」
「どうして、ボロボロになってまであの人を、雪菜さんを助けようとするんです?」
その問いかけにハンターは少し悩んで、返答する。
「んー……ノリ?」
だがその答えは腕の中のお姫様の望むものではなかったらしい。
むっとした顔をハンターに向けている。
「真面目に答えてください!」
「真面目だよ! まぁ、ノリっていうか……そうしたい、と俺が思ったからだ」
「……え、それだけですか?」
「……むしろそれ以外になんか必要か?
やりたきゃやればいい。無理強いはしない。
モンスターハンターってのは、狩りってのはそういうものだ。
……いや、狩りだけじゃないな。何だって自分が納得できる方に従うのが一番いいのさ」
ガラじゃないなぁ、と内心思う。
だがここに親切な教官はいない(あのノッペラボウ腹筋女フィギュアは教官として認めたくない。いくらなんでも不親切な上に雰囲気ってものがあるだろう)
だとしたら自分が、経験者が教えてやるしかあるまい。
「……まあ時と場合を考えないと単なる空気の読めない奴になるんだけどなー」
「だから何で迷わせるようなことを付け加えるんですかぁ!」
そんな漫談を続けている間にも、階段が近づいてくる。
だがその時だった。
背中越しに何かを見たアーンヴァルが驚愕の表情を浮かべたのは。
「ハンターさん! 雪菜さんが立ってます!」
「もうかよ! 何とも丈夫なことだな! 嬉しいやら悲しいやらだ!」
「でも銃! 銃を構えてますよ!」
「さっきのライトボウガンか? 大丈夫だ、アレは致命傷にはなりはしねえ!
身を縮こめて俺の影に隠れるようにしとけ!」
そう、それなら大丈夫だ。
このままアーンヴァルをかばうように走っていれば、無事あの階段までたどり着ける。
この鎧にビームが効かないのは先ほどで実証済み――
(待て)
そこまで考えたところでハンターの思考回路に電流が走る。
(何であいつは……効かないと分かってる武装を取り出した? 牽制のためか?)
ハンターの脳内に再生されるのは先ほど見た雪菜の瞳。
赤く輝く、殺意だけを載せたマシーンの輝き。
それは人間で言えば直感と言われるもの。
彼の持つ原作記憶……多種多様なモンスターとの戦闘経験が導き出した刹那の閃き。
「どうしたんですかハンターさ……」
「ちょっと我慢してろッ!!!」
「え――」
アーンヴァルを抱えたままとっさに地面に倒れる。
ハンターとして身についた緊急回避行動。
押し倒されたような形になり目を白黒させるアーンヴァルだったが、そんなのを気にしている暇はない。
次の瞬間、背後を通過した一条の光が目の前にあるアーンヴァルの驚愕の表情をより明確に映しだした。
「ぐあっ!?」
遅れて、ハンターが感じたのは熱。そして痛み。
直撃を受けていないのに、レウス装備には火耐性があるはずなのに。
だというのに内部センサーは背中のダメージを検出している。
自分から背中は見えないが、鎧が融解しているかもしれない。
「ハンターさん! しっかりしてください、ハンターさん!」
「クッソ、熱ィ……! っていうか当たり判定デカすぎんだろ……! どんなチート武器だよ!」
振り向けば赤熱化した銃口部分が見える。
それほどのエネルギー量が発射されたのだ。
ビームマグナム。
通常のビームライフル5発分のエネルギーを圧縮して打ち出すユニコーンの基本武装。
設定上、百式のメガビームランチャーと同等という手持ち武装として規格外の威力を持つ。
直撃すればいくら耐性があろうと跡形すら残るまい。
「――!」
そしてユニコーンは追撃の手を緩めることなく、再びダブルハーケンを構え襲いかかってくる。
ハンターの心は焦る。緊急回避からの復帰には時間がかかるのだ。
「こなくそっ!」
復帰した時にはもう目前までMS少女の姿は迫っていた。
振るわれるダブルハーケン。
三日月を模した特殊な形状の武器に引っ掛けられ、盾と剣と同時に弾き飛ばされる。
そして両腕に装着されたビームサーベル……ビームトンファーが丸腰のハンターに襲いかかる。
(これはマズ……ッ!)
