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宇宙要塞ア・バオア・クー その2

ムスカ大佐、進撃開始時刻です。」
戦艦ラピュタの艦橋で、艦長に就任した京がムスカを振り仰いで言った。彼は京の艦長席よりも一段高いところにある司令官席に座っていた。
「ふむ。進発させたまえ。君ならブラックハウスとの連携はお手の物だろう。」
「ハッ。ラピュタ、両舷全速前進!敵の防衛ラインを超えるぞ!各員気を抜くな!」
ラピュタの船体が動き始め、少し離れたところをゆくブラックハウスと共同歩調をとりはじめた。見えるところにブラックハウスがいるだけで、不思議と京は安心できた。戦闘に臨む緊張感は決して耐えることはないが、ブラックハウスを見るだけで恐怖感は消え去ってゆく。敵のザクと遭遇しても、京は決して慌てることはなかった。対空砲に迎撃を命じ、じっと戦場に目をこらす。と、後方のアースラからやってきたディステニーとレイジングハートがラピュタの前方に進み出てきた。レイジングハートの手がラピュタの艦橋にそっと触れ、接触回線がつながった。
「リンディ提督の命令で、私とシン君はラピュタを護衛しながら戦います!敵のMSは任せて!」
レイジングハートのナノハはそういうと、早速ザクを狙い始めた。実弾式のスナイパーライフルを二連射。ザクは頭部と胴体を正確に射抜かれて爆発した。
ナノハのさすがの腕前に舌を巻きつつ、京は熱いものがこみ上げてくるのを感じていた。仲間が自分を守ってくれている。そう実感するのがこんなにも勇気を奮い立たせてくれるものだとは知らなかった。いまや京はまったく怖れをしらない戦士であるかのように、戦闘の指揮に没頭していく。要塞から放たれた衛星ミサイルを見事な操艦で避けきると、ムスカが「いけるぞ」とつぶやいた。
「京艦長、そろそろ『ラピュタの雷』を使おう。前方にいる敵艦を目標に。」
「ハッ。主砲、砲撃準備!取り舵!」
「ラピュタの雷」、それがこの戦艦の最大の武装である。艦首にせり出した7本の突起にエネルギーが充填され、それらの先端が次第に発光し始める。と、まばゆい光球が突起の中心にできあがり、それがみるみるうちにふくらみ始めた。
「照準、前方の敵ムサイ。艦長、発射したまえ。」
自信に満ちたムスカが笑みすら浮かべてそう言った。京は、言われるがままに照準を確認し、命令を下した。
「発射!」
刹那、光球がラピュタの艦首を離れ、ムサイに向かって飛翔したかと思うと、それは突然割れるように爆発し、真っ赤な火の玉がムサイを中心に巻き起こった。それはさながら、小型の太陽が突然姿を現したかのようであった。
「なん…だと…」
網膜を焼き尽くすかのような光を手で遮りながら、京は呆然と火の玉を見守っていた。敵のザクやドムをも巻き込みながら、火の玉はわき上がるような焔を吐きつつ肥大化してゆく。それに呑み込まれたらどうなるか、想像に難くない。おそらく一瞬で融解してしまうだろう。
「旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火だよ。ラーマーヤナでは、インドラの矢とも伝えているがね。」
不気味な微笑みをたたえながら、ムスカが意味深な言葉を口にした。だが、京は聞いていなかった。あんなものを自分が撃ってしまったことに衝撃を受けていた。もしあそこに味方が巻き込まれていたら…
「大佐、この兵器はもう使えません。使いたくありません。この兵器は…あまりに非人道的です。」
京は思わずそう口走っていた。言ってしまってから、自分の発言が以下に矛盾していたかに気がついた。
「これは奇妙な。軍人なら、より強力な兵器を持ちたいと思うのは当然だろう。そのほうが部下が生き残る可能性も高くなる。非人道的だと?笑わせるな!ギレンが放ったソーラ・レイで、何人の味方が死んだと思っている!」
急に激怒したムスカに気圧されて、京は一歩二歩と後ずさった。たしかにムスカの言うとおりなのだ。すでにこの戦争では人道などという言葉は意味を失っていた。冷酷非道な虐殺行為は開戦当初から繰り返されてきた。あらゆる場面、あらゆる戦場で。
だが、自分がそれに加わるとは思ってもみなかった。このラピュタの雷はあきらかに虐殺兵器だ。ひとたび放たれてしまえば、狙われた相手はなすすべもなく煉獄の炎に灼かれるほかない。そんな兵器を、自分は使わなければならない。
「私をあまり怒らせない方がいいぞ?当分君はこの船の艦長なのだからな!」
京のなかにあったさっきまでの自信が、音を立てて崩れ去っていった。


