夏油優について知ったのは、通例となった伏黒甚爾との会談からだった。
 そう頻度が高い方でない、直接顔を合わせての交流を向こうから誘われ、またぞろ競艇の金の無心かと懐にある財布を確認をしていたら、生前の知り合いの顔を見たと切り出された。
 しかも殺伐とした敵対関係。少女の暗殺の請負人とその護衛の役で、相棒を一回殺して護衛対象を撃ち殺して本人も半殺しにして転がしたという最悪の役満。
 その後黄泉返った相棒に自分が殺されて、それから数年分ほど成長したらしい姿を遠目にして、能力も同一である点からまず間違いないととんぼ返りしたという。
 知られたら間違いなく有無を言わさず殺しにかかってくるだろうし、自分が降した時よりは強くなってるだろうから、どうあがいても面倒くさい事になるので何とかしてくれと打診されたのだ。

「こんなに助けたくなくなるお願いされたのは初めてだ……」

 自業自得の厄介事なのに丸ごと投げ渡されては、すんなりと承諾できるはずもない。
 まず年端もいかない少女に殺し屋を差し向け、平然と撃ち殺したと聞かされた時点でだいぶいい顔をしない。
 仕事に貴賤を持ち出さないプロの筋を通したと擁護できない事もないが、自堕落に遊ぶ金欲しさでやったとなれば情状酌量の余地を持ち込むのも憚れる。

「オイそりゃねえだろ。いつもの博愛精神はどうしたよ」

 そしてこの態度である。何一つ悪びれてない。
 自分で撒いた因縁を他人に押しつけてこの清々しさ、一周回って天晴ですらある。
 今更清廉潔白さを望んではないし、むしろそうでない働きを期待しての引き込みだった。
 死後の世界で過去の所業をあれこれあげつらうつもりもない。大事なのは今どう思い、どうするのかという未来の答え。
 その上で、現在進行系でこれなのだから始末に終えないのであった。

「とてもじゃないが、助力を頼む態度には見えないね」
「そりゃ大して期待してねえからな。断られたらうちの相棒でも差し向けて、その隙に後ろからバッサリいくだけだ。
 昔ボコったガキに殺されるのは、流石に御免被りてえ。精神衛生上に悪い」
「死んでも健康を気にする生活習慣してましたか?」
「体の丈夫さが取り柄なものでして」

 小粋なジョークを挟んで話し込みながら、いよいよもって手切れの時なんじゃないかと、顔には出しつつ言葉は飲み込む。
 本人が言うように、黙っていたらこのまま殺しに向かってしまうだろう。それだけ関わり合いになりたくない相手という事だ。殺し合いしか接点が無ければそれも当然。
 自身が定めたスタンスとして、暗殺計画を暴露されてみすみす見過ごすわけにはいかないし、この難物な男と組むと決めた以上は、やれる範囲で制御しておきたい。
 厄介だが、これも選択と責任の話だ。

「はあ……じゃあ、何とかしてみますので、その人について知ってる事を教えてほしい。
 それを踏まえて、交渉の申し入れをするつもり。手紙でも送って」
「は? なんで?」
「なんでもなにも、今の話を聞いたらどう考えてもあっちが正義側でしょ。だったら多少なりともこっちの提案に耳を傾ける余地はあるんじゃないかな。
 呪いから人を守る組織なんでしょ、その高専っていうのは」
「俺の報告耳から抜けてんのか? 奴さんは完全に乗り気だったぜ。
 第一んな金看板かけた奴らすら忘れてるぜ。扉を開ければクズとカスの万博パビリオンだ」

 普段何事にも気怠げにへらへらと流していた男の口からは、偽りのない本気の感情がこもっていた。
 侮蔑と、嘲弄。吐き出さず腹に溜め込んで腐っていき、袋から滲んで出てきた汚濁のような。
 こんなクズの見本市のような男でも唾棄したくなるほどに、治安の悪い組織というわけか。
 時に組織は人体の血流に喩えられる。流れに滞りが出来た場所は次第に膿んでいき、やがて本体にも影響を及ぼし、末期には末端から切り落とされる。
 構成員が大人ばかりのキヴォトスの外でなら、血栓の数はなお多くなる。そういう毒を含んだ文句だ。

