業火、そして幻影(前編) ◆lcMqFBPaWA
「さて…と」
と、金髪の少女…ドライは適当に声を出しながら、先ほど、侵入する前に適当に見て周ったこの建物―娼館―の外観を思い出し…
“ドガッ”と手近なドアに蹴り…膝を打点にした回し蹴りが叩きつけられる。
そうして、開かれたその部屋の中に窓が無い事を確認し…僅かに、頬を緩める。
この建物に存在する出入り口は二つ、正面と裏口。
後は先ほどドライがしたように壁を破壊するしかない。
故に、先ほどドライの前から逃亡した二人は、未だこの建物の中に留まっているのだろう。
“ドガッ”と手近なドアに蹴り…膝を打点にした回し蹴りが叩きつけられる。
そうして、開かれたその部屋の中に窓が無い事を確認し…僅かに、頬を緩める。
この建物に存在する出入り口は二つ、正面と裏口。
後は先ほどドライがしたように壁を破壊するしかない。
故に、先ほどドライの前から逃亡した二人は、未だこの建物の中に留まっているのだろう。
特に感慨も抱かず、隣のドアに近づき…やめる。
判明している限りの餓鬼共の武器は一つ。
手榴弾のみ。
具体的な個数は不明。
その他の装備も不明。
例えばの話だが、ドライ自身の持つクトゥグアのように、壁ごと貫くような武器が無いとも限らない。
或いは、何かしらの罠が存在している可能性も…
判明している限りの餓鬼共の武器は一つ。
手榴弾のみ。
具体的な個数は不明。
その他の装備も不明。
例えばの話だが、ドライ自身の持つクトゥグアのように、壁ごと貫くような武器が無いとも限らない。
或いは、何かしらの罠が存在している可能性も…
と、そこまで考えたところで
(ま、いっか)
再びドアに、今度は普通の回し蹴りを叩きつける。
元より、ドライは敵の装備などは大して重視する性格では無い。
彼女にあるのは唯一つ、相手を殺すという意志のみ。
先ほど捻った足首に衝撃が伝わり痛みを齎すが、その痛みを無視しながら周囲に意識を向ける。
……一秒、
……二秒、
……三秒、
(ま、いっか)
再びドアに、今度は普通の回し蹴りを叩きつける。
元より、ドライは敵の装備などは大して重視する性格では無い。
彼女にあるのは唯一つ、相手を殺すという意志のみ。
先ほど捻った足首に衝撃が伝わり痛みを齎すが、その痛みを無視しながら周囲に意識を向ける。
……一秒、
……二秒、
……三秒、
少なくとも、何の反応も無い。
恐らくは素人な餓鬼が二人。
気配を消して忍んでいられるとも思わないが、それでも一応、警戒を絶やさずに、中を覗き込む。
案の定、中には誰も居ない…見える範囲には。
全ての部屋の作りまでは不明だが、少なくともこの部屋には窓は無い。
薄暗い明かりのもと、それなりに広い空間。
そこそこなつくりの寝台の下と、
あとは壁に備え付けられているクローゼット、
隠れられる場所と言えばその程度。
恐らくは素人な餓鬼が二人。
気配を消して忍んでいられるとも思わないが、それでも一応、警戒を絶やさずに、中を覗き込む。
案の定、中には誰も居ない…見える範囲には。
全ての部屋の作りまでは不明だが、少なくともこの部屋には窓は無い。
薄暗い明かりのもと、それなりに広い空間。
そこそこなつくりの寝台の下と、
あとは壁に備え付けられているクローゼット、
隠れられる場所と言えばその程度。
(ハズレか)
特に期待していた訳では無い。
むしろドライの期待は部屋の外、恐らくは他の部屋に潜んでいるであろう二人の反応の方だった。
だが、特に物音がした訳ではない。
そうなると、恐らくは二人ともこの部屋からは多少離れた場所に潜んでいるのだろう。
特に期待していた訳では無い。
むしろドライの期待は部屋の外、恐らくは他の部屋に潜んでいるであろう二人の反応の方だった。
だが、特に物音がした訳ではない。
そうなると、恐らくは二人ともこの部屋からは多少離れた場所に潜んでいるのだろう。
(…さて、と)
彼女にとって、人を殺すことは、ある種の存在理由ですらある。
死を間近にした恐れ、嘆きは、彼女に高揚を齎す。
そして、自身がファントムという存在であると実感できる。
故に、彼女はわざわざ姿を現し、ギリギリでの命のやりとりを好む。
彼女にとって、人を殺すことは、ある種の存在理由ですらある。
死を間近にした恐れ、嘆きは、彼女に高揚を齎す。
そして、自身がファントムという存在であると実感できる。
故に、彼女はわざわざ姿を現し、ギリギリでの命のやりとりを好む。
…なのだが、故に彼女はこういった“かくれんぼ”は割合苦手であった。
適当に、二、三発かましてやれば怒り狂って巣穴から出てくる肉食獣の相手こそが彼女の望む“戦い”とでもいうものであり、
巣穴に篭って出てこない草食獣をちまちま探すのは苦手なのだ。
暴れるだけ暴れて、後の作業は他人任せ、ということも少なくは無い。
…元より、ローラー作戦というのは人手が必要な作業ではあるのだが。
適当に、二、三発かましてやれば怒り狂って巣穴から出てくる肉食獣の相手こそが彼女の望む“戦い”とでもいうものであり、
巣穴に篭って出てこない草食獣をちまちま探すのは苦手なのだ。
暴れるだけ暴れて、後の作業は他人任せ、ということも少なくは無い。
…元より、ローラー作戦というのは人手が必要な作業ではあるのだが。
(面倒くせぇなあ…)
とりあえず、未だ壁が破れたような振動が感じられない以上、相手にそれほどの破壊力のある武器は存在しない可能性が高い。
見た限り普通の餓鬼な二人に、足音を目掛けての精密射撃なんて出来る筈も無い。
部屋の中から廊下への攻撃手段は存在しなそうではある。
だが、だからといって一つ一つ家捜ししていくなど面倒だし、何よりも時間が掛かる。
