「あんたは、この聖杯戦争で何を望む?」

男の鋭い声が響く。
冷たい視線が女を射抜く。

「……あたし、は」

張りつめた空間に響く女の声には、迷いが混じっていた。
他者を殺してまで叶える夢なのか。
仲間達はそんな自分を見てどう思うか。
彼と再会したところで、何もしてやれなかった自分が今さら何を話すのか。
悔恨が。
恐怖が。
未練が。
不安が。
様々な感情がグルグルと女の胸中を渦巻く。
それでも、女の脳裏から一人の男が消える事はなかった。

「死んだ弟に会いたい。会って謝りたいの」

その答えに、ピクリと男が反応を示した。


薄明かりの灯る酒場に歌声が響く。
ライトアップされたステージで歌うのはシックなドレスを纏った青髪の美女。
老若男女、客と店員を問わず、その場にいる人間たちは彼女の歌に聞き惚れていた。
例外があるとすれば、入り口横の壁にもたれ掛かっている男だけだろうか。
それはタキシードを着た銀髪の青年だった。
仏頂面を浮かべた青年は気の弱い人間が見れば慌てて逃げ出すような鋭く険しい瞳で店内を見渡している。
ふと、美女と青年の視線が重なる。
悪戯っぽくウィンクを送る美女に対し、青年はつまらなそうに鼻を鳴らしてそっぽを向く。
美女の口許が、微かに苦笑を浮かべた。

歌が終わり、喝采の拍手をBGMに美女はステージを降りる。
段々と酒場に喧騒が戻ってくるのを横目に、美女はカウンターの席に腰を降ろした。

「お疲れさん。今日も良かったよシャンテ」

酒場のマスターがシャンテと呼ばれた美女に酒を注ぐ。
礼を言ってグラスを煽るシャンテの横に、どっかりと見知らぬ男が座り込んだ。

「よぉ~姉ちゃん、いい歌だったぜぇ~?」

粗暴な雰囲気の漂う赤ら顔の酔っぱらいだった。
その腕にしている趣味の悪い金色の腕時計が特徴的だ。
マスターが微かに眉間に皺を寄せる。
彼もシャンテも見覚えのない、たまたま飲みに訪れた新顔の客のようだった。

「あら、ありがとう」

酔っぱらいから漂う酒気臭さを意にも介さず、シャンテは営業的な笑みを浮かべる。
酒場での歌手生活が長い彼女にとって、この様な迷惑な男の相手は慣れっこだった。
そして、この後に発する台詞もシャンテにとっては耳にタコができる程に聞き慣れた、ありふれたものだった。

「どうだい? この後俺と一晩よ」

下卑たにやけ面を浮かべる酔っぱらいに、「またか」と心の中で何度目かもわからない溜め息をつく。
娼婦かなにかと勘違いしているのだろう。
不快感を覚えるがそれでも表面上は客である為シャンテは笑顔を絶やさない。

「ごめんなさいね。そういうのは他所でやってちょうだい」
「アァ!? いいじゃねえかよ。こんな酒場の給料より金は出すし、いい思いもさせてやるぜぇ?」

やんわりとした拒絶に酔っぱらいの語気が荒くなる。
据わった目で睨みつけ、シャンテの細腕を掴む為にゴツゴツとした腕が伸びる。
横合いから伸びた手が、その腕を掴んだ。
その腕の主は、先ほど店内を見回していたタキシードの青年だった。

「そこらへんにしとけよオッサン。フラレてるのにみっともないぜ」
「んだぁ、このガキィ!」

挑発的な笑みを浮かべる青年に酔っぱらいが激昂して立ち上がる。
怒りに血走った目を光らせ、拳を大きく振りかぶり、青年のすまし顔目掛けてストレートを撃ち放つ。
だが青年は大振りの拳を容易くかわし、空いた腕を素早く男の鼻っ柱目掛けて振るった。
ベキ、という鈍い音が響いた後、グラリと酔っぱらいの大柄な体が揺れ、仰向けに倒れる。
青年は手に着いた血を煩わしそうに振るうと。倒れた男を引きずって酒場の外へと放り出した。
気絶した人間がゴッサムの街道に放り出されればどうなるかは火を見るより明らかだが、それを咎める者は誰もいなかった。
一仕事を終えて戻ってきた青年を拍手が迎え入れる。つまるところ、この酒場にいる全ての人が、あの無法な酔っぱらいに対しては共通の感情を抱いていたという事だった。

