えれくとりかるこみゅにけーしょん(棒) ◆2Y1mqYSsQ.
『心と感情』を持つ15cmの少女型ロボット、武装神姫と呼ばれる乙女たちがいた。
オーナーのために武装をまとい愛を注ぐ。
だがこの殺し合いにオーナーは存在しない。
心の芯を奪われた彼女たちは迷走をするしかなかった。
□
公園に面した道路にて、世界的に有名なゲームキャラクターを模した人形が戸惑っていた。
青いヘルメットに青いボディ、大きな円錐状の脚が印象的である。
D-Artsというブランドから出され、特に海外にて好評を得ているフィギュアであった。
「壊し合えか」
ロックマンは淋しげにつぶやき、街路樹の並ぶ道を眺めていた。
(本物のロックマンなら『平和を乱す奴は許さない』と言うのかもしれないけど……僕はなるべく戦いたくない)
誰かと争うことは嫌いだった。
特に同じアクションフィギュア同士戦うなんてまっぴらゴメンだ。
たとえ人間の命令であろうと聞きたくない。
だけどどうすればいいのかわからないのも事実。
答えが転がり込むわけもなくただただ途方に暮れた。
「申し訳ありません」
急に声をかけられてロックマンは驚いた。
一応戦闘経験も人格とともにプログラムされている。
その自分が気配を感じ取れなかったのだ。目を疑うのも無理はなかった。
「一つお願いがあります……」
きつね耳の少女は透き通る声を発すると同時に街灯の光に身体を晒した。
淡い水色のおかっぱに近いショートヘアと、白磁のように白い肌が儚げな印象を与える。
華奢な体は黒と灰のボディースーツを模した素体で肌を極端に隠している。
だが身体のラインがくっきり出るデザインであり、ある意味肌を見せられるより色気を感じた。
「僕に出来る事でしたら喜んで」
戸惑いながらもロックマンはどうにか返答をする。
少女は小さく笑って、
「では私と一戦交えてください」
告げると同時に機械の鎧をまとった。
きつね耳をヘッドパーツが守り、腰部にスカートのように広がる刃型腰アーマーが揺れ、ZZなどモビルスーツのような脚で素早く滑る。
「ちょっと待って。僕は君を傷つけたく……」
「問答無用」
彼女は体勢を低くしながらこちらに向かって駆け出す。
鞘から引き抜いた忍者刀を一閃されたが、ロックマンはかろうじて避けた。
「なぜなんだ? 君は他の人を壊すことに何の疑問も持たないのか? それとも理由があるのか? 教えてくれ!」
黒い少女は答えず、チェーンソーを繰り出した。まるで凶器のびっくり箱だ。
くっ、と呻きながらロックは彼女の背後に回る。
しかし少女は冷静に振り返り、肩のクナイを投げ飛ばす。そこでようやく忍者タイプだと理解した。
ロックは身体を低くしてやり過ごし、なおも接近する彼女を視界に捉え続けた。
(やむを得ない!)
ロックバスターは使わない。さらに身を低くして、ロックマンの代名詞のひとつ、スライディングで加速する。
動きが速くなった相手に戸惑ったのか、くのいちは忍者刀を中途半端に構えた。
隙あり、と彼女の手首を掴み引き寄せる。無防備な頬へと拳を繰りだそうとして、かわいそうだと手のひらに変更した。
パチン、と高い音が響いて彼女が吹き飛ぶ。
崩れ落ちるのを見届け、ロックは逃げるかどうか迷った。
まだ説得できるかもしれない。一縷の望みを胸に少女の反応を伺った。
しかし一向に動く気配がない。
「君、大丈夫? そんなに強く打ったつもりは……」
「刹那の時間に攻撃を変える余裕。相手を気遣う甘さを持ちながら容赦の無い判断力。本気を出さずに武装神姫の私を取り押さえることのできる戦闘力。
なにより…………」
彼女は頬を抑えながら、何かをつぶやいていた。
「身体にズンと響く衝撃……あぁ、頭(コアユニット)に響き渡って……ぞくぞくします……んぅ」
ロックの知らない反応に思わず混乱する。
彼女は熱のこもった視線を向けてきた。敵意がないのが幸いだが、どう返したものか。
「え……と、打ちどころが悪かった、ってこと? なら修理を……」
「いえ、むしろ良い平手打ちでした」
