私は怒りを感じた。もし人間がその飢えの果てに、互いに食い合うのが必然であるならば、この世は神の怒りの跡にすぎない。

                                                         大岡昇平――野火














1:

 その男が異様なまでの違和感を感じるようになったのは、此処最近の事であった。
喉に小骨が引っかかるようなとか、身に付けている衣服を引っ張られるようなだとか、そんなレベルの小さな違和感ではない。
もっと大きく、それでいて根源的な事を見落とし、忘れているような気がしてならないのである。

 何に対して、違和感や不満を感じているのだろうかと自問する。
身分? まさか。自分はゴッサムシティにおいて特に有力な議員を父に持っている。自分が相当恵まれた立場にある事は、自覚している。
親の教育方針か? これも違う。議員の息子として相応しい、かつ、厳しい教育は徹底されてはいるが、反発を覚える程ではない。寧ろ父は尊敬できる人物だ。
それとも、ゴッサムシティそのものに対してか? これはありうる話だ。男が今住んでいる邸宅は、
ゴッサムの中で唯一安全と呼べる地域――金と権力で警察を従わせている――ではあるが、其処以外のゴッサムは犯罪都市と言われて久しい程に、
大小さまざまな刑法犯罪が多発している。もっとマシな所に住みたいと思うのも、当然の事であった。

 だが、違う。違和感の理由は、どれもこれも違う気がするのだ。
それは、男が考えている以上に大きくて、根本的な物なのかも知れない。余りにも大きすぎる為に、その正体に気づくのに時間が掛かるのである。
大きい物の全景を見る時、人はある程度その物から距離を離してみる。近づきすぎては、逆に全景が見えなくなるものだ。
今この男はひょっとしたら、そう言う状況に陥っているのかも知れない。

 非常に気持ちの悪い感覚だ。
例えるなら、外に出掛けて大分時間が経った後で忘れ物に気づき、しかもその忘れ物が思い出せないような……。そう言った感じである。

「クソがっ、苛々する……」

 議員の息子として英才教育を施されて来た男とは到底思えない程のチンピラ言葉で悪態を吐く、オールバックの赤髪の男。
苛々からつい口に出たと言う訳ではなく、男のこの口調は、地である。

 コンコンと男が今いる私室をノックする、乾いた木の音が聞こえて来た。
「入れ」、短く彼が口にすると、ガチャっとドアが開き、ノックをした本人が足を踏み入れて来た。

「邪魔するぜ。大丈夫かよ兄さん、何日か前から大分顔が優れないってメイドから聞いたんだけど……」

 部屋に入って来た、まだまだ年若い声を放つ男の方角に顔を向けて――赤髪の男は、驚きでカッと目を瞠若させた。

 オールバックの男と同じ、燃えるような赤髪を短髪にした、如何にも十代半ばと言う若々しい顔つきの青年。
見間違えようがない。この青年は自分の双子の弟――違う!! それは、偽りの都市ゴッサムシティを生み出した聖杯が勝手に与えた役割に過ぎない筈だ!!

 ――本当の俺とコイツの関係は……ッ!!――

 記憶を急激に取り戻して行く。今まで見えていなかった巨大な違和感が、男の目にも全景の捉えやすい距離にまで遠ざかる。
残り20ピースも無いジグソーパズルを解いていくような感覚。1秒経つごとに、ありとあらゆる記憶の破片が集まって行き、形になる。
そして男は――全ての記憶を取り戻した。

「何でテメェが此処にいやがるレプリカがっ!!」

 男が先ずした事は、ありったけの怒気を発散させて、部屋に入って来た短髪の青年、『ルーク』に対して怒鳴りかかる事だった。
本気で激昂していた。エメラルドに似た緑色の目には殺意にも似た感情が強く渦巻いており、ルークを気圧する。
実の兄が放つ凄まじい覇気に驚いたのか、ルークは思わず後じさった。

「な、何怒ってんだよ兄貴!? それに、レプリカって何だ!?」

 オールバックの男が何に対して怒っているのか皆目見当がつかないらしく、ルークはただただ当惑の体を表すだけ。
一方怒気を今も放つ男は、ますます不愉快になっていた。まさかルーク、自らのレプリカに兄呼ばわりされる事が、此処まで腹ただしい事だとは思ってもみなかったのだ。
今にも殴り掛かりかねない程自らの心は昂っていたが、それをオールバックの男はグッと押さえた。もっと聞きたい、大切な事があったからだ。

「テメェ、ヴァンの野郎はどうした!? ナタリアは!!」

「だから、何に怒ってんだよ兄貴!? ナタリアはゴッサムにはいないし、ヴァン先生もちゃんといるだろ!?」

 ふざけんな、と本気で殴りに掛かろうかと思ったが、停止した。思い出したのだ。
ナタリアはこの世界に於いては、議員の家系に相応しいやんごとない身分の親戚筋の令嬢で、ゴッサムから離れた州の屋敷で過ごしている筈。
一方ヴァンと呼ばれる男は、この邸宅で執事長兼、オールバックの男とルークの武術指南をしている男だ。
ゴッサムの治安の悪さに常に憤り、自衛手段の大切さを説く正義感の強い男で、邸宅の皆の信頼も厚い。

 自分が今、とんでもない状況に巻き込まれている事に漸く気付いてしまった男は、「クソがっ!!」の言葉を捨て台詞に、
弟のルークを突き飛ばし、廊下を駆け出して行った。「待てよ兄貴っ!!」、後ろでルークが呼びとめる声がするが、男は止まるどころか、
走る速度を更に速めて遠ざかる。