行きがけの駄賃でとりあえず殺すつもりであったが、元より彼女には他に目的が存在している。
ここでそんなに時間を浪費するのは、はっきり言ってムダでしかない。
とりあえず、未だ壁が破れたような振動が感じられない以上、相手にそれほどの破壊力のある武器は存在しない可能性が高い。
見た限り普通の餓鬼な二人に、足音を目掛けての精密射撃なんて出来る筈も無い。
部屋の中から廊下への攻撃手段は存在しなそうではある。
だが、だからといって一つ一つ家捜ししていくなど面倒だし、何よりも時間が掛かる。
行きがけの駄賃でとりあえず殺すつもりであったが、元より彼女には他に目的が存在している。
ここでそんなに時間を浪費するのは、はっきり言ってムダでしかない。
(さて、どうすっかね)
そう思い立った時、彼女の思考を遮る出来事が、その場を支配した。
◇
静かなその部屋の中においては、高鳴る鼓動の音でさえ響いているかのようであった。
最も、静かなのはまるでその部屋だけの出来事であるようだ。
先ほどから遠く、僅かに聞こえる音が、まるで猛獣の唸り声のように響き、建物を…いや、そこに居る男女を震わせる。
この建物は、檻だ。
貪欲な肉欲獣が巣食う檻。
だが、そこに居る二人は、断じて獣の為の生餌などでは無い。
少なくとも、当人達の意識においては。
先ほどから遠く、僅かに聞こえる音が、まるで猛獣の唸り声のように響き、建物を…いや、そこに居る男女を震わせる。
この建物は、檻だ。
貪欲な肉欲獣が巣食う檻。
だが、そこに居る二人は、断じて獣の為の生餌などでは無い。
少なくとも、当人達の意識においては。
「……じゃあ…手はず通りにやるぞ」
部屋に居る二人の内の一人、伊藤誠がかすかに震える声を出し、
「うん…わかってる」
もう一人、菊池真がやはり震える声で返事を返す。
方針は、決まった。
元より決まっていたようなものではあるが、この娼館から逃げる。
その為に、あの金髪の少女…ドライと、僅かに相見えなければならない。
相手が銃を所持している以上は、僅かにでも足止めをしなければならないからだ。
部屋に居る二人の内の一人、伊藤誠がかすかに震える声を出し、
「うん…わかってる」
もう一人、菊池真がやはり震える声で返事を返す。
方針は、決まった。
元より決まっていたようなものではあるが、この娼館から逃げる。
その為に、あの金髪の少女…ドライと、僅かに相見えなければならない。
相手が銃を所持している以上は、僅かにでも足止めをしなければならないからだ。
カバンの中に存在した残りの支給品のうち、アタリと呼べるものは、真の所持していた、狙撃銃“レミントンM700”と、防刃チョッキの二つ。
誠のカバンには、金色に光輝く毛皮が一つのみ。
方針として、防刃チョッキを装備した誠が手榴弾を適度にばら撒き、真がそれを手助けするというもの。
真には…いや、誠も、銃を撃つ事には当然抵抗はある。
だが、この場合はその巨大な外見が、相手に威圧感を与えてくれる事を期待して手に持っていることになった。
誠のカバンには、金色に光輝く毛皮が一つのみ。
方針として、防刃チョッキを装備した誠が手榴弾を適度にばら撒き、真がそれを手助けするというもの。
真には…いや、誠も、銃を撃つ事には当然抵抗はある。
だが、この場合はその巨大な外見が、相手に威圧感を与えてくれる事を期待して手に持っていることになった。
「でも…やっぱりボクが近寄ったほうが…」
格闘技の心得があるだけに、真がそう述べる。
「い、言ったろ…こういうのは男の役目なんだって。
お、女の子は、男が守らないと…さ」
震える声を懸命に隠しながらも、誠ははっきりと言った。
強がりであるのは誰の目にも明らかではあるが、それでも、“男だから”なんてそんな理由で、危険な役割を買って出ている。
それは、真には新鮮な経験であった。
その外見と性格故に、真は他人には頼りにされるタイプだ。
美少年と呼ばれた事や、一人だけ俺の旦那とか呼ばれた事すらある。
が、本人はアイドル候補生というその経歴が指し示す通り、女の子として扱われるということを、望んでいた。
女の子として、守られる。
普段なら兎も角、日常からかけ離れた殺し合いの場。
目の前で一人の少女に死なれ、その結果を直視し、弱さをその内に秘めた心。
そして、この娼館に満ち満ちている淫靡な空気。
格闘技の心得があるだけに、真がそう述べる。
「い、言ったろ…こういうのは男の役目なんだって。
お、女の子は、男が守らないと…さ」
震える声を懸命に隠しながらも、誠ははっきりと言った。
強がりであるのは誰の目にも明らかではあるが、それでも、“男だから”なんてそんな理由で、危険な役割を買って出ている。
それは、真には新鮮な経験であった。
その外見と性格故に、真は他人には頼りにされるタイプだ。
美少年と呼ばれた事や、一人だけ俺の旦那とか呼ばれた事すらある。
が、本人はアイドル候補生というその経歴が指し示す通り、女の子として扱われるということを、望んでいた。
女の子として、守られる。
普段なら兎も角、日常からかけ離れた殺し合いの場。
目の前で一人の少女に死なれ、その結果を直視し、弱さをその内に秘めた心。
そして、この娼館に満ち満ちている淫靡な空気。
その、全てが、少女の心を、ある一定の方向に進ませる事になった。
…定時放送。
覚悟を決め、走り出そうとした二人の、出鼻を挫く出来事。
放送によって告げられるのは、既に8人もの人間が命を落としたという事実。
そして、その中には当然、この館の入り口にその屍を晒す、小牧愛佳の名も含まれていた。
そうして、それは再び、真の心に冷風を吹かせる。
幸いな事に、二人とも元々の知り合いには犠牲者は存在していない。
だが、それが何の救いになるのだろう?