 ともあれ、まずは出方を見ないことには始まらない。まず一筆したためて交渉を打診する方向で決定した。
 怪しまれない程度の身分と目的の公開と、追記に因縁ある人物がいるので引き合わせたい旨を添えた封を渡し、対応を窺う。
 メッセンジャーにはザ・ヒーローが召喚する仲魔に頼む。途中甚爾から『使い魔や式神だと向こうの術式で手駒にされるぞ』と忠告されたので、一筋縄ではいかない高レベル帯から選別する。
 『ではLIGHTの中から出します。邪神や魔王だとそのまま戦闘に発展しかねないので』と生徒の判断の元送り出した鬼神が、了承の返事を貰ったと判を見せて帰って来たので、指定した場所で落ち合う段取りになったのだった。


 ■


「なんだお前、高専辞めたのか」


 早速に会談を台無しにする暴言が、振り下ろす直刀の勢いでぶちまけられた。

「しかも呪詛師堕ちしてんじゃねえの。残穢の割に人間の血の匂いが濃すぎるぜ。
 なんだよ宗旨変えか? そんなに俺に負けたのが堪えたのか。それともあのガキの方か?」

 自分で頼んでおいて、どうしてこう煽りしか口にしないのか。実は単に暴れる口実が欲しかっただけじゃないのか。

「……塵の声を聞く義理は微塵もないが……お隣に誤解されてしまってはこちらの名誉にも関わるので答えておこう。
 私の選択にお前とは別次元で無関係だ。当然、あの子も関係ない。
 これは私の覚悟だ。私の意思で選び、背負った責任と選択だよ」

 凄い。人の青筋が立つ音を初めて聞いた。繁華街を行き交う人で足音が絶えない中で、はっきりと。
 今すぐ手が出ても文句の言えない中で、殺意を隠しもしないものの態度のみに留めてるのは、本人の言う責任故か。
 出会ったばかりだが、少し親近感が湧く。夏油優とのファーストコンタクトの印象は、そのようなものだった。

「は、そういう理由ね。クソ真面目な野郎だとは思ってたが、変な向きにへし折れたタイプか」

 ……どうやら本音を引き出す為のかまかけだったらしい。こういうところで抜け目ないのは流石の狡猾さだ。

「それで誰に殺られた? やっぱあの六眼のガキか? まさかと思うがあいつまで呪詛師堕ちしてないよな? もしそうならいよいよあの家も界隈ごとお終いだな。
 うわやべえ、想像したら笑えてきた。そこだけでも教えてくんねえ?」
「なんだ、殺られたのが堪えてるのはそっちだろう。悟は今も変わらず呪術師さ。お前などあいつにとって何の価値も見てはいない。ただの砥石だ」
「……口悪く育ったな。また半殺しにすれば元に矯正されるか?」
「できるものならやってみろ。今度は倍にして返すぞ。自分が死んでからどれだけ経ったか、その猿脳以下の頭でなく身体で知るといい」

 売り言葉に買い言葉で瞬く間に臨戦の体勢に移る両者。
 傍観していれば間違いなく殺し合いに発展するのを察して身を間に割り込ませる。

「重ね重ねすみません。連れてきた側が言うのもなんですがぜんぜん黙ってくれないので、軽く聞き流していただけると助かります」
「……いえ、構いませんよ。こちらも少々大人気なかった。
 ところで要件って塵掃除でしたっけ? でしたら喜んでお手伝いしましょう。清掃はエチケットですからね」

