「──ペルソナァ!!」
「無駄だ」

号令と共に繰り出されるスサノオのソニックパンチを虹の刃が受け流す。続くガルダインによる旋風もクラウドは容易く躱し地を滑るように陽介の元へ肉薄する。
鋭い悪寒に導かれるまま後方へ飛び退けば先程まで陽介の顔があった場所を刃が切り裂いた。あまりの威力に空間が陽炎の如く歪んでいるのが目に見える。

(冗談だろ!? あんなもん食らったらひとたまりもねぇ……!)

クラウドは何も技を使っていない。
だというのにまるで異次元な強さだ。
先程から陽介はスキルを使っているのにも関わらずクラウドはただの斬撃でそれらを迎え撃ち、冷徹なまでに対処している。このままではジリ貧だ。

(けど────)

刃を返し追撃を行うクラウドの動きは決して見切れないものではない。オーブと融合する前と比べて洗練さが見られないのだ。
今のクラウドは以前戦った際の歴戦の兵士ではなくオーブの魔力に取り込まれた魔物なのだ。まだ己の力を扱い切れていない。
ならばクラウドがそれに慣れるよりも先に決着を付ければ勝機はある。髪を掠る虹の刃に冷や汗を垂らしながら陽介は龍神丸を横薙ぎに払った。

「頼むぜ、スサノオッ!」
「くッ……」

パリンとカードの砕ける音と共にスサノオの両手から圧縮された空気の螺旋が放たれる。
マハガルーラ──ガルダインより威力は劣るものの範囲の大きなそれは回避などという甘い選択を許さない。
クラウドの体が僅かに風に押される。が、それまで。やはり彼を追い込むには威力が圧倒的に不足している。数秒の足止め程度が限界だ。

「捉えたぜ──ソニックパンチ!!」

けれどその数秒は次の一手を繰り出すには十分な時間だ。
風に紛れたスサノオがクラウドの眼前に躍り出た瞬間、疾風を纏った拳が胸板に突き刺さる。苦悶の顔を見せて数歩後ずさるクラウドの顎へアッパーカットをお見舞いし数センチ分身体を浮かせる。
自由を失ったクラウドに追撃を止める手立てはない。チャクラムによる強烈な斬撃をその身に受けたクラウドはそのまま後方へと吹き飛ばされる。


「はぁ、はぁ……っ、ちったぁ効いたか馬鹿野郎!!」

消耗を物語る息遣いを乗せた叫びがただの願望で終わる事など陽介自身も理解している。現にクラウドは空中で体勢を立て直し、着地と同時に落ち着いた足取りで歩みを進めていた。

「これだけやっても、まだ全然余裕ってか……」
「無駄だと言ったはずだ」
「まだ──わかんねぇだろッ!」

気合いと共にカードを割る陽介だが、その瞳に映る現実はあまりにも無情。命懸けでクラウドに付けた傷は既に塞がり始めまるでダメージが見られない。
吹き荒ぶ暴風を前にクラウドは同じ轍を踏まんとばかりに無視し、風圧をも押し返す勢いでスサノオへと接近する。
真正面からの接近戦となればスサノオに勝ち目はない。素早く身を引くスサノオだが僅かに離れた距離は気休めにもならない。
二撃、三撃と前進を兼ねた斬撃をなんとかやり過ごすも続く斬り下ろしを遂にチャクラムで受け止める形になる。余りの威力にスサノオの足がずんと沈み、チャクラムにピシリと亀裂の線が走った。

「ぐ……お、っもいな……!」

ペルソナが受けた感覚は陽介にも共有される。両腕にかかる重圧が暴力的なまでに強化された彼の腕力を物語っていた。
このままではいずれ押し負ける──しかし逆に言えば今のクラウドは行動を封じられていることになる。弾かれるように飛び出した陽介はクラウドの左側へ潜り込んだ。

「──っ!?」
「俺もいるって忘れんな、よッ!」

競り合いの最中に振るわれる龍神丸の剣戟。止むを得ずチャクラムの刃に沿って滑らせるようにそのまま龍神丸の側面を打ち払う。幸い業物であるため刀身は無事だったが、手に走る痺れに耐えきれず陽介の手から遠くへと離れた。

