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Roger The Thinker ◆QotHY4VA.M



総合自律戦闘実験"BATTLE ROYALE"、その実験会場。
人間にとって見ればものの数十分で移動が可能な狭い……だが盤上の彼らにとってはあまりにも広大なフィールド。
便宜上、そのフィールドを5×5の25ブロックに分割し、左上から順番にアルファベットを振っていく。
するとPブロックとQブロックにまたがって、とある施設があるのがわかるだろう。

喫茶店。
人間にとっては馴染み深い施設であり、一時の休息を提供する施設だ。
『Ahnenerbe』という看板を掲げられたその喫茶店は、外観から受ける印象よりも広々とした内部に、品の良い椅子やテーブル、観葉植物がバランスよく配置されている。
それらが天井のスピーカーから流れる心地よいピアノの音色、暖色灯の暖かい光と合わさり、どこか幻想的な空間を作り上げていた。
そんな瀟洒な空間の中、店の奥側の席に腰掛ける男が一人いる。
腰掛けると言っても男の全長は15cmあまりであり、椅子ではなく卓上のメニュー表に体を預ける形で、だが。
その男の出で立ちは黒い髪に黒手袋、そして漆黒のスーツ。
ある種病的なまでにモノクロームで統一された姿は、落ち着いた雰囲気の店内に程よく溶け込んでいた。

「やれやれ……とんだことになってしまったな」

そう零すのはfigmaナンバリング EX-007「ロジャー=スミス」である。
彼はこの"実験"とやらが開始してすぐ、身を隠すためにこの喫茶店を選択した。
その理由は2つ。まず屋外の様子が確認しやすいこと。そして同時に屋外からは見えにくいこと。
一見矛盾する2つの条件だが、この喫茶店は仕切りの位置や観葉植物によってその条件を満たしていた。
想定外のこととしては店内に音楽がかかっていたことだが、逆に考えれば多少自分が物音を立てたところで音楽に紛れるということでもある。
それに、何よりピアノは嫌いではない。

「しかしこれで落ち着いて考えをまとめることができるな……」

メニュー表に体重をかけ、ロジャーは深い思索にふける。
意識を向ける先は勿論、今後の行動方針だ。

まず考えるのは最も頭を使わない選択肢。
――あのArchetype:sheとやらに従い、積極的に実験に参加するか?
バカバカしい。ありえない。
それは理性あるものの取るべき行動ではない。
むしろそのような獣のような行動を、ロジャーは嫌悪する。

――ならば真っ向を切って反逆するか?
残念ながらそれは極めて困難だと言わざるをえない。
このふざけた実験とやらに怒りを覚えないかと言われれば勿論怒っている。
自由を束縛されることや支配を受けること……それは自分が最も嫌う行為だ。
だが相手は神や仏といった曖昧な代物ではない。
自分たち人形(フィギュア)にとっては文字通りの造物主なのだ。
もしこちらが反旗を翻したとしても、何らかの手段で電源を切ってしまえばいい。
電力可動のフィギュアである以上、バッテリーが切れてしまえばそれまでだ。

……で、あればどうするか。
このまま沈黙し、殉教者のごとく機能停止を受け入れるか?

否、"彼"には取るべき道がある。
帰順でも反逆でもない第三の道。ロジャー=スミスの代名詞。
そう、相手が知性を持っているなら、交渉(ネゴシエイト)する価値は十分にある。

(それにこれは……ただの希望的観測というわけでもない)

そう考える根拠は開始前に受けた説明にある。
あの素体は、これを"特殊状況自律総合戦闘実験"だと言っていた。
実験とは経過を観察し、仮説を検証するために行われる作業のことを指す。
つまりそこには何らかの仮説――目的があるのだ。
そしてあの素体は『多種多様なアクションフィギュアによる総合的な戦闘実験データ』の収集が目的だと言っていた。
だが、それではおかしい。それでは筋が通らない。
もしあの人形が言うとおりの目的ならば、何故ここに『ロジャー=スミス』が呼ばれたのだ。

ロジャー=スミス……TVアニメ・THE ビッグオーの主人公。
パラダイムシティの腕利きの交渉者(ネゴシエイター)。
なるほど、職業柄荒事にも慣れているし、アンドロイドのドロシーを抱えるなど人並み外れた怪力を持っている描写もある。
……だが逆に言えばその程度なのだ。
空を飛べるでもない。特殊な武器を持つわけでもない。腕から怪光線を出せるわけでもない。
実際ただ戦闘能力を競うだけならば自分ではなく……例えばBIG-Oやそれに準ずるものを用意すればいいはずなのだ。
にも関わらず、わざわざ"私"が呼ばれた……そこには恐らく何らかの意図があるはずだ。

「……だが、それを決定づけるにはあまりにも情報が少なすぎる、か」

腕時計の針を確かめる。
開始してからまだものの数分しか経過していない。
この実験場に自分以外の誰がいるのかも明らかになっていない状況で結論を出すのは性急に過ぎるというものだ。

