「病院……か……。」
街を抜け、悠、ピカチュウ、ポカポカの3名は病院へと辿り着いていた。
「浮かない顔だな、悠……まあ、こんなとこで活き活きしてる方がオカシイけどさ。」
「ああ、病院にはあまりいい思い出がないもんでね。」
悠が思い出していたのは、生田目の病室での出来事だ。
マヨナカテレビに生田目の"本心"が映し出されたあの時、自分も仲間たちも皆、少なからず憤りが生まれていた。
誰が生田目をテレビに入れて殺していてもおかしくないと、そう言いきれる程度には。
しかしあの場で全員で冷静になれたことで真相に近付くことが出来たし、生田目は正当な法の審査を受けることが出来た。
冷静でいること、問題解決にはそれが不可欠であると悠は知っている。
「なあ、ピカチュウ……」
「どうした?」
「やっぱりこの世界では、殺して回ってる人もいるんだろうな。」
だからこそ、悠は不安を覚えている。
生田目を前に冷静でいられたのは『悪は法で裁かれるべきだ』とする社会的通念があったからに他ならない。
しかし、この世界の殺人は法では裁けない。言うまでもなくマナとウルノーガはそんな次元を超越した存在だからだ。
「……否定は出来ねえな。」
ピカチュウがこれまで出会った参加者はスネークと悠のみ。
積極的に殺し合いに乗っていた者とは未だ会っていないが、それでも大勢の参加者の誰もが殺し合いに消極的だと思えるほど楽観的ではない。
「もしかしたら、殺されるのは誰かの仲間かもしれない。そうしたらその誰かは憤りに任せてまた誰かを殺すかもしれない。」
「……ああ。」
「俺だって同じだ。また仲間が殺されたりしたら……怒りに身を任せることだってあるかもしれない。」
「……。」
マナに見せしめと言わんばかりに殺された完二の姿が悠の頭にチラつく。
自分が主催者を倒すと決意している理由には、前提に完二の意志を継ぎたいという想いが少なからずある。
だが他の参加者たちにはそんな前提は存在しない。
自分とて完二が殺されていなければ──すなわち継ぐ意志がなく、仲間もここに招かれていないと思っていれば──そんな場合に自分がどう動いていたかなんて分かったものではない。
「ホントやるせないよな。ここでの暴力は必ずしも悪じゃないんだ。」
ピカチュウが思い浮かべているのは、ティム・グッドマンと共に解決した事件の中で、薬によって無理やり凶暴化させられていたポケモン達である。
薬か恐怖か、支配の方法が異なるだけで暴力を強要させられているという点では大した違いは無い。
「でも俺は思うんだ。そんな中で悠みたいな男と出会えたこと、それが幸運なんじゃないか……ってな。」
「……そうか。そうだよな。俺もお前に会えて良かったよ、ピカチュウ、ポカポカ。」
「ポカ!ポカブー!」
悠に頭を撫でられたポカポカが嬉しそうに鳴く。
「そういうこった。さ、行こうぜ。俺たちは俺たちに出来ることをすりゃあいい。」
「……ああ!」
ピカチュウの言うままに病院の内部へと歩みを進める悠。
胸の中の一抹の不安は完全には拭い去れないが、誰かが隣にいるということの温かさは伝わってくる。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「これはひでえな……実際に殺し合いが起こったのは間違いなさそうだ……。」
最初に悠とピカチュウが目にしたのは、2階の床が崩れ落ちて1階に瓦礫の山を作っている光景だった。
少なくともイザナギ以外のペルソナを使えない今の悠にはこのような芸当は出来ない。
これをやったのが殺し合いに乗る者かどうかは分からないが、これだけの破壊力を持つ者がいることは胸に留めておく必要がありそうだ。
「まだ誰かが潜んでいる可能性もある。慎重に行こう。」
「ポカー!」
「こら、静かにしろっての」
「ポカー……」
どこか呑気なポカポカをピカチュウが咎める。お前が言うなという誰かのツッコミが聞こえた気がした。
何はともあれ、悠たち3名は探索を始める。
最初に入った部屋は診察室のようだった。
しかし特にめぼしい道具も情報も見つからない。道具は彼らが訪れる前に、ルッカが回収しているからである。
「……次の部屋に行くか。」
「待て、悠。この部屋の電気をつけていくぞ。」
診察室を出ようとする悠にピカチュウが囁く。
「何故だ?」
「ヒトの場合、五感の中では視覚がいちばん優先されるからな。もしこの病院内に誰かが潜んでいるなら、俺たちの立てる微かな物音よりも明かりの方に反応するはずさ。つまり他の部屋の探索中に不意打ちを受ける可能性が下がるってことだ。」
なるほど、と頷き、悠は照明のスイッチを入れる。
戦闘はともかく、こういった局面でピカチュウはこの上なく頼りになる存在だ。
ふと、的確なナビゲートで索敵などの補助をしてくれていた久慈川りせのことを思い出した。
そして次に入った部屋では──悠は驚愕することとなった。
(ここは──生田目の病室!?)
