Day after day ◆ACfa2i33Dc
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彼等を示す人格は無かった。
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彼に個人としての人格はない。
彼の原型(アーキタイプ)は、ただのやられ役に過ぎなかった。
出撃直後に敵のMSに攻撃を受け、たったの一撃で爆散する。
ただそれだけが出番で、登場時間は数十秒にも満たない。活躍など存在するわけもない。
けれどそれでも、彼を愛する者は存在する。
「高性能のエース用機体」「カタログスペックはガンダムをも上回る」という設定に魅了された人間たちは、彼に別の活躍の場を与えた。
その活躍の場――ゲームや漫画などの関連作品で、彼ははっきりとした輝きを見せる。
設定通りの高い性能を生かした活躍。 名パイロット達の乗機として、彼は確かに人々の深い印象を与えた。
初出は名も無きパイロットの乗機でしかなかった彼が、専用機としての設定まで手に入れたのだ。
彼の原作から考えれば異例の出世だろう。
ジム・スナイパーⅡ。
それが彼の名前だった。
◇
エリア-P。
楽器店の床の上を、ジム・スナイパーⅡ――正確には、その名前を与えられた人形は歩いていた。
青と水色のツートンカラーが、照明に照らされて自己主張する。
前述した専用機仕様――ホワイト・ディンゴ隊長仕様機も限定商品として売り出されているが、今ここにいるのは白とブルーの配色のそれではなく、一般発売された量産機仕様だった。
そう、一般量産仕様。
彼の“パイロット”は名も無き兵士。
当然、台詞も無いそれに人格など作れる筈もない。
だから、彼に人格(パーソナリティ)はない。
――けれどそれは、彼の個(アイデンティティ)が存在しないということでは、ない。
与えられなかった人格の変わりに、彼には大量の記録が与えられた。
そう。彼が登場する、全ての作品の記録が。
地球で、宇宙で、コロニーで戦った、無数の彼の記録。
そしてその大半のパイロットが持っていたであろう――数十秒で散った「原作における」彼でさえ――ひとつの信念があった。
――連邦の兵士として、人々を守る。
それが彼唯一のアイデンティティで、そしてそれ一つの為に自らの全存在を懸けても構わない。
ジム・スナイパーⅡとは、そういうフィギュアだった。
だから彼は、このプログラムにおいて勝利者となるつもりはない。
彼の本分は人々を守ることであり、理不尽に人を傷付けることではない。例え相手がフィギュアであり、それが命令であろうとも。
彼が従うのは命令ではなく、自らのアイデンティティとそれに依る正義のみ。
人格が無いからこそ、彼は悩まない。自らの信念だけを選択して、実行する。
――まずは友軍と合流し、保護対象を探す。その後に現状への打開策を練る。
それを第一目標と決定した彼は、ブースターを起動し楽器店の出入口へと向かう。
普段ならば閉じているだろう楽器店の硝子戸はフィギュアを通行させる為か開け放たれ、夜の闇と商店街の光が同時に差し込んでいた。
ジム・スナイパーⅡはそこから外へと出て行こうとして――
“そいつ”に出会った。
◆
そいつにも人格は無かった。
形式番号:UCR-10/A。それだけがそいつを現す記号だ。
その名前でさえ、コアパーツの名前を流用したに過ぎなくて――要するに、そいつに名前と呼べる名前なんてものはなかった。
正確に言えばアーマード・コア――「コア構想」によって作られる、コア・頭部・腕部・脚部・etc...で構成された人型機体――のそいつには同じパーツを使った同型の機体も存在した。
が、カラーリングや武装の観点から別の機体と判断されて、そいつは名無し同然の有様で戦場へと投げ込まれた。
それに不満はない。
そもそも、そいつの原作であるARMORED COREにおける主人公は設定の存在しない、描写のないキャラクターだ。
元からが「名無しの傭兵」なのだから、名前がないのはいつものこと。
