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速さが足りない! ◆NXFS1YVsDc



速きこと、島風の如し。
その名を与えられた彼女にとって、それは決して譲れないプライドであった。

figma島風、彼女の目的はただ一つ――最速の証明。
彼女にとってはそれだけが第一にして全てであり、殺し合いに興味はない。
事実、これまで出会った相手には自分から攻撃を仕掛けながら、決して牽制以上の行為は行わなかった。
相手を破壊する気などない。ただ、自分が相手よりも、ここにいるどのフィギュアよりも速いということを証明するだけ。

しかしそんな彼女も、壁にぶち当たる。
2体のロボット型、ジェフティガンバスター……速さだけではない、彼女の想像を、常識そのものを大きく超えていた。
原作では決して味わうことのない決定的な壁は、彼女のプライドを大きく傷つける。

足りない。あの2体よりもさらに速くあるには、今のままでは足りない。だが。

「改造できれば、もっと速くなれるよね……改造が、できればだけど……
 でも、私には提督はいないし……ねぇ、どうすればいいと思う?」

連装砲ちゃんを相手にブツブツと呟きながら、電気の消えたゲームショップ内を一人歩き回る。
そう、これが問題だ。改造しようにも、彼女自身どうすればいいのか見当がつかない。
ゲームであれば、ボタン一つで簡単に改造できる。過程も省略され、僅かな時間ですぐに強化できる。
だが、今はゲームではなく現実だ。島風はフィギュアであり、それに手を加えるには一定の技術を要する。
いやそれ以前に、そもそもここには彼女を改造してくれる提督(マスター)はいない。
自身を強化したければ、自分の手でアクションを起こす他ないのだ。

そんなたかだか一体のフィギュアにできることで、一番手っ取り早いのは、新たなる外部パーツを自身に取り付けること。

「そうだ!私の拡張パーツ、もう一個あったっけ!」

島風は自身に与えられた拡張パーツの存在を思い出す。
ゴーカイオーのエネルギー砲の他に、彼女にはもう一つ支給されていた。

それは一着の、白いマント。

当初は自身のスピードへの絶対の自信ゆえに、余計な装備など必要ないと判断し無視していた。
だがさらなる強化改造が必要となった今、この未知なるパーツに期待が寄せられることになる。

マント……なんともこの状況にお誂え向きのアイテムではないか。
これを装備すれば、空が飛べたりするのだろうか。それならば、あのロボット達にも対抗できる。
はたまた、身のこなしが軽やかになるような効果でもあったりするのだろうか。
拡張パーツとしてわざわざ支給されているのだ、ただの飾りということはないはずだ。

島風は期待を胸に、マントを身体に『転送』する――



「お゛ぅっ!?」



いきなり全身に圧し掛かった重量に、彼女は思わず声を上げ、そのまま重みで床に倒れ伏した。
圧し掛かる重みとは他でもない、装着したマントのものだ。

「な、何これ……めちゃくちゃ、重っ……!?」

重い。とにかく、ありえないくらい重い。
たかがマントに、身体が押し潰されてしまいそうだ。
というより、たかがマントになぜこれほどの重量があるというのか。

「こ、こんなの着たら余計遅くなっちゃう!」

マントを脱ぎ捨てる。ドスッ、と似つかわしくないほど重い音と共に、床に放り出された。
脱いだだけで身体が軽くなったような錯覚を覚えるほどだった。

「し、信じられない……こんなマント、誰が何考えて身に着けてるんだろ……」

島風はマントの解説文に目を通してみる。

このマントは事もあろうに、あの『ドラゴンボール』からの出典。
S.H.フィギュアーツにて発売された、ピッコロのものであった。

原作におけるピッコロの身に着けるマントやターバンは、超重量の装備となっているらしい。
日常的に身に着けることによって、肉体に高負荷をかけて常に鍛えている、とのことだ。
それを再現したがために、このマントの重量は極端に重く設定されていた。

特に何の効果もない、ただ重いだけのマント。要するにハズレパーツであった。


島風は考える。自分の持つ拡張パーツが使えないとなれば、どうするべきか。
他の誰かが持っているパーツを手に入れて装備する……だが、そう都合よく手に入るとは限らない。
ならば、自分自身の手で自身に改造を施すか……それでも、先立つものは必要になる。

