「おい、じいさん。」

「何だね?」

「支給された物を俺に全部見せな。」

「ふむ、いいだろう。」

わけがわからなかった。
アリオーシュが魔法を唱えたと思ったらその魔法はこちらを襲ってくることは無く、アリオーシュ自身に降り注いで消滅させたのだ。

「これで満足かね?」

オセロットはバックパックをひっくり返してバレットに開示する。
だがそこに新しいものなど見当たらない。
ヴィンセントが使っていたピースメーカー、そしてそれに嵌められた『みやぶる』のマテリア。そしてピースメーカーに装填できるハンドガンの弾(×12)のみだ。

「何か隠してるんじゃねえだろうな?」

「これで全部だよ。神に誓ってね。」

くつくつと笑いながら答えるオセロット。癪な話だが、コイツがそう言うのであれば本当にこれで全部なのだろうという気がする。

ではこれらの支給品でどうやって"奇跡"を起こした?
銃で弾道をねじ曲げられるような次元の魔法ではなかったし、みやぶるのマテリアなんて考えるまでもなく何も出来まい。

自分のフルネームやアリオーシュの名前(こちらは口からでまかせかもしれないが)が分かった以上マテリアの正体はみやぶるで確定であろう。また、ハンドガンの弾に特別な仕掛けが施されているようにはとても見えない。

(やっぱりコイツ、何か支給品を隠しているのか?)

やはりこちらの説の方が有力な気がする。
だがオセロットは『これで全部だ』と言った。

(いや、待てよ……。)

勝ち誇ったような顔でバレットはニヤリと笑う。

「分かったぜ、じいさん。『持っている物』を全部出しな。」

先ほど自分はオセロットに何と要請したか。
そう、『支給された物』を全部出せ、だ。
言語解釈の許す限りでは、『オセロットが支給された物』とも解釈できる範囲だ。

つまりあの闘いの最中にアリオーシュに殺されていた女性の支給品を拾いにでも行っていたとしたら、自分の要請に『これで全部だ』と答えることと、支給品を隠していることを両立できるのだ。
あるいは、自分と出会う前に誰か他の参加者から奪っていたのでもいい。
だが考えてみると、アリオーシュが精霊の血を放っていた時など、オセロットが全く銃を撃っていなかった期間もあった。その間に死んだ女性の支給品を取りに行っていたとしたら辻褄も合うのである。

「アンタに支給されたわけじゃない。このゲームが始まって以降手にした"何か"を使ってアンタは弾道を捻じ曲げた。これが答えだ。」


「ふっ……なるほど……。」

オセロットはバレット以上のしたり顔でニヤリと笑った。

「ハズレだ。」

「あ?」

「私が持っているのは先ほど開示したこれらだけだよ。これもまた神に誓おう。」

「……。」

渾身の解答をバッサリと切り捨てられたバレットは沈黙するしかなかった。

ちなみに、ウルボザの武器以外の支給品はあの場には残っておらず、現在は澤村遥が持っている。

「じゃあ次の答えだ。『持っていた物』も全部教えな。アンタは何かしらの消費アイテムを用いて──」

「それもハズレだ。」

再び、バレットの解答は棄却される。それも、言い終わる前に。

「だーっ!!」

やっぱり考えるのは苦手だ。
相手が答えを持っていながら、自分が解答するのを一方的に楽しまれているのも癪である。
そんなモヤモヤを解消するかのようにバレットは叫ぶ。

こういったちまちました事は自分でなくとも頭のイイ奴らがやればいいことなのだ。
胸を張って言うことでもないが、自分はいつも誰かの示した道に合わせて闘ってきただけだ。

時には皆のリーダーのクラウドが。
時には知識を持っているブーゲンハーゲンが。
時には神羅の情報を掴んでいたケット・シーが。
自分たちの闘う目的を明確に示してくれたからこそ、自分は何も考えずに闘いに没頭することが出来たのだ。

(ん……ケット・シー?)

