「ユーノ、今なんて言った?」
オレは怒気をはらんだ声でインカムに告げた。ユーノのやつ、冗談が下手だ。
「WhiteCatが、WhiteCatがやられた…。BlackCatと
ブラックRXはすぐに
ブラックハウス、
アースラの護衛についてください!」
「そんなはずがあるか!乃人はどうしたんだ!アーク、乃人は?!」
オレはアークに通信を繋いだ。奴なら乃人の居場所がわかるはずだ。だが、返ってきたのはすすり泣きながら最悪の報告をする、かすれたアークの声だった。
「ナガモン中尉……な、乃人少尉は…乃人少尉は…ブラックハウスをかばって、それで…うっ…うぅ…」
「そんな……」
目の前が真っ白になっていった。さっき、オレは確かに乃人の意識を感じた。何かを伝えようとしていた。それがなんだったのか、今では永遠にわからなくなってしまった。
「ナガモン大尉、任務を。ブラックハウスとアースラの護衛を。」
ユーノがそう言ってきた。わずらわしいと思った。オレは黙ったまま呆然と乃人のことを考えていた。乃人、最期の瞬間はつらくなかっただろうか。痛くなかっただろうか。苦しくなかっただろうか。本当に、本当にもう逢えないのだろうか?
「ナガモン中尉!聞こえているか?!」
ユーノが今度は大声で叫んだ。突然、オレの中で何かがはじけた。
「そんなことが…そんなことができると思うか!?いきなりそんなことを言われて、素直に従えると思うか!?オレは、乃人は…あいつは死んで…お前に何がわかるって言うんだ!!」
「ッ?!ナガモン中尉?!しかし、まだ戦闘は継続中なんだ!」
「だからなんだって言うんだ!あいつがいないのに、乃人がいないのに、どうしてオレが戦える…?戦えるわけが…」
目の前が急に曇った。まずいと思いながらも、視界はどんどんぼやけて、ついに涙がこぼれだした。止められない。耐えられない。乃人がいないなんて、考えられない。もう戦えない…。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
オレはついに両手に顔をうずめて、全力で泣きはじめた。もうどうにでもなれ。BlackCatも、ブラックハウスも、みんなどうとでもなってしまえ。それが戦争ってものなんだろう?神様ってやつは、オレに与えたものを次から次へと奪っていくんだ。いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!
「逃げるな!ナガモン!!」
不意に黒猫の声がして、オレはうつむけていた顔を上げた。ブラックRXが目の前に立っていた。
「前を見て!乃人が守ったものと、この現実を見て!!なんのために乃人が命をかけたか、乃人が何を守りたかったのか、目を背けないで!」
「黒猫…?」
オレはその時、すがるような眼差しを黒猫に向けていた。
「乃人が命がけで守ったブラックハウスを、このまま敵にやらせて良いはずがないじゃない!ナガモンは、確かに乃人とずっと一緒だった。誰よりも長く乃人と接してた。だけど、わたしやブラックハウスのみんなだって、
オークリー基地からずっと一緒だったんだよ?!わたしだってみんなだって、泣きたいんだよ?!顔を伏せて、ずっと泣きさけんでいたいんだよ?!だけど今はそれをこらえてっ…!!
ナガモンはずるいよ!」
言いながら黒猫は、オレをまっすぐに見ていた。その瞳には涙が満ち満ちていて、どうにかそれをこぼすまいとしているのが手に取るようにわかった。
「黒猫…」
「涙をぬぐいなさい!
