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Install×Soldier Dream ◆2Y1mqYSsQ.



 大通りの交差点は広く、信号機がただ点滅を繰り返すだけだった。
 暗い夜道を照らす街灯がまたたき、街路樹の葉が風に揺れる。
 無人の道路を小さな影が2つ横切った。続けて発砲音がひびき、地面が爆ぜる。
 火を吹く地面の合間を縫って銀髪の少女は駆け抜ける。
 丈の短いジャットに収まりきらない豊かな膨らみを揺らしつつ、後方に語りかけた。
「私はあなたと争うつもりはありません。すぐに武器を収めてください」
 凛とした張りのある声が響くが、襲撃者は無言。
 銃撃が止まらないのを確認し、顎を引いて彼女は舌打ちをした。
「仕方ありません」
 少女は方向転換し、細身には不釣り合いの巨大な銃を転送させて構える。
 神機――神を喰らう武器を操る彼女の名をアリサ・イリーニチナ・アミエーラと言う。
 赤く禍々しい銃から弾丸が射出され、空で破裂した。
 威嚇のつもりだ。できれば相手が逃げるのを望んだが、そうはいかない。
 青い髪の少女が黒い機械装甲をまとって迫ってくる。
 D-ArtsよりGOD EATERというゲームのキャラクターを模したアリサにも、彼女が武装神姫であることは理解した。
 悪魔の様な禍々しさに、原作中のアラガミを思い出しながらも引き金を絞る。
 相変わらず威嚇射撃なのは、人の形をするものを撃つことに抵抗があるためである。
「そんなものであたしが止められると思ったか!」
 武装神姫が吠え、長短のブレードを振り下げた。
 アリサは自身を襲う刃を、光とともに現れた赤い剣で受け止める。
 先ほどの銃が変形したかのようなシルエットの大剣だが、実際に変形したわけではない。
 彼女はバージョン違いで武器が2つ用意されている。
 原作のように変形しながら戦うことは出来なくても、転送によって遠近両方に対応ができたのだ。

 もっともデメリットもある。
 転送はバッテリーを食うため、頻繁に入れ替えをしていればすぐに息切れする。
 そして記憶の変形と手順が違うため、いまだ慣れず僅かな隙が生じた。
「武器の入れ替えにもたもたしているようでは勝てないぞ」
「大きなお世話……です!」
 アリサは大剣の重量と自らの腕力で強引に押し、反動で武装神姫と距離を離す。
 相手は滞空しながらこちらを見下ろした。人形である自分たちにとって街の交差点は広すぎる。
 アリサが飛べない以上、地の利は武装神姫である彼女にあった。
「こんな悪趣味な実験に従うつもりですか?」
「愚問だ。あたしたち武装神姫は戦う事こそ本望。
いや、他の神姫は知らないが、誇り高きストラーフ型であるあたしは妥協しない!」
「そんな――無意味なっ」
 言葉は銃撃で遮られ、アリサは回避運動に専念せざるを得なくなる。
 巨大な神機を持っているとは思えないほど軽快な動きだ。原作通りの動きで安心する。
 だがいつまでも避け続けることは不可能だ。
 アリサは銃口を武装神姫に向け――仲間を撃った記憶を呼び起こす。
「――くっ!」
 これは自分自身の記憶ではない。
 あくまで原作キャラクターの記憶と傷心であって、ロボットである自分とは無関係なのだ。
 そう言い聞かせても、アリサに迷いは残る。引き金に力が入った時にはもう遅い。
 武装神姫の刃が自分を捉え、振り下ろされる。