「ご苦労さん」

拍手に包まれてシャンテの隣に座った青年にマスターがアイスミルクを差し出す。
洋画であったなら、ここで青年を茶化すゴロツキの一人か二人でも出ようものだが、ここの常連達は青年の実力をよく知っており、そんな命知らずな真似はしない。
ぶっきらぼうに礼を言いながら、青年がアイスミルクに口をつける。

「しっかしあんなデカイのを一発でノシちまうとは、本当にイザの兄ちゃんは見かけによらずに強えよな!」

常連客が笑いながらイザと呼ばれた青年に話かける。
対するイザはさしたる反応も見せず、フイ、と顔を横に向ける。

「もう! ごめんなさいね、愛想が悪くて」
「はは、いいっていいって、イザの兄ちゃんのお陰で気分よく飲めるんだからよ! 愛想が悪いのはシャンテに連れられてここに来たときからわかってるしな!」

頭を下げようとしたシャンテを常連客が手で制す。
イザはある日、この酒場で歌手として働いていたシャンテが連れてきた用心棒だった。
無口で無愛想な人を寄せ付けない雰囲気を纏っていたが、その実力は確かであり、迷惑な客やゴロツキを度々追い返している内に常連達から「愛想はないが頼りになる男」として受け入れられていった。
もっとも、女性客や従業員の間ではその秀麗な容姿からもっと早い段階で受け入れられてはいたようではあるが。
ゴッサムの夜は更けていく、シャンテとイザはチビりチビりとグラスの中身を煽りながら、しばしの間この喧騒に身を委ねていた。

「それじゃあマスター、また明日」
「おう、最近物騒だからな。気をつけて帰れよ
……まあ、その用心棒がいりゃ心配はないか」

閉店準備に入った酒場の従業員達に手を振り、イザと顔を赤らめたシャンテが酒場を出た。
街に吹き付ける冷たい風が、火照った体を心地よく冷ます。
静まり返った夜の街に二つの足音だけが響く。

「……そろそろ、潮時だな」

不意に、イザが口を開いた。
その言葉を聞き、シャンテの歩みが一瞬だけ止まる。
イザも足を止め、シャンテへと顔を向けた。

「セイバー……」
「街にはもう複数のサーヴァントの反応が感じられる。街を騒がす事件の内、いくらかはそいつらのものだろう」

セイバー、それは彼がサーヴァントであることを表す名前。
イザという名も偽名であり、その真名はテリー。
かつて、イザと呼ばれた勇者と共に、世界を救った英雄の一人だった。
自身を見据えるシャンテを気にせず、セイバーは言の葉を続ける。

「あんたは、あの酒場の奴らを巻き込みたくないと思っている。だから、潮時だ」

他の主従から身を隠す為、生活費を稼ぐ為に、この街で与えられた役割であった酒場の歌手を続けていた。
そしてここは、かつて彼女が本来の世界で歌手をしていたインディゴスの酒場と同じくらい、居心地のいい場所だった。
だが、もし聖杯戦争が本格的に始まり、自分の素性がバレたとしたら、まず間違いなくあの酒場は巻き込まれる事になる。
生きた世界も何もかもが違い、この戦争が終われば二度と会うことはない人達だとしても、彼ら・彼女らを自分の願いを叶えるための戦争に巻き込んでしまうことに、シャンテは抵抗を覚えていた。
セイバーはシャンテのその想いを察していたのだろう。

「……そうね。明日、適当に理由を作ってマスターにはしばらく休むと伝えておくわ」
「そうしておけ」

一瞬の思考の後、シャンテは寂しげな笑みを浮かべながらセイバーの言を肯定する。
つっけんどんに返事をすると、セイバーはその身体を霊体へと変えた。
口調や態度はそっけないが、セイバーの言動が自身を気づかってのものであることをシャンテは理解している。
セイバーが見た目通りの年齢であったとするならば、恐らく素直になれない年頃という奴なのではないか、そう思うと微笑ましくもあった。
ふと、弟のアルフレッドにもあんな時代があったのでは、と考えて思考を止める。

