かつて世界の中心に、マナを生む大樹があった。



     しかし争いで樹は枯れ、代わりに勇者の命がマナになった。
     それを嘆いた女神は、天へ消えた。
     この時、女神は天使を遣わした。
    「私が眠れば、世界は滅ぶ。私を目覚めさせよ」
     天使は神子を生み、神子は天へと続く塔を目指す。



     ……これが世界再生の始まりである。






     そして旅に出た神子は、今―――――――――――――――――――遥か遠い衆愚の街に取り込まれ、悪魔と邂逅しようとしていた。






◆◆◆◆






 金属質の、無慈悲な破砕音が奏でられる。
 長いプラチナブロンドの髪が視界の端で靡いているのを見て、コレット・ブルーネルは自らの体が後方へと投げ出されていたことに気づいた。
 次の瞬間には、薄暗い陰を掻き分けて、微かな凹凸のある人造石の床が視界の左半分を埋め尽くした。どうやら、そちら向きに転んでしまっているらしいと、一拍遅れて理解する。
 痛いことは嫌だけど、何も感じられないのはやっぱり不便だな、と……いくらか呑気が過ぎるかもしれない感想を、赤く染まった掌を見たコレットは抱いた。薄くではあるが、両の掌が裂けていた。厳しい旅の中で苦楽を共にしてきた金色のチャクラムは、敵の一撃を受け損ね砕け散らせてしまった不甲斐ない持ち主に、その刃を立てていたらしい。

 世界再生の旅で、数々の悪漢や魔物を仲間と共に退けて来た経歴から、荒事にも慣れてはいるつもりだった。しかし容易く武器を砕かれ、成す術なく追い詰められている現状を、神子は不思議でも何でもないことと受け止めていた。

 記憶を取り戻したその時点で、聞いたこともなかった知識は完全な形で授けられている。故に、既に察しはついていた。
 今、自らに歪で巨大な剣の鋒を向ける男が、サーヴァントと呼ばれる存在であることを。

 サーヴァント。人々に語り継がれる伝説を成した英霊を、使い魔として再現した事象。
 コレットが有無を言わせず参加させられることとなったこの戦いにおいて、要となる力であり――かつて世界の命運すらも、左右した存在なのだ。
 言うなれば、かつて古代大戦を終結させた勇者ミトスが蘇り、自分の敵として立ち塞がっているに等しいということ。世界を救済し得るだけの力が破壊に用いられるのに、助けられてばかりの旅も道半ばの己が一人きりで相対すれば、こうなるのも当然の結末でしかなかった。

 ……それがわかっていても、抗わずには居られなかった。

 ここではまだ、死ねないから。
 この命を捧げるべき場所は、生まれた時から定められている。その約束を果たさなければどうなってしまうのかも、知っている。

 村の皆や、旅先で出会った人達や、仲間や、彼の――ロイドの笑顔が、脳裏を過ぎって。
 円の半分が欠けたチャクラムをそれでも握り締めて、言うことを聞かない体に難儀しながら――背に生えた翼の浮力を利用して、コレットは強引に起き上がった。

「……少し待て、セイバー。謝罪が要る」
 コレットが起き上がった瞬間、一息に踏み込もうとしていた剣士に向けて、その背後に控えていた青年が待ったをかけた。
「失礼。婦人の顔に傷をつけるのは本意ではなかった。その前に苦しませぬよう刈り取らせるつもりだったのだが……」
「……面目次第もございませぬ」
 マスターである男に一瞥され、伝説の化身であるはずの剣兵の英霊は仮面越しに、確かな謝意を口から放つ。
 一方、言われてからようやく、コレットは己が頬を浅く切っていることを発見していた。
 さぞや見事な切れ味なのだろう。おそらく痛みは元から感じなかったに違いない。しかし……

「……そのご様子だと、貴女が無くされているのは言葉だけではないようだな」
 血の雫を拭った手の甲へと視線を走らせた様子を見咎め、セイバーのマスターである青年は、コレットの状態を言い当てた。
 微かに動揺するも、必要もないことだと判断したコレットは逃げる隙を伺うために彼らを睨めつけるが――そんな油断、どこにもなかった。

「差し詰め、願いはその身を癒されることだろうか? ……いや、このような詮索も無躾か。改めて謝罪しよう。
 何にせよその目を見れば、貴女にも切実な事情があることは伺える。
 しかしそれは我ら一族も、このセイバーも同じこと。悪いが矛を収めるつもりはない」

 主の宣告と同時、セイバーから放たれる威圧感が再び増大する。
 その研ぎ澄まされた殺意の重圧に晒された瞬間、コレットは必死に保っていた己の戦意が崩れ去るのを耳にした。

 ――――死ぬ。

 そんな確信が、コレットの全身に牙を立て、何も感じなくなったはずの肌を粟立たさせる。
 裏切ってしまう。皆の希望を。
 損なってしまう。ここまで共に旅をして来た、仲間達の努力が勝ち取る未来を。

 もう――本当に二度と、逢えなくなってしまう。ジーニアスやリフィル、クラトスにしいな、ノイッシュにコリン、ウンディーネ……それから、ロイドに。

 ――辛いのに、涙も出ないや。

「……せめてこの爛れた街に、その意気が貶められることがないよう、安らかに眠らせると約束しよう」

 ごめんね、ロイド、皆……

 …………ううん、やっぱり、諦めたくないな。

 誰か――――――助けて。

「――やれ」
 青年の、涼やかというには冷た過ぎる声音が、一方的に処刑を命ずると同時。
 眩い白光が、廃工場に充満した宵闇を切り裂いた。

 それによって生じた一瞬の空白の後。絶対の死の予感を前に、それでも諦めきれずに瞼を開いていたコレットは、見た。
 突如として出現した白と黒、そしてマゼンタに塗り分けられた双輪の獣が、重低音の咆哮を轟かせながらセイバーとそのマスターに猛然と襲いかかり、彼らを後退させるその様を。
 絶望の淵に現れた、救世主のその姿を。

「……随分と遅いご到着だな。大切なマスターが危うく死ぬところだったぞ? 無能なサーヴァント」
 無人で疾駆するバイク、その更に奥から現れた人影に向けて、セイバーのマスターが苛立ちを隠しきれていない表情で呟いた。
 それを聞いて、コレットはどっと肩の力が抜けるのを感じた。
 助、かった……?