アテのなくなった彼女はこれからどう動くべきか考えるべく、地図を確認する。
模型やホビーの専門店があれば好都合だが、地図には載っていないようだ。
この近くで、改造に適したものがありそうな施設といえば――文具店か、電気屋だろうか。
どちらも、ちょうど先程まで戦いのあったエリアUに位置している。
遭遇した2体のロボット型フィギュアが、まだ残っている可能性は否定できない。

「……だからって、このまま諦めるわけにはいかないよね」

逃げ出すことは、彼女のプライドが許さなかった。
ぶち当たった壁と、そして自分自身の限界を超えるために、無理を通そうとする。
艦娘・島風の、彼女の心を受け継いだfigmaとして、速さへの追求は決して譲ることはできない。

だが今のままでは、あのロボット達に再度遭遇した時、勝てない。
少し、あと少しでいい。彼らを振り切れるだけの速さを得られれば。


「……ピッコロって人は、これをいつも着続けてて……脱いだら一気に強く、速くなったんだよね……?」

改めて、ピッコロのマントに目を向ける。
彼女は、これを着ることにより生まれる効果――結果に着目した。

自分の身体に負担をかけて行う修行は、ドラゴンボールの原作においてよく行われたことであった。
装備に重りを付けたり、高い重力をかけたり、枷を加えた上での特訓。
その枷から解放された時、抑えられていた戦闘力が戻り、特にスピードは見違えるようにアップした。

――パワーがてめえならスピードはオレだ!!!一生かかっても 追いつけんぞ!!!

このピッコロの装備もまた例外ではない。重い装備を外し身軽になってからが、本格的な戦いの始まりだ。
え?実際このセリフの後どうなったかって?……それは言わぬが花である。

「だったら私も、この重いマントを着たままでも平然と動けるようになれば……
 これを脱いだ時には、もっと速くなれるかも……!」

……何やら、彼女の思考が迷走を始めたようだ。

もう一度、マントを転送し装着してみた。
再び、強烈な重量が島風の小さな身体に圧し掛かってくる。

「お、重い……で、でも、無理ってほどでもない、かな……」

重さに耐えながら、しばらく、マントを着けたまま店内を動き回ってみる。
店の外に出る前に、多少なりとも慣れておくために。

超重量と言っても、ここでは島風のような少女でもなんとか着て歩ける程度の重さには抑えられているようだ。
また、マントとしてはかなりの厚手でボリュームがある。
超合金ほどではないにしても、攻撃を簡単には通さないだけの防御力はあると思われた。

「けどこれ、動き辛い……!」

しかしこのマント、単体のパーツで構成された『一切可動しない』タイプの物である。
一応は軟式素材ということで、この場では補正が加えられているのか、多少の融通が利くようになってはいるようだが……
それでもマントとしてはやたら固く、動かし辛いことこの上ない。
加えて小柄な島風が大柄なピッコロのマントを着るとなっては、サイズが合わない。
歩くたびに、ずるずると、マントの裾を引きずる格好になる。
さらに長い髪もマントの襟元に引っかかってしまい、首周りの可動もままならない。ていうか無理に動かしたら髪が折れる。

どう考えても、デメリットしかないのだが。

「ま、負けない……絶対に、私が一番速いことを、証明してみせるんだから……!」

彼女の誇りと意地が、この無謀な挑戦へと突き動かす。
短時間重さに慣れたくらいでは、劇的なスピードアップなんて無理なような気がするが……
彼女を導く提督の存在があれば、彼女の暴走する思考のどこかでストップがかかっていただろう……言っても仕方はない。





「今のところ、外には誰もいない……よし!」

商店街に気配を感じないのを確認し、島風は店を出た。

重いマントを、裾をずるずると引きずりながら、走りだす。
着る前までの、島風の如きスピードは見る影もない。
こんな状態で外に出るなど自殺行為にも近いが、最悪脱ぐなり送還するなりすれば済むと考えていた。
だから今は、無様な姿に耐える。後のパワーアップのためと信じて。


周囲への警戒は決して怠らず、着実に歩を進め――

幸い、誰とも遭遇することもなく、文具店まで到着。

その頃には、既に空は明るくなり始めていた。



◇ ◇ ◇


文具店には、先客がいた。
スーパーロボット超合金・UCR-10/A……彼は外れ易い手首の修理のために、この店を訪れていたのだった。

さほど大きな店ではないはずだが、たかだか15cm前後の小さな身体では店内を回るのも一苦労だ。
そんな中で彼はただ黙々と商品棚をチェックし、手首の接着に使えそうな物を探し続けていた。
目当ての物は未だ発見できない。品揃えの豊富さも加わって、思いのほか手間取っていた。

