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A Legacy of GODZILLA ◆NXFS1YVsDc




私の名は、ロジャー・スミス
この実験場(まち)には必要な仕事をしている。

総合自律戦闘実験"BATTLE ROYALE"の実験場として用意された街。
ここにいるのは、恐らくは実験の被験者として選ばれたアクションフィギュアのみ。

被験体となった我々フィギュアには、心が与えられた。
基となった原作‐オリジナル‐のメモリーと、それに基づいた自我という形で。
メモリー……私にとってのそれは、原作の人格と記憶。
アニメ『THE ビッグオー』……その主人公、ロジャー・スミス。
彼のメモリーを基に、フィギュアとしての自我が構成され、今の私は存在している。
それは決して自然に構成されることのない、極めて歪なものだ。
原作のロジャー・スミスは、フィギュアである自分からすればあくまで他人に過ぎない。
しかし彼の知識、記憶、経験……それらは紛れもない自身のものであると認識してもいる。
他人のメモリーを他人の物であると理解した上で、自分自身の物として受け入れている。
あまりにも矛盾だらけの記憶だ。
その矛盾を突き詰めていけば……与えられた仮初の自我など、いとも容易く崩壊することだろう。
それでも私が自分を保てていられるのは、理性が、本能が――無意識の恐怖が、自分の中に潜む禁忌から目を背けさせているのか。
あるいは……気にならないよう、そうプログラムされているのか。
確かなことは、我々の持つメモリーは、人為的に埋め込まれた作り物であるということだ。

特殊状況自律総合戦闘実験……その言葉から推測される人間達の目的から結びつけるならば、
他のフィギュアも私と同様に、原作のメモリーが植え付けられている可能性が高い。
だが、人の手による作り物の自我が、全く同じ形で与えられているという確証はない。

例えば、もし自分がフィギュアである自覚がなかったら?
与えられた原作のメモリーを、自分自身のものとして何の疑いもなく受け入れていたら?
そのフィギュアは、自分をモデルとなった原作のキャラクター本人であるように錯覚し、振る舞うことだろう。

人が搭乗し操縦するタイプのロボット兵器を模したフィギュアも、そのまま被験体として実験に組み込まれているようだ。
ならば、その人格は如何なる形で構成されているのか?
搭乗者の人格がそのまま反映されるのか。それとも、ロボット自身の自我が発現されることとなるのか。

必ずしも、原作のメモリーが植え付けられている、とは限らない。
それらとは逆に、原作とは全く別のメモリーが植え付けられている可能性も否定はできない。

主催する人間の想像力の数だけ、可能性は存在する。考え出せばキリはない。
それでもネゴシエイトを行う以上は、あらゆるケースを可能な限り考慮した上で臨む必要がある。
些細な認識のずれが、時に致命的なすれ違いを生じさせることもある。

その意味でも、彼女との邂逅は意義のあるものだったといえるだろう。
初音ミク――彼女の原作は、ボーカロイドと呼ばれる音声ソフト。
彼女のメモリーの基になっているのは、多くの人間達により形作られたイメージと、そして彼女自身の知る歌。
原作という背景や物語を持つ私とは、根本的に異なる過程で組み上げられた、彼女の自我。
彼女の存在は、この世界の全てを従来の価値観だけで一面的に判断すべきではないということを再確認させた。
また、対象がフィギュアである限り、その推測に絶対は存在し得ないことも。

例えばそれが、理性すら感じさせない異形の怪物‐モンスター‐であったとしても。





Act:39 A Legacy of GODZILLA











◇ ◇ ◇


交差点。
そこに広がる異様な光景を前に、ロジャーはマシンイタッシャーを停車させた。

路面のあちこちに残された焦げ跡。
路面自体を抉ったかのような跡も、いくつも刻み付けられていた。
さらに周辺一帯に不自然に漂う、心地の悪い熱……車内にいても十分に伝わってくる。

