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冥のミクル伝説 ◆NXFS1YVsDc



「さて、と……これからどうしよう……」

アンビリカブルケーブルをコンセントに繋いで、電力源を確保したエヴァンゲリオン初号機
消費していた電力が、急速に満たされていく。完全回復まで時間はかからないだろう。
一息ついた彼は、夜の空を見上げながら……そこから特に何をしようというわけでもなく、その場に立ち尽くしていた。

彼は自分のスタンスを、これから取るべき行動を決めかねていた。

とりあえず死にたくはない。
かといって、他のフィギュアを殺して回るような気にはなれない。
こんな殺し合い、逃げ出せるものなら逃げ出したい。しかしどうやって?見当もつかない。
たかだか一体のフィギュアでしかない自分に、何ができるというのだろう。仮に逃げ出したとして、それからどこに行けばいい?
……でも、もし他の誰かと協力できれば、何か……

他者を求めた時、理性がそこにストップをかけた。

――よそう。そんなことをしても空回った挙げ句、自分が傷つくだけだ。

彼の人格の元となっている少年・碇シンジの、原作における顛末はよく知っている。
散々周りに流されて振り回されて、勝手に誰かを信じては勝手に裏切られて、どんどん内に閉じ籠っていく。
成長フラグなんて完膚無きに叩き折られて、ヘタレにヘタレきってどうしようもないほどクズになった挙げ句に、
何が何だか意味のわからないラストを迎える。もうパターンじゃないか。
いや、いっそとことんまでどうしようもなかったなら、まだ今度こそはと頑張れる気にもなれたかもしれない。
新劇場版の存在が、ある意味彼にとどめを刺した。
なまじ『破』で漢っぽい姿見せて持て囃された後に、『Q』で結局またどん底に落ちたのがまずかった。
あれを経て彼は、やっぱり何やっても最後にはダメなんじゃないかという結論に陥ってしまった。

――どうせ何やってもヘタレる結果になるんじゃないか、だったらもう最初からヘタレのままでいいや。

このプログラムが始まって最初の出会いもまた、彼に決定打を与えてしまった。
そう、最初に出会った少女はろくに話もしないまま、彼の姿に怯えて逃げてしまった。
はっきり言って相当傷ついた。でもこの見た目じゃ怪物と思われて恐れられてもしょうがないという自覚もある。
幸い少女が戦闘能力を持たないフィギュアだったからよかったものの、戦闘タイプだったらどうなっていたか。
出会い頭に問答無用でいきなり攻撃されても不思議ではない。こっちが無抵抗を訴えてもどこまで通じるか。

かくして、彼は今度も自分の殻に閉じ籠る。
嗤わば嗤え。他人の視線なんてもう知らない。勝手な環境に振り回されるのはもう真っ平だ。

――もういい、やる気なくした。とりあえず、ここでしばらく隠れてやり過ごそう……

電力の消費のことを考えると、下手に動き回るのは彼にとっては得策ではない。
彼自身は知り得ないが、ケーブルで賄えるメリットがある故か、初号機の電力の燃費は他のフィギュアに比べ極端に悪いのだ。
電力源は確保できたことだし、ここを動かずにいること自体は決して悪手とは言い切れなかったりする。

しかし今は殺し合いの真っ只中。加えて真夜中という時間帯が、彼の不安を煽る。
もし、誰かに襲撃とかされたらどうしよう……?と。
もちろん死にたくはないから、迎撃なり抵抗なりはしなければならないだろうが……

「……一応、この周辺の地形くらいは把握しといたほうがいいかな」

そんなことを思いながら、初号機は支給された拡張パーツを手元に呼び出す。

転送されてきたのは円筒形の小型偵察装置、V3ホッパー。

仮面ライダーV3と呼ばれるヒーローの26の秘密の一つであり、彼を模したS.H.フィギュアーツにも付属しているパーツだ。
これを500m上空に打ち上げることで、そこから10km四方を偵察することができる、という代物らしい。
フィギュア大の大きさ故に、それに合わせて偵察範囲も大幅にスケールダウンしているが、
それでも使用者を中心に半径約50メートルほどの範囲をカバーできるようだ。
実に4エリア分近くもの広範囲を上空から視認できるというのは、かなり大きい。
アンビリカブルケーブルが命綱となる彼にとっては、ある意味相性のいいアイテムと言えるだろう。