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10/23 01:26 Windows(PC) [431]エルザス
430

「今の光はなんだ?!報告は?!」
要塞から発進したダモクレスの艦橋で、ゼロは状況の把握に手こずっていた。連邦軍はまたしても新兵器を投入してきたらしい。
「ゼロ、こちらスザクだ!」
ランスロットで最前線に立つスザクから通信が入ってきた。
「今のは敵の一隻の戦艦が放った火の玉だ。放たれてから数秒で一気に肥大化した。呑み込まれた連中は全滅だ。このままでは戦線に大穴があくことになる!」
スザクの表情には焦りの色が見て取れた。まだ戦いは始まったばかりなのだ。どうにかして戦線を押し戻す必要があった。
「その戦艦に要塞から集中砲火を浴びせる。お前の部隊は敵の側面に回り込み、背後から奇襲しろ。一度敵をこちらに引き入れても構わん!」
「了解した!」
ゼロの大胆な命令をスザクは即座に理解する。通信が切れ、ゼロは艦橋を見渡した。
「私は蜃気楼で前線に出る!あとの指揮は扇に…」
そこまで言いかけて、ゼロはハッと気がついた。いつもこのような場面で指揮をゆだねた扇は、ソロモンで散ったのだ。クルーたちの表情が沈む。ゼロらしくもない失態だった。
「すまない…ダモクレスは諸君に任せる。」
ゼロは歯切れ悪くそれだけ言い残し、格納庫へと向かった。
蜃気楼に乗ってダモクレスを飛び出すと、即座にカレンの紅蓮弐式が近づいてきた。
「ゼロ!最前線は危険です!これ以上前には出ないでください!」
「そういうわけにもいかないだろう。戦いの様子がわからなければ指揮はできない。それに、敵の新兵器も気になる。」
「だけど…!」
「お前が守ってくれるんだろう?」
「えっ…?」
カレンが息を呑むのが手に取るようにわかった。素直な女なのだ。
「は、はい!ゼロは私が守って見せます!」
「頼りにしている。行こう。」
蜃気楼が動き出し、すぐあとに紅蓮弐式が続く。
「現在正面の敵は学徒兵達が食い止めています。彼らも奮戦しています。スザクは彼らを一度大きく後退させて、敵をこちら側に引き込んでから一気に叩くつもりでいますが…」
現在の戦況をカレンがかいつまんで説明する。
「それで問題ないだろう。問題は誰が直接敵を叩くかだ。スザク、ジェレミアと他にももう少し人数が欲しい。」
「学徒兵では?」
「ダメだ。危険が大きすぎる。グラハムに頼みたいところだが、奴はガンダムにしか目がいかないだろう。」
ゼロは蜃気楼を操りながらじっくりと考え始めた。こんな時トウドウがいてくれたら、と思う。彼もまた、オデッサの地においてその命を散らしていったのだ。
「ゼロ、あれは?」
カレンが上空を指さし、ゼロは思考を中断してそちらに目をやった。要塞のほぼ真上から、銀色の物体がものすごい速さで急降下してくる。
アリー・アル・サーシェスか!」
ゼロが叫んだ瞬間、サーシェスの操るシャドームーンが、連邦軍のサラミスを狙い撃ちにした。対空弾幕を張る暇もなく攻撃を受けたサラミスは、第一撃を艦橋にくらって即座に戦闘能力を失った。サーシェスは追い打ちをかけるように、飛び出してきたジム三機を一瞬で葬った。シャドームーンを狙い始めたたくさんの火線を器用にかわしつつ、サーシェスはさらに別のジム小隊に接近してゆく。ジムはあわてふためいて散開するが、サーシェスはあっという間に一機を撃破し、追撃を振り切ってこちらにやってきた。ものの1分の出来事であった。

