―――産まれ堕ちれば、死んだも同然。
▲ ▲ ▲
くちゃくちゃ。ぎしぎし。がりがり。
みずみずしい、肉の音。
まずは腹を裂く。どぷりと血液が流れ出すが、まあ気にしている暇はない。
少し血液を拭いてやると、サーモンの切り身のような綺麗な腹直筋が見えた。
細部まで鍛えてあるのか、薄さこそ常人と変わらないものの、程よい弾力と健康的な色をした上質な筋肉だった。
「あ―――ぎぃ、が」
「お、痛かったか?すまんすまん、まあもうちょっとで終わるから我慢してくれや」
「な、にが」
我慢だ、と青年は呟くが目の前の男―――今まさに自分を診療代に乗せ切り刻んでいる男には、届いていないようだった。
薄々解っている。この男の言う『終わる』は、『解放する』という意味ではないことは。
恐らく、この時点で―――いや、この男に捕まった時点でこの青年の運命は決まっていたのだろう。
解剖され、己の身体が部位ごとに次々と切り取られていく激痛に絶えられず絶命するか。
痛みに耐えることを脳が拒否し、先に心が死ぬか。
簡単な二択だ。身体が先に死ぬか、心が先に死ぬか。
奇跡など起こらない。サーヴァントすら呼ぶことが出来なかった青年は、スーパーに並ぶ豚や牛のように切り分けられる。
でも。もしかしたら。
この場でサーヴァントが現れて自分を救ってくれるのではないか―――と。
左手には令呪が宿っている。
宿っているのだ。
サーヴァントさえ呼ぶことができたら―――この男を殺し、自分も助かるのではないか。
震える手が伸びる。
ああ、そうだ。
自分はまだ負けちゃいない。勝利の芽が完全に潰えた訳でもない。
ならば、諦められない。
そう、震える手を伸ばそうとした青年に。
「あー…大して変わんねえな。さっさと済ませちまうかァ」
死刑宣告が、行われた。
「あ、ガッ、ぐぎ、あああああああああああああああああああああああ―――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
するするする、と。
青年の身体の上と中を、刃物が走る。
「ああ、あ、あああああ、あああ、あああああ」
人体には大小含めると焼く600前後の筋肉が存在している。
骨は約206本。性格に定義すると数は増減するが、大まかな数としてはこれくらい。
臓器に至っては正確な数はない。どう分別するかにもよるが、ここでは割愛する。
踊る刃物は、まるで新鮮な魚を調理するように。
それらを、全て。
―――摘出し、並べていく。
「ああああ、ああ、ああああ、ああ、」
まず足の筋肉から、削いでいく。
穴を開けた腹など無視して。
まずは、寛骨の周辺に位置する内寛骨筋を構成する筋肉。
腸腰筋。腸骨筋。大腰筋。小腰筋。
その仲間である外寛骨筋も、同じように削いでいく。
臀筋。大臀筋。
中臀筋。小臀筋。大腿筋膜張筋。
「ぎあが、ぐか、ああ、aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッッ!!!!!!!!!!!!」
青年は、切り取られていく己の筋肉の名を覚えていた。
なまじ知識があったせいでより鮮明な痛みが脳へと流れ込んでくる。。
ぎち、と音がした。
次々と、己の足を構成するパーツが、無くなっていく。
大腿方形筋。
内閉鎖筋。
梨状筋。
上双子筋。下双子筋。
恥骨筋。薄筋
長内転筋。短内転筋。
大内転筋。小内転筋。外閉鎖筋
縫工筋。大腿直筋。内側広筋。外側広筋。中間広筋。
「ぎ、あが」
膝関節筋。大腿二頭筋。半腱様筋。半膜様筋。
前脛骨筋。長趾伸筋。第三腓骨筋。長母趾伸筋
腓骨筋。長腓骨筋。短腓骨筋。
―――激痛の中で。自分の足が、軽くなるのを感じた。
足底筋。膝窩筋。腓腹筋。ヒラメ筋。
長趾屈筋。後脛骨筋。長母趾屈筋。
足筋。足背筋。短趾伸筋。短母趾伸筋。
――意識が、とける。明確な自ぶんが、たもっていられなくなる。
中足筋。短趾屈筋。足底方形筋。
虫様筋背側骨間筋底側骨間筋母趾球筋母趾外転筋短母趾屈筋母趾内転筋小趾球筋小趾外転筋短小趾屈筋―――小趾対立筋。
およそ、全ての下肢部の筋肉が切除されたとき。
青年の意識は既になく―――心臓は鼓動を止めていた。
▲ ▲ ▲