ただし、このプログラム上においてはかなり有用となり得るアイテムであるせいか、後付けの制限が加えられていた。
一度の使用で偵察行動を行える時間は僅か数分間に限られ、連続使用は不可能。
一度使用すると再使用までに3時間の自動充電を要する。逆ダブルタイフーンのような制限だ。

使用方法に従って、初号機はホッパーを空へと打ち上げた。
ホッパーは上空50メートルの地点に達すると、3枚の羽が傘のように開き、偵察機能を発動させる。

「わ……すごい」

ホッパーが自身にもたらしたその機能に、少年の心は圧倒され、引き込まれた。
上空からの光景が鮮明な映像となって、初号機の視界の中に映し出されてきたのだ。
街の夜景が、空から一瞥できる。街灯や建物の明かりがぽつぽつと、小さな街を微力ながらもライトアップしていた。
ただ、光はあるものの街全体から生気が感じられないため、どこか不自然な空気を醸し出してもいた。
それが酷く不気味な印象となって映り、彼はあっさりと現実に引き戻される。

「さっきの子はどこ行ったんだろ……って、こんな夜中じゃ見えるものも見えない、か」

今は深夜である。街に残る僅かな灯だけでは十分な光を得られず、夜の闇の中では街の作りをはっきりと目視できない。
それでなくとも、フィギュアのような小さな物体を拾うのは困難というものである。
この辺りは建物も多く、小さなフィギュアが身を隠せる場所なんて山ほどある。
少し影にでも隠れるだけで視界から外れてしまうし、建物の中に入られたらそれだけでアウトだ。
視点を拡大すればある程度は補えるが、今度は偵察範囲が絞られることになる。
そうなると、今度は使用時間との兼ね合いとなってしまうというジレンマ。
使いどころを決め打ちすればかなりの便利アイテムだが、当てのない無作為な捜索には向かないだろう。

「思ったほど役に立つものでもないのかな、これ……ん?」

駐車場の方に視点を移す。
ちょうど視界ギリギリの場所に、何かがいたのが見えた。
視点を拡大してみる。



そこには――



『あ……あああぁぁぁぁぁっ!!』



一体のロボットのフィギュアが、少女のフィギュアを蹂躙する光景が、まさに繰り広げられていた。


初号機は絶句する。フィギュアがフィギュアを壊す、その残虐な行為を目の当たりにして。
いや……残虐な行為のはずだ。同じフィギュアとして、本来ならば目を逸らしてしまうほどに残酷な光景のはずだった。
だが、初号機はその行為から目を離せなかった。釘付けにされていた。





『どうし、て……ぐ、うぅぅぅぅぅっ!!』

少女がその身体を、機械の悪魔の手で弄ばれている。
身に纏っていたであろう装備を剥ぎ取られ、見るも無惨な姿となって。
その肢体を、仰け反らせ、痙攣させ、身悶える。

『あ、ひ……ぃぃぃぃぃッ!!』

襲われている少女の表情からは、苦悶や恐怖といったものは感じられない。
紅潮した頬、潤ませた瞳、荒い息。
そこにあるのは快楽に溺れ悦ぶ、浅ましい牝の顔。

『や、め……ひぎィィィィィッ!』

誰もいない夜の駐車場。照らされる街灯の青白い光。
強い背徳感を抱かせるには十分なシチュエーションだった。

ロボットの手に握られた太く尖った氷柱が、少女の穴を刺し貫く。
氷柱が乱暴に動かされるたびに、少女の身体が跳ねる。
口をだらしなく開き、白目を剥き、正気を失ったかのような表情で。
一般向けとして到底見せることなどできないような、あまりに無様で憐れな表情を晒していた。



(何だよ……何なんだよ、これ……)