その時だった。


「やっと着いたぁー!」


入り口の方角から響く無防備な声を、UCR-10/Aの聴覚が捉えた。

「誰かが来たようだな。来たのは俺達同様に偶然か、それともここの価値に勘付いているのか……」

サブAIであるファットマンの声に答えることもなく、UCR-10/Aはただ黙々と、手早く装備をチェックする。

「迎え撃つ気か。だが、まだ手首の接着はできていない。無茶は禁物だぞ」

UCR-10/Aは静かに周囲を見回す。この足で歩き回った場所だけとはいえ、僅かなりともこの店の地の利は得ている。
ここまで歩いてきた売り場の、どこにどんな商品があるのかも、一通りは把握できている。
ならば先手必勝。侵入者が店内を嗅ぎ回る前に、この優位性をもって蹴りをつける。


この店は、宝の山だ。


ハサミやカッターをはじめ、武器として利用できるものはいくらでもある。
紙の類は重ね合わせれば防具としても活用できるだろうし、インクや絵の具・墨汁の類は撹乱には最適だ。
そして、まだ発見できてはいないが、接着剤やテープの類。これだけ品揃えがあって、ないはずもあるまい。
手首に限らず素体の修理に役立てることができるだろうし、上手く使えば敵の動きを封じることも可能だ。

フィギュアにとっては、重要な資材が豊富に揃っている場所。

もっとも、これら現地調達の道具は『送還』することはできない。
フィギュアの小さな身体では、これらを店外に持ち歩くことは難しいだろう。
だが、この店内での活動に限定すれば、これほどまでに利用価値のあるものはない。
また、店内は身を隠す場所にも困らない。商品棚の中に紛れれば、小さなフィギュアなど簡単にカモフラージュが可能だ。
立て籠もるには最適の場所と言えよう。ちょっとした要塞といえた。



文具店――人間の視点からすれば、どうということのないただの一施設に過ぎないかもしれない。
それは、限りなく人間に近い認識能力を与えられた、彼らフィギュアにとってもそうだった。
自分達の置かれた状況と身の程を、本当の意味で完全に理解している被験体は、果たしてどれほどいることだろう?
UCR-10/A自身、実際に店を訪れるまで、この場所の価値など気にも留めていなかった。
手首の修理という理由がなければ、最後まで気付くこともなかったかもしれない。
そう考えれば、手首の不備すらある種の幸運にも思えた。

今後活動を続けるにあたって、この場所は重要な拠点となる――


◇ ◇ ◇


「やっと着いたぁー!」

文具店内に足を踏み入れる島風。
実のところ、改造と言っても具体的なことを考えているわけではない。
実際にあるものを見て回って、その中で自分に利用できそうなものはないかを探るだけだ。

「これだけ商品がいっぱいある店なら、何か使えるものもあるよね」

連装砲ちゃんに話しかけながら、艦娘はマントを引きずり、店の奥へと歩を進める。
その奥に、獲物を狙う黒い狩人が潜んでいるとも知らずに。


【早朝/エリアU(文具店内)】

【島風@figma】
【電力残量:70%】
【装備:マント(ピッコロ)@S.H.シリーズ、パワーエネルギー砲(ゴーカイオー)@スーパーロボット超合金】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(連装砲ちゃんx3、五連装酸素魚雷)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:スピードなら誰にも負けません。速きこと、島風の如し、です!
 1:速くなる改造がしたい。ジェフティよりも誰よりも速くなりたい
 2:文具店を探索し、改造に使えるものを探す
 3:マントの重量を克服し、さらなる速さを得る

【UCR-10/A@スーパーロボット超合金】
【電力残量:60%】
【装備:URF-15 VALDOSTA(ライフル)、UEM-34 MODESTO(パルスマシンガン)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(KO-5K4/ZAPYATOI(ガトリングガン))、ビームマグナム(ユニコーンガンダム@ROBOT魂)、拡張パーツ×1~3】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
 基本方針:好きなように生き、好きなように死ぬ。
 1:店内への侵入者を迎撃
 2:手首を補強する。
※手首が取れ易いです。ガトリングガンのような重量がある・重心が傾いている武器を持って激しい機動をした場合、手首がほぼ間違いなく落ちます。
※このプログラムにおいてミサイルやハンガーユニットが起動するかどうかは後の人に任せます。



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最終更新:2016年06月18日 00:11