『崩壊はある日突然に』
「はぁ……はぁ……はぁ……」
一人の少女が暗い下水道の中を歩いている。
否、それは少女ではなかった。
人間と同じように四肢を持ち服を着ていたが、その顔はどことなく下膨れでアンバランス。
青い長髪、黒い帽子に桃の実を乗せた、そう、胴付きゆっくりてんこである。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
胴付きでしかもてんこ。
希少種中の希少種であるが、その帽子には煌びやかな金バッチも付いている。
どうやら誰かの飼いゆっくりのようだ。
そんな希少種で金バッチ持ちのてんこが何でこんな薄汚く、暗い下水道にいるのか?
やがててんこは足を止め、壁にもたれかかってその場に座り込む。
「はぁ……。……ぐすっ……ゆ……ゆえええええぇぇぇ……おにーさん……おにーさん……」
膝を抱え涙を流して静かに泣く姿は、その手のお兄さんが見ようものならば問答無用でお持ち帰りされてしまうくらいの破壊力だ。
では何故、てんこは泣いているか?しかもこんな場所で。一人で。
事の発端はその日のお昼に遡る―――
私はてんこ!
おにーさんのお家で暮らす胴付きゆっくりよ!
おにーさんは私の飼い主さんでとっても優しいの!
毎日美味しいご飯さんを作ってくれるし、一緒に遊んでくれるし、てんこが寝るときは一緒に添い寝もしてくれるのよ!
私が生まれたのは街のペットショップ。
どうしてか分らないけど、人間さんはみんなわたしの事を『希少種ゆっくり』って呼ぶの。
おにーさんが教えてくれたけど、『希少種』っていうのは『珍しい』ってことみたい。
だからお店でも外から見える窓ガラスさんの近くの、透明の箱の中に入れられていたわ。
お店の前を通りかかる人は私を見て何か言ってくれたりしてたけど……私の透明の箱についていた数字さんを見たとたん残念そうな顔をしてどっか行っちゃうの……。
だからわたしはいつも一人ぼっちだった。
お店の別の場所に居る同じバッチを持ったれいむやまりさ達はわりと早く人間さんと一緒に出て行っちゃう。
あ、まとめて一緒にいる小さい子達は一日おきに新しい子と入れ替わっていたわ。
小さい子が入った箱には『赤ゆっくり袋詰め放題!500円!』なんて書かれていたけど……。
ご飯さんも美味しい。
すーやすーやもたくさんできる。
おもちゃもある。
でも、一人でいるのはつまらない……。
そんな毎日から私を助けてくれたのがおにーさん。
おにーさんも何度か私を窓越しに見てくれたけど、他の人間さんみたいに諦めたようなお顔はしないで、優しいお顔でいつも私を見ていてくれた。
それで始めておにーさんのお手てに触れた時、私はとても暖かい気持ちになったの。
その後、私はおにーさんのお家で飼われる事になった。
おにーさんはとっっっっっとても優しくて
『てんこは僕の家族だからずっと一緒にゆっくりしようね』
って言ってくれた。
ああ!わたしおにーさんが大好き!
知り合いのありすは
「てんこも大人になったのね!でも、都会派なレディなら『けっこんっ』のすっきりーは駄目よ?」
最近飼い主さんの許可を得て、『にんっしんっ』した大きなお腹を見せながらなんて言ってきた!
ぷんぷん!
てんこそんなことしないわっ!
それにおにーさんにまだ告白だって……じゃなくて、てんこはおにーさんの家族で『飼いゆっくり』なんだから、そこらへんをしっかりわきまえないといけないと思うのよ!
―――でも、おにーさんは大好き。
そんなことを考えながら今日もお昼のお散歩。
飼いゆっくりと人間さんがよく集まる公園に一人で行く。
おにーさんが買ってくれた『GPS付きゆっくり携帯電話』を持ってゆっくりお散歩。
公園には、ご近所のどちらも金バッチのれいむとまりさ。
二人の飼い主のおねーさんがいた。
「おねーさん達こんにちわ!」
「こんにちわ。てんこちゃん。今日もいい天気ね」
「あらてんこちゃん。こんにちわ」
「れいむ!まりさ!ゆっくりしていってね!」
「「ゆっくりしていってね!!」
みんなと挨拶して、てんこのお気に入りのブランコにのる。
力いっぱい漕ぐとまるでお空を飛んでるみたい!
おにーさんのお膝の上に乗っかって漕いでもらった時よりは高く行かないけど、やっぱりブランコは気持ちいいわ!