だから、そいつの目的もいつも通りだった。
――好きにように生き、理不尽に死ぬ。
それが傭兵だ。それだけがアイデンティティで、それで必要十分。
元より戦場を選べるような身分でもないし、誰に提示された戦場だろうとそこで戦うことに不満はない。
――何もかもを黒く焼き尽くす、死を告げる“黒い鳥”。
そいつは、そう呼ばれていたらしい。
この戦場でもそうする。それだけだ。
◇
開け放たれた硝子戸の隙間から、二足歩行のロボットが楽器店へと入って来るのを
ジム・スナイパーIIは確認した。
そいつの両手に銃器らしき物が握られ――彼に照準を合わせているのも。
咄嗟の判断で左にブースト噴射。
ほぼ同時に銃口が火を噴き、一瞬前まで彼がいた空間を砲弾が貫いた。
続けて銃声が鳴る。更に追いかけて来る砲弾をかわし、楽器を展示する陳列棚の群へと逃げ込み壁にする。
――会話、及び威嚇無しの銃撃。戦闘回避の余地はなし。
そう判断した彼は、棚の間を飛びながら付属品の一つである75mmスナイパー・ライフルを手元に転送した。
精密射撃に長けた実弾ライフルであるそれは、同時に近距離及び中距離においても無反動砲として威力を発揮する。
相手は重装甲の機体に見えたが、これならば装甲を抜いてダメージを与えられる可能性は十分ある筈だ。
再度ブーストを起動し、陳列棚の群から飛び出した彼は敵の位置を確認する。
――近い。ブーストを吹かした敵は、予想以上の速度で距離を詰めて来ていた。
どうやら、敵は機動性においてもこちらに匹敵、あるいは上回る――ドムのような機体らしい。
だが、彼にとってそれは好都合な話だ。
75mmスナイパー・ライフルの装弾数は1発。リロードにも多大な時間がかかるため、この戦闘におけるチャンスはこの一回だけ。
この距離ならば、余程の事がない限り外さない。
即座に狙撃用ライフルを構え、敵の胴体部に狙いを定める。
敵も両手のライフルを構えているが、こちらの方が早い。
引き金を引き、トリガーがCSCと電気的に連結し照準を修正。
放たれた砲弾は、狙い過たず胴体部へと飛んだ。
回避不可能。
ジムスナイパーIIがそう判断した瞬間――、
“そいつ”のブースタが、一際大きな炎を噴いた。
◆
――ハイブースト。
ブースタを瞬間的に大推力稼働させ、短距離を高速移動するACVにおける基本動作のひとつ。
左に大きな推力を得たUCR-10/Aは身を低く屈めながら砲弾に対し回避機動を取る。
放たれた75mm砲弾――勿論、フィギュア用にダウンサイジングされている以上75mmもないだろうが――が右肩のアーマーに掠り、火花が散る。
しかし、それだけだ。
回避に成功したUCR-10/Aは両手のライフルとバトルライフルを構え、スナイパーライフルの反動から体を立て直せていない敵をロックする。
敵の装甲は厚くない。この武器だけでも十分装甲を貫いてダメージを与え得るだろう。
トリガーを引く。二つの銃口が火を噴き、KE弾とHEAT弾が煙を曳いて敵機へと迫る。
着弾。
装甲を貫き、煙が上がる。だが、まだ死んでいない。
体勢を立て直しシールドを構えて距離を取ろうとする敵機に追い縋り、トリガーを引き続ける。
◇
――必殺の一撃を躱され、手痛い反撃を受けた。
危機的な状況だが、まだ手は残されている。
左腕のシールドで体を庇いながら、ジム・スナイパーIIはそう判断した。
こちらの武装は、75mmスナイパー・ライフルだけではない。
もともとジム・スナイパーIIに付属している基本パーツは狙撃用ライフルとビーム・サーベル二本のみ。
だが、このプログラムにおいて支給される武器はその限りではない。
主催者によって支給された拡張パーツ。それが彼の右手へと転送される。
ビーム・マグナム。
本来は世代が一つ二つ――いや、三つ四つは先のMSが装備する代物だ。が、フィギュアとその付属品である以上利用には何の問題も無い。
後ろへと急速にブーストしながら右腕を構え、応射。
直撃すればUCR-10/Aを貫くだろう撫子色の光条は、しかしまたもブースタに炎を吹かせての急加速に避けられる。