武装を解除した神姫は身体をこちらに向けた。
「申し遅れました。私は武装神姫の
フブキ弐型。気軽にフブニーとお呼びください」
「う、うん。僕はD-Artsのロックマン。ロックでいいよ」
戦いにならずロックはホッとするが、フブニーがなにを考えているのかまったくわからなかった。
「お願いします、ロック様」
「また!?」
戦いになるのかと警戒するロックをよそに、彼女は小さく首を傾げて照れた表情を見せた。
「人間のマスターが出来るまで、私の主になってもらえませんか?」
なんだか話がおかしな方向に転がりそうだ。
それだけはロックにも察しがついた。
□
「武装神姫はオーナーを第一に優先すると知識にはあるけど……それはどうなの?」
「確かに人間のマスターが望ましいです。ですが仕えるのにふさわしい相手ならたとえ他の武装神姫、それに類する存在であろうと構わないと判断しました」
「仕えるのにふさわしい存在? 僕が? 何かの間違えじゃ……」
「いいえ、ロック様。冷静で的確な判断力、優しさの中に強さを持つあなた様こそ理想の主です。
むしろそんなあなた様に見合うよう私は努力の限りを尽くします!」
「そんな……主とか仕えるとかじゃなくてさ、対等な仲間とかダメなのかな?」
「なにを仰るのですか! 私は忍者型ですよ。くのいちという存在です。
主君がいてなんぼの存在ですよ? あっ、それとも……」
フブニーは声のトーンを落とし、目をうるませる。
「襲いかからねば判断のつかない私など不要でしょうか? そうですよね、あんな失礼な真似をした以上、責任を取るべきですよね。
わかりました。ロック様、あなたに私の首をさしだし……」
「ダメだっ! そんなことをしてなんになる? 考えなおすんだ!」
首筋に刃を当てるフブニーをロックは必死で説得するがまったく聞き入れてもらえない。
斬る、斬らないの押し問答が長々と続く。
「僕は怒っていないから君も冷静になって!」
「私を責任の取れない神姫にしたいのですか!? 後生ですから罰を~」
ロックはならば襲いかからなければよかったのに、と喉元まで出かかった。
軽い溜息をつき、一度頷いてから彼女の肩を掴んでこちらに向けさせる。
「わかった。フブニーさん、あなたに命令する」
フブニーはキョトンとし動きを止めた。効果は抜群だ。
「死んで責任逃れなんてダメだ。生きて僕に力を貸してほしい。責任を取りたいというならそうすべきだ」
これでよかったのだろうか。ダメなら気絶させようとロックは拳に力を入れる。
しかしフブニーはあっさりと刀を収め、自分の前に跪いた。
「もったいないお言葉……わかりました。このフブキ弐型ことフブニー、全力でロック様の力になります」
「うん、フブニーさん。あらためてよろしくね」
ロックがホッとして握手しようと手を差し出すが、フブニーは不満気な表情となる。
また地雷を踏んだのだろうかと不安になるが、
「もっと犬を呼ぶように雑に扱って欲しいです……」
返答は実にバカバカしいものだった。
解決したかと思うと、ドッと疲れがロックを襲う。
なんというか彼女は苦手なタイプだった。
「ところでロック様。拡張パーツの確認はお済みですか?」
「拡張パーツ? ごめん、まだチェックしていない」
「謝ってはダメです。主君たる者、下々の者に簡単に頭を下げては示しがつきません」
誰のせいだと思っているんだろう? という言葉をロックは飲み込んで、自分の拡張パーツをチェックし始める。
ついでに気になっていることも聞いてみることにした。
「ところでフブニーさん……」
「呼び捨てでお願いします。なんなら牝犬とか呼んでいただい……」
「わかった! ちゃんとさん付けしないで呼ぶから!」
続きを遮るために焦りながら止める。彼女は『なにか問題があるのだろうか?』と言いたげにこちらを見た。
悪気がないのが一番厄介だ。
「それでどういったご用件でしょうか? まさかなにか新しい命令を!?」
「違うよ! その、フブニーさ……フブニーは人間のマスターを探すんだよね?