 悪夢なら覚めてくれ。俺には時間がないんだ。
縋るような思いでそんな事を考えながら、ゴッサムの有力議員、ファブレ議員の双子の息子の片割れ、アッシュ=F(フォン)=ファブレは、
邸宅の外へと飛び出して行くのだった。





2:

 神は容易く、アッシュの期待を裏切った。
遥か向こうで、故郷キムラスカの壮麗な大城よりも高い建造物が、まさに林のように建ち並んでいた。夜だと言うのに、その様子が解る。
見るが良い、その建物が放つ、煌びやかな光彩の乱舞を。建物に夜空の星星がくっ付いているかのように、様々な色の光を建物は放っていた。
このような光景を、この国の人間は百万ドルの夜景と比喩するらしい。故郷キムラスカは当然の事、マルクト帝国ですら、このゴッサムの経済規模には到底かなうまい。

 この光景をすんなりと受け入れてしまった自分自身に、アッシュは深く絶望していた。
こんな風景など、ゴッサムシティの住人であると言う役割を与えられた自分にとっては極々普通なのだと、頭と心が語っている。
それだけじゃない。あの時ルークが語っていた、ナタリアが自分の親戚で遠い所に住んでいると言う事も、
ヴァンがルークとアッシュの剣術指南をしている男だと言う事も、親子の縁など当に切って久しい父母が、今本当に自分の父母になっていると言う事も。
アッシュにとっては普通の事であり、全く問題がない事なのだと、頭と心が言っている。

 ……違う。自分を取り巻く本当の環境と、本当の人間関係は、この世界の中でのそれではない。
破滅的な虚無主義の延長線上の主張を唱えるあの男、ヴァンの狂った野望は、最早佳境に入っていると言っても良かった。
一度世界の全人類及びその世界を完全に消滅させ、その後で、旧世界の人類のレプリカ――ゴッサム風に言うなればクローンか――で世界を満たし、
新しい世界の創造を企もうとするヴァン。そして、この狂気の沙汰としか思えない計画を防ぐ為に、自分と、ヴァンが計画の一環として創り上げた、
アッシュ自身のレプリカであるルークは活動をしていた筈なのだ。

 一刻も早く計画を頓挫させねばと焦るのには、確かにヴァンの計画が大詰めに入っていると言う事も大きい。
しかしそれ以上の原因として、アッシュに残された時間が少ない、と言う事があった。

 ――アッシュは、近い将来消えてなくなる。
己の劣化コピーだと思っていたルークが実は完全同位体と呼ばれる極めてレアなケースのレプリカである事を本格的に知ったのが、
スピノザなる音機関の専門家に聞いた時であったか。完全同位体。音素振動数、言うなれば、彼らの居た世界で、指紋同様原則他人と一致する筈のない、
身体から放射される物質の波長が、レプリカとオリジナルで同一のものを指す。
自然界では間違いなく生み出しえないペアであり、机上の空論での存在にしかすぎなかったようであるが、万が一これらが現実世界に現われた場合、
オリジナルを構成する音素や情報が緩やかに発散され、肉体共々消滅し、コピーであるレプリカに取り込まれる、大爆発(ビッグ・バン)と呼ばれる現象が起こると言う。
そしてその予兆は、既にアッシュは感じ取っていた。身体能力や、音素の衰亡の兆し、今になってそれが表れ始めたのだ。

 このままでは、死ぬに死ねなかった。アッシュは自分の手で決着をつけたかったのだ。
結果的には自分を預言(スコア)から救った恩人であり、過去の事情から歪んだ思想に直走ってしまった、ヴァン・グランツを。
この手で討ち、惑星・オールドラントを救いたかったのだ。なのに自分は、放っておいても死ぬと言う。
こんな無体な話が、あってたまるか。家族と過ごす時間、国の為に尽くす時間、未来を共に歩む事を約束した最愛の女性、キムラスカの王女ナタリアと生きる時間を、
全て丸々台無しにされた挙句、最後のけじめすらつけられずに逝くなど、断じて認められない。
アッシュは、自らの余命の短さに、焦っていた。生き急いでいるのだった。

 苛々が頂点に達してしまい、手近なところにあったダストボックスを蹴り飛ばすアッシュ。
考えもなしに歩いていたら、邸宅から大分離れたところにまで足を運んでしまったらしい。ゴッサムのオフィス街大通りへと繋がる小道だった。
まだまだ治安の行き届いた地域ではあるから、この近辺には浮浪者やホームレスと言った、無粋な輩は存在しない。しかし、それ以外の者も存在しない。
言うなれば、人通りの少ない寂しい道、とでも言うべきか。富裕層が住んでいる地域と、中産階級者が働いている戦場を繋ぐ道の1つであるこの小道は、
明るい間でも人の数がまばらなのである。況や、夜の10時11時のこの時間など、滅多に人など見られないだろう。

 今後どのようにしてゴッサムから脱出したものか、そんな事を考えていたその時であった。
外灯に照らされているその男は、如何にも仕立ての良さそうなスーツを身に纏った、出来るビジネスマン、と言った風情のブロンド髪の男。
先程ダストボックスに八つ当たりした場面を見られたかも知れない。バツが悪いと思いながら、この場から距離を離そうと思った、刹那の事。
スーツの男の近辺に、それまでアッシュの視界に映っていなかった人物が、瞬間移動でもして見せたかのようにその場に現れ始めたのだ。
驚いて目を見開かせるアッシュ。この現象、頭の中に刻まれた情報に記されている。これは確かサーヴァントの霊体化を解除した時の――。

 スーツの男の傍に現れたのは、ゴッサムどころかアメリカの文化にそぐわない黒装束を身に纏った人間であった。
次々と、アッシュの頭の中に情報が浮かんでは消える。「アサシンか――!?」、頭が勝手に推理を弾き出す。