シン・ナガモン!!そして、乃人が何を守りたかったのか、自分がいま何をするべきなのか、考えなさい!!」
はらり、と一粒の涙が、黒猫の瞳からこぼれ落ちた。その瞳は不思議な熱を帯びていて、黒猫の涙を見たオレは自分のなかにも熱がこみ上げてくるのを感じた。
「乃人…」
熱の正体は乃人の意志だった。少なくともオレにはそう感じられた。黒猫の言うとおりだ。今は悲しんでいるときじゃない。乃人の名誉のために、ブラックハウスを守り抜かねばならない。
そう思った瞬間、オレのなかの熱は体の中心から一気に全身へとほとばしっていった。力がわき上がってくる。嗚咽も止まる。そして、涙ももう流さない。
「シン・ナガモン、ガンダムBlackCat、イキます!!」
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09/21 00:14 Windows(PC) [359]エルザス
† † † † †
「もう限界だ!ナノハ、俺のことはいいから、先に行け!」
シンとナノハは、二機の
ドム・バインニヒツから必死に逃げ回っていた。
「シン君だけ置いていくわけにはいかない!絶対に二人で帰ろうよ!」
ナノハは接近してくるドム、符丁アルファに牽制射撃を加えつつ、シンに答えた。
「それじゃ二人ともやられるだけだ!ナノハだけでも生き残らなきゃ、しょうがないだろ!」
シンのディステニーは左手一本でビームソードを振り回し、ベータを威嚇していた。だが、右腕と左足を失った機体は操作性が悪く、このままではどちらかのドムの餌食になることは確実だった。
「そんなの、シン君の勝手だよ!先に行けなんて!あぁっ!!」
「ナノハ!!」
ナノハの
レイジングハートは背後からアルファの射撃を受け、ギリギリで機体をそれた弾丸はレイジングハートの実弾式スナイパーライフルを直撃し、ライフルは粉々に砕け散った。
「大丈夫、機体に損傷なし!まだやれるよ!」
言葉とは裏腹に、ナノハの表情には絶望の色が見て取れた。
決して口には出さないが、ナノハも限界を感じている。
シンはそう判断し、とっさにディステニーを敵機へと向けた。
「シン君?!何を!?」
「今のうちに逃げろ!!」
ディステニーはベータのドムと真っ向から向かい合い、そのまま体当たりを喰らわせた。ベータはぶつかってきたディステニーをそのまま抱え込むようにすると、背部に装着されたシュツルム・ファウストに手を伸ばした。
「危ない!」
ナノハが絶叫した瞬間、ディステニーの左腕が下からはねるように振り上げられ、ベータの腕を切り落とした。その腕が握っていたシュツルム・ファウストが暴発し、ディステニーとベータは爆煙に包まれた。
「シン君!?きゃあっ!!」
レイジングハートは再びアルファからの射撃に狙われた。今度は敵弾がシールドを吹き飛ばし、レイジングハートは一瞬制御を失った。その途端、アルファがナノハの目の前にまで接近してきた。アルファのラケーテン・バズがまっすぐこちらを向き、ナノハは息を呑んだ。
「させるかぁっ!!」
声が聞こえたかと思うと、ナノハの目の前を、太くたくましいミサイルが一瞬で駆け抜けていった。アルファはそのミサイルをまともに受け、爆発した。
「今のは…っ!」
振り返りながら、ナノハは今の声が誰の者であるかはっきりとわかっていた。
「
ペング・ウォルフさん!」
「無事か?お嬢ちゃん?」
「援護する!PJ、
ピクシー、続け!」
「タチバナさんも!」
ナノハの危機に駆けつけたのは、タチバナの
セイバーフィッシュ小隊とペング・ウォルフの
Gファイターだった。
「おい、シン。まだ生きてるか?」
ピクシーのセイバーフィッシュがディステニーを巻き込んでいる煙のそばを通り抜けると、ボロボロになりつつもなお機動するシンの機体が現れた。
「こちらシン、まだ生きてます!敵もまだ動いてる!」
シンが元気な声を聞かせた瞬間、煙の中からベータのドムが飛び出してきた。
