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夏枯れの気配は英雄と美姫すらも例外なく捕まえる。
かつては太陽の如き輝きを放った栄光の季節も、やがて日が暮れるように穏やかな色に染まる。
殺して、逃げて、殺して、逃げて。
逃げ切った末に、演劇は終わったはずだった。
なのに、元よりカーテンコールを済ませた演劇なのに。
幕を閉めた演劇は、無遠慮に役者をたたき起こして、再び開かされた。
スカラムーシュは、疲れた瞳で虚空を眺めた。

――――ここで泣き寝入りしてしまうか?

スカラムーシュはニンジャだが、逆に言ってしまえばニンジャであるだけだ。
より強いニンジャは、それこそ、ネオサイタマに降り注ぐ酸性雨の雨粒の数ほども存在する。
目に焼き付いた赤黒のニンジャが、そうだ。
だからといって、これを受け入れろというのだろうか。
因果応報と呼ぶには、あまりにも遅すぎる。
ならば、三度。
三度目の演劇を開いてみせようではないか。


太陽の消え去った宵闇よりもなお昏い街の中を、その暗黒すらも上回る儚さで、人々は表情を絶望に染める。
宇宙殖民など稚気じみた夢。
人々は灰色のメガロシティに棲み、夜な夜な違法事項へ逃避する。
政府を嘲り笑う犯罪者の群れが、社会という人間の性を冒涜する。
ここはゴッサム・シティ。
0と1の空間に浮かび上がった、栄光の奇跡へと至るための昏い暗黒の都市だ。





目を開ける。
ここは暗黒都市ゴッサム・シティ。
旧世紀のネオサイタマと呼べるような、未来のない街。
ネオサイタマに比べれば、ゴッサム・シティは電子ネットワークとサイバネ技術などないに等しい。
それでもこの都市は暗黒だ。
それでいい、『ニンジャ』である自分には相応しい舞台だ。

「シューッ……」

四方に『体験』のスピリチュアル・ショドーを飾ったザゼン・ルーム。
その中心でアグラするのは、黒緑色の装束を着たニンジャである。
俯いて動かずにいたその者がゆっくりと顔を上げる。
メンポの奥の双眸には気力が満ち、油断ならぬアトモスフィアが背中から立ち昇った。
道化のコードネームを自らにつけたニンジャは、すぅ、と息を吸った。
イメージするものは、赤黒のニンジャ。
見よう見真似だ、思えば、ニンジャのインストラクションとはそう言ったものだ。
所詮、サンシタに過ぎない自分では盗むものだ。
男、『カイダ』はニンジャだ。
『スカラムーシュ』として暗黒都市ネオサイタマの暗部を住処とし、より深い暗黒に利用されて全てを失った。
聖杯を使って、その全てを取り戻してみせる。

「イヤーッ!」

カラテシャウトを上げて、アグラの体勢から素早く立ち上がる。
バク転をしながら、部屋の中を動き回る。
スリケンが飛び、スカラムーシュが舞う。
常人が見れば、NRS(ニンジャ・リアリティ・ショック)症候群を引き起こすほどの、痛烈なニンジャ証明。
凄まじい勢いのまま動きまわり、スカラムーシュは『ターン!』と強烈な音を立てて扉を開けた。


『おかえりなさい、ボブ。頼んでおいたもの、買ってくれた?』
『それがさぁ、聞いてくれよジェニファー』
『はいはい、今度は何?ペンギンの大群が貴方に頼んだお魚を襲って奪っていったのかしら?』
『正解だよ、海戦大作戦のやつが俺の金を奪っていきやがったんだ』
『もう……』


途端にけたたましい音が響き渡る。
発信源はテレビだ。
テレビが放映され、その内容をテレビの前に陣取った男へと情報を届けている。

男は、英雄だった。

ニンジャでありながら、カラテのワザマエの未熟さ故にサンシタに過ぎないスカラムーシュとは違う。

男は、かつて存在した気象戦隊ウェザースリーの一人、『ウェザーレッド』。

その『ウェザースリー』の解散を経ての独立。

『天体戦士サンレッド』として、日本国神奈川県川崎市溝口を守り続けた偉大なるヒーローだ。

「ふぁぁあ……」

サンレッドは大きな欠伸をこぼし、茶菓子へと手を伸ばした。
太陽を模したマークのついた赤いマスクはつけておるものの、その姿は淡い水色のTシャツと短パンを履いたラフな格好だ。
その姿は休日に自宅でくつろぐ土方の兄ちゃんとなんの違いもない。
違いがあるとすれば、この男、サンレッドは一年三百六十五日の毎日が休日であることぐらいだろうか。

「味っ薄いな、これ、おい……」

わざわざ買わされた御座に横になったまま、流れるポテトチップスを味わいながらテレビを見つめている。
アンテナの感度が悪いのか、どこかモザイクが掛かったようにテレビに雑音が交じる。
マスク越しに、眉をしかめた気がした。
だが、スカラムーシュは、不満気なサンレッドよりもより強く顔をしかめた。