武器を転送する暇もない。
抜刀するモーションすら省略された一撃がハンターを串刺しにせんと迫る。
「やめてーっ!」
だが、ハンターにその刃が届くことはなかった。
突き出されたアーンヴァルのライトセーバーがビームサーベルを受けきったのだ。
抜き放たれた青と赤。
二色の光刃がぶつかり合い、閃光とフィールドの干渉音、饐えたようなオゾン臭を周囲に撒き散らす。
だが拮抗は一瞬。戦闘経験の差か、あっさりとライトセーバーは弾き飛ばされる。
そしてそのまま返す刃が純白の神姫に向けられ、
――ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!
その機械音声は、空から。
直後、銀色のエネルギー弾がユニコーンに迫る。
ユニコーンがシールドで受けるが予想以上の威力だったのだろう。
跳ね飛ばされ、華奢な体は再び宙を舞った。
「――そこまでだ。事情はよく知らないけど、壊させる訳にはいかないよ」
空から降り立ったのは、真紅の翼を開いたメタリックレッドの乱入者。
その姿にアーンヴァルは自分のモチーフとなった天使を想像した。
……怪獣王との戦いの後、少女の形見であるパーツを抱え、しばらく呆然と歩いていたオーズが目撃したのは光だった。
光の発生場所はマンション。そして響く戦闘音。
――考えている暇はなかった。
タジャドルコンボにコンボチェンジし、マンションへと向かったオーズが目撃したのは2人組を襲うフィギュアの姿だった。
ボディの各所から赤く発光するその姿はあの怪獣王を彷彿とさせた。
そして二撃目を放つ前に素早く先制の一撃を放ったというわけだ。
オーズは自身のコンディションを確認する。
連戦で電力が尽きかけているがそれでも二人を逃がすぐらいなら……
「行くなら今のうちだよ。俺が時間を稼ぐからその隙に――」
「ちょっと待て! あいつは俺のその……仲間でな!」
「……そうなのかい? それにしちゃあ……」
少し離れた場所からこちらを警戒しているユニコーンの姿を見る。
武器を構える姿からは悪ふざけなどではなく、純粋な殺意が漂っている。
「……じゃれあってるようには見えないけど」
「ああ。なんでか少し目を離した隙にああなっててな……。
で、だ……急でスマンができればアイツを止めるのを協力してくれ。
近づけば捕縛する手はあるんでな……」
正直な所、賭けだった。
一緒に狩りする奴の人となりなど、何回も一緒に狩りに出かけてやっと分かるようなものだ。
だがそれでも襲われているこちらに味方してくれたこと、雪菜を破壊するのではなく、時間稼ぎをしてくれるといったこと。
そこから協力できるとハンターは踏んだのだ。
「……わかった。具体的には俺は何をすればいい?」
色よい返答に胸を撫で下ろす。
なんとか賭けには勝ったようだ。
「ならとにかく俺が近づく隙を――」
「あ、あの……ハンターさん……」
その時だった。
アーンヴァルが鎧の裾をおずおずと引っ張っている。
「アーンヴァル。ここまでくれば安全だ、どこにでも行けば――」
「そうじゃなくて! ……その……雪菜さんを止めるの……私も協力させてください」
「……あー……さっきも言ったが無理する必要は……」
「無理なんかじゃないです!」
アーンヴァルはいつになく強い口調で言い切った。
「私だって戦いたくなんか無いですけど……でも……
怖いけど……その……私だって、何か、したいんです」
「……そっか、じゃあ頼むわ」
「! はっ、はい!」
やりたいようにすればいい。
そういったのは自分だ。止められるはずもない。
それに一人よりは二人がよく、二人よりは三人がいい。
多人数の協力プレイこそがモンスターハンターの売りの1つではあることだし。
「……二人共、来るよ!」
オーズの視線の先、突然の乱入者を警戒していたユニコーンが威嚇するようにその身を蠢かせた。
馬が嘶くように、サウンドエフェクトじみた機動音が無音の廊下に響き渡る。
「とにかくあのチートボウガンを封じなきゃ話にならん。
無理は承知だが……なるべく攻撃を当てないようにして牽制してくれ」
「了解です」
「分かった!」
「よっしゃいい返事だ。それじゃ一狩り……いくぜ!」
ハンターの言葉を皮切りに、三人揃って行動を開始する。
――ライオン! トラ! チーター!