『破壊』の跡――ロジャーがその判断に行き着くのに時間はかからなかった。

「何これ……一体何があったんでしょう?」
「待て、ミク。迂闊に外に出てはいけない」

扉に手をかけようとしたミクを制止する。
ロジャーは破壊の跡から、只ならぬ事態を察していた。
コンクリートの路面を抉るなど、並のフィギュアに可能な芸当ではない。
そして周囲に現在進行形で漂う熱が、この地にまだ危機が残っていることを表していた。

「ロジャーさん!あれ、見てください!」

ミクがそう言って指差した方向は、交差点の中心部。
道路の傷跡の中央――そこには、一体のフィギュアの姿があった。

人型でもない、機械でもない。
映画からそのまま飛び出してきたかのような、異形の怪物‐モンスター‐……
いや、怪獣と言ったところか。
交差点のこの荒れ様は、あの怪獣型フィギュアによるものと見て間違いはないだろう。
漂う熱の出処も、あの内側から赤く燃えているような、黒い身体からのようだった。


怪獣が、咆哮を轟かせた。


今まさに、眠りから目を覚ましたかのような叫び。
たちの悪いことに、怪獣の下にはクレイドルが敷かれていた。

(……どうやら最悪の場面に鉢合わせしてしまったようだな)

ロジャーの全身に緊張が走る。怪獣を中心に、空気が張り詰める。
――それを打ち砕くように、あまりにも場違いな声が傍らの少女から発せられた。


「す、すごい!ゴジラですよ、ロジャーさん!」


彼女の紡ぐ機械音声の中には、目の前の怪獣に対する憧れの情念すら含まれていた。

「ゴジラ……知っているのか、ミク」
「それはもう!日本で一番最初に誕生した怪獣で、世界にも通用する有名な怪獣なんですよ!」

咆哮を轟かせるモンスターを前に、ミクは目を輝かせながら言った。
有名な怪獣を目の当たりにする感動はわかるが、それはフィクションに限っての話だ。
だが、ゴジラは目の前に現実として存在している。
フィギュアという形でスケールダウンこそしているものの、そこには凡そ理性というものは感じられない。
存在するのは獣の本能。放置すればその本能の赴くままに破壊を繰り広げることだろう。
だが……

「大丈夫ですよ!ああ見えても、ゴジラはいい怪獣なんです!」

ロジャーのゴジラに対する視線を汲み取ったか、ミクは自信をもってはっきりと言いきった。

「……いい怪獣、だと?」
「確かに、最初は街を破壊する怖い怪獣だったといいます。
 でも、だんだん悪い怪獣や宇宙人から地球を守る、いい怪獣に変わっていったそうです」
「何故君がそれを知っている?ボーカロイドとしてのデータに、ゴジラの詳細が備わっているわけでもあるまい」
「ゴジラの歌なら、いっぱい知っていますから!」
(……成程、歌からの知識ということか)

ミクはゴジラやその作品そのものを知っているわけではない。
彼女のメモリーの中にある歌を通じて、ゴジラという存在を語っているのだ。

「見かけはちょっぴり怖いけど、ほんとはみんなと仲良くしたい!地球が大好きな、みんなの友達……
 そんな風に歌われています。それがゴジラという怪獣なんです!」

あまりにも突飛な、にわかには信じ難い――だがそれは現実的な視点や価値観からくる印象である。
だがゴジラはフィクションの世界の住人だ。
フィクションの世界においては、人の想像力の数だけ可能性が存在する。
それこそあの怪獣が人語を口にし、気さくに話しかけてくるような事態があっても、何の不思議もない。
しかし。

「……どう見ても、友好的な存在には見えないのだが」

だとすれば今のあのゴジラの姿は何だ?
あの内から湧き出るようなマグマの如き赤い色と、燃えたぎる熱は一体何だ?
胸騒ぎが治まらない。ロジャーの中にある、生あるものとしての本能が、あのゴジラは危険だと警告している。