「どっちもしぶといな。お嬢ちゃん、援護してくれ!」
ペング・ウォルフはそう言うと、Gファイターの機首をまっすぐベータに向けた。すぐさまその両翼にタチバナ小隊が寄り添い、セイバーフィッシュがレールガンを撃ち放つ。攻撃はベータの左右に向かって行われた形になり、Gファイターの正面から抜けたいベータはたまらず機体を垂直上昇させた。
「させないっ!」
ナノハが最後のエネルギーでディバインバスターを放ち、ベータの頭を押さえ込む。
「よくやった!お嬢ちゃん。あとは…!」
ペング・ウォルフがトリガーを引き、もう一発の大型ミサイルが発射された。ミサイルと言っても、ミノフスキー粒子の影響下ではただまっすぐ飛ぶだけの兵器だ。だが、ペング・ウォルフの熟練した照準は確実にベータを捉えていた。ベータは観念したように動きを止め、ミサイルがその機体にめり込むと、大爆発を引き起こした。
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09/21 00:15 Windows(PC) [360]エルザス
359
ソロモンの戦いに、終結が近づいていた。妻子に今生の別れをつげたドズル中将が、新型MAビグザムで出撃しようとしていた。
すでに要塞内に突入していた連邦軍のジムパイロットは、自分の前方で味方の機体が次々に爆発するのを目撃した。通路を埋め尽くさんばかりの勢いのジム、ボールが、次から次へと融解し、爆発していく。
「な、なんだ?」
ジムパイロットは目の前の光景に畏怖した。巨大な足が目の前におろされ、見上げると、あまりにも巨大なMAが彼を見下ろしていた。
「あ、あぁあ…!」
次の瞬間、MAの砲門らしき部分が一閃し、彼のジムは他の機体同様瞬時に融解して爆発した。侵入していた連邦軍部隊を殲滅したMAは通路を抜け、要塞の外に姿を現した。ドズル自ら打って出なければならないほどに、戦況は切迫していたのである。
そのころ、ソロモン要塞から脱出したゼナとミネバは、マ・クベ艦隊に無事に収容されようとしていた。
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要塞に接近しつつあった一隻のサラミスは、さっそくビグザムの巨体を見つけ、即座にビーム砲による攻撃を開始した。
だが、MAはそのビームをいとも簡単に跳ね返した。これこそ、このビグザムに装備されたIフィールドジェネレーターの効果であった。
これにより、ビグザムは中距離からのビーム兵器を完全に無効化することができた。
ビグザムはお返しとばかり、機体中央の砲門から大型メガ粒子砲を発射した。直撃を受けたサラミスは一撃の内に轟沈し、ビグザムは連邦軍第二連合艦隊主力へ向かって嵐のような進撃を開始した。そしてその後を、ホワイトベース隊のMSが追ってゆく。
ビグザムの操縦室では、ドズルが重大な決断を下そうとしていた。
「ビグザムは主力艦隊に特攻する。その前に各自脱出命令の発光信号を上げろ。戦力をズタズタにされすぎた。遺憾ながらソロモンを放棄する。」
ソロモン放棄。それは連邦軍にサイド3攻略の足がかりを与えるのと同義であった。だからこそ、ここで戦いをやめることは、ドズルにはできなかった。彼はビグザムの操縦系統を掌握すると、ティアンム提督の艦隊めがけて全力で突撃していった。
連邦軍第二連合艦隊は猛烈な砲撃でビグザムを迎え撃った。狂気のようなビーム砲の乱射、宇宙を斜めに切り裂く幾千万もの閃光。だが、それらはビグザムには無意味であった。ビグザムは胴体部分にある複数のメガ粒子砲を同時に発射した。刹那、第二連合艦隊の戦艦数隻が直撃を受け、あっというまに爆発、四散した。そしてその中には、ティアンム提督の座乗艦、タイタンも含まれていたのである。その様は、まさに圧倒的であった。
