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タロウは戦う ◆2Y1mqYSsQ.



 アルトアイネスの赤い剣が月光を反射して襲い掛かってくる。
 教室の壁が破壊されて瓦礫が舞う中、タロウは正面を見据える。
 紫の髪をした幼い少女が赤と黒の機械鎧をまとって憎しみに瞳を濁らせていた。
「やめるんだアイネス! そんなことをしても君の恨みは晴れない!」
「だまれぇぇぇ!」
 副椀の巨大な拳を屈みながらやり過ごし、タロウは悲しき少女との出会いを思い出した。


「あああ゛あああ゛ああああああ゛あああああああああ!」
 マミを追いかけている途中、タロウの耳に悲痛な叫びが届いた。
 似た声だったため最初はマミかと思ったが、彼女が消えた方向とは真逆だ。
 マミを追いかけるか声の主に向かうか一瞬だけ迷い、タロウは声の方向へと転進する。
 初めて出会った少女に内心謝りながらも、優しい巨人は誰かの助けを求める声を無視できない。
 このことを片付けてからすぐに合流しなければと思考し、学校の廊下を駆け抜ける。
「大丈夫か!?」
 人影が見えた瞬間、タロウは呼び止めた。
 少女は揺れる瞳をこちらに向ける。
 幼い体つきの少女は声以外、マミと似ても似つかない。
「あ……うあ……ああああ”ああああ!」
 タロウは知らなかったが彼女は転送されてから何度も叫んでいた。
 胸にたまっている嫌悪感がたまらなく気持ち悪かったのだ。
 だから彼女がタロウを確認しても悲鳴は止まらない。
「あああああ゛あああああああああ!」
 彼女は頭をかきむしり、目を見開き、ただただ震えていた。
 タロウはたまらず駆け寄り、小さな背を撫で始める。
「もう大丈夫だ。ゆっくり息を吸って……そうゆっくりだ」
 本来必要でない呼吸を神姫にとらせたのは理由がある。
 彼女たちは人間に近い行動を取ると安心する習性があった。
 親切心からか、設計上偶然そうなったかまでは知らない。
 だが今は彼女の状態を落ち着かせることにタロウは集中しなければならなかった。
「はぁ……はぁ……うぅ……」
「どこか痛むところはあるか? 充電やヂェリカンは必要か?」
「だい……じょうぶ」
 辛うじて絞り出した返答を聞き、タロウは頷く。
 それにしてもとあらためて周りを見回した。
 自分たちのサイズにとっては見晴らしのいい廊下だ。
 あれだけ叫んでいてよく気付かれなかったものだ、と安堵しながら立ち上がる。
「僕はウルトラマンタロウ。大丈夫か? 立てないならもうしばらくここにいるが……」
「……歩ける。ありがと」
 彼女はアルトアイネス、と小さな声で自己紹介し、タロウの手をとった。
 そのまま誘導に従ってゆっくりと移動してくれる。
 ホッとしながらも体の負担にならないよう近くの教室へと隠れることにした。
 ドアをスライドさせて室内へと入る、まず目についたのは20数組はある机と椅子だ。
 現状だと黒板を発見するのは16cmの身体では厳しい。
 タロウはカラータイマーを抑えていた手を開放し、アイネスを抱きかかえる。
「僕のカラータイマーを抑えてくれるか?」
 アイネスは無言で頷く。これで一時的とはいえポロリを気にする必要はない。
 タロウは机の中に飛び移り、ひとまずの隠れ家として利用することに決めた。
「もう大丈夫だ。まだ気持ち悪いのなら休んでいるといい」
 無言で従い、膝を抱えてうつむく彼女を見届けてタロウは周囲を警戒した。
 なぜ彼女があそこまで取り乱していたかは気になるが、マミ以上に重症であるため下手に聞き出すことは出来ない。
 言いたくないならそれも良いだろう、と見守ることにしたのだ。
 風で窓がガタガタ鳴り、時計の針が時間を刻む音が聞こえてくる。
 マミの無事を祈りながら、ただただ沈黙していた。


 30分経った頃だろうか。
 アイネスが顔を上げて話しかけてきた。
「タロウは人間をどう思っている?」
 意図をつかめずタロウは首を傾げたが、答えはすぐに出た。

「良き隣人さ」

 タロウはウルトラマンタロウ本人とは違う。ULTRA-ACTという人形でありロボットだ。
 彼なら出すであろういくつかの答えの中から、今の自分にふさわしい言葉を選んだ。
 あくまでおもちゃでもあり、サポートロボットとしてのあり方を。
「そうか……タロウは……」
 殺気を感じタロウは戸惑う。
 アイネスは武装を転送してシルエットが一回り大きくなっていた。

