Omnibus of youth
(気紛れに書き足していく学園パロというより現代パロ小話。滾りすぎた結果がこれだよ!)
(もちろん自分設定しかないのでご注意。二次創作の極み。)



















夕焼け小焼け


 話をしよう。あれは今から……なに?どっかの大天使みたいだって?馬鹿野郎、俺様の話の腰を折るんじゃねぇ。
 何年も前の事だ。俺がまだ小学校の頃。俺は自他ともに認める天才だった。テストはいつも百点でクラスで一番!……あ、国語以外な。他人の、ましてや存在もしねぇ登場人物さんの心境なんざ知るかボケ。
 ……なに?とっとと始めろだとォ?始めてんじゃねぇか今まさに。ははーん、さてはこの俺様の華麗な学歴に嫉妬して聞きたくねぇんだな。仕方ねぇな!俺様は心が広いから勘弁してやるよ!
 まぁそんな俺様を慕ってつるんでるやつらがいたわけよ。どういう経緯でそうなったかはもう覚えてない。そんなもんだろ?ガキなんざ何とでも友達になれちまうんもんだ。大人と違ってな。

 ……その中に、それはそれは酷いいじめられっ子がいた。

 女みてーに長くて真っ白なさらさらの髪、黒曜石みたいな真っ黒な目、あんまりにも細くて体格も女みてーだったよ。しかも泣き虫意気地なしのドへたれ。今思ってみるとって感じだが、多分、身体も弱い方だったんだろうな。
 そいつは同年代から上級生、果ては他校の奴らにまで幅広く目をつけられては痛い眼にあっていた。
 最初は俺も見ているだけだったよ。フツーそうだろ。みんなしてみないふりするから、それが普通だと思って何とも思わねぇんだよな。……あの大きな黒い眼に涙がいっぱいにたまってきらきらしているのが、本当にそういう宝石みたいだとか思ってねぇからな!なんも思ってなかったぞ本当に!なんて顔しやがるんだとか!!
 ……そんで、俺がよくつるんでるやつの一人に根暗なやつがいた。茶髪のボサボサヘアーで赤いバンダナが特徴のやつ。いかにも主人公ーって見た目してる。でも根暗。俺様は超絶優しいからな、そいつによく勉強を教えてやっていたんだ。一方的?有難迷惑?うるせぇ惑星ぶつけんぞ。
 ある日そいつがよォ、俺に言うわけよ。

「……お前、頭いい」
「ア?ったりめーだろ。今更。それがどうした」
「……教えて。あれは、どうすべき、なのかな」

 そう言って筆箱取り上げられて泣きじゃくる白い子供を指さした。子供の周りでは、何人かの別の子供が甲高い声で悪口を言い続けている。

「せんせい、何も言わない。教えてくれないから、わからない」
「じゃあテメー、テメーより頭のいいセンセーがあいつをいじめるのが正解だっつったら、あれと一緒になっていじめるか?」

 根暗は首を横に振る。いじめたくない、と言った。

「だろォ?誰に教えられても、結局はテメーの思った事するのがテメーにとっての正解なんだよ。他人の考えなんざ知るか」

 やっべ俺今めっちゃイイコトいったわ。俺様の人気またうなぎ上りだわ。目の前の根暗もびっくりしたように目を見開いてる。
 これに尽きる。他人なんざしらねぇ。なんたって俺様が一番なんだからな!

「……お前、せんせいより頭いい」

 はははもっと積極的に褒め称えてくれていいんだぜ根暗君。むしろ崇め奉れ。
 まぁ俺様、もともと面倒事に首つっこみたくないからあのいじめを助けようとは思わなかったんだけどな!
 ……思わなかったんだけどな……。

「ありがとう」

 俺にそういった根暗は次の瞬間、両手に構えた辞書で奪った筆箱を持ってたやつの頭を殴っていた。それ俺の辞書なんですけど。
 え、ていうかお前そんなアグレッシヴだったっけ?え?校庭に出たら蟻の行列を延々眺めてるようなやつが?え?
 というかちょっと待て。マテマテマテマテマテ!どうしていじめられっこの手を引いてこっちに戻ってくる!あ、ここ根暗の席だったわ。そりゃ戻ってくるわ。
 いきなりの出来事に俺様はもちろん、クラス中、いじめられっ子までもが茫然としていた。沈黙が痛かった。
 そして根暗は俺の前にくるなり、いじめられっ子にこう言いやがった。