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10/23 01:27 Windows(PC) [432]エルザス
431

「ラピュタのムスカ大佐より入電!『我、進撃路を構築しつつあり。続航されたし』です!」
はちゅねがそう叫び、あずにゃんは先行し始めた戦艦ラピュタに目をやった。あきらかに京の指揮ではない進撃スピードだった。目の前の戦いに集中しすぎる余り、視野が偏狭になってしまっている、そんな感じがした。京ならそんな初歩的なミスを犯すはずがない。では、今ラピュタの指揮をとっているのはムスカなのだろうか。電文を読む限りそうとしか考えられない。ならば、京はいったいどうしているのか。
なんとなく嫌な予感がして、あずにゃんは頭をふってその予感を追いやった。今は戦闘に集中しなければならない。ラピュタが放った衝撃的な一撃によって、敵の戦線にほころびが生じたことは確かなのだ。一気に要塞に突き進む絶好のチャンスともいえた。
「ブラックハウス、機関最大にて戦線を突破します!アースラにその旨連絡!各MSは敵の反撃を退けつつ戦線にあいた穴を広げてください!」
あずにゃんの指揮の下、ブラックハウスの巨体が加速し始めた。それに群がるようにザクが追いすがってくるが、主砲のレールガンと甲板上のマスタースパークが敵を近づけさせない。ブラックハウスの上空にはパチュリーのリトルデーモンがいて、戦況を分析しつつ敵の戦線のどこが弱点であるかを探ろうとしていた。
「2時の方向からドムが接近中よ。アリス、対処をお願い。左翼は味方のジムに任せていいわ。」
アリスが操るストロードールから、AI制御のボール「ホウライ」が離れて飛び出した。ホウライは接近するドムの前に立ちふさがったかと思うと、正確な射撃でドムの頭部を撃ち抜いていた。
「ドムは始末したわ!次は?」
アリスが周囲をすばやく観察しつつパチュリーに訊く。
「敵は引いていくわね。もう力尽きたのかしら?」
モニターを見回しながら、パチュリーが怪訝な顔つきで言った。
「深追いしない方がいいんじゃないか?罠だって気がするぜ?」
マスパをぶっ放しながら、魔理沙がつぶやいた。放たれた強烈なビームは背を向けて逃げる動きの悪いゲルググを撃ち抜いていた。
「同感だけど、ラピュタが突出してるし、やむを得ないわ。」
パチュリーがぐんぐん進んでいく友軍艦を見ながら言った。たしかに、ラピュタは戦線をこじ開けつつあった。

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10/23 01:27 Windows(PC) [433]エルザス