「――知るか。俺は別に、サーヴァントだからマスターを助けに来たってわけじゃないからな」
 対し、先程何度か白光を放っていた箱を首から垂らした一人の若い男――装飾品と思って身につけていたシャブティが変化した、コレットのサーヴァントであるはずの存在は、そんなことを宣った。

「我が君。此奴、何やら奇妙にございます」
 不遜な返答に眉を寄せた自らの主に警告を発し、覆い被さっていたバイクを弾き返して一歩進み出たのはセイバーだった。
「この距離で、サーヴァントの気配を感じ取れませぬ」
「……成程。確かに、私の目から見てもサーヴァントとは確認できない。貴様を攻撃できているにも関わらずな」
 セイバーに弾き飛ばされた後も無人のまま自走したバイクを傍らへと控えさせ、コレットとの間に割り込むように歩んできた年若い男へと、青年は微かに険しさを増した表情で問いを投げる。
「マスターを助けに来たわけではないとも言ったな。ならば貴様は、彼女のサーヴァントではないということか?」
「いーや? 俺は確かにその娘に召喚されたライダーのサーヴァントだ。だがそんなことはどうだって良い。ただ……」
 そこで彼は――ライダーは、微かにコレットを振り返った。

「助けて欲しいって声が聞こえた。俺が来た理由は、それだけだ」

 ――この身から、声は。既に取り上げられているはずだというのに。
 自らに必要だからではなく、ただ、誰にも届かぬはずだった声が聞こえたから来たのだと――ライダーは、そう嘯いた。
 その時の眼差しと、安心させるようにして一瞬浮かんだ笑顔を見て。コレットは彼の存在に、覚えのない種類の、しかし確かな心強さを覚えた。

「お仕着せの役割なんかに従うつもりはない。俺のすることは俺が決める。おまえに文句を言われる筋合いはどこにもない」
「……随分と自由に物を言う。何なのだ、貴様は」
 青年の鋭い眼光に睨めつけられたライダーは、不敵に笑みを崩さぬまま白い箱を取り出して――それから一枚のカードを抜き取った。
「……通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ――変身!」

《――KAMENRIDE DECADE!!――》



 それがコレットの、世界再生の旅における十人目の仲間(ディケイド)との、出会いだった。






◆◆◆◆






「……それで、決まったか? コレット」

 聖杯戦争というシステムから――厳密に言えばライダーに、だが――自宅として与えられたマンションの一室で、昨夜のことを思い返していたコレットは、ライダーの問いかけに微かに身を強ばらせた……気がした。実際のところは、それを感じることができないのだからわかりようもないのだが。

「この聖杯戦争とやらで……おまえは何を、どうするのか」
 ライダーは己のマスターであるコレットに、決断を求めて来ていた。

「おまえの方針が決まらなければ、俺からはこれ以上何もしてやれない。昨日みたいに、決着を先延ばしに逃げるぐらいしかな」
 あのセイバー達との戦いを振り返り、ライダーは言う。
「とはいえ昨日のでわかっただろうが、いくら俺でもサーヴァント同士の戦いとなっちゃ骨が折れる。悪いが考える時間ばかりおまえにくれてやることはできない」
「(うん……そうだよ、ね)」
 机を挟んで対面する己がサーヴァントの言葉に、コレットはやや気後れしながらも相槌を打つ。

 昨夜は、巻き込まれたばかりで気持ちの整理がついていないというコレットの状況を看破したライダーが早々に撤退を選択したことで、戦闘行為そのものはあっさりと収束した。
 それでもサーヴァント同士の対決の舞台となった廃工場は更地となり、またライダーは今後も敵対するかもしれない主従に打撃を加えられることなく、手の内を晒したのみで終わってしまった。今後も同じことを繰り返せば周辺への更なる被害を招き、更にはライダーとコレット自身が聖杯戦争という状況に追い詰められるのを座して見守ることとなってしまう。

 それを避けるならば、どんな形であれ、方針を抱えることが必要だ。目的さえあれば、瞬間ごとの決断もそれを見据えて行うことができる。節操なく破壊を撒き散らすことも、無意味に追い詰められることも格段に減らすことができるだろう。

 だから――自分がこの聖杯戦争の中でどのように振舞うべきなのかを、しっかり考えて自分で決めろと。コレットは昨夜、ライダーに告げられていた。
 与えられた猶予は一日。今この時こそが、その答えを問われる時だった。

「どうするんだ? 聖杯があれば、シルヴァラントとテセアラも、二つの世界を両方とも救うことができるかもしれないし……何よりおまえも、死なずに済むかもしれない」
 既にコレットの事情を把握しているライダーは、彼女の抱えた悩みをそのまま、直球で尋ねて来た。

 旅の中で天使化が進み、最早声を発することもできない身ではあるが、契約によって結ばれたレイラインを介することでコレットは自身のサーヴァントとの淀みない会話を可能としていた。また天使化の影響によって眠ることができないからと、同じく眠る必要のないサーヴァントの身であるライダーとの語らいで、つい喋り過ぎてしまったかという考えが頭を過る。



 ――コレットは元居た世界において、世界再生の旅に身を投じた神子だった。

 生命の源であるマナが枯渇し、死滅の危機に瀕した衰退世界シルヴァラントにおける救世主。旅を終え天使となることで女神マーテルを目覚めさせ、世界をマナで満たして再生させるために生まれて来た血族の、当代の神子。
 コレットはもちろん、自らの世界を愛していた。そこで暮らす人々に飢えることなく、死の影に怯えることなく生きて欲しいと願い、そのために神子としての使命を果たそうと、心に決めていた。

