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 日誌 ロールシャッハ記 20XX年 XX月 XX日 


 今朝、路地裏で犬の死体を見つけた。
 裂けた腹にはタイヤの跡が付いていた。
 この世界は俺に同じ死体を二度見せた。
 まるで俺を嘲笑するかのように。

 この世界は一つ残らず偽りだ。
 犬の屍骸も、街を歩くクズ共も、全て嘘吐きだ。
 願いの膳立ての為だけに造られた、贋作の集い。

 奴等は俺を恐れている。
 俺だけが真実を知っているからだ。
 この世界に真実など、一つとしてありはしない事を。

 欲望を積み上げたビルの群れも、ある筈のないものだ。
 そもそも、俺の知るアメリカにこんな名前の都市は存在しない。
 『ゴッサムシティ』などという、名からして腐臭の漂う街など。

 複製品の世界でも、クズ共の醜悪さは一ミリたりとも変わっていない。
 愚衆の街とはよく言ったものだ。その点だけは喝采を送ってやってもいい。

 ニューヨークも掃き溜めだったが、ゴッサムは輪にかけて酷い。
 肥え太った豚が塔の上で喚き散らし、浮浪者共がそれを死んだ眼で見つめている。
 空が崩れ落ちれば、こいつらは一人残らず血反吐を吐いて息絶えるだろう。
 "助けてくれ"と叫ぶ暇すらない。助けるつもりもないが。

 ゴッサムの時計の針は、21世紀を指していた。
 塔が燃えず、核の冬に怯える事も無い世界。
 それでも、人の営みは20世紀と何ら変わってはいない。
 今も権力者達が、娼婦の穢れた乳房に顔を埋めている。

 人が人であり続ける限り、ゴッサムは異臭を放つだろう。
 それこそ、永遠に。


□ ■ □


 日誌 ロールシャッハ記 20XX年 XX月 XX日 


 豪奢な衣装を纏った女がパーティーに出入りしていた。
 例えどれだけ着飾っても、奥底の悪臭を掻き消す事は出来ないというのに。
 欲望の染みた宝石が、腐って崩れ落ちる日もそう遠くはない。

 捏造された街の中で目覚めた時、俺の脳裏に一つの命令が浮かんだ。
 殺し合えと、サーヴァントと共に勝ち残り、聖杯を手に入れろと。
 サーヴァントも聖杯も、既に頭の中に知識が組み込まれていた。
 脳を弄り回された気分だ……不愉快極まりない。

 ポケットを弄ると、入れた覚えのない小物が顔を出した。
 エジプト神話に出てくるシャブティという名の道具だ。
 死後の世界にて、死した王に仕える忠実なる奴隷。
 それがサーヴァントに姿を変える事も、脳に刷り込まれていた。

 人間が行き付く先は死後の世界なんかじゃない。
 天国も地獄もなく、死の先に待つのは虚無だけだ。
 俺もそうだ。木端微塵に消し飛んだ俺もそこに行くのが道理だ。
 ロールシャッハが辿り着くのはのは、ゼロでなければならない。

 だが、俺はこうして生きている。
 この愚衆の巣で、今も日誌にペンを走らせている。
 跡形も無く消え去った肉体を取り戻し、五体満足のままで。

 深淵の底から俺を呼び戻したのか? 
 生者が死者に干渉するなんて、笑えない冗談だ。
 気の狂った様な話だが、それが聖杯の為せる技とやらなんだろう。

 だが、俺の立場がどうあれ、聖杯は殺し合いを手段とした。
 犯罪……とりわけ殺人を強要した時点であの聖遺物は悪だ。
 どれだけ神聖な物でも、悪しき存在であれば罰しなければならない。

 聖杯を破壊した瞬間、今度こそ俺の魂は消えるだろう。
 人生という拷問から解放された魂は、虚無に還る運命だ。
 だがそれがどうした。それが俺の脚を止める理由になるものか。

 俺はいつだって俺の意思の元に悪を罰してきた。
 例え舞台が変わろうが、その生き方を変える気は毛頭ない。
 俺は俺のルールを聖杯に叩き付ける。それだけだ。

 聖杯に託す願いが幾千幾万あろうが。
 その願いが一つ残らず死に絶える事になろうと。

 俺は、絶対に妥協しない。





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最終更新:2015年04月12日 01:47