「こいつがたすけてくれたんだ」

 ……やめてくれいじめられっ子よ。そんな土砂降りの中拾われた子兎のような目で俺様をみないでくれ。お前を助けたのは決して俺様じゃない。

「……あの、ありがとう」
「……別に!ただ、いつもくっだらねぇモン見せられてイライラしてただけだっつの!」

 ……何?ツンデレ乙?そんなんじゃねぇし!本当にくだらないいじめは見飽きたし、たまたまだし!ちょうど良かっただけだし!結果的に俺様の株も上がったし!別に感謝されたことが嬉しいわけじゃねぇしッ!!
 とにかく!その出来事以来、根暗はいじめられっ子を連れて俺様のところに来るようになった。ついでにいじめられっ子に対するいじめ自体も激減した。そら小学校低学年かそこらで分厚い辞書で打ん殴られるなんてトラウマもんだろう。誰も結果が解りきった二の轍なんぞ踏みたくない。そうしてクラスの雰囲気が変わったせいか、いじめる方がクラスで孤立するようになった。
 ……でも、いたんだよ。クラスで孤立してもいじめられっ子をいじめ続ける奴。そいつは髪を逆上げてて、髪も肌も黒かった。あとなんか悪魔みたいな羽生えてた。天使みたいな真っ白ないじめられっ子とはまるで正反対だった。
 「弱者が」とか「貴様に俺に逆らう意思など必要ない」とか言ってよくいじめてた。多分そういう病気。
 そんでいじめられっ子に手を出しては根暗と大喧嘩してた。そいつは喧嘩もめっぽう強かった。勉強だってできてた。上級生を返り討ちにしたっていう噂もあった。ていうかそんな奴と張り合えてた根暗くそ強ぇ。

 先に言うが、このいじめられっ子も俺様達とつるむようになる。小学校の思い出なんざ程ン度忘れちまってるが、そのきっかけになった出来事は、今でもよく覚えている。

 ……ある夏の晴れた日。もういくつ寝ると夏休みって頃だな。昼休みを利用してグラウンドでサッカーしてた時だ。俺様が華麗なヘディングシュートを決めた次の瞬間、根暗が焦ったように話しかけてきた。いない、ってな。
 何のことかすぐに分かった。木陰で休んでいた筈のあいつがいないんだ。嫌な予感がした。一応、先に教室に戻ったんじゃないかって言ってみたが、あいつが俺達を置いてそうするなんて考えられなかった。
 昼休みが終わるチャイムを無視して、俺達はグラウンドを駆けだした。探し回ったけどいない。
 ここで根暗が地面に耳を当てた。これが根暗の強さの秘密だ。聞いたことをそのまま言うと、代々受け継がれてきた一族の力で、大地と交信してその力を使う事が出来るらしかった。根暗マジ主人公。ちなみにいじめられっ子を守る様になってからは自分の意見も言えるようになって、性格もそれっぽくなってきてた。……ん?最早根暗じゃない?お前何もしてない?うるせぇ俺は頭脳派なんだよ!喧嘩なんて野蛮な真似できるかってのッ!!
 とにかくその力で、どうやらグラウンドから外れた物置小屋にいるらしい事が解る。あることは知っていたが、行ったことが無かった。とにかく俺達は走った。
 その物置小屋の戸は開いていて、中から聞きなれた泣き声が聞こえてきた。それから、聞きなれない下衆な笑い声。
 これはまずい。そう思った。先生を呼んだ方がいい。けれどそうする前に根暗が突撃していってた。俺も慌ててその後を追った。
 小屋の中には、いかにも不良って感じの中学生がいた。俺の通っていた学園は超マンモス校で、樹や茂み、森や沢で区分されてはいるが小学から高校まで同じ敷地内にあったんだ。ちなみに大学は少し離れた別の場所にある。多分中等部の生徒がサボり目的でここまで来たんだろう。
 そんで、そいつらが囲っている中央からあいつの泣き声が聞こえてくる。……あいつに覆いかぶさるようにして、いじめっ子がぐったりとしていた。
 何があったのか状況を理解した瞬間、場の空気が変わった。原因は根暗だ。見た事ない顔してた。……怒ってた。その感情とリンクしてるみてぇに空気が震えてるんだよ。地面もびりびり言ってた。小屋の中のものがかたかた揺れてた。
 次の瞬間、地面から棘……というより『刃』が次々突き出してきて、不良のうちの一人の服に突き刺さってた。怪我はしてないらしい。不良共は何事かをわめいてから根暗の腹目掛けておもっきし蹴りを入れた。真正面から蹴られた根暗はちょうど後ろにいた俺を巻き込んで壁に激突する。おまけに使わなくなったボールやら壁に立てかけてた木材やらが俺達の上に落ちてきた。この洒落にならねぇ状況はもう少しだけ続く。