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09/21 00:15 Windows(PC) [367]エルザス
360
そのころソロモン要塞内では、
黒の騎士団の指導者ゼロが、方々に散っていたジオン軍部隊を呼び戻していた。要塞のゲートに駐機した
蜃気楼から、ゼロは集まった艦艇、MS隊へと通信を開いた。
「こちらは黒の騎士団のゼロである。ソロモンを防衛中の全部隊に告げる。ソロモン要塞司令であり、
宇宙攻撃軍の総司令官でもあるドズル中将は、このソロモンの放棄を決断した。これ以上ここにとどまる理由はない。退却する部隊は私の指揮下に入り、すみやかにソロモンを離れよ。先頭は
ダモクレス。
その他の艦艇は私の指示のもと順次ソロモンを発進せよ。MSは戦艦群を護衛しつつ、戦場を離脱する。」
方々で、息を呑む音が聞こえた。難攻不落を誇った要塞が、たったの1日で攻略された。悔し涙を流す兵士の姿もあった。
「退却などありえぬ!ソロモンはまだ持ちこたえておる!!」
突然ゲートに響き渡った声に、ゼロは意表を突かれた。
「なぜこの状況で退却などできるのだ!いったい何人の戦士が、あの光に灼かれたと思っておるのか!」
ゲートに集まった兵士をかき分けるようにして、一人の士官が蜃気楼の前に出てきた。ゼロは蜃気楼のハッチを開き、士官の眼前に姿を現した。
「
ヘルベルト・フォン・カスペン大佐とお見受けする。」
「いかにも。」
声を荒げた士官は、ソーラ・システムによって目の前で部下を焼き殺されたカスペン大佐その人であった。
「私はドズル中将から退却部隊の指揮を任された。一人でも多くの兵士を、生かしたままア・バオア・クーへと連れ帰らねばならない。」
「理解できぬ!まだ反撃の見込みはある!!」
「これ以上戦死者を増やしてどうする。貴官に良心はないのか?」
「私に良心などない!ジオンの栄光が私の良心だ。ドズル中将も自ら出撃された。我らがそれに続かずしてなんとする!」
「カスペン大佐!ドズル中将は我々が脱出する時間を稼ぐ為に出撃したのだ。その決意を無駄にするつもりか。」
「まさか、中将ははじめからそのつもりで…」
カスペンは急に顔色を変えた。にわかにゲート内がざわめき始める。ソロモンの放棄、その言葉の響きが急に現実的なものとなって兵士達に認識されたのだ。
「部下を失った私に、生き恥をさらせと言うのか…!」
それでもなお、カスペンは退却に納得がいかない様子だった。義手である拳を握りしめ、まんじりともせず床を睨みつける。
「カスペン大佐、部下を失ったのは私も同じだ。この屈辱、ア・バオア・クーで晴らしたいとは思わないか?」
ゼロの言葉に、カスペンは視線をあげた。
「そうだ。この恨み、必ずア・バオア・クーで晴らす!そのためにも、今は行かねばならぬ…!」
並々ならぬ決意を込めたカスペンの言葉に、他の兵士達も脱出の意志を固めたようだった。ただちに出発の準備が始まり、兵士達は自分の戦艦やMSのもとへと足早に解散していった。
あとには、黒の騎士団と
ツィマッド社特務隊、そしてマネキン戦隊の兵士だけが残った。
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09/25 21:07 Windows(PC) [368]エルザス
367
「ゼロ、ひとついいか。」
ゼロに声をかけたのはグラハムであった。
「全部隊が脱出するには誰かが後衛を務めなければならないだろう?私が残ろう。」
グラハムの脳裏には、戦場で一瞬見かけたガンダムBlackCatのことが浮かんでいた。黒い木馬を護衛していたBlackCatは、やはり獅子奮迅の戦いを繰り広げていた。あのガンダムと正々堂々と勝負を挑むのなら、今日この時ほどふさわしい瞬間はない。
だが、ゼロはグラハムの志願を却下した。
「それは認められない。戦うべき相手はガンダムだけではない。」