「っ……普通見切るかよ、これ!?」
「生憎俺は普通じゃない」

確かにそうだったな──なんて悠長な相槌はクラウドの重い蹴りが許さない。咄嗟に両腕で防御したもののそんなの関係ないとばかりに陽介の体が吹き飛ばされた。
言いようのない浮遊感と口の中に交じる鉄の味が一時現実を忘れさせる。地面が身体を打つ衝撃に無理やり意識を引き戻され、痛む身体に鞭打ちなんとか起き上がった。


「くっ、そ……やっぱ、つえぇな……」

クラウドが強いということは戦う前から知っていた。しかしここまで実力の壁が聳えているとは──絶望感さえ覚えかねない状況でも陽介の瞳は輝きを失わない。

足りない、足りないのだ。
ホメロスの加護を受け、戦う覚悟を決めスサノオを覚醒させた陽介を絶望させるには至らない。防戦一方ではあるもののこうして生きていられるのが何よりの証だ。
人間である頃のクラウドが相手ならばきっとこうはいかなかっただろう。

「いくぜ、スサノオぉ!!」

可能性がある限り諦めない。
嵐を象徴する逆巻くスサノオの髪が風圧に逆らえず荒ぶ。再び足止めに成功したのを見ればそれを好機と空を駆け上空からクラウドの脳天へ向けて拳を振り下ろした。



「諦めろ」



可能性というのは残酷で、あっさりとひっくり返ってしまう。
特にそれが闘いにおける勝ち負けならば尚更に。些細な行動一つが決め手となる場合もあるのだ。
それを今、陽介は残酷にも突き付けられる形となる。

「────え?」

スサノオの胸に刻まれた「凶」の文字。虹色の輝きを帯びてはっきりと浮かび上がるそれはやがてスサノオの身体を粒子に変え、遅れてやってくる痛覚が主の陽介に襲いかかる。
耐え難い激痛に声を上げることすら叶わず膝から崩れ落ちた。



いつ斬られたんだ──それにすら気付くことが出来なかった事実に混乱と恐怖が入り交じる。
これがクラウドの技なのだ。今までの通常攻撃とは速度も威力もまるで比にならない。防御も回避も迎撃も、その悉くの可能性を捻り潰す無慈悲なる裁き。

「が、……っ、は……!」

無防備だったスサノオが受けたダメージは大きく、それをそのままフィードバックさせたとなれば立ち上がれる状態ではない。
もがくように地を這いながら辛うじて動く首を動かし視線を地面から地上へと向ければ、そこには処刑人のように悠々と迫る魔軍兵士の姿があった。

「アンタじゃ俺を止められなかったな」

その言葉は聞く者が聞けば勝利宣言と捉えるだろう。
当然だ、この状況下に於いてはそれ以外考えられない。クラウドは敗者に向けて最後の言葉と共に刃を振り下ろす──どこかで見物しているウルノーガもそのシナリオを描いただろう。
けれどただ一人、吃驚に眉を顰める陽介は違った。

「なんだよ、それ……」

陽介の声が震える。
逃れられぬ死の恐怖から? 無力を突きつけられた憤りから?

──否、そのどちらでもない。


「まるで──止めて欲しかったみたいな口振りじゃねぇか」


ぴたり、と。
進むしかなかったクラウドの足が止まる。



「クラウド、お前はやっぱ……心まで魔物になっちまった訳じゃねぇんだな」

震えの理由は"喜び"だ。
どんな姿になってもクラウドの奥底には紛い物ではない、人間の記憶と心が眠っている。それが知れただけで陽介は希望を見いだせた。

「今のお前の目には何が映ってんだ? 俺か? ウルノーガか? ──ちげぇだろ!?」

喉奥から声を振り絞る。
痛くて仕方がない身体を立ち上がらせる。
無防備に陽介の言葉を浴びるしかないクラウドは虚ろな目を僅かに見開いた。

「お前はいつだってエアリスって人を見てた! 心まで完全にウルノーガに染められちまったらそれも見失っちまうんだぞ!? いつか願い事も忘れて、ただ人を殺すだけの怪物になっちまう!! ──そんなの望んじゃいねぇだろ!!」
「────っ、」

