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恐怖!機動ビグ・ザム その2

「また逢えると思っていた。ガンダム!今日こそは決着をつけよう!どちらかが敗れるまで!」
「またお前か!」
ソロモン要塞のすぐ近くで、ナガモンとグラハムの一騎打ちが始まっていた。もはやチェンバロ作戦の成否とは関係のない、ただ単に戦う運命にあるから戦うだけの二人。だが、彼女と彼は戦いのうちに理由を背負い込んでしまっていた。どちらも、大切な親友を失った。ナガモンは乃人を、グラハムはハワードを。
「隊長!援護します!」
飛び込んできたのは、ダリルのゲルググだった。だが、せっかくの援助をグラハムは一蹴した。
「手出し無用!お前とアルフは先にゆけ!私はガンダムと決着をつける!」
「しかし隊長!このままでは敵に包囲されます!」
「今日の私は、阿修羅すら凌駕する存在だ!!」


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09/25 21:11 Windows(PC) [374]エルザス

† † † † †

オレと対峙しているのは、あのフラッグの改良型だった。オデッサで出会って以来、幾度となく剣を交わせてきた因縁の敵。いや、仇。
「またお前か!厄介な奴だよお前は!!」
オレは叫び、ビームサーベルを抜いた。敵はすでに二本のビームサーベルを構えていた。じり、と忍び寄るように間合いを詰めてくるが、まだ動くには早い。一太刀一太刀がすべて決定打になりうるだけに、生半可に動けば墓穴を掘ることになる。
接近してきた敵のゲルググは、なぜか距離をおいたままオレたちの戦いを見守っている様子だ。というより、他の邪魔が入らないようにしているようだった。
突然、敵のフラッグが動いた。小刻みに上下しながら突っ込んでくる。アームストロング砲を撃つ暇もなく、フラッグの最初の一撃が飛んでくる。左上から袈裟に切り込んできた。オレはビームサーベルを腰溜めに、意を決して敵の懐に飛び込む。左腕で敵の右腕を押さえ、振り下ろせないようにしたまではよかったが、つき出したこちらのビームサーベルもよけられてしまった。ほとんど間をおかずフラッグの左腕が動き、オレはそれを見る前にBlackCatを後退させていた。
「危なかっ…なにっ!?」
後退し体勢を立て直したBlackCatに、フラッグが再び飛びかかってきた。今度はまっすぐ、ものすごい速さで。
「くそっ!」
無茶と知りつつサーベルを突き出す。機体同士がぶつかる瞬間、敵のサーベルはアームストロング砲を、こちらのサーベルは敵の左腕を切り落としていた。
「好意をいだくな!ガンダム!」
「な?!」
突然聞こえてきた声に、オレは一瞬戸惑った。とっさに、それが接触回線によるものだと気づいたとき、フラッグの頭部が不気味に輝いた。
「その機体、たしかに凄まじい性能だが、それだけではない!」
「貴様、誰だ!!」
オレはこの時、奇妙な胸騒ぎをおぼえていた。というのも、敵の声に聞き覚えがあったからだ。いつだったか、どこだったか。
「あえて言わせてもらおう!グラハム・エーカーであると!!」
「グラハム・エーカー!?」
つばぜり合いの火花でちらつく視界の中、オレの脳裏にその男の姿が蘇った。サイド6で出会った、あの男か!?
「ガンダムのパイロット、フェアに行こうじゃないか。君も名を名乗れ!」
「こいつ、どうかしてる…!」
正直な感想だった。なぜ敵と名乗りあわなきゃいけないんだ。だが、グラハムはオレが名乗るのを明らかに待っていた。すでに片腕のフラッグで、グラハムはいつまでもBlackCatとつばぜり合いから離れようとしないのだ。それでもオレは、フラッグから強力なプレッシャーのようなものを感じていた。敵は片手、こちらは両手でサーベルを握っているというのに、この気圧される感覚はいったいなんだ?

