カイムがリンクを両断せんと、正宗を袈裟懸けに振り下ろす。
只の一撃が、人間離れした腕力と、圧倒的な剣の威力で、必殺級の一撃になる。
「Hey,そう簡単に振らせないぜ!?」
しかしソニックがカイムの腕に蹴りを入れ、軌道を逸らす。
盾を持ったリンクは敵目掛けて走り、ジャンプして一回転。
まるで盾でサーフボードにした曲芸をしているかのような状態で飛びかかる。
単純に防御のみならず、敵の視界を防ぐために即興で考えた技だ。
「2B、頼む!!」
そして新手の攻撃にカイムが惑わされている間、最後の2Bに任せる。
しかし、敵もさらに予想外な攻撃をしてきた。
まずは腰を深く落とし、そのまま正宗をホームランバットのように振りかぶり、飛んで来たリンクをボールのように打ち飛ばした。
ソニックがまたも正宗握る両手に蹴りを入れるも、膨張した筋肉の鎧を纏った手を動かすことも出来ない。
「うわあ!!」
「くそっ!!」
ただリンクを打ち飛ばすだけではない。
持ち手のグリップを回転させ、即興の弾を2Bめがけて飛ばした。
地面でクラッシュが起こる。
慌てて2Bが陽光を下げたため、飛んで行ったリンクが串刺しになるという、最悪の状況こそ回避できたも、旗色が悪いのは変わらない。
「ホーミングアタック!!」
剣を下段に振り下ろしたすきを見計らって、顔面目掛けて回転体当たりを仕掛けるソニック。
続けざまに青い弾丸は2,3度カイムにぶつかる。
(時間稼ぎにしかならねえか…)
しかし、顔を歪ませながらも、なおも攻撃が止む様子はない。
スピードは確かに自分の方が勝っているはずだが、それでも減速になる瞬間を見計らって、執拗に攻撃をしてくる。
「行けるか?2B。」
「正直、厳しい。」
速さが確実に上回っているソニックの援護のおかげで、一瞬のスキが死に直結することは無くなった。
だが、なおも戦況は芳しくない。
そんな状況を打破するかのように、4人の頭上から咆哮が響いた。
「グオオオオオン!!」
大きく口を開くと共に、衝撃波をカイム目掛けて飛ばす。
初見の技を受け、正宗で弾き飛ばす間もなく、吹き飛ばされ、何度かバウンドする。
「リザードンじゃねえか!!ところで、トレーナーはどうしているんだ?」
ソニックは新たに参戦した、かつてのライバルの一人にサムズアップを見せる。
最も、この場にいるリザードンと、彼の知っているリザードンは、個体もトレーナーも違うのだが、そんなことは構わない。
雪歩のポケモンとまで知り合いとは、ソニックは一体何者だ、と後の二人も疑問に思うが、話を聞いている時間は無いのは、全員共通で分かっていた。
リザードンが翼をはためかせる。
エアスラッシュで起こした真空の刃によって、カイムを引き裂こうとする。
しかし、カイムは正宗で思いっ切り地面を打ち上げ、見えない刃が土くれと合わさって可視化すると、最低限の動きで躱し、3人に迫る。
(4対1……。これでやっと互角か……。)
「リンク、それに白黒のレディー、1つ案がある。オレに少しの間、時間を稼がせてくれ。」
二人はコクリと頷き、それだけで承諾する。
2人が斬りかかる瞬間、カイムは上空へ高く飛ぶ。
狙いは真っ先に、リザードンに決めた。
上空からの援護射撃が厄介だからではない。
新たに自分を襲ってきた相手が、まるで元の世界の相棒のような姿に見え、自分のやり方が否定されているような気がしてならないからだ。
普通は人間の攻撃は、銃か矢、あるいは魔法でも使わない限り、飛竜に届かない。
だが、人間離れした跳躍力と、武器の範疇を超える長さの武器が、攻撃を可能にする。
剣が目と鼻の先まで近づき、歴戦の赤竜も驚く。
だが、その攻撃が当たることは無かった。
「でやあああ!!」
リンクもその場までやって来たからだ。
(2B、助かる。)
先程、2Bと協力して放った斬撃を外すや否や、リンクは再び盾サーフィンの姿勢になった。
今度その状態のままぶつかるのは、カイムではなく、味方の2B。
勿論、攻撃のためではない。
反動をつけて跳び、空へと逃げた敵を上空のリザードンと共に、挟み撃ちにするためだ。
盾の回転を使った新技、盾サーフィン回転斬りが、カイムを捉えた。
ぶしゅりと脇腹から、鮮血が迸る。
そこへリザードンの追加攻撃、フレアドライブが襲う。
炎を身に纏ったまま赤竜は敵へ激突。
空中で爆発が起き、そのままカイムは地面へと堕ちていく。
だが、それでも闘志の権化と化した男は、剣を振るうのをやめない。
とどめを刺しに来る2Bを、空中でマサムネを振り回すことで近づかせない。
「Thanks!!皆、これでFinishだ!!」
他のメンバーが稼いだ時間でソニックが行っていたのは、スマッシュボールの破壊だ。
割ればファイターの更なる力や技を引き出せる虹色のボールは、ここぞという時に中々割れなくて苦労する。
そして、見えやすい場で割ろうとすれば、最悪の場合敵に割られて、戦況を悪化させてしまう。
だからこそ、一人でさり気なく破壊するのに集中していた。
