星を危機から救うため、反権力組織アバランチを結成して日々を弾丸と共に過ごしてきた男、バレット。
核開発に伴う武力衝突の中をいくつもの顔で渡り歩いてきた男、オセロット。
そして連合軍と帝国軍の戦いに巻き込まれて子を失った悲しみから狂気に囚われた契約者、アリオーシュ。
殺し合いをも茶飯事としてきた異なる世界の三者がここに集まっていた。
そして現状、バレットとオセロットはアリオーシュに気付かれないまま戦略を立てていた。
これが普段の戦場であったなら、100%危険人物と断言出来るアリオーシュに即座に飛び込んでバックアタックしていた場面であっただろう。
しかし今は、武器もマテリアも全て没収された上で見たことも無い武器を配分されているという、ユフィの盗み以上に容赦の無い状況だ。配分された武器も機械を用いて武器を右腕に合わせなければ使えそうにない。
「じいさん、アイツについて何か分かるか?」
アリオーシュに届かないくらいの声でオセロットに尋ねる。
「……彼女の名はアリオーシュ。既にある程度の傷を負っているようだな。……ただし、その程度しか情報はなさそうだ。」
「……ケッ。やっぱり使えねえじゃねえか。」
バレットがオセロットに相手の情報を求めた理由は、彼らがアリオーシュを発見するより数分前の会話にあった。
■
「簡略に言えばマテリアとは魔晄の結晶だ。神羅産の人工マテリアも天然のマテリアもあるが……どちらにせよこれを使えば誰でも魔法やそれに準ずるものが使えるってわけだ。」
『バレットとその仲間の邪魔をしない』
その契約の代わりにバレットはオセロットにマテリアについて解説していた。
「とりあえずここまでで質問はあるか?」
答えを『いいえ』と見越した上で形式的に問う。バレットとしてはなるべく一般的な単語に咀嚼して話したつもりであったのだが、『魔晄』とは何か、『神羅』とは何か、と立て続けの質問を受けたことで、オセロットとは常識の規格がまったくもって異なることを思い知る。
「して、君の言うマテリアのことだが……」
だいたいの常識の差異の咀嚼を終えたらしいオセロットはマテリアの説明を聞き、バックパックからゴソゴソと何かを取り出し始めた。
「もしかしてこれのことかね?」
そう言うオセロットの左手には黄色い球が握られていた。
それは紛れもなく、バレットも知るマテリアそのものだった。
「……持ってたのかよ。」
「幾分、飴玉か何かに見えたものでね。毒入りなどと警戒していなければ今頃は私の腹の中だっただろうな。」
「ケッ!そのまま喉に詰まらせときゃよかったのによ!」
悪態をつくバレットとは裏腹に、オセロットは興味深そうに片目を閉じて黄色いマテリアを凝視していた。
玩具を眺める幼子のようなその様相に、またもやバレットは毒気を抜かれた気分になってしまう。
「……さて、黄色いマテリアはコマンドマテリアとも言う。腕とか目とか……とにかく身体のどこかの働きを補佐して特別な技能が修得出来る優れもんだ。使い方は簡単。武器や防具のマテリア穴に装着するだけだ。」
「ふむ、こうかね?」
オセロットは言われた通りにピースメーカーにマテリアを填める。
「……身体に変化があるだろ?」
バレットが声をかけた。
しかしオセロットはそれをスルーして、顎に手を当ててじっとバレットの顔を凝視し始めた。
「……何だよ。俺にそんな趣味はねえぞ。」
「それは良かった、私もだよ。……なるほど、これがマテリアか。助かったよ、"バレット・ウォーレス"君。」