ゼロはグラハムがガンダムにのみ執着することを危惧していた。退却する黒の騎士団に襲いかかってくるのは、なにもガンダムだけではないのだ。あらゆる艦船、あらゆるMSが追いすがってくるに違いない。そんな状況の中で、ガンダムに心捕らわれているグラハムを一人残していくことは危険だった。より献身的かつ、忠義心の固いものでなければ、殿はつとまらない。
「他に、志願する者はいないか?」
ゼロにとってもつらい瞬間だった。退却戦の殿ほど生存確率の低い任務はない。だが、誰かをかり出さねばならない。強く、気高く、孤独な戦いに耐えられる者。真の戦士と呼ぶにふさわしい者を、この狂気のような戦場に残していかねばならない。
息詰まる静寂が一瞬あった。
「私が、残ります。」
か細いが、凛としていて芯のある声が響いた。その場にいた者がいっせいに声のしたほうを振り向く。
声の主は、フェイトだった。
「フェイト?!」
ゼロの声と、それをかき消すアルフの声が重なった。
「ちょ、ちょっと待って。なにもフェイトが残ることはないよ!機体の稼働時間は短いし、それに、フェイトを置いていくなんてできないよ!ゼロ、そうだろう?!」
周章狼狽した様子のアルフがすがるような目でゼロを見た。
ゼロは言葉に詰まった。確かにアルフの言うとおり、フェイトの乗る
プロトタイプケンプファー、「バルディッシュ」の稼働時間は極端に短い。とはいえ、全速力で離脱する部隊のための時間稼ぎには充分なのだ。そして戦闘能力から言ってフェイトは申し分ない。それどころか殿としてこれ以上ない逸材と言える。
だが、まだか弱さの残る少女を一人戦場に置いてゆくのか?フェイトを置いて、自分はゆくことができるのか?
ゼロは、フェイトを愛する妹に重ねて感じていた。二人とも儚い命に全身全霊を賭けて、一生懸命に生きていた。折れそうになる心をどうにか支えながら、それでも自分のなすべき事をなし、信じる道を進んでいた。ゼロは、妹と同様に、このフェイトも守ってやりたいと思っていた。
だが、現実にはそれはまったく逆になってしまった。フェイトに守ってもらわなければ、ゼロは騎士団を導けない。それは、ゼロのなによりの目標である、「みんなが笑って過ごせる毎日」の実現を諦めることであった。それではこれまで戦ってきた意味がないのだ。すでに多くの者がゼロの信念に共感し、その崇高な目標の実現のために命を散らしてきた。ここで諦めるわけにはいかない。
「フェイト、できるか?」
ゼロは、いや、ルルーシュは、いつになく優しい声でフェイトに語りかけた。
「はい。」
フェイトの瞳には力強い光が宿っていた。
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09/25 21:08 Windows(PC) [369]エルザス
368
ブラックハウスのもとに、はぐれていたシンとナノハ、そしてタチバナ小隊が戻ってきた。大型ミサイルを撃ち尽くしたペング・ウォルフのGファイターがさっそくアースラに着艦し、補給作業が開始される。
アースラ艦橋では、オペレーターのエイミィが重大な報告をしていた。
「第二連合艦隊旗艦、タイタンが轟沈、ティアンム提督は戦死された模様です!」
「まさか、ティアンム提督が?!」
リンディは思わず腰を浮かせていた。傍らのクロノも息を呑んだが、即座に対応を始めた。
「エイミィ、生き残った艦隊で、指揮権を引き継ぐのはどの船になる?」
エイミィは目にもとまらぬ速さでキーボードを叩き、クロノの質問の答を探した。
「ほ、本艦です!現段階でソロモン宙域の最高指揮官はリンディ提督、第二連合艦隊臨時旗艦はアースラになります!」
「やはりな…」
クロノがつぶやいた。報告を聞く限り、艦隊主力に特攻した敵の大型MAは連邦軍に大被害をもたらしたらしい。だとすれば、撃沈されたのがタイタンだけでないのは容易に想像できた。ということは、ティアンムと同じ「提督」の称号を持つリンディが指揮官になってもおかしくはない。