 それでも、今の彼女には微かに後ろ髪を引かれる要因が二つ、存在していた。

 一つは世界の壁を越えて現れた仲間、藤林しいなの故郷テセアラ。互いに見ることも触れることもできずとも、確かにシルヴァラントと隣り合い、限られたマナをお互いに搾取し合う関係にあるもう一つの世界。
 衰退世界シルヴァラントのマナは現在、繁栄世界であるテセアラに吸い上げられている。神子の執り行う世界再生の真相とは、その関係を逆転させる儀式なのだという。
 故に、シルヴァラントが再生すれば今度はテセアラが滅亡へと向かう。それを阻止するための使命を帯びて、コレットの暗殺に差し向けられたのがしいなだった。
 コレットは、シルヴァラントの皆が大好きで。だから、世界再生を成し遂げないわけにはいかない。
 でも、しいなを見ていれば……テセアラの人々も、シルヴァラントの皆と同じで、日々を懸命に生きていて。なのにマナが枯れてしまえばどんなに苦しむのか、その時の顔がコレットにはくっきりと想像できてしまっていた。
 そのしいなもシルヴァラントの現状を見て迷いを抱き、二つの世界がともに救われる道がないものかと今はコレットに賭けてくれている。彼女との約束で、世界再生の旅の最後の目的地・救いの塔で待つ、コレットの父である天使レミエルに、何か方法がないものかと尋ねるつもりではある。
 しかし、それでテセアラも救われる保証などどこにもない。聖杯の力があればあるいは、と縋りたい気持ちは確かにある。

 ライダーが口にしたもう一つの理由――世界を再生する天使となることと引き換えに齎されるコレット自身の死を、もしも許されるのなら回避したい、という欲求と同時に。

「声や、感覚や、食べて眠ることも……おまえが世界を救うために支払った物も、聖杯を使えば取り戻すことができるかもしれないぜ」
 淡々とライダーは告げる。あくまで一つの事実、一つの選択肢として、修羅の道の果てに茂る蠱惑の果実を提示する。

「(……ダメだよ。使えない)」
 それでもコレットは、その願いに蓋をした。
「(ううん……もしかしたら使うかも、だけど……そっちを優先にはできない、かな)」
「……どーいう意味だ?」
 値踏みするようだったライダーの表情に、初めて胡乱げな色が足された。
 そんな彼に連れられて、今日一日巡った先々で目にした景色を思い返し、コレットは確認のための問いをかける。

「(ライダー。NPCって呼ばれている人達も、外から聖杯に拐われて来た、普通の人なんだよね?)」
「ああ。そういった記憶も全部消されて、返しても貰えないまま強制された役割を演じるしかない……な」
 微かな怒りを滲ませたライダーの返答に、コレットも万能を謳う願望器への嫌悪を抑えきれないまま、自らの考えを述べる。
「(だったら、その人達も助けなくちゃって思うの)」
「……そいつらも、か」
 先に続く言葉を予想できたのだろう。ぽつりと呟くライダーに、コレットは頷いた。

「(昨日の人もね、ライダー。多分、悪い人じゃないと思う)」

 そもそも何故、彼らに追われていたのかと言えば。記憶を取り戻した直後の心身の乱れに膝を折ったコレットを、あのセイバーのマスターが介抱しようとしたのが発端だった。
 それで偶然、背筋に発現した令呪を見咎められ、命のやり取りにまでもつれ込んでしまっていたが……元を正せばあの青年も、この悪徳の街のNPCと目した相手を、それでも気遣うような人格者だったのだ。
 ただ、それでも提示された願望器に縋らざるを得ないような事情があるだけで。
 彼らをディザイアンや魔物達のような、人に害成すだけの倒すべき敵と断じてしまうことは、コレットにはできなかった。

「(他のマスターも、NPCも……わたしも。聖杯戦争に巻き込まれた人、皆で元の世界に帰りたい。だから……この聖杯戦争を破壊して、ライダー)」

 コレット自身も含めた、聖杯に拐われた全ての被害者の生還。
 偽りの街を破壊し、騙られた住民達のあるべき人生(物語)を再生する――ライダーの話を聞いた上で一日考えた結論が、それだった。

 とはいえ現状、それを成すための方法は見当もつかない。故に最終的には、聖杯を使う可能性も一応視野に入れておく必要があるとコレットは考えた。
 ただそのためは、サーヴァントを全て倒す必要がある。
 ……ライダー当人が言うには、サーヴァントは所詮英霊の写し身。写真や絵画と同列の、モノでしかないという。
 ただ、遠からずそれを失くす自分とは違って……彼らには間違いなく彼らの、心がある。例え本物ではなくとも、偽物でもない彼ら自身の心が。

 聖杯から離れれば、どれだけ存在していられるのかわからないとしても。できれば彼らも犠牲にしないで済む方法を探したいという気持ちが確かにあること――つまりは結局、覚悟が決まったとはいえず、またもライダーに厳しい戦いを強いてしまうかもしれないと伝えたコレットへと、彼は険しい表情で尋ね返した。

「……良いのか? それで、本当に」
「(うん……あのね、ロイドが言ってたの。目の前の人も救えなくて、世界再生なんかできるわけないって……だからわたし、まずは目の前にいる人から助けなきゃって)」
「どーかな。おまえに情けをかけられた全員が、救われたと思うとは限らないぜ。例えば昨日のアイツとかな」
「(うん、そだね……でも、きっとこんなやり方は間違ってると思うから。叶えた後に、その人の中に後悔が生まれないようなやり方を、探して欲しい)」
 きっと、そんなに強い想いが本物なら……どんなに困難でも。神様はきっと、その人に幸福な道を残していてくれるはずだ。

「(わたしの願いは……シルヴァラントが再生されて、皆が救われるって分だけなら、わたしだけでも叶えられるから。テセアラのことはまだわからないけれど、レミエル様達にお願いしてみたら済むかもしれないことで、誰かを殺すのなんて、嫌だもん)」
「……おまえは?」
「(わたしは……そのために生まれて、ちゃんと生きてきたから。もう、だいじょぶだよ)」

 そう、それで良いのだ。
 そのために、苦しい思いをしている世界中の皆から大切にして貰った。なのに今更、犠牲になるのは他の人に押し付けますなんて、そんなの、ダメだ。
 もちろん、もしも聖杯を使うことになって。その時、聖杯に余力があるのなら、願わずにはいられないだろうけれど……それを一番に据えるなんてことは、できない。

「……だいたいわかった。おまえはそれで良いんだな?」
「(うん……ごめんね、ライダー。折角助けてくれたのに……何だか、台無しにしちゃうようなことを言って。
  でもお願い、勝手なのを許して貰えるなら……あなたの、力を貸して)」