おにーさんには止められてるけど、今日は立ち乗りをしてみようかな?
とりあえず一回ブランコを止めて―――
「おそらをとんでるみたいいいいいぃぃぃ『グチョッ』ゆべっ!!」
公園に響いたれいむの声。
直後に聞えた嫌な音。
見てしまった。
れいむを抱えていたおねーさんが、とてもゆっくりしていない速さでれいむを地面に叩きつけるのを。
れいむは顔から地面にたたき付けられて、地面に餡子を飛び散らせた。
周りに白い歯やキラキラ光るおめめが転がってる。
「ゆ?」
近くにいたまりさは何が起きたか判らないといった表情でれいむの死骸を見つめてる。
「ゆ?れいむ?おねーさんれいむ『グシャッ』ゆげっ!!」
飼い主のおねーさんに目を向けたまりさを、そのおねーさんの足が踏み潰した。
帽子はひっしゃげ、まりさの体が破け、裂け目からは餡子が噴出し、おめめも片方が吹き飛んだ。
「お”お”ね”ざ『ザリュ』ゆぎびいぃっ!!」
かろうじて生きていたまりさの体を、おねーさんがさらに踏みにじる事によって止めを刺した。
おねーさんたちは足に付いた餡子を振り払うと
「今日の夕食は息子の好きなハンバーグにしようかしら?」
「だったら今月のお料理本にいいのが載ってましたよ?」
と、ご飯さんのお話をしながら笑顔で歩いていった。
私はブランコから降りた。
何もいえなかった。
目の前で起きたことが信じられなかった。
でも、何よりもわからなかったのが、あの優しいおねーさんたちが、飼いゆっくりを殺したということだ。
しかもその後は笑顔でお話しながらどこかに歩いていってしまった。
アリンコさんたちがまりさとれいむの死体に群がり始めた。
転がったれいむのおめめが私を恨めしそうに見ていr
「ゆ、ゆぐぐぐ、ゆえええええぇぇぇ!!」
私は吐いた。
気持ち悪い。
「~~~~~!!」
餡子を吐くのはゆっくりできない。
でも、吐かないとどうにかしてしまいそう。
お腹が痛い。
頭が痛い。
恐い。
助けて。
おにーさん―――!
「や、やべでえええええええええぇぇぇぇぇ!!ありすのおぢびぢゃんをごろざないでえええええええぇぇぇぇ!!」
突然響いた新しい悲鳴。
この声はあのありす。
顔を上げるとありすが見たことも無いくらい酷い顔をして泣き叫んでいる。
確かありすは優しいおにーさんの飼いゆっくりだった。
そんなありすが必死に叫んでいる相手……それこそ、そのおにーさんだった。
そしておにーさんの足の下には……砕けた赤いカチューシャと黄色いカスタードの溜りがあった。
「おちびちゃんんんんんんん!!しんじゃいやああああああああぁぁぁぁ!!ぺーろ!!ぺー……びぎゅっ!!」
おにーさんの足がありすの舌を踏み潰す。
痛みのあまり跳ね上がったありすの体が、地面に押さえつけられた舌と離れ離れになる。
「はひひゅひょひょひゃいひゃひゃはひははぁぁぁぁぁ!!ひびゅぎゅっ!!」
そのありす自身もおにーさんの大きな足に踏み潰されて動かなくなった。
「ん?」
「ひっ!!」
そして、ありすを踏み潰したおにーさんと目が合う。
いつものおにーさんと変わらない優しそうなお顔。
でもおにーさんがカスタードだらけの足を踏み出した瞬間、私は恐怖で逃げ出した。
「お、お家帰る!おにーさんのお家帰るうううううぅぅぅ!!」
必死で公園から逃げ出す。
おにーさんが追ってくる気配はない。
帰りたい!
帰りたい!
帰りたい!
帰りたい!
帰っておにーさんに話そう。
今日起こったことを全部話そう。
それでどうなるか分らないけどおにーさんに全部話そう!
ゆっくり殺しはゆっくりできない。
でも、人間さんはゆっくりよりずっと強い。
だからもう、町に野良のゆっくりなんて居ないし、野生のゆっくりだってもうほとんどいない。
だからどうにもならないかもしれない。
というかおにーさんにお話してどうするつもりなんだろう?
