自分は何故ここにいるのだろう。
思春期の青少年が一度は考えるようなことを、何故いい歳をした社会人である自分がずっと悩み続けているのだろう。
犯罪の溢れる街ゴッサムで真面目に捜査をしながら、一条薫の胸中には形容しようのない感情が駆け巡っていた。
日本からゴッサム市警に出向して以来、腐敗と汚職に塗れる周囲の環境に辟易しつつも腐らずに仕事をこなす日々。
だがどうしてだろう。この日々が何か致命的に間違っているような根拠のない妄想が脳裏から離れてくれない。
「疲れているのか…?」
馬鹿な、と弱気に過ぎる考えをすぐに否定した。
まだ二十代の半ばを過ぎたばかり、体力の衰えを感じるには早すぎるというものだ。
気を取り直して聞き込み捜査を続けようとした時だった。
「何だ…蔦か?」
足元に不自然に伸びる植物の蔦が見えた。
街中でこのような伸び方をする植物など見たことがない。
不審に思い蔦の生えているところを探っていくと貧困層が住む居住区に行き着いた。
「どういうことだ……」
この居住区はあまり衛生管理が行き届いておらず住人も極端に少ないことは一条も知っていた。
間違っても植物が自然に繁殖できるような環境ではないはずだ。
にも関わらず謎の植物は明らかにこの一帯を中心に繁殖している。
「ウワァアアアアアアアアア!!!」
奥の方から男性の絶叫が木霊した。
ただならぬ事態が起こっていると判断した一条は全速力で声のした方へ駆けつけた。
辿り着いた先にいたのは駐車場の柱にへたり込んでいる東洋人らしき男性と緑の体躯に長く鋭い爪が特徴的な怪物だった。
(何だ、この感覚は?)
明らかに非現実的な存在を目の前にしたにも関わらず一条の身体は自分で驚くほど冷静に動いていた。
自分は怪物的な存在を知っている。しかしあの怪物には覚えがない。
奇妙な既視感と違和感が脳裏を交差し続ける。
その間にも身体は敏速に動き、手にした拳銃から発射された弾は正確に怪物を捉えていた。
そして銃弾がまるで効かなかったことをも冷静に受け止める自分がいた。
「早く逃げて下さい!!」
しかし怪物の注意を一条に向けさせる効果はあったようだ。
男性が反対方向へ逃げ出したことを確認し、続けて二発怪物へ銃撃を見舞ったがやはり効果は無い。
あまりにも絶望的な状況。だが自分はこの感覚を知っている。
(そうか……、俺は……!)
不意に、パズルのピースが嵌るように一条の記憶が蘇った。
多くの犠牲を出しながら根絶した未確認生命体と姿を消したかけがえのない友人。
長野での最後の戦いから一年経ったある日、一条は休暇を利用して東京を訪れた。
警視庁をはじめとした色々な場所で挨拶回りを済ませ最後に訪問した城南大学。
そこでかつて五代雄介が買ったというシャブティの人形に触れた時、一条は意識と記憶を失いこのゴッサムに呼び寄せられたのだ。
しかし、どうやら自分はここまでのようだった。
引き撃ちしようとした一条を嘲笑うかのように怪物は一気に距離を縮めると爪を振るった。
咄嗟に転がって自身が切り裂かれることは避けられたものの銃はそうはいかず、途轍もない切れ味で銃身を半ばまで切り取られてしまった。
腹部の装飾品こそ無いが人外の能力という面ではこの怪物もグロンギと大差ないようだ、などと妙に冷静な考えが過る。
自分はもうすぐにでも死ぬだろう。ここにクウガは、五代雄介は存在しないのだから。
それでも後悔はなかった。自分が一条薫である限りこの怪物に立ち向かわないという選択は有り得なかっただろうから。
「勝手に諦められちゃ困るんだがな」
『カメンライド・ディケイド!』
「何!?」
死を目前にした一条の視界にマゼンタの戦士が飛び込んだ。
ごく僅かにクウガに近い意匠を残す戦士は円熟した動きで怪物に拳打を見舞い圧倒する。
回し蹴りで怪物を駐車場の壁まで吹き飛ばしたが相手は未だ健在のようだった。
「しぶとい奴だな。いや、俺の力が普段より落ちてるのか」
それを見た戦士はカードのようなものを取り出した。
戦士の背後にいた一条には見えなかったが、戦士はカードを腰のバックルに装填し読み込ませた。
『カメンライド・クウガ!』
「馬鹿な!?」
懐かしささえ感じる音と閃光からもう見ることもないと思っていた戦士の姿が現れた。
戦士クウガ、五代雄介にしかなれないはずの存在ではなかったというのか。
いや、よく見てみればあのバックルはアークルではない。では何故クウガになれる?