 動けなくなった根暗を何とか起こそうとしたら、頭を掴まれて引きずられた。そのままゴミを捨てるみてぇにいじめられっ子たちと同じ場所に投げられた。あいつもだったが、いじめっ子の方も相当ぼろぼろだった。いくら喧嘩が強いいじめっ子でも、流石に中学生とは体格差がありすぎたらしい。
 ……正直に言ってやる。何すんだこのやろうとか言える訳もなかった。ああそうさ怖かった。だって、俺達の中では最強だったいじめっ子と根暗がやられちまってたんだ。痛みも恐怖を増幅させる材料でしかなかった。小学生の俺達には、不良共は大きすぎた。
 つかの間、いじめられっ子が俺の目の前で踏まれた。それに驚く暇もなく、俺の背中にも重みと痛みが降ってきた。それで顔面を強打する。多分、俺も踏まれた。口ン中に鉄の味が広がる。視界だけを上げると、根暗がボールみたいに蹴られながらこっちに集められた。
 耳鳴りがしてきたが、あいつの声だけがやけに響いた。

「やめて!やめて!いじめるなら俺だけにしてぇっ!!」

 バッカじゃねーのあいつ。こんな時に他人を庇いやがって。あー莫迦って本当に、もう。……嫌いじゃないが、俺様みたいな天才がついてやらねぇと駄目だなやっぱ。心底そう思った。
 手を伸ばした。多分無我夢中だったな。いじめられっ子はその手を握り返してきた。そしたら反対の手を誰かに握られた。根暗だった。根暗の反対の手は、いじめっ子の手を握ってた。そン時の根暗の目が、やけに頭にこびりついて離れない。まるで夕焼けに反射して輝く、大地の金色。
 次の瞬間。俺達は闇に包まれた。驚いた不良共の声が壁に阻まれているかのように聞こえる。いや、俺達は『壁』に囲まれていた。それが五つ組み合わさって、俺達を入れた『箱』になってたんだ。俺達が座って頭がぎりぎりぶつからないくらいの大きさだった。
 『箱』は土で出来ていた。すぐに分かった。根暗の仕業だって。箱は叩かれているらしく、がんがん五月蠅かったがそう簡単に壊れそうにない。イラついているであろう不良の声も聞こえた。でてこいとか言ってたけど出るわけねーだろクソが!!て言うか出れるわけねーだろ!!
 繋いだ手をそのままに、俺達は互いに縋りつくように抱き合った。いじめられっ子はいじめっ子を庇うようにしてたようにも思う。詳しくは覚えてない。
 それから少しして、外が急に静かになった。諦めたんだろうか。根暗に外の状況を確認してもらおうとしたその時、まるでナイフが入ったかのように箱の上一部分が切られて、そのまま滑り落ちた。ビビった、マジビビった。俺達は更に身体を寄せ合った。

 「心配いらない。もう怖いものはないよ」

 ……女の声だった。白い髪にハイヒール、白い白衣を来たスタイルのいい女がメスを持ってそこに立っていた。不良中学生たちはその女の足元に転がっていた。ケツに注射が刺さってたけど何をされたんだろう。こあい。
 その人は中等部の保険医だと言った。見回りの途中でこの現場に出くわして、俺達を助けてくれたんだと。小等部の保健室より、中等部の保健室のほうが近かったから、俺達はすぐそこまで連れて行かれた。不良は後で他の先生が回収しにくるらしいんでほっとかれてた。
 俺達は保険医から治療をひとしきり受けてから、何があったのかを聞かれた。それらに答えると、目の前にお菓子をとジュースを差し出された。保健室に私的に常備してて、内緒で食べていいらしい。そのまま保険医は事態を伝えにいったん保健室から出て行った。
 三人でお菓子を食べてると、寝かされてたいじめっ子が目を覚ました。いじめられっ子はそれに気付くなり、やっと泣き止んだのにまたぶわって泣き出しやがった。てめーこんにゃろういじめっ子許さん。いじめられっ子もいじめられっ子だ。良かった、良かった、ごめんね、何て言いやがってったく!ほらいじめっ子もびっくりしてやがる!