「そんなことありません!ちょっと機嫌が悪いだけだと思います!だから、私が説得してみます!」
「説得だと!?」

言うや否や、彼女は小型マイクを手に取った。
まさか――そう、そのまさかだ。



「ゴジラさーん!聞こえますかー!?私の声がわかりますかー!?」



マシンイタッシャーに搭載されている小型のスピーカーを拡声器として、ミクの声が周囲に響き渡る。
流石のロジャーも、これには凍り付いた。
ゴジラもまたその声に反応し、当然その意識……いや殺意の矛先を、マシンイタッシャーへと向けてきた。

「なっ……おい!馬鹿な真似をするんじゃない!」
「任せてください!こういう時、ゴジラさんの怒りを静める歌がありますから!」
「怒りを静める歌、だと……?」



「ゴジラさん、ゴジラさん♪

 花もまた咲く、月も出る♪

 さあさお飲みな、ゴジラさん♪」



……。



周囲に熱が漂う中、急に薄ら寒くなるような錯覚を覚えた。



「……何だそれは」
「ゴジラさんの歌です!シリーズ2作目の頃に世に出たといわれる、ゴジラさんを歌った歌としては最古のものらしいですよ!」
「これがか!?」
「ちなみにこれのレコードのB面にはうちのアンギラスという歌が入ってたそうです。
 あ、アンギラスというのは2作目におけるゴジラの最初の対戦相手で、後の相棒でありパシリであり嫁でもあるそうですよ」
「別にそんなことは聞いてはいない!」
「交わす笑顔の放射能、甘いゴジラとアンギラス……」

いろいろと酷い歌詞だ。
あまりの空気の壊れ具合に、ロジャーは思わず眩暈を起こしそうになる。
しかし、ゴジラは壊れた空気をいつまでも読めるほど穏やかでもなかった。

再び、ゴジラが吼える。
その雄叫びに、ミクは慌てて歌を再開した。

「ああっゴジラさん落ち着いて!ほら、聴いてください!
 ゴジラさん、ゴジラさん♪
 灘のお酒にお酌は美人、機嫌直してもう一本♪」

酔いの回ったダメ親父に酌を勧める芸者、そんなお座敷小唄のイメージが浮かび上がる。
そんな物の例えをロジャー・スミスがしてたまるか。
などと、自分の冷徹な理性からの指摘に多少の自己嫌悪を抱きつつ……



ロジャーは、即座にアクセルを踏み込んだ。

「え……きゃっ!?」

マシンイタッシャーは急発進し、前方へと飛び出し――



直後――
ゴジラの口から、熱線が吐き出された。


それは、直前までマシンイタッシャーの停車していた場所を走り抜ける。
コンクリートの地面を削り溶かしながら、周囲と同様の傷跡を路面に一本増やす。

「え、ええっ!?ゴ、ゴジラさん待って、私達はあなたの友達――うひゃぁっ!?」

事態の深刻さを呑み込めたか、ミクがゴジラを呼ぶ声にも明確な焦りと怯えが混じっていた。

「無駄だ、ミク。あれは言葉の通じる相手ではない!」

ロジャーは見逃してはいなかった。
包丁や鍋蓋……ゴジラの周辺には、明らかにゴジラには似つかわしくないフィギュアのパーツが散らばっていたことを。
少し離れた場所には破損したバイクらしき乗り物も転がっている。
無論、それらが単にゴジラに支給されたパーツである可能性もある。
だが、この一帯の破壊の跡と結びつけるならば……
ゴジラはこの場所で戦闘を行った。他のフィギュアを襲い……手にかけた。
そう考える方が余程自然だ。


ゆっくり考える猶予はない。
間髪入れず、ゴジラの口から第二波が吐き出された。
回避すべく、ロジャーはハンドルを切る。――いや、間に合わない!