「……あん?俺はあんたにフルネームを名乗った覚えは……」
訝しげにオセロットを睨むも、しばしの後に合点のいったバレットは面白くなさそうに悪態をついた。
「ケッ……『みやぶる』かよ。使えねえ……。」
黄色マテリアのひとつ、『みやぶる』は目に作用する。相手を見ただけで相手の名前と詳細なHP、そして弱点がある場合はそれが分かるというものだ。
しかし殺し合う時には名前が分かってもそれほど役に立つとは思えない。残りHPだって様子を見ればだいたい想像はつくし、弱点が分かっても対応する属性技を持ったマテリアが無ければそれを突くことも出来ない。
マテリアを奪われたことは、バレットにとってこの世界での立ち回りが大幅に制限されたことを意味する。そういった不安の中で見えた一筋の光がこれだ。
期待の分それが肩透かしだったことの失望が大きいのは仕方の無いことだった。
「これが魔晄か……?目にエネルギーが湧いてくるようだ……。ククク……マテリア、面白いではないか。」
「はぁ……。そいつは良かったな。ソルジャーになれるんじゃねえか?」
"魔晄"と"目"というキーワードから勝手に連想し、皮肉混じりに呟くバレット。それに対し、リボルバーは不服そうな顔つきで返した。
「Soldier "兵士"……?この私をかの雑兵と同列に扱うとは……やはり君は可笑しな男だ、バレット。」
マテリアという新たな文化に触れたことへの興奮からか、上機嫌な様子は隠せない。
そしてこのような会話をしている最中、唐突に東の空から雷が落ちた。アリオーシュと戦っているウルボザが放った雷だ。
それをバレットが発見し──状況は今に至る。
■
さて、『みやぶる』で得られた情報も大して役に立たないであろう現状、こちらの武器はオセロットのピースメーカーのみ。
つまり戦闘における火力の大部分をオセロットに一任することとなる。
それではそもそもの話だが、何故アリオーシュが危険人物であれば排除しなくてはならないのか。
もちろん殺し合いに反抗する以上、説得すら通じそうにない化け物であればそれを排除することは必要だ。それに対しては神羅の人間を──必要であれば罪の無い人々までもを葬ってきたバレットに躊躇は無い。
だがこの局面で特段それを急いでいるのは、単に『危険人物を放っておくと仲間たちが心配だ』という気持ちが大きい。ティファがこの世界に呼ばれているのは既に分かっている事だし、他の仲間が呼ばれている可能性も否定できない。
だがその気持ちにすら疑問は沸く。彼らは自分が率先して護らなくてはならないほど弱いだろうか、と。
ティファの戦闘スタイルなら素手でも何ら問題は無いだろうし、他の仲間だって折り紙付きの実力者たちだ。むしろ片手が使えない状況では自分が護られるべき立場にあるのではないか。
だがそれでも自分はここまでの4時間ほどは全く傷を負っていない。
仮に仲間が他の戦闘で大なり小なり負傷していた場合は?そしてここでアリオーシュを逃がすことがそんな仲間たちへのトドメに繋がるとしたら?
…………やめよう。ここで見えない仲間について考えても堂々巡りだ。つまるところ、重要なのは闘う場合にも闘わない場合にもそれぞれに理があるということ。そしてそれ故にバレットは迷っているのである。
──だが、遅かれ早かれ自分が闘うしかないのではないか?こちらだけが無傷である今こそが最大のチャンスではないか?