 先に夏油の方が矛を収めてくれる。
 ポーズではなかったろうが、「とりあえずお前黙っとけ」の意見の一致が、急速に互いに奇妙な連帯感を生んでいた。

 まさかここまで織り込んだ上での煽りだったのかと甚爾を見直しかけたが、それはないなと客観的に妄想を却下する。
 予定調和で殺し合うか、奇跡叶って共闘が成るのか。
 多分どっちに転んでもいいから、言いたいことだけ先に言っといただけだ。
 双方から顰蹙を受けた甚爾は堪えた風もなく一歩足を後ろに下げて輪から抜け「後は勝手にやってろ」のジェスチャーを取る。
 いつ暴発してもおかしくない剣呑な雰囲気であるが、期せずして場が温まったところで本題を切り出す。

「じゃあ、改めて。招集に応じてきてくれたからには、話だけでも聞いてくれる気だと解釈していいですか? 彼は関係なくて」
「ええ、あれは関係なく。実に興味を惹かれる提案でしたよ。取り込むにせよ落とすにせよ、会ってからでも遅くはないと判断しましたので」

 どうにも初手から反応は芳しくないらしい。
 こちらの勢力の排除ありきでの接触だったと知り、早々に離脱のカードに指が触れかける。

「そして残念な事に、私の期待は早くも崩れてしまっている。
 あれだけ高位の呪霊……いや鬼神とでもいうべきか。不動明王じみた像を遣いに寄越したものだからよもやと応じてみましたが……やはりサーヴァントの能力のようだ。
 手持ちにするには骨が折れそうだ」

 自分の術式……無数の霊を手駒にできる能力を知られてる前提で話す。甚爾から詳細は聞かされてると踏んだのだろう。

「あれ1体というわけではないのでしょう? 手勢を率いる者同士での戦闘……短期決戦では終わりそうもない。
 周囲の猿擬きを巻き込むのは悪目立ちするし、傍に呪力の波に気配が掻き消される猿以下がいたら、いつ背中から刺しに来るかわかったものじゃない。
 大した戦略だ。出会った時点で私の手を封殺している。非術師とはとても思えないよ。
 ───だからこそ解せない。そこまで出来るのに、どうしてそれ以上を求めないのか」

 何故、勝ちを目指さないのか。
 何故、蘇生を目指さないのか。
 力ある者が融和を説き回り弱者に施す利がどこにある。
 疑問と苛立ちを、飾りを捨てた口調で夏油が火を切った。

「我慢は別にしてないよ。というか、割とエゴまみれかもだ。
 あくまで私にとっては最善で最上というだけ。死人の事情で生きてる人の世界を脅かすものじゃない、とね」
「だから死人は死んだままでいろと? 進めば手に入る距離にある奇跡を、生きてるというだけで劣る相手に譲る?
 奇跡は誰にも渡さない……見上げた精神だが、無意味だ。意味がないんだ、そんな行為は。
 それは献身ではなく、愚かしい挺身だ。助けた事実すら誰も気づかれず、無思慮に死体を踏み躙られるだけ。
 猿は生涯猿のまま。進化など望むべくもない」
「……なら優れた自分は生き返るべきだって?」
「必要なのは私が元いた場所に結果をもたらす事だよ。
 変革と選民。優れた少数が劣った多数に虐げられない世界。その理想さえ叶えられればそれでいい。
 持参する必要があるなら遠慮なく帰らせてもらうが、元々私の生還は二の次なんだ」

 願いの勘定に自分は含んでいないと、夏油は語る。
 覆すのは自身の死ではなく、より大きなものであると。

「死者が生者の足引きをするなど許されない、同感だね。呪霊についてはアレからもう聞いているかな?
 呪霊……呪いは、人の負の想念が堆積して生み出される。過去に死んだ人間の分も引き継いで現代まで続いて蝕む、いわば死者の残留思念だ。
 つまりは過去の誰かのツケに利息を足して支払わされているのが我々呪術師なわけだが……実を言うと私の願いも貴方のそれと結びつくんだ」
「というと?」
「呪術師は呪霊を生み出さない。自身の体内でコントロールできているからね。呪いを撒き散らすのは呪力を制御する素質のない非術師だ。
 守るべしと定められてる非術師が敵を生産し続ける……このような構造の欠陥を見過ごしていいいはすがない。改革が必要なんだ」
「……それじゃあ、あなたの願いっていうのは」
「非術師の皆殺し。呪いの無い世界で呪術師の楽園を築く」