 黒装束の男が、右腕を水平に振った。男の手から、矢のような勢いで何かがビュッと空を切り投げ放たれた。
短剣であった。そのまま行けば、アッシュの喉元に深々と突き刺さる程の勢い。これをアッシュは、危なっかしげに剣身を弾き飛ばし、事なき事を得る。
明らかに視界の先15m程先に居る2名が、驚いた顔を浮かべる。あれで仕留めるつもりであったらしい。
これでもアッシュは、もと居た世界でも屈指の実力者であるヴァン・グランツから剣術の手ほどきを受け、
ローレライ教団と呼ばれる巨大な宗教組織の大幹部、六神将の席の1つを預かるにまで成長した凄腕の戦士でもある。
そう簡単に命を差し出す程、彼は甘いタマではないのだった。

「テメェ、何しやがる!!」

 当然、怒気を身体から放射するアッシュ。先程のルークの時とは違い、今度明白に殺意も纏っていた。

「アサシンの短剣を防いだ……、貴様、NPCじゃないな!?」

 気を取り直したという様子で、スーツの男が言い放つ。
NPC。それは、此処ゴッサムに住んでいる、聖杯戦争の参加者以外の全住人の総称の筈。そしてその名称を使い、口にする人物。
それはつまり、自分が聖杯戦争の参加者であると公言しているに他ならない。

「まさか……聖杯戦争の参加者か!!」

 思わず口にしてしまうアッシュ。しかし、これは悪手だった。
聖杯戦争へと参加している人物が、マスター、しかも見たところサーヴァントを連れていないマスターと出会ってしまったのならば、次に行動する事は何か。
その答えは、1つしかない。サーヴァントを呼ばれる前に――

「殺れ、アサシン!! 今の内に脅威の芽を摘んでおけ!!」

 こうなるのは、当然の帰結であった。

 アサシンと呼ばれたサーヴァントが、1秒掛かるか否かと言う程の凄まじい速度で、間合いを詰めて来た。
宛ら疾風。「速い」とアッシュが思考する前に、彼は身体全体を急いで左半身にする。
サッ、と言う音すら立てずに、何もない空間を、アサシンが左手で握るナイフが貫いた。スカを食ったと即座に気づき、行動に移る前に、アッシュが動いた。
今は剣がない。だから、裸拳でサーヴァントを殴ろうとするが、攻撃が、すり抜ける。攻撃の延長線上から、アサシンの姿が消えていた。霊体化したのである。

「何ッ!?」

 思わず口にしてしまうアッシュ。神秘のない攻撃では、極めて高位の存在であるとは言え霊体の域を出ないサーヴァントには、ダメージを与えられない。
神秘を纏った攻撃方法が、アッシュにはない訳ではない。純粋に、サーヴァントに纏わるその事実を忘れていたのである。

「今だ、殺れっ!!」

 スーツの男にそう言われるまでもなく、霊体化を解いたアサシンのサーヴァントがナイフを振るう。
急いで回避をしようと、スウェーバックの要領で飛び退こうとした、その瞬間だった。
アサシンの身体が、木の葉のように宙を舞った。大人がボールを投げた様な見事な放物線を描きながら、2~3m程の高さを、だ。

 結果的にアッシュに剣身は当たる事がなかったのだが、それとこれとは話は別。今度のアッシュは、突如吹っ飛ばされたアサシンのサーヴァントに驚愕していた。
そしてそれは、そのマスターにしても同じ事。地面に何とか着地するアサシン。3者は一様に、アサシンを吹っ飛ばした闖入者に目線が釘付けだった。

「間に合ったようで何よりだな」

 右足を伸ばし切った状態で、その男はぶっきら棒に口にした。
灰色のマントを身に纏い、ゴッサムシティが栄えている今のこの年代よりも未来的なデザインをした、同じく灰色の、
運動に適したような機能的なスーツを着用した男性だ。何よりも目を引くのが、アッシュと同じ様な、燃え上がるような赤色の髪。
文字通り、炎が其処で燃え上がっているかのようであった。

「俺の……サーヴァントか」

 漸く合点が行ったと言うように、アッシュが呟いた。

「真名は後で教えてやる。今は、バーサーカーとでも呼んでおけ」

 言って、バーサーカーのサーヴァントは一歩前に出た。バーサーカー、確か狂戦士のクラスであったか。だが、引っかかる。
狂戦士のクラスは確か――理性を狂化と言うスキルで塗り潰され、大抵のサーヴァントは会話すらままならなかった筈だが……。

 バーサーカーは懐からある物を取り出し、アサシンのサーヴァント達にそれを向けた。
流石のアッシュも目を剥いた。無理もない。この男が取り出した代物は、黒色のグレネードランチャー。
こんな物を僻地でもない、オフィス街や住宅街の境の道で発射しようものなら、如何なる事態になるか、容易に想像がつく。

「馬鹿め、そんな物此処で撃てるわけがないだろうが!!」

 当たり前の事実をスーツの男が口にする。当然だ、この場でグレネードなどと言う目立つものを撃ってしまえば、爆音と爆風で人が集まる事ぐらい誰でも解る。
それはつまり、自身が聖杯戦争の参加者であると言う事実が、早期に割れかねないと言うリスクを負うと言う事でもあった。
早々にそんな真似を犯す人間など、頭がぶっちぎれてるか、相当な馬鹿以外に存在しない。
そしてこのバーサーカーは、そんなリスクなど、重々承知しているらしい。ヘッ、と、相手を小馬鹿にするような笑みを浮かべて、言った。