迷っている中でふと、バレットの中にそんな思考が生まれた。
遅かれ早かれ自分が闘うしかない──確かにその通りだ。神羅のことが気に食わない人間なんてごまんといた。だが実際に革命を起こすに至ったのはアバランチのみだ。
人は率先して動くことなどほとんど無いことをバレットは知っている。逃げようと思えば逃げられる状況でアリオーシュと闘おうとする人物など、基本的には居ないと考えるべきだ。だとしたらここで逃がしたアリオーシュが仲間の元へ向かう可能性は高い。
この局面で自分が迷っているのはギミックアームの有無のせいに過ぎない。
しかし考え直せば、向こうは背中に穴。片やこちらは2人いて、片方の右腕が使えないというだけ。これをチャンスと捉えずしてどう捉えるか。
「……闘うぞ。」
静かに、されど明確な意志をもって、バレットは同行者に告げる。
「随分と待たせてくれたな。……まあいい。」
オセロットは待っていたと言わんばかりにピースメーカーを手のひらで転がし、構える。攻撃手段を自らが担うことも分かっている男に、バックアタックの初撃を担う躊躇も無かった。
すぐさま鳴り響く、銃声。
「この右腕が……そしてこの銃が……血を吸わせろと疼いておったところだ。」
銃弾は正確にアリオーシュの後頭部へと突き刺さり、アリオーシュはこちらに気付くことも出来ずにその場に倒れ込んだ。
それはあれだけ迷っていたのが馬鹿らしくなるくらい一瞬の出来事だった。
その精密な軌道はバレットさえも目を奪われてしまう。このじいさんは敵には回したくないものだ。
「……そんな正確に頭狙えんなら先に言え!」
「尋ねられなかったものでね。」
「チョーシ狂うぜ……ったく……」
バレットはやれやれと言いながらアリオーシュの死体を確認しに行く。死亡確認もだが、支給品の回収という目的もあった。
だが、オセロットの射撃能力だけでなく、アリオーシュもまた『化け物』だった。
正確に後頭部を拳銃で撃たれたはずなのに、まるで何事も無かったかのように立ち上がる。
「お、おい……なんだありゃあ……! 」
バレットは横目でオセロットを見る。さすがのオセロットもこれには驚いた顔をしていた。
ただし、次の瞬間にはいつもの読めない顔に戻っていたが。
「ククク……そう来なくては面白くない……!」
「どコ?私ヲ攻撃シたワルイコは……。」
銃撃された方向から、アリオーシュは2人の位置を特定しくるりと振り返る。
バレットはオセロットの前方の狙撃を阻害しない位置に立つ。
バレットの右腕の武器はまだ使えないが、左腕の防具であればまだ使える。オセロットの拳銃は防具になり得ないため、アリオーシュの持つ剣への対処手段があるのはバレットのみなのだ。
アリオーシュの接近に備え、バレットは構える。
「アナたたチね……うふフ……こっチに……オいデぇェェ!!」
だが、バレットの算段は早速崩れることとなる。
遠距離からアリオーシュが選んだ一手は接近ではなかったのだ。
アリオーシュがバタフライエッジを掲げると、天から数々の魔力弾──『精霊の血』が降り注いだ。
「ぐっ……!」
魔法攻撃が来るとは思っていなかったバレットは回避の必要に迫られても即座に動くことが出来ない。火と水の魔力弾が辺り一面を覆い尽くす。
「こどモ……食べサセてぇぇェ!!」
その威力に膝をついたバレットに、今度こそアリオーシュの斬撃が迫る。
アリオーシュが右手でバタフライエッジを振り上げた、次の瞬間、銃声が聴こえた。
1発の銃弾がアリオーシュの右手を撃ち抜いたのだ。
拳銃は防具になり得ない?
前言撤回だ。オセロットにかかれば拳銃は武器であり、防具でもある。
銃ひとつで戦場を支配するさまは、まさに『リボルバー』の名を冠するに相応しいものだった。
その衝撃でバタフライエッジをその場に落としてしまったアリオーシュはすぐさまそれを拾おうとして前屈みになる。
そこにさらに1発撃ち込まれた銃弾がバタフライエッジで跳ね返って正面からアリオーシュの眉間にヒットする。
跳弾をも自在に操る射撃の正確さと空間把握能力、それがリボルバー・オセロットの真髄である。銃弾の扱いにおいて彼の右に出るものはいない。リアルとファンタジーの交錯するこの世界であってもその実力は折り紙付きだ。
「オおオォぉ……!」
「……ほう、2発目も耐えるか。バケモノめ。」
だがこの一撃もクリーチャー化したアリオーシュを絶命させるには足りない。再びバタフライエッジを掴み、バレットに襲い掛かる。
対して、精霊の血での転倒から立ち直ったバレットは左腕に嵌められた神羅安式防具で受け止める。
ちょうどバレットにとっては仲間の武器が敵の防具で受け止められている構図であり、どことなく面白くない。
「クソッタレ神羅の発明品なんかで防げちまう。アンタ、この武器使いこなすにゃあまだ早いぜ。」
バレットはアリオーシュの華奢な胴体に思い切り蹴りを入れる。ティファほどの格闘術までは持っていないバレットだが、その体格差も相まってアリオーシュを吹き飛ばすには充分。既に撃ち抜かれている右手から再びバタフライエッジが零れ落ちる。
そしてバレットは左手にバタフライエッジを掴む。
ようやく攻撃手段を手にしたバレットは、剣の扱いには不慣れながらも仰向けに倒れたアリオーシュへと歩み寄る。
対するアリオーシュは仰向けの姿勢のまま、右手を掲げていた。
「ドこ……私のコドも……」
(これはッ……!)