先陣を切ったのはオーズ。
赤色のタジャドルコンボから黄一色のラトラーターコンボへコンボチェンジする。
ユニコーンは銃口を向けるも、残像を残すほどのスピードで移動するオーズに照準を絞り切れない。
「え、えいっ!」
更にそこに上空からアーンヴァルの援護射撃が入る。
精密ではない。だがハンドガンならば直撃しても壊れることはないと理解したのか
まずアーンヴァルから始末しようと上空に銃口を向けるユニコーン。
「――させないよ!」
しかし即座にラトラーターが接近し牽制を加える。
ならばとそちらに銃口を向ける。
「やらせません!」
しかしそうすると瞬時に上空から攻撃が入る。
上空に意識が向けば地上から、地上に意識を向ければ上空から攻撃が加わる。
オーズの撹乱、アーンヴァルの牽制。
防戦一方だった前回に比べれば、十二分に接近することが可能だった。
「モンハンにはこんな武器ないからな……ぶっつけ本番だが、やってみるさ!」
そう言ってハンターが転送するのは自分に配備されたもう一つの拡張パーツ。
ジャリジャリと音を立てる"それ"を、ハンターは構える。
「行け、星雲鎖(ネビュラチェーン)!」
聖闘士聖衣神話・アンドロメダ瞬の付属アイテム。
操者の意思に反応し、自在にその姿を変える銀色の鎖だ。
フィギュアのパーツゆえ、原作と違いどこまでも伸びるという特性は再現されていない。
だが金属パーツによる拘束は一度捉えられれば、ちょっとやそっとでは外すことは不可能だ。
傷付けずに無効化するには最適の武装といえるだろう。
「こうして……こうかっ!」
モンスターハンターには該当する種類の武装はない。
だがそれでも器用に手応えを確かめながら、自分の意識と実際の軌道とのブレを修正していく。
そして鎖が意思を持っているかのように蠢き、暴れる一角獣を捉えんと迫った。
「……ッ!!」
――だが、想定を超えた事態というのはいつでも起こりえるのだ。
「何だ!? 鎖が……ぐああああああああ!?」
ユニコーンが一際強く赤く発光したかと思うと。
鎖が突如反転し、ハンターを雁字搦めに縛り上げたのだ。
――彼は知る由もない。
その現象の正体を。サイコミュ・ジャックという恐るべきシステムのことを。
無論、ネビュラチェーンは本来サイコミュ兵器ではない。
だがネビュラチェーンも"主人の意思に呼応して動く"武装だ。
それを最新の技術で再現したゆえに、類似した技術が恐らく応用されているのだろう。
その証拠に同型のバンシィによって
セシリア・オルコットのビット兵器も乗っ取られている。
(クソッ、何だ? 何が起こりやがった!?)
だがそんな理屈などハンターは知る由もない。
それどころか何が起こったかすら理解しきれていない。
しかしたった一つだけわかることがある。
自分は致命的なまでに目の前の怪物(モンスター)の力を見誤ったのだと。
「ハンターさん!」
「ハンター君!」
心配そうに駆け寄ろうとする二人を前にして、判断を下す。
「……オーズ、アーンヴァルを連れてとっとと逃げろ!」
このクエストは失敗だ。
たった一つの判断ミスで乙る……よくあることだ、モンスターハンターならば。
(つってもゲームと違って、リスタートはきかなさそうだがな……)
ビームマグナムの銃口がこちらを向く。
なんとも締まらない最後だったな。
そう思いながら向けられた銃口を見上げる。
だがその視界に小さなシルエットが割り込んできた。
「何やってんだ、アーンヴァル!?」
シルエットの正体は急加速してきたアーンヴァルMk2。
ディコ・シールドを構えているが、そんなものあの一撃の前には慰めにもなるまい。
このままだとふたりとも晴れて廃棄処分品だ。
「バカ! お前まで壊れるぞ! ここから離れろ!」
「嫌です!」
――壊されてしまうのは嫌だ。
――消えてしまうのは怖い。
体の底から冷たい感覚が溢れだし、ビスがぶれてしまうと思うほど体の震えが止まらない。
でも、それでも……アーンヴァルは思うのだ。
もしあの時、別の人が私を見つけていたら、どうなってっていただろう、と。
為す術なく壊されてしまっていたかもしれない。
関係ないからといって見捨てられていたかもしれない。
でもハンターさんは飄々と『したいようにすればいい』と言ってくれた。
何の指標もなかった私に指針をくれた。
なんでもないことのように言ったあの言葉にどれだけ安心しただろう。
震えてた自分に無理はするなと言ってくれたことにどれだけ心が軽くなっただろう。
だから私は……!