† † † † †

わたしとナガモンは、背中合わせになって押し寄せる敵を何度も何度も撃退していた。わたしたちがいるのはブラックハウスの右翼、戦線を食い破った地点だった。敵は破られた戦線を修復しようと、執拗な攻撃をここに繰り返してきた。そのたびにわたしとナガモンは、あらゆる種類の敵機をことごとく粉砕した。
「そろそろ敵も諦めないのか?どう考えてももう戦線はつながらないぞ。」
ナガモンが言った。
「同感だけど、敵さんMSの数だけはそろってるみたいなんだよね。」
またしても接近してくる敵機を見つめながら、私は返した。接近してくるのはノーマルタイプのゲルググだ。不思議なことに、あの機種に乗っている敵パイロットはザクやドムのパイロットに比べて明らかに戦い方が稚拙だった。新しい機体なのにパイロットの動きが幼稚なのだ。機動はほとんど単一のパターンで、だから簡単に攻撃を喰らってしまう。
「寄せ集めの二戦級部隊とも思えないが…!」
アームストロング砲をゲルググに向けながら、ナガモンが言う。直後にビームの光が輝き、アームストロング砲はゲルググを正確に捕捉した。爆発するゲルググを脇目に見つつ、わたしは新たな敵機を探していた。
「ブラックハウスとラピュタ、ずいぶんと前に進んでるな。」
戦線の前方を見つめながらナガモンがつぶやいた。確かに突出しすぎてる気がする。第二連合艦隊の本隊を率いるアースラは、今ようやくわたしとナガモンがいる地点にたどり着こうとしていた。アースラの上空から、タチバナのセイバーフィッシュが舞い降りてきた。
「ユーノ・スクライア戦術アドバイザーから伝言です!BlackCatとRXはこの地点をアースラに任せて、ブラックハウスとラピュタを追ってください!自分の小隊もここを引き受けます!」
「こちらナガモン、了解した!ここは頼んだぞ!」
「こちら黒猫、こっちも了解。アースラを守ってあげてね!」
「お任せを!」
セイバーフィッシュの編隊が散開し、やってくる敵がいないか警戒に当たる。
「行こう、ナガモン。」
「よし。」
RX とBlackCatが並んで加速し、ブラックハウスを追う。遙か遠くに見えていたブラックハウスは、あっという間に近づいてきた。進撃スピードを落としていたらしい。そのまま追い越し、ラピュタとブラックハウスの間に入る。ラピュタはなおも猛烈な勢いで進み続けている。危険だ。
「ラピュタは突出しすぎてる!危ないよ!」
BlackCatを振り仰いで叫んだ。ナガモンも同意する。
「同感だ。京大尉らしくない。ムスカの指揮か?」
「京大尉、どうしたんだろう?」
「わからないが、構っている暇はない。下からドム三機来てるぞ!気をつけろ!」
「あーもうこんな時に!」
言うが早いか迎撃態勢を整える。わたしたちの真下に回り込んでいた敵は、まっすぐこちらに向かってくるかと思いきや、そのままブラックハウスの下をくぐり抜けてその後方に回っていった。
「ブラックハウスの後ろについた?何が狙いだ?」
相手の出方をうかがうように、ナガモンがそちらに機体を向けた。見れば、さらに他の方向からの敵機がドムに合流し、ブラックハウスの背後を脅かし始めていた。
「退路を閉じたつもりかな?」
「オレたちが退却するもんか。どちらかと言えば増援の遮断だな。とにかく後ろに敵がいるのは気持ち悪い。片付けるぞ。」
「うん。」
いま来たルートを戻り、ブラックハウスの後方に陣取った敵機のグループに向かってゆく。そのとき、わたしの脳裏に稲妻が走った。
「ナガモン!左だ!」
「むっ!?」
BlackCatが急制動をかけ、その鼻先をかすめるようにしてミサイルが駆け抜けていった。
「現れたか、グラハム・エーカー!」
怒りに満ちた声で、ナガモンが叫んだ。彼女の見つめる先に、漆黒のフラッグⅡが不気味なオーラをまとって構えていた。
「あいつはオレが引き受ける!黒猫はこのまま行って後方の敵を撃破しろ!」
「一人で大丈夫なの?ナガモン!」
「今度こそ決着をつける!!」
BlackCatのバーニアが限界まで噴射され、爆発的加速を得たナガモンは敵機目がけて弾丸のように飛び出していった。わたしはそれを見届けることもなく、とにかく任務を果たそうと思った。心配だが、あとはナガモンを信じるしかない。
負けないで、ナガモン…

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10/24 00:07 Windows(PC) [434]エルザス
† † † † †

