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業火、そして幻影(後編)

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業火、そして幻影(後編) ◆lcMqFBPaWA





痛みに涙が出ながら、状況は、理解できてた。
非常に、マズイ。
いいのが入った筈だけど、それでもまだ女の子は動ける筈。
そして、多分銃を構えるのに数秒とかからない。
何とかしないといけないけど、どうにも出来ない。
後ろで、誠さんが起き上がるのがわかったけど、やっぱりどうにもならない。

だから、

「え?」
誰の、声だったのだろう?
ボクかもしれないし、真さんかもしれないし、或いはあの女の子のものなのかも知れない。
女の子が、『転んだ』
確実に、着地して、そうして銃を構えて引くだけだった筈の子が、何故か姿勢を崩し、
その銃から放たれた火は、ボクたちの頭上。
そうして、そのままみっともなく女の子は尻餅をついた。
呆然と、している。
何が起きたのか、判らないって顔だ。
そして、ボクも呆然としていた。
ううん、既に体は動いているし、こうして、
「クッ!」
女の子の銃だって手ごと蹴り飛ばした。
カラカラと音を立てて、銃はロビーを転がる。
そうして、そこに間髪入れずに、誠さんが消火器を吹き付ける。
目に、鼻に、消化剤が入り込んで、女の子が身悶える。
「この!」
そして、誠さんがそのまま女の子に飛びついて馬乗りになる。

その、一連の流れの中で、ボクはまだ呆然としていた。
女の子の服の一部に、血がついている。
ボクも、誠さんも、女の子も、血なんか流して無い。
それは、ボク達の流したものじゃなくて、女の子が転んだ原因になった“もの”
そう、それは。
「愛佳……ちゃん」
その、近くに晒されたままだった、小牧愛佳ちゃんの遺体から流れ出ていた。
ボクのせいで、死んだ首の傷じゃあない。
さっき、偶然女の子が蹴飛ばした手榴弾、その破片が、愛佳ちゃんのわき腹に刺さって、血の河を生んでいた。
そして、それは偶然、女の子の着地点にあって、その足を滑らせた。

そう、全ては偶然。
でも、
「愛佳ちゃん……」
(ボクを、助けてくれるの?
 ボクは、愛佳ちゃんを見捨てたのに)
偶然だなんて、思えなかった。
愛佳ちゃんが、助けてくれたようにしか、思えなかった。




勝敗は、決した。
ドライは地に付し、誠に拘束されている。
その手には既に武器は無く、ついでに顔に掛けられた消化剤で、その戦闘力を大いにそがれている。
抵抗自体は続けているが、それでも視界を奪われて、圧倒的に不利な姿勢ではどうしようも無い。
地に落ちたクトゥグアは、先ほど放り出したレミントンM700と共に、既に真が拾っている。
大きさ故か、レミントンをカバンに仕舞い、クトゥグアを構えてドライに向けている。
やがて、僅かに回復した視界にそれを捕らえたドライは、抵抗を止める。

そうして、沈黙。
遠くから、パチパチと火が燃え広がる音が聞こえる。
「どうしたよ、さっさと殺せよ」
ぽつりと、ドライが呟く。
その声は、平坦だった。
「そ、そんなこと、しないよ」
“殺す”
その単語に僅かに怯えながら、真が答える。
その、銃口が、僅かに下がる。
「……じゃあ何だ?
 盛った餓鬼らしくあたしを犯す気か?」
「なっ…そ、そんなこと!」
「す、するはずないだろ!」
予想外のドライの物言いに、二人はは絶句する。
だが、
「…っ…、…だってお前、さっきからずっとあたしの胸触ってるじゃねえか…」
そうなのだ。
実は誠、ドライの両手を手首の部分で纏めて右手で抑えながら、左手はずっとドライの胸をもんでいるのだ。
拘束力を弱めてまで、無意識に胸に手を出している辺り、流石というべきか。
(…余談だが、今ドライの顔は白い消化剤がアレで、非常にアレでパヤパヤでフモッフな事になっている…)
「なっ!こ、これは」
「ま、誠さん!!」
慌てた誠に、真が文句を投げかける。
その文句には、明らかに別な意味も篭っていたのだが、真自身、その事を意識していない。
「んっ……、別にいいぜ、好きにしな」
「……は?」
「……え?」
だが、その僅かに弛緩しかけた空気は、ドライの一言で完全に凍りついた。
…ちなみに、誠の手は未だにドライの胸の位置にあるが、その事には誰も触れない。