「ぐっ!!」
「きゃああっ!!」

放射熱線が、車の後部を掠めた。
同時に振動とそれに伴う衝撃が、車内の二人にも襲い掛かる。
マシンイタッシャーは超合金製だ。並大抵の攻撃ではダメージを通しはしないはずだ。
しかし今の一撃でロジャーは察する。奴は、並大抵どころの相手ではない――!
先程までの予感が確信へと変わる。放置すべき存在ではない。
この強大な力を、野獣の本能の赴くままに振るわれれば、甚大な被害をもたらすことになる。

もしもあのゴジラが本物で、もしもロジャー・スミスのもとにビッグオーがあれば。
彼は迷うことなくビッグオーを召喚し、その力でゴジラに果敢に立ち向かうことだろう。
だが、ここにいるfigmaのロジャーには、フィギュアといえどゴジラ相手に対抗できる力は持ち合わせていない。

――いや、ないわけではない。ここにはビッグオーに代わる力はある。
あのゴジラに対抗できる力があるとすれば――

今二人が乗っている、マシンイタッシャー。
変形し、戦闘用のロボット形態となるイタッシャーロボだ。
最大級の巨体から生み出されるパワーをもってすれば、ゴジラとやり合うことはできるだろう。

それでも、ロジャーは今、イタッシャーロボを対ゴジラの戦力として使うことはできなかった。
この状況下で、今さらアニメソングを大音量で流すことを躊躇っているわけでもない。


「ミク、大丈夫か」
「あ……ああ……ぅぅ、っ……!」

助手席のミクに視線を移す。
ミクは頭を押さえ、震えていた。
先程まで元気に歌っていた姿はどこへやら、間近に迫る死に怯えている。

(無理もない。歌うために存在し、歌を通じて愛を注がれてきた彼女が、初めて味わう死の恐怖だ)

アクセルを踏み込む。
ロジャーが選ぶは、逃げの一手。
イタッシャーロボを戦いに使うことは、必然的に同乗する彼女を戦いに巻き込むことでもある。
守るべき無力な少女を危険に晒すのでは、本末転倒だ。
それに、見誤ってはいけない。戦うべき相手は、ゴジラなどではない。

マシンイタッシャーは出せる限りのスピードをもって、ゴジラを引き離していく。
ゴジラの鈍足では、マシンイタッシャーのスピードに追いつくことはできない。
いや……その前に、ゴジラは積極的に追ってくる姿勢を見せなかった。
熱線の第三波も、放つ様子を見せない。
その意図は不明だが、ロジャー達にとっては好機だった。
やがて、互いの姿が見えなくなるほどに、双方の距離は離れていく。


◇ ◇ ◇


(無事に、逃げ切れたようだな)

安全圏まで避難を終え、ロジャーは一息ついた。
車を建物の物陰へと寄せる。隠す場所には困らなかった。

(掠めただけで、超合金すら溶かす熱線か……)

車外に出て、車の後方部――熱線の第二波を受けた箇所を一瞥する。
あの交差点の路面と同様に、超合金の装甲が抉られていた。
描かれていた絵の塗装も剥がれ落ち、見るも無惨な状態となっていた。
だが、超合金製だからこそこの程度で済んだといえる。プラスチック製であれば、中の二人ごと消し飛ばされていただろう。
変形機構に支障をきたすまでに至らなかったのも幸いした。

ロジャーのフィギュアの素体に戦慄が走る。
桁外れの戦闘力だ。自分達とはあまりにも力に差がありすぎる。
電力と時間さえ許されるなら、建物の一つ二つを破壊することも難しくはあるまい。
これがゴジラの力なのか。それとも、S.H.MonsterArtsにのみ許された力なのか。

