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宇宙要塞ア・バオア・クー その3

戦場ではたくさんの光が現れては消えていた。間断なくまたたくそれらはすべて人間の醜い争いによって生み出されたものだった。
黒猫は、自分にまっすぐ向かってくる機体を見て短く舌打ちしていた。やってくるのはシャドームーン。乗っているのはアリー・アル・サーシェスだろう。

「わたしの前によく出てこられる!」

ブラックRXとシャドームーンはお互いに惹かれ合うかのように接近すると、激しい格闘戦を開始した。
黒猫はビームサーベルを真横に振ってシャドームーンに斬りかかる。だがシャドームーンはあっさりとこれを避け、下から蹴り上げてきた。今度は黒猫がこれをかわすが、ビームサーベルはRXの手からはじき飛ばされてしまった。
そこへすかさずアリーが斬り込み、黒猫はそれを受け流すようにしてからカウンターパンチを食らわせる。シャドームーンは頭部から火花をふいて後退し、今度は腕部からビームを発射してきた。
ビームはRXの右肩をかすめるが、増加装甲の「ロボフォーム」はシャドームーンのビーム攻撃に耐えて見せた。

「聞いたぜお嬢ちゃん、ニュータイプなんだってな!」

突然アリーから通信が入ってくるが、黒猫はそれを無視してシャドームーンに殴りかかる。

「熱くなるなよ!一度は仲間だっただろ?」

悪びれもせずにそう言うサーシェスの声を聞いて、黒猫は思わず叫んでいた。

「二度と仲間を語るな!お前は誰も信頼していないし、信頼されてもいない!最低の人間だ!」

大きく振りかぶった拳は空振りに終わり、即座にシャドームーンの斬撃が襲ってくる。

「戦場で自分以外の人間を信用するたぁ、騙されるほうが悪いのさ!」
「いま償いをさせてやる!」
「どうせ戦場にいるんだ!敵に討たれようが味方に討たれようが同じことだろ!」

ビームサーベルが火花を散らしてRXに食い込むが、黒猫はそれと同時にロボフォームをパージしていた。射出された厚い装甲板がシャドームーンを直撃し、アリーは一瞬機体の制御を失う。だが、その表情には余裕の笑みさえこぼれていた。

「せっかくの装甲をとっちまうのか!もったいねえ!」

次の瞬間、シャドームーンの目の前にRXが右腕をつき出した。

「いけ好かない奴!ここで散れぇ!」

黒猫はバイタルチャージを起動させ、RXの右手が真っ赤に染まった。

「ところがぎっちょん!」

アリーが叫んだ瞬間、シャドームーンの両肘から短い刀身が飛び出した。シャドームーンは機体の前にそれをかざしてRXの右手を切りつける。だが、黒猫は動じなかった。

「砕け散れええええええええ!!」

ごしゃっ、という鈍い音がして、シャドームーンの左腕が飛び散った。

「ちぃっ!」

アリーは短く舌打ちしながら機体を後退させる。スザクが援護射撃をしてきた。彼は今パチュリーのリトルデーモンと戦闘中だったが、こちらにも注意をむけていたあたりはさすがだった。

「感謝するぜ、騎士さんよ!」

振り返ると、RXは追うのを諦めたように呆然と漂っていた。周囲ではいくつもの爆発がおこっているのに、RXはまるで生気を失ってしまったかのようだ。

「また、倒せなかった…」

黒猫はうなだれていた。彼女は確信していた。アリーは討たねばならないと。生かしておけば、より多くの巨悪を犯すであろうと。にもかかわらず、一騎打ちのチャンスで自分は相手を取り逃がしてしまった。
だが、彼女には悔やんでいる暇など無かった。新たに現れたザクがRXに躍りかかり、黒猫は反射的にその敵を粉砕していた。戦い続けるしかない。

「銀色の奴、シャドームーンは後退していったわ!魔理沙はゲルググに集中砲火!」

スザクのランスロットと戦いながら、パチュリーは周囲の戦況にも目を光らせていた。黒猫は新手のザク数機を相手に大立ち回りを始めた。アリスは紅蓮弐式をホウライで撃破しようとしている。

「ゲルググにしては動きのいい奴だぜ!」

魔理沙が威勢よく叫んだかと思うと、マスタースパークは強力なビームを撃ちはなった。

「くぅっ!」

ゲルググを操るロロは懸命の操作でこれをかわした。だが、彼の後ろに控えていた学徒兵たちが直撃を受けてしまった。学徒兵のゲルググが爆散し、宇宙にまた新たな光が瞬いた。

「ロロ、後退しろ!スザク、カレンも後退だ!」

ゼロから通信が入ったが、彼の乗る蜃気楼の姿は見えない。

「兄さん?まだやれるよ!兄さんはどこにいるの?!」

マスタースパークにビームライフルを向けながら、ロロは辺りを見回した。どこにも蜃気楼らしき機影はない。

「黒い木馬の後方だ。敵の主力艦隊は木馬との連絡路を確保しつつある。これ以上ここを維持するのは不可能だ。戦線を縮小する!」

ゼロは、迫ってくるアースラと第二連合艦隊主力を見据えていた。突出し包囲されていたはずのブラックハウスとラピュタは押し寄せてくるザクやドムの波状攻撃を、すべて押し返していた。
そうしている間に、遙か後方にいた主力艦隊が追いついてきたのである。ブラックハウスの後方を遮断していたわずかな部隊はわらわらと集まってきたジムに囲まれて壊滅しつつあった。
ゼロは眼下にそれを見下ろしながら、これ以上は戦線が持たないと判断したのだった。
ゼロは蜃気楼の機体をブラックハウスの左翼に向けた。彼の位置からは奮闘するロロのゲルググを見ることができた。マスパからの集中砲火を浴び、ゲルググは窮地に立たされていた。ゼロはゲルググのもとへとって返す。

「ロロ、蜃気楼が敵との間に割り込む。その間に後退しろ!」
「そんな!兄さんは!?」
「蜃気楼の防御力は鉄壁だ。」

ゼロは決然とそう応えると、言葉通り蜃気楼を敵機とゲルググの間に飛び込ませた。機体の周囲にシールドが展開された直後、マスパからのビームがそれを激しく叩いた。

「今だ!行け!」

ロロは戸惑いながらも敵に背を向けた。生き残った他の学徒兵もそれにならう。ランスロットと紅蓮弐式が蜃気楼に近づき、敵に向かってビームと煙幕を乱射した。

「今です!ゼロも後退を!」

カレンが叫び、ゼロはそれに従った。ランスロットと紅蓮弐式で蜃気楼をかばうようにしながら、三機のMSはブラックハウスから離れていった。
まもなくