破壊せよ、破壊せよ、破壊せよ。
◆
カチャリ、と。
歩くたびに鉄がこすれる音を聴いていた。
聞こえるはずのないその音は、例外もなく今日も耳に響く。
いつから、聞こえ始めたか。
思い返さなくても分かる。
家族が死んで、家族が現れた時からだ。
母が死んでから、居場所が失くなったからだ。
今ある場所から、どこかへと行こうとする。
その意志を許さないように、鎖の音が響く。
「魔術回路……IS適正……」
誰もいない空間で、小さく言葉をつぶやく。
少女、シャルロット・デュノアが所持している回路。
『IS適正』と呼ばれる物とよく似たもの――――らしい。
今はもう居ない、母が教えてくれたものだ。
自身は既に凋落した魔術師の血を引いている。
『忘れてしまってもいいけど、知らずに居ないままではいけないだろう』と、母は言っていた。
現実、その魔術回路と呼べるものがシャルの役に立ったことはない。
むしろ、『IS適正』と呼べるものほうが役に立っている。
妾の子である自身にとっては、まるで針の筵のような生活ではある。
だが、その『IS適正』のおかげで自分の意味が出来た。
「……」
父に伝えられた言葉を思い出す。
子である自分が父と交わした、父と子とは思えない事務的な会話。
ISという女性だけが扱えるとされる超兵器の技術のために、日本という極東の国へと出向くこと。
そこで、男性にも関わらずISを扱える広告塔として生活すること。
父にとって、自身は『息子』でも『娘』でも関係のない噺のようだった。
事実を認識するたびに、鎖の音が聞こえた。
父は自身を受け入れていないように思えた。
世界に居場所はない。
「……ッ」
胸が、締め付けられるように痛んだ。
締め付けるものは刺を持っているように痛みを味わせてくる。
鎖だ。
見えもしない鎖に、自分は繋がれている。
かつてあった居場所を求めるように、鞄からあるものを取り出す。
『シャブティ』と呼ばれるお守りだ。
困ったときにはお祈りをしなさい、と、母がよく言っていた。
幼少の自分は、この人形のような呪い具を気味悪がって近寄ろうとしなかった。
そんなものも、今となっては限られた母との想い出の一つだ。
母を思いながら、シャブティを抱きしめた。
世界に居場所が欲しい、と。
少女は、哀しさも忘れたのに思わず涙を流した。
その涙は、一つの混沌を呼び寄せた。
波紋が広がるように、世界は歪み、混沌へと招かれる。
破壊せよ、破壊せよ、破壊せよ。
自由が破壊された世界。
その暗闇の中で、なお自由を求めるものから自由を奪うものの全てを。
破壊せよ、破壊せよ、破壊せよ。
◆
握りしめた拳を眺めるように、地面に転がる与太者を見下ろしていた。
人を模した、しかし、人ではない黒い影だった。
紅い眼球から涙が流れるように黄色の流線が頬を伝い、口元は怒りを噛みしめるように真一文字に唇が結ばれている。
人造人間。
張りのある黒い皮膚に隠された隆起した筋肉は、明らかに人のそれを大きく上回っている。
「痛てぇ……」
「ぃぁ……」
「ぅ……ぁ……」
最初の一人は運が良かった。
一人は首の根元を強く強打され、呼吸をすることでさえ苦痛を帯びる傷を負った。
一人は顎を強かに打ち付けられ、口元を動かすことすらままならない。
それを考えると、鎖骨と肩甲骨を折られて腕を動かせないだけの男は運が良いと言えるだろう。
元はといえば、見るからに『カモ』としか見えない少年に絡んでいっただけだった。
この暗黒の都市には相応しくない、気品と呼べるようなものを感じさせる動作をした少年だった。
そんな少年が一人で出歩いていれば、それはもう『カモ』以外の何者でもない。
だが、少年は一人ではなかった。
三人の与太者は力の化身が側に佇んでいたことに、全く気が付かなかった。
黒い、黒い、黒い、力そのものと呼べる人造人間。
「……ぁ」
与太者達は怯えるように、黒い異形の怪人を見つめる。
人造人間は興味を失ったように、不用心なまでにその与太者達へと背中を向けた。
そして、背後に居た自身の召喚者へと、その紅い眼球を向けた。
背後から重いものを引きずるような音が聞こえた。
与太者たちが、無様に逃げ去っているのだ。
人造人間も、召喚者も、もはや与太者に興味などない。
「……」
「……」
沈黙。
召喚者と人造人間は、お互いに言葉を発しない。
人造人間は、相も変わらずにその口元を真一文字に硬く閉めている。
紅い眼球が、より深く、より紅く光った。
少年と呼ぶにも華奢な召喚者は、その光に怯えるようにして細い肩を震わせた。
「お前は女だ」
「……」
「なぜ、偽る」
人造人間は少ない言葉で、少年と偽った少女へ尋ねかける。