『ファイナルアタックライド・ククククウガ!!』
混乱する一条を余所にクウガが跳躍、かつて何度も見た跳び蹴りが鮮やかに怪物を捉えた。
吹き飛ばされた怪物、着地したクウガ。
やがて怪物は多くのグロンギがそうであったように爆発、四散した。
脅威が去ったことを確認したか、クウガは変身を解き一条の知らない警官の制服を着た青年の姿になった。
当然だがサムズアップはなかった。
「君は何者だ?何故クウガに……」
「なるほどな、大体わかった。あんたはクウガの世界の人間か」
「クウガの世界だと?」
「世界は広いってことだ。続きはもう少し話しやすい場所にしよう」
歩き出した青年の後を追い、一条もその場を離れることにした。
右手の甲には令呪というらしい紋様が浮かび上がっていた。
「彼が俺のサーヴァント、ということか」
少なくとも敵対的な存在ではなさそうだ。
グロンギ族の人と同じ外見をしながら氷のように冷たい瞳を知る一条は青年は冷酷な存在ではないと感じていた。
「お待たせしました」
とある喫茶店、青年が注文した先ほどのマゼンタの戦士の顔を模したような巨大なパフェが運ばれてきた。
一条はコーヒーのみを頼み一息入れることにした。
「もう察してるだろうが俺があんたのサーヴァント、デストロイヤーだ。
真名は門矢士。通りすがりの仮面ライダーで世界の破壊者とも呼ばれてる」
「破壊者…それに仮面ライダー?仮面ライダーとは一体何なんだ?」
「そういえばクウガの世界じゃ仮面ライダーの呼び名は使われてなかったな。
わかりやすく言えば、人間の自由と平和を守るために戦う者のことだ」
言われて一条はコーヒーを一口飲んでから考え込む。
確かに五代は広義的には人々の平和を守るためにクウガとして戦っていたと言える。
その意味では紛れもなくクウガは仮面ライダーと呼んで差支えない。
しかしどうも喉に魚の小骨が刺さったような違和感がある。
五代が戦った直接の理由は自由や平和のためというような、大義めいたものではなくむしろ――
「だが、クウガに関して言えば少し違う。そうだろう?
クウガが戦う理由は皆の笑顔を守るため――違うか?」
「…!何故それを?」
「言ったろ、世界は広い。そして俺は色々なライダーの世界を旅した。
だからクウガを知っているし、俺自身がクウガになることもできる」
「しかし、君ほどの戦士がいたのなら我々警察がそれを知らないということは有り得ないはずだ」
一条が見ただけでもマゼンタの戦士、いや仮面ライダーはクウガと同等の力を持っていた。
それほどの力を持つ者が五代の人物像を知ることができるほど近くにいたなら警視庁が必ず彼の存在を捕捉しているはずなのだ。
指摘されたデストロイヤー、門矢士は紙とボールペンを二つずつ取り出し片方を一条に渡した。
「今からここに俺とあんたが知るクウガの本名を書く。
そうすればあんたの疑問は解けるはずだ」
「……わかった」
クウガが五代雄介であることは警察内部以外の者に容易く公開していい情報ではない。
マスコミに露見すれば混乱や五代への迫害が起きることは間違いないからだ。
しかし聖杯戦争という全てが一条の理解を越える現象を前にそんな秘密を抱えることは意味のないことだとも気づいていた。
素直に士に従い五代の本名を書き、士が書いた紙と交換した。
そこに書かれていた名前は『小野寺ユウスケ』。名前の読みこそ五代と同じだが間違いなく別人だ。
「これは……」
「つまりこういうことだ。クウガの世界は一つじゃない。
俺が旅したクウガの世界はあんたのいた世界とは似ているだけの別世界ってわけだ。
まあパラレルワールドみたいなもんだと思ってくれていい」
「なるほど…」
実のところ、士は最初からほとんど全てを理解していた。
士の旅したクウガの世界でクウガの正体を知っている人間は八代藍しかいなかった。
つまりクウガの正体を知る警官と士に全く面識がないというのは有り得ない。
であれば剣崎一真と剣立カズマのように同じライダーに変身する別世界のクウガの知り合いだと考えた。
恐らく自分のマスターは八代藍と同じような立ち位置にいる存在なのだろう。
「で、本題はここからだ。この聖杯戦争であんたはどう動く?