「私は……私のしたいようにします!」
惹かれる引き金。
アーンヴァルは一瞬後に来るであろう衝撃に目を瞑る。
「え……」
だが、その光はアーンヴァルに到着する前に遮られた。
射線上に飛び込んできた黄色の影によって。
――二人とユニコーンの間。
そこにはビームを受けきるオーズの姿があった。
「オーズ!」
「オーズさん!」
背中から聞こえる声にオーズは笑う。
仮面の下、存在しないはずの顔で。
――ああ、今度は間に合った。
チーターレッグによる高速移動による割り込みは成功した。
だが、それだけだ。
もう必殺技を打つだけの力は残っていない。
ビームを受けたトラクローが融解し始めている。
それだけではない。閃光が目を焼き、エネルギーの余波が全身を蝕んでいる。
全身に仕込まれたセンサーが尋常ではないダメージを検出している。
だが、それでも、オーズは後に引くわけには行かなかった。
「そう、したいようにするんだ……!
手が届くのに、手を伸ばさなかったら、死ぬほど後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ。
だから、だから俺は――!」
だから手を伸ばす。光のその先に。
「……セイ……ヤァァァアアッ!!」
気合一閃。
力を込め、振るわれたトラクローがビームを切り裂いた。
オーズの視界に、音に、ノイズが走る。
今の無茶で大事な回路が致命的な何かを受けたのだろう。
だが、それでも足に力を込め、オーズは前へと出る。
迎撃のため連射のできないビームマグナムを捨て、ビームサーベルを抜こうとするユニコーン。
「遅い、よ」
だがその瞬間にはオーズは懐に入っていた。
最早、自分のダメージがどの程度か把握できない。
ビームを受けきった両手の感覚はなく、足も後どれだけ動くかはわからない。
だから――
「……!」
オーズが選択したのは体当たりだった。
最早技とも呼べない、ただ体をぶつけるだけの行為。
しかしチーターレッグによる加速は、1つのフィギュアを弾丸へと昇華させた。
ユニコーンはシールドで防御するが、その程度では防御しきれるはずもない。
加速度と重量の弾丸を受けたユニコーンは三度弾き飛ばされ、壁にたたきつけられた。
「あ……」
ユニコーンが小さなうめき声を上げる。
展開していた装甲が閉じ、光が消え、一角獣を模した形態へと変形していく。
その光景を見たオーズはゆっくりと膝をつき、全身から力を抜いた。
視界をノイズが埋め尽くしている。
聴覚センサーが拾う音も雑音がひどくて聞けたものじゃない。
『――さん! しっ…りしてく……い!』
ノイズの狭間に見えるのは心配そうな顔でこちらを見ているアーンヴァルの姿。
――無事でよかった。
そう思うものの声に出せない。
どうやらコアの一部をやられてしまったらしい。
もう、自分はここまでらしい。
そう思うがオーズは満ち足りていた。
――月火ちゃんという守れなかった命があった。
――ゴジラという倒してしまった命があった。
そこには後悔しかない。痛みの残る結果だけがあった。
けれど今度は違った。
ハンター君を、アーンヴァルちゃんを守れた。
ユニコーンの女の子を止めることができた。
そこには――失われた命がなかった。
敵を壊すのでなく、ただ人を助けるために力を振るう。
それはきっと自分の心が最も求めることだったから。
だからこの最後に、後悔なんて無い。あるわけが、無い。
そのとき、ほとんど死んでいた触覚センターが自分のにふれる何かを捉えた。
自分の手よりもっと小さく華奢なハンドパーツ……自身の手を握るアーンヴァルの小さな手だった。
最後の力を振り絞り、その手をぎゅっと握る。
――助かってくれて、ありがとう。
伝えられたかどうかはわからない。
ただ、伝えられたらいいなとは思った。
その思考を最後に、オーズの意識は深い、闇へと落ちた。
二度と戻らない、静かな闇の中に。
仮面ライダーオーズは起動して数時間、短い旅をここで終えた。
だが目の前で消し去られそうな光をこの手で守ることができた。
その心が満たされるものはここにあったのだ。
【仮面ライダーオーズ@S.H.シリーズ 機能停止】
「オーズさん! しっかりしてくださいオーズさん! 返事をしてください!」
アーンヴァルは名前を呼び、必死に呼びかける。
さっき一瞬だがその手が握り返してきたのだ。
だったらまだ助かるかもしれない。
「……アーンヴァル」
アーンヴァルの肩に手が置かれる。
無骨な手は拘束から抜けだしたハンターのものだ。
「ハンターさんも手伝ってください! だってさっきも反応があったんです! 手当すれば――」