 マスターでありながら、コレットはサーヴァントに頭を下げるしかできない。
 心理的な理由だけではない。そんな要因を無視しても、そもそもコレットには本当の意味で、ライダーを命令に従わせるだけの権利がないのだ。
 何しろコレットは、肉声を発することができない――即ち、絶対命令権である令呪を使うことができないのだから。
 もしここでライダーが、呆れたことを言う図々しいコレットを見捨てて出て行ってしまうとなっても。コレットには彼を止める資格も、術もないのだ。

 ――だが。

「……昔。ある悪魔が、いくつもの世界を巡る旅をしていた」
 ライダーが開いた口から放たれたのは、コレットの懇願に対する返答ではなかった。

「そいつには使命があった。世界が滅びる未来を変えるという使命が。
 そのためにそいつは訪れた世界で出会った者達と力を合わせて、それぞれの世界を脅かす邪悪と戦った。
 だが、それは間違いだった。そいつは仲間と力を合わせるのではなく、悪魔として彼らを破壊しなければならなかった」

 ライダーは語る。世界が滅びる未来を変えるため旅に出たという――天使となる神子によく似た宿命を背負った、悪魔となる破壊者の話を。

「創造は破壊からしか生まれない。滅びの未来を覆すには、一度全てを破壊するしかなかった。
 だから悪魔は、かつて仲間だった者達と争って、その全てを破壊して……そして最後に、自分自身を破壊した。
 悪魔が死んだことで、悪魔に破壊されたものは全て再生された。今度は定められていた滅びの運命なんかもない、そこに住む者達の決断次第でどうとでも転ぶ真っ白な未来を許された世界が。
 だが、悪魔は死んだままだった。そいつが悪魔として死ぬことが、無数の世界を再生するためのたった一つの方法だったからな」

 悲しい話だと、コレットは感じた。
 自分達、マナの神子が背負うそれと似ていて。だけど神子と違って、その悪魔の使命は、どんなに彼が苦しんでいる最中でも、誰にも感謝されたりしない。
 ただ延々と、自らの手でこれまで繋いで来た絆を断ち切って、孤独に死んでいくための戦い――その末に、かつて繋がっていた者達の平穏だけでも、守るための。

 結果として世界再生を成し遂げられたことは、彼にとってこの上ない報酬であり、救いだったのかもしれない。
 それでも――死の間際、悪魔の胸に去来したのは、本当に達成感だけだったのだろうかと、想いを馳せずにはいられない。
 もしかして、だから彼は、コレットに――

「……それでも、かつて悪魔と旅をした仲間達は、それを良しとしなかった。旅の先で出会った仲間達も、悪魔のことを忘れなかった」

 しかし。コレットの予想に反して、ライダーの話はそこで終わりはしなかった。

「旅は間違いのはずだったのに。彼らは、使命を終えて消えた悪魔を取り戻すために戦った。
 ……その中の一人が言っていた。世界と誰かの命を天秤にかけるのなんて間違いだ。目の前にいるたった一人の笑顔も守れないなら、世界中の人を笑顔になんてできるはずがない……あの時も、九のために一を切り捨てて終わるような物語を受け入れなかったのは、そんな気持ちがあいつらにあったからなんだろうな」
「(……素敵な人達だね)」
 まるで、ロイドみたいな。
 彼にもそんな仲間がいたのだということに、コレットは胸の内が熱くなるのを感じていた。

「……そんな仲間達のおかげで、復活することができた悪魔はもう一度旅に出た。今度は使命なんか関係なく、自分の意志で。及ばずながら人間の自由のために戦って、世界の壁を越えまた新しい仲間を作って、色んな奴らの物語を繋げて……それで今は、おまえの前に通りすがっている」
 予想の通り。ライダーがコレットに伝えていたのは――彼自身の、物語だった。

 薄々、かつて彼がコレットと似た運命を生きたのだということは感じ取れていた。
 願いを抱えて聖杯の呼びかけに応じるという仕様上、サーヴァントは非業な最期を遂げた者も多いという。だからライダーも、その生前の無念から、同じ境遇を辿るコレットに聖杯を掴むよう促そうとして、こんな話をし始めたのではないかと思っていたが……違った。

「……聖杯戦争においてサーヴァントは、相性の良い相手やよく似た性質を持つマスターのところに召喚されるらしい。
 だから……あいつらとよく似た仲間を持つおまえも、きっと……俺と同じで、仲間が放っておいてくれやしない。
 だから、もしもだ。もしも今回でおまえが、自分を助けることまではできなかったとしても……諦めるな。おまえの仲間は、そんなところで終わる物語を認めたりしない。
 シルヴァラントもテセアラも、そしてコレットのことも。必ずロイド達は、全て救うことを諦めない――俺は、そう信じてる」
「(ライダー……)」
 直接会ったこともないロイド達のことを、それでもライダーは信じてくれている。
 かつて使命のために犠牲になろうとした己を救った仲間と、よく似ているからと。
 それが、妙に嬉しくて……こんな体じゃなかったら、少し泣いてしまっていたかもしれないほどの感情を、コレットは心に覚えていた。

「だから俺はせめて、この戦いでおまえを守る。ロイド達の分も、ロイド達のところにおまえを還してやれるまで。それが俺の願いだ……おまえが謝る必要なんかない」
「(うん……ありがと)」

 ――彼は最初から、コレットの選ぶ答えがわかっていたのかもしれない。何しろこの英霊は、かつて同じ宿命を生き抜いたのだから。
 だから、答えを導くまでの迷いもわかっていて。それを晴らさせるために、敢えて意地悪な選択肢も提示して。
 それでも選んだコレットの願いを、今度は後押しするために。誰のためでもなくコレットのために戦うと、仲間としての決意を表明してくれた。
 そして――仲間の持つ優しさを信じろと、コレットに希望を与えるために。彼は、自らの物語を教えてくれたのだ。