「ゼロ、黒い木馬の後方を押さえました!しばらくは持つはずです!」
カレンが戦況を報告し、蜃気楼に乗ったゼロは後ろにいる味方を振り返る。
「いまが黒い木馬を沈める最大のチャンスだ。スザクを先頭に突入、黒い木馬左舷に集中攻撃をかける。行くぞ!」
号令一下、スザク、ジェレミア、サーシェス、カレン、ロロ、そしてゼロが、各々の機体を駆って砲弾とビームが吹き荒れる戦場のまっただ中に飛び出してゆく。ロロがのっているのはやはり学徒兵らしくゲルググだった。少し遅れて、他の学徒兵が何名か付き従ってくる。
「学徒兵の諸君!遅れをとるな!敵に狙い撃ちにされるぞ!」
巨大なオレンジのMA、ジークフリートに乗ったジェレミアが一喝する。緊張した様子はあるが、学徒兵達の士気は十分であった。
「これが総力戦か…」
ゼロは飛び交うビームを巧妙にかわしつつ、まるで戦いが他人事であるかのようにつぶやいていた。若い命は次から次に宇宙の塵となり、同時に彼らの将来や夢までもが散ってゆく。もし、この戦いで死んでゆく若者たちが、あと30年も生きていたら、いったい世界はどれほど変わっていただろうか。
多くの若者の未来を奪ったこの戦いの責任が、はたして本当はだれのもとにあるのか。ゼロは激戦に身を投じる一瞬前、ひとり考えるのだった。


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10/24 00:09 Windows(PC) [435]エルザス
434

「9時の方向から敵MS数機が接近中!MA一機を含む模様!」
カントーがいち早く見つけたその敵部隊は、Wフィールで遭遇した他の敵とは明らかに違う、洗練された動きで接近してきた。敵機の詳細が明らかになるにつれ、カントーは次第に鼓動が速くなってゆくのを感じた。手にじんわりと嫌な汗を握っていた。
「敵機の詳細でました!黒の騎士団のMSです!シャドームーンとゲルググもいます!」
カントーの叫びを耳にしたあずにゃんは、目をこらして左舷を注視した。遙か彼方から飛来する敵機は、どれも見覚えのあるものばかりであった。
「取り舵!接近してくる黒の騎士団に正面から向かい合います!左舷弾幕薄いです!なにしてるんですか!」
その日のあずにゃんはいつもと違っていた。そこにいるのはいつもの頼りなさげな少女ではなく、立派な指揮官の姿であった。
「黒猫中尉に連絡!後方の敵に構わず、いま現れた黒の騎士団に向かってください!」
「了解!」
あずにゃんの指示に答えるアークも今日は必死だ。自分の使命を果たさなければ、ブラックハウスとてあっさり沈む。そう思わせるだけの厳しさが、この戦場にはあった。
「猫さんだけじゃ圧倒されるぜ。私たちも出るぜ!いいな、アリス、パチュリー!」
ブラックハウスの甲板上にいるマスパから、魔理沙が野心的な提案を出してきた。アリスのストロードールとパチュリーのリトルデーモンは、はやくもマスパを迎える陣形を整えつつある。
「ありがたいです魔理沙さん!気をつけてください!」
あずにゃんが離れていくマスパにそう言い終わる頃には、ブラックハウスは旋回を終えて近づいてくるゼロたちのグループを真正面に見据えていた。主砲のレールガンが猛烈な勢いで射撃を始め、それ以上敵が近づくのを牽制する。
「ラピュタに連絡!『敵は我が方を包囲しつつあり、これ以上の進撃は危険』と!味方の本隊が到着するまでブラックハウスを離れないように言ってください!」
「了解!」
あずにゃんの命令にはちゅねが応え、ただちにラピュタとの通信が開かれる。