「やっかいなことになったわね…すぐに僚艦に打電。以降、第二連合艦隊の指揮は、私、リンディ・ハラオウンがとります。宇宙軍総司令部、レビル将軍にもその旨報告してちょうだい。」
「了解!」
「ブラックハウスと通信を開いて。回線をこちらに。」
「どうぞ。」
艦橋のモニターにあずにゃんの姿が映し出された。
「リンディ提督、いまの電文はいったい?」
あずにゃんは多少動揺しているようだった。無理もない。友軍の旗艦が撃沈されたうえ、直属の上司がいきなり作戦の最高司令官になってしまったのだ。
「ごめんなさい。序列から言って、私が指揮を受け継ぐしかないの。
ブラックハウス隊の指揮はあなたに一任します。アースラは全体の指揮をとるために一度後方に下がらざるをえないわ。ここからはブラックハウスの単独任務になるけど、大丈夫?」
あずにゃんはまだ状況を呑み込めていないようだった。必死に考えたあげく、あずにゃんはようやく事態の推移を読み取った。
「ブラックハウスは単独で敵を一掃しろ、と?」
「いいえ、要塞内の確保は他の部隊にやらせます。ブラックハウス隊はソロモンから逃げる敵の追撃を。
時間がないわ。申し訳ないけどこれで。幸運を祈ります。」
「了解しました。リンディ提督もご無事で!」
「ありがとう。気をつけてね。」
通信が切れ、あずにゃんは京と顔を見合わせた。
「逃げる敵の追撃、ですか。」
「そうです。どうやら敵はソロモンを放棄するらしいですね。」
「しかし、我が軍も旗艦を撃沈されています。組織的な追撃戦は難しいのでは?」
「旗艦はアースラです。とにかくブラックハウスはこのまま進撃します。たとえ単独であろうと、一機でも多くのジオンを倒します。」
あずにゃんは決然と言い放った。京はその語気に、復讐の色がにじんでいることを感じた。
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09/25 21:08 Windows(PC) [370]エルザス
369
「ダモクレス発進!クロメル、アイメルと
オンドゥルも続航!MSは護衛任務を開始しろ!僕に続け!」
スザクが鋭く叫び、ソロモン守備隊の脱出行が始まった。ゲートから次々にMSが出撃していく。
ルルーシュはカレンを傍らに、フェイトと向かい合っていた。マスクは取っている。
「本当に大丈夫だな?」
「大丈夫です。私一人でやれます。アルフは心配してたけど…」
「当然だろう。俺も心配だ。」
ルルーシュに見つめられて、フェイトは自分の頬が紅潮していることに気づいた。思わず目をそらす。
「本当に、本当に大丈夫ですから。みんなを、守りたいから…」
「止めようかとも考えた。だけど、俺には君以外頼める人がいなかった。すまない。」
「そんな…私は、自分で志願したんだし…」
「俺にしてやれるのは、これくらいだ。」
「え?」
フェイトが視線を戻すと、ルルーシュの顔がすぐ近くにあった。そのまま唇が重なり合い、フェイトは目を見開いた。
「んっ…!」
ルルーシュの腕がフェイトを抱き留め、優しく引き寄せられた。フェイトは力を抜いて、ルルーシュのなすががままに任せていた。ずっとこうしていたいと思った。
重ねられていた唇が離れ、ルルーシュの瞳がまっすぐこっちを見た。今度は目をそらさなかった。
「必ず生きて戻るんだ。約束だ。」
「やく…そく…」
「そう、約束だ。なにがあっても生きろ。君はこんなところで死んではいけない。」
ルルーシュは真剣だった。フェイトは、ルルーシュが自分の心に直接触れているような、不思議なあたたかさを感じていた。なんてやさしい人なんだろう。
「約束します。」
「ふ…いい子だ。」
ルルーシュはそういって、フェイトを放した。
「あ…」
フェイトは手を伸ばしかけたが、ルルーシュはマスクをかぶってしまった。