「……そーいや、忘れてたな」
 大きな目標も決まって、後はそれを実現するための手段を模索して行こうということで、話が纏まった頃。ふとライダーが、そんな呟きを漏らした。
「(どしたの?)」
「今日一緒に売り込みに行った時には出さなかった写真がある。一番出来が良いんだが、羽が生えてたおまえが写っちまってるんじゃ、他人に見せるわけにはいかなかったからな」
 昨日召喚されて早々、ライダーはまず牽制を宝具に任せ、戦いの現場を撮影していた。それがあの時の発光の正体だった。
 サーヴァントでありながら、ライダーはその特異なスキルのために聖杯から役割が与えられている。現在は遠縁のコレットを同居させている、ゴッサムシティ在住のフリーカメラマンというのが彼の今回の役割だ。
 元々写真を撮るのが趣味だというライダーにとっては、聖杯戦争中でもフットワークが軽いこともあって好都合な役割だそうだが、当然カメラマンとして生活していくには写真を売り込む必要がある。そのために今日はコレットを伴い、街で起きる事件の真相の一端を切り取った写真を数社のマスコミへ売り込みに行っていたのだ……結果は、いずれも門前払いだったが。
 コレットからすると、ライダーの写真は芸術的で素敵と思えるのだが、どうも歪んだり謎の光が写り込んだりしているようではジャーナリズムに好まれないらしい。
 帰宅直後は酷評に憤懣やるかたない様子だったライダーの一番の自信作はしかし、どうやら自分のせいで売り物にはできなかったらしい。

「(ごめんね……)」
「だから、謝る必要なんかないって言ってるだろ。そもそも俺は写真を撮りたいから撮ってるだけで、別に金が欲しいわけじゃないんだからな」
 そう言いながら荷物を漁っていたライダーは、目当ての写真を見つけ出すと――抜き取ったそれを、コレットへと差し出した。
「といっても、俺が持ってたって仕方ないからな。やるよ」
「(あっ……うん)」
 言われるがまま受け取っても、コレットも自分が襲われているだけの写真を貰っても――と、困惑したところで。
「(……ライダー)」
「うん?」

 ライダーが手渡してきた歪んだ写真には――そこにいるはずのない、鳶色の髪の青年の姿が映り込んでいた。
 サーヴァントと対峙するという絶望的な状況の中、なおもコレットを見捨てず庇って立ち向かおうとする彼の姿が。

 ライダーの写真の歪みだとは、わかっているのに。彼ならきっと、そうするだろうということがありありと想像できて。

「(ありがと……大切にするね)」

 未来の希望を暗示するようなその紙切れを、コレットはぎゅっと抱きしめた。
 握っているという感覚もないまま。それでも既に失われたはずの暖かさを、確かにそこで覚えて。






◆◆◆◆






 おそらく、あの赤い服の少年がロイドなんだろうなと、写真を抱きしめる己のマスターを見たライダーは考える。

 コレットが誰より信頼――というよりも、おそらくは慕っている少年のことを。
 本当に彼なら、コレットを神子の宿命から救うことができるのか――二つの世界を救うことができるのか、と。
 答えは、すぐに下された。

「――できるさ。俺達にだってできたんだからな」

 顔も知らないロイド達を信じることに、ライダーは躊躇を覚えなかった。

 ……本来ライダーは、知人だろうが他人だろうが、人を信じることができなかった。似通った宿命を背負ったコレットについては、ともかくとして。弱い彼には、他人の痛みをわかることができなかったからだ。
 だから、一人の友のことを、ライダーは信じることにした。
 あいつは……優しいだけが取り柄の、バカだったから。

 だから。そんな友と同じような言葉を吐いたロイドのことなら、彼が実現を目指す理想なら、ライダーにも信じることができたのだ。

(待ってろよ、ロイド・アーヴィング。コレットは必ずおまえ達の世界へ……あるべき物語の中へ、無事に還す)
 それこそが、コレットの十番目の仲間となった自分が、果たすべき役割であると。
 ライダーのサーヴァント、門矢士――又の名を仮面ライダーディケイドは、誰にお仕着せされるでもなく。
 自らの意志で、歩むべき道を見出していた。







【クラス】

ライダー

【真名】

門矢士@仮面ライダーディケイド

【ステータス】

筋力C+ 耐久A 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具A

【属性】

中立・善

【クラススキル】

騎乗:C+
 騎乗の才能。野獣ランク以上の生物を除く、全ての乗り物を乗りこなすことが出来る。

対魔力:D
 魔除けのアミュレット程度の魔術への抵抗力。一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。


【保有スキル】

勇猛:C
 威圧、混乱、幻惑や、他者からの憑依といった精神干渉を削減する。また、格闘ダメージを向上させる。

心眼(真):B
 数多の世界を渡り歩いて培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

偽悪:C
 自らの属性を混沌・悪に偽装する。また日頃の言動が相手に悪印象を与え易くなる。
 但し相手に素性を尋ねられてから、「通りすがりの仮面ライダー」と名乗った場合、その声を聞いた全員に対して効果を喪失する。

異物の役殻:B-
 本来所有するスキル・無力の殻が、今回の聖杯戦争の様相に合わせて変質し、訪れた並行世界それぞれで何らかの役割を与えられていた逸話を再現したイレギュラーなスキル。
 此度の聖杯戦争の舞台において、ライダーはサーヴァントの身でありながらマスター同様に偽りの生活を送るための役割を与えられている。今回はゴッサムシティで活動するフリーのカメラマンで、またマスターであるコレットをホームステイさせている従兄という役割となっており、戸籍等の必要書類も自動的に用意されている。
 また宝具である『十の道重ねし破壊の尾錠』を発動していない場合には、ステータスが大幅に低下する代わりに現界維持に要する魔力量を抑制してサーヴァントとしての気配を断ち、更に他のマスターに対してはステータスの閲覧等自身がサーヴァントであると気づかれる情報を非公開にすることができる。
 但しこれらの代償として、ライダー本体は霊体化することができなくなっており、また神秘を伴わない物理干渉も常に受け付けてしまうデメリットを付与されている。またこのスキルが発現する世界では、ライダーが撮った写真は怪奇写真のように歪んでしまう。



【宝具】

『十の道重ねし破壊の尾錠(ディケイドライバー)』
ランク:A 種別:対界、対人(自身)宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人

 ライダーを象徴する変身アイテム、次元転換解放機が宝具化したもの。
 カメンライド・ディケイドのカードと組み合わせた変身の掛け声を真名解放とすることで、戦闘形態である世界の破壊者・仮面ライダーディケイドへとライダーを変身させ、その後は『伝承継ぎし二次元の札』を真名解放するための一種の魔術礼装として機能する。
 またこの宝具の発動中は、自身の攻撃に対する純粋な防御力以外の相手の防御効果及び破壊耐性、そして世界の法則を幸運判定次第で無効化することが可能となる。
 なお、本来は激情態の時期にのみ確認された能力だが、英霊化したことで通常時から真名解放前に部分的にだけ変身することも可能となったため、非変身時も必ずしも奇襲に対して無防備なわけではない。