「当たり前だろうが。……グレネード何て生易しい手段で相手してやるかよ」

 言ってバーサーカーは、ゴミでも投げ捨てるかのような要領で、グレネードランチャーを地面に捨て、右手の甲をアサシン達に向けるようにして構えた。
前腕の辺りに、奇妙な痣が刻まれていた。燃え盛る弾丸に、牙のついた口の意匠を凝らした、タトゥに似た痣。
その痣が、唐突に光り輝いた。その痣を中心として、バーサーカーの体中に、赤色の光の筋めいた物が走り始める。
今度は、無色の光が繭の様に彼の身体を包み込んだ。ゼロコンマ数秒経ったか否かと言う、短い時間。
蝶が蛹を突き破るようにして、中からバーサーカーが現れた。しかしその中から現れたのは、蝶などと言う優美な存在では断じてなかった。
そして、バーサーカー自身も、最早人間の姿をしていなかった。

 2m半はあろうかと言う巨大で厳つい体躯に、広い肩の上に、トラバサミのような牙を携えた半円形の頭部を2つ載せて持った、深紅色の異形の怪物だった。
肩回りと腰回りに、ゴツゴツとした黄土色の、三角錐状のものがフジツボの様に纏わりついている。この怪物の甲殻とでも言うべきだろうか。
人間の形を全体的に留めていない怪物がその場に現れたものであるから、スーツの男やアサシンは愚か、歴戦の勇士であるアッシュですらが、言葉を失っている。

 相手が呆けている、その隙を狙い、バーサーカーが動いた。
刹那――世界が橙色の光に染まった。グレネードが暴発した? 違う、爆風よりも遥かにその光は明るかった。
宛ら、太陽が地面に降りて来たような、強く明るい光の爆発。それまでバーサーカーに目線を奪われていたアッシュが、光の生じた方向。
つまり、スーツの男達の入る方向に目線を向けた時、その理由がハッキリとわかった。

 アサシンの肩より上の部分が、完全に炭化していた。見事なまでに炭色。誰が見た所で、即死は免れない程の見た目である。
誰が見ても勝負あり、と言うべきなのに、バーサーカーは動く事を止めなかった。
先程アサシンが投擲した短剣に勝るとも劣らない程の速度で、バーサーカーはアサシンの亡骸の下へと詰め寄った。

 マスターを仕留めるのだろうかと思ったアッシュ。そして事実、その通りの行動にバーサーカーは移った。
しかし、その方法が予想不可能であった。いや、バーサーカーが見せた抹殺のメソッドを予測しろと言うのは、殆ど無理だったであろう。
バーサーカーがして見せた事。それは、熊の倍以上もあるその大きい手から白色の鉤爪を飛び出させ、アサシンの身体を引き裂き、切り刻み。
細切れになったその死体を、口に運んで咀嚼し始めたのだ!! 肉を噛み潰す音、骨を噛み砕く音、耳を塞ぎたくなるようなグロテスクな水音。
それらが殆ど同時に、アッシュとスーツの男の耳朶を打つ。バーサーカーの食事は早かった。人間1人分の大きさの肉が、ものの10秒程で欠片もなくなっていた。

 口元から血を滴らせ、黄土色の三角錐に血液が鍾乳液の様に伝って行く。
バーサーカーの目線は、スーツのマスターに向けられていた。

「く、狂ってる……」

「狂戦士だからな」

 深紅色の怪物が言った。このような姿にはなっているが、間違いなくこの男はあのバーサーカーであるらしい。
質の悪い、歪んだスピーカーを通したような声でそう言ったバーサーカーの声音は、無慈悲その物であった。

「た、頼む、見逃してくれ……あ、あんな死に方……嫌だ……!!」

 スーツの男が情けなく懇願する、が、責められまい。
剣で真っ二つにされる、槍で貫かれる、体中の骨を砕かれる、と言う方法ではなく、生きたまま文字通り喰らわれるのだ。
誰だって、そんな死に方は御免蒙るであろう。今だけはアッシュは、この男を情けないと罵る事が出来なかった。

「やだね」

 尚もバーサーカーは無慈悲であった。彼我の距離3m程を一瞬で詰め、大きな頭の内の1つを高速で動かした。
――スーツの男の顔面が抉られていた。肉の地面をスコップで掘ったような、すり鉢状の凹みが頭に出来上がっており、其処から大量の血液が噴出する。
ガクガクと、電流でも流したような痙攣を起こしたスーツの男は、そのまま、糸の切られたマリオネット宛らに地面に崩れ落ちた。
その死体を、意気揚々とバーサーカーは細切れにし、口に運んで行く。ハイエナではない、餓鬼や悪魔でも見る様な目でアッシュはその様子を眺めていた。
食道をせり上がってくる嘔吐感に気付いたアッシュは、先程蹴り飛ばしたダストボックスに直行する。その日の夕食を、彼は勢いよく全て吐き戻した。





3:

「外れだろうよ」

 事もなげに、バーサーカーのサーヴァント――『ヒート』と言う真名のその男は言った。
その言葉は、アッシュの問い掛けた質問、「自分で自分をどんなサーヴァントだと思ってるんだ」、と言う問いに対する答えでもあった。
今のヒートは、最初に会った時のような、赤髪の男性の姿に戻っている。何でもあの怪物に変身する技術は『宝具』であり、自らの意思で自由に解除が効くものであると言う。