もしイタッシャーロボで挑んでも、恐らくは勝てない。
規格外の巨体とパワーを秘めたイタッシャーロボだが、ビッグオーとはあまりに使い勝手が違いすぎる。
ビッグオー操縦の癖が残ったままの今のロジャーでは、すぐに完璧に使いこなすことは難しいだろう。
原則として3人での操縦・運用を前提としているのもネックだ。一応1人でも動かすことは可能なようだが、真価は発揮できない。
ゴジラは、中途半端な状態の使い慣れない武器で太刀打ちできるような、生易しい相手ではない。
十分に力を使いこなした上で、万全の状態で挑まなければ、返り討ちは必至。

大きく息をつき、車の中を覗き込む。

「落ち着いたか、ミク」
「は、はい……もう大丈夫です」

助手席にはミクが控えていた。
ゴジラの攻撃に震えていたようだが、幾分落ち着きを取り戻したようだった。

「ごめんなさい……歌の知識だけで、ゴジラさんをわかった気になっちゃってて……」
「確かに、歌だけでキャラクターや物語の全てを判断するのは早計だったな」
「本当にごめんなさい!ミクが早まったばかりに、ロジャーさんまで危険に巻き込んじゃって……!」
「気にすることはない。失敗したと思うなら、その反省は次へと生かせばいい」
「はい……」

十分に反省を見せている少女に、ロジャーもそれ以上を追及するつもりはなかった。
彼女の素直さに……どこか物足りなさを感じさせるのは、原作のメモリー故にだろうか。

「それに、君の言う『いい怪獣』であるゴジラも、確かに存在する」
「え?どういうことですか?」
「わかりやすく言うなら、ゴジラという怪獣は一匹だけではない。
 君の言ういいゴジラもいれば、そうでないゴジラもいる……ということだ」

ミクが目を丸くする。ゴジラが複数存在するなど、思いもしなかったかのような表情だ。
確かに、知識のない者や作品に興味がない者からすれば、ゴジラへの認識はその程度であろう。


あれから、ロジャーはゴジラについてさらに詳しく調べてみた。

確かに、ミクの言ったことは間違っていない。
最初こそ街を破壊する人類の脅威として描かれていたものの、シリーズが進むにつれその扱われ方は変化していった。
他の怪獣とのバトルに主眼が置かれた作りとなり、キングギドラやガイガン、メカゴジラといった敵怪獣に立ち向かうようになる。
モスラ、ラドン、アンギラス――共に戦う怪獣も多く現れた。ミニラという息子まで登場した。
それは時代の流れか、視聴する子供達の視点を意識してのことか。
当初の描写とは裏腹に、地球を守る人類の味方のような立ち位置へと変化していった。
ファンの間に賛否はあったようだが、いつしかゴジラは子供達のアイドル的存在へと変わっていった。

その当時に作られたゴジラの歌も、当然愛すべきキャラクターの歌として作られた。
ミクの持つゴジラの知識や印象とは、主にこの時期の歌から得たものなのだろう。
子供に向けたストレートでわかりやすい歌詞は、抜群のインパクトを与えると共に、当時のゴジラが如何なる存在かを物語ってもいた。

しかし、だ。そんなアイドル路線を走るゴジラにも、転機が訪れる。
1984年に放映された16作目のゴジラの映画で、彼の設定は一度リセットされた。
1作目の直接の続編として作られたその物語では、ゴジラは原点に立ち返り、一貫して人類の脅威として存在した。
そしてその新たなゴジラもまた続々とシリーズが制作され、ビオランテを始め多くの怪獣達との戦いに身を投じていく。
通称『VSシリーズ』として、1995年の『ゴジラVSデストロイア』まで続いたようだ。

あのゴジラは、『VSシリーズ』からの出典だ。
ミクの思い描いていた昭和の頃のゴジラと違い、絶大なる脅威として存在するゴジラ。
それもシリーズ最終局面の、メルトダウン寸前である最も危険な状態ときていた。
あくまで玩具としてその時の状態を再現しているだけであって、実際にメルトダウンを起こすかどうかはわからない。
ただ、それに伴い放出される熱や壮絶なパワーは、フィギュアの身であっても健在であるようだ。