「アナザーディメンション!」

 唐突に聞こえた声とともに、小宇宙の輝きが世界を染めた。


 アリサは目の前で起こったことに戸惑った。
 どうやら間一髪というところで青い髪の青年が自分を助けたようだ。
 それにしても派手な黄金鎧だと呆れてしまう。
「ありがとうございます。助けてくれたということは味方と判断してよろしいのですか?」
「いや、こちらも頼みがあってしただけだ。礼はいらない」
 そう言って彼は吹き飛ばした相手を見つめていた。
 アリサは知らなかったが、原作のアナザーディメンションとは異次元へと相手を飛ばす技だ。
 もちろん神姫と同じ原理で動くロボットである以上、そんなことは不可能である。
 消費と演出が派手かつ相手を吹き飛ばす技へと変更されていた。
 もっとも、この技を使う黄金聖闘士には些細な事だ。
「わたしの名はサガ。彼女は聖闘士の技を受けてしばらく動けないが、時間はあまりない。ゆえに要件を手短に伝える」
「アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。ぶしつけですね」
「すまない。彼女はわたしが受け持とう。その代わりマンションの3階に集まっている彼らに伝えてほしいことがある」
 アリサは帽子を深くかぶり直し、抗議をさらっと流されたことにムッとして頬をふくらませる。
 そんな彼女の子どもっぽい抗議を無視して、サガは話を続けた。
「襲撃者である雪菜=シュネーラインという少女は洗脳されている。戦うのは無意味だ。すぐその場を離れて欲しい、と伝えてくれないか?」
「洗脳!?」
 アリサの脳裏に嫌な記憶が蘇る。
 アラガミに食い殺される両親の姿。
 精神が不安定な自分に語りかける中年の男性。
 そして両親の仇をすり替える洗脳行為。
 いずれも原作であるGOD EATERにおいてアリサが受けた忌まわしい記憶だ。
 ご丁寧にロボットである自分に刻み込まれていた。
「顔色が悪い。体調がすぐれないのか?」
「――いえ、問題ありません。続きをお願いします」
 サガは静かにうなずく。
「彼女は幻朧魔皇拳を受け、目の前で死人が出なければ解けぬ洗脳状態にある。早く離れねば犠牲が出るだけだ」
「ちょっと待ってください。詳しすぎます……まさかあなた……」
 アリサの疑問はもっともだった。洗脳技なんて限定的すぎるのだ。ネットツールを使って情報を集められるとはいえ詳しすぎる。
 そんなにスラスラと説明できるのは同原作出身者であるか、使った本人かだ。
 思わずアリサが疑惑の眼差しを向けるが、サガは無表情のまま肯定する。

「その通りだ。この双子座のサガが幻朧魔皇拳を使い、雪菜と言う少女を洗脳した」

 なに考えているかわからないほど淡々とした声だった。
 アリサはカッと頭に血が上る。先程も言ったようにアリサと言うキャラは洗脳の結果、仲間を撃つという裏切り行為を行わされた。
 周りに癒やされた記憶があるとはいえ、嫌悪感を抱くのも無理は無い。
「あなた最低です」
「まったくだ。女神の聖闘士に相応しくない鬼畜の所業だ」
「なに他人ごとみたいに!」
 アリサが怒りに任せて吐き捨てようとした時だった。
 サガは神機の銃口を手に取り、自らの額に合わせる。
「信用できないならその引き金を引くといい。だがわずかでもわたしの言葉に耳を傾け、彼女の仲間たちを避難させてくれるというなら……命を持って彼女の洗脳を解こう。
責任はこのサガが取る」
 サガの瞳は本気だった。だからこそアリサの混乱は余計深まる。
 一見善人のように近寄りながら自分を利用した男を知っている。
 彼のように善良な人間を演じているだけなのだろうか。
 しかし、技のことを詳しく言うのも、洗脳したと自白するのも変だ。
 騙すのならいくらでもごまかせたというのに。
「もう一度確認します。向かわなければマンションの人たちと洗脳された少女が危険なのですね?」
「ああ」
「――なら選択の余地はありません」
 悩んで時間をいたずらに消費する訳にはいかない。
 アリサは割りきり、彼の言うとおりマンションへと向かうことにした。
 ちらっと張本人の顔を覗き見る。サガは無表情の顔をままだったが、再びマンションの方に視線を向けていた。
 彼女は神機を収め身を翻し、振り返らぬままサガに語りかける。
「言いたいことが少しあります。あなたのした行為は許されることではありません。ドン引きです。
責任を取りたいといいましたが、私は信用できません。こちらで勝手に洗脳を解く方法を探します」
 罵られて当然だと言わんばかりに、サガはひたすら沈黙した。
 アリサは目を伏せ、短いため息をつく。

「ですが本当に償いたいのでしたら、命を捨てること以外でお願いします。
私たちと合流して一緒に洗脳を解き、その娘に謝るべきです。わかりましたか?」
「……約束はできない。だがアリサ、君は優しいのだな。礼を言う」
「そ、そんなつもりではありません。私はただ無責任だと思っただけで……」