「おにーさん!おにーさん!おにー『ズルッ』ゆうぅ!?」
何かに滑って転んだ。
「い、痛いよぉおにーさ……ゆあああああぁぁぁ!?」
寝転んだ状態で目を開けると、目の前にはゆっくりちぇんの死体が転がっていた。
バッチ付き。
しかも金。
手にぬるっとした感触。
「……!?ひっ!!」
手のある場所にはちぇんの体の一部が落ちていた。
慌てて服で擦り落とす。
そして体を起こして周りを見る。
「ゲラアアアアアアアァァァァァ!!」
道を横断しようとしていた胴付きうどんげが車に跳ねられて体がばらばらになった。
「うー……おに、さ……」
胴付きふらんが飼い主さんのおにーさんによって顔を潰されている。
「ぼ、や……べ……で……くださ……ぶぎゅっ!ぎゃびっ!!」
向こうの空き地ではプラチナバッチ付きのさなえがおじさんによって杖で叩かれている。
あちこちでゆっくりが死んでいる。
違う。
殺されている。
飼い主さんに。
優しかったおにーさんに。おねーさんに。おじさんに。おばさんに。
―――おにーさんもてんこを殺すの?
「ゆあっ……ゆあっ……ゆあああああぁぁぁ!!」
立ち上がって走る。
でも、お家とは反対側。
恐かった。
おにーさんに殺されることじゃない。
おにーさんに殺されるという『想像』をした自分が。
「ごべんなざいいいいいいいぃぃぃぃ!!おにーざん!ごべんなざいいいいいいいぃぃぃぃ!!」
わけもわからず走った。
その間にも回りでゆっくりが殺されて行く。
「ゆぎぃ!!」
「やべでええええぇぇぇ!」
「おにーさんやべでえええええええ!!」
「やめちぇぇぇぇ!!」
「ちにちゃくにゃいいいいぃぃぃ!!」
そして、てんこの足がピタリと止まる。
そこはてんこが売られていたペットショップの前だ。
「―――」
耳をつんざくような悲鳴。
黒や白や黄色に染まるショーウィンドウ。
時折聞える人間さんのゆっくりとした声。
そして、窓には―――同じ胴付きてんこの首と胴が切り離された死体。
「おにーさんもてんこを殺すよ?」
てんこは薄暗い下水道の中で震えていた。
耳を塞ぎ、目を閉じ、震える体を必死にちぢこませる。
悲鳴が耳から離れない。
飛び散る餡子の映像が消えてくれない。
あの時の胴付きてんこの言葉が頭の中で聞える。
「ゆえええええぇぇぇ……えええええぇぇぇ……」
ただ泣くしかできない。
恐くて。
痛くて。
寂しくて。
苦しくて。
何がなんだか分らなくて。
てんこは体がふやけてしまうのではないかと思えるくらい泣き続けた。
「ゆえええええぇぇぇ……おにーさん……あいたいよぉぉぉ……おにーさん『ユ”……』ゆひっ!?」
暗い下水道に重く響いた何かの声。
てんこは真っ赤になった瞳を声をした暗闇の方に向ける。
ズルッ、ズルッ、ズルッ
「ゆぅっ!?だ、誰なの……?」
「ユッグリィィィ」
暗闇の中から姿を現したもの……それは、ゆっくり……とは思えないほどゆっくりしていない『ゆっくり』だった。
黒いお帽子からしてまりさ種とわかるが、その帽子はボロボロで帽子の淵の部分しか既にない。
そして髪の毛も生えておらず、表面は病的に真っ白。
片目は膿んでおり、もう片方も白く濁っている。
元々大きい口は、片方がさらに裂けており、黒い餡が付着している。
それは……町で暮らしていた野良ゆっくりのなれはて。
地上という住処を追われ、暗い地下へと逃げ延びたゆっくりの姿だった。
「ひっ!!」
「ユッグッ!ユッグギイイイイイィィィ……」
まりさがその裂けた口をにんまりと歪める。
すると口の下にあるぺにぺにがググッと盛り上がってきた。
てんこはその醜い姿に恐怖し腰を抜かし、ただただ顔を横に振るのみである。
「ゆあぁぁぁ……やあああああぁぁぁ……やめてっ……こないでよぉ……」
突き出されたまりさの舌がてんこの足にまとわり付く。
その舌もズタボロで、ところどころ醜い腫れ物ができている。