「それじゃ……あのゴジラさんには、私の歌は届かないのかな……」
「気を落とすことはない。君の歌に込める想いは、一度の失敗で折れるようなものではない……そうだろう?」
「そうだけど……やっぱりゴジラさんに伝わらなかったのは、寂しい……かな」

ミクが悲しげな表情を浮かべる。
彼女のゴジラに対する接し方は、人類を脅かす圧倒的な脅威に対するものではない。
あくまで、一体のフィギュア、一体のキャラクターに対するものだ。
絶大なる力を持つ脅威の怪獣……しかしそれは、物語の中の話である。
今この舞台に立っているゴジラは、一介のアクションフィギュアに過ぎない。
本来の100メートル近い巨体も、ここではロジャーやミクとそう変わらない大きさにまでスケールダウンされている。
ミクのゴジラに向ける態度に、ロジャーは改めて事実を噛み締める。
ゴジラもまた、我々と同じ立場に置かれた存在であるということを。

そう、自分達と同じ条件が適用されているとすれば。
あのゴジラにも、心があるはずだ。
原作を基にした自我が、宿っているはずではないのか。

現実的ではないロマンチストの思考だと、ロジャーは思った。
理性を持たず本能のままに破壊を続ける異形の怪物を相手に求めるようなものではない。
だが、彼も1シリーズの主役を張った存在……いや、日本を代表するスターだ。
ゴジラというキャラクターのために、多くのシリーズが作り続けられた、紛れもないスターなのだ。
ただの舞台装置程度にしか扱われていなかったのであれば、60年以上も愛され続けるキャラクターにはなり得ない。
多くの作り手達の想いによって作り上げられ、存在している……それがゴジラというキャラクターだ。

水爆実験で生み出された悲劇の怪物。
あの怪獣の背負う背景は、あまりにも重い。
もしもゴジラに、心があるならば。
その内に秘めているのは、どこまでも身勝手な人間に対する怒りか、憎しみか。
ロジャーは思う。ゴジラの心が、我々とは決して相容れることのできないものだとしても。
ゴジラが我々と同じ存在であり、また自分がロジャー・スミスである以上……避けては通ることはできない。



即ち――ゴジラとのネゴシエイト。


無論、今のままでは不可能だ。
直接言葉で訴えかけた所で、通じることなどありえない。
それは、過去にロジャー・スミスの行ってきたネゴシエイトとは、根本的に全く違うものとなるだろう。
決して、彼一人で成し遂げられるような行為ではない。
あまりにも馬鹿げた、無謀な挑戦であることは承知の上だった。
オリジナルのロジャー・スミスであっても、このような無謀な挑戦など一蹴するのではないか。
だが、それでも。
ゴジラとの対話は、コミュニケーションは可能な限り試みるべきだと考えた。
同じフィギュア、同じ対等の立場の存在である以上は。

徒労に終わる可能性も十分にある。最悪、現実逃避や自己満足で嗤われるだけかもしれない。
いや、現実的に考えればその可能性の方が高い。
そもそも、メルトダウンを目前に控えている以上、そんな段階はとうに過ぎているのかもしれない。
また、いかにネゴシエイトといえど、そのために他の誰かを危険に晒すなど論外だ。
だが、それでも――挑戦する意義はあるはずだ。

人形風情が、人間と対等の交渉を臨もうというのだ。
ならば、それに値するだけの存在であることを知らしめねばならない。
無論それは、彼に与えられたメモリー……ロジャー・スミスとしてだ。
そして、ゴジラもまた然り。


東の空から光が差し込んでくる
もう朝だ。間もなく、Archetype:sheの言っていた6時間が経過しようとしている。
その時、何が起きるのか。彼女は、主催する人間達は、被験体達に何をもたらすのか。