「はァ…」
人『だった』残骸の前で、男は深くため息を吐く。
そして何か思うことがあったのか、数秒天井を見上げ、もう一度深く息を吐く。
「聖杯戦争だのNPCだの言うから学園都市のクソガキどもとなんか違うのかと思ったが、何も変わんねえじゃねえか。
あー損した。こりゃこの肉塊にも失礼だなァ。ま、あとで野良犬の餌にでもしてやっから、許してくれや」
ガンッ、と。
男―――その名を木原数多という―――は、つまらなそうに残骸が散らばっている手術台を蹴飛ばす。
聖杯戦争。願いを叶えるための殺し合い。
正直に言えば、木原には理解不明なことだらけだった。
サーヴァント。和訳で召使い等の意味だったか。
聖杯。詳しいわけではないが、神話か伝説にそういうものがある『らしい』ということは知っている。
木原は学園都市側の人間なのでオカルト方面には弱いため、仕方ないといえば仕方ないのだが。
木原クラスになるとオカルトの内容こそ把握していないものの、そのような存在があることだけは証明できる。
「…魔術ねえ」
木原にとっては、理解の外の技術。
しかし。
「現に俺がこうして生き返ってんだから、世話ねえよなァ」
学園都市最強の能力者、一方通行の謎の力。
墨で塗り固められた上に更にこの世のありとあらゆる悪をぶちまけたような、ドス黒い噴出する翼。
『ihbf殺wp』
どの世界の言語を利用しているのかすらわからない、言葉。
一方通行が最期に獲得した、あの力の正体。
天使の、あの存在の力の源。
おおよそは見当はついている。
おそらく、あれの力の正体は―――
(…といっても、あくまで予想だ。実験やら研究の末に出した答えじゃねえ。
せっかく生き返ったんだ、これを証明しなきゃ死んでも死に切れねえよなァ、一方通行クン?)
にたり、と木原の顔が愉悦に歪む。
研究対象とその目的―――それらを見つけた科学者は、恐ろしい。
特に彼のような狂った人間ならば、尚更だ。
「とりあえずは生きて帰ることだな。聖杯なんつーもんは…ま、帰るついでにもらってくか」
もらえるならばついでに貰っていけばいい。
木原にはどうしても叶えたい願いなど無いが故に、聖杯などに興味はない。
願って結果だけポンと出してはいしゅーりょーなんてものが認められるならば、彼は科学者などやっていない。
今後の動きだけでも考えておくか―――と、思案した木原のもとに。
己がサーヴァントの声か響く。
「…終わったかネ?」
「…キャスターか」
「おや。こんなところで解剖とは。収穫はあったかネ?」
「ねえな。こりゃ人間と大して変わらねえ」
「だと思ったヨ。サーヴァントを呼べなかったマスターの中に特別な存在が混ざっているとは考え難い。
恐らく、ありふれた魔術師と同じだろうネ」
現れたのは黒い着物に、背に十二の文字が刻まれた白の羽織を着た男。
腰には日本刀を提げており―――顔面は、不気味な白塗りにいくつかペイントされている。
この男が、木原数多のサーヴァント。
魔術師のクラス、キャスターである。
カツカツと足を鳴らしキャスター散らかされた肉の残骸に接近し―――その肉に、ゾブリと指を突き刺す。
それと同時に、哀れな青年の残骸が分解されていく。
「死んだマスターの肉体の保持。難しいことじゃァないが無駄に使わせるのはやめたまえヨ。
まったく、始末するこっちのことも考えたまえ」
「は、テメエもさっき数体攫ってただろ?そっちはどうしたんだよ」
「もうとっくの昔に済ませたヨ。私が合図すれば周囲を巻き込んで内部から弾け飛ぶように出来ている」
気味も悪いスイッチのようなものを、キャスターが手の中でくるくると弄んでいる。
おそらくあれが、起爆装置なのだろう。
嫌な趣味してんなぁ、と。自分のことは棚に上げ、木原は笑う。
「…マスター。科学者にとって、一番大切なモノは何かわかるかネ?」
それを見て、何か思ったのか。
キャスターは、木原へと問いを投げる。
「…あ?」
「一番失われたくないもの、の方が正しいか。それは最新設備が整った研究室でもなければ、優秀な部下でもない。
思想の賛同者でもなければ理解者でもない。
さて、何だと思うネ?」
そう問われて、思案する。
―――使い勝手のいい兵士か?