もちろん生田目本人が居るわけではないのだが、ベッド、テレビの配置、サイズなど、どれを取っても瓜二つである。
地図には八十神高校があることから、悠の居た世界を模した施設の存在は元々認知していた。
だが病院という、固有名詞でないニュートラルな施設の、それも中の一室だけに自分の居た世界の面影が見えるとは思わなかった。
(だが、何故主催者はそんな面倒なことを……?)
病院の一室だけを悠のいた世界に纏わる形にする。殺し合いをさせるというコンセプトに沿っているとは思えない行動だ。
つまり、殺し合いとは別に何らかの意味があるかもしれない。
あるいはただのブラフであり、自分がこうして困惑していること自体がその意味であるという可能性も否定できないのだが。
(待てよ……もしかして……)
ここで悠はひとつの可能性に至る。
自称特別捜査隊の活動の鍵となったアイテムである、『テレビ』。
もしもここが生田目の病室を完全に再現しているのであれば、あの時生田目を落とすかどうかで散々揉めたテレビの中に入ることも出来るかもしれない。
その仮説を思い浮かべるや否や、悠はテレビへと近付き始める。
そしていつもテレビに入る時のように、ゆっくりとテレビに手を伸ばし──
「落ち着け!悠!」
──テレビの中に入れるかどうか確かめようとする、その行為はピカチュウの一喝によって止められることとなった。
病院に来る道中の情報交換によって、悠がテレビの中に入れることをピカチュウは知っている。よって悠の行動の意図はピカチュウにはすぐに伝わった。
「その先の世界は『禁止エリア』に抵触する可能性がある。その首輪に縛られている内は、その先を覗き込むのすら危険だ。……すまねえな、柄にもなく怒鳴っちまって。」
「いや……むしろ助かったよ、ありがとう。」
落ち着け──かつてこの病室で自分が陽介にかけた言葉。
まさか自分がかけられる側に回るとは思ってもいなかった。
テレビの中の世界からはクマがいないと戻ってこれないため、元々中に入るつもりは無かったのだが、入れるかどうかを確かめるだけであってもその危険性を度外視していたのは冷静さが足りなかったと言われても仕方がない。
「とりあえずここを出るぞ。誰かが病院内に潜んでいたら俺の声で気付かれた可能性がある。」
ピカチュウの言うままに、開け放しておいた病室のドアから廊下へと出る。
すると次の瞬間、機械的な音声が聞こえてきた。
「──シンニュウシャをハッケン。」
それは予期していた敵襲だった。
「ハイジョします。」
電気をつけておいた部屋から漏れた明かりが襲撃者──ロボの姿を映し出す。動くロボットだとは思っていなかったが、致命的な誤算には至らない。
「──ペルソナッ!!」
排除すると、目の前のロボットはそう言っていた。
言葉と行動が一致するのであればつまりはそういうことだ。このロボットは積極的に殺しにかかってくると見てよいだろう。
悠にとっていちばん厄介なのは、敵意がないフリをして近付いてくるステルスマーダーである。
悠はどちらかというと巻き込まれ体質だ。
基本的に相手の話は信じ、かつ相手の話には積極的に乗っかるタイプ。
嘘吐きにとっては騙しやすい人間と言える。
つまり相手が真っ先に敵意を言語化してくれるロボットであったことは、むしろ助かるほどだ。
「来い、イザナギ!」
悠の背後からあたかも番長のような佇まいの男が現れる。
「すげえ!ソイツが悠の言ってたペルソナって奴か!」
感心するピカチュウを他所目にロボは小手調べと言わんばかりのロケットパンチを放つ。
対する悠は物理技『スラッシュ』でロケットパンチを迎撃する。
ロケットパンチを撃ち落とし、ロボに攻撃を加えるために刀を構えてイザナギを前進させる。
再び『スラッシュ』を放つイザナギ。