「自覚してんのかよ、お前は」

 何処となく侮蔑する様な光を瞳に宿して、アッシュが言った。
先程アサシン達を喰らった場所から離れた、ゴッサムのオフィス街の路地裏での会話だった。

「自分で自分がどう言う奴なのか位は解るつもりだ。バーサーカー自体、聖杯戦争のクラスの中じゃ扱い難いクラス。その中でも俺は、かなり扱い難い部類だろうよ」

「意思の疎通が出来るのにか」

 アッシュ自身、聖杯戦争に対する知識は聖杯が自身が埋め込んだ、マニュアル的な物しか頭に入ってない為、詳しい事は解らない。
しかし、狂化スキルによって理性を塗りつぶし、コミュニケーション能力や言語能力と引き換えに力を得ると言うバーサーカーの性質上、
先ず真っ先に考えられる破滅の原因は、それによる自滅だ。だがヒートは、バーサーカーであるにも拘らず、言語能力や理性をそのまま保持している。
であるのに、ヒートは自らを一切の迷いなく外れと言い放った。これがアッシュには、妙なものに映ってならなかった。

「意思の疎通何て問題にならない位の爆弾を抱えてる。その爆発を抑える為に、人を喰ったって訳だ」

「……本当か?」

 怪訝そうな目でヒートを見る。チッ、と、不愉快そうに舌打ちを響かせたのは、ヒートの方であった。

「好き好んで人間なんて喰らうかよ。他にいい方法があるんだったら、もっとマシな方法を取ってるぜ」

 嫌悪感を露に、ヒートが愚痴っぽく吐き捨てる。
アッシュにはヒートのこの様子が、人間を喰らわねば生きて行けない自分と言う生き物に対して、心底軽蔑し、自嘲している様にも思えた。
「悪い」、短く告げるアッシュに対してヒートは、「気にすんな」、とぶっきらぼうに声をかけた。

 その後、どうしてヒートが人間を喰らわねばならないのか、という理由を説明して貰った。
ヒートの主力宝具は、先程見せたあの怪物化――彼らの世界では悪魔化と言う――であると言う。
一見すれば理性など欠片もなさそうな姿をしていたにもかかわらず、ヒートはあの状態においても元の人格や理性を残し、言葉すら話せるのだと言う。
では何故この男がバーサーカーのクラスの鋳型にはめられて、このゴッサムに現れたのか。
それはヒートは、かなりの頻度で人間を喰らわねば『怪物化する宝具を暴走させてしまう』からだという。

 何故暴走するのかと言えばそのメカニズムはシンプルで、純粋に、抗い難い程の餓えに苦しむのだとか。この苦しみの名前はシンプルである、『飢餓』だ。
この飢餓が、バーサーカークラスになくてはならない『狂化』の代わりになっているのである。
ただ、狂化との決定的な違いは、狂化の方は狂う代わりにステータスアップの向上と言うメリットがあるのに、飢餓には『それがない』。
つまり飢餓とは、発症してしまえば、魔力の消費量だけは一丁前に跳ね上がる癖に、ステータスアップの恩恵は全くなく、
その上一部のスキルがほぼ何の意味もなさなくなるなど、完全なるデメリット、足枷にしかならないのだ。これを防ぐ為に、生きた人間を喰らう必要があると言う事だ。

 ――なる程、確かに自ら外れと自嘲気味に語るだけの事はある。
スカと言うにはヒートのステータスもスキルもかなりのものであるが、少なくとも、その手綱を操るのは相当苦労する事は確かだ。
ただでさえ御し難いクラスであるバーサーカー、この上バーサーカーのメリットである狂化によるステータスアップが全くないと言うのならば。
確かに、扱い難い存在であると言う評価は、不可避のものであるだろう。

「幸いにも、この街には喰らっても問題なさそうな犯罪者が多いみたいだからな、良心の呵責にお前が苦しまなきゃ問題ねぇだろうよ」

「……人間を喰らうのは嫌いなんじゃないのか?」

「嫌いとはお前に言った覚えはねぇが……まぁ嫌いだよ。だが、それ以外に方法がないんだったら、俺は躊躇なくやる」

「胸糞わりぃな……」

 唾棄するように言い捨てるアッシュ。それを聞いて、ヒートの身体に、剣呑な空気が纏われ始めた。
その変化に気付いたアッシュが、唐突に身構えた。 

「昔よ……俺と同じで悪魔化出来るようになってからも、人間を喰らうのは嫌だったって言って、我慢してた女がいた」

 頭上を見上げながら、ヒートが語り始めた。その声音からは、懐古と回顧をありありと感じ取る事が出来た。

「案の定、暴走したよ。哀れな話だよな、誰も喰いたくねぇって本気で思ってたのに、身体が精神を凌駕して、それを許さなかったんだからな」

「その女ってのはどうなった」

「俺達に襲い掛かって来たからな。俺達の手で始末した。その時にな、俺は思った。
変な御題目掲げて苦しんで、暴走して、それで仲間に牙向く位なら、向かって来る奴らを喰らう方が良いってな」

 アッシュは、次に言おうとしていた言葉を忘れてしまった。
そして、忘れてしまった代わりに、心の中に湧いて出て来た感情が、何て哀れな生き物なんだろう、と言うこの男に対する同情であった。
喰らわなければ生きて行けないのは、人間である以上アッシュも同じ。だがその意味合いと重みが、ヒートとアッシュとでは全く異なる。
ヒートの場合喰らわねばならないのは人間で、しかも喰らわなければ暴走し、同じ仲間も傷付ける。
生きる為に、許されざる罪を重ねねばならないヒートの姿と宿命に対して、アッシュは、憐憫以外の感情を抱く事が出来ないのであった。

「お前は、聖杯とやらに叶える願いってのはあるのか」

 アッシュは、ヒートに対してそんな事を訊ねてみた。
これだけの業を背負った男である。並々ならぬ執着を抱いて、この聖杯戦争へと馳せ参じたに違いない。そう考えていたのだ。