いや、違う。変えも効く兵士は楽だが、所詮はゴミにいい利用価値をつけて使ってるだけだ。
言うならばリサイクル。使えるが、必要ではない。
―――覇を競い合う敵か?
いや、違う。そもそも科学者にはそんなものは必要ないし、敵…一方通行には、さっさとミンチになってもらいたいほどだ。
ならば。
科学者にとって大切なものとは。
「―――あ」
そこで。木原は、唐突に理解した。
「そうか――材料か」
「そうだヨ。各地を這いずり回り地の果てまで捜索し、血の滲む努力で手に入れた研究材料。
我々はソレを失うことをなにより受け入れられない。
そして、新たな研究材料を手にすることは何よりも喜ばしい。
しかし珍しいモノなど殆ど手に入ることはないのだヨ。
―――でも『此処』ならば、違う」
ニタリ、とキャスターが不気味な笑みを浮かべる。
そして。
木原も同じ科学者だからか―――狂気に塗れた科学者だからか。
言葉を介さずともその意思を理解し。
不気味に、その口角を上げる。
「ここには、『英霊』がいやがる」
「ご名答。人類を超越し幾度と無く世界を救いその身に賞賛を受けたその英雄たち。
一騎当千万古不当の豪傑共。誇りと勝利を胸に勝ち誇ってきた戦士たち。
―――私は、そんな彼らの全てを知りたい。
解剖し、研究し、骨の髄の更にその奥まで堪能し。
溶かして瓶に保管し、その全てを暴きたい」
そのキャスターの言葉に―――木原は、思わず声を上げて笑っていた。
コイツは、どうしようもない。
救いようが無い、どこまでも科学者な男だと。
「あァー…笑った笑った。オマエ、イイわ最高だわ。
さっさと終わらせてカエローかと思ったが気が変わったわ。
―――乗ってやるよ、聖杯戦争。
瓶詰めにしてわかりやすいように名前のラベル貼って並べてやるよ」
そして。
ここに、狂気の主従が誕生した。
戦いなど興味はない。
聖杯など興味はない。
興味があるのはそこの参加者の、魂と肉体のみ。
彼らは、全てを調べ上げる。
調べ上げ、人としての尊厳を踏みにじり、陵辱する。
高貴な願いなど関係ない。
醜い恨みなど関係ない。
あるのはただの、純粋な知的好奇心のみ。
―――さあ、聖杯戦争を研究(はじ)めよう。
【CLASS】
キャスター
【真名】
涅マユリ@BLEACH
【パラメーター】
筋力D 耐久C 敏捷E 魔力A 幸運D 宝具B
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
彼の場合は、「技術開発局」を作成する。
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能。
彼の場合は毒薬から解毒薬まであらゆる薬を作成可能である。
【保有スキル】
人体改造:B
己だけでなく、他者まで改造することが可能なスキル。
このランクなら人間を生きたまま爆弾にすることや怪物に変えることも可能である。
また、己の臓器のストックを作ったり己の身体を液状化させることまで可能。
材料保存:C
死亡すると分解されるサーヴァントの霊体とマスターの身体を、保存しておくことができるスキル。
このランクならば、キャスターが魔力を流し込めば最大1日は分解から免れる。
科学者:A
彼に完璧という文字はない。
彼にとって完璧とは絶望である。
何故なら、完璧であるということはもはやそこには立ち入る隙がないということだからだ。
今まで存在した何物よりも素晴しくあれ、だが、けして完璧であるなかれ。
科学者とは常にその二律背反に苦しみ続け、更にそこに快楽を見出す生物でなければならない。
彼のその理念を反映したスキル。
素材が圧倒的に足りない状態でもキャスターとして最高の物を制作できるようになる。
作れば作るほど作成した物の精度とクオリティ、威力が上がっていく。
【宝具】
『赤子の怨嗟』(あしそぎじぞう)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
キャスターの持つ斬魄刀。
三本の刀身の根元に赤子の顔が浮かび上がる、金色の不気味な刀。
刺した者の四肢の動きを『痛覚を残したまま』完全に封じる。
解除するにはマユリが宝具を解除せざるを得ないほど追い詰めるか、マユリを消すかの二通り。
魔力消費は少なく、簡単に発動可能。
『赤子の怨嗟・毒殺蠕虫』(こんじきあしそぎじぞう)