「……何故、そんな顔をする。俺は、お前に酷いことをした」
「むぅ……だって怪我、痛そう。俺のせいで怪我したから……俺を庇ってくれたから……」

 あの時、覆いかぶさっていたのは、庇っていたからなのか。意外な事実に目を見開く。根暗も同じ顔してた。それから二人で目で頷きあって、根暗が問うた。

「お前、なんで今までずっとこいつをいじめてたんだ?」

 薄々は感じていたが、どうもこのいじめっ子はいじめられっ子に執着している様に見えたんだ。
 理由は解らないが、酷いことをしたと自分で言っていて、尚且つ先程庇っていたなら、今までいじめは悪いことだと最初から解っていたのではないのだろうか。……それでも止められなかった理由は、何なんだろうか。
 いじめっ子は答えてくれなかった。再度問い詰めようとした俺を、根暗が制止した。そしたら、いじめられっ子が。

「あの、俺、怒らないよ? 約束する」

 そりゃそうだろ!お前が怒ってる所なんてみたことねーよ!虐められてていっつも俺か根暗がキレると止めるくらいだろうがえー!?怒っていいんだぞお前!
 涙を拭きながら、いじめられっ子はいじめっ子の返答をただじっと待つ。真っ黒な純粋な目にずっと見つめられて、やがていじめっ子は気まずそうに目線を泳がせてから、上手く伝えられないかもしれないが、と少しずつ話し出した。

 いじめっ子の家は魔法に秀でた一家なのだが、良心と同じ様に優秀な双子の兄とは違い、いじめっ子だけがその才能が全く無く、いつも家族内から冷たくされているらしい。毎日食事は別に一人でとらされ、自分の身支度は自分自身でやらなければ能無しと罵られ、テストでいい成績をとっても魔法が出来なければここにいる意味がないとため息を疲れ、魔法で成績の良い兄だけを褒めちぎる。暴力は一応無いらしいが完全にネグレクトじゃねーか酷過ぎんだろオイィ!?
 この話にはいじめられっ子も根暗も大層びっくりしてた。そんで二人して同じ事を言うんだ。

「家族が家族にそんな事をするなんて」

 二人とも、家族に大切に育てられて、それが当たり前だと思っていたんだろう。いや、それが当たり前でなくちゃいけねェ筈なんだけどな世の中的には。ちなみに俺様の所はフツーだと思う。
 自分は喧嘩も強くて、他よりも勉強できて、努力して結果を残しているのに家族に認められない。だのに、泣き虫で弱くて勉強だって自分に劣るいじめられっ子が努力してる風に見られないのに家族からは愛され、俺達に構われているのが気に食わなかった。ある日の帰り道で、いじめられっ子が両親と仲良く手を繋いで帰る風景を見てから、その思いが爆発した。……いじめっ子は、最後に謝罪を述べて、そう言った。
 もうこの話を聞いたいじめられっ子の涙腺は崩壊。根暗がまた怖い顔して、俺といじめっ子は慌ててそれ等を宥める。と、ここで保険医が帰ってきた。保健室に入ってくるなり、俺達の様子をみて、こう言った。

「仲がいいんだな、君たちは」

 別に、と言おうとしたいじめっ子の口を俺様が塞いで、根暗が全力で先生の言葉に肯定した。驚いたいじめっ子の手を、泣きながらいじめられっ子が握った。

 ……保険医曰く、事情が事情なので、保険医は学校と相談した上で、今日は俺達に家から迎えを頼もうという事だったのだが、根暗の両親はタイミング悪く出張中、同じ学校にいる兄と姉は先に帰っただろうが迎えには不適合だろうとの事。俺様んトコは電話に出なかった。いじめられっ子のトコは母親が入院中で父親も電話に出なかったから多分病院に一緒にいるらしいと予想。いじめっ子のトコは……何があったか解らねぇが、迎えに来ないらしい。さっき聞いた話からして、もしかしたらいじめっ子を迎えに来る気が無いのかもしれなかった。
 そこで今日は保険医が車で送ってくれることになった。俺達は保険医に連れられて普段立ち入ることがない教員用の駐車場まで行くことになった。