つい先ほど見た構えをもう一度目にし、咄嗟にアリオーシュから距離を取るバレット。
その危惧の通りに再度唱えられたのはやはり『精霊の血』。
サラマンダーとウンディーネが魔力を供給している時は無尽蔵に放てる魔法だが、それらがいないこの場においては一度放つと魔力回復におよそ1分間のタイムラグが生じるのである。
辺り一面に魔力弾が降り注ぐ。
但し、他の契約者の使う魔法に比べて威力に特化したこの魔法には、それなりの欠点もある。
それは魔力弾が降り注ぐ場所は無差別であるということだ。制御が効かない魔法だというわけではないのだが、狂気に蝕まれているアリオーシュにそのような繊細な真似など出来るはずもなく、精霊の血はバレットからもオセロットからも全てズレて着弾した。
だが自分の真上から降ってきても回避出来るよう準備をしていたバレットの注意は上方へと向いてしまっていた。
当然のことだ。空から降り注ぐ魔力弾の雨を前にして、一体誰が丸腰の女性の方に注意を払おうか。
「前だッ!バレット!」
オセロットの叫びが響き渡るも遅かった。バレットの注意から外されたアリオーシュは、シンプルにして、最も恐ろしい手段でバレットに噛み付いた。
それは比喩でも何でもなく。
その文字通り──その歯をバレットの肩に突き立てたのである。
「痛ッ!この──」
クリーチャー化したことで急激に高まった食欲。そして元のアリオーシュから見られる狂気にも即している行動方針。簡潔に言うならば食べるのは『大人でも良い』ということ。現にウルボザの遺体も食べられており、その上でまだアリオーシュの食欲は止まる気配を見せない。
しかも不運なことに、未だに降り注ぐ精霊の血が巻き起こす砂埃によって視界が塞がれており、オセロットでさえ迫るアリオーシュを狙撃することは出来なかった。
「離れろッ!」
左肩に食らいついて離さないアリオーシュを強引に振り払う。
その際に肩の肉を食いちぎられ、形容し難い痛みがバレットを襲った。血肉を失うその痛みと共に、バレットの脳裏にひとつの記憶がフラッシュバックする。
──崖から落ちる友、ダインを助けようと手を伸ばしたその時、撃ち抜かれた右腕。崖の下へと消えていくダインの姿。
俺もダインも、あの時に何もかも失ってしまった。
だけど俺は、紆余曲折を経て何とか前を向くことが出来た。
対するアイツは世界を恨んで、ただの殺人鬼へと成り下がった。
俺にあって、アイツに無かったものは何だった?