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09/26 00:49 Windows(PC) [375]エルザス
374
「…シン・ナガモン。オレはシン・ナガモンだ。サイド6以来か?グラハム・エーカー。」
敵が息を呑むのが手に取るようにわかった。やはり驚嘆するのはむこうとて同じだったようだ。
「まさか、君のような少女がガンダムのパイロットだったとは!ますます気に入った!」
フラッグが離れ、オレとグラハムは再び距離を置いて対峙した。今度はこちらから仕掛ける。BlackCatのブースターが火を噴き、機体は爆発的に加速してフラッグに迫る。
「上等!!」
そんなグラハムの叫びが聞こえてきそうだった。フラッグは臆することなく真っ向からBlackCatを受け入れた。再び力と力がぶつかり合うつばぜり合い。火花はますます強烈に双方の機体を照らして、接触回線が復活した。
「言ったはずだ!今日の私は、阿修羅すら凌駕するのだと!!」
「戦争狂いが!!お前が災厄を引き起こすんだろうが!!」
「断じて否!私は部下の仇を討つと誓ったのだ!部下を殺したのは君だ!シン・ナガモン!!」
「オレも同じさ!!」
機体が一度はじき出されて離れ、今度は双方が加速しながらぶつかっていく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「はああああああああああああああああああ!!!!」
サーベル同士がぶつかりあい、それらは持ち主の手を離れて宙空へと舞い上がった。
「なんのォ!!」
オレは瞬時にバーニアを噴かし、宙に浮かぶサーベルに手を伸ばす。だが…
「なに!?」
BlackCatの腕が届くより早く、信じられない速度で飛び上がったフラッグが、サーベルをがっちりと掴んでいた。
「くそっ!」
とっさに左腕でビームライフルを構え、フラッグに向ける。ろくに狙いも定めずトリガーを引いた。機体を衝撃が襲ったのはその一瞬あとだった。
「ああああああああっ!!」
視界が激しく揺すぶられ、一瞬意識がもうろうとする。それでもオレは、無意識のうちにモニターに目を走らせ、機体の損害を確認していた。右腕を持って行かれた。フラッグは?
ぼやけた視界の中、遠ざかってゆくフラッグとゲルググがすこし遠くに見えた。フラッグは、両腕を失っていた。最後に放ったビームライフルが、運良く敵の右腕を直撃したようだ。そうでなかったら、オレはたやすくとどめを刺されていたに違いない。
「次は負けないぞ…グラハ…ム…」
頭からどろりとした熱いものが流れてくるのがわかった。出血しているらしい。その血で片目がふさがってしまった。また意識が遠のいていく。
「くろね…こ…」
そこで、オレの意識は途絶えた。

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09/26 00:50 Windows(PC) [376]エルザス

† † † † †

「艦艇はすべてソロモンを発った!MS隊、引き上げるぞ!!」
スザクは、ソロモンのゲートにほど近い宙域で部下に命じた。彼の乗るランスロットの傍らには巨大なオレンジ色のMAがいた。ジェレミアの操るジークフリートだ。二人は互いの背中を守るようにしながら押し寄せてくるジムを幾度となく押し返していた。いま、ようやく最後のチベがソロモンから発進し、残るはゲートを守っていたスザク達だけになっていた。
「よく持ちこたえたものだ。包囲される前に退却しよう。」
ジェレミアが余裕さえ垣間見せる口調で言った。これまでの激闘を考えれば信じられないことだったが、退却するのに依存はなかった。
ふと気づくと、連邦のMS群を縫うようにして、グラハムのフラッグⅡとダリルのゲルググが突破してきていた。二機は先ほどまで連邦軍のまっただ中にいたらしい。
「グラハム特務大尉、機体の状態は?」
「自力で飛行できる。問題ない。また決着はつけられずだ。」
グラハムの口調は沈んでいた。ダリルに付き添われて脱出した艦隊へと向かっていく。
「まだアルフが戻ってこない。フェイトと一緒に残る気か…?」
「待っている猶予はない。退かなければ。」
判断を迫るようにジェレミアが言ったが、スザクは首を振った。
「いや、アルフも必ず連れて帰る。かわいそうだけど、フェイト以外のパイロットを残していく余裕は騎士団にはありませんよ。」
「では、このジェレミア・ゴットバルトもお供しよう。」
「感謝します。」
スザクはそう言うと、連邦軍の群れへ向かって機体を加速させた。ジェレミアはオレンジ色の信号弾を打ち上げてからスザクに続く。信号弾の意味は、「全機脱出完了」であった。