「フェイト・テスタロッサ。戦果を期待している。」
ゼロはフェイトに敬礼を捧げ、蜃気楼に乗り込んだ。
「頑張ってね…」
カレンもフェイトに敬礼をしながらいった。その目にはどこか悲しい色があった。フェイトの行く末を嘆くかのような、そんな目だった。
フェイトは答礼の姿勢のまま、去っていく蜃気楼と
紅蓮弐式を見送った。ゲートに残ったのはフェイトだけだった。
「…行こうか、バルディッシュ。」
たった一人の戦士は、愛機に語りかけた。
† † † † †
わたしたちは、ブラックハウスをあとにした。魔理沙、アリス、パチュリーが残って、ナガモン、ナノハ、シン、そしてわたしが先行する。シンのディステニーはあちこちに被弾し、右腕と左足を失っていたけれど、シンは出撃すると言って聞かなかった。タチバナ小隊とペング・ウォルフのおじさんは補給作業が済み次第わたしたちの後を追ってくる。
「艦隊からの情報では、敵はすでにア・バオア・クー方面へと退却を始めている。リンディ提督は部隊を二分してソロモン要塞内の掃討と退却する敵の追撃を同時に進行させるつもりだ。俺たちは逃げる敵をつかまえる。一人も生かして帰さない気でいけ!」
ナガモンがいつもより熱い口調で言った。乃人を失ってから、まだみんなの動揺は収まっていなかった。特にナガモンとあずにゃんが心配だった。二人とも責任を感じすぎている。悲しみを背負い込んだまま戦っている。もっと言えば、死に急いでいる。
あずにゃんがわたしたちを送り出すとき、怖いことを言っていた。
「戦争は死に狂い、死に狂いですよ。」
思い詰めたような表情だった。やはり、あずにゃんに艦長勤務はつらすぎたんじゃないだろうか。押し潰されそうになりながらも、必死にこらえているあずにゃんを見ると、わたしまで苦しくなるのだった。
「前方!要塞のゲートから敵艦が複数発進中!」
ナノハの声がして、わたしは我にかえった。たしかに、要塞から傷ついた戦艦が発進してきていた。
「一番手前のからやる!護衛のMSは適当にあしらえ!戦艦を優先!散開!」
ナガモンが叫び、BlackCatが一気に加速していく。真っ先に切り込む気だ。
「ナガモン、やっぱり死に急いでる…!」
わたしはそう独りごち、ブラックRXで後を追った。護衛の敵MSもかなりいる。単独は無茶だ。
敵MSの火線がBlackCatに集中する。しかし、ナガモンはそれに構わず進んでいく。その時、BlackCatの上空から一直線に舞い降りてくる機体を見つけた。
「ナガモン、上!!」
「むっ!?」
BlackCatがコースをそらし、そのすぐ横を敵機が通過していった。
「あいつ!また来たのか!」
ナガモンはそう言うと、その敵機の後を追って加速していった。
「ナガモン!」
呼びかけたが、行ってしまった。わたしは確かに見ていた。今の敵機、
フラッグとかいうやつの改良型だ。ナガモンにしつこく戦いを挑んでくる敵。ナガモンもわかっているはずだ。
「気をつけて、ナガモン…」
言いながら、RXが装備していたロボフォームと呼ばれる増加装甲をパージする。これで身軽になった。バイタルチャージもやっと使える。右上から一機、リックドムが突っ込んでくる。
「道を空けろぉ!」
叫んで、突っ込む。あとは行くのみ。
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09/25 21:09 Windows(PC) [372]エルザス
† † † † †
黒の騎士団の戦艦は、ソロモン要塞を離れつつあった。だが、被弾し損傷を負っているクロメルの速度が上がらず、戦艦群はいつまでも追撃を振り切れそうになかった。マネキンは、これ以上味方を引きとどめる理由はないと考えていた。彼女はゼロと通信を開くと、決然とした口調で告げた。
「クロメルはついていけないようだ。こうなれば、このままソロモンにとどまり、フェイトの援軍に行こうと思うが、どうだ?」