いつも戦っていた時と同様、全身に力は湧き上がり、身体が綿のように軽くなる。
後は、その力で黄金のスーパーソニックとなり、カイムに攻撃を加え、後は全員でトドメを刺すだけ。
3人と1匹の勝利は、目前まで迫っていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「四条さん!無事で良かったですぅ!」
足音に気付き、悪人に見つかったかと一瞬ドキリとするも、その姿が同じ事務所の友達だということに喜ぶ雪歩。
「雪歩殿も、無事で何よりです。誠、嬉しい事この上ありません。」
貴音も、ナイフを後ろに隠しながら、友への再会の喜びを告げる。
殺し合いに乗っていたとしても、友と再会できたのが嬉しいことは、事実だからだ。
だが、問題はこの先のこと。
優勝するためには、自分が殺しをしようとしていると夢にも思っていない友までも、手にかけねばいけない。
持っている小さなナイフのみでも殺せるような相手だ。
だからといって、殺す決断はそう簡単に出来ない。
「どうしたんですか四条さん、顔が真っ青ですぅ……」
元々シミ一つない白い肌と、流麗な銀髪を持った貴音だが、それでいてなお顔色は血の気を失っていた。
「こんな時だから無理はないけど、ここに隠れていようよ。もうすぐしたら他の人たちも来るし、その時は千早ちゃんを探しに行きましょう。」
小声ながらも、友の再会を喜んでか、話し続ける雪歩。
「千早がどうかなさったのですか?」
「聞いただけだけど、千早ちゃんが、人を刺したって聞いたんです。でも、きっと皆で一緒に話せば……。」
思い出した。
自分は最初に出会ったザックスと美津雄という二人組を襲撃した時、千早の名前を騙ったことを。
まだその事実を雪歩は知っていないようだが、近いうちにバレる可能性が高い。
だから、まだ真実を知らない雪歩を殺し、すぐに逃げなければ。
「大丈夫ですよ……リンクさんと、2Bさんと、リザードンさんがきっと勝ってくれます。だから、四条さん、そんな顔しないでください………!?」
「ごめんなさい……」
貴音は手を震わせ、後ろに隠していたナイフを突きつけた。
「え!?」
雪歩の愛くるしい両目は、光を失い、ただ自分を見つめるだけになった。
きっと、あの世で一生怨まれることは間違いない。
だが、目を固く閉じ、ナイフを振るう。
最初の一撃は、雪歩の上着を裂くだけだった。
決意が足りなかったと貴音は実感する。
次は、もっと力を、何より決意を込めて刺さないと。
けれど、相手は最初に刺した相手とは違う。
苦楽を共にした、同じ事務所の仲間だ。
貴音は、決意する。
彼女たちの心と同じくらい細く脆いその刃で友をーーーーーーー
→殺す
殺さない
殺す
→殺さない
→殺す
殺さない
殺す
→殺さない
→殺す
殺さない
→殺す
殺さない
殺す
→殺さない
→殺す
殺さない
殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない――――――――――――――――――――――――
「四条さん……!?ウソですよね?」
涙ながらに訴えようとした時、胸から刃が現れ、見た目麗しい美女は、倒れた。
四条貴音の命が、この場で終わりを告げた。
貴音の後ろに立っていたのは、ゾーラ族の少女、ミファー。
彼女が投げた鬼炎のドスが、貴音の胸を背中から貫いたのだ。
「あ……あなたは……。」
雪歩は動かなくなった友達と、見慣れぬ姿をした少女を交互に見つめる。
「ごめんね。けれど私に教えて欲しいの。リンクはどこにいるの?
あなたはリンクの仲間だし、教えてくれたら命だけは取らないわ。」
半魚人のような姿をしているが、その瞳は魚のように慈悲の無いものだった。
黒点だけで、輝きの無い瞳で見つめられ、雪歩の前身は震えが止まらなかった。
しかし、彼女の心に、恐怖に代わる何かが現れ始めた。
それは、怒りだ。
殺されそうになったとはいえ、友を殺された怒りだ。
「よくも……四条さんを………!!」
「!!」
「許さない!!」
彼女は気弱な性格をしていると思われがちだが、いざという時は誰よりも勇気を出す性格である。
加えて、仲間に不幸があると見逃せないほど、友達想いな萩原雪歩という人間が、目の前で友達を殺されて、何もできないわけがなかった。
雪歩はポケットに入れていた最後の武器を出す。
使い方は、既に支給品の説明書で読んで知っていた。
今まで使う機会と、勇気が出なかっただけだが、今こそこの武器の出番だと決め、安全装置をに手を描ける。
戦闘経験がほとんど無さそうな少女が持ったナイフなど、恐るるに足らないと割り切っていたミファーだが、それは彼女の見慣れたナイフではない。
殺意に気付いたミファーは、ザックに手を入れ、2つ目の武器である拳銃を出すが、もう遅い。
ナイフ形の、小型拳銃だ。
柄の側面の安全装置を開く。
これで後は引き金さえ引けば、いつでも撃てる。
大切な一発に想いを込めて、ミファー目掛けて発砲した。
銃声が戦場に、響いた。
最終更新:2022年12月10日 19:41