世界が 燃えて/凍えて 朽ちていく。
□ ■ □
衆愚の街ゴッサムの片隅に立ち並ぶ倉庫の一つ。
本来無人であるある筈のそこは、今異様な熱気に包まれていた。
決して比喩表現ではない。事実室内の温度が上昇しているのだ。
倉庫の内部にいたのは、二人の男であった。
一人は空間の中心部で立ち尽くし、一人は彼の前で無様に倒れ伏している。
見上げる少年は、全身の至る所に火傷ができており、見るも痛ましい惨状だ。
その一方で、見下げる男の方には、傷らしい傷など一つとしてなかった。
いや、見下げる男を"傷一つない"と言うのは、少々語弊がある。
なにせ彼の肉体は、頭から足先まで残らず焼け爛れているのだ。
かつて生きたまま燃やされた傷跡が、今も生々しく残る証拠であった。
焼けた皮膚を包帯で隠し、日本刀片手に少年を見上げる和服の男。
狂獣の如き眼光を敵に向けるこの男こそが、
志々雄真実である。
「なあ坊主、この街は良いものだと思わねえか?」
志々雄から投げられた言葉で、少年の表情が強張った。
彼はこのゴッサムシティを、地獄もかくやの魔都と認識している。
正義の二文字が霧消したこの街は、掃き溜めと言っても過言ではない。
だがこの男は、その衆愚の街を"良いものだ"とのたまったのだ。
「強者だけが生き残り、弱者はドブ底で死んでいく。
弱肉強食を絵に描いたみてえな街だ……気に入った」
そう嘯いた後、志々雄は口角を歪ませる。
この街の仕組みを心の底から歓迎している、そんな笑みだった。
少年には志々雄のその姿が、さぞや恐ろしく映っただろう。
それこそ、地獄で嗤う鬼の如く見えたに違いない。
「聖杯戦争も同じだ。弱ければ死に、強い者だけが生き残る」
手にした日本刀の切っ先を、少年の額に向ける。
彼の視界に映るのは、刀身に鋸の様な刃毀れが付いた歪な剣。
少年はこの奇妙な刃の特性と、志々雄本人の技量の前に敗れたのだ。
志々雄が得物とする剣――無限刃には、これまで斬った者の脂が染み込んでいる。
これに何らかの形で摩擦が生じると、刀身が一瞬大きく燃え上がるのだ。
そして志々雄は、この火を噴く剣の特性を熟知した戦いぶりを見せた。
武術にそれなりに覚えがあった少年でも、その剣技の前では為す術も無かったのである。
刃が目の前にまで迫るという、絶望的な状況。
だがそんな状況にあっても、少年の瞳は死んでいなかった。
彼にはまだ、共に聖杯戦争を生き抜くと誓った相棒がいるのだ。
彼女が生きている限り、まだ逆転の芽は残っているのである。
相棒はもう一人の敵と交戦中だが、令呪を使えばすぐに呼び戻せるだろう。
外見こそ少女のそれではあるが、目の前の敵を瞬殺可能なだけの技量はある。
彼女への絶対的な信頼があるからこそ、少年の心はまだ折れずにいるのだ。
「まだ、だ……俺はまだ……負けてない……!」
「お前の"さあばんと"に頼る気か?」
「そうだ……!俺にはまだ、アーチャーが――」
刹那、少年の背中に凍り付く程の寒気が襲い掛かった。
半ば反射的に視線を後方に向けると、そこには一人の女が立っていた。
ぞっとする様な美貌に、氷を思わせる色合いの長髪。
雪の様に真っ白な制服には、所々に真っ赤な液体が付着している。
音も無く現れた彼女は、片手で重そうな"何か"を引き摺っていた。
「遅かったじゃねえか、ランサー」
「何、少し遊んでいてな」
そう会話を交わしてすぐに、ランサーは"何か"を放り棄てた。
少年の視線の丁度すぐ先に遺棄されたそれは、よく見ると人の面影があるではないか。
「…………まさ、か」
ほとんど原型を留めていないが、"それ"は間違いなく人なのだ。
四肢は捥がれ、両目は抉れ、顎は砕かれ、子宮さえ壊れたそれは。
紛れも無く人間であり、同時に尊ばれるべき命であったのである。
「…………アーチャー…………なの…………か…………?」
少年がほんの少し前まで心を交わしていた、大切な相棒。
彼と大差ない年頃だったであろう少女は、既に肉塊となり果てていた。
少年が唯一の希望としていた仲間は、知らぬ間に落命していたのだ。
「頼みの綱も無くなったようじゃねえか」
くつくつと、志々雄が笑う。
彼の相棒であるランサーもまた、口元を歪めていた。
少年の表情には、絶望だけが張り付いていた。
相棒の屍骸を眼にした途端、少年の心はあっさりと崩壊した。
心中には希望の一寸も無く、ただ失意ばかりが燻っている。
彼が胸に抱く白い光は、志々雄達の黒い炎に焼き尽くされる運命にあった。
「そういう事だ。恨むなら自分の弱さを憎むんだな」
それが最期だった。
無限刀が一閃し、少年の首を刈り取る。
頭部を喪った首から血が溢れ出し、床を赤く染めていく。
こうして、少年と少女の命は堕ちる事となるった。
蹂躙された主従の顔には、苦痛だけが遺される。
彼等にも掲げ上げた願いがあり、その為に戦おうとしたのだろう。
だがそれも、全てを奪われた今となっては何の価値もない。
なんて事は無い。
強者が弱者が屠った。
それだけの話だ。
□ ■ □
「しかし、お前も碌な趣味してねえな」
消えゆくサーヴァントの亡骸を見据えながら、志々雄が言った。
人としての尊厳が徹底的に踏み潰されたそれは、ランサーの趣味の賜物だ。
大方、無力化したアーチャーに対し延々と拷問を行っていたのだろう。
