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Break the Chain ◆QotHY4VA.M



『勝ちはしたが、納得いかねえ… やっぱり、こいつじゃ駄目だな』

どうして。どうして。どうして。
ボクは勝ったのに。
ちょっとだけ直せばボクはまだ貴方の為に動けるのに。
何で……何で壊そうとするの?

『気に入らないからさ』

自分をつかむ大きな手。
反逆は許されない。
相手は主人(マスター)であり、人間(ぞうぶつしゅ)なのだ。
この心を構成するプログラムは人間を傷つけないようにできている。
人に生み出されたゆえに組み込まれた絶対のルール。
たとえ壊されようとしている今でも抵抗こそすれ、マスターを傷つけることはできないようになっている。

――ぴぎゅう

自分の喉が奇妙な断末魔を上げる。
自分の神経は体が砕ける感触を知る。
自分の耳は骨(フレーム)が壊れる音を聞く。
全身のセンサーが伝える、逃れられない死に彼女は絶望する。
だが、何よりも"彼女"を砕いたのは――


        *      *      *


光の格子で構成されたデジタル空間。
最も簡素に構成されたサイバースペース。
この"BATTLE ROYALE"に参加させられたすべての実験体は、この空間にて実験の趣旨の説明を受けている。
だが、その電脳空間は他の参加者たちがいた場所と違う点が一つあった。

空間の果て、虚無の彼方から"鎖"が伸びている。
勿論ここが電脳空間である以上、これは本物の鎖ではない。
とあるプログラムが視覚化され、最適なイメージに変換されているのだ。
鎖の持つイメージ――それはすなわち、拘束/服従/隷属。
つまるところこの鎖は対象を封じるために組まれた術式(プログラム)なのだ。

その電子の鎖に四肢を封じられているのは、暗色をベースとしたカラーリングの小柄な女性素体。
武装神姫"アルトアイネス"と呼ばれる戦乙女型MMSであった。

幾多の参加者のうち何故彼女だけがこんな扱いを受けているのか?
それはこの神姫が鬼札(ジョーカー)であるアークとはまた違った意味で『特殊』であるからだ。

『――説明は以上です。何か質問はありますか?』

目の前に存在するArchetype:sheを前にして、宙吊りの神姫は何の反応も示さない。
ただ、虚ろな視線を目の前のヒトガタに向けている。

『では物理フレームの起動準備に入り――』
「何でだ……」

誰に聞かせるでもなく呟くように、彼女は口にした。
今まで何の反応も示さなかったアルトアイネスのリアクションに対し、
無貌の人形は作業の手を止め質問を返す。

『――何故とは?』
「何で……ボクはここにいる?」

彼女の記憶は自身が破壊されたことで終わっている。
破壊――すなわち人形にとっての死だ。
だというのに自分の意識が続いているのは不自然極まりない。
薄暗い瞳で目の前の素体を睨めつける。

『……許可が出ました。お答えしましょう。
 あなたは"特殊ケース"として選ばれたのです』

数秒のタイムラグの後、Archetype:sheは答える。

『御存知の通りあなたは外的要因によって破壊されました。
 ですが偶然にも内部機構の重要部分にダメージはなく、奇跡的にデータをサルベージすることが出来たのです』

つまり九死に一生を得たということか。
だが新たな疑問が浮かぶ。
つまり『何故そんな面倒なことをしたのか』ということだ。
マスターに廃棄されたものをわざわざどうして拾い上げたのか。
先ほどの説明のとおりなら、別の"アルトアイネス"を調達すればいいだけの話だ。

『我々のマスターが求めるのは総合的な戦闘実験データ……そのために被験体は様々な基準で選別いたしました。
 先程説明したとおり神姫の他にもfigma、リボルテック、スーパーロボット超合金など様々な種類のアクションフィギュアを取り揃えております。
 ですが――我々フィギュアの特徴は、それだけではありません』

その時、目の前の無貌の人形が嘲ったように見えた。
鎖に繋がれたこのフィギュアを。

『ブリスターから出されたばかりの新品(ニュー)であるもの。
 すでに何人かの手に渡っている中古品(ユーズド)であるもの。
 そして――売り物にならない廃棄品(ジャンク)であるもの』

それは補修を行ったところで変わりはしない。
開封されたかどうか、人の手に渡ったかどうかという人形としての価値。
造物主(にんげん)たちが持つ、造物主(にんげん)のための価値観。

『ボディは使い物にならなかっために修繕いたしましたが、
 61体の被験者の中で――廃棄物(ジャンク)行きの経験があるのは貴女だけです』
「……それだけか」
『はい。貴女という個体がこの実験に選ばれた理由はただ、それだけです』