などと考えている内に、ひとつの仮説が思い浮かんだ。

(ケット・シー……つまりはリーブ……マテリア……。)

「ああっ!!」

その時、何もかもが頭の中で繋がった。
同時にバレットはオセロットを睨む。

「ほう、気付いたようだな。」

バレットの表情を見て、"奇跡"の正体に気付かれたことを察するオセロット。

「ああ、分かったぜ。何もかもな……。」

「して、答えは?」

なぞなぞにしても、ウミガメのスープ問題にしても言えることだが、クイズとは相手が答えられずに迷っている時もさることながら、相手が答えにたどり着いた時もまた愉悦に浸れるものである。
"奇跡"の出題者、オセロットも、バレットに解かれることは一興であった。


「──『あやつる』だ。」

「何だね、それは。マテリアの知識に乏しい私に説明してくれたまえ。」

「とぼけんな!」

バレットはバタフライエッジの切っ先をオセロットに向ける。

「それしか説明がつかねえんだ。アリオーシュが自分を攻撃した理由、そしてアリオーシュが魔法を唱えるという、最大の隙を見せた時に限ってアンタが銃弾を撃たなかった理由としてはな。」

合計3回放たれたアリオーシュの『精霊の血』は、回数を重ねる度にその命中精度が落ちていった。それもオセロットが試行回数を重ねる度にコントロールの精度を上げていたのだと解釈すれば自然なことだ。

未だにニヤニヤと笑っているオセロットに対し、バレットは怒りの表情を見せる。

「しかしその仮説ならば私は君の命を救ったことになる。何故そんなに私を睨むのかね?」

道化地味たオセロットの物言いはまたバレットを刺激する。

「アンタの黄色マテリアは『みやぶる』なんかじゃなかったってコトだ。だとしたら疑問が残る。何故、アンタは俺のフルネームが分かったのか?」

その答えは、考えるのが苦手なバレットにも容易に想像がついた。
何故なら彼は、同じようなコトを既に体験しているのだから。

「答えはひとつだ。アンタは俺たちの情報を最初から持ってる……つまり、主催者からの『スパイ』だな?」


「ク……ククク……クックック………」

「おい、何とか言ってみろよ!」


「──正解だよ。」


その言葉と同時に、バレットはバタフライエッジを振りかぶる。


「……。」


だがバレットは、急に思い直したかのようにそれ以上動けなかった。

「何故斬らない?」


「……分からねえからさ。」

バレットは知っている。
スパイにも何かしらの立場というものがあることを。
ケット・シーことリーブは神羅からのスパイでありながら、神羅の活動と自らの正義感の衝突の中で苦しんでいた。

オセロットがそういうタイプの人間だとは到底思えないが、主催側の人間でありながら自分に協力している、つまりゲームに単純に乗っているのではないのは紛れもない事実だ。そしてそこには何らかの理由があるはず。ここでオセロットを殺すとおそらく永遠に謎のままだ。

また、かのケット・シーも自分がスパイだと明かす時にはそれを明かしても問題無いと言えるだけの『切り札』を持っていた。
ケット・シーは、エアリスの母やマリンを人質として握っていたのだ。

そしてオセロットにも同じことが言える。オセロットも付けているとはいえ、自分たちに課せられた首輪は、言わば究極の人質だ。それをオセロットの意思一つでそれを即座に爆破できるとしたら。
また、自分が下手にオセロットに逆らうことで同じく首輪を付けているティファや他の仲間が危険に晒されるとしたら。

そう考えると、バレットは逆らえなかった。
構えていたバタフライエッジを下ろす。

「君は何か勘違いしているようだが、私は主催者からの手先"ジョーカー"とは違う。支給品の優遇など受けてはいないし、もちろん首輪をどうこうする権利も持ち合わせてはいない。」

「……だとしたら、何で俺を助けた?あからさまに『あやつる』を使うことは俺にスパイだと教えているようなもんだろーが。」

「銃弾(バレット)無き拳銃(リボルバー)などただの鑑賞物に過ぎないだろう?」

「納得出来るか!白髪のじいさんなんざ鑑賞物にすらなりゃしねえぜ!」

どことなく小粋な返しにふっと笑みを零すオセロット。
しかし次の瞬間、その笑みは消え、真剣そうな表情に変わる。

「それでは──そうだな……私が犯した失敗の"償い"とでも思ってくれればいい。」

「失敗……?償い……?」

ふざけていたような先ほどとの温度差もあって言葉の咀嚼が追い付かない。
バレットは首を傾げる。

「まず君は、自分の意志でアリオーシュに挑んだと思っているだろう。」

「……当たり前だろ?あの時に闘うのを選んだのは俺だぜ。」

「ああ、もう少し長い時間が使えていれば君にも違和感が残っていただろうが、この世界では制限が厳しくてね……マテリアのチカラをもってしても1秒にも満たない──ほんの一瞬しか操れないのだよ。」