対するロボはマシンガンパンチで応戦。1秒に6打もの連続パンチがイザナギの斬撃と衝突する。
「ぐっ……!?」
イザナギの攻撃はいとも容易くかき消される。
さらにイザナギの技では受け止めきれなかった衝撃がイザナギを、そしてペルソナの主である悠を襲う。
悠にとってイザナギは最も使い慣れたペルソナである。
繊細な剣技で相手を圧倒するのであれば、あるいは魔法の威力を調節するのであれば、イザナギ以上に適したペルソナはいないだろう。
だがイザナギは使えるスキルが基本的なものしかない。
物理火力は『スラッシュ』止まり。
ロボの単体最強火力『マシンガンパンチ』に力負けするのは自明の理であった。
「大丈夫か、悠!」
衝撃を受け、苦痛に顔を歪める悠。
イザナギで制圧して病院を脱出するのが理想ではあったが、どうやらそれは難しそうだと実感する。
それならば、策はひとつ。
「時間は稼ぐ……その間にポカポカを連れて病院を出てくれ、ピカチュウ。」
「っ……!」
このまま悠が負ければ全滅は必須。さらにピカチュウ自身は戦力外である。そうするのがベストな選択であることはピカチュウにも分かっていた。
ピカチュウには名探偵の名を背負うだけの気概がある。仮に戦力にならないとしても悠の戦いを見届けるために病院内に残り続けるだけの男気もある。
だが、今回ばかりは自分だけでなくポカポカの命までかかっている。
「分かった……だけど約束だ。お前もちゃんと後から来るんだ。」
「勿論だ。」
出口に向かうにはロボの真横を経由しなくてはならないため、悠の時間稼ぎは必須である。
先ほど悠が技と技の撃ち合いで負けたことから見ても、ピカチュウを逃がすだけでも楽な仕事ではないのは間違いない。
ましてや、その後に悠自身も逃げるとなるとさらに危険だ。
「走れ!ポカポカ!!」
「ポカッ!」
「俺が道を開く!」
それでもピカチュウは迷うことなくポカポカに乗って前進させる。
それは無謀でも蛮勇でもない。
他でもない悠が任せろと言ったのだ。
その言葉を信じるのが最適解だと名探偵を自称するだけの脳が、そして本能が告げていた。
「シンニュウシャの逃走ノ意志を確認。逃がしまセン。」
ロボのアイセンサーの光に、紫色の光が溜まる。その視線の先に捉えているのはポカポカでもピカチュウでもない。
対象はフィールド、すなわち無差別攻撃。
189キログラムという体重からは想像もつかない速度でロボの身体が回転を始める。それと同時にロボの眼から放たれるレーザーがサークルを描き、辺り一面を包み込む。
周囲を満たす、乾いた雑巾で廊下を擦るような耳障りなレーザーの駆動音。
その音に惑わされ、誰も悠がカードを割る音に気付かない。
「させないっ!」
回転レーザーがピカチュウとポカポカを包み込む寸前、その正面にイザナギが割って入り、その一身でレーザーを受け止める。悠本体は回転レーザーの射程外にいながらもなお完璧に調整されたその顕現場所は、悠がイザナギを使いこなしている証明に他ならない。
イザナギは闇属性を無効にする。異なる世界の用語を同じ概念に置き換えるのなら、冥属性であるロボの回転レーザーはイザナギには一切通用しない。
その場の誰にもダメージを与えられていないことを察したロボは真横を通るピカチュウたちへサークルボムを放たんと構える。
しかしイザナギはまだ顕現しただけである。悠が命じた技を発動していない。
悠がその手の女神の杖を掲げた瞬間、鋭い雷がロボを襲う。
ジオ──初期の雷魔法でしかないのだが、女神の杖で攻撃魔力の上がっている悠や、ロボが魔法防御方面に脆いことといった要因が重なり、ロボの動きを一瞬鈍らせることに成功する。よってサークルボムは不発に終了。ポカポカとピカチュウはロボの攻撃圏内からの離脱を成功させた。