 ……その短い距離を、四人で歩いた。夕焼け小焼け、手を引かれてさぁ。

 て言うかいじめられっ子まだ泣きやまねぇ。いじめっ子はなんか時間差で鼻血が出てきた。誰かティッシュ!ティィィィッシュ!!根暗はどんどん先に行く。根暗ェ……。
 と思ったら保険医から箱ティッシュもらってすぐこっちに駆け戻ってきた。根暗ェ!
 そんなこんなで保険医の車に四人で後ろに乗り込んだ。せめぇよ誰か一人前いけよ!……と思ったけど、こン時はいじめっ子から離れちゃ駄目だと思ったんだろうなアイツら。そういうわけで俺様が一人で前に乗る事にした。寂しくなんかねぇ快適だぜ。
 最初はいじめっ子の家だった。家でけぇ。綺麗。いじめっ子は金持ちだった。……あまり帰りたくなさそうな顔してた。たくさん汚れたから、怒られるかもしれないって言ってた。それはいじめっ子のせいじゃねぇってのに。
 何かを察したらしい保険医が、家の中に入るまで一緒についてってくれる事になった。保険医に手を引かれて帰るいじめっ子の背中に、根暗が叫んだ。

「また明日!」

 ……いじめっ子は驚いたように振り返って、それからまたとぼとぼ歩きだした。それからすぐに、俺様がとある計画を思いついて、保険医が戻ってくる前に、その話を終わらせた。
 この車の送迎でいじめっ子の家の場所を覚えた俺達は、翌日迎えに行ってやったんだ!いいか!俺様が思いついた計画だぞ!お・れ・さ・まが!!根暗のまた明日を実行してやったぜ!やったぜ!!
 まぁ、そういうわけで、俺様たち四人はいつも一緒に行動するようになった。いじめの蟠りさえ溶けてしまえば、いじめっ子は温厚で冷静沈着な悪くない奴だった。それに、いじめられっ子にはものすごく優しくなった。言ったろォ?ガキなんざ何とでも友達になれちまうんもんだってな。

 ……それからどうしたって?

 ……始まりがありゃ、終わりもある。
 中学生ん時だ。いじめられっ子の母親が死んで、いじめられっ子は家族の為に家庭の事を出来るだけするようになった。そんで高校に入る直前でいじめられっ子は学校をやめて本格的に家庭を支える道を選んだ。まだ小さい弟と妹がいたんだとよ。まぁ、義務教育は一応終えてたから問題はないわな。
 そこからは、まぁ……徐々に徐々に、俺達の関係性は薄れていった。根暗のヤツはすっかり主人公になって誰からも好かれる人気者で常に俺達以外にも人がいたし、いじめっ子も実家と決着をつける為に自分の道を決めてそれに進み始めた。俺様だってそうだ。進路の事で頭いっぱいで、勉強に打ち込んだ。国語だってこの頃にゃ克服してた。
 大学進学の時に俺は将来進むべき道を考えた結果、あの学園を出た。根暗といじめっ子は学園の大学部に残った。……それからは、解らねェ。そこで完全に俺達の関係は途切れちまった。まぁ、そんなもんだろ、ヒトとヒトとの関係ってのは。

 ……は?似合わないからそんな顔すんな?どんな顔だよ。テメーが心配するような顔してねーぞ俺様は。さぁさぁもう帰った!センセーの昔話は終わりだ!もうすぐ閉校のチャイムも鳴るぞ!
 ……何?面白い話が聞けて良かった?はいはいそーですか、そいつァ良かったなぁ。頼むから言いふらすなよ、そういう約束だからな。


 ……はいはい、「また明日」。





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 暇つぶしに、と何故か学生時代の話を聞きたがってきた生徒の相手をしていたアストロは、夜の帳が完全に降りた頃にやっと解放された。急いで帰る支度をして、最後の戸締りを確認してから、これから見回るであろう警備員に一言挨拶をしてばたばたと学校を出る。面倒臭いが教師として働く身である為、こういった事は守らねばならない。
 何時ものように明日のスケジュールを考えながら夜道を歩く。季節は夏、昼は兎も角、夜は丁度良い気候で過ごしやすい。……昔を思いだすには、あまりにも丁度良過ぎた。歩みの速度で、あの四人でつるんだ日々を思い出す。
 ふと、何と無く気が向いて、コンビニに立ち寄ってから帰ろうと思った。そうして家から最も近いコンビニを真っ直ぐに目指し、目の前に目的地が見えてきたところで、コンビニから出てきた男女数人の若い影。アストロはその姿を発見するなり、すぐに声をかけた。

「オイてめーら、何してんだ。この時間出歩くのは校則違反なんだがなァ」
「あ、先生!」
「もー邪魔しないでくださいます?わたくし達、大事な交流の途中なんですのよ」
「うっせーてめーらここで注意しなかったら俺様が怒られンだよ!」