「アーンヴァル!」
初めて聞く強い語調に身をすくませる。
「……もう休ませてやれ。こいつはやりたいようにやりきったんだ」
「オーズ、さん……」
肩腕は完全に融解し、根本のコアが顔をのぞかせている。
全身の装甲は余波によって焼きつくされ、黒い素体が露出している。
そして、わずかに露出したコア部分にははっきりとヒビが入っていた。
誰が見ても仮面ライダーオーズという名のフィギュアは完全に機能を停止していた。
アーンヴァルが感じた感触が錯覚だったのか、それとも最後の力を振り絞ったのか。
どちらだったのかはハンターにもわからないが……後者だったと信じたい。
彼が光に向かって言った言葉。
彼は自分の信じるもののために、あの光に立ち向かったのだ。
「……ありがとなオーズ。俺達はアンタのお陰で乙らなくてすんだよ」
そう言って静かにその体を横たえる。
沈黙。
そう、ハンターの言うとおりただ感謝すべきなのだ。彼のおかげで命は救われたのだから。
数秒前に自分がやろうとしたことだからわかる。
助けた人には自分の姿を見て辛いなんて思って欲しくはない。
でも、それでも。
「……でも、辛いよな。誰かがいなくなっちまうってのは……」
「……はい」
アーンヴァルは考える。
事前にセットされた知識では、人間は死ぬと心だけが別のところへ行くらしい。
だとしたら破壊されたフィギュアの心はどこへいくのだろう。
ただスイッチを切ったように消えてしまうのだろうか。
だとしたら……この胸の痛みは一体、何なのだろうか。
この痛みは意味が無いのに存在しているのだろうか。
「……っと、いつまでもこうしてるわけにも行かないな。
雪菜を連れてちょっと休まないと……」
視線を向けたハンターの動きが止まる。
「……ちょっと待て、雪菜はどこだ?」
「え……」
オーズが叩きつけた先、階段近くの壁。
先ほどまでいた場所に純白の少女の姿はなかった。
「く、くそっ、どこいきやがった……!?」
「とにかく探さないと……ハンターさんはそっちを、私はこっちを探してみます!」
「お、おう!」
【黎明/エリアL(マンション3F廊下)】
【ハンター(レウス装備)@リボルテック】
【電力残量:50%】
【装備:イフリートマロウ&盾】
【所持品:クレイドル、炎剣リオレウス、星雲鎖、バトルホッパー】
【状態:ダメージ中】
【思考・行動】
基本方針:武器を集める。
1:MS少女ユニコーンガンダムを探す。
2:
アーンヴァルMk.2と
MS少女ユニコーンガンダムを会話させたい。
【アーンヴァルMk.2@武装神姫】
【電力残量:50%】
【装備:背部ユニット、脚部ユニット、ライトセーバー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1~2(確認済み)】
【状態:損傷無し。モードユニコーン】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いはしたくない。
1:MS少女ユニコーンガンダムを探す。
2:ハンターに同行する。
彼らが3階を捜索し始めた丁度その頃、雪菜=シュネーラインの姿はすでに一階にあった。
――目を覚ました彼女が見た最初の光景は熱を持った銃口だった。
全身に残る熱から自身がデストロイモードを発動したのだということだけはわかる。
だがそれだけだ。
いったい何が起こってこんなことになったのか……先程まで操られていた雪菜にはわからない。
鎖に縛られたハンター、盾を構える見知らぬ白い少女型フィギュア、そして……半身をえぐり取られた仮面のフィギュアの姿。
この指に残る引き金の感触は間違いなく……
「私が……私がやったんだ……私が、あの人を……!」
そして彼女には記憶の断絶がある。
アーレスと名乗った彼女に話しかけてきた男性型フィギュア。
記憶はない。だがあの場にいなかったということは、きっと自分が……
「うわあああ……あああああああああ!!」
嗚咽が漏れる。
電子回路に痛みが走る。
自分の巻き起こした罪の重さに背中を無理やり押されるようにして、彼女は逃げ出した。
【黎明/エリアL(マンション1F)】
【MS少女ユニコーンガンダム@AGP】
【電力残量:30%】
【装備:ダブルハーケン(グレンダイザー)@リボルテック】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:全身に小ダメージ。ユニコーンモード】
【思考・行動】
基本方針:???
最終更新:2014年08月16日 22:09