 まったく予想外の返答だったとは、いわない。
 情報源である甚爾の証言でのプロファイルと、この地で甚爾が目撃した彼の行動は、その時点で大きな隔たりがあった。
 明らかに戦う術のない一般時の葬者を、実験のモルモットのように冥界に捨て置き死霊に変わる様を観察する、別人を疑う行動。
 甚爾と夏油、不倶戴天の仲であっても共通して吐露した、呪術師というシステムの根源的な歪み。
 半生を共にした信念を捨て去り、真逆の道を進む覚悟を決めるだけの出来事が、きっとあったのだ。
 理性的に見えて内面は激情家……性格の分析の方は見事に一致していた。

「ここの奇跡、そんなに信用していいものだと思う? 思いもよらない負債を、生きている人に背負わせられるかもしれないんですよ?」
「悪魔の証明には惑わされないよ。汚れた呪体、危険物であるとしてもむしろ都合がいい。呪いの扱いは我々が専門だ。なおさら他人の手には渡せない。
 願望器の謳いが詐称で単なる力の塊だとしても、それはそれで使い道がある。
 確実に一個、聖杯の機能ははっきりしている点があるのですから
「……英霊召喚」
「ご名答。本当に貴方が非術師でないのが惜しまれるよ」

 サーヴァントの顕現と維持。どれほど願望器の機能が疑わしくとも既に証明されている性能。
 それだけでも夏油にとっては値千金なのだろう。能力の相性が非常にいいと、俄知識でも理解した。
 排除対象でありながら戦力の土壌である非術師に依らずに駒を無限に量産できてしまう。万軍を手にしたようなもので、彼にしては願ったり叶ったりだ。
 極悪に噛み合ってしまっている。止める枷が要らなくなってしまうぐらいに。

 果たして思っていた以上に夏油優は危険人物なわけだったが、かといって付け入る隙がないわけでもない。
 優勝狙いとはいえ、そこには明確な目的意識があってこそ。無秩序な快楽殺人者や自堕落な落伍者ではない。
 手段の代替を提示さえすれば、手を引く余地は残っているのだろうか。

「……目的が叶うのなら自分はどうなっても構わないといったけど。
 それならそんな物騒な話より、もっと建設的な方向に寄せることはできないかな?
 それにこれだけ多数の英霊が居並ぶ舞台だ。無能力者を有能力者に変える芸当の持ち主が残っている可能性は……諦めるほど少なくないと思うよ」

 皆殺しだ駆除だと血生臭くするばかりが覚悟じゃない。願望器の権利を獲得したにせよ、願いの内容はもっとクリーンであるべきだ。
 損害と利益の秤が均等なら凶行が許されるわけじゃないが、逆に釣り合っているとも思えない。
 人類を呪いを生まない体質にする、呪いそのものを消し去る……素人考えでも湧くこの案を、この人が思いつかないとは思えない。

「ひとつ言っておこう。私は猿が嫌いだ。嫌いだという側の自分を肯定した」

 そう。正しい道を選べるだけが、人ではない。
 子供も大人も、背負った過去で道を決めてしまう。そうする事でしか自分を肯定できないから。

「もう私は選択を終えている。この夢に多くの同士を引き連れ、同胞である術師にも死を築いた。今更他に良い手段が見つかったから止めにすると、安々放りだしていいほど軽い理想ではない。
 私は非術師である貴方を殺す。そこの猿以下も殺す。たとえ貴方が私の友人や家族であってもやはり殺す。全ての葬者を冥界の塵に変え聖杯を手にし、非術師を皆殺しにする。
 弾く例外はあってはならない。私は、決して妥協しない。この大義を果たすまでは」