陽介の言葉が耳に入る度ノイズのようなものが走り頭痛に苛まれる。暗黒に染まり始めた視界に潜在意識が生み出した記憶の静止画が一枚、また一枚と捲られていく。

「クラウド、アンタは一人じゃなかった……仲間がいたんだ! エアリスだけじゃない、いっぱい……居たんだよ! これ以上見て見ぬふりするんじゃねぇ!!」
「うるさい、黙れ……!」
「黙らねぇ!! アンタが目を覚ますまでな!!」

止まぬ頭痛にクラウドは頭を抱える。明らかに今までの様子と比べて異常だ。仮にも戦闘中であるのにこれだけ大きな隙を晒すなど魔軍兵士としてありえない。
ならば今のクラウドは、人間としてのクラウドなのだろう。



「俺の記憶を見たんなら、花村陽介がどんだけ諦めの悪い人間か分かってんだろ。この戦いは……負けられねぇんだ。自分の為にも、そしてクラウド──あんたの為にも!」
「……なら、今度こそ立ち上がれなくしてやる」
「へっ、上等だぜ……かかってこい!!」

大喝を轟かせる陽介、雑音の源へ飛翔するクラウド。
戦況は決して仕切り直しではない。オーブの力に順応し始めたクラウドと痛手を負った陽介ではまず勝負になるか否かという段階から考えなければならない。
だというのに陽介が怯まないのは唯ひとつのシンプルな理由──男の意地だ。


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!!」


──吼える。
例え一歩とて引くことは許されない。
ここで逃げては駄目だ。そんな命を省みないどうしようもないプライドが力を湧かせる。

「来いッ! スサノオぉッ!!」

スサノオを眼前に立たせ迎撃の準備を整える。この一撃を防ぎさえすれば必ずクラウドは隙を見せるはずだ。勝ちを狙うのならばその一点を突くしかない。
可能性など塵に等しい。虹色の刃に付き纏う空間の揺れがそれを正面から受け止めるのがどれだけ無謀なのか物語っていた。

けれど。
それでも。






「────ペルソナッ!!」






奇跡は、起こる。





人は誰しも心の底にもう一人の自分を飼っている。
ペルソナとはそれを実体化させたものである。
己の中の自分を受け入れられる人物にのみ発現を許される、いわば精神力の塊。それを駆使し超常じみた力を扱う者がペルソナ使いと呼ばれる。

その力に理屈はない。
理屈がないからこそ無限の可能性を持ち得る。持ち主の覚悟や気持ち次第でどこまでも進化できるのだ。

「今のって、……まさか……!」

だとしたら、これもまた理屈のない力が働いた結果なのだろう。
今この瞬間、この場へ、"彼"が導かれたのは──!


「──よく頑張ったな、陽介」


見慣れた学ランに身を包み人を安心させる笑顔を浮かべる青年。
どこまでも太陽が似合う彼の姿を見た瞬間、陽介はへらりと口元を緩ませた。

「悠ッ!!」

青年、鳴上悠は力強く頷き今しがたネコショウグンのジオンガを食らい地に落ちたクラウドの姿を見据える。
窮地を救ってくれた親友との再会に喜ぶ時間は少ない。ゆらりと立ち上がるクラウドは新たに襲来するペルソナ使いへと的を絞った。



「お前が……鳴上悠、か」
「? 何故俺の名前を……いや、どうやらそれどころじゃないな」

クラウドの前に立ちはだかる存在の顔は初対面だというのに酷く馴染みがあった。
陽介の記憶を通して眺めていた彼の背中はとても大きくて、遠くて──陽介にとって追うべき存在だったから。その立場をクラウドに言い換えればかつてのセフィロスに当たるだろう。
もっとも今のクラウドはその背中を見失ってしまったが故に鳴上悠はただの敵でしかないが。

「悠! 詳しい話は省くけど、あいつはウルノーガに怪物にされちまったんだ! 元は人間だ!」
「!? 本当なのか!?」
「ああ! だから出来れば殺さず、元に戻してやりてぇ……!」