だったら仮のマスターである僕にそこまでかしこまらなくてもいいと思うんだ。
僕は人間じゃない。オモチャなんだし」
「……ロック様はお優しいですね」
彼女の穏やかな笑顔にロックは思わず見惚れてしまう。こういう顔もできるんだと感心した。
「人間のマスターが出来るまでと期間を区切りましたが、その判断を下すのは私ではありません。
決める権利があるのはあくまでもあなたです」
「そんな無意味な!?」
「意味なんてありません。私なりの責任のとり方です。
ロック様が望むならたとえ野良神姫となってもあなたに付き従います。
ロック様が必要ないとおっしゃるのでしたら姿を消しましょう。
マスターに捧げるように、私はあなたにすべてを預けます」
「どうしてそこまで……」
意味がわからなかった。彼女たち武装神姫はマスターにすべてを捧げる存在とは、知識で知っていたのだが。
しかし自分をその対象に選び、命まで預けると言うのはやり過ぎに思えたのだ。
「D-Artsであるロック様にはご理解いただけないのかもしれませんが、私たち武装神姫はマスターがいないとひどく不安定で脆い存在です。
……正直に申しますと最初に襲いかかったのは錯乱していたゆえでもあります。
マスター無しでの起動など神姫にはあってはならないこと。私はもう『間違った神姫』なんです。ですが……」
フブニーは主君と選んだ相手の両頬を包んで目を合わせた。
ロックの背が低いため見上げる形になる。
「今はもう私のために拳を収めたロック様が全てを捧げるべき主君です。
例え間違った武装神姫と罵られようとも、このフブニーは満足です」
ロックの顔が思わず赤くなる。
こんなに一生懸命な少女を嫌うことなんて出来なかった。
「わかったよ、フブニー。君が満足できるかどうかはわからないけど……」
人間のように上手くは出来ないだろう。原作も今も自分はロボットだ。
だから彼女にふさわしい人間の主人を見つけようと思った。
それまでは……
「マスターとして恥ずかしくないよう努力するよ」
彼女の主として振る舞おう。
嬉しそうに跪く武装神姫を見届け、ロックは覚悟を決めた。
「ところでフブニー、その格好は?」
「これですか? 例の拡張パーツです!」
フブニーはくるくると機嫌良さそうに回った。先ほどまでの黒いボディースーツ風素体とは違う。
首だけでなく両手両足、そしてお腹の肌がさらされており、胸や腰部にはスポーツタイプの水着を模したペイントが施されていた。
「私に支給された拡張パーツの一つはこの水着素体のようです。記憶が正しければこれは限定品ですね」
「そ、そうなんだ。でもその格好はちょっと恥ずかしくない?」
「ええ、命令ならともかく……海でもプールでもありませんし。ですので!」
フブニーはきつね耳をピクピク動かし、一つの店を指さした。
「メイド……喫茶?」
「私の予想ですが、おそらくコスチュームくらいはあると思います」
「でもあそこにある衣装って人間サイズだと思うよ?」
「いえいえ、最近は神姫にメイドの格好をさせて店に出しているそうですよ。ニュースサイトで今確認しました。
ちょっと探してきます!」
そう言って店に入っていった。行動力があるものだ。
ロックとしては恥ずかしいなら前の素体でいいのにと思うのだが、記憶のロールちゃんといい女の子は複雑らしい。
オシャレしたがるものなのだろうと結論をつける。
「ロック様、お望みでしたら目の前で着替えますが?」
「……待っているから中で着替えてきて」
ドアからちょこんと顔を出した彼女にロックはにべもなく返事をする。
なんかもう呆れるしかない。諦めの境地で彼女が出てくるのを待った。
【深夜/エリアD北部(メイド喫茶)】
【フブキ弐型@武装神姫】
【電力残量:80%】
【装備:1/12ミニ丈メイド服、SWIMWEAR EDITION素体(
アーンヴァルMk.2用)】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:ロックマンに従う。
1:ロックマンを守る。
2:ロックマンの命令なら人間のマスターを持つ。
※SWIMWEAR EDITIONの(アーンヴァルMk.2用)は商品名で専用の素体というわけではありません。
また素体交換は外装のみを転送交換方式とします。
【深夜/エリアD北部(道路)】
【ロックマン@D-Arts】
【電力残量:90%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×2(確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:フブキ弐型にふさわしい人間のマスターを探す。
1:戦いはなるべく避ける。
2:できれば脱出したい。
最終更新:2014年06月13日 22:14