この女の加虐趣味は、誰がどう見ても正気の域を脱している。
「中々壊れにくくてな、つい遊び過ぎてしまった」
当のランサーは、まるで日課を果たした様な口ぶりであった。
そうするのが当然と言わんばかりの態度から、彼女の一面が伺える。
帝国最強と謳われた将軍にして邪悪の権化――その真名を『
エスデス』。
この女もまた、地獄の鬼の如き残虐さを秘めているのだ。
「しかし近隣の犯罪組織を潰して回っていると聞いたが……とんだ拍子抜けだな」
「潰された組織がよほど弱かったんだろうよ」
少なくとも俺の組織よりかは弱いなと、志々雄が嗤う。
彼が此度の聖杯戦争で与えられた役割は、それなりの規模を持つマフィアの首領である。
先代のボスを暗殺する事で強引に組織を乗っ取った、という設定らしい。
「ま、丁度いい肩慣らしにはなっただろ」
踵を返し、志々雄は出口に向けて歩き出す。
ランサーも実体化を解き、寝床に帰る彼に着いていった。
両者共に、今しがた屠った少年少女などまるで気にも留めてはいない。
道端で歩く蟻を踏み潰すのと同じだ。気にする程の価値も無い。
「閻魔相手に地獄の国盗りでも始めるつもりだったが……中々面白い祭りに呼んでくれるじゃねえか」
志々雄は本来、地獄に向かう筈の身であった。
限界を超えた肉体が発火を起こし、現世から消滅する。
それが彼の本来辿るべき道筋だったのだ。
だが、何者かが捨て置いたシャブティが、彼の魂を拾い上げてしまった。
それ故に志々雄は地獄に行く事も無く、ゴッサムで生を実感している。
偶然掴み取った第二の人生、愉しまなければ損というものだ。
『愉しそうだな、志々雄』
「そういうお前はどうなんだ、ランサー」
『愉しいとも。これから更なる闘争が始まるのだからな』
そう遠くない内に、聖杯戦争は本格的に始動する。
戦いの火蓋が落とされた瞬間、ゴッサム全土が戦場と成り得るのだ。
そしてそこにあるのは、強さだけが試される強者の世界である。
『弱者は徹底的に蹂躙され、強者だけが願いへの切符を手に入れる。
"弱肉強食"がこれほど如実に示されているのだ、昂ぶらずにはいられないな』
「ハッ、流石は俺のサーヴァントだ……意見が合うじゃねえか」
そう話す志々雄が表情に映すのは、やはり笑みであった。
例え何処が舞台であろうが、志々雄の理念は変わらない。
"弱"い者が"肉"となり、"強"い者がそれを"食"い潰す
聖杯が最後に残った強者を選ぶのであれば――志々雄は全てを食らうだけだ。
「それじゃあ――――聖杯(くに)を盗るとするか」
【CLASS】ランサー
【真名】エスデス
【出典】アカメが斬る!
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力:C 耐久:D 敏捷:B 魔力:A 幸運:C 宝具:B
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
【固有スキル】
拷問技術:A
卓越した拷問技術。拷問のダメージにプラス補正がかかり、情報を吐かせやすくなる。
ランサーの場合、対象が最大限の苦痛を覚えるありとあらゆる手段を用いて拷問を行う。
カリスマ:C
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
自身が率いる部隊の戦士をまとめ上げるには、Cランクで十分と言える。
心眼(偽):A
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
精神汚染:C
生粋の異常者。同ランクの精神干渉を無効化する。
このスキルを所有している人物は、拷問を始めとした残虐行為を嬉々として行う。
【宝具】
『魔神顕現・天地絶氷(デモンズエキス)』
ランク:B 種別:対己宝具 レンジ:- 最大補足:-
ランサーが体内に混入させている帝具。
北方に潜む危険種の血液であり、これを飲んだ者は氷を生み出す能力を得るとされる。
飲むと常人には耐え難い程の破壊衝動に襲われるが、ランサーはその衝動を完全にコントロールしている。
あらゆる空間であらゆる形状の氷を生成、コントロールできる為、その応用力は極めて高い。
更にランサーは"奥の手"として、"時間の凍結"による疑似的な時間停止さえ実現させている。
【weapon】
『無銘・レイピア』
ランサーが得物とする武器。"斬る"より"突く"に秀でている。
【サーヴァントとしての願い】
最愛の少年を手中に収めたい。
【マスター】志々雄真実
【出典】るろうに剣心
【マスターとしての願い】
この世界の武器と知識を手土産にもう一度国盗りをする。
【weapon】
『無限刀』
新井赤空の最終型殺人奇剣。
刃全体にあえて鋸状の刃毀れを作る事で、殺傷力の長時間持続に成功している。
また、刃の部分にこれまで斬った人間の脂が染み込んでおり、摩擦により刀身を発火させる事が可能。
【能力・技能】
卓越した剣技と並外れた打たれ強さ、そして極めて高い身体能力を誇る。
ただし、生前全身に大火傷を負った為に、肉体の発汗機能が死滅してしまっている。
その故に身体は常時異常な高温を保っており、15分以上戦闘を続けると人体発火を起こしてしまう。
【方針】
聖杯を獲る。
最終更新:2015年05月13日 02:37