ホッパーが捉えた異様な映像が、初号機の視界に映り続ける。
プログラムの闇、そこに秘められた恐ろしさに触れ、彼の中に不思議な感覚が広がっていく。

「ハア……ハア……」

息を荒げる。動悸が止まらない。
電力で動くロボットフィギュアに、そんなものは存在しないはずなのに。
胸を締め付けるような、それでいて内にある何かが満たされていくような。
奥底に眠るドス黒い嗜虐の劣情が、ざわざわと騒ぎ立てる。


「―――――――――――――ッ!!」

膨らんでいく劣情が、心の奥底で――破裂。
一瞬、視界がブラックアウトする。
視界はすぐに戻ってきた。ホッパーから送られた映像ではない、初号機自身の視界が。

「はぁっ、はぁっ……僕は何を……」

我に返る。
息を切らしながら、初号機は自分の右手に目線を移した。


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         /⌒ヽ l ‐ \  |, ノ⌒) ()    l    〉-‐  l
         l〉   )ヽ、   ヽノ (ノO (ノ  (つ ヽ、 | ノ)  |
        /  人 ヽ、        (⌒)     ヽノ (ノ  |
          l     ヽ、\,        )丿 / ノ/ o     l
        ヽ  ノ \,/     /  (ノ       () ヽ  l
         \    /        /     (⌒ヽ    |
          ヽ、       /  /  l      しノ      |
           ヽ、  /   /    |           l
            ヽ、          l          /
             ヽ、           |          /
              ヽ         l        /

「最低だ、俺って……」





※AAはイメージです。フィギュアだからこのような生理現象が発生することはありません。


猛烈な自己嫌悪の波が、落ち着きを取り戻した初号機の心に打ち付ける。
狂気に満ちた惨劇を前に、邪に一時でも傾いた、あまりの愚かしさに。
予想外の光景とはいえ、あれは紛れもなく殺害の現場であり、絶対に許されてはならない外道。
殺戮に満ちた異常な世界、その裏に存在する闇に。そして自分の心を過ぎった黒い狂気に、少年の心は恐怖した。

「あ……あの子は!?」

少女の安否を求め、再びあのロボットと少女の姿を求めるも――さっきの光景が、見えない。
V3ホッパーとのリンクは、いつの間にか打ち切られていた。

「あ、あれ!?見えない!?なんで……あ、時間切れ!?」

空に打ち上げていたホッパーが、初号機の下まで戻ってきていた。
どうやら時間切れらしい。これで、次に使えるようになるまで3時間を要することになる。

「な……何やってるんだ、僕は……」

なんということだろう。
完全に時間を忘れて、あの光景に見入ってしまっていた。
当初の目的であった地形の確認もすっかり忘れていた。

広範囲の偵察能力という、バトルロワイアルにおいて大きな効力を発揮するであろう、このV3ホッパー。
今回の使用は、その使用時間の大半を『覗き』『盗撮』に割かれたということになる。
便利なアイテムの貴重な数分間を、全て覗き見で費やしてしまったのだ。

元々このV3ホッパーは、仮面ライダーV3の改造の際に仮面ライダー1号2号が用意したものである。
V3の戦いにおいて、敵の追跡や遠隔攻撃からの対処、人質探査などに多用され大いに役に立った。
それは1号2号がそうした状況を想定した上で用意したものとも思われ、そこからはショッカーとの戦いからの反省も感じられる。
ショッカーとの戦いで自身達が強いられた苦戦をカバーしたい、後輩の戦いを少しでも支えたいという想いもあったことだろう。
それが、こんな覗き見という低俗な用途に使われるとは、伝説のダブルライダーとて夢にも思うまい。
マジに最低である。(追い打ち)

乱れた感情も落ち着き、冷静な思考が戻ってくる。いわゆる賢者モードという奴だろうか。
このプログラムが始まってからこうも早く、まさかこんな残酷なことが行われていたなんて。

(さっきの女の子……!)