『歴史挟みし多元の冊子(ライドブッカー)』
ランク:C+++ 種別:対人宝具 レンジ:0~30 最大補足:10人

『十の道重ねし破壊の尾錠』と番となる、ライダーのもう一つの象徴となるアイテム。全形態共通の『伝承継ぎし二次元の札』ホルダー兼専用武器。
 本型のブックモード・剣型のソードモード・銃型のガンモードの三形態を持つ万能武器である。変身前でも真名解放はできないものの一応使用可能で、その場合は宝具としての気配を絶つことができる。
 武器として用いる場合、威力的には不壊の特性を持つCランク相当の宝具でしかないが、第二魔法を応用した無尽蔵の魔力炉を内包することでガンモード時の弾数制限をないものとしている。なおこの魔力炉によって生産される魔力は他の宝具、及びライダー本体には供給不可である。
 また『伝承継ぎし二次元の札』の効果を受けることで破壊力が格段に上昇し、『世界渡りし王者の証』による真名開放と併用した際に最大の攻撃力を発揮できるが、やはりこれら宝具の真名解放時に消費する魔力はこの宝具が賄うことはできない。


『伝承継ぎし二次元の札(ライダーカード)』
ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1人

 普段は『歴史挟みし多元の冊子』に収納されている、仮面ライダーの伝説を継承した宝具。
『十の道重ねし破壊の尾錠』を用いてそれぞれの真名を解放することで、歴代の仮面ライダー達それぞれの伝説を再現する能力を得られる。
 これらのカードの内、ライダーが保有する正確な種類と総数は明らかとなっていないが、このライダーはあくまでサーヴァントとして再現されて召喚された存在であるためにその全てを実装することはできなくなっている(具体的にはややメタ的に言うと、プレミアムバンダイコンプリートセレクションモディフィケーションのディケイドライバー&ライダーカードで商品化されたカードの内、クウガ~ディケイドまでの仮面ライダー当人らに関連するカードのみを保有しており、劇中未使用のタイムやゼクトマイザー、及び昭和ライダー関連のカメンライドカード等は宝具として再現されてはいない)。

 またカードはいずれも仮面ライダーが担う伝説の力を完全に再現できるが、例えばイリュージョン等の分身能力はそれで増えた頭数だけ、ファイズアクセルフォームなどの加速能力は加速した倍率だけ魔力消費が増加してしまうため、事実上使用不可能となるカードも少なからず存在している。
 なお、他の仮面ライダーを変形させた武器を操るという仮面ライダーディケイドを象徴する逸話が、英霊化した影響によって生前にはなかった召喚能力に昇華されており、ファイナルフォームライドのカードによって対象となる仮面ライダーがいない場合でも変形後の姿を自身の宝具として召喚することが可能となっている。但しライダーのクラスである都合上、この能力の恩恵を受けて実際に召喚できるのは騎乗可能なクウガゴウラム、アギトトルネイダー、リュウキドラグレッダー、ヒビキアカネタカ、ゼクターカブトのみとなる。

『伝承継ぎし二次元の札』は単純な破壊力のみで破壊することはできず、その性質を活かして手裏剣の様に投擲武器としても使用可能。サーヴァント化した恩恵で、敢えて本人が取りに行かずともカードの現界を止めることで回収可能となったため、その点も生前より強化されていると言える。


『世界駆ける悪魔の機馬(マシンディケイダー)』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:0 最大捕捉:-

 大型二輪車の形をした次元移動機である、ライダーの愛車。『伝承継ぎし二次元の札』の効果を受けることで、別の仮面ライダーの専用機への変化も可能とする。またライダーが直接騎乗せずとも、彼の意思一つで無人走行も可能とする。
 普段はライダー本体同様、現界させていても宝具としての気配を絶つことができるため、日常生活でも他のサーヴァントに感知されることなく使用可能。宝具としての解放時にはそれまでは進むことができなかった環境を走破可能になることはもちろん、聖杯戦争の範疇を逸脱しない限りであればミラーワールドや既に展開された他者の固有結界内といった、ライダーが認識したあらゆる異空間への侵入、及び脱出を可能とする。無論侵入防止の結界等の影響は受けることになるが、それらの効果も宝具ランク分抵抗を削減できる。
 あくまで世界を渡る力が主眼となるため、耐久に優れたサーヴァントを轢殺するには不向きだが、それでも解放時には並のサーヴァントを振り回すのに充分な馬力を備える。『歴史挟みし多元の冊子』同様第二魔法を応用した無尽蔵の魔力炉を内包しているため、本来の性能を発揮してもマスターが負担する魔力消費はあくまで現界維持分に留まる。



『世界渡りし王者の証(ケータッチ)』
ランク:A++ 種別:対界、対人(自身)宝具 レンジ:0 最大捕捉:1~999人

『十の道重ねし破壊の尾錠』を予め解放している状態でのみ解放可能な、ライダーの切札たる最強宝具。
 ディケイドを並行世界の王者、または歩く完全ライダー図鑑とも称されるコンプリートフォームへとファイナルカメンライドさせる、タッチパネル式携帯電話型ツール。
 この宝具の発動中はライダーの筋力、耐久、対魔力の値が一ランク分上昇し、自身の攻撃で属性が混沌もしくは悪のサーヴァントに追加ダメージを発生させることが可能となる。
 また、周囲にいる味方の仮面ライダーを相応の魔力を負担することで変身条件を無視し、最強形態へと強化変身させる効果も持つ。

 そして、真名解放後に改めて『世界渡りし王者の証』自体に刻まれた紋章に触れることで、対応する仮面ライダーが最強フォームの状態で実体ある分身体として召喚され、更にその力をライダー本人に投影、事実上召喚した最強フォームの倍の攻撃力を発揮できるようになるという奥の手がある。
 但し、この宝具の発動を維持するだけでも魔力消費は通常時の数倍に跳ね上がる上、同格のサーヴァントをもう一体使役するに等しい召喚能力の発動時はそれが更に倍加してしまう。
 また令呪三画を一度に重ねて補助した場合にのみ、マスターの限界を超えてクウガ~キバまでの最強形態の仮面ライダーを同時召喚することも可能となるが、コレットの声が失われている間は令呪の使用が叶わないため、事実上封印されている。