確かなことは、それが終わりなどではなく……始まったばかりであるということだけだ。

【早朝/エリアG(南部)】

【ロジャー=スミス@figma】
【電力残量:90%】
【装備:無し(超合金マシンイタッシャー@S.H.シリーズ(電力残量:85%)に搭乗中)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(札束入りアタッシュケース)、トンプソン・コンテンダー(衛宮切嗣)@figma、
     銀の針金鳥(アイリスフィール・フォン・アインツベルン)@figma】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:実験の主催者と交渉する
 1:ミクと共に情報収集する
 2:ゴジラとの交渉を試みる
 3:マシンイタッシャーの外観をどうにかしたい

【初音ミク@figma】
【電力残量:85%】
【装備:無し(超合金マシンイタッシャー@S.H.シリーズ(電力残量:85%)に搭乗中)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(マイクスタンド、ネギ×2)、ロックカノン(ブラック★ロックシューターTV.ver)@figma】
【状態:落胆、自信喪失】
【思考・行動】
 基本方針:他のフィギュア、そして主催者と心を通わせる
 1:ロジャーと共に情報収集する
※ 現在の外見はレーシングミク2001verです。

※マシンイタッシャーは、内蔵スピーカーでアニメソングまたは特撮ソングを最大ボリュームで流すことにより変形します。
 その際の楽曲は、自由枠の条件に該当する作品の関連曲なら何でも構いません。



夜が明ける。

東の空から朝の光が、街を照らす。

光を照らし出す太陽に向かって――

ゴジラが、吼える。

地の底から響くような、本物と何ら変わらぬ声で。

普段よりも、やや甲高い声で。


ゴジラよ。

お前は、何故吼える。
その咆哮に、何を込める。

ロジャー・スミスは、お前に心があると推測した。
それを真とするならば、お前は何を想い、吼えるのか。
怒りか、憎しみか。
お前はそれを、誰に向ける?


お前は知っている。
自分の身体に起きている、異変を。
お前の異変は、お前の抱える炎は――お前の生命の、最期の輝きであるということを。


『ゴジラVSデストロイア』。
お前の基となったゴジラ映画だ。
その衝撃のキャッチコピーは――


『ゴジラ、死す』


お前が原作の記憶を持っているならば、気付かないはずがない。
自身の身体から湧き上がるメルトダウンの熱が、死を意味していることを。
お前自身の本能が、自らの身体の状態に気付かないはずがない。
ここで燃えているその死の熱はフィギュアに施された演出に過ぎない、紛い物であるということを。

ならば、お前の怒りは。
お前の持つ命の輝きを弄ばれた、人間への怒りなのか。


そしてあの時――ミクの歌を聴いた時。
一瞬だけ、お前は確かに躊躇った。
自分のもとから逃げ去る彼女を見た時。
お前は、それ以上彼女に手出しをしなかった。


ゴジラよ、お前は何を考えている?
お前はこの地で、この戦いで、何を求める?


確かなことは、ただ一つ。

お前はこれからも、破壊を続けるであろうということだ。



世界が、終わる。
ゴジラが、目覚める。



それは、人類の負の遺産が生み出した、水爆大怪獣。


善悪を超越した、超生命体。


生きた大災害。


神。


破壊の化身。





その新たなる伝説の始まりに、フィギュアの中に秘めた魂が、呼応するかのように。
今、彼は止めていた歩みを、再び開始する。




ゴジラ、再起動‐リブート‐。






【早朝/エリアK(屋外)】

ゴジラ1995@S.H.シリーズ】
【電力残量:95%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1~2(未確認)】
【状態:ダメージ中】
【思考・行動】
 基本方針:本能の赴くままに、全てを破壊する
【備考】メルトダウン寸前という状態再現により、かなりの高熱を発しています
しかし実際にメルトダウンを起こすかどうかは分かりません


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最終更新:2014年12月16日 01:51