真の心に吹き荒れる悔恨の嵐の、風除けには何の役にも立たない。
救えなかった。
逃げ出してしまった。
その、想いが再び、真の頭を下げさせる。
悔恨にと後悔の中に、埋もれてしまいそうになる。
だが、
放送によって告げられるのは、既に8人もの人間が命を落としたという事実。
そして、その中には当然、この館の入り口にその屍を晒す、小牧愛佳の名も含まれていた。
そうして、それは再び、真の心に冷風を吹かせる。
幸いな事に、二人とも元々の知り合いには犠牲者は存在していない。
だが、それが何の救いになるのだろう?
真の心に吹き荒れる悔恨の嵐の、風除けには何の役にも立たない。
救えなかった。
逃げ出してしまった。
その、想いが再び、真の頭を下げさせる。
悔恨にと後悔の中に、埋もれてしまいそうになる。
だが、
「…………ま、真」
「え………んむっ!?」
突如、名前を呼ばれたことで顔を上げた真の唇に、何か硬質で、それでいて柔らかな感触が伝わる。
突然の感覚に、目を白黒させる真の目の前には、両の目を瞑った誠の顔。
その、唇が、誠の唇を塞いでいた。
かあぁぁぁと真の顔に赤みが差す。
現状を理解した脳が、全身を沸騰させ…
「え………んむっ!?」
突如、名前を呼ばれたことで顔を上げた真の唇に、何か硬質で、それでいて柔らかな感触が伝わる。
突然の感覚に、目を白黒させる真の目の前には、両の目を瞑った誠の顔。
その、唇が、誠の唇を塞いでいた。
かあぁぁぁと真の顔に赤みが差す。
現状を理解した脳が、全身を沸騰させ…
…だが、そこまでだった。
混乱と驚愕に支配されながらも、真は動かなかった。
ただ、その唇から伝わる感触を、感じていた。
混乱と驚愕に支配されながらも、真は動かなかった。
ただ、その唇から伝わる感触を、感じていた。
やがて、ゆっくりと、二人の顔が、…唇が離れる。
数瞬の沈黙の後、やがて…
「……ごめん、な…でも、さ…」
意味のある語句にならぬ言葉を、誠は発する。
数瞬の沈黙の後、やがて…
「……ごめん、な…でも、さ…」
意味のある語句にならぬ言葉を、誠は発する。
「ううん…」
真の返事は、短かった。
怒るべき部分はいくらでもある。
言うべき言葉は、沢山ある。
だけれども、そのどれを発する気にもならなかった。
真には心情を発する言葉が無かった。
言葉には、出来ない。
口にすれば、それは何か別の意味を持ってしまいそうだったから。
だから、
真の返事は、短かった。
怒るべき部分はいくらでもある。
言うべき言葉は、沢山ある。
だけれども、そのどれを発する気にもならなかった。
真には心情を発する言葉が無かった。
言葉には、出来ない。
口にすれば、それは何か別の意味を持ってしまいそうだったから。
だから、
「…………」
「…………」
「…………」
真は、ただ顔を少し上げ、その目を瞑った。
そうして、数瞬の後、再び訪れる感覚。
だが、それは先ほどのとは、僅かに異なる…少なくとも、真にはそう感じられた。
いや、恐らくはもう一人、誠も、そのように感じていた。
そうして、どちらとも無くその腕が動き、
そうして、数瞬の後、再び訪れる感覚。
だが、それは先ほどのとは、僅かに異なる…少なくとも、真にはそう感じられた。
いや、恐らくはもう一人、誠も、そのように感じていた。
そうして、どちらとも無くその腕が動き、
その身を映し出す影は、二つから一つへと変わっていった。
◇
そうして、かすかに震える真の体を、そっと、抱き寄せた。
そのぬくもりが、胸に伝わってくる。
真が言うには鍛えている、だがそれでも、やはり頼りない感触が伝わって来る。
ほのかにただよう年頃の少女の匂いが、ふと誠の理性を奪い去ろうとしてくる。
そのぬくもりが、胸に伝わってくる。
真が言うには鍛えている、だがそれでも、やはり頼りない感触が伝わって来る。
ほのかにただよう年頃の少女の匂いが、ふと誠の理性を奪い去ろうとしてくる。
あの時、何故ああしたのかは、誠本人にも判らない。
だが、強いて言うなら、彼女が、愛おしかったから。
その体を震わせる真が、痛々しく、悲しかったから。
だから、気が付いたら、行動を起こしていた。
殴られるかと思ったが、そんな事は無かった。
だが、強いて言うなら、彼女が、愛おしかったから。
その体を震わせる真が、痛々しく、悲しかったから。
だから、気が付いたら、行動を起こしていた。
殴られるかと思ったが、そんな事は無かった。
そうして、徐々に収まってくる真の、或いは誠の自身の震えと共に、惜しむように、その唇を離す。
「…行こう」
「うん……」
そうして、まずは誠、次いで真の順に、慎重に部屋から出る。
「…行こう」
「うん……」
そうして、まずは誠、次いで真の順に、慎重に部屋から出る。
(落ち着くんだ、まずは)
場所は不明だが、この館の何処かにいる…敵。
綺麗な髪をした金髪の女性…少女?