【weapon】
 上記宝具


【人物背景】

 いつの間にか光写真館に居候していた青年。素性不明で本人も過去の記憶がなかった中、ある日突然彼が居た「世界」が崩壊してしまい、そこに現れた紅渡から並行世界が互いに融合して消滅の危機に瀕していること、「世界を救うためにはディケイドが9つの世界を巡らなければならない」という使命を伝えられ、 仮面ライダーディケイドとして仮面ライダーの世界を巡る旅へ旅立つことになった。
 時に「悪魔」「破壊者」と罵られながらも、訪れた世界が直面する「滅びの現象」を各々の世界の仮面ライダーらと協力して打破し、いくつもの世界を滅亡の危機から救った士だったが、やがて訪れた「ライダー大戦の世界」で次々と仲間が消滅していく中で再会した紅渡に、それらの行いは使命を曲解してしまっていた誤りであったと明かされることとなる。

 彼やその仲間から自分の本来の使命である「“破壊”による全ての世界の“再生”」を宣告された士は遂に、「世界の破壊者」という使命とその運命を受け入れる。その後は並行世界に存在する全ての仮面ライダーを次々と襲い“破壊”して行ったが、最後は新たな仮面ライダーであるキバーラとの戦いでわざと倒された。
 士の死と同時に、ディケイドによって“破壊”されていた仮面ライダーが復活し、更に「滅びの現象」によって消滅していた世界までも全てが再生を遂げる。ディケイドの真の使命とは、「仮面ライダーの世界を一度破壊し倒されることで、消える運命にあった仮面ライダーの物語を永遠の物にする」ためのものだった。
 物語が再生したことによって、全ての並行世界も「滅びの現象」から解放され変わらぬ存続を許されたが、ただ一人――この使命のためだけに生まれた物語を持たない装置である仮面ライダー、ディケイドこと門矢士は、世界再生のために捧げられた生贄として、消滅したままであった。

 しかし、物語を持たなかったはずのディケイドは真相を知った仲間達の想い、誤りであったと断じられていた旅の中で出会った者達との絆を自身の撮っていた写真に込められたことで仮面ライダーディケイドの物語を得て他の存在同様に再生し、復活を遂げる。

 その後スーパーショッカーとの戦いや、魔宝石の世界、さらには沢芽市に出現した地下帝国バダンとの戦いに、世界の破壊者ではなく「人類の自由を守る」仮面ライダーの一人として通りすがり、新たな物語を繋ぐために旅を続けていることが確認された。



 正直な善行を嫌い馬鹿にするような言動を行い、必要があれば何も知らない女性の顔面を平気で殴り流血させるなどする傍ら、自身の大切な存在を助けるために必死で敵を追っている最中でも、標的を取り逃がすことになるとしても見ず知らずの子供の安全を最優先し自ら銃弾に晒されるなど、属性通り己の中のルールを最優先とすることに躊躇いがない。一方で一見して何を大切にしているのか掴み難いひねくれた性格をしており、例え気に入ったマスターの意向に従う際でも生意気な態度を崩すことは基本的にはなく、従順とも言い難い性格をしているため、本来サーヴァントとしては手綱を握るのが難しい部類に入る。

 しかし基本的には誰に対しても尊大な態度で接する士でも子供相手には態度を軟化し、また特に妹の小夜を重ねて見てしまうのかその年頃の純真な少女に対しては比較的素直に接するため、現マスターであるコレットに対しては普段の彼よりもかなり温和となっている。何より彼女と士自身の大切に想う事柄や境遇が大部分で重なっていることから、性格面では非常に相性の良い主従であると言える。



【サーヴァントの願い】
 コレットの十番目の仲間としての役目を果たす。





【マスター】
 コレット・ブルーネル@テイルズオブシンフォニア

【マスターとしての願い】
 聖杯戦争に巻き込まれた人物を、可能な限り元の世界に帰還させる。
 ……もしも余裕があれば、テセアラを衰退させず、自分が犠牲にならなくてもシルヴァラントを再生させられる手段を得たい。


【weapon】
 チャクラム(破損中・使用不可)


【能力・技能】

 天使化した影響で、元は純粋な人間ながら平均的な魔術師程度の魔力供給をサーヴァントに可能とする。まだまだ潜在能力はあるが、特に開花させている余裕のない現時点での戦闘力もほぼその程度。天使術と呼ばれる光属性の上級魔術が使用可能で、命中すればサーヴァントにもダメージを与えられる。
 しかし天使術はもちろん、元々修得していた人間としての技もライダーが宝具を使用している間は消耗のために使用困難となり、飛行能力もマナを利用しているものであるため不安定となる。


【人物背景】

 衰退世界シルヴァラントにおけるマナの血族の末裔。宝玉「クルシスの輝石」を握って生まれたことで神子として育てられ、一六歳のある日に神託を受け世界再生の役目を背負うことになる。神子という立場からイセリアの学校では浮いている存在であったため、友達になってくれたロイド・アーヴィングに単なる幼馴染以上の仄かな想いを抱いていた。

 世界再生の神子として各地の封印を解き、救いの塔を目指す旅に出ることになったコレットは、ロイドを始めとする仲間達と共に故郷イセリアを出発。人類を虐げる邪悪な闇の一族・ディザイアンによる妨害を受けながらも、それらを退け世界再生のために旅を続ける一行の前に、やがてコレットの命を狙う暗殺者・藤林しいなが現れるようになる。
 人間でありながら世界再生を拒もうとする彼女の存在を不可思議に思っていた一行は、後に恩義ある村人のためディザイアンと戦い、同行することになったしいなからシルヴァラントと隣り合うもう一つの世界・テセアラの存在を知らされる。現在シルヴァラントが衰退し滅びに向かっているのはテセアラにマナを吸われているからで、コレットの世界再生の旅が完遂されてしまえばその関係が逆転してしまう故に、現在のテセアラを守らんと差し向けられた刺客こそがしいなの正体だったのだ。
 真相を知ったコレットはシルヴァラントもテセアラも、等しく救われる方法がないものかと心を痛めるようになるものの、二つの世界を救う具体的な解決策が見えないまま、救いの塔へ――世界を再生する天使となるために、人間としての死が定められた場所へと向かうその時を、迎えつつあった。
 永遠の別れが訪れることを、ロイドに云えないまま。