「いやっ!離して……っ!ゆあっ!!やめてぇぇぇ……」
まりさの舌がてんこのスカートの中に侵入する。
舌がてんこの太ももを這い、ゆっくりとその中心へと進んで行く。
「やだやだぁああああ!!たすけてっ!たすけておにーさんんんんん!!」
ザクッ
「ユゲッエエエエエ」
「ゆ?」
まりさの舌がわずかに痙攣し、短い叫びと共に地面に力なく崩れ落ちる。
まりさの後ろ。
そこには箒をまりさの頭に突き刺す黒帽子に金髪の少女が。
「もう大丈夫なんだぜ!しっかりするんだぜ!!」
「ゆふーあぶないところだったよっ!!」
それは胴付きまりさと銀バッチをつけたれいむだった。
久しぶりの、まともなゆっくりとの再開。
てんこは先ず泣いた。
まりさは困っていたが、れいむも察してくれたようでしばらくそのままで居させてくれた。
やっと落ち着いたてんこはまりさとれいむから事情を聞く。
二人はれいむの金バッチ試験のためにおにーさんと試験会場に向かっていた。
会場の待合室で待っている時、おにーさんがトイレに行っている間に『いっへんっ!』(れいむが命名)に巻き込まれたのだ。
会場にいた飼い主さんたちがいきなり飼いゆっくりを殺し始めたのだ。
れいむはこれを『いっへんっ!』と判断し、おにーさんに合流しようとするまりさにタンマをかけた。
物陰から様子を見ると、周りで起こっている異常な事態に何の反応も示さないお兄さんがそこにはいた。
やがてすべてのゆっくりが殺されてしまうと、会場から人間さんたちは出て行ってしまった。
後には自分たちと物言わぬ骸と化したゆっくり達だけが残った。
その後、人間に見つからないようにこの下水道に逃げ込んだところ、先の事態に遭遇したというわけである。
「ゆぅぅ……いっへんっ!だったのね……」
「そうらしいんだぜ……」
「いっへんっ!なられいむたちのとくいぶんやだよっ!……でも……なんのじょうほうもないと……」
「情報……そ、そうだわ……!」
てんこは持ち歩いていた『GPS付きゆっくり携帯』を取り出す。
これはGPSのほかにもラジオやTVも見れる優れものだ。
「すごいんだぜ!まりさ達のおにーさんは買えなかったんだぜ!」
「おかねさんがすくなかったんだよっ!てんこのおにーさんはすごいねっ!」
優しいおにーさんの笑顔を思い出してわずかに笑みを見せるてんこ。
とりあえずラジオやTVを片っ端から見たり聞いたりしてみる。
暗い地下下水道でも幸い電波は入った。
―――何気ないものだった。
流れるニュースや番組は普通のものばかり。
ゆっくりのことに関する事は一切流れない。
いや、この事態もおかしい。
いままではゆっくり向けの番組や放送があったのに、それが一切なくなってしまったのだ。
ゆっくりの『ゆ』の字さえ出てこない。
あれだけのゆっくりが大量に死んだ……殺されたのに……。
「……おかしいよぉ……なんで……こんなことに?」
「……」
「ゆぅ……」
三人の顔色は暗く沈んで行く。
「あんなにたくさんのゆっくりが殺されたよ?街の中でたくさん。たくさん……。なのにどうして?どうして、人間さんは何も言わないの?」
「ゆぅ……ゆっくりごろしをゆっくりできないとおもってるにんげんさんは『めでは』のひとがおおいけど……これは……」
愛で派。
昔では愛で派とか虐待派とか分かれていたらしいが、今ではそういう分裂もなく、ゆっくりは普通に受け入れられている。
基本ゆっくりは人間のペットとして認識されている。
人間はペットや動物を可愛がる。
それは特に愛でとかにこだわる人間でなくてもだ。
「そういう……ことなのかだぜ……」
「ゆん……そういう『いっへんっ!』なんだね……
二人には判った様だ。
「ゆ?ゆ?どういうこと?てんこにもわかるように……」
「ゴキブリさんや毛虫さんを殺すのに理由が必要なのかだぜ?」
今、なんて?
ゴキブリ?
毛虫?
