「あーもう!追ってこないでよ!!」

黒いマントに水着のような服に赤と黒の仮面というゴッサムシティにあっても尚奇抜な出で立ちの少女が桃色の一輪車で路地を走る。
未だサーヴァントを召喚していないものの少女、ドロンジョことレパードも聖杯戦争のマスター候補の一人だった。
旅の仲間と諍いになり、ヤッター兵に追われながら単独行動していたところ、このゴッサムシティに招かれてしまった。

しばらく路地裏で呆然としていたところ、運悪く哨戒中のサーヴァントに発見されまたも追われる羽目になった。
ちなみに参加したマスターにはそれぞれ役職が与えられるのだが、レパードに与えられたのはストリートチルドレンという役だった。
このためレパードはいきなり治安の悪い路地裏に放り出されることになったのだった。

「他愛なし」

サーヴァントが投擲したダークが一輪車のタイヤに命中。
バランスを崩した拍子に空中に投げ出され近くの壁に激突した。

「し、死ぬかと思った……」
「否、これから死ぬのだ」
「わわっ!?」

追撃で放たれたダークを咄嗟に横に転がって躱す。
だがそこまでだ。サーヴァントは既にレパードの眼前にまで迫っていた。

「こうなったら…ボヤッキー、トンズラー、やーっておしまい!
……って二人ともいないんだったー!!」
「他愛なし」

普段少女を護る二人の部下はここにはいない。
間もなく少女の命はゴッサムシティの闇に消える―――何も起こらなければ。






聖杯戦争のマスターとなるには「シャブティ」を所持していることが条件となる。
シャブティが変化したサーヴァントを従えて初めてマスターはマスター足り得ると言っても過言ではない。
レパードが持っていたシャブティは、彼女がいつも肌身離さず持っていた絵本だった。
彼女が持つ「ヤッターマンでんせつ」の片隅にシャブティの落書きが書かれていたのだった。

一陣の風が吹く。
その風は意思を持つかのようにレパードとサーヴァントの間を吹き荒れている。
いや、事実明確な意思の下に風は二人を分断しているのだ。

「サーヴァントを召喚したか……!」
「え、な、何!?」

状況が飲み込めないレパードとは対照的にサーヴァントは事態を正しく認識していた。
少女がサーヴァントを召喚する前に仕留めるつもりが何たる誤算か。
召喚された敵サーヴァントは当然己にとっては初見の相手でありどのような能力を持つかもわからない。
先に仕掛けるのは愚の骨頂。自身の速さなら相手の初動を見てからでも対処は可能だと判断し出方を見る。

……………………………………………………………………。
妙だ。待てど暮らせど一向に仕掛けてこないし詠唱も聞こえない。
ただただ視界を遮る強風が不気味に吹き続けるばかりだ。
やがて風が止んだ時、そこには少女も敵サーヴァントもいなかった。
端的に言って、逃げた。

「……逃がさん」

召喚されて早々臆病風に吹かれるサーヴァントならば弱兵に違いあるまい。
逃走など許さぬと追撃を開始した。






「助けてくれたのはいいんだけど、お兄さん一体誰!?」
「おぬしのサーヴァントのライダーだ!
その様子だと何も知らずに参加したようだのう!」

ライダーを名乗る少年は右腕にレパードを抱えながら路地を疾走していた。
左手には先端に玉のついた教鞭らしきものを持っている。
ライダーに抱えられながら周りを見れば不自然に汚れた水溜りや壁を背にして座り込んだ人々がいた。
ヤッターキングダムとは違う、けれどもっと深い闇がそこにあるように感じられた。

「ぬおおおおおっ!」

後ろからダークが飛来し、ライダーが身体を上下させて器用にそれらを躱した。
追跡してきたサーヴァントが既にライダーとレパードに接近しつつあった。

「まだ追ってくるの!?」
「ええい、しつこいのう!こうなれば…出でよ、スープ―!」

ライダーの声に応じて白い何かが召喚された。
つぶらな瞳で、頭に丸い二本の角を生やしている奇妙な生物だった。
敢えてレパードの少ない知識に当てはまる動物がいるとすればたった一つしかない。

「カバだー!?」
「僕はカバじゃないっスー!!」
「しかも喋ったー!?っていうか飛んでるぅー!?」
「説明は後だ、とにかく逃げるぞ!疾(チッ)!」

ライダーが教鞭のようなものを振るうと再び視界を遮るほどの風が飛来したダークを弾いた。
その隙にレパード、ライダーの順に白いカバ、もとい四不象の背に乗り込み空高く舞い上がっていった。






「…で、気がついたらここにおったのだな?」
「うん……」

しばらくして、ライダーたちは適当なビルの屋上に降り立った。
そこでレパードからゴッサムシティに来るまでの経緯を根掘り葉掘り聞き出した。
聖杯戦争に参加する前から随分と無謀な真似をしていたものだ、というのがライダーの感想だった。