「あたしを、殺してから好きにするといいさ」
「「……は?」」
二人とも、ドライの言葉に意味が理解出来なかった。
当然だろう、あくまで殺し合いなど行うつもりの無い二人が、このような事を言われては。
だが、
「殺す、まあ殺さなくてもいいけども抵抗できなくして。
 そうして、力に任せて思う存分蹂躙すりゃいいだろ。
 まあその前に舌噛んで死んでやるけどよ」
「な!? そ、そんなこと出来る訳無いだろ!」
誠の否定の叫びが響く。
……実際に力任せに迫るという事も無い訳でもないのだが、それでもあくまで彼自身は同意の元、とは思っている。
相手も、それなりに好意を持っているならともかく、何も無い相手を腕ずくで(先ほど似た様な事をやっていたが)モノにするのは間違いだと理解してはいる。
だから、彼女のいう事は理解出来ない。
ましてや、死体をどうのこうのなどという猟奇的な行為など、想像の範疇ですらない。

「……じゃあなんだよ、どうしたいんだ?」
多少、不可解だと言うかのように、ドライが問いかける。
彼女からすれば誠達の態度は不可解だ。
殺す訳でもなく、
欲望を満たそうとするわけでもなく、
ただこうして取り押さえて何がしたいのか。
「えっと……どうしようか…?」
「……とりあえず…武器は奪うとして…後は……」
ますます不可解。
命の奪い合いの最中に、この二人は何を言っているのだろうか。

(…要するに、あたしを殺す気は無い…ってのか…?)
話の流れから考えるとそうなる。
ドライからすれば、その行為は意味不明なものだ。
敵ならば、殺すのが当然。
殺さずに置くというと、適当に欲望のはけ口にするか、せいぜい壁避けにでもするくらいしか思いつかないが、恐らくはそんな意図は無い。
(んっ…、…その割には、何時まで揉んでんだコイツ、んっ…しかも妙に手馴れてやがる…)
誠は微妙に態度が怪しいが、どうやら二人とも、真剣に殺さずにどうしようかと悩んでいるようだ。

「そのまま離す…訳にはいかないよね、やっぱり」
「とりあえずなんかで縛って…それで一緒に行くしかないのか?」
(バカバカしいな…)
「なあ、おい」
「え?
 うわ!?」
ドライの呼びかけに誠が反応した瞬間。
彼女はまず背筋を動因して、勢いよくブリッジ気味な姿勢を取る。
それにより、誠は僅かに体勢を崩し、後ろ側につんのめる。
「えっ!?」
隣で真が反応しているが構わずに、元の姿勢に戻りながら、
「ガッ!?」
膝蹴りを誠の背中に放つ。
この程度で拘束が外れるとは思っていないが、誠の前進の力が緩み、両の手が弛緩する。
その機を逃さず、両手を解き放ち、そのまま誠の腕を掴んで、立ち上がりながら立ち位置を変え、誠の腕を背中側に捻り上げる。
「ぐっ!あっ!!」
誠が悲鳴を上げるが、構わずねじ上げようとして、
「そ、そこまでだよ!!」
真の声に止められる。
その手には、ドライの頭の位置に向けられたクトゥグアの銃口。