「人間さんは自分にとって気持ち悪いもの。邪魔なもの。どうでもいいものは捨てたり、殺したりしてもなんとも思わないのぜ」
「何、言ってるのまりさ?ゆっくりはゆっくりだよ?虫さんじゃないよ?」
「わからないのかだぜ?もう同じものなのだぜ」
「てんこ……れいむたちは……ゆっくりぜんぶは、もう、にんげんさんにとって『どうでもいいもの』になっちゃったんだよ。これはそういう『いっへんっ!』なんだよ」
そんなの―――嘘だ。
「嘘よ……嘘よ……!だっててんこたちは生きてるし……」
「それをいうならゴキブリさんや毛虫さんだって生きてるのぜ?」
「人間さんと同じで話せるし……」
「ただの『鳴き声』と思われたらそれまでなのぜ。そういたら猫さんや犬さんとかわらないのぜ」
「でも、でもっ、でもっ!!」
「ゴミに感情を持つ人間さんはいないのぜ」
ゴミ。
ゆっくりはゴミと一緒。
異変。
そういう異変。
ああ、もしかしたら先程のてんこを襲ったまりさも、ずっと前にそんな異変に巻き込まれたのかもしれない―――
いやだ
絶対にいやだ
てんこはああなりたくない
大好きなおにーさんとずっとゆっくりするんだ
おにーさんも言ってくれたじゃないか
てんことずっと一緒にゆっくりするって
おにーさん
大好きなおにーさん
てんこは―――
「ゆん。おなかすいたね……。よるさんになったら、にんげんさんにみつからないようにかりにいこうね」
「狩り……まさかゴミ漁りをする日が来るなんて夢にも思わなかったのぜ……」
てんこは―――
「てんこは……おにーさんのお家に帰るよ」
「ゆあっ!?」
「ゆゆっ!?」
てんこの言葉に二人は驚く。
「馬鹿なこと考えるんじゃないのぜ!そんなことしても後悔するだけなのぜっ!」
「大丈夫だよ……てんこのおにーさんはてんこのことが大好きだから大丈夫だよ……」
どことなく危うい感じのてんこ。
「だめだよっ!おにーさんもにんげんさんだよっ!てんこ、ころされちゃうよっ!」
「大丈夫だよっ。おにーさんは特別だもん!ずっと一緒にゆっくりしようっててんこに言ってくれたもん!」
「そんなものもうないのぜっ!!」
「おにーさんは約束を破らないもん!!てんこと一緒にゆっくりしてくれるもん!!」
「裏切られるのぜっっっ!!」
「それでも……それでもっ……おにーさんを信じたいの!!!」
「―――行くんだぜ」
まりさは静かに出口の方を指差す。
「ありがとう。ありがとうまりさ……れいむ……」
「てんこ……れいむ、てんこのことわすれないよ……」
「うん。まりさ……ごめんね。でも、どうしても行かないと……」
「しょうがないのぜ……。……本当はまりさだって……帰りたい……のぜ……」
「ゆぅ……」
「さようなら……二人とも……」
てんこは走った。
夜の道を、人間に見つからないように隠れながら走った。
そして、おにーさんの家にたどり着く。
玄関の鍵を持っている合鍵で開ける。
「ただいまおにーさん」
小声で帰宅を告げる。
トントントンと、台所から音がする。
それといい臭いが。
これはてんこの大好きな桃のシチューの匂いだ。
ゆっくりと台所の様子を伺う。
机の上にはご飯さんの食器。
そしていつもと同じエプロンをつけたおにーさんが、いつもと同じように台所に立っている。
「おにーさん……。ゆっくりしていってね……?」
てんこの声におにーさんが振り向く。
そこにはいつもと同じ優しいおにーさんの笑顔が!
「おにーさん……!!」
てんこはおにーさんの元に駆け出す。
「おにーさん!おにーさん!!おにーさん!!!」
いつものお兄さんだ。
優しくて。
かっこよくて。
てんこの大好きなおにーさんだ!
「おにーさん!!ゆっくりしていってね!!」
てんこの頭上に
おにーさんの持っていた
包丁が振り下ろされた
ガッ ザシュ
ゆぎっ
ガッ ガッ ゴトン
いぎっ ゆぎぃ ゆ”っ……
黒く染まった包丁が水道ですすがれて、こびりついた餡子が流されていく。
床に転がる二つの物体。
力なく投げ出された小さな体。
驚いた表情と、涙を流したあとが残る○○○の頭。
再び響きだす包丁とまな板がぶつかる音。
机の上には一人分の食器が並べられていた。
学生の頃読んだ漫画より。
ご存知の方はいるのでしょうか?
うー……書いてて自分がゆっくり
このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
◆SS感想掲示板
絶対あき感想スレへ
※書き込む時はSSのタイトルを書いて下さい。 コレをコピーしてから飛びましょう→
『ふたば系ゆっくりいじめ 1345 崩壊はある日突然に』
最終更新:2010年08月02日 19:20