元の世界に帰れるのは優勝した一組だけ、負ければ死なないまでもこの世界に閉じ込められる。
いや、さっきの化け物が他にもいるならどのみち死ぬだろうな」
「私はマスターであるより前に一人の警察官だ。人殺しや殺し合いの進行を容認することはできない。
無論、死ぬつもりもない。可能な限り脱出し、元の世界に帰還する方法を探したい」
「つまり聖杯にかける願いはないってことか?それは本当にあんたの本音か?」
試すような問い。一瞬だが一条は言葉に詰まった。
今でも五代を戦いに巻き込むべきではなかったのではないか、という後悔に囚われることがある。
もしアークルに選ばれた戦士が自分ならどれほど良かったか……何度そう思ったかわからない。
それでも。
「後悔していることがある。恐らく私がマスターに選ばれた理由もそれなのだろう。
だが奇跡に縋ってまで過去を捻じ曲げようとも思わない。君には申し訳ないが……」
「ある女がいた。そいつは自分が死んで怪物になるかもしれない時にも刑事であり続けた。
ある男に世界中の人の笑顔を守るように命令し、そして人間のまま死んでいった。
あんたがその女と同じなら、信用するに値するマスターだ。
俺は聖杯を使うより胡散臭い願望器を破壊したい。まあ利益は一致してるな」
「ありがとう」
信用の証にと握手のために手を差し出した一条だが、士はふいと横を向いてしまった。
何か不味いことを言ってしまっただろうか?
「俺はあんたの名前をまだ聞いてないんだが、マスターなら名乗るのが礼儀じゃないか?」
「そうだったな、すまない。長野県警の一条薫だ、よろしく頼む」
士は無言で手を差し出し、固く握手を交わした。
外は綺麗な青空になっていた。
【クラス】
デストロイヤー
【真名】
門矢士@仮面ライダーディケイド
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:E 幸運:B 宝具:A+(通常フォーム)
筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:D 幸運:B 宝具:A+(最強コンプリートフォーム)
【属性】
中立・善
【クラス別スキル】
破壊者:A
「世界の破壊者」と呼ばれ恐れられた仮面ライダー。
相手が持つ防御系スキル、宝具の効果を最大三ランクまで削減してダメージを与える。
また属性が悪かつ怪物の性質を帯びる者に対して与えるダメージが大幅に上昇する。
かつては仮面ライダーに対しても有利な補正を得られたが今は失われている。
【保有スキル】
直感:B
戦闘時、常に自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。大抵のことは「大体わかる」。
また未知の物事を理解しようとする際にプラスの補正が得られる。
騎乗:C
騎乗の才能。現代の乗り物及び仮面ライダーに関わるマシンを乗りこなせる。
変化:A
カメンライド、フォームライドのカードを用いることにより、他のライダーへ変身できる。
【宝具】
『世界の破壊者(ディケイド)』
ランク:A レンジ:- 種別:対人(自身)宝具 最大捕捉:1人
「世界を巡り、全てを破壊する存在」である、異端なりし仮面ライダー。
門矢士がディケイドライバーとライダーカードを用いることにより、「仮面ライダーディケイド」へと変身する。
「クウガ」「アギト」「龍騎」「ファイズ」「ブレイド」「響鬼」「カブト」「キバ」「電王」のライダーカードを所有し、その力を自在に振るうことができる。
ただしサーヴァントとしての規格に合わせ一部のライダーカードの性能はデチューンされている。
具体例は「アタックライド・クロックアップ」、「フォームライド・アクセル」、「アタックライド・インビジブル」、「アタックライド・イリュージョン」など。
変身したライダーによってステータスも変動するがディケイド通常フォーム以上のステータスを持つライダーに変身した場合はその分維持に必要な魔力消費も増大する。
またディケイドが変身できるのは各ライダーの基本形態及び中間強化形態までであり、自身が他のライダーの最強形態に変身することはできない。
『激情態』
ランク:A レンジ:- 種別:対人(自身)宝具 最大捕捉:1人
破壊者としての使命を受け入れた士が変身するディケイドの姿。
この形態ではカメンライドを行うことなく他のライダーの能力を行使することができる。
ただし使命を終えた現在はこの姿に変身することはできない。
『真・歩くライダー図鑑(最強コンプリートフォーム)』
ランク:A+ レンジ:- 種別:対人(自身)宝具 最大捕捉:1人
携帯端末ケータッチにコンプリートカードを挿入することにより、強化形態最強コンプリートフォームへと変身する。