 男女のうち、何人かは自分の学校の生徒だったからである。見覚えがない方は恐らく他校の生徒だろう。現に、一人が聖域学園の制服を着ていた。先程までくすぶっていて、ようやく収まりかけていた懐かしさが急増する。自分もあの制服を着ていた時期があったのだ。
 だが、それはそれ。これはこれ。めんどくさかろうと他人の事なんぞ知らずとも他校の生徒であろうとも、彼は立場上、その場にいた全員に注意をしなければならなかった。

「てめーら聖域学園の生徒もだ。保護者もいねぇのにこんな時間にうろつくんじゃねぇ」
「……あ、あの、保護者、おれです」

 学生集団の最後尾から、そんな声が聞こえてきた。聞き覚えがあるようなその声に、アストロは一瞬固まった。
 ―――……気のせいだ。さっきまで昔を思い出していたから、あいつの声に聞こえただけだ。
 そう自分に言い聞かせて、声が聞こえた方を見やる。足元から電流が奔ったように、硬直した。

 白銀の長い髪、黒曜石の瞳、男にしては細い体躯、真珠を鏤めたように白いきめ細やかな肌。……どれもこれも、アストロには見覚えがありすぎた。強いて見覚えないところをあげるならば、いっそ美しさを感じるほどの儚さの中に僅かばかり妖艶さを感じられる所だろうか。
 その相手は驚いたように目を見開いている。恐らく自分も、同じような顔をしていただろう。学生たちに訪れた微妙な雰囲気を気にしてる余裕など無かった。

「……希鳥?」
「……アストロ?」

 予期せぬ再会であった。





「うわ、わぁ、わぁ!ひさしぶりー!うっわーアストロかわってないね!」
「うおっ、ちょ、抱き着くんじゃねぇよ中学ン頃とは違ぇェんだぞ!」
「あは、ごめんごめん。嬉しくてつい。先生になってたんだ、聖域学園はでてったんだね」
「まぁやりてぇ事があったからな。……お前は変わったな。いや変わってねぇんだけど……なんか(色々、別な方向に磨きがかかったというか)」
「むぅ、よく分んないよそれ。あ、ねぇ、あのさ、弟たちから聞いたんだけど、エヴェとディプス、今二人でおんなじ学科にいるんだって!そんで最近また一緒に居始めたらしいよ!」
「マジかよ。……せっかくだし、今度集まるか?」
「本当!?やったぁ!嬉しい!俺もね、そう言おうと思ったんだぁ(にへ)」
「お、おう……(神さま、俺アンタに前からずっと言いたかった事がある。こいつの性別を間違えただろ絶対!)」
「おにーちゃんその人誰?」
「ていうかあたしら完全おいてけぼりなんだけどw」


