少女は、シャルロット・デュノアは応えない。
正確に言えば、応えることが出来ない。
人造人間の、自身の召喚した従者であるライダーのサーヴァントの雰囲気に呑まれているのだ。
「何が……お前を縛っている……」
「……」
人造人間の言葉に、シャルは応えない。
自身を縛っているものは、それこそ、自分以外の世界の全てだ。
妾の子である自身は、自身の父から存在を認められていなかった。
利用価値があると判断されて、子であることを認められた。
いや、それは正しくない。
認められたのは『子』としてではなく、『道具』として、だ。
少なくとも、シャル自身はそう思っている。
そのシャルの思いこそが、シャルを束縛している。
子として親に認められない、まだ未成熟の子供であるシャルには自身の居場所はない。
この世界のどこにも、自身の居場所と呼べる場所がない。
だから、シャルの心を縛り付けているものは、自身を拒絶する世界そのものだ。
「破壊だ……」
そんなシャルの心を見透かしたかのように。
シャルを縛り付けているものを感じ取ったかのよに。
大地すらも震わせるような、低い声で人造人間は呟いた。
その瞬間、シャルは今まで感じ取っていた震えの正体を理解した。
この震えは、ゴッサム・シティには付き物の与太者に絡まれていた時とは段違いの恐怖だ。
『破壊』に対する恐怖だ。
この世に居場所がないと感じていた自身すら世界が恋しくなるほどの恐怖。
『破壊』だ。
「俺は全てを破壊するもの……俺は全てを裁くもの」
胸の回路に指令が走る。
それこそが人造人間の存在証明。
シンプルにして、余りにも悍ましい指令。
その言葉が、人造人間自身から語られる。
「俺の名は……俺の名は――――」
――――『破壊だ<<ハカイダー>>』――――
破壊せよ。
束縛を秩序とするのならば、人造人間は混沌だ。
破壊せよ。
選民を正義とするのならば、人造人間は悪だ。
破壊せよ。
正義と悪が相対的なものであり、同時に正義の定義が定まっていない。
だからこそ。
人造人間ハカイダーは。
『罪悪』と名のついたスーパーマシンを駆り。
『自身こそが正義である』と傲岸に嘯く全てを。
――――『破壊』する。
『正義』の名の下に駆逐される『自由』があるのならば、縛り付ける『自由』という鎖を破壊する。
だが、解放された奴隷たちは勘違いはしていけない。
もしも、人造人間ハカイダーを『解放の英雄』という『鎖』で縛りつけようとするのならば。
必ず、その『鎖』を打ち破るために、人造人間ハカイダーは牙を向ける。
そうだ。
自由とは、そこに存在する自由は、誰も縛り付けることは出来ない。
罪悪に跨った破壊者には、本来関わってはならないのだ。
破壊せよ、破壊せよ、破壊せよ。
潰せ、壊せ。
この秩序という鎖で編まれた機械仕掛けの世界の全てを、破壊せよ。
【クラス】
ライダー
【真名】
ハカイダー@人造人間ハカイダー
【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:A 敏捷:D 魔力:E 幸運:D 宝具:D
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
【保有スキル】
反骨の相:B
一つの場所に留まらず、また、一つの主君を抱かぬ気性。
自らは王の器ではなく、また、自らの王を見つける事のできない放浪の星である。
同ランクの「カリスマ」を無効化する。
千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
『ハカイダーアイ』という赤外線サーチ機能をもつハカイダーの目。
ターゲットを多次元的に捉えることが可能で、これによりハカイダーショットは百発百中の精度をもつようになる。
勇猛:A
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
【宝具】
『罪悪証明(ギルティ)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
ハカイダー専用のバイク、ハカイダー自身と同じく対消滅エンジンを搭載している。
ハカイダーへの変身と同時に車体の青いランプが発光、アクティブとなる。
後部にはハカイダーショットのホルダーが取り付けられている。
最高速度は666km/h。
『破壊証明(ハカイダー)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:100人
『破壊者』の名を持ち、複数の兵器が装備されたハカイダーの機体そのもの。