 アリサはしどろもどろになって頬が熱くなるが、サガは前を見据えたままもう一つ忠告する。
「アリサ、離れる前にもう一つ伝えるべきことがある。灰色の髪のわたしを見かけたら容赦なく撃て。敵だ」
「どういうことですか? 意味がわかりません」
「『双子』座のサガと言う名で察して欲しい」
 アリサは釈然としないものの頷いた。後でネットツールで調べればいいのだろう。
 もう話すことはないため一目散にマンションへと走りだす。手ぶらで動くのは違和感を感じるが時間が惜しい。
 自らが味わった仲間を撃つ罪を未然に防ぐため、神を喰らう武器を持つ少女は疾走した。


【深夜/エリアL(マンション前)】

【アリサ・イリーニチナ・アミエーラ@D-Arts】
【電力残量:70%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、神機、神機銃形態、拡張パーツ×2(未確認)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
 基本方針:マンションに向かう。
 1:サガの伝言をマンション組に伝える。
 2:サガを信用するかどうか迷い。


「――さて」
 サガはアリサの気配が消えたのを確認して、立ち上がるストラーフMk.2を正面に据える。
 彼女は凛々しい顔に殺気を乗せてこちらを睨んでいた。
 どうにか背中から伸びる巨大な副腕を駆使して立ち上がり、サガと対峙する。
「あたしを、ストラーフ型を舐めるなっ!」
 悪魔型を冠する武装神姫は吠え、空よりサガに襲いかかる。
 青い刃が月光を反射して冴え渡り、金の鎧を砕かんと凪振るわれた。
「なに!?」
 驚きの声を発したのはサガではなくストラーフMK.2だった。
 サガはまったく構えをとらず、無防備のまま大小の刃を受け止めたのだ。
 原作の黄金聖衣の頑丈さはなく、刃との接触部には傷が走る。
 だがストラーフMK.2は強者でありながらその対応をすることに腹を立てた。
「なんのつもりだ! あたしはまともに戦う価値がないというのか? 馬鹿にするな!」
 再び青い剣筋が踊りだす。今度は紙一重で避け、ストラーフMK.2の懐へとサガは潜り込んだ。
 圧倒的な実力差を前に彼女は焦りを覚える。
「……もうやめにしないか?」
 静かに諭すようなつぶやきは、火に油を注ぐようなものだった。
 少女は子供扱いされたと逆上し、距離をとってより激しく攻撃を続ける。
 ハンドガンが火を吹いて地面に銃痕を穿っていくも、ただの一発も標的を捉えることはない。
 そして相変わらずサガは反撃をしなかった。
「なぜ無抵抗でいる!? ふざけているのか!」
「……お前が思っているほどわたしと実力差などない。その上で悪であるのならこの拳も振ろう。命も賭けよう。
だがわたしにはお前が悪だとはどうしても思えないのだ」
「ほざけ!」
 副腕の巨大な拳がアスファルトを叩き割る。
 余裕綽々で避けるサガに苛立ちながら何度も殴打を繰り返した。
「なぜだ……なぜ当たらない! あたしはストラーフ型なのに……戦うために生まれた存在なのに!?
お前のようなオモチャの方が優れているというのか!」
「それは違う」
 サガは悲しげな眼差しをストラーフMK.2へと送る。
「我々黄金聖闘士は光速拳を放つことができる。ゆえに多くの攻撃を避ける事もたやすいだろう。
だがそれはあくまで原作の話だ。わたしは聖闘士聖衣神話というフィギュアの一体に、武装神姫と同じ技術を盛り込んだロボットにすぎない。
先程も言ったようにお前との実力差はほとんどない」
「現にあたしの攻撃がお前に当たらない!」
「当然だ」
 サガは無防備に歩きながらストラーフMk.2へと近寄っていく。
 迎撃のため副腕の拳で殴る体勢になるが、放つ前に彼はこの拳を手のひらで包んだ。