「……もしかして──」

「そう、私はその一瞬で、闘うか様子見かをおよそ50/50(フィフティーフィフティー)で悩んでいた君に刷り込んだのだ。『今闘うのが得だ』と考えるようにね。」

確かに違和感は無いわけではなかった。
自分は突っ走りがちな人間ではあるが、少なくとも無謀ではない。
武器もマテリアもなく、攻撃手段を目的も分からないじいさんに任せるほど無策で敵に突っ込む決断をするのが、自分にしては早すぎたような気はずっとしていたのだ。

だが『あやつる』はかなり繊細な技術を必要とするコマンド技だ。制限とやらで一瞬の時間しか無かったはずなのに、思考への介入、さらにアリオーシュの魔法の弾道コントロールを3回目の『あやつる』で完璧にこなすとは。このじいさんの実力がマテリアによるものだけでないのはバレットには──いや、マテリアへの理解が深いバレットだからこそ分かった。


「だがそれは失敗だったようだ。本当は最初の後頭部への射撃で決めるつもりだったのだが……アリオーシュ側の感染(イレギュラー)を考慮出来なかった。一時的に君の目的に協力する、この契約を遂行できないのは私の美学に反するのでね。」

「……イレギュラー?どういう意味だよ。というか……今更だがこっちは偽装タンカーの方向じゃないだろ?」

今まではオセロットが考え事に夢中のバレットを先導する形で歩いていたため頭から抜けていたが、自分たちが向かっている方向は偽装タンカーではない。
地図を見るに、おそらくは『ラクーン市警』の方角だ。

「悪いがギミックアームの装着は後回しにしてもらうよ。君もゾンビにはなりたくないだろう?」

主催側の人物であるオセロットは異世界について理解している。
例えば、バレットのフルネームを呼んで黄色マテリアが『みやぶる』であるとの偽装が出来たのも、元々バレットの世界についての知識があったからに他ならない。

つまり、アリオーシュの異様な耐久力と行動原理についても、それがT-ウイルスの感染によるものだとオセロットは理解している。そして、背中に穴が空いていながらも動いている様を見た段階で『理解出来た』はずだったのだ。
しかしそれを見落としていたのは、オセロットの落ち度であると本人は考えている。

「おい、一体どういう……」

バレットが問い詰めようとするも、オセロットはそれを片手で制止する。

「ふむ、あと30秒といったところか……」

「おい、だからちゃんと説明を……」

「なあに、君にとっても興味深い話だろう。これまでの死者の名前、これから侵入不可能になる禁止エリア、そしてこの世界に呼ばれている者たちの載った名簿……それらの情報を開示する──」


そう、オセロットは理解している。
まだ参加者には開示されていない、『名簿』の存在──つまりはこの殺し合いの裏側についても。



「──放送の時間だ。」


【E-3/草原 /一日目 早朝】

【バレット@FF7】
[状態]: 左肩にダメージ(中) T-ウイルス感染(?)
[装備]:バタフライエッジ@FF7 神羅安式防具@FF7
[道具]: デスフィンガー@クロノ・トリガー 基本支給品 ランダム支給品(0~1)
[思考・状況]
基本行動方針: ティファを始めとした仲間の捜索と、状況の打破。
1.リボルバー・オセロットを警戒
2.よく分からないがラクーン市警に向かうらしい
3.タンカーへ向かい、工具を用いて手持ちの武器を装備できるか試みる

※ED後からの参戦です。


【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×2) ハンドガンの弾×12@バイオハザード2
[道具]:マテリア(あやつる)@FF7 基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.バレットのT-ウイルスを除去するため、ラクーン市警でハーブを入手する。


※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。

※主催者と何らかの繋がりがあり、他の世界の情報を持っています。





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最終更新:2021年09月03日 22:34