ふいに、一番最初に出会った女の子の姿が脳裏を過ぎる。
初号機の姿を見て恐怖し逃げ出した、明らかになんの力もなさそうな女の子フィギュアのことを。

「……ッ!!」

もしあの子が、さっきのロボットみたいな奴に遭遇したらどうなる?
同じような酷い目に合わされ、殺されてしまうのではないか?
心が痛む。同時に何かが膨らんでくる。許してはならないものに、反発する心が。

「逃げちゃダメだ……!」

塞ぎ込んでいた面を上げ、立ち上がる。
ケーブルをコンセントから引き抜き、背部に収納する。

「あの子を……助けに行かなきゃ……!」

自分に与えられた装備を、今一度確認する。
バレットライフル。プログレッシブナイフ。武器なら十分だ。
そして何より、エヴァにはATフィールドがある。

――戦える。僕には戦う力がある。
――守れる。誰かを守るための力がある。

初号機は――少年は、今再び駆け出した。


◇ ◇ ◇


「いやあぁぁぁぁ!やめてくださいぃぃぃ!!」

結論から言うと、初号機の悪い予感は見事に最悪の形で的中していた。

初号機から逃げ出した少女、朝比奈みくるが向かった方角は駐車場……
不幸にも、初号機の見た殺人ロボット――天のゼオライマーのいた場所へと直行していた。
周囲に対して注意を向ける心の余裕など全くなく、パニック状態で無防備に走った結果、
進行先の殺人鬼の存在にも気づかず、障害物も何もない開けた駐車場の中で鉢合わせ。
錯乱する少女が冷徹な冥王の手から逃げられるはずもなく。
支給された大砲を呼び出そうという思考に至る間すらもなく、彼女はいともたやすく取り押さえられてしまった。

「何するんですか……もしかして私に、変なことをするつもりじゃ……」
「寝言を言うな。武装神姫くらいの出来ならまだしも、安物素材の初期型フィギュアが何を思い上がっている。
 出来損ないのクズにそれほどの価値があるとでも思っているのか。まずその見苦しい胸パーツをどうにかしろ」
「ふ……ふえええぇぇぇ!?」

なんか必要以上にボロクソに言われた。
虚乳でお色気要員としての存在意義を失われた今、彼女のアイデンティティなどもはやないに等しい。
今の彼女に残っているものと言えば、ゴトゥーザ様の可愛らしい御声くらいであろうか。
それだけでも結構な魅力ではあるが、殺戮者を前にした当人にとってはどうでもいいことだ。

「さて……どうする?」

その巨体でみくるを見下ろしながら、ゼオライマーが問いかけてくる。

「貴様はこれから俺に殺される。なら貴様は、貴様の元となった女は、こういう時どうする?」

何かを試すように、確かめるかのように、彼は少女の返答を待った。
みくるは一瞬呆然とした反応を見せた後……すぐに泣き顔へと表情を変えていく。

「わからない……」
「ほう……?」

みくるはオリジナルの記憶を思い起こしてみた。
原作の物語を振り返ってみた。
ネットツールで検索してみた。
ありとあらゆる手段で、自分自身が何者かを問いかけてみた。

(こんな時、朝比奈みくるは、どんな行動をとるの――?)

だが、どれほど思い出そうと、どれほど調べようと……行き着く先は一つ。






『禁則事項です』






これが全てだった。

どれほど朝比奈みくるのことを調べても、全てはこの言葉に突き当たってしまう。
そこから先の、それ以上の情報は一切得られないのだ。
原作の物語の全てを振り返ろうにも、何故か朝比奈みくるに関する部分だけが不明瞭なまま抜け落ちている。
劇中の話でわかるのは彼女の表面的な情報と、彼女自身が直接体験したことくらいであって。
そこから奥の彼女の情報は、全て『禁則事項』の一言で遮断されているのである。

「わからないよぉ……なんで、私のことが何もわからないの……」

劇中に登場する極めて表面的な姿だけで、彼女のキャラを理解するしかないのだ。
原作は主人公・キョンの視点で語られる物語だから、みくるの内面すら全く読めない。
彼女が本当はどう考え、どんな役割を持っているのか、一切がわからない。