「誠さんを放して! でないと撃つよ!」
「……」
そのまま誠の体を盾にすることは容易かったが、それでもドライは停止した。
と言っても、誠から手を放したわけでは無い。
ただ、誠の腕を掴んだまま、銃口の前に体を晒している。
「は、早く誠さんから離れて!
 じゃ、じゃないと撃つよ、う、撃っちゃうよ!」
「…………」
真の再びの警告。
だが、ドライは何の反応も示さない。
「な、何してるの?
 早くして!!」
「……よ」
多少の焦りを覚えながら、真が再び問いかけた時に返された返事は、真には当初何て言っているのか解らなかった。
「……え?」
「だから、撃てよ」
そうして、繰り返されたドライの言葉で、漸く理解出来た。
理解出来たが故に、停止した。
「離れないと撃つんだろ?
 だから早く撃てよ」
「え…あ……?」
その内容故に、何の言葉も返せない。
そう、その言葉によって、真は今がどういう状況であるのか理解した。
理解、出来てしまった。
「ほれ、簡単だろ? 引き金を引けばそれでバーンだ。
 その銃でこの距離なら、あたしを確実に殺せるぜ?」
「そ……そんな、こと…」
真の意識に、恐怖が忍び寄ってくる。

『殺す』
その明確な単語がかつての恐怖を呼び起こし、そして同時に、新たな恐怖を巻き起こす。
言葉は悪いが、以前は、小牧愛佳の時は、見捨てた『だけ』だ。
その事自体に罪悪感を持ったとしても、それはあくまで受動的なものである。
また、先ほど銃は撃ったが、それはあくまで相手を『止める』為だ。
だが、今回は違う。
引き金を引くという事は、即ち明確に『殺す』という事。
何一つ異論の挟む余地の無い、人を殺すという罪だ。
イヤイヤ、と真は首を振るが、ドライはそんなことは気にしない。
「おい、さっさとしないと火が周ってきて全員死んじまうぜ?」
確かに、既に黒い煙が、ロビーの上部にまで流れこんで来ている。
パチパチという音が先ほどよりも大きくなり、気温も上昇しだしている。

「ああ、そうだ、丁度いいやな」
と、そこで、ドライはやや明るめな声を出す。
そしてその手が己の懐に差し入れられ、取り出されたのは、
(懐中時計…?)
鎖の付いた懐中時計であった。
なれた手つきでその蓋を片手で開けると、音楽が流れ出す。
そう、それはオルゴール機能付きの懐中時計であった。
「鳴り終るまでに、撃ちな。
 それで撃たなかったら、あたしも抵抗するぜ」
明確な、時間制限。
それまでに撃たなければ、今度は真達の身も危ない、ということだ。

「……っ! …………っ」
声にならない叫びを繰り返し、そのたびに何度も首を振る真。
だが、そうしている間にも音楽は流れ続ける。
この場に似合わぬ美しい旋律が、あたかも奈落へと誘う笛のように、真には感じられた。
周囲の気温は、上昇し続けている。
遂には、ロビーのすぐ近くにまで、赤い色が見え隠れするようになった。
煙は、既に真達の頭の少し上にまで迫りつつある。
「……そろそろヤバそうだな…。
 ほらよ、さっさとしないとアンタもこの彼氏も死んじまうぜ」
「……う…」
人を殺すなんてしたくは無い。
だが、今ここで撃たなければ誠の命も危ない。
その葛藤が、僅かに真に銃口を上げさせる。
だが、その時、
「…ま、真」
先ほどの一撃で声の出せなかった誠が、漸く声を上げた。
「…ダメだ…人を殺すなんて……」
僅かに擦れながらも、その言葉は明確に発せられる。
殺しては駄目だと。
人を殺すことなど間違っていると。
自身の明確な危機ではありながらも、誠ははっきりと告げた。
「……とりあえず、おめーは今は黙ってろよ」
「あうっ!」
とりあえず、今は用は無いとばかりに、誠の腕を捻り上げる。
「……なかなか胆の据わった彼氏だけどよ、だからなおの事撃たないと死んじまうぜ?」
そうして、再び真に告げる。
大事な相手であるなら、なおの事撃たなければ共に死ぬだけだと。
「そろそろ、終わりだな…さっさとしろよ」
曲の終わりが近づいて来る。
決断の時が。
自分と、大事な人の為に人を殺すか。