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09/26 00:51 Windows(PC) [377]エルザス
376

アルフは、ジムとボールばかりの戦場をドム・グロウスバイルで飛び回りながら、フェイトのバルディッシュを探していた。いかにも目立つアルフのドムは、連邦軍の格好の標的となってしまっていた。たった一機のドムに対して、10機以上のジムが追いすがってくる場面もあった。そのたびにアルフは、ドムの持つ巨大なナタを振り回し、何機かの敵をまっぷたつにたたき割ってから離脱をはかった。あまりの威圧感と圧倒的破壊力をもったナタは、それ以降ジムが追いかけ回してくるのを抑制する心理的効果があった。一度その恐ろしさを目の当たりにしたジムは、蜘蛛の子を散らすようにアルフから離れていった。
だが、戦場は広大で、連邦軍は無数にいた。何度も何度も、そのたびに違う部隊のジムがアルフをつけ狙った。
アルフがこの日15機目のジムを一刀両断にしたとき、ついに彼女は自分の限界を感じていた。集中力がとぎれ、目がかすんだように見えなくなってきたのだ。腕に感じるしびれもいっそうひどくなってきていた。それでも、連邦軍はアルフの追跡をやめなかった。また新たな一隊がアルフの行く手に立ちふさがり、アルフは今度こそ最期だと思った。
次の瞬間、敵のジムがいきなり火を噴いた。どこから攻撃されたのかもわからないほど一瞬の出来事だった。途端に他のジムが色めきたち、アルフ以外の敵機を探す。
「いたぞ!あいつだ!」
一機のジムが部隊の真下を指し示し、ビームライフルを撃ち始めた。他のジムが一斉に下を向き、敵機を確認する。彼らの視線の先には、漆黒に塗り固められ、俊敏に飛び回る初見のジオンMSの姿があった。
「フェイト!!」
アルフが歓喜の声をあげると同時に、フェイトの機体、バルディッシュは、その手に持っていたショットガンを撃ちはなった。中距離から発射されたショットガンの弾丸は、広く分布してジム隊に襲いかかった。その攻撃力は決して高いとは言えなかったが、ジムパイロットたちから一瞬の隙を引き出すには充分だった。バルディッシュの機体がさらに増速し、一機のジムに狙いを定めたかと思うと、つき出されたビームスピアがその機体を貫いていた。バルディッシュが飛び退くと同時にジムが爆発し、他のジムが一斉に退避を始める。
「そこっ…!」
逃げる一機に追いすがったフェイトが、今度は至近距離からショットガンを発射した。弱点の背面を撃ち抜かれた敵機はあえなく爆散し、ほかのジムは本格的に離脱を始めた。
「フェイト!よかった!無事だったんだね!!」
アルフはうれしさの余り涙を禁じ得なかった。だが、そんなアルフにフェイトはきつい口調で言い放った。
「どうして戻ってきたの?あなたは行かなきゃいけない。ここへ来てはいけないのに。」
「!?…フェイト!?だけど…!」
「行きなさい!アルフ!!」
言葉に詰まるアルフとフェイトのもとに、スザクとジェレミアがやってきた。