「停止しろだと!?」
ラピュタの艦橋では、ムスカが不機嫌さを隠そうともせず叫んでいた。
「その通りです大佐。自分もナカノ少佐の意見に賛同します。これ以上進むのは危険です!」
冷静さをどうにか保ちつつ、京はムスカをなんとしても説得しようとしていた。
「バカな!ラピュタは立ちふさがる敵を『雷』を以てすべて粉砕できる!前進は継続する!」
「後方が危うくなっているのです、大佐!」
「大尉!君は『ラピュタの雷』の威力をまだ認めていないのかね!」
「そうではありません!たしかに『ラピュタの雷』は強力です。しかし、俊敏に動き回るMSに対しては大艦巨砲主義は無力です!これ以上の進撃は命取りになります!」
「これまでに多数の敵MSの反撃に遭遇してきた。そのたびにラピュタは『雷』で血路を開いてきた。どこが無力なものか!」
「いままでの敵は、自分がこれまで見てきた中でももっとも練度が低い部類でした。おそらくろくに訓練も受けていない新兵でしょう。しかし、ここから先、そのような敵ばかりとは思えません!これ以上進むのは無謀です!」
京が声を荒げたとき、彼女の背後、艦橋のすぐ目の前で、敵のゲルググが爆発した。衝撃に艦橋が激しく揺さぶられ、京はあやうく床に投げ出されそうになる。ムスカを見ると、色メガネがずれてずいぶんと取り乱しているように思われた。
「こちらナノハ!ラピュタ、無事ですか!?」
ナノハのレイジングハートがラピュタのすぐ横にまでやってきて訊いた。いま爆発したゲルググを仕留めたのは彼女だった。シンとナノハが精一杯敵を食い止めても、ラピュタの目前にまで敵が迫ってくる状況。ムスカはようやく事態を理解したらしかった。
「このまま逃げ帰るなどということはないな?」
「無論です。機を見て再度進撃に移りましょう。」
京は真剣そのものの表情でムスカを見つめた。これでダメなら自分はムスカと心中だ。
「…よし、ラピュタの進撃を停止する。ブラックハウスの近くまで一時後退だ。」
「ありがとうございます!」
京はムスカに背を向けると、制帽を被り直して声を張った。
「ラピュタ、両舷後進微速!対空砲火、手をゆるめるな!」
無謀な前進を続けていたラピュタが、すこしづつすこしづつ、ブラックハウスのもとへと戻り始めた。


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10/24 00:15 Windows(PC) [436]エルザス
435

