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ある男が精神科医を訪ねた。
男はこう訴えた。



『私の半生は悲惨の一言だ。
 もう人生に何の希望も持てないんだ。
 世間だってひどいものだ。
 先の見えない不安定な社会を、たった一人で生き抜く辛さがわかりますか?』



医者は答えた。



『簡単な事ですよ。
 今夜、あの有名なピエロのパリアッチのショーがありますから、行ってきなさい。
 笑えば気分もよくなりますよ』



突然、男は泣き崩れた。
そして言った。




『でも先生……私がパリアッチなんです』




◆◆◆◆◆




「冗談さ、全部冗談さ」



血反吐と共に、男は————エドワード・ブレイクは弱々しく声を漏らす。
世界一賢い男・オジマンディアスによる『最悪のジョーク』をまざまざと見せつけられ、笑えなくなった筈の道化師は笑みを浮かべる。
ブレイクの心は諦観のような思いに支配されていた。
突如家に押し入ってきた覆面の戦士に敗北し、死の間際へと追い詰められていた。


人間の本性は野蛮だ。
幾ら奇麗事で着飾った所で決して変わることは無い。
理想で塗り固められた社会の平和は、暴力と矛盾によって保たれる。
覆面を被った暴力が悪を叩き潰し、力という正義を振り翳す。
お笑い種だ。まるでブラックジョークだ。
人々が信じたアメリカンドリームさえも所詮は血溜まりの産物に過ぎない。

そんな歪な世界も、最終的に最悪の暴力によって滅びる。
東西対立。冷戦。その果ての核戦争。
最後は核兵器が何もかも吹き飛ばし、この世界を終わらせるのだ。
幾らヒーローがヴィランを倒した所で意味など無い。
最後は核の炎で全てを焼き尽くされ、灰の山が築き上げられるだけなのだから。



世界は所詮、悪趣味なジョークに過ぎない。



ブレイクは時代の本質を見抜いていた。
それ故に、彼は滅び往く20世紀のパロディとなった。
暴力と矛盾に塗り固められた時代を皮肉るコメディアンになることを選んだ。
暴力を享受し、悪徳をどこまでも楽しみ続けた。
男は絶望の世界でジョークを振りまくピエロで在り続けたのだ。



「おお……聖母様、お許し下さい……」



息絶え絶えな状態で、ブレイクの身体は覆面の戦士の手でゆっくりと持ち上げられる。
いつかこうなる日が来るのではないかと思っていた。
あの『最悪のジョーク』を知ってしまった自分が始末されるということを男は薄々感じていた。
そして、彼は敗北した。
己の命を狙う存在と戦い、男は負けたのだ。

男に出来ることは、ただ祈り続けるのみ。
主への、聖母への祈りを捧げるのみ。
暴力を肯定する悪漢でありながら、熱心に神を崇拝するという矛盾。
それさえも、彼にとってのジョークでしかないのかもしれない。




そして—————ブレイクの身体が、硝子の窓へと叩き付けられる。




砕け散る硝子。宙へと放り出される身体。
ブレイクは高層マンションの自室から墜ちる。墜ちる。墜ちる。墜ちていく。
最早どうすることも出来ない。
このまま地面に叩き付けられ、ブレイクは死ぬ。
道化を演じ続けたコメディアンにとってのオチとなる。
そうなるはずだった。





己の死を理解したブレイクの右手には、いつの間にか人形が握り締められていた。



◆◆◆◆◆





冷戦が集結し、核戦争の脅威が去ってからも人の本質は変わらない。
悪徳に塗れ、己の欲望の為に這いずり回る。
溝水で汚れ切った真実は秩序という仮初めの平和によって覆い隠される。
ゴッサム・シティという街はまさに今の世界の縮図だった。
虚飾された輝きの裏でドブのような闇が蠢く。
人々が愛する社会秩序は悪徳という矛盾によって支配される。
まさに文字通り『衆愚』によって構成される都市だった。
欲望と悪徳の渦巻く人間達が支配する世界そのものだった。
『彼』は、そんな街の中へと放り込まれる。




「燃えろよ、燃えてしまえよ」



ごうごうと炎が燃え盛っていた。
ゴロツキ共の根城であるはずの廃ビルの一室は、地獄の形相を見せていた。
慟哭が木霊し、人間だったものが次々と炎に包まれていく。
苦痛の絶叫を上げ、踊るように悶え苦しみながらゴロツキ達は崩れ落ちていく。
最早彼らの肉体は人の形を残さぬ程にまで焼き尽くされていた。



「何もかも灰になれ————————!」



炎の海の中心に立つ女は笑みを浮かべる。
騎士のような鎧を身に纏った女は、その身より炎を撒き散らす。
それは火炙りの刑に処された『魔女』とでも言うべき姿だった。
紅蓮の魔女の前では皆等しく灰燼へと帰す。
憎悪と愉悦に歪んだ笑いと共に、魔女は黒い塊と化した死骸を踏み潰した。


