ゾーラ族の少女は、水面から音を察知した。
遠くながら、その音は確かに聞こえることが出来た。
不規則ながら、キン、キンと金属をぶつけあう音だ。
しかもかなりのハイテンポで。
あのような音を出せるのは、相当な剣の達人。

そう、例えば自分が探しているリンクのような。


それまで体力の回復も兼ねて、水面スレスレを緩やかに泳いでいたミファーは、急にスピードを上げ、音の方向に向かう。

(ここから先は、泳ぐことは難しそうね……。)
【D-2】の市街地の、波止場のような場所から陸に上がり、その先を目指そうとする。


音のした方向は、2つに分かれている。
市街地側と、山岳地帯。
ミファーはとりあえず、市街地方面を目指そうとした。
音がした方向(ザックスとマルティナが戦っている方向)に行こうとすると、一人だけで銀髪の少女が歩いていたのが見えた。


すぐに殺そうか?と思うも、放送直後に襲った短髪の少女のように、意外な力を持っているかもしれない。
まだ気づいていないようなので、後ろからひっそりと付けることにする。

向かう方角は、市街地方面から離れていく。
どちらかというと、山岳地帯から聞こえてきた音の方向に近づくぐらいだ。




剣を打ち合う2人は、全員が口数の多い方ではない。
加えて内一人は、ドラゴンと交わした「契約」の代償で言葉を話す力を失っている。
だが、金属の音しか聞こえてこないのは、それだけではない。
言葉を発さないのではなく、発せないのだ。
1文字発する余裕させない。


そこへ脚を傷つけられ、後退していた戦士が、すぐに戦線へ復帰する。
彼女もまた、口数が多い方ではない。
ただ、金属と金属をぶつけ合う音の種類が、増えただけだ。



この場所は、闘気の炎が充満しており、集中力か闘気、どちらかが途切れた瞬間、3人分の炎が纏めて襲い掛かる。
言ってしまえば、緊張の糸を切ってしまった瞬間、命の糸も切ってしまう。
それが分かっていたから、何か一つでも集中の妨げになるようなことが出来ない。
持ちうるエネルギーを全て戦いに注ぐ。
それでいてなお、相手は勝てるかどうかだ。


ここにいるのは、3匹の獣。
しかも、滅多なことで嘶くことは無い、戦いに特化した猛獣だ。
青い風を纏った金の虎、リンク
黒の激流と化した白の雌豹、2B
そして、黒炎となり果てた、黒獅子、カイム

3匹は、互いの喉笛か心臓に、牙を突き立てんと必死で攻撃を繰り返す。
それが、手足の一本ぐらい傷つけられていたとしても。


何度目か、金属と金属がぶつかり合う音が、山岳地帯に木霊する。
既に十陣が重ねられており、そう遠くなく二十陣に達する。
そして、片側の限界も、遠くはない。


いつまでも続くように見えた、金属を持った獣同士の戦いは、突如中断を迎えることになる。


ガァン!!

力に押され、3人のうち誰かが闘志の集合場所から弾き出された。
リンクだ。
彼が弾き飛ばされた先は、まるで車が走った土の道のような跡が出来ている。
力づくで、しかもデルカダールの盾のような頑丈な防具ごと吹き飛ばされるなど、誰が予想できようか。

しかし、なおも剣を振りかぶり、追加攻撃を加えようとするカイム。
その間に2Bが割って入り、横薙ぎに一閃。
ほんの一瞬だが、攻撃を中断させた。
だが、リンクが参戦する前、攻撃を何度も受けたため、その限界はリンクよりも近い。


何とか鍔迫り合いに持ち込むも、それだけで電流でも流れたかのような圧力が、鉄製の両手に伝わる。
既に片足に力が入らなくなっているため、猶更限界が早い。
両手の感覚がマヒしかかっている。2Bの体に安全装置でも付いていれば、とっくにアラームを鳴らしていただろう。

しかし、2Bが稼いでくれた一瞬の時間が、リンクにとって戦線復帰と、反転攻勢の時間をもたらしてくれた。
得物を下段に構え、鍔迫り合うことでがら空きになった下腹部に、剣を構える。
密着状態をキャンセルして後ろに飛びのき、リンクの斬撃を躱すことに集中するカイム。
否、回避のみが彼の目的ではない。
リンクの横切りが空を切った直後に、反撃の一撃をリンクにお見舞いしようとした。


