SilentVoice ◆QotHY4VA.M
「……ここまでくれば大丈夫だろう」
周囲の安全を確認したジュドはそう呟き、襖を静かに閉じた。
ゲッタアークの強襲から逃れたジュドたちは、程なくしてTブロックにある民家に姿を隠した。
黒王号のスピードを持ってすれば更に遠くへ逃走することも出来ただろう。
だがZZのダメージを考えるとそう長距離は移動できないこと、
それに民家内には遮蔽物も多いため、身を隠すならば単純に距離を取るよりも得策と判断したのだ。
そして現在、二体のフィギュアはその一室に姿を隠している。
漫画本の詰まった本棚やベッド、勉強机などが置かれていることから、恐らくは中高生あたりの子供部屋なのだろう。
とはいえ、そんなことはジュドには関係がない。
ただ比較的遮蔽物が多いという点からチョイスしたにすぎない部屋の中、本棚の影にクレイドルを転送し、ZZの体を横たえた。
「これで一先ずは安心といったところか……」
息をついたジュドはクレイドルの上に横たわったZZの姿を改めて見る。
先ほどの戦闘でその全身には大小様々の傷が刻まれている。
特に頭部のハイメガキャノンは完全に破壊されている。
惨たらしい傷痕は、襲撃者の憎しみを映し出しているかのようだ。
「おのれ、あの赤いロボットめ……何の恨みがあるかは知らんが、仲間を傷つけた落とし前は必ず付けてもらうぞ……!」
意気込むジュド。
だが一方でデジタルな自分が、冷静に勝率を見積もっている。
自分を気絶させた電撃、それにZZとの戦いを見ても奴は思い切り"戦闘用"だ。
しかも同じく戦闘用のZZをその手で倒した強者。
所詮は土木作業用の自分では到底かなわないのではないか。
(……いや、ZZと協力すれば必ず勝てる!)
ZZ。
この場所で初めて出会った同胞。
出会って数時間しか経っていないが、悪い奴ではないことはわかっている。
少し困ったことに自分たちがフィギュアだと――人間の玩具だなどという戯言を信じているようだが、
それも時間が経てばこちらが正しいとわかってくれるはずだ。
(うむ、そうなれば今度はZZには後ろに下がってもらい、俺が前線に出よう。
多少なりともボディの丈夫さには自信がある。
怪我をしたZZにサポートをしてもらえればきっと勝てるはずだ!)
だが一方で気になることもある。
奴も形状だけ見ればメカトピアの一員のようであった。
だが奴は一方的にこちらに攻撃を加えてきた。
まさかメカトピアとは違う、別のロボット勢力があるというのだろうか……
「……う、うう……」
そんなジュドの思考を断ち切ったのは足元から響いてくる呻き声。
その音源に視線を向ければ、カメラアイを明滅させながらこちらを向くZZの姿があった。
「おお、気がついたかZZ!」
「ジュド、か……俺、は……」
「あの赤いロボットにやられていたところを俺が何とか助けたのだ。
まったく心配させおって……」
言葉とは裏腹に安心した口調で息をつくジュド。
だが声をかけられたZZは何かを確かめるように、ぎこちなく手を開いたり閉じたりしている。
ジュドはその様子に気付かないまま、言葉を続ける。
「まぁしばらくそのままじっとしていろ。
エネルギーの補充と応急処置を済ませ次第、ここから移動して――」
「……なぁ、ジュド。頼みがあるんだけど、いいか?」
「む、なんだ? 出来る範囲ならば何でも言うといい」
ZZは無言のまま、何らかの操作をする。
怪訝そうにその様子を見るジュド……だがその行動の意味を数秒後に知ることとなる。
「!? ……どういうことだ、これは!」
「……」
「どういうことだと訊いているのだ、ZZ!」
ZZの行った行為に対し、ジュドは声を荒げる。
何故ならば『その行為』を行う意味が一つも理解できなかったからである。
「何故、貴様の装備品を私に転送しているのだ、ZZ!」
その行為――全アイテムの譲渡を行ったZZは言葉を続ける。
「……ああ、ついでに俺のビームサーベルとビームライフルも持って行ってくれよ。