数人をまとめて破壊する『ハカイダーショット』、『アームショット』を主兵装とし、隠し兵装として胸部に『破壊砲』を持つ。
他にも人間の脳髄に似た形状を持ち怒りとともに紅く発行する『ハカイダーブレイン』、
戦意を高揚させる第二の電子頭脳である『破壊回路』、
多角的な視覚と赤外線センサーを備えた『ハカイダーアイ』がある。
ハカイダーの自身の全ての兵装を扱い、世界の全てを破壊する。
『存在証明(ラスト・ジャッジメント)』
ランク:D 種別:対秩序宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
鎖を引き千切るもの、『破壊者<<ハカイダー>>』の逸話が昇華した宝具。
混沌が無法の一面を強く持つように、秩序は拘束の一面を強く持つ。
ハカイダーはあらゆる概念的な拘束術式・兵装に対して強い耐性を持つ。
また、属性が秩序であるサーヴァントと相対した時、筋力と耐久と敏捷を1ランクアップさせる。
【weapon】
『ハカイダーショット』
ハカイダーの使用するショットガン、超高周波炸裂弾を発射する。
超高性能なショットガンであり、ハカイダーの能力と相まって百発百中である。
発射による反動・衝撃は凄まじく、ハカイダーと同等以上の能力を持たないロボットが撃った場合、肩や腕が吹き飛ばされる。
モデルとなった銃はレミントンM870。
『アームショット』
ハカイダーの右腕に隠されている小銃、ハカイダーショットとは弾丸が共通である。
ハカイダー本人のエネルギーを付加すればハカイダーショット以上の破壊力を発揮する。
作動システムは独立しているようで、腕を切断されても使用が可能で、通常版のミカエル戦車戦において使用される。
隠し武器的な扱いではあるがその威力は凄まじく、ミカエルの腕を一撃で破壊する。
『破壊砲』
胸部の十字型の傷から出現する三門の砲身。ディレクターズカット版にのみ登場。
【サーヴァントとしての願い】
破壊
【基本戦術、方針、運用法】
白兵戦において高いスペックを誇る。
反面、神秘という面においては適正が低く、神秘を前提とする防御に対しては突破性が低くなっている。
【マスター】
シャルロット・デュノア@インフィニット・ストラトス
【マスターとしての願い】
自らの居場所を求めている。
【weapon】
『IS(インフィニット・ストラトス)』
宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。
宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用が始まり、各国の抑止力の要がISに移っていった。
ISはその攻撃力、防御力、機動力は非常に高い究極の機動兵器で特に防御機能は突出して優れている。
シールドエネルギーによるバリアーや「絶対防御」などによってあらゆる攻撃に対処できる。
その為、操縦者が生命の危機にさらされることはほとんどない他、搭乗者の生体維持機能もある。
核となるコアと腕や脚などの部分的な装甲であるISアーマー、
肩部や背部に浮遊する非固定装備(アンロックユニット)から形成されている。
前述のシールドエネルギーの存在から余計な装甲が必要ないため、搭乗者の姿がほぼ丸見えな形状だが、
ごく初期や軍用の機体には身体全体を覆う全身装甲(フルスキン)が存在する。
ISは武器を量子化させて保存できる特殊なデータ領域があり、操縦者の意志で自由に保存してある武器を呼び出すことができる。
ただし、全ての機体で量子変換容量によって装備には制限がかかっている。
ハイパーセンサーの採用によって、コンピューターよりも早く思考と判断ができ、実行へと移せる。
『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』
シャルロットの第2世代型IS、ラファール・リヴァイヴをカスタムした機体。
基本装備の一部を外した上で後付け装備用に拡張領域を原型機の2倍にまで追加しており、その搭載量は追加装備だけで20体になる。
高速切替と合わせ、距離を選ばない戦いができる。
機体カラーはオレンジ色。待機形態は十字のマークのついたオレンジ色のネックレス・トップ。
【能力・技能】
『IS適正』
操縦者がISをうまく操縦するために必要な身体的素質、ISランクとも呼ばれる。
値が高いほどISを使いこなす可能性が出てくるが、訓練や操縦経験の蓄積などで変化することもあるため、絶対値ではない。
【方針】
居場所が欲しい。
最終更新:2015年05月14日 01:04