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09/26 00:55 Windows(PC) [378]エルザス
377
「まずいぞ。あの黒い木馬の部隊が迫ってきてる。他の連邦軍ならともかく、連中に捕まったら厄介だ。アルフ、急いで離脱しないと。」
「どうやら、ドズル中将のビグザムも撃破されたようだな。」
せき立てるスザクとジェレミアを前に、アルフは必死でフェイトに呼びかけていた。
「なら、フェイトも一緒に!もう充分役目ははたしたよ!艦隊はもうみんな行っちまったんだろ?ならフェイトも逃げよう!」
しかし、フェイトの言葉は冷たかった。
「ダメ。黒い木馬を止めなきゃ。損傷を負ってる船もある。連邦軍がその気になれば、すぐに追いつかれる。」
「そんな!!フェイト!!」
「来たな…!」
懇願するように叫ぶアルフを遮り、スザクがランスロットで前方やや上を指さした。その先には、見覚えのある黒い戦艦の姿があった。
「スザクさん、ジェレミアさん。…お願いがあります…。」
フェイトの声がいよいよ緊張してきていた。震えるような声だ。
「あ、アルフを…アルフを連れて行ってください。…必ず生きて、ゼロのところへ戻ってください…」
「フェイト!!」
「…その願い、確かに受け取った。」
「全力で。」
「…ありがとう。」
「フェイト!!」
アルフの叫びに、フェイトは答えなかった。
「行って。ここは任せて。」
「いやああああああ!!!!」
泣き叫ぶアルフのドムを、スザクのランスロットが強引に引っ張っていく。振り切ろうとしたドムをジェレミアのジークフリートが強引に押し戻し、フェイトのバルディッシュが遠ざかっていく。
「フェイト!フェイト!!放して!!お願いだから放してぇ!!」
「アルフ、今までありがとう。」
「フェイト!お願いだよ!」
「私のぶんまで、生きてね…」
はらり、と涙の雫が、フェイトの頬を伝った。
刹那、バルディッシュの機体が加速し、一直線にブラックハウスへと飛んでいく。
「フェイト!!」
今度は、スザクも叫んでいた。あっという間に離れていくバルディッシュ。ジェレミアがジークフリートを加速させ、それに捕まったランスロットとドム・グロウスバイルは力なく連れて行かれる。
泣き崩れるアルフをモニターに横目で見ながら、スザクはすでに黒点のようなフェイトに機体に、黙って敬礼を捧げた。

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09/26 00:55 Windows(PC) [379]エルザス

† † † † †

その敵機も、わたしのブラックRXと同じ、漆黒の機体だった。たった一機でブラックハウスの目の前に現れた敵機は、光通信で「フェイト・テスタロッサ」と名乗った。
なぜ名乗ったのかはわからない。たぶん、自分が誰かを知ってもらってから散りたい、そんな考えだったんじゃないだろうか。ただ、効果はてきめんだった。ブラックハウス隊のみんなが、その名を聞いて息を呑んだ。もちろんわたしも。
「フェイト…ちゃん…?」
呆然としたナノハの声が聞こえた。そう、この敵機のパイロットは、わたし達とサイド6で食事をともにしたあの可憐な少女だったのだ。
「冗談だろ…なあ…」
今度はシンの声が響いた。震えていたと思う。
「なんで、なんで君がこんなところに…」
シンはそうつぶやいたかと思うと、突然無線を全局にあわせてまくし立てた。
「フェイト!聞こえてるか?俺だ、シン・アスカ!サイド6で一度会った!今すぐ機体を捨てて、投降するんだ!たった一人でなにしてんだよ!!」
ナノハまでがそれにならった。
「フェイトちゃん!私、ナノハだよ!シン君の言うとおりだよ!なんでフェイトちゃんがこんなところに!今すぐ投降して!わたしたちが保護するから!」
「違う…」
驚いたことに、彼女はシンとナノハの呼びかけに応じてきた。彼女の声もまた、震えていた。
「私たちは戦わなきゃならない。それが、ゼロが望んだことだから…そのために、私はいるんだから…」
「ゼロ…?」
聞き慣れぬ言葉に、ブラックハウス隊の面々の表情が曇った。ゼロとはだれなのか?なぜ彼女がこんなところに一人でいるのか?
そんな疑問が頭を駆けめぐって、わたしはただ呆然と敵機を眺めていた。その機体からは言いようのない悲しみと孤独が流れ出ていて、その真ん中にあの少女がいるのを感じ取れた。
「フェイト・テスタロッサ、いきます…!」
フェイトはそうつぶやいたかと思うと、おもむろにナノハのレイジングハートに飛びかかった。
「フェイトちゃん!?」
悲鳴に近いナノハの言葉には応えず、敵機は流れるような速さでビームスピアを突き出した。
「!?」
レイジングハートは危うく後退し、敵機と距離をとる。
「やだよ…戦いたくないよ…友達だって言ったのに…フェイトちゃん…」
ナノハの言葉には悲愴な願いが込められていた。なんとかして戦いを避けたいという願いが。でもわたしには、それが叶わぬ願望であることがわかってしまった。
「ナノハ、下がって。」
わたしはブラックRXをレイジングハートと敵機の間に割り込ませた。敵機の目がこちらを凝視しているように思えた。
「猫さん…?」
あっけにとられているナノハに代わって、シンが声をもらした。
「シンも下がって。片腕片足のディステニーで倒せる相手じゃないよ。」
「倒すって、フェイトを!?」
「そうだよ。」
「まってくれ猫さん!猫さんだって、フェイトと一緒に食事したじゃないか!」
「そうだね。」
「そうだねって…なっ!?」
シンが言葉を切った。フェイトの機体が、わたしに向かってビームスピアを向けたからだ。
「やるしかないみたいだね。」
「私の仲間がソロモンから完全に離脱できるまで、ここを通すわけにはいきません。」
「わたしたちは、通らないわけにはいかないんだよね。」
「仕方ありません。戦争ですから。」
「そう、悲しいけどね。」
フェイトとの会話は、それだけだった。フェイトとわたし、双方が同時に機体を上昇させ、ブラックハウスを見下ろす位置で格闘戦が始まる。こんなところで殿を一人務めているのだから、彼女の力量は半端ではない。
「いくよ、RX。」
淡々とした気分だった。彼女の放つ悲しみのオーラに耐えられないからかも知れない。心を閉ざさないと、彼女の悲しみにわたしまでのまれそうになる。なぜ彼女が一人で耐えられているのか、見当もつかない。
「ナガモン、力をかして…」
戻って来ないあいつに、そっとつぶやいてみた。