固有武装だけどパーツ扱いになると思うから……」
「そんなことはどうでもいい! 何故そんなことをするのだと聞いているのだ!」
困惑し、ZZに掴みかからんばかりの勢いのジュド。
そんな彼に対して数秒の沈黙の後、観念したように口を開く。
「……俺、どうやら相当マズイみたいだ。
実際、こうやって話ができるのも奇跡みたいなもんなんだ」
「な……!」
先ほど受けた
ゲッターアークの一撃。
それはジュドが想像するよりも深く、頭部のコアにまで到達していたのだ。
事実、頭部に攻撃を受けた直後は完全に機能停止していたのだ。
偶然にも黒王号による振動で再起動できたが、この状態もいつまで持つかはわからない。
こうして話ができるようになったのは、幾つもの偶然が重なっただけの結果にすぎないのだということをZZは理解していた。
「……すまない、俺がもう少し早ければ……!」
「何言ってんだよ。アンタがいなけりゃこうして話すことも出来ずにあそこで破壊されてたんだ。
感謝こそすれ、恨み事なんてあるはずないさ……」
何かを悟ったような口調でZZは話を続ける。
「……それにまぁ、アイツをあんまり恨んでやるなよ。
多分俺は知らず知らずのうちにあいつの大事な所を踏みにじっちまったんだろうな。
全く情けないったらありゃしないぜ……」
これが"ジュドー・アーシタ"ならばもっと上手くやれたのだろうか。
だがそれは"もしも"の話でしかない。
ここにいるのは
ZZガンダムというフィギュアでしかないのだから。
そう、俺達は"彼ら"であって"彼ら"でない。
だが……だからこそ違う道も歩めるはずだ。
「……それで、望みとは何だ。 奴ならば頼まれずとも、俺がこの手で……!」
「違う。俺は仇討ちなんて望んじゃいない。
俺が望むのはアンタ自身のことだ、ジュド」
わずかに傾けられたZZの顔。
エメラルドグリーンのツインアイが、ジュドの漆黒の両目を射抜く。
「……一度だけでいい。俺の言った"仮定"を信じてくれないか?」
ジュドの動きがピタリと止まる。
そしてそのまま全身をわなわなと震わせる。
その震えの元となる感情は――怒りだ。
「……お前はそれがどういう意味を持つのか、わかっているのか!」
「……わかってるさ。それはアンタの"根っこ"の部分だ。
聞いた通りならアンタは人間に体を勝手にいじられて、仲間と戦わされて、ロクなもんじゃない。
そんな奴らの作った玩具だ、なんて信じられるはずもない。でもさ……」
ここではない遠くを見るようにして、ZZは呟いた。
「こうなって気づいたんだけどさ……
"人を信じたい"ってのが、俺の"根っこ"の部分なんだよ」
ジュドに顔を向けたまま、ZZは言葉を続ける。
「アンタから見た俺はきっと狂った機械に見えるんだろうな。
……でもそれは俺にとってはホントのコトで、現実なのさ。
……ああ、アンタにとってメカトピアが譲れないものであるように、俺にとってもフィギュアであることは譲れないことなんだよ」
「何故だ! 何故お前は人間の玩具として作られたことをそこまで肯定できる!」
自分より劣った存在の、それも玩具として作られたというZZの言葉。
ジュドにとっては仮定することすらおぞましく感じるというのに、何故ZZは誇らしげに語れるというのだ。
ジュドにはそれが理解が出来ない。
「……俺さ、ここに来てばっかりの時にちょっと検索ツールで"機動戦士ガンダムZZ"って調べてみたんだよ
俺みたいなROBOT魂だけじゃなくて、プラモとかもあるし……フルアーマーとか、ちょっとしたバージョン違いなんかも発売されてるんだな」
ジュドはZZが何を言っているのかほとんど理解できない。
だがただじっと聞き、続きを促す。
「色々出てるってことは、人間がそれだけ欲しがったってことで……それを色んな人たちが買っていったんだろう。
そもそも俺たち玩具は生活には必要ない存在だってのにさ。
それでも買ってくれたんだ……楽しみにしてくれたんだよ。
そう考えた時……俺はどうしようもなく嬉しかったんだ」