「ストラーフの少女……いや神姫。お前はわたしを壊すことを恐れているではないか」

 優しい声音を耳にした瞬間、ストラーフMK.2は焦ってその場を離れた。
 人間で言う動悸が激しくなり身体がガタガタ震える。歯を食いしばり、上段から剣を繰り出す。
 サガは身じろぎすらしない。青い刃は風切音とともに鎧に包まれていない頭部を目指し、皮一枚でピタリと止まる。
 ストラーフMK.2は息を切らせながらも、サガを斬ることが出来なかった。
「これがお前にとっての初戦であるなら刃をおろせたかもしれない。
だがこの戦いの前に一戦をこなしてきたと見える。その時に悟ったはずだ」
「黙れ、黙れえええええ!」
 ストラーフMK.2の叫びはまるで懇願しているようだった。
 だからこそサガは続きを告げる。

「このバトルはお前たち武装神姫が誇っていた物と違う。
勝ち上がっても残るのは罪悪感と神姫であるがゆえの苦しみしかない、と」

 ストラーフMK.2は地面がなくなったかのような錯覚を起こす。
 膝が崩れ武器を取りこぼし、焦点が合わない。
「スポーツとして勝ちを誇れるバトルなどここにはない。勝つ喜びをわかち合える相手もいない。
本来は必要のない機能停止まで相手を追い詰め、自らもまたその危険にさらされる。
それは本当に武装神姫の戦いの場なのか? お前は自分を傷つけているだけだ」
「それくらいわかっている……」
 グッ、と拳を握りしめ、ストラーフMK.2は顔を上げる。
 瞳には涙を浮かべながら、にじむ視界でサガを捉えて叫んだ。

「だったらボクはどうすればよかったの!」

 サガは答えない。今度は静かに見守る必要があった。
「ボクだって他の子を壊したくない、壊れたくないよ! 仮面ライダーのキックが迫ったときとっても怖かった。
でもボクだって同じことをした。だってストラーフ型なんだもん。
マスターのために戦えないなら、バトルに勝つしかボクに、武装神姫に価値なんてないじゃない」
 ストラーフMK.2は頭を抱えて激しく振る。罪悪感を追い出そうとして苦しんでいるように。
「これは実験だって言っていた。だったらきっと人間が関わっている。
武装神姫として、ストラーフ型としてボクは戦わなくちゃいけないんだ。それが武装神姫として間違っていても!
だから、だから……」
 ストラーフMK.2は身を抱きしめて懸命に自分を奮いたたせる。
 それでももう戦意は残っているように見えなかった。
 彼女の葛藤は、苦しみは、彼にとっても辛いものであった。
「……本来、聖闘士は女神アテナを守り、正義に生きるべき存在だ」
 サガはぽつり、と悔しさを滲ませながら漏らした。
「その道を外れ、守るべき女神の命を狙い刺客を放つ。
そんな裏切り者がわたしのもととなった男だ」
「サガ……なんで……そんなことをボクに……?」
「同時にわたし……いや双子座のサガが、正義の聖闘士としてアテナを守りたいとも切望していたからだ。
この身に邪悪を宿しながら、正道を羨み、できれば歩みたいと願っていた。
ストラーフ、だからこそ伝えたい。お前は武装神姫としての道を外れてはいけない」
 神の化身と謳われた男は少女の頬をなでて、慈愛の眼差しを向けた。
 後悔の念も含んだ行為はとても優しく、温かい。

「この実験から逃れられれば、優しいマスターを持つこともできるだろう。
先ほどのアリサという少女と合流し、脱出を目指し、武装神姫として新たなマスターを持て。
お前のような優しい少女が双子座のサガと同じ過ちを犯してはいけない。頼む」

 自分は腕を頭上に上げるギャラクシアンエクスプロージョンの構えもろくに取れない旧式オモチャにすぎない。
 いつ邪悪な心に支配されるかわかったものではない。
 それでも双子座のサガなのだ。
 自分が味わった苦しみを抱えようとしている優しい少女がいるのなら、正しい道へ戻って欲しい。
 そう願わずにいられない男だった。
「どうしてボクを気にかけてくれるの? いくら嫌だと思っていても、誰かれ構わず襲ったんだよ。だったら……」
「お前たち武装神姫はマスターのためにすべてを捧げる存在と聞いた。
アテナのために戦う聖闘士である身ゆえ、どうしても共感してしまう。それに――」
 フッ、とサガは僅かに頬を緩める。