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09/26 00:56 Windows(PC) [380]エルザス

† † † † †

「艦長、今のうちにブラックハウスは前進させましょう!」
京は、背後で呆然としているあずにゃんを振り返った。どこか虚ろになってしまっているあずにゃんは、京の提案を否定した。
「ダメです。フェイトさんはブラックハウスが動いた瞬間、こちらを狙ってきます。たとえ背後から黒猫さんが迫ろうとも、ナノハさんやシンさんが行く手を阻んでも。あの機体で特攻する覚悟で、文字通り命を賭けて突っ込んできます。」
京は黙り込んでしまった。一つにはあずにゃんの言葉に説得力があったからだった。だが、京はあずにゃんにどこか不可思議なものを感じていた。不安定になっている、そんな気がしてならなかった。
「艦長、どうされたのです?先ほどから、その、おかしいですよ?」
「戦争は死に狂いです。敵も味方も。ナガモンさんまで…」
「艦長…?ナガモン中尉はまだ戦死と決まったわけではありません。しっかりなさってください!」
あずにゃんは平然としたような風を保って、黒猫とフェイトの戦闘を見守っていた。やはり何かが変だ。このままではブラックハウスまで危ない。
そう思った京はあずにゃんに歩み寄ると、その目をまっすぐに見据えていった。
「艦長、ここからは、私が臨時に指揮をとります。よろしいですね?」
あずにゃんは戦意を喪失しているように見えた。おそらく、簡単に指揮権を渡してくれるだろう。そう思った。
だが、あずにゃんの答は京を驚かせた。
「認めません。ブラックハウスの指揮は私がとります。ブラックハウス隊の全責任も私が負います。」
「艦長?…しかし艦長は…」
京が言葉を継ごうとしたそのとき、生気の無かったあずにゃんの瞳が突然光を取り戻した。
「この責任を…このつらい気持ちを…副長にまで背負わせることはできません…私が、責任を負います…」
京は愕然とした。あずにゃんは、そこまで自分のことを考えていたのか。
「艦長…」
「大丈夫です。…最後まで戦えま…」
あずにゃんが言いかけたそのとき、彼女に視界に飛んでくるブラックRXの腕部が映った。
「ブラックRX被弾!右腕断裂!」
「黒猫中尉!」
アークとカントーがほぼ同時に叫んだ。今度は黒猫までが、危機に瀕している。