(ダメね、どうもあれぐらいの子を見てるとアルフレッドと被らせてしまう)

頭を振り、その視線を険しい物へと変え、シャンテは自宅への道を急ぐ。
既に亡くなったアルフレッドに一目会いたい、それが彼女の望みだった。

アークを巡る戦いが終わり、自分を縛るしがらみから解放された彼女ではあったが、その陰からガルアーノに利用され命を落とした弟の存在が消える事はなかった。
ある日、彼女の経営する酒場で飲み代をツケにしていた客が料金の代わりにとある物を置いていった。
それはバルバラードのピラミッドから出土したシャブティという人形。
なんでも所持者の願いを叶える不思議なアイテムという触れ込みだった。
話半分にツケ返済までの担保として預かったが、まさかそのせいでこの戦争に呼び出されるとはシャンテ自身も思ってもいなかった。

そして、なんでも願いを叶えるという聖杯の存在を知った時、彼女は思ってしまった。
死んでしまった弟に出会えるのではないかと。
だが、その為には他者の願いを踏みにじらなければならない。
時には人の命を奪う必要がある。
苦悩に苦悩を重ねたが、それでも弟に会いたいという望みを諦める事はできなかった。

深夜。
既に寝静まったシャンテのいるアパートの屋上で、セイバーが一人、月の光を浴びながら眼下の光景を見下ろしていた。
その姿は少し前のタキシード姿ではなく鎧や剣を装着した本来の彼の姿だった。
幸いにも今夜のゴッサムは静まり返っている。
恐らく今日は平穏無事に一日が過ぎるだろう。

「姉、か」

一言、セイバーが呟く。
姉という存在は彼にとって特別な存在だった。
両親を早くに亡くした彼にとって唯一の肉親。
自分の力が無かったが為に引き裂かれてしまった唯一の肉親。
どれだけ数奇な運命の巡り会わせか、セイバーは生き別れた姉と再会できた。

決して、自分達のように再会する事が叶わなかったシャンテとその弟に同情した訳ではない。
旅の傍らで、自身の身を案じ続けてくれていた姉と姿を被らせたからでもない。
だが、何を犠牲にしても弟に会いたいと決心した悲痛な想いに、自分の剣を預けてやってもいいと、そう思えた。

周囲の安全を確認したセイバーはその姿を再び霊体へと変える。
様々な人間の想いを抱きながら、ゴッサムの夜は更けていく。




【クラス】
セイバー

【属性】
中立・中庸

【真名】
テリー@ドラゴンクエストⅥ

【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具B

【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
また、セイバーは装備の影響で炎と氷に対してより強い耐性をもつ

【保有スキル】
モンスターマスター:D
魔物との戦闘中、戦闘に有利な修正を受ける。また、同ランクの騎乗スキルを得る。
数々の魔物を使役し、栄光を掴んだものに与えられる称号。相手が魔物であればどのような特性を持つのかを把握し、戦いを有利に進める観察眼をもつ。
セイバーは幼少期に数多の魔物と共にモンスターテイマーの大会に優勝した経験を持つ。
召喚されたのがセイバーのクラスかつ、成長した時期からなので、このスキルは著しくランクが低下している。

青い閃光:A
優れた反応速度と動体視力に起因する行動補正。
相手が同ランク以上の『宗和の心得』を持たない限り回避行動に有利な補正を得る。
但し、範囲攻撃や技術での回避が不可能な攻撃は、これに該当しない。
また、速度を活かして一度に複数を攻撃する『さみだれぎり』や同じ対象を一呼吸の内に二回斬りつける『はやぶさぎり』といった技が使用可能。
強さを求め続けた先にセイバーが取得した超人的な技巧。目にも留まらぬ速度で相手を切り伏せる事からセイバーにつけられた称号である。

魔力放出(雷):C
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
セイバーの持つ『らいめいのけん』から雷を放つ。
天空の勇者の扱う雷に比べればその威力は格段に落ち、宝具に昇華するまでには至らない。

【宝具】
『迸れ、昏き雷(ジゴスパーク)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:30人
暗黒の力を『らいめいのけん』に乗せた一閃で周囲の全てを薙ぎ払う。
かつて力だけを求めたセイバーが魔王であるデュランより教えられた"遊び"。
魔王にとっては単なる児戯であっても、人からしてみれば十分過ぎるほどの破壊力を持っている。