大きな胸と、爆発する?拳銃の持ち主。
グラマラスな胸と、獰猛そうな肉食獣のような殺気を放っていた相手。
(そりゃ、言葉に比べると小さいとは言っても、やっぱり外人ってグラマーなんだな)
そもそも誠の周囲には、外人と呼べる相手は居ない。
まあ日本の普通の学生なのだから当然といえば当然だが、それでも、今までの誠の周囲には存在しないタイプだ。
当然の事ながら、その存在には興味を引かれる。
が、今はその事を気にしている時でない。
何故なら…
場所は不明だが、この館の何処かにいる…敵。
綺麗な髪をした金髪の女性…少女?
大きな胸と、爆発する?拳銃の持ち主。
グラマラスな胸と、獰猛そうな肉食獣のような殺気を放っていた相手。
(そりゃ、言葉に比べると小さいとは言っても、やっぱり外人ってグラマーなんだな)
そもそも誠の周囲には、外人と呼べる相手は居ない。
まあ日本の普通の学生なのだから当然といえば当然だが、それでも、今までの誠の周囲には存在しないタイプだ。
当然の事ながら、その存在には興味を引かれる。
が、今はその事を気にしている時でない。
何故なら…
「……か、火、事?」
正面。
誠達が向かおうとした裏口の方向から、黒い煙が流れてきたのだから。
誠達が向かおうとした裏口の方向から、黒い煙が流れてきたのだから。
◇
時刻は数分、巻き戻る。
ある雑事を終えて、再びロビーに戻ってきたドライはそこで僅かに機嫌よさそうな鼻歌を歌い、そうして正面入り口の真ん中に立つ。
あと数分もすれば、あの二人は必ずこの場所にやって来る。
恐らくは、窮鼠となって。
ネズミと言っても、追い詰められれば獣の牙を剥く。
かくれんぼも終わって、ついでに撃ち合い?も楽しめる。
一石二鳥のアイデアだった。
あと数分もすれば、あの二人は必ずこの場所にやって来る。
恐らくは、窮鼠となって。
ネズミと言っても、追い詰められれば獣の牙を剥く。
かくれんぼも終わって、ついでに撃ち合い?も楽しめる。
一石二鳥のアイデアだった。
定時放送。
胡散臭い男の胡散臭い声によって告げられるゲームの追加項目。
今居る位置からだと近い方でも2マス程度の開きがあるので、それほど影響は無い。
死者は八人。
知っている名前は無い。
ドライの唯一の知り合い、否、標的、アインとツヴァイ、ファントムの二人は生きているらしい。
「まあ、元から心配なんてしてねえけどな」
今の所出会った相手は五人。
内、それなりに経験がありそうだったのはたった一人。
だがそれも、ファントムの名を持つ暗殺者を倒せる存在とは思えない。
そう考えると、手強い相手はそう居ないのかもしれない。
だが、どの道、相手が何であろうと殺すのみ。
胡散臭い男の胡散臭い声によって告げられるゲームの追加項目。
今居る位置からだと近い方でも2マス程度の開きがあるので、それほど影響は無い。
死者は八人。
知っている名前は無い。
ドライの唯一の知り合い、否、標的、アインとツヴァイ、ファントムの二人は生きているらしい。
「まあ、元から心配なんてしてねえけどな」
今の所出会った相手は五人。
内、それなりに経験がありそうだったのはたった一人。
だがそれも、ファントムの名を持つ暗殺者を倒せる存在とは思えない。
そう考えると、手強い相手はそう居ないのかもしれない。
だが、どの道、相手が何であろうと殺すのみ。
故にファントム。
そのように作られた道具。
ドライ自身には、道具であることに不満は無い。
……いや、ある。
…やはり、無いのかもしれない。
彼女にあるのは唯一つ、自身が最も優れたファントムであるという証明。
そのように作られた道具。
ドライ自身には、道具であることに不満は無い。
……いや、ある。
…やはり、無いのかもしれない。
彼女にあるのは唯一つ、自身が最も優れたファントムであるという証明。
……その想いが何処から生まれてきたのかなど、彼女にはどうでもよいことだ。
「しっかし…面倒臭せーな」
ちまちまと探してかれこれ一回のほぼ半分。
それだけ見て周って見つからない。
人二人が走って逃げれば確実に判る以上、まだあの二人は居る筈。
そうなると、恐らくは何処かの部屋で怯えて蹲っているのだろう。
ちまちまと探してかれこれ一回のほぼ半分。
それだけ見て周って見つからない。
人二人が走って逃げれば確実に判る以上、まだあの二人は居る筈。
そうなると、恐らくは何処かの部屋で怯えて蹲っているのだろう。
(…つまんねえな)
怯える相手を、恐怖に惑い命乞いする相手を刈り取る高揚感はかなりのもの
、やはり相手も牙を持っていないことには意味が無い。
そう、あの一瞬、
自分と相手の命をBETにしたゲーム。
そのゲームを勝ち抜いた高揚感に比べたら、大した事は無い。
怯える相手を、恐怖に惑い命乞いする相手を刈り取る高揚感はかなりのもの
、やはり相手も牙を持っていないことには意味が無い。
そう、あの一瞬、
自分と相手の命をBETにしたゲーム。
