VSレーテー 白猫の狂想曲(ラプソディア)


巷を騒がせる「白い悪魔猟奇殺人事件」。
それは一行の仲間、ナームグァン・ムルバヨンが引き起こしている事件だった。

カルネアによると、ナームを始めとするステルディアの獣人たちには本能が爆発するいわば「衝動」があり、それはどのような形で現れるかは個々によるが、ナームの場合は「破壊」らしい。
そしてそれは理性で普段は抑えられるものであったが、何の理由でかナームは「理性の箍が外れてしまった」ということだ。

そしてもうひとつ、事件を引き起こすナームの傍らには黒髪の少女が憑いているという目撃情報があがっていた。その少女の名前は「レテ」。

そこでムーサは目をつける。
忘却の力を司る「レーテー」という神札の存在があり、ナームは「理性」を忘れられているのではないかと。レーテーの性格ならば在り得ないことではないと。

とにかく、神札が関わってるにしろそうでないしろ、何時までもナームを・・・事件を放っておくわけにはいかない。
そうして一行のもとに「白い悪魔討伐」の任務が舞い込んできた。


「ナーム!神札レーテー!オレはここだ!ヘレネス・ブックの所有者はここにいる!!」


ナームの目撃情報があったその場所、任務先に無理やりついてきた一般人、希鳥が高々と声をあげた。
普段はへたれでよわきでおどおどしてて頼りない彼のその姿に、一行は目を見開く。

するとすぐに一陣の風が吹き、ナームが現れた。
その傍らには神札レーテー。


「・・・こわして、いいよね?人質クン」


血のように真っ赤な目を希鳥にむけ、飛び掛るナーム。それを皮切に、戦闘が始まった。
血のにおいをかぎつけた魔物。レーテー以外の神札ヘカテー。そしてレーテーとナーム。任務を全うしようとする者。ナームをあくまで護ろうとする者。



血が踊る。風が舞う。剣戟が奏でるは狂想曲(ラプソディア)。



しかし終わらぬ舞台はない。ナームが倒れ、レーテーが封印されたとき、狂想曲(ラプソディア)はとうとうフィナーレを迎えた。

レーテーは自身の封印者である希鳥に、こう願う。ナームの破壊衝動をその力で忘れさせ続けて欲しい、と。
ナームは破壊衝動を抑え続けることに疲れていた。だからレーテーは理性を忘れさせてやり、本能のままに生きさせてやることにした。それが本人のためだと思ったからだ。

その言葉を聞き、希鳥は血まみれで横たわるナームのもとへ行く。
呆然とする彼の瞳はいつものアメジスト色に戻っており、涙がとめどなくあふれていた。
その弱弱しい彼の頬を、涙を掬うようにそっと撫でてやる。すると希鳥とナームの間に力が流れ、ナームの破壊衝動を流した。
久々に心の水面が穏やかになったナームは、そっと目を閉じる。そして傭兵たちに保護されていった。その様子を見送る希鳥。




(・・・解ってしまった。)




ナームが一番壊したがっていたのは、紛れも無い自分だったのだ。理由は解らないけれど、それはきっと自分の責任。

決してそうではない、と誰が彼に言えただろうか。
彼らの心中は彼らにしか知りえないものなのだから。

      • そうして、希鳥は人知れず姿を消した。時間が欲しかった。





最終更新:2013年12月02日 20:58
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