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:150
『赤子の怨嗟』の卍解形態。
赤子の頭を持つ巨大な芋虫のような生物を召喚する。
召喚した直後に致死性の毒を広範囲に撒き散らし、その巨体を持って押し潰す。
毒は宝具開放の旅に変わるので、抗体等は意味を成さない。
操られるなどしてキャスター自体に逆らった場合、自壊するようにできている。
尚、壊れた卍解は二度と治らない。
しかしこのキャスターの卍解のみは『直しているんじゃなくて改造(なお)しているのだヨ』というキャスターの言葉通り、人体改造スキルにて修復可能。
魔力消費が多いため、使用するなら令呪の支援が必要か。
【weapon】
斬魄刀
耳に内臓した釜や補肉剤、超人薬などの数々の薬剤
【人物背景】
十二番隊隊長及び技術開発局局長を兼任。普段は白い肌に面妖な黒い化粧をした異相で、幾度か化粧や衣装が変わっている。
基本的に髪は青い模様、自身の身体を改造し様々な武器や仕掛けを隠している。
失った肉体を再生させる薬「補肉剤(ほじくざい)」を携帯している為、人間離れしたような出立ちだが、化粧の下は普通の顔である。
普段は隊長として普通に振舞っているが本性はマッドサイエンティストであり、研究や実験、中でも人体実験を職としている。
敵として戦う相手は敵としてより実験材料として認識しており、一護達の中では当初、織姫の能力に強い興味を抱いていた。
一方で「完璧」という言葉を嫌い、『他者より優れども完璧であってはならないという矛盾に苦しみながらも快楽を見出すのが科学者である』という独自の信念を持ち合わせている。
生体研究の一環により、内服薬(補肉剤)および外科手術による失われた肉体の再生・補助や解毒など、鬼道を必要としない医療技術を持ち場所を選ばずに即時・即効性のある高位の治療が可能。
ただし、彼の言動には治療ではなく改造の気が見え隠れする為、現世の面々はもとより、同僚の隊長格にいたるまでその方法は大いに遠慮されている。
京楽隊長に「彼なら大概のことは丸一日あればすぐに解析して結論を出す」とも言われる。
【サーヴァントとしての願い】
この聖杯戦争にて宝具を使用して様々なサーヴァントを殺害、捕獲し解剖、研究する。
【基本戦術、方針、運用法】
基本はNPCを改造した怪物や爆弾を襲いかからせる。
薬物等でも先頭を可能とし、正々堂々と戦うことは少ない。
【マスター】
木原数多@とある魔術の禁書目録
【マスターとしての願い】
生還し、天使の力の原理、黒翼の原理を暴く。
【weapon】
なし。
【人物背景】
学園都市の研究者の一部では有名な、『木原一族』の科学者で、
第一位の超能力者(レベル5)一方通行を直接開発した、能力開発のエキスパート。
顔の左側の刺青と両手につけたマイクロマニピュレータが特徴。
暗部組織猟犬部隊のリーダー。
その中でも上の地位にいるらしく、アレイスターから直接指令を受けている。
部下を平然と使い捨てにし、雑草を抜くような感覚で躊躇なく人を殺す残虐な性格。
同じ猟犬部隊の隊員が意見しようとした際には、
部隊を人権もないクズの集まりと称し、作戦の邪魔をするなら殺しても構わないと言ったり、
失態に対しては死んだ程度では許さず、死体から心臓を取ってでもケジメを付けさせたりと、常人の枠を超えた残酷さである。
そもそも殺人に悪意とか良心の呵責が一切絡まないため、天罰術式にも引っかからなかった。
アレイスターの命令で打ち止めを捕獲するため現れ、
「『反射』を適用される直前に手を引き戻すことにより、戻るベクトルを反転=直撃させる」
という凄まじい理論の実践で一方通行を圧倒した。
十三巻においても、覚悟を決めて一段と手強くなり、
猟犬部隊を手玉に取った一方通行をも終始圧倒し続けたが、
全演算能力を失いレベル0となった一方通行に大苦戦。
最後は謎の黒翼を発現させた彼の手により吹き飛ばされて死亡した。
【能力・技能】
その至高の頭脳と高い運動能力。
木原一族のに伝わる『能力者の力の流れを読んで、その隙を突く』という戦闘術を下敷きにしている、木原神拳の愛称で親しまれる技。
しかしこれは一方通行の脳を知り尽くしたからこそ使える技で、他者には効果が無い。
しかしそれを可能にする運動能力は凄まじく、肉弾戦せはかなりの腕前を有する。
【方針】
生還するために勝ち残る。
最終更新:2015年05月18日 03:48