ナガモンとグラハムの一騎打ちは、しだいにブラックハウスから遠ざかりつつあった。双方のパイロットは未だに相手へ決定打を浴びせられないことに焦り、一方で自分が決定打を浴びていないことに安堵していた。どちらにもきわどい場面が何回かあった。だが二人はそのたびに卓越した技量を発揮し、敵の必殺の一撃を受け流すことに成功していた。
行き詰まった展開にしびれを切らしたのか、二人は今度は真正面からぶつかっていこうと決めていた。双方の機体が同時に加速し始め、BlackCatとフラッグⅡのビームサーベルが火花を散らしてぶつかり合う。ものすごい衝撃とともに機体同士も接触し、ナガモンとグラハムはこの日何度目かの舌戦を繰り広げ始めた。
「機体性能では負けてないのに!なぜ倒れない!?グラハム・エーカー!!」
「MSの性能が、勝利を分かつ絶対条件ではないさ!!」
「知れたことをッ!!」
つばぜり合いを続けていた機体が突然離れ、BlackCatはフラッグⅡに背を向けて一度距離を置こうとする。
だが、フラッグⅡはすぐあとから追いすがってきた。それを見たナガモンは今度は一転してフラッグⅡに向き直る。ほぼ同時に斬撃が機体を揺らした。シールド代わりにかざしたトンガリコーンが火花を散らして寸断された。小指と薬指を失った。そのままの勢いで体当たりをくらい、BlackCatは漂っていたムサイの残骸に押しつけられた。
「男の誓いに訂正はない!ここで討たせてもらうぞ、ガンダム!!」
フラッグⅡが試作型の対艦ライフルを BlackCatに向ける。この距離でそれが発射されれば、ガンダムの装甲も役には立たない。ナガモンはBlackCatの右腕でライフルを振り払おうとする。だが、BlackCatの右腕はフラッグⅡの左腕であっさりと押さえつけられてしまった。ナガモンはなおも抵抗しようと機体を動かすが、フラッグⅡ はBlackCatに馬乗りになり離れようとしない。もがき続けるナガモン。そのとき、彼女は過去の屈辱を思い出していた。
ハワード・メイスン、以て瞑すべし。いまこそ因縁の敵を戦士の祭壇に捧げよう。」
グラハムは厳かにそう口ずさむと、ライフルの発射トリガーに指をかけた。そのとき、鼓膜を破らんばかりの勢いでナガモンが絶叫した。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「なにっ!?」
その瞬間、BlackCatはフラッグⅡをはじき飛ばしていた。あり得ないことだった。フラッグⅡは完全にBlackCatを押し倒していたのだ。この不可解に理由があるとすれば、それはナガモンの強烈な意志の力に他ならない。BlackCatは今や、狂気に染まった不吉なオーラを醸し出していた。オーラの根源はコックピットのナガモンだった。過去の陵辱の記憶が、彼女の精神を狂わせていた。
「ジオンの奴らを、殺す…!」
唸るような荒い声で、ナガモンがつぶやいた。あの恥辱の中に生きた日に誓った、ナガモンの戦う理由であった。
「お前達は、死ななきゃならない…死んで償いをしなきゃならないんだ!」
豹変した敵パイロットを前に、グラハムは哀れみの気持ちを感じていた。麗しき少女が心の拠り所とするべき戦う理由は、決して崇高なものではなかった。純粋な憎しみと復讐の念だけがナガモンの心に渦巻いていると知ったとき、グラハムは彼女を救ってやらねばならないと思った。傷ついた少女にせめて、安らかな眠りを与えよう。
「悲しいな、ガンダム。それが戦う理由か。」
「…なら、貴様が戦う理由はなんだ?」
「軍人に戦いの意味を問うとは…ナンセンスだな!!」
グラハムは叫び、BlackCat目がけてまっすぐ突っ込んでゆく。ナガモンは臆することなくそれを迎え撃ち、双方の機体は再び激しいつばぜり合いになった。間断なく飛び散る火花。力と力のぶつかりあい。戦いしか知らない男と女の、悲しい運命がそこにはあった。
もし違うかたちで二人が出会っていたら、オレたちはどうなっていたんだろう。
まばゆい火花に照らされながら、ナガモンはふとそんなことを考えていた。
二人がもし、敵と味方ではなく、同じ陣営に属していたら…。きっとお互いの腕前を認め合って、よきライバルとして、そしてよき友としてつきあっていたに違いない。それほどまでに自分は、この男に惹きつけられていたのだ。
その時、グラハムが接触回線を通じてナガモンに語りかけてきた。
「やはり君と私は、運命の赤い糸で結ばれていたようだ。」
「運命だと…?」
「そうだ!戦う運命にあった!」
グラハムは、これまでのBlackCatとの死闘をめまぐるしく思い出していた。幾度となく互いの命を賭け、全身全霊でぶつかってきた二人。そこまで自分が彼女に執着してきた理由を、グラハムはようやく見つけ出していた。
「ようやく理解した!君の圧倒的な力に、私は心奪われた!この気持ち…まさしく愛だ!!」
「愛ぃ!?」
グラハムの言葉の意味が理解できず、ナガモンはフラッグⅡをぐいと押しやった。
いつまでもこいつだけと戦っている訳にはいかない。ナガモンは「愛」という言葉を聞いて、なぜだか黒猫やあずにゃん達のことを思い出していた。みんなが心配だ。起死回生の一撃に賭けるしかない。
フラッグⅡから離れたBlackCatは、バーニアを一気に噴かしてさらに距離をとる。当然のごとく、フラッグⅡはあとを追ってきた。
BlackCatは振り向いてアームストロング砲をフラッグⅡに向ける。同時にバルカンを乱射して、発射までの時間を稼ぐ。だが、
「遅い!!」
一喝したグラハムは被弾を恐れずまっすぐ突っ込んできた。フラッグⅡはビームサーベルを突き出し、ナガモンはそれをかわそうと機体を旋回させる。だが、間に合わない。アームストロング砲はフラッグⅡのビームサーベルに見事に貫かれていた。
しかしその瞬間、ナガモンは不敵な笑みを浮かべていた。ビームサーベルをアームストロング砲に突き刺したグラハムは、背筋が凍るような感覚を覚える。離脱しようしたフラッグⅡは、BlackCatに右腕を掴まれて動けなかった。
「…ッ、肉を切らせて…?!」
グラハムがナガモンの真意を悟ったとき、BlackCatはビームサーベルを振り上げていた。
「骨を断つ!!」
ナガモンが叫ぶ。ビームサーベルが振り下ろされる。
間に合わないと知りつつも、グラハムはとっさにフラッグの右腕を自らのサーベルで切り払おうとしていた。同時にバーニアを限界まで噴射し、最後のあがきを見せる。
「さらばだ、グラハム!!」
ビームサーベルはフラッグⅡの機体に斬り込み、爆発が起こった。ナガモンはとっさに機体を後退させ、爆発から逃れる。たしかに手応えがあった。
「やった…」
茫然自失としながらも、ナガモンは巻き起こった爆発をじっと眺めていた。ついに倒した。
何人もの仲間の命を奪ってきた仇敵を、自分はついに倒したのだった。
「……っく!」
不意に、涙がこぼれそうになった。安心したのか、本当は恐かったのか、ナガモン自身にもわからない。ただ、涙が止まらなかった。この戦争での自分のつとめを果たした気がした。あとは、みんなと一緒に生き残るだけだ。
ナガモンはきびすを返し、ブラックハウスへと向かってゆく。応急修理を受ける暇もないだろう。彼女は傷ついたままのBlackCatで、仲間達と一緒に戦うつもりだった。振り返ることはない。