そのゲームを勝ち抜いた高揚感に比べたら、大した事は無い。
そう、唯隠れてるだけの獲物追う事など、猿にだって出来る。
自ら向かってくる相手を、自身の牙で持って打ち砕く。
それこそが、それこそが、ドライが、キャルが『ファントム』である証。
だが、
(元々牙なんざ持ってない餓鬼が二人…あんなの殺すなんて事は猿でも出来る)
ちまちまと追いかけっこをして見つけたのはひよこが二匹、ではムダが多すぎる。
(さて、どうするかね)
と、その時、ドライが目にしたのは『裏口』
粗末な小さなドアに、清掃道具か何かの入れ物。
それを見て、ニィっと凶暴な笑みを浮かべ、
二度、発砲。
その衝撃は天井に突き刺さり、一瞬の間を置いて、木材と石材と漆喰とが入り混じった瓦礫が地に落ち、入り口であった場所を埋める。
これで、ドアは開かない。
少なくとも、こじ開けるには相当の時間が掛かる。
(さて、後は)
出口は塞いだから出てくるように言おう…と考えたところで、手に握ったクトゥグアが目に入り、
もっと、良いアイデアが浮かんだ。
自ら向かってくる相手を、自身の牙で持って打ち砕く。
それこそが、それこそが、ドライが、キャルが『ファントム』である証。
だが、
(元々牙なんざ持ってない餓鬼が二人…あんなの殺すなんて事は猿でも出来る)
ちまちまと追いかけっこをして見つけたのはひよこが二匹、ではムダが多すぎる。
(さて、どうするかね)
と、その時、ドライが目にしたのは『裏口』
粗末な小さなドアに、清掃道具か何かの入れ物。
それを見て、ニィっと凶暴な笑みを浮かべ、
二度、発砲。
その衝撃は天井に突き刺さり、一瞬の間を置いて、木材と石材と漆喰とが入り混じった瓦礫が地に落ち、入り口であった場所を埋める。
これで、ドアは開かない。
少なくとも、こじ開けるには相当の時間が掛かる。
(さて、後は)
出口は塞いだから出てくるように言おう…と考えたところで、手に握ったクトゥグアが目に入り、
もっと、良いアイデアが浮かんだ。
そうして、浮かんだアイデアを実行し、今はここで獲物の訪れを待っている。
近くの部屋のベットの上に、デイパックの中にあった紙を何枚も適当にばら撒き、クトゥグアを発砲、
したのだが、それは結果的には失敗であった。
炎の勢いがありすぎて、火種にはならないのだ。
もう一度試してその結論を受け入れたドライは、結局、日が明けた今では使用しないカンテラで代用することにした。
全員に支給されているモノなのだから、何処かで手に入るだろうと考えて、
そうしてロビーまで来て、あっさりとそこにあった少女―小牧愛佳の死体から、カンテラが手に入った。
何となくだが、いい流れだ。
のんびりしすぎて二人とも焼け死んでしまうという可能性も考えていたが、この分なら数分後にはここまで来るだろう。
左側に空いている…ドライ自身が空けた穴も塞いでおこうかとも思ったが…弾のムダなのでやめておいた。
近くの部屋のベットの上に、デイパックの中にあった紙を何枚も適当にばら撒き、クトゥグアを発砲、
したのだが、それは結果的には失敗であった。
炎の勢いがありすぎて、火種にはならないのだ。
もう一度試してその結論を受け入れたドライは、結局、日が明けた今では使用しないカンテラで代用することにした。
全員に支給されているモノなのだから、何処かで手に入るだろうと考えて、
そうしてロビーまで来て、あっさりとそこにあった少女―小牧愛佳の死体から、カンテラが手に入った。
何となくだが、いい流れだ。
のんびりしすぎて二人とも焼け死んでしまうという可能性も考えていたが、この分なら数分後にはここまで来るだろう。
左側に空いている…ドライ自身が空けた穴も塞いでおこうかとも思ったが…弾のムダなのでやめておいた。
そうして、やることが無くなって、ドライの思考は先ほどの放送に戻る。
八人。
それだけの人間が死んでいる。
ドライ自身は一人も殺せていない以上、少なくともあと八人は殺しに長けた相手がいるという事になる。
八人。
それだけの人間が死んでいる。
ドライ自身は一人も殺せていない以上、少なくともあと八人は殺しに長けた相手がいるという事になる。
(ああ、そういやあいつもまだ生きてんのか)
最初に教会で出会った少女。
知り合いが死んだことでただ蹲ってた少女。
確か、名は柚原このみ。
柄にも無い説教をかましたばかりか、銃までくれてやった相手。
何やら妙な勘違いまでしていたようではあるが。
どうやら未だに存命らしい。
次に会ったとして、少しはマシになっているだろうか。
最初に教会で出会った少女。
知り合いが死んだことでただ蹲ってた少女。
確か、名は柚原このみ。
柄にも無い説教をかましたばかりか、銃までくれてやった相手。
何やら妙な勘違いまでしていたようではあるが。
どうやら未だに存命らしい。
次に会ったとして、少しはマシになっているだろうか。
(ん…そうなるとあいつらも動かないで気が付いたらお陀仏って事もあんのか?)