「…死なないでください…」

「艦長…?」


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09/26 00:56 Windows(PC) [381]エルザス
380
「…もう、部屋の片付けなんてしなくても、お酒ばっか呑んでても叱らないから、……死なないでよ…」
あずにゃんの瞳には、涙がいっぱいだった。今にもこぼれそうなそれを必死にこらえつつ、ひとつふたつ嗚咽を漏らしたかと思うと、あずにゃんは突然声をあげて泣きはじめた。
「わあああああああああああああん…!!」
「艦長!?」
驚く京を前に、あずにゃんは両手に顔をうずめて泣き続ける。アークとカントーも驚いて振り返る。一人ジョーンズだけが、RXとバルディッシュの死闘から目をそらさない。あずにゃんの長いツインテールは床にまでついてしまっているが、彼女はそんなことは全然気にしていなかった。
「…すいません…えぐっ…うっ…あの…」
「艦長、大丈夫ですか?」
京は気が気ではなかった。船の外では、黒猫とフェイトがなおも激しくぶつかり合い、お互いの命を削っていた。
「…戦闘中なのに、まだみんな戦ってるのに…泣かないつもりだったのに…」
あずにゃんの嗚咽は止まらなかった。そんなあずにゃんを京はどうすることもできない。
黒猫とフェイトの戦闘は激しさをまし、かつだんだんとブラックハウスに近づきつつあった。
「…わたし、大丈夫です…ちゃんと、指揮を続けて…あの、えぐっ…」
自分に言い聞かせるように、あずにゃんは言葉を絞り出した。その様があまりにも痛々しくて、京は胸が張り裂けそうになっていた。自分がどうにかしなければ。そう思った。
閃光がきらめき、京は窓の外を見やった。黒猫がバイタルチャージでバルディッシュのショットガンを粉砕したらしかった。二機の漆黒の機体は、お互いに命のすべてをぶつけ合い、ともに散ろうとしているようにも見えた。
京は、決意を固めた。そっとあずにゃんの頬に触れ、まずその涙をぬぐってやった。
「艦長…」
あずにゃんがまだ涙でいっぱいの目でこちらを見た。
「自分が指揮をとります。全部は無理でも、艦長の苦しさの一部、自分にも背負わせてください。」
「京さん…」
「今まで、艦長だけに背負わせてしまって申し訳ありませんでした。これからは、一緒に背負わせてください。苦しいこともつらいことも。」
「私も、一緒に背負います。」
京の背後で、アークが立ち上がりいった。
「私も。」
カントーも真剣な眼差しだった。そして今度ばかりは、ジョーンズまでもがあずにゃんを見つめていた。
「みなさん…すいません…」
あずにゃんの瞳から、さらに涙がこぼれ落ちた。
「艦長は少しだけ休んでいてください。ブラックハウスは自分が預かります。」
京が決然と言い放った。わずかではあったが、あずにゃんの首がこくりとうなずいた。
京は正面に視線をもどした。直近で戦い続ける黒猫のブラックRXは、すでにボロボロだった。フェイトのバルディッシュのほうは、無傷とはいかないまでも、RXよりは損傷が軽かった。黒猫は無意識のうちにフェイトに討たれようとしている。そんな考えが京に脳裏によぎった。
「この戦いに終止符を打つ。ブラックハウス、前進!!」
京の命令一下、ブラックハウスの巨体がゆっくりと進撃を始めた。

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09/26 00:57 Windows(PC) [382]エルザス
381