「神の姫……女神が苦しんでいるなら救ってやりたい。そう聖闘士が願うのはおかしいのか?」

 ストラーフMK.2は顔をうつむかせた。サガはただ静かに彼女の返事を待つ。
 願わくば先ほど提案したようにアリサと合流して欲しかった。
「……心配してくれてありがとう」
「ならば先程の――」
 サガの言葉を断ち切るように、鋭い一撃が逆袈裟で襲ってきた。
 間一髪で避けることに成功するも今まで一番速く、鋭い一撃だった。
「……ストラーフ」
「ごめん、あなたの言うことはもっともだと思う。それが一番、武装神姫として正しいんだって理解している」
 顔を上げた武装神姫の頬には、涙が一筋流れていた。
 多くを語らずともサガには理解できてしまった。
 彼女はもう覚悟してしまったのだと。
「お前が歩もうとする道は茨の道だぞ?」
「わかっている。サガが辛い目に遭ったんだって、ボクへの態度でよくわかった。
だけどね――」
 ストラーフMK.2は笑顔を浮かべた。
 涙を流し表情は強ばっているもの、瞳には愛情があふれている。

「それでも人間が大好きなんだ」

 切なく、熱く、狂おしく、ストラーフMK.2は言い切った。

「その人間がボクに……あたしに悪魔型ストラーフMK.2としての戦闘を望むなら、最後まで貫いてあげたい。
武装神姫として間違っているとしても、あたしのマスターかもしれない人が楽しんでくれるなら、それだけでいい」

 ストラーフMk.2の武装が光り、彼女から外れて重戦闘機へと変形する。
 ウラガーン――ストラーフMK.2の切り札だ。
「あたしのバッテリーは残り少ない。これが最後の一撃だ。
……すまない、わがままに付きあわせてしまって」
「それも運命か」
 サガもこの戦いで初めて構えを取る。悲しげな表情を隠すこともなく、胸の前で両手をクロスさせる、初期ギャラクシアンエクスプロージョンの構えを。
 冷たい夜風が吹き、街灯がジジっと鳴って光が一瞬弱くなる。

「砕けろ! ジャーヴァル・クルイク!」
「ギャラクシアンエクスプロージョン!」

 ウラカーンの上に乗ったストラーフMK.2が吠え、風の壁をまとい一直線にサガへと迫る。
 星々の奔流が突進の勢いを削るが、それでも必殺の一撃は止まらない。
 覚悟の重さか、とサガは黒い砲弾と化した神姫に悲哀の視線を送る。
 応えてやらねばならない。
 星の砕ける音が激しくなり、ストラーフMK.2を迎え撃つ。
 それでもウランカーンの機首が黄金の鎧に届いた。


 サガは片膝をついて大きく呼吸を乱す。
 双子座の聖衣は右肩のパーツが砕け散り、素体の二の腕が露出していた。
 バッテリーも残り少なく、継続しての戦闘は不可能だろう。
 けれどもサガはひび割ればかりの道路の中、立ち上がってストラーフMK.2の姿を探した。
 先に彼女のサポートメカが視界に入る。ウランカーンはギャラクシアンエクスプロージョンを受けて、前半分を消失していた。
 幸い脚部ユニットは無事だが、背中から生えていた副椀は全滅だろう。
 一方、神姫自身は振り落とされた衝撃で動けないだけで、五体満足だった。
「ハハ……さすがはサガ。ほんとうに強いな」
「実力差はほとんどないと告げたはずだ。お前の優しさがなかければわたしは砕かれていた。それだけだ」
 憑き物が落ちたような笑顔でストラーフMK.2は嘆息する。
 かなわないな、とでも言いたげに。
「トドメ……ささないのか? あたしはサガの言う悪の道を進むけど……」
「険しい道だ。まずは苦しんで、それから結論を出すといい」
「厳しいのか優しいのかわからないな。まるで先生みたいだ」
「これでも教皇を務めていた身だ。多少は……うっ!」
 サガは目を見開いて崩れ落ちる。体が震えて心がどす黒く塗りつぶされていく。
 ついに来てしまった。フラフラと駆け寄ってくるストラーフMK.2の心配している顔が目に入る。
「サガ、打ちどころが悪……」
「逃げろ、ストラーフ! は、早く……」
 ビクッ、とサガの体が跳ねる。どういうわけかあちらのほうが主人格のようだ。
 これがアテナに刃を向けた罪なのだろうか。悔しさと無力感に包まれながらサガの意識が薄れていく。
「サガ……? 本当に大丈夫なのか!? 髪の色が変わって……」
「…………触るな」
 地獄から響いたような低く重い声だった。ストラーフMK.2はとっさに離れたいのを強靭な意志で押さえつけ、それでも手を差し伸べる。
 見上げたサガの瞳が、禍々しい赤で染まっていた。