幸運以外のパラメーターが全て1ランク上昇し、アタックライドの効果もそれぞれ強化される。
ファイナルアタックライドで呼び出したライダーが最強フォームとなり、ディケイドの動きに連動し共に必殺技を放つ。
また周囲にいる味方の仮面ライダーを変身条件を無視して最強形態へと変身させる。
最大の必殺技はクウガ~キバまでの最強形態のライダー九人を呼び出して全員で必殺技を仕掛ける「アタックライド・テレビクン」。
【weapon】
ディケイドライバー…仮面ライダーディケイドへの変身ベルト。
内部の輝石「トリックスター」が魔力炉の機能を兼ね備える。
ただしサーヴァント化によって魔力生成量は大幅に低下しており現界、戦闘を最低限支える程度にしか機能しない。
当然霊体化している最中は魔力炉としての機能は発揮されない。
ライドブッカー…ブックモード、ガンモード、ソードモードの3種類の形態に変化する万能武器。
マシンディケイダー…ディケイド専用に開発されたバイク。
ケータッチ…タッチフォン型のディケイドの強化ツール。
カメラ…士が普段から持ち歩いている2眼のトイカメラ。
だが、彼の撮る写真は何故かいつも歪んで映る。
本人曰く「世界が俺に撮られたがってない」との事。
【人物背景】
いつの間にか光写真館に居候していた青年。素性不明で本人も過去の記憶がない。
ディケイドライバーで仮面ライダーディケイドに変身する。年齢20歳。
紅渡から、世界の融合を防ぐ為に旅にでなければならないと告げられ自分の本当の世界を探す為、世界の崩壊を防ぐ為に光夏海達と世界を巡る旅にでる。
かなりの自信家で、誰に対しても尊大な態度を取るがそれに見合う能力を持っている。
素直でなく露悪的な言動を取ることも多いが本質的には正義感の強い熱血漢。
世界を移動する度に様々な役割を振られており、この聖杯戦争ではサーヴァントでありながらゴッサム市警に務める警察官という役割を与えられている。
【サーヴァントとしての願い】
世界の破壊者らしく、聖杯と悪党を破壊する。
【マスター】
一条薫@仮面ライダークウガ
【マスターとしての願い】
警察官として殺し合いは断固拒否。
聖杯戦争を止める方法を探す。
【能力・技能】
異常に頑強な肉体を持ち、一般人では一切立ち向かえないほど強力な存在であるグロンギの攻撃を受けても耐え抜く(ただし怪我を負うことはある)。
また百発百中の射撃の腕前を持ち、狙撃銃でグロンギの持つ小さな装飾品を全て撃ち落すなど人間業とは思えない精度を誇る。
作中ではコルトパイソンや改造ライフルなど反動が大きく扱いづらい銃を使いながら元々の射撃精度を落とすことはなかった。
他にも剣道、体術、車両の運転技術など警察官に求められる技能全てを極めて高い水準で修めており、推理力も高い。
しかし携帯電話をマナーモードにすることだけは苦手である。
【人物背景】
1974年4月18日生まれ、AB型。名古屋市出身。
長野県警警備課に所属する刑事で階級は警部補。自分の誕生日に水害から市民を救って殉職した警察官だった父親に憧れ、刑事になった(誕生日プレゼントは受け取らないことにしている)。
生真面目かつ堅い性格で滅多に笑うことはなく、たまに笑みをこぼすと周りから驚かれる。
長野県九郎ヶ岳の遺跡発掘現場で起きた事件を追ううちにグロンギと遭遇し、広域指定された同種の事件を集中的に扱う未確認生命体合同捜査本部(警視庁に設置)に派遣される。
警視庁に派遣後、周囲からは彼女ができたと思われているが独身である。
当初はクウガとして戦う五代雄介を戦いに巻き込むまいとしていたが「自らを犠牲にしてまで戦う」彼の姿と覚悟を見て、五代に協力することを決意。独断でトライチェイサー2000を渡すなど次第に強い友情で結ばれていった。
グロンギ殲滅後は長野県警に戻った。
【方針】
サーヴァントとしてのディケイドは原作とは異なり最低限の前衛性能を持った中後衛型サーヴァントといったところ。
ステータス、技量ともに三騎士には届くべくもなく非変身時のアサシンの奇襲への耐性もなく対魔力が無いためキャスターの魔術にも滅法弱い。
持ち味のライダーカードも使用する度に膨大な隙を晒すためサーヴァント戦では使いどころを誤ると即敗北に繋がる。
特にセイバー、ランサー、アサシンといった俊敏さに優るサーヴァントは最早天敵と言っても過言ではないほど。
普通に戦ってはライダー以外の全てのクラスに対して不利がつくため、原作のような前に出る戦い方は厳禁。
ただし前衛能力の高いサーヴァントと組めば安全圏から多種多様な手段で攻め立てることができ、破壊者の名に恥じない強力さを発揮できる。
どれだけ早い段階で協力者を探し出せるかがこのチームの生命線となる。
尚能力を使う度にベルトが電子音声を鳴らす性質上ディケイドは真名を秘匿することが全く出来ない。
最終更新:2015年04月28日 03:35