 夏油優は理想主義で、潔癖な正義感がある。
 もっと穏当な手段があったのは承知の上で、心の底から笑えない、息苦しい世界を壊すべきと感じた。
 過去の大事だったかもしれないものまで捨て去った。あるいは、大事なものを喪ったからこそ躊躇が薄くなったのか。

 選択と責任の放棄を許さず、徹心する姿勢。
 正直に言えば好感を、共感を得ていただけに反動もひとしおだ。
 ああ、自分とてそれを思わなかった事が一度もないわけじゃない。
 ゲマトリアを、デカグラマトンを、色彩を。愛する生徒たちに危害を及ぼす存在を、自分ひとりで何もかも解決できたのならどれだけよかったか。
 そういうご都合主義をずっと望んでいる。大概子供心を捨てきれていないのだ。

 高専なる組織は甚爾からの又聞き───それも相応にバイアスのかかってる───でしか知らないが。
 力ある者が生徒になり、その存在も秘匿された少数であるのなら、本来の彼は「先生」になるはずだったのではないだろうか。
 子供たちを守り、育て、見届ける、そんな先生に。

「不思議なものだ。ここまで私の腹を晒す気はなかった。非術師相手には八方面して体よく使って搾り取るのが手間がかからないと弁えていたのに、こうも無駄話をしてしまうなんて」
「無駄ではないよ。こうして貴方と話ができた、それはとても大きな成果だと思う。何よりそこの人と会うなり殺し合うなんて場面は回避できたわけだしね」
「はっ───確かに」

 お互いの主張をいい終え、会談も締めくくる空気に自然と動く。
 一度会っただけで丸く収まるとははじめから思っちゃいない。子供でも大人でも交渉の基本は粘り強さだ。
 別れた先で死に、次に会う時は殺し合うしかない切迫の中でもそう手順は省略されない。
 多少似た価値観や共感があったところで、それだけで寄り添うのも、理解者の顔をするのにも、無理がある。

「……やはり、解せないな。結局牽制にサーヴァントを実体化させもせずにいる。警護を後ろに控えさせて、丸腰で銃で武装の強盗と向かい合うようなものだ。
 戦う力を持たない分際で、何故そうも体を張る?」
「何故、か。色んな人からそう聞かれるけど、私の答えはいつも変わらないよ。
 子供を守り、先生として生徒を守る。大人の責任、先生の義務を果たすためだ」
「そうか。先生───ね」 

 答えを聞いた夏油の目が、その時僅かに、頭上の空へと泳いだような気がした。


 ■


 そうして、幾つかの言葉を置いて夏油は雑踏の中に消えていった。
 結果をいえば交渉は決裂。戦闘も消耗も起こさず見逃された点を加味すればプラスマイナスゼロか。
 聖杯獲得陣営と接触して融和について会議した事実は、後々こちらの信用担保に使えるカードにもなる。人と人の出会いにはやはり無駄とはないのだ。

「ぁあ、終わったか? まったくハナからケツまで退屈な話だったな」
「本当に何も言わなかったね君」
「これでも協力してたぜ? 笑い噛み殺して必死によ。ここで吹き出したら流石に挽回不可能だろ」

 溜め込んだ欠伸を大いにかく甚爾。一応配慮はしてくれたらしい。本当に最低限に。

「まあ、これでもう出会い頭に襲われる心配はないでよ。そっちから煽る真似はしないでよ?」
「さあ、どうだか。あれの術式からしてどっかで「不運にも」巻き込まれた形で仕掛けられてもおかしくねえよ。
 向こうもサーヴァントを実体化しなかったからな。情報渋ったのはお互い様ってわけだ」

 思えば、マスターが三人揃い踏みながらも一人としてサーヴァントを公開しなかったわけだ。交渉の内容といい、我ながらつくづく奇妙な会合だったと思う。

「───おっと、天童アリスからだ。早速当たったのかね。もっと別のところで運は使って欲しかったんだがな。
 どうする、報酬でお前さんのこと教えとくか?」
「……いや、会いもしないうちに他人から言われたんじゃ無駄に動揺させちゃう。今回は後回しでいいや」