「ないな」

 予想してなかった返事に、アッシュは意表を突かれた。
ヒートは即答であった。強がりでもなければ嘘をついている様子もない。腕を組み、壁に背を預けている様子からは、本当に、聖杯に対する執着心を感じられない。
ある種、達観しているようにすら思える立ち居振る舞いである。

「やるだけの事は、もといた所でやって来たつもりだ。だから、頼る気はねぇよ。……お前はどうなんだよ、マスターさんよ」

 やはりと言うべきか、当然聞かれ返された。

「果たさなきゃいけない事をやってる最中に、此処に飛ばされた」

 遠回しに、未練がある、と言っているようなものであった。

 聖杯戦争。何の因果か知らないが、アッシュは本人の意思とは無関係に、この聖杯戦争への参加権を得てしまった。
ヴァンとの決着の為に、最後の物資を揃えていた時に、奇妙な人形が売られているのを発見した。
何かしらの音素が込められた装飾品の類かと手を伸ばした所、全く笑えない。それこそがシャブティであったのだ。
こんな所で油を売っている時間など、ないと言うのに。

「俺はもうすぐ、世界から消えてなくなる」

「死ぬって事か?」

「そうだ」

「……の割には、健康そうに見えるけどな」

「普通の奴から見たらそう見えるだけだ。だが確実に、俺の身体は段々と死に向かって行ってる。近い将来には、確実にいなくなる。……その前に、殺しておきたい奴がいる」

「復讐か?」

 ヒートが聞いて来たが、アッシュはすぐに「違う」と否定した。

「自分の馬鹿げた思想の為に、惑星中の人間を道連れにしようとするような奴さ。そして……俺の恩師でもある。俺は……そいつを自分の手で、せめて葬ってやりたい」

「それが、聖杯にかける願いか?」

 言われて、改めてアッシュは考えた。本当に、それで良いのだろうかと。
ヴァンを葬りたいと言う思いは、本当である。自分の剣で倒したいところだが、それも出来ない程衰弱したならば、どんな手段も辞さないつもりだった。
自分が志半ばで倒れたら、自分のレプリカが後を継ぐであろう。ではそのレプリカがダメだったら……? それが、最大の懸念でもあった。

 ヒートの言う通り、聖杯でヴァンを葬り去るのが、今この状況において一番良い手段であるのかも知れない。
だがその為にアッシュは、聖杯戦争に参加している参加者を何人も殺さねばならないのだ。果たして其処に大義などあるのだろうか。
――ないな、即座にアッシュは結論を下した。ある訳がないのだ、人間を殺して成し遂げる奇跡など、認められる筈がない。そんな事は解りきっている。
しかしそんな綺麗事を言っていられない程に、事態は逼迫していた。ヴァンの計画は大詰めに入っている上に、自分に残された時間も少ないのだ。
その為ならば、この大会の参加者を殺す事だって、訳はない。アッシュはぬるま湯に浸かって来たと言う訳ではない。
ローレライ教団の六神将として、様々な任務をこなし、人を殺す場面だって少なくなかった筈だ。
今回は、聖杯を手に入れ、絶対に成し遂げねばいけない願いの為に人を殺す。それだけだ。

 ――……何だ。結局俺も、ヒートを蔑めねぇじゃねぇか……――

 自らの目的の為に人を殺す自分と、生きる為に人を喰らうヒート。
相手の命を奪う方法が違うだけで、やっている事は本質的には大差ない、その事に気づいてしまった時、アッシュは思わずクツクツと笑いそうになった。
だったらもう、変に言い繕うのは止めだ。自分の本音を、曝け出す必要がある。

「そうだ。聖杯戦争なんてふざけた場に呼ばれた以上……もう四の五の言ってられねぇ。全力でこの場所で戦う。
折角聖杯って便利な物があるんだ、けじめをつける道具として使わせて貰う。……だから、手を貸してくれヒート」

「構わねぇよ」

 逡巡するだとか、もったいぶるだとか、そう言ったまどろっこしい事を一切せず、ヒートはすぐに答えた。

「ただ、俺は負けるのだけは絶対に嫌いな男何でな。恥かしくねぇ動きをしろよ、アッシュ」

「解ってる」

「後、もう1つ」

「何だ」

「……後腐れのねぇように動け。それだけだ」

 怖い位真面目な顔付きで、ヒートが言った。
過去に何か、思う所があるような空気である。ないほうが、寧ろどうかしていると言うべきだろう。
人を喰らわねば生きて行けない宿命を背負っているのだ、それに纏わる不幸の1つや2つ、あって然るべきだろう。
ヒートが過去に、何を体験し、どんな辛酸を舐めさせられたのか。それは、アッシュに想像する事は出来ない。だが、今のアッシュに出来る事は、1つ。

「――解った。今後ともよろしく頼む、ヒート」

 それは素直に、この業の深いサーヴァントの言う事を、聞いておく、と言う事であった。
返事に気をよくしたのか、ヒートはニッと、片頬だけを吊り上げた笑みを浮かべて、口を開く。

「コンゴトモヨロシク、ってか。アッシュ」

 言ってから、両者は互いの腕をガッとあわさせる。
聖なる焔の光の燃えカスとして生きる事を強いられた男と、ウォータークラウンの男の引き立て役として死ぬ事を望んだ男の、過酷な戦いが、今まさに火蓋を切って落とされた。