(今だ!!)
直撃ならば、軽く人間の刺身が作られる一撃を前に、盾を構える。


何発かリンクは盾でカイムの攻撃を受けたのは、反撃の糸口をつかむためだ。
一撃一撃を食らうたび、頑丈な盾を持っていてなお、死線を何度もくぐる羽目になったが、それでも成果はあった。
一見隙が全く無さそうなカイムだが、攻撃は意外とワンパターンだということを、リンクは見抜けた。
10のうち7.8は武器を、大きく横に薙ぐ攻撃になっている。
いくら動きが早かろうと、タイミングがほぼ同じならば、受け続ければ次第にタイミングが読める。
そして、力が強すぎるため、ガードしてもその手に幾分かダメージ受けるが、リンクのジャストガードは関係なしに相手を崩すことが出来る。


パリィ――ンッ!

気持ちのいい音が炸裂!
正宗は無人の天を突く形になった。
競り合った際に、鉄の人形と戦っているような気持ちにさせられる相手でさえ、これを食らえば隙が出来るはず。

これにてカイムの最恐の剣にして、最凶の防具たる正宗は、一瞬だが無力になった。
だが、一瞬で充分。
民主刀の切っ先から、白い光が煌めく。
リンクの体軸を中心にした、風車のごとき一撃を防御の空いたカイムに見舞う。
二重円を描く、回転斬りを決めて敵を大きく怯ませ、とどめの一撃を2Bに入れてもらう。


「てえやぁぁぁ!!」
剣が大風を乗せて弧を描いた。

「!!?」
しかし、弧は突然別の箇所から加わった衝撃のせいで、大きく乱れる。

間違いなく当たるはずだった。
この一撃で殺すことは出来ないにせよ、当たることは間違いないと思っていたリンクの渾身の一撃は、下部から剣を襲った衝撃によって、空を切ることになった。

(あの状態から、剣で弾けるはずが……?)

正宗が飛ばされた方向から鑑みて、一番ありえない方向から斬撃を弾かれ、戸惑いながらも反撃を恐れ、距離を離すリンク。

(まさか……蹴り!?)
金属ではなく、なめし皮の塊で思いっきり得物を叩かれたような衝撃を片手に受けたことから、納得いく事実ではある。
しかし、それを受け入れると、別の事実に驚愕せねばならなくなってしまう。

すなわち、思いっきり振られた剣の腹を、正確に蹴とばす反射神経と、不安定な体勢でなお、蹴りを打てるバランス感覚。
そうした人間離れした力を持っているという事実を受け入れなければならない。

「ったああああああ!!」
2Bがカイムの足を上げた方向から、突撃する。
足技というのは、殴撃より威力があるが、概して弱点もある。
それは、足を開くため、敵に懐に潜り込ませやすくなることだ。

これ以上戦いを続けることは危険だと判断した2Bは、特攻をかける。
狙うは、カイムの内腿。
例え死ぬことになっても脚を傷つけることが出来れば、少しでも猛攻を止めることが出来る。

(なっ!?足一本で!?)
しかし、カイムは片足立ちの状態でバック宙を決め、2Bの剣撃から逃れるという、またも離れ業をやってのけた。
地面に着地する前に、隙の出来たアンドロイドの首目掛けて、正宗を一閃。

「まだだ!!」
それでもリンクが、大盾でその斬撃から仲間を守る。
その一撃はただでは抑えきれず、リンクはまたも2Bごと押されることになる。

そして、正宗の最大のメリットは、攻撃範囲。
無理矢理密着しようとしていた2人を、強引に距離を離し、最も攻撃力が活かされる距離に置いたのだ。
一番正宗が距離を発揮する距離から、強烈な一撃が放たれる。

(ならば!!)
その一撃を、済んでの所、バック宙で回避する。
2Bの一撃を回避したカイムのようにノーダメージとはいかず、正宗によって飛ばされた風の刃で、幾分かダメージを受けるも、関係ない。
その瞬間、時間が止まったかのような空気に包まれる。
否、時間が止まったのではなく、リンクが隼のごとき速度で戦える瞬間が訪れたのだ。