そうして、

彼女は、

引き金を、



「……つまんねえな」
無機質な声がした。
少なくとも、何の感情も感じられない声が。
「……つーかよ」
その言葉と共に、
「うあっ!?」
「きゃっ!?」
誠の体が、真目掛けて突き飛ばされる。
その衝撃に思わずよろめいた隙に、ドライはケガを感じさせない動きで真の手に飛びつき、クトゥグアを奪い取る。
そして、そのままの勢いで体を回転させながら蹴りを放ち、二人を床へと蹴飛ばす。
あっという間に、逆転。
真達の命は、ドライに握られた事になる。
「…人を殺して何か悪いのか?」
だが、そんな事を誇るでもなく、心底不思議そうに、ドライは聞いた。
「別に気に食わない野郎を殺せってんじゃないぜ。
 まああたしは殺すけどよ。
 でもよ、身を守る為に殺すくらい普通じゃねえのか?」
その、瞳は、理解出来ないと言っていた。
かつては、ドライも、キャルもそのような事を考えていた。
だが、それでも、己の身を守るのに必要であれば、殺すべきだ。
それは、当然の事。
そうでなければ、死んでいたのだから。

「そ、そんな事、出来る、か。
 身を守る為だからって、人を…殺す、なんて」
「そ、そう、だよ。
 そんな事、していいはずが無いよ」
僅かに苦しげに声を乱しながらも、誠達ははっきりと答えた。
人を殺すのは間違っていると。
「…くだらねえな」
心底、つまらそうに、或いは虚しそうに、言った。
相手が獣であるなら、或いは自身が後塵を帰した事を納得しえたかも知れない。
ドライのように経験がなくても、その位置までたどり着くような相手であるなら、敗北したことを心のどこかで受け入れたかも知れない。
だが、相手はドライには理解出来ない存在であった。
何もかもが違う。
ドライとは、いやファントムとは対極と言ってもいい思考の相手。
そのようなものに、一度とはいえ遅れを取った。
その事実が、ドライの心を凍てつかせる。
ファントムとして、人殺しの才能を持つものとしての存在理由すら、怪しくなってくる。

だが逆に、相手が理解しえない相手であったが故に、ドライは未だファントムで在り続けた。
アインやツヴァイに敗れたのであれば、彼女は完全にファントムとである自分を喪失していたであろう。
ファントムとしての性能で、劣っていたということになるのだから。
だが、自身とはまるで別の存在故に、敗れたという事実が自身のファントムとして自身の喪失にはなりえなかった。
それは、ある意味ではもっと恐ろしい事。
ファントム・ドライの根底にある存在、キャル・ディヴェンスという少女そのものを揺るがす。
まるで、その存在自体が誤りであるかのような意識すら、彼女自身の理解しえない深度で湧き上がる。


そう、それ故に、彼女は、
「……じゃあな」
誠達に銃を向ける。
己という存在が、
己の『人を殺す』という役割が、正しいと信じるが故に。
そうして、その引き金を引こうとした、その時。

「!!」

驚きの声は誰のものか、
この館を包んでいた炎は、遂にその建物全体に燃え広がり、その火勢に煽られ、天井の梁が丁度彼女達のすぐ傍に落下したのだ。
熱風が、三人の顔に吹き荒れる。
何時の間にか、既に黒煙は彼女達の顔の辺りにまで達していた。
既に、館の内部に留まるのは非常に危険な状態に達していたのだ。
ただ、彼女達がその事実に気が付いておらず、強制的にその事を認識させられることになったのだ。

「くっ!」
叫びと共に、ドライが扉に向かい駆け出す。
次いで、誠と真も起き上がり、後に続く。
扉までの距離は、おおよそ十メートルほど。
少なくとも、間に合わない距離ではない。