駆け寄る陽介の言葉に悠は驚きを示す。この敵はウルノーガ──つまり主催の息がかかった存在となる。あまりに突拍子のない話に目を剥くが陽介の話を疑う理由などない。
この怪物の強さは今の手応えの無さで嫌でも理解した。ただでさえイザナギとネコショウグンだけでは心許ないのに殺さないように加減しろなど、無茶な事を言ってくれる。

「──わかった!」

けれど不可能だとは思わない。
ペルソナ使いとは仲間がいてこそ真価を発揮するのだ。陽介と悠の実力を合わせてもクラウドには及ばないかもしれないが、連携や戦略次第でそれは何倍にも引き上がる。

「何人来ようと一緒だ。俺は止まらない」
「いいや、止めてやる。ひとりきりのお前じゃ俺達には勝てねぇさ!」

隣に仲間がいる事で陽介のその叫びは虚勢ではなくなる。一拍置いて彼等の目の前にアルカナカードが顕現した。

「「ペルソナッ!」」

ネコショウグンとスサノオが青い軌跡を描きクラウドへ翔ける。手数が増えた事に対してもクラウドは努めて冷静に、否──そもそも何の感情も抱けずに虹を袈裟に構えた。





「────クラウドッ!!」



初めてクラウドの瞳が揺れる。
虚無を抱えた顔は動揺に。鋭利な牙を覗かせる口はぽかんと呆けたように開いて。
彼の視線は陽介と悠の背後にある少女に囚われた。

「なっ、ティファ……!? ピカチュウと八十神高校に行ってろと──」
「ごめんなさい、悠を一人で行かせちゃいけないって予感がして。……それより貴方、クラウドなんでしょ? その姿どうしたの!?」

陽介と悠の間に割って入る少女はそのまま包帯が巻かれた右脚を引き摺りながら駆け足気味にクラウドの方へ向かう。
悠も陽介も動揺からそれを止める事が出来ない。正確に言えば止めるべきか否か判断が出来なかった。
クラウド──それは悠にとって酷く耳馴染みのある名前だ。数時間前にティファからは元の世界の仲間であると伝えられていた。
自分が陽介と再会したばかりというのもあり彼等の出会いを邪魔してはならないと、そんな甘い思考が身体を硬直させたのだ。

(あの人が、ティファ……!)

一方の陽介は悠とはまた別の情報に驚愕を余儀なくされている。
クラウドの記憶が見せた仲間達の中に彼女の姿があった。恐らくはクラウドにとってはかつての仲間たちの中でも最も馴染み深い存在のはずだ。
事実ティファも一目見ただけであの魔物がクラウドだと気が付いていた。彼女の中にあるクラウドとはまるで容姿が異なるはずなのに、だ。それは彼女達の絆が紛い物ではないと断じるに値する証拠。

彼女ならクラウドを止められるかもしれない。
直感的な希望はされど最善手。陽介は逡巡する悠の肩を軽く掴み、静かに彼女の背中を見送った。



「っ、ティ……ファ……?」
「クラウド。貴方に何があったのか分からない……けど、折角出会えたんだからそんな顔しないで。クラウドらしくないよ」
「……俺、らしく……?」

アスファルトに血の雫を滴らせ遂にクラウドへ手が届く距離まで近付いたティファはそ、っと彼の頬に触れ穏やかな声色を喉から滲ませる。
クラウドは動かない。この場の誰もが知る由もないが丁度ジェノバに精神を乗っ取られた時のような廃人じみた状態だ。
少なくともそこに敵意はない──やはり、と陽介は声を荒らげた。

「ティファさん! クラウドはウルノーガに魔物にさせられちまってるんだ! 頼む、そいつを救ってやってくれ!!」
「……! ええ、任せて」

陽介へ向けた視線を再びクラウドへ戻す。濡れたガラス玉のように曇るクラウドの瞳を見詰めながらティファは小さく唇を開いた。

「ねぇ、クラウド。覚えてる? 私がピンチの時に助けてくれるヒーローになるって、約束したよね。……大人になった後も覚えててくれて、本当に助けてくれて……嬉しかった」