彼らとつながる糸は細く、頼りない。
そもそもあの無貌のヒトガタが真実を告げているという保証はない。
あるいは造物主の戯れに戦闘能力に劣る自分が放り込まれただけかもしれない。
それに万が一交渉の場に立てたとしても、『人形の分際』と断じられ、交渉するまでもなく終わってしまうかもしれない。
だが、それでも、"私"が進むべき道はこれしかない。

「そうなると当面は情報収集、か。
 私以外に実験に参加させられた者たちの傾向なども見ることができればよいのだが……」

そう結論づけ、行動へ移そうとしたタイミングで店内に流れる曲が丁度途切れる。

「ん?」

だがそこで彼の聴覚素子はかすかなノイズを捉えた。
店内に響いていた音楽が途切れた瞬間、バックヤード側に別の音を感じ取ったのだ。
身を翻し、厨房のあるカウンター奥へと向かう。

――聞こえる。

音のする方向へと視線を向ければ、そこには二階の――恐らく居住スペースへと続く階段が見えた。
そして耳をそばだててみると、ある特徴があることをロジャーは理解する。

「演奏――いや、これは……歌か?」

聞こえてきたのはシンセサイザーによく似た電子の音色。
最初はプレーヤーか何かで音楽を流しているだけかと思った。
だが音程やリズムの切り方に自然さというか、何らかの意思を感じたのだ。
この会場でそんな意志を持つ存在……それは自分のような実験の参加者に他ならない。

だが、それでは疑問が残る。
何故こんな誰でも危険と分かる状況で歌っているのか?
まるっきり相手の意図が読めない。
警戒するに越したことはないだろう。
転送可能な拡張パーツを確認する。
その中に何か護身に役立つようなものは……あった。

拡張パーツ、トンプソン・コンテンダー。
figma衛宮切嗣に付属する拡張パーツ。
ノンフィクションにも存在する武器ながら、高い殺傷力を持ち多少の装甲なら貫通することができるだろう。
言うまでもなく護身用としては十分すぎる武器だ。

「いや、……これは使えないな。少なくとも、私には」

だが、彼はそれを使うこと良しとしない。

何故ならば銃を使うのは"ロジャー=スミス"の流儀ではないからだ。
たしかに私は彼本人ではない……だが一方で確かに彼の写し身でもあるのだ。
であれば最大限、彼の流儀には従うべきだろう。
でなければ我々は誰でもない、それこそ顔のない素体(アーキタイプ)と代わりはしないのだから。

幸い同一スケールであれば割りと上背のある方だ。
多少の暴力沙汰になってもなんとかなるだろう。
息を潜め、身を屈めながら階段を登り、歌の出処へと接近する。
階段を登り切ったところで、壁からわずかに身を乗り出すと、ドアがわずかに開いた一室が見える。
どうやらそこが音の出処のようだ。

(まったく……なんという不用心さだ)

今がどんな状況がわかっているのか……
声の主に呆れ返りながら、隙間から中を覗き込む。









そこには一人の歌姫(ディーヴァ)がいた。







よく通る、透き通った声。
最初は電子音だと思った。
だが、確かにこれは"歌"だ。
感情の込められた、意思の込められた歌。

そして何よりロジャーの視線を奪ったのはその表情だ。
彼女は歌いながら、ただただ楽しそうに、純粋な笑みを浮かべている。
この実験場には最もふさわしくない表情だ――だがフィギュアとしては最もふさわしい表情かもしれない。
人を楽しませる、親しみを沸かせる表情……それが笑顔なのだ。

緊張していた体から力を抜く。
あの表情を見て『何かを企んでいる』と判断するものはいないだろう。
それに、自分自身も少し肩に力が入りすぎていたかもしれない。
交渉に必要なのは緊張とリラックスのバランスだ。
どちらに傾いても最適な結果を作り出すことはできない。
余裕ある行動こそが、最良の結果を生むのだ。

数分後、歌が終わる。
ロジャーはそのタイミングを見計らって拍手を送った。

「えっ? ええっ?」

その顔がこちらを向く。
警戒心とはほど遠い、無邪気な、ちょっと驚いたような表情。
それに釣られるようにロジャーの顔にも笑みが浮かぶ。

「素晴らしい歌声だね、歌姫(ディーヴァ)。良いものを聴かせてもらったよ」
「そ、そう? えへへ……どういたしまして」
「さて、自己紹介をしておこう。私の名はロジャー=スミス。
 この実験場とやらに必要な仕事……交渉(ネゴシエイト)を生業としているものだ」

弾けるような笑顔で緑の歌姫は微笑んだ。

「そっか、じゃあ私も自己紹介をしなくちゃね!
 はじめまして、私、初音ミク! ……よろしくね!」


【深夜/エリアP(喫茶店・2階居住スペース)】

【ロジャー=スミス@figma】
【電力残量:95%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、トンプソン・コンテンダー@衛宮切嗣、拡張パーツ0~1(確認済)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:実験の主催者と交渉する
 1:とにかく情報収集

【初音ミク@figma】
【電力残量:95%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ1~2(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:???
 1:???
※ 外見は通常の初音ミク(figmaナンバリング014)です。


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最終更新:2014年06月17日 18:41