……その正面に、天井に吊るされたシャンデリアが落下しなければ。

“ガシャーーーン”という断末魔の悲鳴を残し、その残骸は飛び散る。
その性質上、乗り越えて進むのは困難。
何時また落下物があるかも知れない状況では、僅かな時間も命取りになる。
いや、だが、それ以前に、
「……ぅ…」
シャンデリアのすぐ傍にて蹲る彼女には、そのような事は既に無関係かもしれない。
最も近い位置にあり、足首にケガを追っ手いたが故に、彼女は完全には避け切れなかった。
自身を覆う影に気付いていなければ、そのまま死んでいただろう。
だが、捻挫した足を更に痛めた為、走るのは困難な状況である。
既に、ほぼ万事休す。
それでも、何とか扉の方向に向かう彼女の手を、
「起きろっ!!」
誰かの手が掴み上げた。

誰か?
いや、この場所に居る人間は決まっている。
加えて、男声ともなれば、ただ一人。
先ほどまで殺しあっていたはずの相手が、何ゆえかドライの手を掴みあげ、肩を貸す姿勢に移行する。
そして、
「真さん! こっち!」
もう一人も、それに手を貸すかのように誘導する。
そう、この場おいて、出口は一つではない。
先ほど、ドライがこの館に侵入する時に空けた穴。
それは、既に周囲が火に包まれようとしてはいたが、今なおそこにあった。
「わかった!」
そして、ドライを肩に担ぎながら、誠はそちらに向かう。
その距離は、おおよそ十数メートル。
その道のりを、全速力で駆け抜ける。
一人で走る速度よりも、遥かに遅い。
だが、それでも全速で、誠は駆ける。

…そして、たどり着く。
最後に残された出口へと。
誠の顔に、安堵の光が生まれる。
真も、多少意識を緩める。
…そうして、ドライを伴い、誠がその道をくぐった。

…地面に、倒れこむようにしながら。


誠は、最初何が起きたのか理解出来なかった。
普通に歩いて通ろうとしたその直後、突如背中に衝撃があり、そのまま前のめりに突っぱねられた。
地面と口付けを交わした唇から僅かに血が流れ、口内に土の味が広がる。
顔のすぐ傍には肩に抱えた金髪の少女の顔。
つまり、ドライの仕業ではない。
ならば、と思い後ろを振り向いて、
「っ! 真!!」
誠は、声を失った。

穴の向こう側。
まだ燃え盛る館の内側に、真が倒れ付していた。
その背には、燃える柱が覆いかぶさっている。
…あの時、誠とドライの頭上に、柱が倒れこんで来たのを見て、真は咄嗟に二人を突き飛ばした。
恐れらくは、ドライとの戦闘で生じた足の怪我がなければ、そのまま共に脱出できていたに違いない。
だが、現実は、少女が脱出するには至らなかった。

「真!!」
慌てて、誠が駆け寄る。
既に外壁にも炎が移っているが、そんな事は気にしない。
とりあえずと肩を掴み、真の体を引っ張る。
近くにある炎によって、誠の手もやけどが生じ始める事にも、構わずに。
だが、
「ぐっ! ううううう!!」
抜けない。
柱の重量と、丁度壁に引っかかる位置であるが故に、真の体は抜けない。
加えて、真自身、柱の衝撃で意識を失っている為、動かない。
何度か試しても一向に成果は無い。
なので、
「おい! 手を貸してくれよ!」
誠は背後にいる筈の人物に声を掛ける。
果たして、その人物はそこに居た。
その手に持った銃を、誠達に向けながら。



引き金は、僅かに震えていた。


違う。
何もかもが、全て違う。
そもそも、全ては想像の産物に過ぎない。


だが、
だが、もしもだ。
…同じ、ならば?
無論、全ては同じではない。
捨てられた少女は、たまたまその場所に居なかった。
男は、少女の事など省みず、己の幸せのみを求めて逃げ出した筈だ。
そうして、残された少女は…

男は/少女は、少女を/少女を助けようとした。
己の命が危ない事は、理解できて居るはず。
だが、それでも懸命に、救おうとした。
そうして、間に合った/間に合わなかった。

もし、
もしもだ、

それが、真実ならば?

男は少女を助けようとした。
だが、間に合わなかった。
そうして、男は自身に絶望し、それでも少女の死を受け入れる、かつてのように。

ただ、少女の……だとしたら?