「ライダー、本当にこの世界は聖杯が作ったものなの?
殺し合いをしろってルールも、負けたらここに閉じ込められるのも、全部聖杯が決めたことなの?」
「順当に考えればそうだ。あるいは聖杯に干渉できる何者かの意思やもしれぬがな」
「………許せない」

ライダーのマスターたる少女の顔色は既に怒り、というよりは義憤に染まっていた。
このビルに降りるまでの間、眼下には未知の風景が広がっていた。
汚れた空気、夜中だというのに道端で眠る人々、誰かの怒号や悲鳴、その全てが底知れない闇だった。

「この世界は、闇だ。真っ暗だ。ヤッターキングダムと同じかそれ以上に…。
願いを叶えることができるのに、こんな世界を作って人々を苦しめてしかも殺し合えなんて……!
聖杯なんてヤッターマンと同じ、ううん、もっと悪いやつだ!!
お願い、私に力を貸してライダー!聖杯戦争なんてやらなくても、皆の願いを叶える方法がきっとあるよ!」

勢いよくライダーへ迫り、熱く語るレパードの目は本気だ。
強く、優しい子だとライダーは思った。
こんな状況でもまず人のことを考えられる人間はそうはいない。

「ライダー!」
「サーヴァントとはな、マスターの人生を助ける者のことだ。
おぬしがそう言うなら、わしもできるだけ知恵を絞ってみようではないか。
それに、やってみれば案外あっさり何とかなるやもしれんぞ?」
「…ありがとう!」

ライダーには特に願いがあるわけではない。
少女が殺し合いを止める道を選ぶのなら、そこに否やはない。
破顔し、気を良くしたレパードはビルから身を乗り出し声高らかに叫んだ。
それは聖杯戦争には決して屈しないという宣言だった。

「ドロンボーがいる限り、この世にヤッターマンと聖杯は栄えない!闇を払い、この世界に新たなる夜明けを!!」






(すまぬな、わしはおぬしの願いを叶えてやれぬかもしれぬ)

気炎を上げる主を横目にライダーはどうあっても殺し合いをせずに聖杯に辿り着くことができない可能性に目を向けていた。
当然レパードと同じような境遇のマスターがいることも考えられるし、そうでなくてもできるだけ多くの人間を助けたくはある。
しかし一度始まってしまった戦争を止めることは極めて難しい。
もし他に取り得る手段が無いのであれば、サーヴァントとして太公望が取るべき行動は一つしかない。

(わしにも優先順位というものがある。わかってくれとは言わぬよ)

幼いレパード自身のためにも、彼女の帰りを待つ者のためにも。
あらゆる手段を講じてでも己のマスターを優勝させるしかないだろう。




【クラス】
ライダー

【真名】
太公望@封神演義

【パラメータ】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:B 幸運:A 宝具:A++

【属性】
秩序・善 

【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:A+
騎乗の才能。獣であるならば幻獣・神獣・霊獣まで乗りこなせる。


【保有スキル】
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターンに戻し、技の条件を初期値に戻す。

軍略:B
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対人・対軍・結界宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

精神耐性:B
精神干渉に対する抵抗力。
Bランクまでの精神干渉を無効化し、Aランク以上の精神干渉に対してもこのスキルのランク分効力を削減する。

カリスマ:D…大軍団を指揮・統率する天性の才能。
劇的な効果は見込めないが、他人からの信用を得やすくなる。


【宝具】
『打神鞭(だしんべん)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~80 最大捕捉:700人
太公望が生前愛用した主武装。厳密には宝具ではなく宝貝(パオペエ)である。
宝貝とは仙人の生命エネルギーを増幅し、奇跡を生む仙人界の武器の総称である。
打神鞭は大気を自在に操ることができる宝貝であり、ある程度なら離れた場所に風を発生させることもできる。
その特性から汎用性に優れ、威力も任意で決定できる。(具体的にはそよ風程度の風から大地を大きく抉り、辺り一面を吹き飛ばすもの、複数の巨大な竜巻を発生させるものまで様々)
特に投擲武器に対する防御力は非常に高く、大抵の攻撃は軌道を反らして回避できる。
また、この宝貝は真名解放や長時間の詠唱を必要とせず、『振る』だけの動作、あるいは単に力を込めただけでも瞬時に発動することができる。

『杏黄旗(きょうこうき)』
ランク:D 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
太公望の宝貝の一つにして補助武装。
単体では意味を成さないが自然のマナが集まる霊脈に設置することによって、打神鞭への魔力供給が可能となる。
また、魔力の供給量に応じて太公望の魔力値を1~3ランクまで上昇させる。