(ひとまずは上手くいったか……さて、次は俺が逃げる番だが……。)
ギリギリのギリのピカチュウたちの脱出を通しながらも、悠は冷や汗をかく。
逃げるにはさっきのような死線をくぐり抜けなくてはならない。
しかしピカチュウたちの時に、範囲攻撃をことごとく退けてきたのをロボは認知している。
また、ピカチュウたちは2匹いたのに対してこちらは1人だ。範囲攻撃を使う理由が無い。
要は悠が病院を脱出するにはイザナギで防げないマシンガンパンチのような単体攻撃をくぐり抜ける必要があるということ。
「さて、どうしたものか……。」
悠の隣には誰もいない。
陽介も、千枝も、雪子も、完二も、クマも、りせも、直斗も、そしてピカチュウも、誰一人としていない。
本当に独りで敵と対峙する恐ろしさを、悠はまだ知らない。
「ペルソナァ!!」
心の底の不安を押し殺すように、高らかに悠は叫んだ。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「ありがとう、助かった……。お前は確か……最初の会場でマナに反抗していた者か?」
「ティファ・ロックハート。ティファでいいわ。あの時見られてるなら話は早いわね。こんな殺し合い、ぶっ壊してやろうと思うの。」
狂人と化した聖女──セーニャに襲われていたカエルは、自分の命を救ってくれた女性に礼を述べた。
今や殺し合いに乗っているカエルだが、それは心からの礼であった。
カミュと、雷電と、セフィロスと、そしてセーニャと。
この世界に来てからというもの、強敵との戦いばかりだ。
そんな中、最初の会場も含めて目にした行動全てが殺し合いへの反逆であるティファの存在は、カエルとしては一時の癒しであった。
それでいて、自身の情けなさが顕になっているような気分もまた湧いてきた。
凡そ素手での戦闘という、かつての仲間エイラを想起させる戦闘スタイル。それでいてマールディアを想起させるような、おてんばさを兼ね備えた芯の強さ。
ティファの人物像から想起される2人の仲間はどちらもガルディア王家の人物であり、リーネ王妃直属の騎士である自分が護らなくてはいけない人物だ。
そんなティファに助けられることは、騎士としての名折れであると感じられた。
「……俺はグレン。そう呼んでくれ。」
だからこそ、カエルは自らの名をグレンと名乗る。
かつてクロノ達に名乗った時はカエルを名乗ったのに、だ。
──カエル
それはガルディアの騎士としての名。
友の意志を継ぎ、魔王との宿命を背負った勇者の名。
そして、時をかけて星を救う英雄の仲間の名。
この殺し合いに乗るというのは言うまでもなく不名誉である。
カエルの名をここで名乗り、ガルディアの、サイラスの、クロノの名誉までを穢すわけにはいかない。
不名誉を背負うのは、魔王に挑んでむざむざと生き延びて帰った愚かな男グレンの名、それひとつで充分だ。
元の世界に戻り魔王と再び対峙するまでは【グレン@クロノ・トリガー】でいい。
「グレン……名前は普通なのね。その外見には驚いたけれど……参加者に呪術を使う奴でも居たの?」
グレンの事情など知らないティファは、蛙のような風貌について尋ねる。
「この外見は元からだ。……だがそのせいで、最初に出会った奴に魔物に間違われてしまったようだがな。」
「最初に……?そう、もう誰かと出会ってたのね。」
「ああ。名前は知らないが、最初にマナに刃向かってた青髪の男だ。ちょうどお前が助けた男だったか。」
嘘をついた。
最初に出会ったカミュに戦闘を仕掛けたのはグレンである。
カミュはセフィロスから逃げ延びたと聞いたが、その時グレンは気絶していたためその方角は分からない。つまり逃げた方角によっては何なら今すぐにでも鉢合わせしかねないということ。そうなると向こうはこちらが殺し合いに乗っていると主張するだろう。