先ほどの放送で、知り合いが死んでいてそれでしばらく何も出来ずに火事で死亡…
無いとは言い切れない可能性。
先ほどの放送で、知り合いが死んでいてそれでしばらく何も出来ずに火事で死亡…
無いとは言い切れない可能性。
だが、その心配は杞憂だったと言えるだろう。
◇
…さて、一つの事実がある。
この期に及んでも、誠達はあくまでドライを退ける、或いは倒す、というのが基本思考である。
彼らには、未だ『殺す』という明確な意思は無い。
…無論平和な国で育った彼らに、そのような意思に向かう理由などはないのだが。
この期に及んでも、誠達はあくまでドライを退ける、或いは倒す、というのが基本思考である。
彼らには、未だ『殺す』という明確な意思は無い。
…無論平和な国で育った彼らに、そのような意思に向かう理由などはないのだが。
(……あいつが、火を付けた…んだよな、やっぱり)
誠達は、多少身を丸めて、煙に触れぬように移動する。
幸い、未だ火勢は弱いらしく、急げば脱出は容易い筈。
だが恐らく、いや、ほぼ確実に、あの少女が入り口にて待ち構えている筈だ。
当初の予定では、それなりに威嚇的な攻撃を行って逃げる筈だったのに、これでは相手を倒すしかなくなってしまった。
消化を行って、その後に逃げるとも考えたが、それでは確実に少女に居場所が知られてしまい、更に危険であろう。
つまり、あの少女と正面から相対しなければならない。
その事実が、二人の間の会話を奪い去る。
そうして、入り口の近くの曲がり角。
微妙に聞こえてくる鼻歌のようなものが、そこに少女が居ると言う事実を伝えてくる。
(戦う、しかないのか)
ここまで来て、ようやくその事実をはっきりと自覚し、二人は軽く頷く。
誠達は、多少身を丸めて、煙に触れぬように移動する。
幸い、未だ火勢は弱いらしく、急げば脱出は容易い筈。
だが恐らく、いや、ほぼ確実に、あの少女が入り口にて待ち構えている筈だ。
当初の予定では、それなりに威嚇的な攻撃を行って逃げる筈だったのに、これでは相手を倒すしかなくなってしまった。
消化を行って、その後に逃げるとも考えたが、それでは確実に少女に居場所が知られてしまい、更に危険であろう。
つまり、あの少女と正面から相対しなければならない。
その事実が、二人の間の会話を奪い去る。
そうして、入り口の近くの曲がり角。
微妙に聞こえてくる鼻歌のようなものが、そこに少女が居ると言う事実を伝えてくる。
(戦う、しかないのか)
ここまで来て、ようやくその事実をはっきりと自覚し、二人は軽く頷く。
(じゃあ…さっきも言った通り、撃ったらそのレバーを引くんだ、それと接近戦にはあんまり向いてない銃だから)
(うん、近くならボクは空手で何とか戦える筈だから。 …だから、気をつけてね)
(うん、近くならボクは空手で何とか戦える筈だから。 …だから、気をつけてね)
死なないでね…
その言葉を真は飲み込み、変わりに不安そうながらも笑顔を向ける。
その笑顔に、再び抱きしめたい衝動に駆られる誠ではあったが、今はそんな事をしている場合では無いと思い返し、そしてキッと表情を改める。
誠の持つ武器は“二つ”
その言葉を真は飲み込み、変わりに不安そうながらも笑顔を向ける。
その笑顔に、再び抱きしめたい衝動に駆られる誠ではあったが、今はそんな事をしている場合では無いと思い返し、そしてキッと表情を改める。
誠の持つ武器は“二つ”
その内、まず残り四つの手榴弾のうち一つを、ピンを抜いて投げる。
目標は、ドライの少し手前。
ゴトッと重そうな音を立てながら、一つ目の手榴弾は、目標よりも僅かに手前に落ちる。
無論、その音によってドライも、誠達の接近に気付き、そうして、
「チッ」
一度、舌打ち。
そうして、ドライは左に飛ぶ。
目標は、ドライの少し手前。
ゴトッと重そうな音を立てながら、一つ目の手榴弾は、目標よりも僅かに手前に落ちる。
無論、その音によってドライも、誠達の接近に気付き、そうして、
「チッ」
一度、舌打ち。
そうして、ドライは左に飛ぶ。
誠の予想よりも手榴弾が重く、飛ばなかったことがこの場合は幸いした。
左足を捻挫しているドライにはその距離は僅かに遠く、横、又は後ろに飛ぶ以外の選択肢は採りえなかった。
…ドライの足が完調ならば、
…手榴弾の位置がもう少しドライに近ければ、
…或いは、彼女の持つ銃がクトゥグアではなく実弾の銃ならば、