彼らは虐殺され、魔女の魔力の糧となる。
彼女“サーヴァント”が戦い続ける為の燃料としてその魂を消耗されるのだ。
ゴロツキ達は魔女の手によって『魂喰い』をされていたのだ。


炎の中に立つ魔女を、ブレイクは見守っていた。
火の手が回っていない廊下から彼女を見張っていた。
ブレイクは葉巻をくわえ、腕を組んだまま壁に寄り掛かっている。
腑に落ちない表情を浮かべながら『己のサーヴァント』の所業を見届けていたのだ。


「…笑えねえ冗談だ」


ブレイクの口からぼそりと溢れた一言。
それが己のサーヴァントに、そして現状に対し抱いた感情だった。



聖杯戦争。
電脳空間『ゴッサムシティ』で繰り広げられる殺し合い。
あらゆる奇跡を叶え賜うたった一つの願望器を巡る争い。
それがブレイクを巻き込んだ事態だった。
死の間際、いつの間にか握り締めていたシャブティが彼をこの街へと誘ったのだ。

聖杯“Holy Chalice”と言えば知らぬ筈がない。
最後の晩餐で用いられ、イエス様の血を注がれたとされる杯。
あらゆる願望を叶える力を持つ稀代の聖遺物。
欧州では騎士道物語に組み込まれ『聖杯伝説』へと昇華されたという。


規格外の神秘。
主の血で満ちた超級の聖遺物。
それこそが聖杯なのだ。


だというのに、これは何だ。
無作為にばらまいた切符を手にした者を強制的に招待し、殺し合わせ、生き残った者にのみ聖杯が齎される。
奇跡の聖遺物である筈の杯が、凄惨なバトル・ロワイアルの果ての戦利品と化しているのだ。
いつから聖杯は有象無象共の血が注がれる悪趣味な骨董品になったのか。
神が齎すであろう奇跡を冒涜する—————最悪のジョークと言ってもいい。



「熱いよ、熱いよう、身体が燃えるよう」



炎の中で魔女はふらふらと踊るように動く。
猟奇的な笑みと共に言葉を漏らし続ける。
まるで独り言のようにぶつぶつと呟き、笑みを浮かべるその姿は異常そのものだ。

魔女は身も心も狂気的に蝕まれていた。
加虐を、殺戮を楽しんでいた。
何もかも焼き付くし、その心を昂揚させていた。

かつて神の啓示を聞き、国の為に戦い、そして神に見放された乙女。
苦痛と絶望の中で死んだ聖女は世界と神を憎んだ。
そして、乙女は高潔な意志を失った。
炎にその身を焼かれ続ける悪徳の魔女と化した。




それがバーサーカーのサーヴァント——————『ジャンヌ・ダルク』。
フランスの英雄と称される乙女(ラ・ピュセル)。




神への祈りの果てに神を憎んだ魔女は、深い信仰心を持つ悪漢のサーヴァントとして召還されたのだ。

核戦争を回避した21世紀の世界。
変わることの無い人間の野蛮な本質。
神の信奉者によって召還された神を憎む魔女。
そして、主の聖遺物を巡る殺し合い。

新たな時代を迎えても、その本質は過去と変わらない。
世界の全てはジョークに過ぎないのだ。
己のサーヴァントを見据え、ブレイクは改めてそう理解した。



奇跡の願望器を手にすれば、あらゆる願いを叶えることが出来るだろう。
しかし、ブレイクには叶えるべき願いがなかった。
滅び往く世界を救うつもりは無い。
オジマンディアスが齎す最悪のジョークによって救われてしまうのだから。
あの計画を知っていたにも関わらず、ブレイクはそれを止めようとしなかった。
最悪のジョークによって世界は救われてしまうと理解してしまったのだから。


もし聖杯が本当に願望を叶えるというのならば、全てを変えられる。
だが、ブレイクはその選択を選ぼうとはしなかった。
穢れた血で満ち足りた聖杯に縋ろうとは思わなかった。
偽りの聖遺物への祈りを捧げるつもりなど毛頭無かったのだ。


聖杯に託す願いは存在しない。
今更生き残った所でどうなる訳でもない。
しかし、ブレイクは自殺志願者ではなかった。
あの場で散らす筈だった命を土壇場で拾ったのだ。
それを易々と手放す程、ブレイクは愚かではない。
ならば、どうする。
導き出した答えは一つ。



ただ勝ち残り、生還するのみ。



アメリカンドリームを背負ったヒーローが他者を犠牲にし、殺戮を楽しみ、奇跡を打ち砕く。
奇跡を巡る戦いを、誰の奇跡も叶わぬまま終わらせる。
そして道徳を無視した血塗れのヒーローだけが生き残る。
ブレイクが勝ち残れば、聖杯戦争さえもそんな冗談じみた話となるのだろう。
まるで道化師が紡ぐ陰鬱な喜劇のように。