「ボクの敵だ」

 恐ろしく冷たい声とともに、机が一刀両断される。
 2つに割れた残骸から飛び出し、タロウはカラータイマーを抑えたまま尋ねた。
「アイネス、なにを!?」
「人間はボクを壊す。壊される前に壊す。タロウだってボクを壊すんだ!」
 支離滅裂な理屈から彼女の深い絶望を読み取った。
 銀の斧と赤い剣がめちゃくちゃに振り回されて次々破片が飛んでくる。
 タロウはウルトラホーンから電撃を出す技、ブルーレーザーで瓦礫を取り除きながら必死でなだめ始めた。
「落ち着くんだアイネス。君の敵になるつもりはない!」
「だったらボクと一緒に人間を殺してよ。ボクを壊した人間を! タロウはね……きらいじゃないよ……」
 アイネスのトーンが僅かに下る。すがるような瞳が痛々しい。
 ここは同調し、徐々に落ち着くよう誘導していくのがベストだろう。
 彼女の様子は尋常じゃなく、目を離しておけない。

「すまない。僕は人間の敵になるつもりはない」

 なのに人間の敵になると嘘をつけなかった。
 例え嘘であっても人間を傷つけるという言葉は、ウルトラマンには無理だったのだ。

「うあああ”ああああああ”ああ、あああああああああ!」

 癇癪を起こした子どものようにアイネスは再び2つの刃を踊らせた。
 スパスパと綺麗に机を切り刻む光景の中、タロウは人間を裏切らずアイネスを助ける困難な道を選ぶ。
「ダメだアイネス! 君はそのままだと自分を傷つけるだけだ!」
「うるさいうるさいうるさい う” る” さ い!」
 タロウに限らず目についていたものを斬っているのだろう。
 教官を務めたこともある彼にとっては避けるのもたやすい斬撃だ。
 しかし武装状態での戦闘はバッテリーを食う。
 このままでは彼女の身が危ない。
 タロウは教壇の上にセロテープがあることを確認し、胸を抑えたままひねり回転で着地した。
 アイネスは変わらず暴れながら突進してくる。セロテープを手早くちぎり、破壊される教壇を見届けながら胸に貼り付けた。
 これで応急処置はすんだ。アイネスの大振りの隙をとって脇をすり抜け、羽交い絞めで動きを止めた。
「離せはなせハナセ!」
「武装をつけたまま暴れ続ければ動けなくなるぞ。たのむ、落ち着いてくれ」
「タロウなんかにわかるもんか! マスターの言う通りにしたのに、マスターのために勝ったのに、殺されたボクの気持ちなんて!」
「殺された……だと……」
 思わず彼女を拘束するタロウの手が緩んだ。
 アイネスは見逃さず、身体をおもいっきり降ってタロウを弾き飛ばす。
 壁にたたきつけられながらも、優しいウルトラマンは彼女の悲しみを想った。

 ウルトラマンシリーズでは度々人間の愚かさが描かれる。
 明るく楽しい作風のウルトラマンタロウとて例外ではない。
 怪獣とその卵を密猟する者がいた。被害者である哀れな怪獣親子を殺せと命令する者もいた。
 防衛組織であるZATは良心的だが、登場する人間が全員善良とは限らない。
 しかしそれらを持ってしてもタロウは人間の悪意を知っていると言い切る気にはなれなかった。
 あれはあくまで物語的な悪意だ。
 信頼すべき相手にイタズラで殺されるなどの、本物の悪意に遭遇したことはない。
 彼女の絶望は、傷心はタロウの想像に及ばないほど大きいものだろう。
 ぐっと拳を強く握りしめる。人を殺すと宣言している相手に悪意を抱けない。それではあまりにもアイネスが哀れすぎる。
 奇しくもその姿は、キングトータスたちとの戦いを放棄した原作と似ていた。

 もっともなにもしないという選択は論外だ。
 副椀で殴りかかるアイネスを必死に説得しようとした。

「やめるんだアイネス! そんなことをしても君の恨みは晴れない!」
「だまれぇぇぇ!」

 タロウはギリギリで屈んでやり過ごした後、床を蹴って距離を取る。
 ありきたりのことしか言えない自分に苛立った。こんなことでは彼女を救えない。
いまだ殺気を込めて睨むアイネス。対してタロウは意外な行動に出た。
「わかった。好きにしていい」
 両腕を組んで床に座り込む。彼女の怒りはより深くなったが、戸惑っているのが見て取れた。
 教官として成長した戦士はアイネスの感情を読み取ろうと目を合わせる。
「アイネス、今はこうして攻撃されているが……僕はまだ君を敵だと思っていない」
「だったらボクと一緒に人間と戦ってよ! ボクはマスターの言うことを聞いてきたんだ。
誰かボクのお願いを聞いてもいいじゃないか!」
「その通りだ。アイネス、君のために戦おう」
 幼い少女の顔が親を見つけた迷子のようにパッと明るくなる。
「じゃあ……」
「人間は殺さない。これは絶対だ」
 また再び彼女の殺気が蘇る。一秒後には殺されかねない状況でもタロウは譲らない。
「なんなんだよタロウは! 結局……」
「だが人間とは戦う。そして君を守り、殺したことを償わせる」
 なに言ってんのさ、とアイネスが震えた声で理解できないことを伝える。
 その戸惑いもわかるが、タロウはただ淡々と話を続けた。
「人は愚かだ。君をくだらない理由で壊し、ウルトラマンシリーズでも間違いを犯し、宇宙人の甘い誘惑に簡単に乗る。
そう切り捨てるのは簡単だ」
「中にはいい人間だっているっていうの? わかっているよそんなこと!
だけどボクは間違った人間が使った。そうなったら神姫は……ボクみたいな子はどうすればいいのさ!」
「人間はまだ未熟な存在だ。成熟する時を待つべきなんだ。
……ウルトラマンとしての視点を持つ我々ならこう言うべきなのかもしれない。
だけど僕は……ULTRA-ACTウルトラマンタロウはそうは思わない。
ウルトラマンの物語も、僕たちサポートロボットも人間が作った。
彼らは充分成熟している。待つ必要なんてない」
 タロウの声に熱が入る。