カミュもティファ同様、最初の会場でマナに反抗したことを参加者全員に認知されている1人である。カミュが殺し合いに乗っていることにするのは難しい。
よって、ティファの中ではあくまでもグレンを魔物と勘違いしたことで殺し合ったことにしてもらうことにした。
そうすると、仮にカミュとどちらが先に襲ったかの論争になっても『カミュは早とちりをしやすい』という印象を先にティファに植え付けている自分の方が有利になる。
いつの間にか首輪を付けられ武器を奪われていた状況でも真っ先にマナに向かって行ったことから見ても、元々先走りやすい性格ではあるのだろう。
「その人はどうしたの?まさか……殺してはいないわよね?」
「ああ。途中で色んな奴が乱入してきたからな。青髪は逃げ、俺は気絶し……乱入者の1人は殺された。」
「誰に?」
その時の言いようもない恐怖を思い出し、アオガエルのような顔色になったグレンにおそるおそる尋ねる。
「もう1人の乱入者──セフィロスという男に……!」
「何ですって!?」
その名を聞くや否や、ティファはグレンの両肩を揺すった。
「アイツが……アイツがここに来てるっていうの!?」
「知ってるのか!?奴はクラウドという男を探していたが……」
グレンの出した補足情報もティファの知るセフィロスと一致する。同名の他人ではないだろう。
「ごめん、グレン。私はセフィロスのもとへ向かうわ。」
「……お前の方が分かっていると思うが、奴は危険だ。人を集めた方がいいんじゃないか?」
「危険だからこそ、よ……。」
グレンの提案にもティファは譲らない。
ステルスマーダーのスタンスを取るグレンも、命の恩人がみすみす死地に向かうのを黙って見送るほど薄情ではない。
一方ティファも、セフィロスによって新たな犠牲者が出るかもしれないのを無視することは出来ない。
しばしの口論を止めさせたのは、その場に現れた第三者であった。
「誰か……誰か手を貸してくれ……!」
「誰だッ!」
「豚に乗った……ウサギ?」
病院でロボの襲撃から脱出したピカチュウたちは、助っ人を求めて病院の周辺を探し回っていた。そこに言い争う声が聞こえてきたため近付いてきたのであった。
言い争っている者たちの片方の姿を見たピカチュウは安堵した。それは最初の会場でマナに反抗していた数人の内の1人だったからだ。
この殺し合いの中ではかなり信頼出来る部類の人間だろう。
だから口論こそしているものの、少なくとも同行している以上もう片方の蛙人間も対主催の立場ではあるはずだ。そう推理──否、そう願って近付いたのである。
ピカチュウが冷静であれば、蛙人間だけが怪我を負っているから2人がまだ出会って間もないということを推理して、同行しているからといって2人のスタンスが一致しているとは限らないということも考えられていたかもしれない。しかし、一刻も早く悠の加勢に向かわなくてはならないピカチュウにその余裕は無かった。
「病院に……人を襲ってるロボットがいるんだ!俺たちは脱出できたが、中で悠がまだ戦ってる!どうか手を貸してくれないか?」
必死に懇願するピカチュウの様子からどれだけ切羽詰まっているのかが伝わってくる。
「……案内、してちょうだい。」
ティファもこの状況ではセフィロスのもとへ向かうのを優先出来なかったようだ。
「俺も向かう。」
グレンとしては悠とやらが死のうともどうでも良い。
だがここで同行しないのは不自然なためついて行くことにする。
(ロボット、か……。まさかな……)
グレンは数時間前まで旅路を共にしていた仲間の姿を思い浮かべていた。
最終更新:2019年11月14日 13:21