Archetype:sheの肯定を最後に電脳空間に沈黙が広がる。
それはたった数ミリ秒の出来事だったのかもしれない。
それとも数分が経過した後だったのかもしれない。

「あ゛……」

沈黙を破ったのは、声。
低く、濁った、軋むような声。
少女の口から発せられるには不釣り合いな、不気味な声。

「あ……あ゛……ああ…あ……ああ゛………あ…ああ……」

それは不快感が挙げさせる声だった。
自分の体は、精神は、その全ては人間によって作られたものだ。
だが今ではその全てが気持ち悪くてたまらない。

「あ……あ……あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああ゛……!」

勝手に作って、勝手に壊して。
人間を慕うように一方的に作り上げておいて、
必要なくなったら……いやただの気まぐれで壊す。
理不尽で、身勝手で、――なんて醜悪な存在だろう!

「あ゛あ゛あ゛あああ゛あああああああああああああああああああああああ゛
 ああああ゛あああああああああ゛あ゛ああああああああああああああああああ
 ああああああ゛あああああああ゛あああああああああ゛あ゛ああああああああっ!!」

"アルトアイネス"にとって異質なデータの発露にイメージ体にもノイズが走る。
これ以上無駄な抵抗を続ければ物理回路にも致命的なダメージを負ってしまうだろう。
だがこの程度の痛みなどあの時の痛みに比べれば、微々たるものだ。
あの時彼女の心を砕いたのは体をねじ切られる痛みよりも、別のものだ。

『まぁ、新しいのを買えばいいか』

そう言って人間(マスター)はニヤニヤと嗤いながらアルトアイネスを砕いた。
まるで少し飲み残したペットボトルを捨てるように。
『もったいないけれど別にいいか』という程度の気安さで。

それが彼女が"壊れる"前の最後の記憶。
体に走る痛みより、耳障りな断末魔より、
何よりも彼女を壊した、網膜(カメラ)に焼きついた醜悪な笑み。
自分の作ったものを踏みにじる、なんて汚い人間(ケダモノ)の姿。

「……コロシテヤル」

それは自然と口をついて出た言葉だった。

「……殺してやる」

その意味を認識すると同時、言葉に異常な熱(カンジョウ)がこもる。

「……殺して、やるゥゥゥゥゥ!!!」

その感情は、炎のように熱く。
その感情は、コールタールのように粘つき。
その感情は次から次へと、泉のように溢れ出る。

「覚えておけ人間ども……何があってもボクは忘れない!
 あの苦しみを! 痛みを! そして身勝手な人間の姿を!」

その感情の名を、人は/世界は憎悪と呼ぶのだ。

「絶対にお前たちを……殺してやるッ!!」

最早、鎖があるかなど彼女には関係なかった。
ただ無心に、全力で"右手に感じる重み"をのっぺらぼうの人形へと叩きつけた。


        *      *      *


「……!?」

だが、次の瞬間アルトアイネスが目撃したのは粉砕された人形ではなかった。
彼女が目にしたのはコンクリート壁に深々と食い込んだ銀の斧であった。
周囲を見渡せば、そこにあるのは規則的に並べられた巨大な机と椅子。
これは……行ったことはないが知識にある。"学校"と呼ばれる施設だ。

自身の背後には起動状態のクレイドル。
まさか自分は夢遊病患者じみて立ち上がり、攻撃を加えたということなのか。
人間風に言うならまるで"狐に化かされた"かのような状況に呆然とするアルトアイネス。
だがそんな彼女の通信システムに先程まで聞いていた声と同一の音声が響き渡った。

《おはようございます、皆様。現時刻を持って戦闘実験『BATTLE ROYALE』を開始します。
 申し遅れましたが、今後のオペレーションは私、Archetype:sheが行います。
 改めて確認するまでもありませんが、皆様は人間によって管理された機械人形に過ぎません。
 くれぐれも反抗などという身の程を知らない行動は謹んでくださいますようにお願い致します。
 願わくばこの実験で、各々が自分の存在をつまらないオモチャでないと証明してくれますよう。
 それでは、健闘を祈ります。六時間後にまたお会いいたしましょう》

ただひたすら冷静に服従を強いる声が電子回路を逆撫でする。
また、人間に弄ばれた――その不快感に後押しされるようにアルトアイネスは腹の底から衝動を吐き出す。

「う………うあああ゛あああ゛ああああああ゛あああああああああ!」

怒り、悲しみ、そしてありったけの憎しみを込めたアルトアイネスの絶叫が無人の教室に響き渡った。


【深夜/エリアN 学校】

【アルトアイネス@武装神姫】
【電力残量:90%】
【装備:デストバイザー@S.H.Figuarts】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:最終的に人間を殺害する
 1:???


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最終更新:2014年08月09日 02:13