この状態なら、正宗を搔い潜り、強引にカイムにラッシュを浴びせることが出来る。
地面を蹴り、姿勢を極限まで低くし、いざ突撃せんとしたその瞬間。
猛烈な頭突きが、リンクを襲った。

「ぐあああ!!」
「リンク!!」
何という事か、カイムも姿勢を低くし、さながら猪のように突撃してきた。
ジャスト回避で、時を作れた直後でも、リンクは無敵になったという訳ではないので、何らかの攻撃を受ければ、ダメージもあるし、ラッシュもキャンセルされる。

相手の速度が急に増したことを察知したカイムは、シンプルな2動作だけで出来る対策を、瞬時に練った。
すなわち、姿勢を低くすることと、そのまま地面を蹴りつけること。
ダイビングヘッドバッド。
リンクの斬撃を蹴りで弾き飛ばしたことと同様、反射神経とスピード、それに筋力さえあれば出来る、これまたシンプルな対処法だ。
しかし、シンプルゆえに、即興で戦略に組み込みやすくもある。

(剣だけじゃなく、体術まで……?)
元来カイムは1対多の戦いの経験の方が多かったため、1対1、もしくは1対数名の戦い向けの体術を発揮する機会はほとんどなかった。
だが、竜との契約を交わし、大剣を軽々と振り回せる筋力や膂力は、体術に回しても存分に発揮する。


リンクの迫る勢いに、カイムの運動エネルギーがプラスされ、抵抗できずにゴロゴロと岩場の地面を転がっていく。
この機を逃さず、正宗を上段に構え、斬りかかるカイム。

「リンク!!」
陽光を構え、2Bはリンクを守ろうとする。
しかし、ダメージを追った2B一人で彼の突撃は止められず、一撃を貰うと共に、いとも簡単に名刀・陽光は太陽へと飛ぶ。
そのまま黒獅子は雌豹目掛けて走り、その長すぎるほどの牙を喉に建てようとする。


ようやく立ち上がったばかりのリンクは、カイムの猛攻を止めることは出来ず、ただ剣が振り下ろされる瞬間を、眺めることしか出来ない。
剣で打ち返すことも、盾で受け止めることも間に合わない。


「Hey,こいつを食らいな。スピンダッシュ!!」
青い砲弾のような何かが、カイムの顔面に命中した。
目の前の敵に力を込めていた人間が、横からの衝撃に対応できるわけもなく、地面を転がった。

「町の外まで探索を広げたことがluckyだったようだな。無事でよかったぜ、リンク。キーラとの戦い以来だな!!」

「助かった。でもあんたは……」
一時的にとはいえ、絶体絶命の危機を救われたリンクは、その正体に驚く。
さらに驚くことは、なぜその生き物が自分を知っていたということだ。
あんたはなぜ自分のことを知っているのだ、と聞こうとした時、砲弾は球体から、人型に変わり、サムズアップを二人に見せた。

「長い話は無用だぜ、Speech is silver but silence is golden.でもオレが助けに来てくれたから、安心だぜ。」
「助かった。ありがとう。」

2Bも感謝の言葉を告げた。

「Be careful!! 来るぜ!!」
だが、カイムはあの一撃で倒せるほどヤワな相手ではない。
なおも闘志を滾らせる1匹の獣の前に、2匹の獣と、新たに参戦したハリネズミは、身構える。

何度見たことか、カイムが正宗を横薙ぎに一閃。
それをリンクと2Bが同時に剣を下段に構え、受け止める。
その瞬間、ソニックがカイムの顔面に、ミドルキックを見舞う。

「何だコイツ……スーパーアーマーでも付けているくらい、hardな奴だな。」

大木か鉄の塊でも蹴ったかのような感触を覚え、相手の異様なまでの頑丈さに畏怖するソニック。

先程は不意を突かれただけで、速さに特化したソニックの蹴り一つでは、動かすことも難しい。
そして、カイムの本領発揮は、1対多の集団戦。
いくら敵が増えようと、さほど関係なく動き回ることが出来る。

続けざまに弾丸と化した体当たりで、背中に更に一発。
もう一発方向を変え、肩にミドルキックを打ち込もうとした瞬間、ソニックの頭に丸太のような衝撃が襲った。
確かにソニックの最高速度は、カイムをしてなお、追い切れない。
だが、鍔迫り合いの状態のまま、方向転換した際に失速した一瞬のすきを狙って、音速の貴公子に頭突きを当てたのだ。
スピードこそは劣るものの、ドラゴンと共に空中戦を繰り返したカイムの、鍛え上げられた動体視力による技だ。