『四不象(スープーシャン)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~60 最大捕捉:200人
太公望が長年苦楽を共にした霊獣。自我を持ち人語を解する。
普段はカバのような外見で騎乗用の宝具として運用する。この状態での燃費は非常に良い。
能力を解放するとより巨大な本来の姿に変身する。この変身は四不象の意思によって行われ太公望自身による詠唱、真名解放を必要としない。
変身中は温度変化や物理的な衝撃から主人を守るバリアや、宝具に込められた魔力を捕食・吸収するエナジードレインが使用可能になる。
基本的に格上の宝具に対しては魔力を吸収できないが、何らかの原因により消耗・破損している場合はこの限りではない。
変身の持続時間は三十分であり、再度の変身には一定のクールタイムが必要となる。

『太極図(たいきょくず)』
ランク:EX 種別:反(アンチ)宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
太公望がさる高名な仙人から授かった宝貝。
真名解放を行うことで有効範囲内の宝具の力を完全に無効化し、無効化した宝具によって発生したダメージを敵味方問わず無差別に癒す。
宝具によって発生した現象それ自体をもキャンセルするが、聖杯戦争では太極図の発動より十分以上前に起こった事象はキャンセルできない。
宝具の力によって活動するサーヴァントに対しては、動きそのものを停止させる。
ただし、同ランクの宝具は完全には無効化できず、威力・効果を減衰させるに留まる。
また、他の宝具を無効化する性質上この宝貝の使用中は四不象を除く全ての宝貝が使用不可能になる。

【weapon】
「太乙万能義手」
太公望が左腕に着けている義手。様々な機能がついている。
ボタンを押すと腕を伸ばしたり、水鉄砲を撃ったり、ロケットパンチを飛ばしたりする。


【人物背景】
崑崙山出身の道士で教主・元始天尊の一番弟子。
元々は羌族の統領の息子で名を呂望といったが、12歳の時両親や家族を殷の人狩りで失う。
その後元始天尊からスカウトを受け仙界に上って道士となり、僅か30年の修行で仙人級の力をつけた。
崑崙山のトップ・元始天尊の直弟子であるため仙界での位は高く、また最高幹部である十二仙とも同格であるため彼らの弟子からは師叔(スース)という敬称で呼ばれる。
元始天尊から封神計画を授かり、周の武王を助け、腐敗した殷を倒すために軍師となる。
物語開始時点で実年齢が72歳であるため少年の外見に反し言動が老熟しているが、甘党で注射と苦い薬を嫌ったりするなど子供っぽい所もある。
また、年齢が年齢のためか、女性や恋愛に対しては興味を持っていない。
マイペースで飄々とした性格をしている一方、平和な人間界への確固たる信念を内に秘めており、仲間に対する優しさと厳しさを併せ持つ。
基本的には頭脳戦を得意とし、敵を巧みにペテンに掛け、時には味方からもブーイングを受けるほどの卑怯な手を堂々と使う。
自身の実力については多面的な描写がされており必ずしもはっきりとはしないが、知略においては作中でもトップクラスの位置づけである。



【サーヴァントとしての願い】
レパードの意思を尊重し殺し合いを止める方法を模索する。
ただしレパードの生還を超えて優先するつもりはなく、他に方法が無い場合は手段を選ばずレパードを優勝させる。


【マスター】
レパード@夜ノヤッターマン

【マスターとしての願い】
聖杯を使ってこんな地獄のような世界を作った悪者にデコピンを!
当然殺し合いなんてしない。

【weapon】
なし。

【能力・技能】
特殊な能力はなく、頭脳も力も歳相応。
ただし先祖譲りの逃げ足の早さと高い耐久力を持つ。

【人物背景】
伝説の大泥棒・ドロンジョの末裔。どんな状況においても希望を失わず、明るい未来を夢見ている9歳の少女。
笑顔が魅力的で生命力が強く、倒れても倒れても立ち上がってくる強さを持つ。
義賊の末裔としての誇りを抱きワルぶって見せようとするが、元が良い子なのでなかなかワルに成りきれない。
母・ドロシーが不治の病にかかった時にヤッターマンに助けてもらおうと海を渡ろうとし、ひどいおしおきをうける。
そのことによりヤッターマンが正義の味方であるということに強い疑念を抱くようになる。
母親を助けてもくれなかったヤッターマンにおしおき(デコピン)をするためにドロンジョの名を継ぎ、ボヤッキー(ヴォルトカッツェ)とトンズラー(エレパントゥス)と共に新生ドロンボー一味を結成する。
長い間ヤッターマンを弱者を助ける正義の味方と信じていたため、レパードの倫理観は幼い頃から読み親しんでいた絵本「ヤッターマンでんせつ」をベースにしている。
さらにいい子でいるとの母親との約束もある為、ドロンジョでありながら「正義の味方」に近い人格となっている。
精神面に未熟な面も多々見受けられるが、総じて聡明であり早熟な部類に入る。

【方針】
聖杯を悪用した者にデコピンするために、仲間を集める。
ただし本当に悪いやつにはお仕置きする。

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最終更新:2015年04月11日 10:35