「ナガモン中尉、無事?ナガモン中尉!!」
「う…ん…?」
「よかった、無事なのね?」
「…アリスか?」
ナガモンの声を聞いて、アリスはようやく胸をなで下ろした。交信を断ったナガモンの捜索にでたアリス、魔理沙、パチュリーは、ソロモン要塞のごつごつした表面にBlackCatを発見した。BlackCatは損傷を負っており、ナガモンの身が案じられたが、繰り返し繰り返し通信を試みたところ、ようやくナガモンがそれに答えたのだった。
「ナガモン中尉、すぐにブラックハウスへ戻りましょう。その損傷ではこれ以上の戦闘は…」
「ダメね。」
アリスの言葉を遮って、パチュリーが割り込んできた。
「ブラックハウスは敵MSの襲撃を受けているわ。目下黒猫中尉が交戦中。苦戦してるみたいね。今戻るのは得策ではないわ。」
パチュリーがの乗るリトルデーモンのモニターには、ブラックハウスからの戦況報告が次々に表示されていた。それらはリトルデーモン自身がもつ索敵装置や傍受した無線等とあわせて、黒猫が危機に瀕していることを示していた。敵MSは単機ながら一騎当千の戦いを繰り広げている。
「黒猫が押されてるのか?そんなバカな!あうっ!!」
興奮して叫んだナガモンが頭の傷を押さえた。傷口はかなりひどい出血になっている。ナガモンは傷口を押さえたまま救急パックをとりだし、黙々と包帯を巻き始めた。
「中尉、まさか、戻る気じゃないでしょうね?」
その様子をモニターで見たアリスが言った。
「もちろん戻る。仲間のピンチだ。放ってはおけないだろう?」
「無茶よ!BlackCatもあなたも傷だらけじゃない!今行っても命を無駄に散らすだけよ!」
「まだ散るつもりはない!ジオンにたっぷりお礼をしてやるまでは!」
「そういう問題じゃないわ!魔理沙。魔理沙もなんとか言ってよ!」
魔理沙はさっきから、宇宙では動きの不自由なマスタースパークをどうにか操って周辺を警戒していた。しかし、話は聞いていたはずだ。
「いや、その…私もナガモンと同じ立場だったら、戻るかなって…」
「魔理沙!!」
アリスが一喝し、魔理沙は首をすくめた。
「じょ、冗談だぜ。ナガモン中尉、私も中尉が戻ることには反対だぜ。ブラックハウスにはナノハとシンもいるはずだし、それに猫さんが負けるとは思えないし。」
「だが、戦ってるのは黒猫だけなんだろ?シンとナノハは何をしているんだ。」
ナガモンが苦々しげに言った。しばらく考えこんでから、パチュリーが口を開いた。
「もしかして、もうディステニーもレイジングハートも戦闘不能に?」
「!?」
パチュリーの言葉に他の三人が一斉に息を呑んだ。そんなまさか。
「バカ言うなよ!リトルデーモンはディステニーとレイジングハート、両方の反応を捉えてるんだろう?だったら…」
慌てた様子の魔理沙に、パチュリーはあくまで冷静な口調で返す。
「確かに反応はあるけど、それがどれほどの損傷を負っているかまではわからないわ。だいいち目の前で戦闘が行われているのに、それに参加しないなんて異常よ。」
「そんな…」
アリスが呆然とつぶやいた。いったいブラックハウスでは何が起こっているのか。
「戻ろう!!」
唐突に、しかも決然と宣言したのは魔理沙であった。
「魔理沙?!」
「ブラックハウスが危ない。これはもう間違いないんだぜ。だったら、私たちが守らなきゃ。タチバナ隊もどこにいるかわからない。助けにいけるのは私たちしかいない。」
熱っぽく、魔理沙は語った。ナガモンは今にも飛び出していきそうだった。
はあ、とため息をひとつつき、アリスは髪をかき上げた。
「しょうがないわね。戻りましょう。魔理沙がいくら頑張ったって、その機体じゃ宇宙では限界があるわ。」
「マスパは宇宙でもちゃんと…!!」
「決まりね、行きましょう。」
魔理沙の言葉を遮って、パチュリーがはっきりと宣言した。リトルデーモン、マスタースパーク、ストロードール、そしてBlackCat。四機のMSが一直線にブラックハウスへと向かっていく。そこに待ち受ける苦難がどれほどのものか、まだ彼女たちは知らない。
だけど…、とアリスは思う。
このメンバーなら、やれる気がする。どんな試練も、ともに乗り越えていける。今を精一杯戦っている、このメンバーでなら。

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最終更新:2010年11月03日 17:29
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