BlackCat が去ってゆくのを見ながら、グラハムは自分がどんな状態にあるのかを確かめようとしていた。生きていることだけはわかったが、どれだけの傷を体に負ったのか見当もつかなかった。彼は遠くから特殊なゲルググが接近してくるのを認めた。彼の部下、ダリル・ダッジの機体だった。
「まだ生きていたか…」
自分のことはそっちのけで部下の心配をしながら、グラハムは静かに目を閉じた。ダリルなら、うまいこと自分を助け出してくれるだろう。
グラハムの意識が遠のいてゆく。全身全霊を賭けた戦いに負けた潔い心地よさが、彼を包んでいた。

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10/24 00:23 Windows(PC) [438]エルザス

そのころ、ア・バオア・クー要塞の司令室に、キシリア・ザビ少将が合流していた。
「遅かったな。」
戦闘の指揮をとるギレンは、部屋に入ってきたキシリアを一瞥して言った。
「申し訳ありません。」
「エルメスが沈んだそうだな。」
ギレンは再び正面に向き直り、戦闘の様子をモニターしながら続ける。
「はい。」
「ガンダム一機に手こずるものだな。」
「ジオングを使います。」
「未完成品をか。」
「すこしでもニュータイプと思えるものをぶつける以外、ガンダムは倒せません。」
「また、シャアか…」
その時、オペレーターが戦況を報告した。
「ドロス、突出します。」
「こだわりすぎるな。」
報告には応じず、ギレンは再度キシリアを一瞥した。そのギレンを見返しつつ、キシリアも言葉を続ける。
「グレート・デギン、どこに配備なさったのです?ズム・シティですか?」
「沈んだよ。先行しすぎてな。」
「ほぉう?デギン公王から調達なさったので?」
「歯がゆいな、キシリア。父がグレート・デギンを手放すと思うのか?」
「思いません。」
「では、そう言うことだ。」
したり顔で言い放ったギレンを前に、キシリアはすべてを悟っていた。この男、ギレン・ザビは、父であるデギン・ザビを敵もろとも葬り去ったのだ。ソーラ・レイの慌ただしい発射。それは敵の主力とグレート・デギンを一度に排除するためのものだった。
キシリアの胸中に、どす黒い憎悪の念が渦巻き始めていた。

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最終更新:2010年11月04日 00:29
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