「アーチャー! お前な、俺の、セイシンテキをだな!
 俺のカラテを、お前!」
「いいから、カイダ。さっさと煙草買ってこいよ、煙草」

スカラムーシュは己の鍛錬を横にくつろいでいたサンレッドを叱責するが、サンレッドは取り合わない。
それどころか視線も向けず、背後で何かを行っていたスカラムーシュへと、本名であるカイダの名で呼ぶ。
その姿が、スカラムーシュを余計に苛立たさせた。

「カイダはやめろ、俺はスカラムーシュだ!
 いいか、おい、俺はニンジャだ。
 だから、こう、威厳が居るんだよ!
 アトモスフィアだ!」
「分かったからよぉ……煙草だよ、煙草」

ふぁぁ、と大きく欠伸をして、サンレッドは立ち上がった。
そして、冷蔵庫を開き、缶コーヒーを取り出す。
何気なく目を向けたそのラベルに、しかし、怒りのままに目を見開いた。

「なっ……だからお前! なんで無糖なんだよ!
 ヤメろっつただろうが! 何度言えばわかるんだよ!」
「腹に入っちまえば同じだろ! 不満なら砂糖でも入れろよ!」
「てっめ、下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」

今までの態度は下手に出ていたという強烈な事実を告げられ、頭がクラクラとする。
それでも、それでも必死に考える。
この面倒くさいサーヴァントを使って聖杯戦争を勝利する方法を。
スカラムーシュは考える。

「……アーチャー、それよりお前、早く偵察とか行けよ。
 聖杯戦争はもう始まってるんだぞ!」
「偵察……? あー、はいはい、偵察ね。
 無理無理、バイクないからよっ。
 バイクなきゃ遠出なんて出来ねえだろうが」
「……? なんでないんだよ、ライダーのクラスじゃないからか?」

サンレッドの言葉に、スカラムーシュは目を丸くした。
バイクを所持していない、乗り物はライダークラスでないと持ってこれないのだろうか。
あり得る、英霊の愛機だ。
それだけでクラスという役割を決定させるほどの強烈なものかもしれない。
アーチャーのままでは所持できないのだろう。


「免停くらってんだよ、俺。
 いやぁ、参ったわ……不便なもんだな」


免停。
一瞬、スカラムーシュの頭が思考を止めた。
免停。
その言葉を噛みしめるようにして、振り絞るように口を開いた。

「め、免停……関係ないだろ、そんなの……
 だって、お前、サーヴァントが法律とか……関係、ないだろ……」
「馬っ鹿かお前、ヒーローが免停でバイク乗っていいわけねえんだろ。
 イメージってもんがあるんだよ、イメージってもんが」
「バカハドッチダー!!」

スカラムーシュは容赦の無い罵りの言葉を繰り出す。
慈悲深きブッダでさえも目を背けるほどの汚い言葉。
肩で息をしながら、言葉を続ける。

「サーヴァントに免許もなにもないだろ!
 糞、馬鹿にしてるなお前!」
「うっせー!」

ついにキレたサンレッドが硬く握りしめた拳を振りかざした。
スカラムーシュが防御姿勢に移るよりも早く、その拳はスカラムーシュの頭部にぶち当たる。

「あっつい!!」

サンレッドの放った拳がスカラムーシュに直撃し、スカラムーシュは情けなく悲鳴を上げた。
その拳には炎が纏っている。
カトン・ジツだ、それも信じられない程に高位の。
間違いなく、サンレッドはスカラムーシュの数倍、数十倍のカラテを持つ英雄だ。
『弓兵<<アーチャー>>』のクラスで顕現したサーヴァントは、しかし、一向にスカラムーシュの言葉に従わない。

「令呪は使わない、俺は冷静なんだ……!」

それでも、令呪は使わなかった。
たった三角の絶対命令権。
これを使用すれば、瞬間移動やただでさえ強力なサーヴァントの強化すらも可能となる。
そんなものを、窮地でもないのにただ従わせるためだけに使用するのは愚の骨頂だ。

「くっそ、ムカつくぜ……寝るぞ、おい」
「なっ!」

一発殴ってもなお怒りが収まらないか、サンレッドはふてくされたように茣蓙に転がった。
スカラムーシュは呆気に取られるが、すぐに怒りを再燃させる。
聞くに堪えない罵声をサンレッドの背中へと叩きつけた。

「バカ! ふざけるな!
 聖杯戦争を、お前、くそ、おい!」

サンレッドに、スカラムーシュの言葉は届かない。
気むずかしい……いや、我儘なだけのこのサーヴァントの扱いにスカラムーシュは頭を抱えるしかなかった。




襲ってきた連中をカラテで殺害する。
突如手に入れたこの超常のニンジャの力。
しかし、それでもカイダは必死だった。
抱える美しい女に襲いかかろうとする銃弾を弾く。

追手を殺して。
追手から逃げて。
追手を殺して。
追手から逃げて。
追手を殺して。
追手から逃げて。

その繰り返しだった。
ニンジャの力に溺れる余裕などなかった。
それでも、その女は完璧な女だった。
命を懸けて守るに値する女だった。
やがて追手から完全に逃げ切った。