彼女の願いも、苦しみも、憎悪も、愛情も、全てが、幻影だとしたら?

ただ、絶望を鵜呑みにしただけだとしたら?

(違う…)
何が? 何故?
単なる思い込みか?
事実とは異なるのか?
だが、男が今ドライを救ったのは事実。
それが何だというのだ?
かつてもそうであったのなら?
違う/違わない
…何が?

男が/男が
何か叫んでいる。
絶望か?
憤怒か?
恐らくは両方。

間に合わなかった故に/恐らく間に合わないが故に
違う、全ては想像だ。
実際にはこんな事はなかった。

男を、蹴り飛ばす。
みぞおちを蹴られた男は、吐奢物を撒き散らしながら壁に叩きつけられる。
そうだ、男は、こんなにも弱い。
男には/男には、少女を救うことなんて出来ない/出来なかった
否/是

救えない、筈だった/救えなかった


…そうして、少女はその引き金を引いた。




娼館という建物そのものが、炎の中へと還っていく。
今、娼館は炎の包まれ、その建造物としての生を終えた。
ガラガラと、柱が崩れ、天井が、床が、落ちる。
幾重に折り重なり、巨大なキャンプファイアーとなり、そうして、全ては炎へと消えた。

そう、その傍らに、『二つ』の人影を残して。

片方は、動かない。
片方は、長らくその場にあったが、やがてその場から離れていく。
その足取りは、酷く緩やかだ。

片方の足を引きずりながら、ゆっくりと、それでも確実に前に進む。
その行く先は、定かでは無い。


「ガハッ…あ…」
鳩尾へと叩きつけられた一撃で、男は悶絶する。
唾液と胃液を吐き出し、腹を抱えて蹲る。

(こんな、弱い男ですら、
 なら、……った?
 なら、………なの?
 なら、…………だ?
 …不愉快だ。
 凄く…不愉快だ。
 そうだ、男を殺してしまおう。
 男を、殺して、そうして、証明する?
 証明? 違う、復讐を?
 復讐?それが偽りだとしたら?
 偽り?そんなはずが無い。
 気分が悪い。
 何で気分が悪いんだ?
 そうだ、男の所為だ。
 なら、男を殺してしまおう。
 うん、そうだ、それがいい。
 男を殺して、そうすれば全てが解決する)

そうして、ドライは、正確に『二度』、引き金を引いた。
弾丸の音と、血の飛び散る音を、聞いた。

【C-2 娼館付近/一日目 朝】

【ドライ@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-】
【装備】クトゥグァ(0/10)@機神咆哮デモンベイン
【所持品】支給品一式×2、マガジン×2、懐中時計(オルゴール機能付き)@Phantom、噴射型離着陸単機クドリャフカ@あやかしびと
【状態: 煙による多少の息切れ(少ししたら治ります)、左足首捻挫(歩くのに支障あり)】
【思考・行動】
基本:男(玲二?)(誠?)を殺す
1:気分が悪い。
2:見つけた人間を片っ端から襲う。

※クトゥグァ、イタクァは魔術師でなくとも扱えるように何らかの改造が施されています。

【噴射型離着陸単機クドリャフカ@あやかしびと】
すずルートで、双七がヘリを追いかけるために使用したもの。
本来、トーニャの所属するロシアの諜報機関の保有物。ちなみにロシア製品は世界有数の品質を誇る(トーニャ談)。
噴射型のロケットエンジンを背負うことで空中を移動することが可能になる。
操作については、本編中で双七が30分ほどで会得できた程度。なので要領次第で前後すると思われます。
速度は輸送ヘリに30分のハンデがありながら追いついているのでかなり速いです。ただ、ロワ内では不明。
熱を持つので、背負った状態での長時間の使用は危険かもしれません。
なお、断じて意思持ち支給品ではありません。