決まってる。
燃え盛る村の焼け跡の中で。
燃え上がる神羅への憎悪の中で。
ずっと俺の傍にいてくれた存在がいたからだ。
ダインの娘であるマリン。
それが俺を俺でいさせてくれた唯一の存在だった。
信頼していた巨大権力から世界の醜さを知らしめられても、世界を憎まずにいられたのは、その世界の中にあの無垢な眼差しが包括されていたからだ。
幻想を振り払うように首を振る。すると武器を失ったアリオーシュがまた噛み付かんとバレットに迫る、目の前の現実が見えてきた。
「その目──」
左肩を負傷し、左腕が上手く動かない。それでもフライングエッジを振りかざし、微かな動作でアリオーシュの進路を阻む。
さらには後方からの的確な援護射撃によってアリオーシュの噛みつき攻撃は失敗に終わる。
「──アイツと同じ目だよ。」
ダインとはコレルプリズンで決着を付けた。あの時のダインはまだ話が通じる相手ではあったが──きっとあと数刻もすればあるいはアリオーシュのようになっていたのではないか。
型も何もあったものではない素人の剣さばきでありながら、その剣先は的確にアリオーシュの喉笛に命中した。
「■■■■──!!」
声帯を潰され、何かを叫びながらアリオーシュが地に伏す。
だが未だ終わっていない。
クリーチャーと化したアリオーシュは脳を破壊されるまでその活動を停止することはない。
そしてその瞬間、アリオーシュが2度目の『精霊の血』を使ってからちょうど1分が経過した。
すなわち、魔力のチャージは完了した。
地に伏せながらもゆっくりと手を掲げるアリオーシュ。彼女の身体はT-ウイルスと適合しており、G生物としての『進化』が既に始まっている。よって顕現する魔力弾の質もこれまでより遥かに上昇しているのである。
火と氷──対になる2つの属性を掛け合わせた『メドローア』という呪文がとある世界に存在する。
それはアリオーシュの操る火と水でも再現可能である。
プラスとマイナス、反対方向に働くチカラのベクトルが零となった瞬間、それは消滅を伴う『無』のチカラへと変わる。
そして『無』のチカラの極限である魔法の名をバレットは知っていた。ヒュージマテリア争奪戦で北コレルの同郷の民を護りきって、自分なりの罪滅ぼしを終えた時に手に入れた、『アルテマ』のマテリア。
彼にとってそれは過去の精算と新しい未来を象徴する魔法だった。
だがその魔法が今になって自分に牙を剥いている。
アリオーシュという名のダインの亡霊が。
アルテマという名のコレルの民の怨嗟が。
バレットという罪に汚れた男をいつまでも、いつまでも責め立てる。
「結局……過去の罪は消えることはねえってことかよ……。」
悔しさ混じりに吐き捨てる。
天から感じたのは、極大消滅呪文の魔力。
空気がピリピリと震えるほど強大な魔力を前にして、バレットはその場にへたり込んだ。
そんな時、声が聞こえた。
「君は、ここで終わるのかね?」
このような絶望的な状況であっても、まったく意に介さない者が1人、そこにはいた。
「仕方が無い。それならば──」
そこで、一瞬言葉が途切れる。
同時に、アリオーシュも魔法の発動が完了する。
「──『奇跡』を見せてやろう。」
オセロットの言葉にクエスチョンマークを浮かべるバレット。
が、その言葉の意味など考えている暇もない。
天より幾つもの魔力弾が降り注いだ──
「お、おい……!何だ、コイツは……?」
──その全てが、アリオーシュに向かって一直線に。
バレットにはその光景を呆然と眺めていることしか出来なかった。
G生物化して体内の魔力の受容量も増加したアリオーシュの放った精霊の血は、全てを1人の身体で受け止めるには強大すぎたようで、雨が止んだ後にアリオーシュの姿は残っていなかった。
「分からないかね?バレット君。」
この惨状を起こしたのは、彼の言葉の通りリボルバー・オセロット、この男なのだろう。
その評価は『まったく信用できない奴』から『得体の知れない奴』へと変わった。
「これが"奇跡"だよ。」
■
世界が無に包まれていく。
意識の中でも、それに合わせて虚無が広がっていく。
本当は分かっていた。
"あの子"はもう居ないって。
本当は私の傍にいてくれる、あの子の"代わり"を求めていたに過ぎないのだって。
でもそれを認めてしまったら──私の生きた意味なんて、この世界から消えてしまうでしょう?
この世界に自分の名を刻みたかった。
どこまでも悪へと醜く堕ちていく自分の名を、この憎い世界に永遠に刻んで壊してしまいたかった。
「──ん…………。」
その時、ずっと聞こえなかった声が聞こえた気がした。
「あ、さん………。」
「どこ……どこなの……?」
どこまでも無限に広がる『無』。
何も見えないその先に、我武者羅に手を伸ばす。
「──おかあさん……」
掴んだのは、とても温かい光。
「■■■■──!!」
最後に私は、声にもならない声で。"あの子"の名前を呼んでいた。
【アリオーシュ@ドラッグオンドラグーン 死亡確認】
【残り57名】
最終更新:2019年10月31日 02:18