それを成し遂げる為の最大の武器こそがバーサーカーだ。
バーサーカーは歪な笑みを浮かべながらブレイクを見据える。
まだ焼き足りないと言わんばかりに、嗤い続ける。

敵は自分達と同じ、マスターとサーヴァント。
基本的にサーヴァントに対抗出来るのは同じサーヴァントのみ。
その手綱の操り方を見誤れば、待ち受けるのは死のみだろう。
故に決して油断はしない。
自分はあらゆる手を使ってこの戦いに勝ち残る。



「神よ、救い賜え———————」



エドワード・ブレイクは祈るように呟いた。
まるで神への赦しを乞うかのように十字を切る。
己の舞台を失った道化師は、聖杯戦争における『コメディアン』となることを決意したのだ。




【クラス】
バーサーカー

【真名】
ジャンヌ・ダルク@ドリフターズ

【属性】
混沌・狂(悪)

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B+ 魔力C 幸運E 宝具B++

【クラス別スキル】
狂化:C
筋力・耐久・敏捷のパラメーターを1ランクアップさせるが、理性の多くを喪失する。
言語能力は健在だが、狂気に蝕まれた彼女との意思疏通を行うことは困難。

【保有スキル】
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
ただし天からの啓示を感じ取ることはできない。

魔女:B
異端の魔女として処刑された逸話の具現。
死の間際に世界と神を憎悪し、魔女の属性を獲得してしまった。
同ランクの対魔力スキルの効果を発揮し 、更に呪いやバッドステータスへの耐性がアップする。
ただし幸運値が大幅に低下してしまう。

精神汚染:A+
同ランク以下の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
ただし、同ランクの精神汚染を持たない人物とは根本的な部分での意思疎通ができない。
凄惨な最期を遂げた乙女の精神は狂気に支配されている。

【宝具】
『我が神はここに死せり(デゼスプワール・エテルネッル)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
信仰を喪い、狂乱の魔女へと堕ちたジャンヌ・ダルクの象徴。
戦闘時、憎悪や憤怒、苦痛と言った負の感情を己の攻撃力へと変換する。
更に攻撃力の上昇に比例して宝具『紅蓮の魔女』の性能が強化される。
憎しみや怒りに呑まれれば呑まれる程、魔女の攻撃は苛烈さを増していく。
ただし宝具が機能するほど防御力にマイナス補正が掛かる。

『殉教の聖女(フラム・マルティール)』
ランク:C- 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
死後に殉教者として認められ、聖人へと列挙された逸話の具現。
本来ならば聖女としての能力を強化する宝具だが、異端としての側面が色濃く表れた姿で召喚されたことにより能力が劣化。
断罪の業火を操る宝具『紅蓮の魔女』の消費魔力を軽減させるのみに留まる。

『紅蓮の魔女(ラ・ピュセル)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:333
神に背きし異端を裁く断罪の業火。魔女を焼き尽くす聖なる鉄槌。
全てを焼き尽くす灼熱の業火を放出し、自在に操る。
投擲した短剣が刺さった部分から瞬時に発火させることも可能。
更に異教徒や人外の化物といった異端に対しては追加ダメージを与える。
異端として処刑され、後に聖女となったジャンヌ・ダルクの歪な奇跡の具現。

【Weapon】
両刃剣、短剣(いずれも複数本所持)

【人物背景】
百年戦争でフランスに勝利をもたらした聖女。
最期は異端の魔女として苦痛に塗れた非業の死を遂げた。
その後異世界へと辿り着き、ジャンヌ・ダルクは全てを焼き尽くす狂気の魔女と化す。

【サーヴァントとしての願い】
全てを焼き尽くす。

【方針】
全てを焼き尽くす。

【基本戦術】
宝具『紅蓮の魔女』による力押しの攻めが基本。
『殉教の聖女』の効果で宝具の魔力消費が抑えられている上、『我が神はここに死せり』によるブーストが掛かれば高い攻撃能力を発揮できる。
攻勢に回れば優秀な反面、防御に関しては不安が残る。
基礎的な戦闘技術もそれほど高くない為、三騎士との近接戦闘は避けるべし。



【マスター】
コメディアン(エドワード・モーガン・ブレイク)@ウォッチメン

【マスターとしての願い】
生還する。

【weapon】
数々の重火器

【能力・技能】
常人の範疇ではあるが、ヒーローとしての高い戦闘力を持つ。
主に重火器を用いる他、身体能力も高い。

【人物背景】
合衆国直属の工作員であるヒーロー。
ヒーローの活動を禁ずるキーン条例制定後も合衆国のエージェントとしてその活動を認可されていた。
暴力衝動を満たす為にヒーローになった粗暴な悪漢だが、一方で深い信仰心を持つという矛盾した一面を持つ。
非常に頭の切れる人物でもあり、核戦争が目前に迫り破滅へと向かう時代の中で『コメディアン』となることを選んだ。

1985年、ヒーローの一人であったオジマンディアスの計画を知ったことで殺害される。


【方針】
どんな手を使ってでも生き残る。

【令呪】
十字架とそれを囲む炎を模した形状。
消費は右側の炎(一画目)→左側の炎(二画目)→十字架(三画目)。

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最終更新:2015年05月17日 01:47