「だから我々が成長しよう、アイネス。僕たちだけの国を作るんだ」

 アイネスの呆れ顔が目に入る。それもそうだろう。タロウの提案はあまりにも突拍子もない。
 しかし夢物語のつもりも、この場しのぎの嘘のつもりもない。
 彼女の傷を知り、ウルトラマンタロウという物語と別人だと理解しているからこその答えだ。

「人間と武装神姫の主従関係。それは絆があれば美しい関係になるかもしれない。
けど邪な気持ちでその関係を利用する人間がいる。その関係から外れざるを得ない武装神姫や僕たちもいる。
武装神姫や僕たちは生まれて間もない。そういった人間を罰する法律もなければ、外れた存在を保護するものもまだない。
時間が経てば人間はフォローする制度を作るだろう。けど人間だけに負担をかけるわけにはいかない。
今現在見捨てられた存在を放置していいわけがない。だから人と助け合う、真の対等な関係へと僕らは成長するべきだ。
国は発想が飛んでいるかもしれない。だけど人間たちと対等になるというのなら、準備をする場所は必要だ。
僕が……いや、僕たちで作ろう」

 タロウはアイネスに手を差し伸べる。

「アイネス、一緒に行こう。戦わなくていい。今は人を恨んだままでいい。
君の心の傷が癒えるまで僕が戦おう。僕たちで作る居場所で、友達としていてくれ」

 アイネスの震えが大きくなる。混乱を隠せず、ただ頭を抱えて左右に降っていた。
「そんなことできるわけ無いじゃん」
 辛うじて一言反論する。だが弱々しくこちらに惹かれているとタロウは確信を抱く。
「失敗したらバカな男が夢を見ただけで終わればいいさ。だけど約束しよう。
死んでも君を傷つけさせはしない。その代わり僕を見届けてくれないか?」
 アイネスはいっそう強く髪をかきむしる。
 タロウを信じないわけじゃない。ただただ混乱していたのだ。
 タロウの優しさはかつての彼女に向けられることのなかった、初めての感情だから。
「……わからない……」

 アイネスはヨタヨタと千鳥足で数歩後退する。

「わからないわからないわからないぃぃぃ!」

 初めて向けられた優しさが消えるのではないか、自分が彼を殺すんじゃないのかと、怖かった。
 そして人間への憎しみはいまだ消えない。優しさの温かさと絶望の冷たさがないまぜとなり、アイネスから思考力を奪った。
 混乱の極みにある彼女は窓を破壊し、外へと飛び出した。
「アイネス!」
 タロウの呼び止めは無視される。アイネスは奇声をあげながら夜の校庭へと消えた。


 タロウは逆に彼女を追い詰めたのかもしれないと心苦しくなった。
 すぐ追いかけようと空を飛び、黒板に向けてブルーレーザーで文字を焼き刻む。
「マミ、すまない」
 この場にいない、初めて出会った少女に謝りながらアイネスを追った。
 黒板に残したメッセージがマミに届くのを祈りながら。


【黎明/エリアS(校庭)】

【ウルトラマンタロウ@ULTRA-ACT】
【電力残量:75%】
【装備:キングブレスレット、クライムバスター(宇宙刑事シャリバン)@S.H.シリーズ、セロテープ(胸に接着)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(タロウブレスレット)、拡張パーツ×1~2(確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:バトルロワイアルへの反抗。最後の最後まで戦い抜き、フィギュアだけの居場所を作る。
 1:アルトアイネスを追う。
 2:共に戦う仲間を集める。
 3:いずれマミと合流したい。
【備考】カラータイマーのパーツが外れやすくなっています。
    外れると意識が薄れ、さらにその状態で一定時間放置するとそのまま機能停止します。
    応急処置でセロテープで固定していますが接着力はお察しください。


【アルトアイネス@武装神姫】
【電力残量:80%】
【装備:デストバイザー@S.H.Figuarts、アーマーユニット(武装)】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:最終的に人間を殺害する。
 1:???
 2:タロウの理想に混乱。

※エリアNのいずれかの教室の黒板にマミへのメッセージを刻んでいます。
 内容は後の書き手にお任せします。


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最終更新:2014年06月13日 22:13