しかし、その回避動作により砲火が弱まった。
その隙を突き、ジム・スナイパーIIは一旦距離を取る。
対するUCR-10/Aはハイブーストの勢いを殺さず地を蹴り、更に壁を蹴って空中へと舞い上がって――
――再度の射撃。
ジム・スナイパーIIの頭上から、KE弾とHEAT弾が雨霰と降り注いだ。
続く危機的状況。
それでもジムスナイパーIIは冷静にシールドを頭上に構え、ジグザグの移動で陳列棚の列の中を逃げながら追撃の被害を最小限に抑える。
そして、バイザーを下ろした。
シールド越しに、陳列棚の上を滞空するUCR-10/Aの姿を確認。
多少の被弾は恐れず、射撃に集中する。
相手も歴戦の戦士ならば、こちらも幾多の戦場を知る戦士だ。
対応できない道理はない。
狙いを定めて、ビームマグナムのトリガーを――引いた。
一直線に、撫子色の光条が飛ぶ。
それはジム・スナイパーIIの狙い通りに――UCR-10/Aではなく、その手に持っていたバトルライフルを貫いた。
大出力のビームに貫かれたバトルライフルは、中程から爆散。それを握っていたUCR-10/Aも、ダメージはなくとも空中で姿勢を崩す。
それこそがジム・スナイパーIIの真の狙いだった。
――反応されやすい本体ではなく、武器を狙って敵の態勢を崩す。そして、そこをビームサーベルで仕留める……!
名義上狙撃用機体ではあるが、ジム・スナイパーIIの格闘性能は低い訳ではない。
むしろ一年戦争時の機体としては破格のレベルだ。
対して相手は重装甲。ブースタで機動力を補おうと、接近しての格闘戦には対応仕切れないだろう。
既に左腕は腰からビームサーベルを抜き放っている。
ジム・スナイパーIIは右腕のビームマグナムを送還し、腰から二本目のビームサーベルを抜き放ちながらブースターを起動し空中へと切り掛かる――!
対するUCR-10/Aは態勢を崩しながらもガトリングガンを転送し、応射を加えようと――
ぽとっ。
UCR-10/Aの右手が、落ちた。
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突然だが、スーパーロボット超合金におけるUCR-10/Aの扱いを話したい。
元々リアル路線に近いアーマード・コアがスーパーロボット超合金に参戦したこと自体、驚くべきことなのだが――
このフィギュア、正直出来に首を傾げるところがある。
粗悪、というわけではない。
塗装漏れなどもないし、関節も元の造形からすればかなりの可動がある。
無骨なディテールもよく再現されているし、重厚感はかなりのものだ。
設置も優秀。
ハンガーユニットやミサイルハッチが可動しない(ハンガーユニットに武装を取り付けることはできるが、動作ギミックがない)・頭部の変形ギミックが再現できないという欠点はあるが、概して及第点、といったところである。
では、何処が問題なのか。
――手首が落ちるのだ。
武器ごとに専用の持ち手を付け替える方式にしたのが問題なのか、手首のジョイントが妙に緩い。
ライフルやバトルライフル・パルスマシンガンの三つはまだしも、ガトリングに至ってはポージングで上に向けたりするとポロポロ落ちる。
一応この後に発売された同作機体であるハングドマンは手首が強化され、ハンガーユニットも可動する、頭部差し替えも付属とこのフィギュアにおける不満点がほとんど改良されているのだが。
再販? そんなもんねぇよ。V.Iシリーズをよろしく! アクションフィギュアじゃなくてプラモデルだけどな! という販売側の都合が透けてくる。
ともかく。
持ち主のいるフィギュアならば、手首を太らせるなどの処置が行われるが――そんなもののいないそいつには、手首を補強するような機会はなかった。
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対峙する機体の手首が落ちた。
理由はわからない。が、今が最大の好機。
そう判断したジム・スナイパーIIは、両手にビームサーベルを構えて突貫する。
撫子色の刃が閃く。ジム・スナイパーIIは空中を駆け、サーベルを振りかぶって――