マジですか。


シェリン「あ、いたいた。おーいマグネっ娘ー」
オーエス「……それ僕のこと?」
シェリン「うんそう。マグネットとかけてみたんだけど」
オーエス「……まぁ、キミにどう呼ばれようがどうでもいいけどね。それより」
シェリン「?」
幼馴染「……」
オーエス「生徒会長様と副会長様が何の用?いっとくけど、バサラ衆に制裁云々とかいうなら、聞かないけど」
幼馴染「……今日は一人なんだな」
オーエス「一人の所を狙ってたんじゃないの?」
シェリン「まさか!でもまぁ、オーエスに会えたら一番いいなっては思ってた」
オーエス「(はぁ、とため息。)……で?」
シェリン「ちょーっと、バサラ衆に協力してもらいたい事があってさ。話通してくれない?詳しい事は全員が揃った時に話すからさ、ねっ?」
オーエス「そんな事か。悪いけど、他を」
シェリン「ちゃんとお礼もするって!お願いッ!(パンッ、と両手を合わせて片目を瞑る仕草。)」
オーエス「……まぁ、話だけ通してみるよ。悪いけど、決めるのはバサラだから」
シェリン「サンキュッ!バサラのヤツ、あんたの話ならちゃんと聞いてくれるからさ、助かるよ」
幼馴染「お前あの人一応三年なんだから先輩なりさんなりをつけろよ。……まぁ、あの優しさをもう少し俺達にも向けてくれればこう回りくどい事せずに済むんだけどさ」
オーエス「……何言ってるの?バサラにとっては皆同じだよ。バサラ衆は少し優しいかもしれないけれど、それでもバサラ衆の中だと僕も同じだ」
シェリン「えっ」
幼馴染「えっ」
オーエス「えっ」
幼馴染「……マジですか。うーわー、マジかー(右をむいて顔を片手で手で覆う。)」
シェリン「気付いてないとかバサラかわいそすぎる(左をむいて顔を片手で覆う。心なしか少し笑っているようで少し震えてる。)」
幼馴染「いやこうなるとあっちも無自覚でやってんじゃねぇのコレ」
シェリン「あー納得……」
オーエス「な、何だよ」
シェリン「んもーこの際だからハッキリさせたげるよ!」
幼馴染「バサラ先輩のお前に対する態度が明らかに他の人と違うんだよ」
オーエス「まさか」
シェリン「バサラより重い荷物もった事は?」
オーエス「……ない。だってそれは僕が力がないから、かえって迷惑かけるから」
幼馴染「つるむ時、あっちの方から迎えに来てるだろ」
オーエス「……最近は、そう、だね。最初は集合場所に行くだけだったんだけど」
シェリン「何かを頼むとき、他の人にはやれの一言だけど、あんたに対してはお願いできるかって聞くでしょ?」
オーエス「……他の人に対する態度は、どうだろう。でも確かに、僕には聞いてくる」
幼馴染「一緒に歩道を歩くとき、車道側を歩いた事ないだろ」
オーエス「……ない、かもしれない。あまり意識した事がない」
シェリン「だろうね。……喧嘩の時、バサラより前にでた事は?」
オーエス「……後ろに控えてろって……大抵ザンシュ一人で終わるし……」
幼馴染「君の特技は柔道だろ?後ろに控えてちゃ意味ないよな。なのにそうしろっていわれた。それに、さっき力がないから迷惑かけると言ってたけど、柔道やってて力がないって言えるか?」
オーエス「……ほ、他の人に比べて、だよ。力仕事はザンシュとテンカが入れば何とかなるし……」
幼馴染「まぁあの二人と比べちゃいけない感じはするが……」
シェリン「じゃあそのテンカと君に対する態度くらべてみ?バサラがテンカに対して、オーエスと同じ態度とる?」
オーエス「…………。(思案を巡らせる。どうだっただろうか。正直、覚えてない。というか自分とテンカでは違いすぎるので比べようがない気がした。)」
シェリン「……まぁ、そこで気づくならこうはならないよね!とっておきの話してやんよ!こないだ割と大きな喧嘩したじゃんお前ら。マリヴィン一派と」
オーエス「嗚呼、あったね。あそこで君がケビン先生とユリウス先生を呼ばなかったら中断せずにすんだんだけど」
幼馴染「何それその二人揃うとか怖すぎ」
オーエス「正直怖かった」
シェリン「話戻すよー。……そんでお互い割とぼろぼろだったじゃん?テンカもみぃんな顔煤だらけ土まみれでさ。そんな中、バサラはあんたに真っ先に言った。大丈夫かって」
オーエス「……でも、それだけじゃ」
シェリン「顔に傷がないか確かめながら服の汚れを払ってあげてた。乱闘の最中に落としたSNマグピンを拾ってつけてあげてた。覚えてるでしょ?」
オーエス「…………。(あの時、あの顔の近さには確かに違和感を覚えていた。顔の傷を探していたから?……してない。一応同じ女子であるテンカにも、勿論他のメンバーにだって、そんな事していなかった。それがバサラの当たり前だと思っていた。思っていたのに)」

シェリン「あんたバサラの性格解ってるでしょ?あのバサラが、重い荷物を自分から持ってあげたり、車道側の道を歩かせない様に自分から歩いたり、女の子の顔に傷がつくのを気にして、髪に触れたりしてくるのは……オーエス、あんたにだけだよ?」

オーエス「……あ……(自覚した途端、火が出るくらいに顔が熱くなった。オーエス本人からは見えないが、顔は真っ赤になっている。)」
シェリン「んもー可愛い!結婚式には呼んでね!!」
オーエス「え、あ、ちょ」
幼馴染「おいからかうのはよせ(オーエスに思わず抱き着こうとしてたシェリンの首根っこを掴んで止める)……悪かった。でもまぁ、解ってくれたみたいだな。じゃ、後よろしく。返事は絶対に三日以内にくれ。じゃあな(そのまま慣れた様子でシェリンを引きずって退散)」
シェリン「健闘を祈るよ~(手を振りながら慣れた様子で引きずられて退散)」