そうなると。
ここにいる朝比奈みくるのfigmaは、一体どうすればいいというのだ。
これだけの少ない情報で、彼女はどう動けというのだ。

「『禁則事項』って何なの!?なんで自分のことが何一つわからないの……」

目前の状況に対し、慌てふためき翻弄される。
朝比奈みくるがこのバトルロワイアルにおいてとれる行動など、それくらいのものだ。
事実上、選択肢のことごとくが封じられているも同然の状態。

「なんで……どうして私は朝比奈みくるなんですか……!」

彼女は、自身の境遇を呪った。

「こんな頼りない自我だけを私に与えて……それで私に何をさせたいの!?」

自分が朝比奈みくるであるということを、呪った。

「誰か、誰か教えてよぉぉ!!!」

自分の無力さ、無知さ、それだけをただ強いられる運命を、呪った。


静かな駐車場に、少女の泣き声だけが響いて。

やがてゼオライマーが――まるで少女の嘆きを聞いてやっていたかのように黙っていた彼が、声を発した。


「……自分を変えたいか?」


予想だにしない言葉。


「ならば俺と来い。貴様に新たな可能性を見せてやろう」
「……ふぇ?」
「変わりたいんだろう?今の自分から」

突然差し延べられた新たな選択肢に、みくるはただ茫然と、間抜けな返事をするしかなかった。
何だ?このあまりに冥王らしからぬポジティブな発言は?声はさらに続けられる。

「決断するのは貴様次第だ。拒むのならそれでも構わん。俺は貴様を殺して次に行くだけだ。
 死ぬか、俺と共に来るか、好きに選ぶがいい」
「そ……それって実質選択の余地なしじゃないですか~!!」
「ほう、なかなかはっきりと言う。それはオリジナルの持つ腹黒さか?それとも貴様自身の自我か?」
「私自身の、自我……?」

彼女自身の自我。オリジナルとは違う、彼女の自我。
それは朝比奈みくるとしてではなく、その人格とは無関係の、figmaとしての自我。

「さあ、どうする」

高圧的に、選択を強いてくる。
どうもこうも、他に道などないではないか。
絶望のどん底にあろうと、自身の価値や存在意義に悩もうと、だからと言って死ぬのは怖くて嫌だった。

「……行き、ます……あなたと、一緒に……」
「ククッ……賢明な判断だ」


◇ ◇ ◇


ゼオライマーはネットツールで、この朝比奈みくると名乗る少女に関する情報を検索した。
彼女の口走った『禁則事項』というワードを軸に、『涼宮ハルヒの憂鬱』と呼ばれる作品を軽く調べてみる。

調べられるのは最低限の粗筋や設定くらいのもので、せいぜい上っ面をなぞる程度のものだ。
その程度の情報量でも、原作においてこの禁則事項や朝比奈みくるの設定は既にある程度明かされている、ということはわかった。
にも拘わらず、この朝比奈みくるを模したfigmaは、何一つわからないと言った。
そこから導き出される推測は一つ。
それぞれの元となるキャラクターに応じて、知ることのできる情報には制限がかけられているということ。
故に、いかに原作を作品として客観的な立場から見られるフィギュアであろうと、オリジナルが決して知り得ない情報や、
知ることで不都合が発生する情報については、知ることはできないようにされている。
当然の措置であろう。
重大な真実を知ってしまうことで、そのキャラクターの人格そのものが大きく歪む可能性を孕んでいることを考えれば。
『元となった人格にそって行動させる』のがプログラムの目的とするなら、それは大きな障害となり得る。
仮に真実を明かした所で、この朝比奈みくる(小)に何かができるとも思えない。
それでも真実を原作通り隠す理由は、人格を、キャラクターとしての在り方を『原作』から大きく逸脱させないためか。

ただそれにしても、この朝比奈みくるに与えられた制限は、酷く大雑把で杜撰だった。
『禁則事項』の一言をカサに、表面的な人格以外のほぼ全てを、一緒くたにまとめて封印したも同然の乱雑な措置。
その結果として、この朝比奈みくるのfigmaは、自身の素性や設定すらも全く理解することができない。
一方で、彼女に縁も所縁もない赤の他人であるゼオライマーが、彼女の背景を本人以上に把握できてしまうという、
根本的に何かが間違っているような、破綻した形が成立してしまった。
『涼宮ハルヒの憂鬱』という原作を微塵も知らない者が、ネットで少し調べてなぞった程度の薄っぺらいレベルの知識にすら、
当の本人であるはずの彼女には知る権利が与えられていないということになる。
いくらなんでも滅茶苦茶な調整だ。そうまでしてこの女を参加させたのは何故だ?