少なくとも今この瞬間、二人を邪魔するものは何一つなかった。
ティファの脳裏に蘇る記憶は果たしてクラウドとも共有出来ているのだろうか──それは一瞬覗かせたクラウドの悲痛な表情が答える。
彼の人間らしい顔は久しく見た。今にも泣き出しそうな位に歪んだ彼の表情はしかしすぐに冷然としたものへ変貌する。
まるでそうすることしか出来ないように。



「どうでもいいよ、もう」

心なしか口調に幼さを残しながら。

「自分を見失わないで、クラウド」
「俺らしさなんて誰が決めたんだ」

クラウドは鬱陶しいノイズを振り払う。

「今のクラウドはヒーローじゃないよ」
「俺の誇りも、夢も────俺のものだ」

そうして魔軍兵士は。
音もなく虹を振り上げて。

「──やべぇ! 逃げろティファさん!!」

過去(オサナナジミ)に刃を振るった。




人影が崩れる。
無防備な身体に突き刺さる明確な攻撃に気が付いたのは痛みよりも後だった。

「え──?」

予期せぬ出来事に息を漏らす。
そうしてゆっくりと見上げた先には──痛い程決意に満ちた"ティファの"顔があった。

「分かってるよ、クラウド」

聖母じみた穏やかな声色。迷い無く紡がれるそれはクラウドの頭を急速に冷やしてゆく。
人を安心させる声とは裏腹に見慣れたファイティングポーズを魅せるティファ。凡そ自分に向けられる事のなかった姿に不思議と懐かしさを覚えた。

「クラウドは強いから、これだって道を決めたら止まれないんだよね。例えその道が間違ってたとしても、自分一人じゃ止められないんだよ。良くも悪くもそういうところ頑固なんだから」

それは紛れもない仲間の言葉。
数多の苦楽を共にし、一番傍で彼を見てきた者にしか語ることの許されないクラウド・ストライフという人間への所感。
クラウド自身を含めこの場の誰よりもクラウドを知っているのは彼女だから。



「私ね、今でも後悔してるんだ。クラウドが偽物の記憶に囚われていた時、それを指摘してあげられなかったのを。クラウドが遠くに行ってしまうのが怖くて……事実を確かめる事から逃げてたんだ」

懺悔をするには遅すぎた。
だから過去を悔やむなんてことしない。今この瞬間描かれてゆく現実を生きると共に誓ったのだから。

「けどもう逃げない。クラウドにはずっと守られっぱなしだったもんね」

後ろを向くのはやめた。
けれどひとつ思い返すのはやはりあの時の約束。
少年少女が描いた年相応の夢。万人が下らないと笑い飛ばすような憧れを叶えてくれた大切な記憶。
かけがえのないものは時に絶大な力となる。


「だから今度は、私がクラウドを助けるヒーローになるよ」


控え目な彼女が珍しく見せた勝気な笑顔。
混じり気のない覚悟を晒されたクラウドは無機質に、けれど確かに声を返す。

「やってみろ」

いつの間にか、クラウドが自分を見ている気がした。
己を納得させるような口振りが消えて初めて会話らしい応答を聞けたからだろうか。いずれにせよティファは首を縦に振った。

「ティファ! 大丈夫か!?」
「ええ。それよりも……ごめんなさい、クラウドを説得する事が出来なかった」
「いや、いいさ。──今度こそ止めてやろうぜ。俺達は独りじゃないんだから」

大きく広げた翼をはためかせ大きく距離を取るクラウドと相対的に二人のペルソナ使いがティファの元へ駆け寄る。
彼女を中心に横に並ぶ陽介と悠。住まう世界は違えど志は同じ。ただ目の前の存在を救いたいというシンプルな願望は強く共鳴する──!

「俺の願いとアンタたちの願い。どっちが上にいくか、確かめてやる」

戦いは今度こそ仕切り直される。
辛い現実を乗り越え確かな絆を携える三人の戦士と幻想に囚われた一匹の魔物。
それはまるで彼らが幼い頃によく読んだ陳腐な絵本のようで。願わくばそれがありふれたハッピーエンドで終わらんことを。



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最終更新:2021年03月25日 09:47