 封印を解くことで徐々に天使として肉体が変化し始めると、紫色に輝く光の羽を纏って空を飛べるようになるなど超常的な力を得、視覚や聴覚も強化されたが、それと引き換えに味覚や痛覚に触覚、眠気や疲労、果ては言葉など人間としての感覚を徐々に失っていくことになった。最終的には精神や記憶まで喪失し、コレット・ブルーネルという人間の少女は事実上の死を迎える運命を定められている。

 普段は心優しくおっとりした性格。時折「だいじょぶ」「どしたの?」などの「う」を抜いた喋り方をする。また、天然ボケな性格でもあり、ロイドの意見に引き摺られがち。かなりのドジっ娘でよく転ぶが、その結果が功を奏して活路を開く場面も少なくないなど、不幸な宿業に反して運には恵まれている。世界中の野良犬に名前をつけて回るほどの動物好き。
 神子として育てられた影響もあり、自己犠牲心や責任感が非常に強い。その感情意識のためか、原作中での選択肢では一貫して「危険よりも人の命を気遣う」ことを好む。
 好きなフルーツを使った料理とクリームシチューが得意。ピーマンが嫌い。強い拘りではないがコーヒーよりも紅茶派。ただし現在は味覚が失われ、また食事が不要な体となっているため無理に食べても戻してしまう。



 世界再生のために捧げられる供物として、大多数のための自らの死を宿命づけられているという共通項が、ライダーを彼女のサーヴァントとして招く要因となった。


【参戦方法】
 過去、トリエットで購入して身につけていたアクセサリがシャブティだった。


【令呪】
 うなじの下側(胸のクルシスの輝石の対となる位置)に刻まれた、三つに分割可能な形で描かれた八枚羽型





【方針】

 聖杯戦争に巻き込まれた全員の脱出を最大の目標とし、そのための手段を模索。他の可能性が見つからない場合には、最終手段としてサーヴァントのみを倒すことで聖杯を狙う。
 コレットが声を失って令呪を使用できないということや、ライダー自身が霊体化できないという理由から、極力互いの距離を離さず常にライダーがコレットを保護できるよう同行する形が基本となる。

 肝心のライダーの性能としては、クラス特性に相応しく豊富かつ強力な宝具を誇るサーヴァントであり、完全に宝具に依存しているもののある程度距離を選ばずに戦闘が可能で、耐久の高さと心眼(真)によって豊富な手札から戦況に応じた最適解を狙える可能性が多いなど、理論上では後の先を取ることでほとんどの敵に優位に立つことが可能となる。

 しかし、伝説の具象であるサーヴァントとの戦いにおいては必殺の概念も珍しいものではなく、先手を譲るリスクは決して無視できるものではないため、その強みを必ずしも活かせるとは限らない。仮に凌げたとしても、先の長い聖杯戦争において消耗する可能性の高い後手後手の戦い方が不利なのは言うまでもなく、押しつけ性能に優れた攻撃手段のほぼ全てが事実上使用不能であることと相まって、実際のところは理屈に比べるとその性能は圧倒的とは言い難い。方針の都合上、自ら積極的に攻めに回れないこともその傾向に拍車をかけている。

 またスキルの都合上霊体化することができない上、長持ちしないインビジブルのカードは代用品には成り得ず、更にはマスターともども使い魔の類を保有していないため、直接戦闘前の諜報面においても多くの敵対者と比べ、収集できる情報は限られてしまうという弱みがある。
 折角独自のスキルである異物の役殻の効果で、フリーのカメラマンという新鮮な情報に接触できる機会の多い役割に就きながらも、掲載すればクレーム必至な怪写真しか撮れない上に性格が性格なのでカメラマン門矢士は現在、市内のどのマスメディアからも煙たがられており、情報網の利用どころか生活費の確保すら覚束無い状況にあるためこの点は深刻と言える。
 なお、自分の代わりにコレットに写真を撮って貰えば良い、ということにはライダーも薄々気づいている。一方のコレットはまずそのことに思い至らないので、一応は写真を撮ることに矜持を持つライダーが早期に妥協できるのかどうかが、今後の彼らの立ち回りを左右する一因になるかもしれない。

 但し、高機動力と高い走破性を併せ持つ上、自立稼働による攪乱さえ可能な騎乗用の宝具を複数保有しているため、様子見レベルの戦闘からの自発的な離脱には優れている。
 あらゆる異界に出入可能な上、燃費にも優れた『世界駆ける悪魔の機馬』の性質と併せ、序盤は機動力と耐久性を活かして斥候としての小競り合いに集中してダメージの蓄積を避け、仕留める場合には然るべき後に容易に弱点を突ける相手から倒しに行くのがベターと言えるだろう。ベストではないのは、令呪を使えないコレットの安全を確保するのであればそもそも単独での戦闘そのものが望ましくはないため。

 ちなみにミラーワールドからの奇襲については、サーヴァント相手だと事前に気配が伝わってしまう上、(リマジ仕様のため)ミラーワールド内に他者を引き込むこともできないため思いの外使い勝手が悪く、あくまで専用の逃走経路と捉えるのが吉。但し基本的にはマスターと同行しているということを考えると、その用途ですら実際に利用できる機会は限られる。

 またマスターであるコレットともども、相手が見知らぬ他人でも傷つくことを放っておけない性格と方針のため衆目に手の内を晒し易く、舞台がよりにもよってゴッサムシティであることもあり、上記の戦法もやはり理論の上ほどには情報戦で優位に立ち回ることはできないと予想される。



 なお、コレットも知らないことだが、封印解放に伴うクルシスの祝福はあくまで天使化を増進するだけで、天使疾患の正体であるクルシスの輝石=ハイエクスフィアの寄生はコレットが受けるストレスによって進行することは変わらず、聖杯戦争という過酷な環境の中で疾患が最終段階に進む可能性も十分に存在しており、それに気づいていないライダーがどこまで彼女の精神を支えられるのかも今後を占う要素になると言える。

 致命的な破綻を迎える前に、目的を同じくする仲間を見つけ出しコレットに安心を与えながら協力していくことが、彼らが勝ち抜く上での鍵となるだろう。



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最終更新:2015年05月10日 17:16