「触るなといったであろう、小娘!」

 光速拳が視界いっぱいに広がる。

 やはりこういう運命か、とストラーフMK.2は静かにその拳を受け入れた。


 コンビニのバックヤードは荷物が散乱し、整理されているとはいえなかった。
 サガはタイムカードや監視カメラを管理するパソコンの隣にクレイドルを二台準備し、充電の用意を始める。
 足元にはストラーフMK.2が静かに寝息をたてていた。
「ここでさえお前はわたしを邪魔しようというのか!」
 虚空に向かって叫ぶも、室内は静かだ。
 ただサガのサブAIから脳内で声が発せられていた。
(優しい少女を手に掛けることは許さん)
「くっ、馬鹿者め……。幻朧魔皇拳について話しおって……!
誰にも知られなければ幻によってこちらの負担が軽減される。対策も取られることはない。警戒されるだけ損だ!
それに景気よく大技を使ったせいでバッテリーが切れかかっているではないか。
せっかく消耗を抑えて動こうとしたのに、こんな小娘に情をかけたせいで!」
 ハアハアと息を切らせ、もうひとつの人格に抗議を続ける。
 もともと水と油、聞き入れるわけがなく徒労に終わる。それがわかっているだけに余計悪のサガは腹が立った。
 だがニヤリ、と本来の人格に当てつけるよう笑顔を浮かべる。
「そんなに言うならストラーフは殺さないでおいてやろう。クッククク……」
(なにをするつもりだ?)
「簡単な事だ。『双子座のサガ』の役にたってもらう。それだけだ」
 キサマ! ともうひとりの自分がうろたえたのにサガは気分を良くする。

「ああ、殺しはしない。ただお前が気にかける優しさも、武装神姫としての実力も、女としての価値もすべてこのわたしのために使ってもらう!
全部キサマのためだ。お前が情けをかけたせいで女神が汚れていく様を、指をくわえて見ているがいい!
ウワーハッハッハッハ!」

 返答はなかったが、怒りと無力感に満ちた感情が伝わってくる。
 すっかり溜飲を下げた悪のサガが視線をストラーフMK.2に移した瞬間、タイミングよく彼女は身じろぎをした。
 目を覚ます前にわざわざ用意した自分の付属品、玉座へと腰を下ろす。
「サガ……? いや、違う」
「心外だな。わたしも双子座のサガだ」
 警戒心を露わにする彼女を前に、サガは意地悪く笑う。
「まあキサマにはサガが正道を歩めない理由、と言ったほうがわかりやすいか?」
「――っ! そうか、キサマのせいで……」
 勢いよく立ち上がろうとするストラーフMK.2を制し、サガは足を組む。
「そう逸るな。わたしとて地上を守るためにしかたなかったのだ。
アテナのやり方では他の神々から地上を守れないと判断したゆえの反乱だ」
 白々しい嘘をつくが、サガへの信頼もあってストラーフMK.2に見抜けなかった。
「それに人格は違えどサガであることに変わりはない。
わたしを傷つけることは、お前を救った男を傷つけることと同意だ」
「……卑怯な」
「勘違いしてもらっては困る。わたしは黄金聖闘士なのだ。キサマ程度どうとでもなる。
だが頼みがあるからあえて生かした」
「頼み……だと?」
 不審げなストラーフMK.2に対して、サガは余裕の笑みを浮かべる。
「ストラーフ、わたしと組まないか?」
「どういうつもりだ?」
「なに、キサマも戦闘でわかったはずだ。この戦い、バッテリーの消耗が激しくて一人で勝ち抜くのは難しい。
ならば誰かと組み、数が減るまでは行動を共にするのが賢いはずだ」
「賢いとか関係ない。あたしは……」
「ストラーフ型として人間の目を楽しませたい、か。だが徒党を組む相手が多いだろう。
一人ならまだしも、二人三人相手に楽しませる戦いをできるのか?」
 ストラーフMK.2は言葉に詰まる。自ら痛感していた問題だ。
「それにキサマは双子座のサガに恩を感じているはずだ。わたしと奴に与えられた身体は一つ。
このサガに恩を返すのは、キサマの恩人に恩を返すことも同義だ。役に立ちたいのだろう?」
 サガはストラーフMK.2の顎を掴み、目線を合わさせる。
 彼女の赤い瞳は迷いに揺れていた。もうひと押しだ。