咄嗟に身をよじり、衝撃を受け流すも、大きく飛ばされていく。

「ソニック、そいつ、体術も化け物並みだ!!」
(Shit……アイクみたいなタイプかと思ったら、それだけじゃないのか……。)
2Bの言葉を、その身で感じるソニックは貴音から奪った短剣オオナズチをザックから出す。

(ナイフは得意じゃないんだがな……)
しかし、得意じゃないとはいえ、小ぶりな短刀がソニックのスピードをフルに活かすこともが出来るのもまた事実。
一瞬ナイフが三本に増えたかのように見えるほどの速さを見て、まずはナイフを排除しようと正宗を振るう。
だが、それをぐるりとUターンして躱すソニック。


すかさず、剣を振りかざしてと飛びかかるは、リンクと2B。
「うわっ!!」
正宗は地面を薙ぎ、その土塊を二人は浴びせられた。
だが、追撃が振るわれる前に頭上からナイフが付いた球体になり、迫りくるのはソニック。


慌てて長剣を頭上へと振りかざすも、弾き飛ばせたのはナイフだけ。
そのまま、もろに頭部にソニックの蹴りを受けてしまう。

(ナイフを囮にして、やっと一撃か……)
相手の耐久力と攻撃力にソニックでさえもうんざりする。


3人がかりで、やっと互角の状況。
この膠着状態を打破する役割を担った援軍は、予想外の存在だった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



(リンク……さん……2B……さん……。)
場所はリンク達がカイムと戦っている場所から、少し離れた茂み。
いくら戦いが長引こうと、勝利を祈るしか方法がなかった。
銃という武器は持っていたが、自分は全く撃ち方など知らないので、真っすぐ飛ぶかさえも分からない。
下手に打っても、足手まといになってしまいそうなので、使えなかった。
そんな最中だった。
彼女が持っていたモンスターボールが、作動した。
それは彼女が無意識のうちに押したのか、はたまた完全なる偶然かは分からない。


「グゴオオオォォォン!!」
「!!」
出てきたのは、とある地方の伝説のポケモントレーナーが従えしポケモン。

なんで自分は忘れていたのだろうか。
この状況で、少しでも役に立つことしたい。
それなのに、肝心なことを忘れていた。
「リ……リザードン、さん。向こうのリンクさん達を、助けてください!!!」
雪歩は自分の身も案じず、数少ない護衛を敵の下へ行かせる。

本来ならポケモンは、トレーナーと共にいないと、戦うのは難しいのだが、その支持を平然と承ったのは、伝説のトレーナーと共に冒険したからであろうか。


任せろ、と笑みを浮かべ、リザードンは空へと飛んでいく。
だが、このポケモンが空を飛んだことが、彼女にとっての災難になるとは、まだ誰も知らなかった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

(あの竜は?)
市街地を彷徨っていた四条貴音が、空き家の二階から見たのは、少し離れた場所から飛び立つドラゴンだった。
元の世界ならば、アドバルーンか何かだと思い、さほど興味のひかれる対象ではないだろう。
だが、一度ソニックという、二本足で歩き人語を話すハリネズミに出会ったこともあり、その方向へ向かうことにした。

ドラゴンは山岳地帯の方で見えた。
今頃ソニックが自分を探し回っているはずだから、広範囲を移動するのは悪手でしかない。
だが、向こうへ行けば竜の飼い主と会えるかもしれない。


ソニックから逃走したのにも関わらず、
殺すにしろ、協力するにしろ、ナイフ一本だけでは心もとない。
だから、ドラゴンの協力者に近づこうとした。
正確には、その飼い主が持っている支給品を目当てに。
その時から、彼女を察知し、近づこうとしている者がいることも気づかず。


市街地から出て、周囲が人工的な色から自然の緑や茶色の方が多く目に入るようになった頃、その先にいたのは、彼女が良く知る少女だった。



この悲劇を奏でる曲は、急転直下。
一つの再会によって、大きく変わっていく。

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最終更新:2021年03月24日 23:51