眼前に広がる巨体に叩き潰された。
――ブーストチャージ。
ハイブーストの勢いのままに、敵機に飛び蹴りを入れるACの攻撃手段の一つ。
その威力は脚部の攻撃力と機体の重量、敵にぶつけたときの速度に影響される。
原作から考えてもブースト中のACの速度は200~600km、推力と機体によっては1000Kmに達する。
その速度で蹴りを入れられれば、結果は想像できようものだ。
フィギュアとして考えても、UCR-10/Aはスーパーロボット超合金――フィギュアとしては重量型に分類される。
その重厚な作り――実際は、UCR-10/AはAC内において中量二脚に分類されているのだが――と相まって、重量は結構なものがあった。
結果として――
ジム・スナイパーIIは、空中でハイブーストにより急加速したUCR-10/Aに、踏み潰された。
がしゃん、という音がして、打ち棄てられた玩具のように――事実、彼は玩具だったが――ジム・スナイパーIIが床に叩き落される。
同時に、UCR-10/Aは床に着地した。
そして前面装甲を思い切り削がれ、床に叩き落されて尚ジム・スナイパーIIが手足をバタバタと動かしているのを確認すると左手首に残ったライフルを構えて、
――銃声。
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「好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰のためでもなく……それが、俺らのやり方だったな」
戦場跡と化した楽器店に、壮年の男性の声が響いていた。
右手首とガトリングガンを回収して付け直し、プラスチックと金属部品の山と化したジム・スナイパーIIの装備を回収していたUCR-10/A――の、台詞ではない。
彼の相棒にして、超ベテランのストーカー(運び屋)。
「幸運を運ぶ男」、ファットマン。
UCR-10/Aには、彼のサブAIが搭載されていた。
あるいは、自ら言葉を発さない彼の代弁者として――なのかもしれないが。
「しかしまたイカれたミッションに押し込まれたもんだ。59体相手にして報酬無しなんて、割に合わねえにも程がある」
愚痴るファットマンの言葉を聞いているのかいないのか。パーツの回収を終わらせたUCR-10/Aは、楽器店の出入口へ向かって歩き出した。
「行くのか? ま、そうだな。その腕はどうにかしなきゃならん」
この落ち易い手首は、明らかな弱点だ。
このような弱点を抱えたまま戦い続ければ、待つのは間違いなく死だろう。
「玩具は玩具らしく、接着剤でも使って修理といくか。運が良かったのかわからんが、近くに文房具屋があるぞ。
そこにならテープなり接着剤なりあるだろうよ」
相棒の軽口混じりの助言を聞きながら、UCR-10/Aは文具屋を目的地に移動を開始する。
かくして、戦場をセンチメートルの大地に移して――黒い鳥は羽ばたいた。
【ジム・スナイパーII@ROBOT魂 機能停止】
[深夜/エリアP・楽器店]
【UCR-10/A@スーパーロボット超合金】
【電力残量:64%】
【装備:URF-15 VALDOSTA(ライフル)、UEM-34 MODESTO(パルスマシンガン)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(KO-5K4/ZAPYATOI(ガトリングガン))、ビームマグナム(ユニコーンガンダム@ROBOT魂)、拡張パーツ×1~3】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:好きなように生き、好きなように死ぬ。
1:文具店に向かい、手首を補強する。
※手首が取れ易いです。ガトリングガンのような重量がある・重心が傾いている武器を持って激しい機動をした場合、手首がほぼ間違いなく落ちます。
※このプログラムにおいてミサイルやハンガーユニットが起動するかどうかは後の人に任せます。
最終更新:2014年08月28日 23:13