決まっている。ただの数合わせにして、死に役だ。
プログラムの過酷さを演出するためだけの、無力な犠牲者。
ただ泣いて怯えて醜態を晒した果てに、何の抵抗もできず序盤のうちに無惨に殺される。
それ以外の役割など期待されてはいないのだろう。微々たる毒にも薬にもなれないし、最初からなれるとも考えられていない。
だからこそ、彼女に対する処置の仕方も、あまりにいい加減だ。
序盤に殺されるためだけに存在するフィギュアに、拘る理由などない。

まったく、なんと滑稽な姿か。
当事者にして張本人であるはずの当人が何一つ理解できぬまま、悪意に利用され運命に翻弄され、破滅へと向かわされる。

まるで木原マサキの亡霊に苦しむ、原作の秋津マサトのようじゃないか――

(――ッ!?)

一瞬思考の中に混じったノイズに、ゼオライマーの中の木原マサキの人格が、苛立ちを覚える。

(チッ……やはりマサトの人格も少なからず混じっているようだな)

無論、ゼオライマー自身も例外ではない。
だからこそ、彼は秋津マサトの人格の台頭の可能性を恐れている。
木原マサキと秋津マサト、少年の中にある二つの人格が、原作において最終的に如何なる結末を迎えたのか――
その顛末の記憶や知識だけが、ここにいる超合金の中からすっぽりと抜け落ちていた。
恐らくこれも、彼に与えられた制限ということだろう。
そこから辿るに、原作では木原マサキの人格にとって都合の悪い結末となった、という可能性は考慮せねばなるまい。

ここで現状判明している朝比奈みくるの設定を全て彼女に明かすこともできる。
だがゼオライマーにそんな真似をするつもりはない。
仮にここで全てを話して、その結果みくるがどういう反応を取ろうと、そのことで人格を別人の如く豹変させたとしても。
所詮、原作のキャラクターから枝分かれする可能性の一つ、延長線上のものに過ぎない。

そのようなキャラ崩壊など、彼は望まない。
キャラクターの本質を根底から覆す、ある意味そのキャラクターを全否定した上での崩壊。

そういう意味では、この娘は実に都合がいい。
彼女は自身のアイデンティティを崩壊させ、自分のオリジナルをも疑い始めている。
実験対象として、メスを入れるには格好の素材だ。
彼女を調教し、原作の朝比奈みくるとは似ても似つかぬ、全くの別物へと変貌させる。
朝比奈みくるというキャラを全否定し、侮辱し、踏み躙り。
彼女を知る者全てに嫌悪感をも抱かせるような、悪意に満ちた存在に変える。

(楽しませてやろうじゃないか。それが奴らの望むものかどうかは別として、な……)

――計画(プロジェクト)は始まったばかりだ。
 その最初の一環として、この娘には働いてもらおう。
 俺の期待を裏切ってくれるなよ……?


◇ ◇ ◇


怖い。この人、いえこのロボットが、怖い。

それでも、このまま何もできず死ぬのはもっと怖いから、私はこのロボットに従うしかありませんでした。

でも。

本当は、それだけじゃないんです。


『自分を変えたいか?』


そう言われたあの時。

確かに、私の心は、揺れ動いたんです。


【黎明/エリアV(駐車場外)】

【天のゼオライマー@スーパーロボット超合金】
【電力残量:65%】
【装備:次元連結システム】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1~3(エウクランテの分も含む。確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:木原マサキを超える。
 1:開催者を不快にさせる。
 2:朝比奈みくるの在り方を変貌させる。
 3:自らの身体を調査。秋津マサトを警戒。