【クラス】

バーサーカー

【真名】

ヒート@DIGITAL DEVIL SAGA アバタールチューナー2

【ステータス】

(人間時)
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運D- 宝具A+

(アートマ・ファイアボール発動時)
筋力A+ 耐久B+ 敏捷B 魔力C+ 幸運D

(羅刹発動時)
筋力A++ 耐久E- 敏捷A+ 魔力E- 幸運D-

【属性】

混沌・善

【クラススキル】

狂化:-
バーサーカーでありながら狂化スキルを持たない。理性も保てているし、会話も普通にこなせる。
しかし後述の保有スキルが、狂化スキルの代わりになっている。

【保有スキル】

飢餓:A+
抗い難い生物の本能。栄養素を摂取出来ない事による苦しみ。
バーサーカーを常に苦しませる生理現象であり、このランクの飢餓を発症させると、ステータス向上効果のない同ランクの狂化を獲得し、
後述する宝具を暴走させてしまう。完全なるデメリットスキルの上に、如何なる手段を以っても外す事は出来ない。

喰奴:A+
『喰』らうと言う行為の『奴』隷。それがバーサーカーである。
魂喰いによる魔力摂取量の向上、及び日常的な食事からすらも魔力を獲得できるようになるスキル。
飢餓とセットになっているスキルであり、これもまた、如何なる手段でも外す事は出来ない。

対魔力:C(宝具発動・暴走時:B 羅刹時:C)
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
宝具発動させるか暴走させた時にはカッコ内のランクに修正。また、火の属性を持つ攻撃に対しては、魔力的な攻撃かを問わず、Aランク以下のそれを無効化。

勇猛:C(宝具発動時:A、宝具暴走・羅刹時:-)
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
宝具を正当に発動させた場合はAランクに、暴走或いは羅刹状態の場合には-に修正。精神干渉は無効化するがダメージ向上効果は発揮されなくなる。

魔術:-(宝具発動時:A 宝具暴走時:D 羅刹時:-)
人間形態時には魔術を行えないが、宝具を発動した際には魔術を使用可能となる。
全ての魔術が一工程或いは一小節で発動する事が出来、その威力と効果も非常に高い。
特に火の魔術を得意とするが、回復や強化の魔術を施す事も可能である。が、宝具を暴走させた場合には大幅にランクが低下。
火属性の攻撃魔術しか発動出来なくなる上に、正確な狙いが困難になり命中精度が下がる。羅刹時には、そもそも魔術が使えなくなる。

火天:-(宝具発動・暴走時:C 羅刹時:-)
火属性の攻撃を行う際に、威力を向上させ、またその属性の攻撃を防御する際、高い防御力を発揮させるが、『氷』の属性に多少弱くなる。
『アグニ』に変身する事で、獲得する事が可能なスキル。宝具を暴走させた状態でも獲得可能。

先制攻撃:-(羅刹時:A)
戦闘において先手を取る能力。初手において、かなりの高確率で先に行動が可能となる。
羅刹時にしか発動出来ないスキルで、ひとえにこの状態での規格外の敏捷ステータスがあってこそのこのランクである。

仕切り直し:-(羅刹時:A+)
戦闘から離脱する能力。同ランクの追い打ちの役割を果たすスキルを持たない限り、相手はほぼ確実に撤退を許してしまう。
羅刹時にしか発動出来ないスキルで、ひとえにこの状態での規格外の敏捷ステータスがあってこそのこのランクである。


【宝具】

『右腕に刻まれし炎の弾丸(アートマ・ファイアーボール)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自身
止む事のない雨が降り頻り、終わる事のない戦いが起こり続ける仮初の煉獄、
ジャンクヤードに突如現れた謎の物体である『ツボミ』から放たれた、悪魔化ウィルスを伴った光条に貫かれた事で獲得した宝具。
これに貫かれた者は『アートマ』に覚醒したと言われ、身体の表皮の何処かにアートマシンボルと呼ばれる痣のようなものを刻まれる。
アートマに覚醒した者は、其処に力を込め、変身すると言う意思を持つ事で、刻まれたアートマシンボルに対応した『悪魔』に変身する事が出来る。
バーサーカーが変身可能な悪魔の名前は、バラモン教の神話に登場する、火の神であり、浄化の神でもある『アグニ』である。
ただ彼に限らず、アートマに覚醒した人間が変身する悪魔と言うものは、神格や魔性を有する本物の超常存在ではなく、どちらかと言えば、
それらと同じ名前と姿を持ち、かつ、それらに肉薄する身体能力と超常的な力の一端を振るう事が出来る『怪物(ミュータント)』に、その在り方は近い。

 アグニに変身する事で、バーサーカーのステータスは、アグニ変身時に対応したものに修正される。
これにより戦闘能力の格段の向上や、バーサーカークラスでありながら高い威力と精度の魔術の使用が可能となり、三騎士に匹敵する程の力を得る。
アグニ変身時に使用出来る魔術や物理攻撃手段、及び装備可能なパッシヴスキルは、生前バーサーカーが習得していた範囲内に限る。
変身時に掛かる魔力も、変身を維持するのに必要な魔力も低い燃費の良い宝具だが、それは『飢餓スキルを暴走』させなかった時の話。
バーサーカーを含めた全てのアートマ覚醒者は、常に生体マグネタイトに餓えている状態を発症しており、
生体マグネタイトを経口摂取し取り込まない限り、この飢えは満たされる事がなくなる。
飢餓状態を暴走させると、消費魔力量がAランク相当の狂化持ちバーサーカーのそれへと跳ね上がり、勇猛と魔術ランクの大幅低下の発生。
更に敵味方問わず、その場にいる者を襲い、それらに喰らい掛かり、飢餓を抑えようとする本能が働く。
飢餓を抑えるには兎に角NPCやマスター、サーヴァントを喰らって生体マグネタイトを摂取すれば良いのだが、これを摂取し過ぎると、
バーサーカーの本来の人格が『消滅』、それに代わって、神話上の『アグニ』の人格が彼の性格に成り代わり、マスターの命令を一切受け付けなくなる。
飢餓状態のデメリットは、『宝具を発動させている状態限定で発動する訳ではなく』、人間の時の状態、つまり、常に発動している。
つまり、霊体化している最中でも飢餓を発生させてしまえば、バーサーカーはアグニへと変身し、その場で暴走してしまうと言う可能性を孕んでいる。