2つの奇跡があった。

小さく、僅かな、されど確かな奇跡。
金色の羊毛。
伊藤誠に支給され、菊地真に渡されていた、役に立たない支給品。
カバンの口が開いたままだった故に、僅かにはみ出ていたもの。
その名は“アルゴンコイン”
かつてコルキスの王の元、ドラゴンが守護し、長らく国の宝として存在したもの
かのアルゴー船の探索目標になった、歴史にその名を刻まれし『宝具』
だが、この場合重要なのはその価値などでは無い。
重要なのは、それが宝具の域にある宝であるということだ。

そう、それは人の法則によっては傷つかない。
神秘の域にある物品故に、『唯の炎』程度では意味がないのだ。
衝撃も、煙も、熱も、防ぐことは出来ない。
だが、それは確かに炎だけは防いでいた。
そう、最も速やかに命を奪う、炎だけは、防いでいたのだ。


弾丸は、否、炎の奔流は、誠の顔の横を掠めていた。
そうして、その炎の奔流は、正確に真の体を覆う柱を吹き飛ばしていた。
痛む体を叱咤し、誠は真を助け出す。
助け出す事に、成功した。

喜び、ドライに謝意を述べながらも、真の体を見続けている。
そうして、とりあえずとカバンから水を取り出し、真の全身に掛ける。
火傷の応急処置を行い、そして…

誠は、突如、ドライに蹴られた。
突然の事に、悶絶しながらも、何とか真の体にと奢物が掛からないように注意する。
だが、出来たのはそれだけ。
苦しさ故に声の出せない誠の目前に、銃口が迫り、

引き金は、正確に二度引かれた。


誠は、思わず瞑っていた目を開ける。
その向こうには去っていく人影。
ドライのものだ。
声を掛けようとしたが、何も言えず、そうしてドライは去った。

そう、もう一つの奇跡。
クトゥグアの弾丸は、既に無かったのだ。
それが、ドライの迂闊さ故か、はたまた意思なのかは、わからない。

空砲の向けられた先を、確認する方法などないのだから。

【C-2 娼館付近/一日目 朝】

【伊藤誠@School days L×H】
【装備:防刃チョッキ】
【所持品:支給品一式、スペツナズナイフの柄、手榴弾2つ】
【状態:健康、肉体疲労(中)、性欲鎮静】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いには乗らない
0:あいつ…
1:とりあえず、病院かな…
2:自分の知り合い(桂言葉西園寺世界清浦刹那)やファルの知り合い(クリス、トルタ)を探す
3:真と娼館に。それまでに、もっと真と仲を深めたい。
4:信頼出来る仲間を集める
5:主催者達を倒す方法や、この島から脱出する方法を探る
6:このみを心配。ついでに仲良くなりたい。
7:巨漢の男に気をつける。

【備考】
※どの時間軸から登場かは、後続の書き手氏任せ

【菊地真@THE IDOLM@STER】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、金羊の皮(アルゴンコイン)@Fate/stay night[Realta Nua]、レミントンM700(7.62mm NATO弾:4/4+1)、予備弾10発(7.62mm NATO弾)】
【状態:服が濡れてスケスケ、背中付近に軽度の火傷(皮膚移植の必要無し)、肉体疲労(中)、左足に軽い怪我、罪を見つめる決意】
【思考・行動】
基本:誠と共に行動する
0:気絶中
1:誠さんと一緒に娼館から逃げる
2:誠さんは優しいなぁ……すごくスケベだけど
3:巨漢の男に気をつける
【備考】
※誠も真も、襲ってきた相手が大柄な男性であることしか覚えていません。
※愛佳の死を見つめなおし、乗り越えました。

【金羊の皮:キャスター、メディアの持ち物、とっても高価。
 竜を召還できるとされるが、キャスターには幻獣召還能力はないので使用不能】

※娼館は完全に焼失しました。
煙はかなり遠くまで見えた可能性があります。


088:業火、そして幻影(前編) 投下順 089:影二つ-罪と罰と贖いの少年少女-
時系列順 090:悪鬼の泣く朝焼けに(前編)
伊藤誠 100:洗脳・搾取・虎の巻
菊地真 100:洗脳・搾取・虎の巻
ドライ 128:日誌とクドリャフカと刑務所とドライ

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