激しい機動を繰り返し、追撃してくる敵を翻弄しつつ、ゼロが答える。
「認められない!なんとしてもア・バオア・クーへ到達しろ!」
「それが無理だから言っている!これ以上やっても、味方を危険にさらすだけだ。行かせてくれ。」
マネキンは本気だった。どの道散る運命ならば、ここで死んでも同じだろうと思った。クロメルのクルーには申し訳ないが、致し方ない。いかんせん、自分は部下を多く失いすぎた。これ以上、部下が死ぬのを見るのは御免だった。このあたりで良いだろう。自分のつとめは最後まで果たす。それで大切なものは守られる。本能的にそう思った。未来は、ゼロに託せばいい。そうとまで感じていた。成りゆきで騎士団の指揮下に入ったが、悪い経験ではなかった。ジオンの軍人として、死に場所を見つけた。
ゼロはまたしても苦渋の決断を強いられた。またしても、理想と現実との差に絶望した。だが、理想の実現ためには、たしかに犠牲が必要だったのだ。
たとえいかなる犠牲を払っても、いつまでも、いつまでも夢を追い続ける。
たしかにそう誓って、俺はこのマスクを被った。そうだったな…。
「わかった。クロメルの離脱を許可する。今まで、ご苦労だった。」
「感謝する。」
通信が切れ、クロメルが反転し始めた。ゼロは、砲火の真ん中へと舞い戻っていくその勇姿にしばしみとれた。覚悟を決めたものの姿は、こんなに傷ついていてもなお、かくも美しく、気高いものなのか。砲撃の暴風雨と化したソロモンに、クロメルは戻って行く。そこに戦友達がいるから。未来はゼロに託されたから。
「その船、待ったああああああああ!!」
「!?」
突然あがった叫び声に、ゼロは背後を振り返った。碧色の
リックドムⅡが、ものすごい速さでクロメルに向かっていった。
「不肖パトリック・コーラサワー、クロメルについていく!」
「パトリック!お前、なにを?!」
驚いた様子のマネキンの声が聞こえた。
「水くさいであります大佐どの。決死の覚悟というのなら、自分もお供します!」
「…貴様という男は…」
クロメルとリックドムⅡが、遠ざかっていく。戦場の狂気の渦へ、あらゆるしがらみやとまどいをふりほどいて、身をよじって突っ込んでいく。その先には、フェイトもいるはずだ。
「ゼロ、もう行かないと。」
気がつくと、カレンの紅蓮弐式が隣にいた。ダモクレスとアイメルはずいぶんと先に進んでいた。
「ああ、すまない。」
ゼロは蜃気楼を旋回させ、武器を乱射しつつ後に続く。
最後にソロモンを振り返ると、かすかだがはっきりとした爆発の光がきらめいた。また、誰かの命が散った。
ソロモンから離れていく一隻の
ムサイの艦橋で、カスペンが一人悔しさをかみしめていた。彼の後方では、必死に脱出をはかる艦艇と、それを守るMS部隊が、倍する数の敵を相手に死闘を繰り広げていた。
「まさかこのような形で逃げ帰る結果になるとは…!」
カスペンの義手の拳が再び強く握りしめられる。ギリリと音をたてて。
自分の手元にMSさえあれば、と思う。もし使えるMSがあれば、カスペンはリハビリも終わっていないこの体でも平気で出撃していったに違いない。そして、自ら進んで殿を名乗り出ていただろう。
「このようなことが、万に一つ、万に一つでももう一度あったなら…」
カスペンは怒りの焔をたたえた目を戦場に向けた。友軍のザクが爆発した光に不気味に照らされ、その形相はさながら鬼神のようであった。
「その時は、このヘルベルト・フォン・カスペン、命に代えても…」
指揮官の異変に気づいた副官が、カスペンに近づいてきた。
「大佐、大丈夫でありますか…?」
カスペンは副官を急に振り向くと、大音声で叫んだ。
「信号弾を絶やすな!撤退命令を受信していない部隊がいる可能性もある!一人でも多くの友軍を回収するのだ!残存部隊は我に続け!!」
来る決戦の日に備えて、カスペンはいま成すべき事にのめり込んでいった。
最終更新:2010年12月25日 14:24