恐らくは、そのどれか一つの条件が揃っていれば、誠の、ひいては真の命運は、ここで尽きていた筈であった。
左足を捻挫しているドライにはその距離は僅かに遠く、横、又は後ろに飛ぶ以外の選択肢は採りえなかった。
…ドライの足が完調ならば、
…手榴弾の位置がもう少しドライに近ければ、
…或いは、彼女の持つ銃がクトゥグアではなく実弾の銃ならば、
恐らくは、そのどれか一つの条件が揃っていれば、誠の、ひいては真の命運は、ここで尽きていた筈であった。
そうして、
「うおおおおおっ!!」
裂帛の気合と共に、誠が前進する。
その距離は、約20メートルといったところ。
横に飛びながらそれを確認したドライは、飛びながらも銃を向けようとして、
「……!」
次の瞬間、気付く。
アレは、不味いと。
誠の後方、真の持っている銃。
咄嗟の事なので細かい形状までは確認できないが、恐らくはあれなら素人でも当たる。
そう、理解した為、空中で身を丸め、肩口から地面に突っ込み、そのまま前転するように身を起こし、翻して、
チュインッ
と、先ほどの位置を銃弾がすり抜ける。
「チッ!」
舌打ちしながらも、その身は既に反転しながら、状況を確認。
すぐ後ろににて、少し後方で、手榴弾の爆発。
この距離ならジャケットの上着を越えて被害を生む程ではない。
奥の廊下にいる少女は、既に次弾の装填に移ろうとしている。
その手つきは呆れるほどの鈍いが、それでもこの状況では充分すぎる。
そして、ロビーの中央近く、10メートル程の位置に、もう一人の男。
片方の手には、既に投擲しようとしている手榴弾。
そして、もう片方の手にあるのは、赤いボンベ状の物体、ありていに言えば消火器だ。
「うおおおおおっ!!」
裂帛の気合と共に、誠が前進する。
その距離は、約20メートルといったところ。
横に飛びながらそれを確認したドライは、飛びながらも銃を向けようとして、
「……!」
次の瞬間、気付く。
アレは、不味いと。
誠の後方、真の持っている銃。
咄嗟の事なので細かい形状までは確認できないが、恐らくはあれなら素人でも当たる。
そう、理解した為、空中で身を丸め、肩口から地面に突っ込み、そのまま前転するように身を起こし、翻して、
チュインッ
と、先ほどの位置を銃弾がすり抜ける。
「チッ!」
舌打ちしながらも、その身は既に反転しながら、状況を確認。
すぐ後ろににて、少し後方で、手榴弾の爆発。
この距離ならジャケットの上着を越えて被害を生む程ではない。
奥の廊下にいる少女は、既に次弾の装填に移ろうとしている。
その手つきは呆れるほどの鈍いが、それでもこの状況では充分すぎる。
そして、ロビーの中央近く、10メートル程の位置に、もう一人の男。
片方の手には、既に投擲しようとしている手榴弾。
そして、もう片方の手にあるのは、赤いボンベ状の物体、ありていに言えば消火器だ。
火事、というこの環境下故にその能力を思い出され、その手に握られることになった“武器”。
たかが消火器と侮るなかれ。
その消化剤はその性質上、顔に掛かれば人の能力を大いに減衰させる。
そして、無論それなりに長い射程を持つ。
少なくとも、格闘技などの心得の無い誠にとっては、下手に棒などを持つよりも、よほど強力な武器だった。
たかが消火器と侮るなかれ。
その消化剤はその性質上、顔に掛かれば人の能力を大いに減衰させる。
そして、無論それなりに長い射程を持つ。
少なくとも、格闘技などの心得の無い誠にとっては、下手に棒などを持つよりも、よほど強力な武器だった。
ドライの状況は、それほど良くない。
牙の無い獣は、中々どうして強力な獣であったのだ。
それゆえか、ドライは“笑った”
(やるじゃねえか)
飛んできた手榴弾を反対側の壁に蹴飛ばす。(誠に蹴飛ばしてやろうかとも考えたのだが、距離が近すぎた)
そして、左足の痛みに構わずに、右方向に前進。
次の瞬間、元いた場所に消化剤が吹きあれ、
「う、うわっ!?」
焦る誠に接近。
位置関係上、誠が壁になり、真は撃つことが出来ない。
先ほど蹴飛ばした手榴弾が爆発し、破片を撒き散らすのを横目にしながら、接近。
消火器の飛沫を僅かに浴びながら、そのまま、誠のわき腹に左の前蹴りを繰り出す。
ゴッっと、硬質な感触に阻まれて、痛みがドライを襲う。
咄嗟に振った消火器が、丁度盾の形になったのだろう。
(チィッ!)