「さあ、このサガに力を貸せ。お前が歩もうとしている道がどれほど甘美か、身を持って教えてやる」

 どす黒い狂気がストラーフMK.2を包む。彼女は唇を横一文字にきゅっと結び、サガの手を降ろさせた。
「いいだろう……もう一人のサガ。あたしはあなたと手を組む」
「聡明で助かる。では早速手を貸してもらうぞ。
わたしは充電に入る。どれほどかかるかわからないが、30分は見張りを頼みたい。できるな?」
「了解した。残り電力でもそれくらいなら大丈夫だ」
 サガは確認を取り、クレイドルに向かって歩む。
 その背中をストラーフMK.2は呼び止めた。
「ちょっと待って欲しい。あたしも一つ頼みたいことがある」
「なんだ?」
「もしもあたしを助けた方のサガが姿を見せるのなら話をさせて欲しい。
安心しろ、裏切りはしない。あたしの選択を違える気もない。
ただ……なにを話していいかわからないけど、サガにもう一度会いたいだけだ」
「ふむ……好きにしろ。奴に恩義がある以上、わたしを裏切ることは出来ないのだからな。
そうだ、これをやろう」
 サガが呼び出した拡張パーツがストラーフMK.2の前に放り投げられる。
 黒い背部ユニットに、巨大な機械の両腕が装着されていた。
 脚部パーツは膝部分が膨らんでおり、脚は逆に細いシルエットだった。
 ストラーフMK.2の武装と似ているそれを、彼女はよく知っていた。
「これは……初代ストラーフの武装ユニット……」
「武装パーツのとはいえ、両腕がもがれた状態では戦えまい。
キサマの新たな巨人の腕だ。存分にこのサガの役に立てるといい。
それともお前には使えない代物か?」
「…………3rd素体用背部ユニットに接続は可能だ。脚の方は予備として使う」
「転送データも送った。使いやすいように調整すればいい」
 三十分経ったらストラーフMK.2も充電するよう指示を出し、サガは眠りに入る。
 完全なスリープモードなのを確認して、彼女は出入口へと視線を定めた。
 体育座りのまま、今までのことを思い返す。
 体を張って自分を諭そうとしたサガ。
 野望のために自分を利用しようとする今のサガ。
 どちらが本当の彼なのか、思考の堂々巡りに陥る。
「ボクは……これからどうなるのかな……」
 答える相手はいない。
 不安が消えぬまま、時計の針が時間を刻んでいた。


【深夜/エリアH(コンビニ)】

【ストラーフMk.2@武装神姫】
【電力残量:15%】
【装備:背部ユニット(ストラーフ用副椀パーツ付き)、脚部パーツ、脚部用ブースター】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×0~1(確認済み)、ストラーフ用脚部パーツ】
【状態:ダメージ中】
【思考・行動】
 基本方針:人間を楽しませるためバトルを行い勝つ 。
 1:悪サガと手を組む。
 2:優しい方のサガと話がしたい。
【備考】フルアームズパッケージの武装を追加できますが、電力消費が増えます。
ローク(シールド)とストラーフMK.2の副椀パーツが破壊されました。


【双子座のサガ@聖闘士聖衣神話】
【電力残量:20%(充電中)】
【装備:双子座の黄金聖衣(右肩パーツ破損、二本の刀傷)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(教皇アーレス衣装、ナイフ、教皇の椅子)】
【状態:聖衣の右肩パーツ破損】
【思考・行動】
 基本方針:殺しあいの頂点に立つ。
 1:もうひとりの自分へのあてつけでストラーフMK.2を利用し尽くす。
 2:忌々しい善の人格を消したい。
【備考】基本人格は悪のサガです。セット内容の教皇アーレスの姿になれます。
幻朧魔皇拳には制限があり、非戦闘状態の無防備な相手にしか効きません。


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最終更新:2014年07月08日 01:12