『羅刹』
ランク:D++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自身
バーサーカーがアートマを得るに至った悪魔化ウィルスと言うものはそもそも、5年前に起った、
テクノシャーマンの深い悲しみによって暴走してしまった太陽、その陽光に含まれる超常存在の『情報』を元に作られている。
この宝具は本来ならば、太陽の光に含まれる情報の波動、元居た世界で『ソーラーノイズ』と呼ばれるものが最高潮に達した際に、
バーサーカー本人の意思を無視して勝手に発動する宝具であった。今回の聖杯戦争の太陽、それが生み出す光にはそう言ったものはないが、
何らかの原因によりアグニの適切な変身プロセスを妨害或いはジャミングされた時、この宝具は発動。
発動するとバーサーカーは右腕だけがアグニの腕に変貌、後は人間の姿と言う半人半魔の姿に変身する。
この状態のバーサーカーは、ステータスを羅刹時の物に修正し、更にA+ランク相当の仕切り直しと、Aランク相当の先制攻撃スキルを獲得。
更に物理攻撃の威力がアグニ状態の数倍にまで向上し、敵の攻撃回避率が跳ね上がる。
そして何よりも、この状態のバーサーカーの攻撃は、ありとあらゆる魔術的な加護や障壁、耐性を無視し、本来与えられる筈だったダメージを与える、
と言う凄まじいメリットがある。耐久に優れないサーヴァントは、この状態のバーサーカーの攻撃を受けるだけで致命傷となる。

 強力なメリットがある反面、デメリットも凄まじく、この形態からバーサーカー自らの意思でアグニ形態、人間形態への変身は不可能で、羅刹状態から数分の時間を経る事で、人間形態に戻る事が可能。
魔術、勇猛、火天スキルを失ってしまい、同時に、ステータス強化効果のないDランク相当の狂化も獲得。
前述のように攻撃の威力は極めて高いが、その攻撃の命中率は攻撃そのものが大ぶりの為極めて低く、極め付けが、
耐久と魔力がE-相当にまで下降してしまう為に、被ダメージが倍加する等、多大なリスクを抱え込んでしまう事。
余程の勝機を見出さない限りは、高い仕切り直しスキルを利用し、逃げた方が無難の宝具である。

【weapon】

グレネードランチャー:
人間時のバーサーカーが利用する近代兵器。アートマ覚醒前から使用している武器。
アグニに変身する時は、アグニの火力の方が遥かに優れる為、その場でこの武器は放り捨ててしまう。

爪:
アグニに変身した際の武器。バーサーカーの筋力によって振るわれる爪の一撃は、鉄や鋼と言った金属を容易ぐ拉げさせ、切り裂いてしまう。

【サーヴァントとしての願い】

聖杯自体には興味がないので、戦いを終らせてとっとと元の場所に戻る。だが負ける事は悔しいので、アッシュに聖杯をくれてやってから還る

【基本戦術、方針、運用法】

兎にも角にも、『飢餓』との付き合い方が最も重要となるサーヴァント。
狂化による理性と言語能力の喪失が平時に限り全くなく、宝具使用時のハイスペックなステータス、
かつ対魔力と言った防御スキルや勇猛と言った攻撃スキル、魔術を用いた搦め手など、本来のスペックは非常に高い。
そう言った長所を、飢餓は全て無に帰すだけでなく、戦闘能力が大幅に下がる上に一丁前に狂化してしまうと言う致命的な弱点すら負っている。
解決方法はNPCやサーヴァント、人間を喰らえば良いとはいえ、NPCを喰らい過ぎた場合は今度はルーラーによる討伐令すら下りかねない上に、
度を越して喰らい過ぎるとヒート本来の人格が消滅すると言うこれまた無視出来ないデメリットを負ってしまう。
非常に上級者向けのサーヴァントであるが、飢餓スキルによる利点を無理やり上げるとするならば、軍団を生み出す宝具に強い事だろう。
生み出される軍団を喰らう事で、理性が続く限りは永久機関となる事が可能であるからだ。が、ヒート本人は『待ち』の戦い方に性質上非常に弱い。
兎に角積極的に戦闘を仕掛け、飢餓を抑える事を最重要事項とする事が要となるサーヴァントである。





【マスター】

アッシュ@テイルズオブジアビス

【マスターとしての願い】

ヴァン・グランツの消滅

【weapon】

ローレライ教団の神託の盾(オラクル)騎士団が振るう長剣を所持している。

【能力・技能】

神託の盾の首席総長であるヴァンから、高いレベルで各種の剣技や格闘術を教わっている。
三騎士のサーヴァントと相手でも、それなりに打ちあえ、持ち堪えられる程度には優れている。
また譜術(魔術)の腕にも覚えがあるが、こちらの方は苦手なのか、本家の譜術士には想到技量が劣る。

本来ならば超振動と呼ばれる、如何なる物質でも消滅させる現象を単独で引き起こす事が可能な人物だったのだが、
ゴッサムシティにはアッシュが超振動を引き起こすのに必要な、『ローレライ』と呼ばれる意識集合体が存在しない為に、事実上発動は不可能。


【方針】

聖杯を勝ち取る。



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最終更新:2015年05月06日 01:28