左足のハンデは、ドライが思ったよりも大きいようだ。
だが、それでも蹴りの威力自体は変わらず、誠は僅かによろめく。
だが、それだけ。
牙の無い獣は、中々どうして強力な獣であったのだ。
それゆえか、ドライは“笑った”
(やるじゃねえか)
飛んできた手榴弾を反対側の壁に蹴飛ばす。(誠に蹴飛ばしてやろうかとも考えたのだが、距離が近すぎた)
そして、左足の痛みに構わずに、右方向に前進。
次の瞬間、元いた場所に消化剤が吹きあれ、
「う、うわっ!?」
焦る誠に接近。
位置関係上、誠が壁になり、真は撃つことが出来ない。
先ほど蹴飛ばした手榴弾が爆発し、破片を撒き散らすのを横目にしながら、接近。
消火器の飛沫を僅かに浴びながら、そのまま、誠のわき腹に左の前蹴りを繰り出す。
ゴッっと、硬質な感触に阻まれて、痛みがドライを襲う。
咄嗟に振った消火器が、丁度盾の形になったのだろう。
(チィッ!)
左足のハンデは、ドライが思ったよりも大きいようだ。
だが、それでも蹴りの威力自体は変わらず、誠は僅かによろめく。
だが、それだけ。
みっともなく尻餅をつきながらも、消火器のホースをドライに向けてくる。
それ故に、ドライは再び右に転がる。
消火器という武器は、実に強力だ。
その特性上、既に泡の飛び散った左側に回る事をドライは封じられる。
そして、もう一つ。
ドライの持つクトゥグアは、火を噴くトンデモ銃ではあるが、それ故に、消火器の泡の影響が判らず、結果としてドライの銃撃を封じる役割を果たしていた。
だが、それもここまで。
尻餅を着いたために、誠は迅速な行動を封じられている。
片付けるのは容易い。
それ故に、ドライは再び右に転がる。
消火器という武器は、実に強力だ。
その特性上、既に泡の飛び散った左側に回る事をドライは封じられる。
そして、もう一つ。
ドライの持つクトゥグアは、火を噴くトンデモ銃ではあるが、それ故に、消火器の泡の影響が判らず、結果としてドライの銃撃を封じる役割を果たしていた。
だが、それもここまで。
尻餅を着いたために、誠は迅速な行動を封じられている。
片付けるのは容易い。
そう、
「はあああっ!」
真が、居なければの話だ。
銃を放り出しながら繰り出された正拳を、ドライは受けることしか出来なかった。
滑る可能性がある以上右には飛べず、左足の状態では左に飛べない故に。
だが、それは失敗であった。
「グッ!?」
咄嗟にガードした両手の上からでも、その衝撃は凄まじいものであった。
多少の心得があっても所詮は女の身、と想定したドライの想像を、遥かに上回る一撃。
一瞬、意識が飛びかける。
そうして、その隙を逃さず、右の回し蹴りが放たれる。
咄嗟に、肩の覆いで防ぐ。
金属製のそれは、真の足に威力に似合った衝撃を与え、
「あうっ!?」
思わず、悲鳴すら上げさせる。
だが、それでも威力自体に変化は無い。
ドライは、踏ん張りの利かない足の状態故に右に飛ばされる。
「はあああっ!」
真が、居なければの話だ。
銃を放り出しながら繰り出された正拳を、ドライは受けることしか出来なかった。
滑る可能性がある以上右には飛べず、左足の状態では左に飛べない故に。
だが、それは失敗であった。
「グッ!?」
咄嗟にガードした両手の上からでも、その衝撃は凄まじいものであった。
多少の心得があっても所詮は女の身、と想定したドライの想像を、遥かに上回る一撃。
一瞬、意識が飛びかける。
そうして、その隙を逃さず、右の回し蹴りが放たれる。
咄嗟に、肩の覆いで防ぐ。
金属製のそれは、真の足に威力に似合った衝撃を与え、
「あうっ!?」
思わず、悲鳴すら上げさせる。
だが、それでも威力自体に変化は無い。
ドライは、踏ん張りの利かない足の状態故に右に飛ばされる。
いや、『あえて』飛ばされた。
誠は、漸く起き上がろうとしている所だ。
だが、手榴弾にしろ消火器にしろ、真の体に阻まれ、使用できない。
真は、全力で金属を蹴った故に、右足にダメージが生じている。
少なくとも、迅速にドライには寄れない。
対してドライは、ダメージ自体は最も大きい。
だが、それでも、距離は開いてしまったのだ。
だが、手榴弾にしろ消火器にしろ、真の体に阻まれ、使用できない。
真は、全力で金属を蹴った故に、右足にダメージが生じている。
少なくとも、迅速にドライには寄れない。
対してドライは、ダメージ自体は最も大きい。
だが、それでも、距離は開いてしまったのだ。
飛ばされながらも、銃を構える。
着地して、構えればそれで終わり。
幸い着地方向は右なので、転ぶ可能性は無い。
着地して、構えればそれで終わり。
幸い着地方向は右なので、転ぶ可能性は無い。
そうして、右足で着地すると共に、
「じゃあな」
その引き金を、引いた。
「じゃあな」
その引き金を、引いた。
087:復讐者 | 投下順 | 088:業火、そして幻影(後編) |
087:復讐者 | 時系列順 | |
060:見上げた虚空に堕ちていく | 伊藤誠 | |
060:見上げた虚空に堕ちていく | 菊地真 | |
060:見上げた虚空に堕ちていく | ドライ |