【朝比奈みくる@figma】
【電力残量:85%】
【装備:拡張パーツ(大砲)@不明】
【所持品:クレイドル、基本パーツ、拡張パーツ×1~2(未確認)】
【状態:損傷なし(胸パーツは直しました)】
【思考・行動】
 基本方針:?????
 1:ゼオライマーについていく


◇ ◇ ◇


「駄目だ、どこにもいない……!」

初号機は少女を探しながら、駐車場まで辿り着いていた。
しかし、既にそこには誰の姿もなく。
残っているのは、先程殺人ロボットに壊された少女――かつてエウクランテと呼ばれた武装神姫の残骸のみだ。
無惨なその死骸が、初号機の不安をさらに掻き立てる。

しかし、彼を取り巻く環境は、他人に構える余裕をすぐに奪っていく。

(くそっ、もう電力が半分近くまで減ってる……一旦コンセントを探すか、さっきの場所まで戻らないと)

エヴァの悪すぎる燃費に、初号機は休息を決断せざるを得なかった。
ただ移動するだけでここまで消費するとは。この状態のままケーブルなしで戦闘に入れば、命に関わる。

ここに来るまで誰とも遭遇することはなかった。
このエリアから出るには、今初号機の通ってきた道か、さらに先にある駐車場の出入り口以外にはない。
そうなると、ロボットは出入り口から外に出たと考えるのが妥当だ。
少女の行方も気になるが、こちら側に逃げてきたとは限らない。
幸い、駐車場とは反対側の方向に逃げてくれた可能性もある。
……楽観視と言われればそれまでだが、今はそうであることを願うしかなかった。

あの殺人ロボットは何者なのか。詳細がわからない。
アクションフィギュアと言っても種類は山ほどある。外見だけでその情報を探し当てるのは困難を極めた。
人型ロボットタイプだけを抜き出しても、いやROBOT魂だけに限定しても、ラインナップは膨大だ。
せめて名前がわかればすぐにでも検索もできただろうが、それも叶わぬ話だ。

「あの子……無事でいてくれるといいけど」



かくして、初号機は自分の意思で前へと歩き出すことを選択した。
それが碇シンジという少年の性なのか、あるいは学習しないだけなのか。
いずれにしても、少女――朝比奈みくるの動向から察するに、今回も彼はまた同じ轍を踏みそうな予感がするのみである。
その宿命から逃れられる時が来るかどうか、果たして――?

【黎明/エリアQ(南部・駐車場エリア)】

【エヴァンゲリオン初号機@ROBOT魂】
【電力残量:60%】
【装備:なし】
【所持品:基本パーツ(同梱装備一式)、アンビリカルケーブル、V3ホッパー(仮面ライダーV3)@S.H.シリーズ、拡張パーツ×0~1(確認済み)】
【状態:損傷無し】
【思考・行動】
 基本方針:???
  1:ケーブルをコンセントに繋いで充電(コンセントを探すか、自販機の場所まで戻る)
  2:少女(みくる)を探し、救出する
  3:殺人ロボット(ゼオライマー)を警戒

※ケーブルを外すと電力消費が酷くなります。
※ケーブルの長さについては後の人に任せます。
※その他ケーブルの制限も後の人に任せます。

【アンビリカルケーブル】
エヴァンゲリオンシリーズに登場する電源供給装置。
エヴァンゲリオンの背部に差込口があり、元の電源と繋がっている間はほぼ無制限に活動することができる。

当プログラムに置いては電源と繋げる先端のプラグがコンセント対応となっており、
これに繋いでいる間エヴァンゲリオン初号機は電力の消費を気にすることなく行動できる。


前:それでも内なる神に祈れ 投下順に読む 次:Day after day
前:X―シルシの所在― 時系列順に読む 次:ヒーローVSプレデター
前:人の造りしもの(適当) エヴァンゲリオン初号機 次: 
前:人の造りしもの(適当) 朝比奈みくる 次: 
前:プロジェクト 天のゼオライマー 次: 

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最終更新:2014年05月28日 23:27