【weapon】
E:らいめいのけん
E:ドラゴンメイル
E:ドラゴンシールド
E:プラチナヘッド

【人物背景】
「最強の剣」を求めて旅をしていた17歳の若き剣士。
当時悪政を極めていたガンディーノという街の生まれで、王の献上品として姉のミレーユが連れ去れてしまうという事態に対し幼かったテリーは必死に抵抗するも為す術なく、生き別れとなってしまう。
テリーはミレーユを救う力を手に入れる為に旅立ち、王宮の守備隊長やドラゴンを圧倒するまでの実力とそれに見合うだけの武器『らいめいのけん』を手に入れる。
また、この時に天空の勇者一行、そして姉のミレーユと再会していたのだが、お互いに姉弟である事には気づかずすれ違っている。
以降は剣を求める旅路で勇者一行との幾度もの邂逅の末、強さを求める欲望から心を闇に飲まれ、魔王デュランの配下となって勇者達と対峙する事となった。
勇者達との戦闘に敗れ、デュランも倒れた後、ミレーユがテリーに自分の正体を明かし、以降は勇者一行として魔王を討伐に向かった。
クールな性格と秀麗な容史で女性からの人気が高いが、若さゆえかどこか青いところが抜けきらない人物でもある。
また、ミレーユが連れ去られる前の時期に、マルタの国の精霊に連れていかれた姉を連れ戻すためにモンスターマスターとして様々な魔物を操り、星降りの大会という大会で優勝した経験を持つ。
そのせいか、魔物の観察眼には一家言あり、魔物品評にはついつい熱が入る一面がある。

【サーヴァントの願い】
マスターの願いを叶える


【マスター】

シャンテ・ドゥ・ウ・オム@アークザラッドⅡ

【マスターとしての願い】

死んだ弟に会って謝る

【weapon】
とくになし
丈夫なシューズや棍や杖があればそれで肉弾戦が可能

【能力・技能】
水や氷系統の魔法を扱える。今聖杯戦争で使用可能な魔法は下記

  • キュア:簡単な負傷を治癒する、身体の欠損までは修復不可能
  • サイレント:相手を一時的に詠唱不能状態にする。サーヴァントには無効
  • アイスシールド:水や氷の属性を持った攻撃のダメージを軽減する
  • リフレッシュ:毒や麻痺等の身体の異常を治癒する。宝具やBランク以上のスキルに起因するものは治癒不可能
  • ディスペル;アンデッドを成仏させる。アンデッドのサーヴァントには無効
  • ダイヤモンドダスト:空気中の水分を氷結させて相手を攻撃する。サーヴァントにはダメージが殆ど見込めない

【人物背景】
歌手。理知的で物わかりのいい所謂大人の女性である。
幼少期に母を亡くし、弟のアルフレッドと共に父親に虐待を受けていた。
その後、人に売られ歌手となったが病気になった弟が捨てられかけた事で、彼女らを買った人間を刺して逃亡。
弟はなんとか病院に入れる事ができたが、突如行方を晦ましてしまう。
歌手業の傍ら、弟の行方を捜していた時にマフィアのボス・ガルアーノから弟の命を盾に脅迫され、エルクとリーザを狙う陰謀に加担してしまう。
しかし、その中で弟がガルアーノの手の者に殺害されていた真相を知り、弟の敵討ちの為にエルクらと行動を共にする事になる。
ガルアーノを倒した後も、エルク、そしてアーク達の旅に同行し、世界を救う事となった。
続編では酒場を経営しており、本聖杯戦争ではアークザラッドⅡとⅢの間の時間軸からの参戦。

【方針】
マスターの魔力もサーヴァントの戦力も安定したラインで纏まっているのが何よりもの強み。
マスターの社会基盤が強くないので、マンパワーなどで責められると弱いところが難点か。
聖杯戦争のセオリー通り、自分の正体を明かさずどれだけ戦えるかが要点になるだろう。
また、社会的にコネの効く主従に同盟を持ちかける事も悪くはないが、シャンテとセイバーの生い立ち上、マフィアやギャングといった反社会的組織や、意味もなく魂喰いを行うような相手には基本的に敵対路線をとる事になるだろう。



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最終更新:2015年05月20日 23:45