オーエス「(バサラが?僕を?まさか……でも、僕は、嬉しい。けど……嗚呼、どうしよう恥ずかしい。どうやって接すればいいんだバサラと)」
バサラ「オーエス」
オーエス「ふぁっ!?あ、ば、バサラ……それに、みんなも(ドキドキ)」
バサラ「……迎えに行こうと思ったんだが、遅かったようだな」
オーエス「い、いや、僕が早くに、こ、行動しちゃっただけ、だし……(ばくばく)」
バサラ「どうした?顔が赤いぞ。熱でもあるのか?(ピト)」
オーエス「(ひえええええええええええっ!!!)」
バケルカン「(やっと進んだか)(白目)」


















学園ものあるある~なんか勝手につけられた呼称編~

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「ねぇねぇ、アレってもしかして……」
「『騎士外殻(アウターシェル)』の一人、『黒騎士』エーヴェルトさまよ!」
「やっぱり!」
「ぴか一の運動神経、陸上部のエース、鍛え抜かれた肉体とバツグンのスタイル、無骨な表情、ドライでクール。でもそれだけじゃないの。時折見せる他人への優しさに垣間見える、温厚で寛容、気の長い努力家の顔。その素顔に女の子たちのハートはキャッチされちゃうの!」
「静かに守ってほしー!たまーに優しくしてほしいー!傍にいてほしいー!きゃー!」
「いいよねーそういう寡黙で頼りがいのある人って!」

「その隣にいるのは『天地の守人』ディプスさまでしょ?」
「専攻は意外にも民俗学。料理上手で掃除洗濯等の家事もお手の物。そして何より、誰にでも優しい老若男女問わず人気者!それ故に一級フラグ建築士の別名もつけられているの」
「正に主人公って事ね!彼はブレイバーだわ!」
「私達みたいなモブにも笑いかけてくれるのよ!そんな優しさに女の子たちはメロメロ!」
「あ、今ディプス様と目があっちゃった……キャーッ!!///」
「今こっちに手をふってくれたわ!」

「ほらみてよ。『星の識者』アストロさまも合流したわ」
「聖域学園始まって以来の天才と謳われた見た目は完全にチンピラ!けれどそのギャップがたまらないって子も少なくない!」
「アストロさまの俺様気質は普通ならあまり好かれるものではないけれど、それが許される頭脳と実績がある故に、M気のある女の子たちはついていきたくなるのよね!」
「ていうかついていけなくても貴方の行きたいところまで無理やり連れてって欲しいみたいな!?頭が凄くいいのに子供っぽい所とかも可愛いわよねー!」
「あとあの中じゃなんだかんだ苦労人な面がまたいいわよね」
「かーわーいーいー!」

「あら、もう一人きた?」
「!! ねぇ、もしかしてあの人……!!」
「ええ、間違いないわ……『騎士外殻』の要、守るべき存在、『歌姫』の希鳥さまよ!」
「きゃあああああ!!何あれ!何なのあの細さ!驚きの白さ!柔軟剤でも使ったの!?」
「その辺の諸々の要素が男であるにも関わらず『歌姫』と称される理由よ!へたれで力も無くて弱虫で、男としてまるで頼りない。けれど、甘いほど優しく、儚く、そして美しい。その男らしからぬ所の非日常さ、完璧ではない所に、人々は魅かれてしまうのよ……きっと『騎士外殻』の方々が『歌姫』を守る様にして集っているのは、そう言う事じゃないのかしら」
「なんなのあれ……あれなんなの……不思議……」
「ねぇ……でもその不思議な魅力が」
「『歌姫』の良い所!」
「ねー!///」
「あ、『騎士外殻』が移動したわ。食堂にいくのかしらね」
「そろそろお昼時だものね。私達もごはんにしましょ」
「あーいいものみれたわー」
「ねー!」






ディプス「(遠巻きにみてる女の子たちに手を振る)」
<(キャー!)
アストロ「……オイ、ほどほどにしとけ。誤解されたらどうすんだ」
ディプス「誤解? あの子たち、ずっとこっち見てたからさ、無視はよくないと思って……」
アストロ「そうだよなお前はそういうやつだよなこの野郎!」
希鳥「もう、アストロ。大声だしちゃ駄目」
アストロ「チッ……わぁったよ」
ディプス「さっきの子たちが言ってたアウターシェルとかってなんだろな」
希鳥「なんかの漫画かゲームの言葉っぽかったよね」
エーヴェルト「……」
アストロ「お前楽しそうだなエーヴェルト」
エーヴェルト「そんな事は」
アストロ「ありまくりだろこの重症患者が!」
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最終更新:2013年12月20日 04:59