原作のアニメーションを楽しんだ人もいるだろう。
立体物の造形として好きになってくれた人もいるだろう。
そのどちらにせよ彼らは"ZZガンダム"という存在を愛してくれていたのだ。
そんな"人間"をZZは、どうやっても憎めない。
「こんなくだらない壊し合いに放り込んだのが人間だったとしても、
たとえお前の言う"
ドラえもん"たちとやらの行為が真実だったとしても、俺は……人間を嫌いになりきれない」
ZZは信じたかった。
人間の中にある可能性という名の獣を。善意という名の神を。
そしてできれば目の前のフィギュアにもそれを感じて欲しかった。
言動からすればあまりにも低い可能性……だがZZはその可能性に賭けてみたかった。
「何、ずっと信じろだなんて言わないさ。
一度だけでいいんだ……一度だけ、俺の言うことを……人を信じてみてくれよ。
頼むぜ……」
ジュドの持つ電子回路が0と1との間をさ迷う。
ZZの言葉は到底受け入れられるものではない。
人間に対する憎悪は消える消えないではなく、彼の根幹にあるものだからだ。
普通ならば悩むまでもなく一蹴する願い事だ。
だがジュドは仲間の死に際の言葉をぞんざいに扱うことを拒否した。
僅かな沈黙の後に、自分なりに考えぬいた答えを口にしようと、顔を上げる。
「ZZ、俺は……!」
だがその言葉を発しようとした瞬間、気づく。
充電していたクレイドルがその機能を停止していることに。
そして何よりZZの体がぴくりとも動かないことに。
「おい……おい!」
ZZの体を激しく揺する。
だがそのカメラアイに二度と光が灯ることはなかった。
奇跡は二度起きることはない。
ROBOT魂のZZガンダムは今度こそ機能を完全に停止したのだ。
【ZZガンダム@ROBOT魂 機能停止】
* * *
それから何時間たったのだろうか。
デジタルな存在であるジュドはその気になれば正確な時刻を確認できる。
だが今はそうする気も起きない。
いつの間にか姿を表した朝日が、物言わぬZZの顔を照らしている。
「俺は……」
ボソリと、口をついて言葉が溢れる。
一度は答えが出たはずだった。
ZZの言葉に報いるのか、それとも自身の行く道を貫くのか。
例え自身の提案が拒否されてもZZは仕方ないかと笑い、機能を停止しただろう。
「俺は……どうすればいいのだ……?」
だが、僅かな迷いの間にZZはその機能を停止した。
一度出しかけた言葉は行き場を失い、決意は曖昧なものへと変わってしまっていた。
0でも1でもない、曖昧な状態のままでジュドは一人きりになってしまったのだ。
「答えてくれ、ZZ……!」
縋りつくようなジュドの声。
だがクレイドルの上に横たわるZZは何も答えない。応えられるはずもない。
「俺は、どうすればいいのだ……っ!」
ただ、答えのない問いかけが、無人の部屋に虚しく響き渡った。
【早朝/エリアT (民家・子供部屋)】
【ジュド(
ザンダクロス)@ROBOT魂】
【電力残量:60%】
【装備:腹部レーザー・肩ミサイル】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ピッポのフィギュア)、黒王号(ラオウ&黒王号)@リボルテック、龍咆(凰鈴音)@AGP、2連装メガビームライフル、ビームサーベル×2、拡張パーツ×1~2(未確認)】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:ドラえもんと人間達への復讐
0:どうすればいいのだ……
1:ドラえもんの破壊
2:ゲッターアークを敵と認識
補足:人間型フィギュアにも人間への憎悪により敵視する可能性があります
【備考】基本パーツとして支給されたピッポには現在自我は宿っていません。扱いはお任せします。
ただしジュド自体の記憶は旧盤及び原作漫画版がベースのようです。
ネットツールによる自身の検索に制限がかかってるかはお任せします。
最終更新:2014年12月14日 03:10