 お使いクエストを完了したらしいアリスの電話を受ける甚爾。
 変なことを吹き込まないか耳を傾けつつも、思考では生徒に念話で話す。

(どうだった?)
(僕からは何も。秩序の名の下の虐殺。混沌を笠に着る殺戮。どちらも見飽きた思想だ。僕が語る言葉はない。
 諍いを起こすのであれば貴方のサーヴァントであり生徒として───双方共にただの障害物として鎮めるだけだ)

 淡々と手厳しい意見をくれる。彼に色彩をくれる眼鏡には叶わなかったようだ。

(でも彼がくれた情報には意味がある。幽霊屋敷に殴り込みをかけた狐の仮面の鬼……禍々しい予感がします)
(あの子に憑いてるっていうサーヴァントかな。あの時保護してたらと思うけど……それはそれでかち合っちゃうか)

 悪魔退治のプロフェッショナルの金言だ。疑う余地はない。
 しかしだとすればコンプレックスを抱いてる子供に充てがう相棒には、あまりに悪辣すぎるチョイスだ。聖杯への信頼度がまたひとつ下がった。
 生徒以外にも保護すべき子供は少なからず冥界にいる。散発的に行脚をしてきたけど、ここらで一処にまとめる算段も必要かもしれない。
 次の会談、次の交渉、巡る廻戦を想定して、甚爾の報告を待つことにした。


【豊島区/一日目・午後】

【先生@ブルーアーカイブ】
[運命力]通常
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]大人のカード、黒焦げの大人のカード
[道具]
[所持金]潤沢だったが、甚爾にたかられているので金欠気味。
[思考・状況]
基本行動方針:『先生』。奇跡は誰にも渡さない。
1.聖杯戦争参加者の願いに対して、妥協点を作る。その為に参加者同士、仲介をする。
2.あの子(スグリ)どうしようかなあ。それに生徒達と合流は……悩ましい。
[備考]
※3月中、伏黒甚爾と競艇に行ってます。詳細はお任せします。
※夏油から『狐の面を被った鬼(白面の者)』についての情報を聞きました。先生はスグリのサーヴァントだと当たりをつけています。

【■イ■ァー(ザ・ヒーロー)@真・女神転生】
[状態]健康
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:『先生』の『生徒』。
1.可能性が溢れたこの世界でさえも。きっと滅ぶのだろう。あの東京のように。
[備考]

【伏黒甚爾@呪術廻戦】
[運命力]通常
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]拳銃
[道具]複数保有(詳細不明)
[所持金]先生にたかっているので、潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:当分は臨機応変にやっていく
1.アリスの報告を聞く。報酬の情報はどうすっかね。
2.とりあえず、仲介役である先生と楽にやっていく。クソガキ(スグリ)は知らん。
3.ランサーは置いてきた、これからの話し合いに使えねえからな。勝手に殺し合っててくれや。
[備考]
宇沢レイサプラナ、天童アリスの主従を捕捉しています。
※3月中、先生と競艇に行ってます。詳細はお任せします。

夏油傑@呪術廻戦】
[運命力]通常
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]淀んだ穢れの残滓、呪霊(3桁規模、シャドウサーヴァント含む)
[道具]
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:見込みがある人物は引き入れる、非術師は優先して駆除。
1.先生に興味は湧くが非術師だ。ならばいずれ殺す。猿以下の塵芥(甚爾)は死ね。
2.双亡亭を監視。攻略の準備をする。それにしても、寶月夜宵……素晴らしいね。
[備考]
※寶月夜宵を『西の商人』で気づかれない範囲から監視しています。
※双亡亭を『崖の村の少年』『成れ果ての衛兵』で監視しています

【キャスター(リリィ)@ENDER LILIES】
[状態]健康
[装備]猛る穢れの残滓、古き魂の残滓
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:夏油に寄り添う。
1.『戦いにならなくてひとまず安堵』
[備考]

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最終更新:2025年05月28日 03:40