しかし、夏枯れの気配だけは英雄と美姫も例外なく捕まえてみせた。
逃げ切った先で、カイダはスカラムーシュという道化のサンシタ、『群衆』へと落ちた。
逃げ切った先で、女は日々のカイダの行動に不満を重ねる口うるさい同棲相手へと変わった。

「……それでも、か」

その光景を、サンレッドは見ていた。
これはスカラムーシュの、カイダの過去。
失った全て。
恋人を失った、どこか情けない男。
サンレッドは、その過去に呼ばれて顔を出した。

「情けないこった……」

それでも、笑うことが出来なかった。
超常の力を持ちながらも必死に銭を稼ぐ男と、不満げながらも男を待つ女。
立場は逆だが、自身と重ならなかったと言えば嘘となる。

「けっ……」

誰かの欲望のために拳を振るうのは、ヒーローとしての誇りがなくなる気はしていた。
それでも、カイダに自分を重ねてしまった瞬間、見捨てることが出来なかった。


荒れていた生前に重ねた因果だと呼ぶには、少し、遅すぎる。




【クラス】
アーチャー

【真名】
サンレッド@天体戦士サンレッド

【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:D 敏捷:C+ 魔力:C 幸運:C 宝具:A

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
単独行動:E-
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクE-ならば、マスターを失っても一時間ほどは現界可能。
生前、恋人に養われていた逸話から最低クラスのスキル適性を持つ。

対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
魔力放出(炎):B
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
サンレッドの場合、燃え盛る太陽の炎が魔力となって使用、武器であるサンシュートから火炎弾を放つことができる。

変身:C
自らの状態へを変化させるスキル。
通常のバトルスーツの他に、筋力に+補正を得るヒュペリオンフォームと敏捷に+補正を得るプロミネンスフォーム。
そして、究極のバトルスーツであり自身の宝具であるファイアーバードフォーム。
通常のバトルスーツも含めて、合計で四種類のバトルスーツへと変身することができる。

無勤の墮落:A
『労働』という概念について強烈な嫌悪感を覚えてしまうバットスキル。
生前の『生活の一切を恋人に養われることで生活していた』という逸話から生じたもの。
サンレッドが乗り気でない限り、令呪を用いても100%のパフォーマンスを発揮することが出来ない。

【宝具】
『不死鳥は東の空から翔け昇る(ファイアーバードフォーム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:500人
サンレッドの持つ太陽の力をより強まった状態へと至るためのバトルスーツ。
魔力放出(炎)のスキルランクがワンランクがアップし、また、耐久が2ランクアップする。
生前、使用に対してデメリットは存在しなかったが、サンレッドが強敵であると認めない限り使用しなかった。
今回はマスターの魔力供給も莫大なものとなるため、使用には制限がかかる。

後述の宝具、『天輪燦めく暴虐の赤光(コロナバスター)』はファイアーバードフォームでない限り、使用できない。

『日輪燦めく暴虐の赤光(コロナバスター)』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:1000人
太陽の中心核の温度を上回る2千万度の炎の玉を放ち、相手を焼きつくすまで追い続ける。
通常時の兵装である拳銃型の兵装『サンシュート』に換装して使用する。
その威力は絶大なものであり、太陽の炎の力を放出したエネルギー波は大気圏を突き破り宇宙空間へと飛び出すほど。
使用にはマスターからの魔力供給の他にも電力が必要であり、サンシュートに専用の充電器を繋いで充電する必要がある。

【weapon】
『サンシュート』
拳銃型の携帯武器。
戦闘員クラスなら、これだけでイチコロとのことだが紛失している。
最後に見たのは2年ほど前に工具箱に入っていたときらしい。

【サーヴァントとしての願い】
特に無い。
ただ、スカラムーシュに焼きついた同棲相手の死のビジョンというトラウマに嫌悪感を覚えて現れた。

【基本戦術、方針、運用法】
白兵戦に秀でたサーヴァント。
しかし、気分屋であり強制すればスペックが落ちるという扱いづらいサーヴァントでもある。


【マスター】
スカラムーシュ(カイダ)@ニンジャスレイヤー

【マスターとしての願い】
一度目はハッピーエンド。
二度目は遅すぎたインガオホーによるビターエンド。
三度目の舞台演劇は、ハッピーエンドへと変えてみせる。

【weapon】
ニンジャソード

【能力・技能】
『ニンジャソウル憑依者』
太古の世界を支配した半神的存在であるニンジャの魂が憑依。
常人とは比べ物にならない身体能力を誇る。
しかし、カラテ、すなわち技術に限って言えば未熟である。

【方針】
聖杯を手に入れる。

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最終更新:2015年05月18日 03:28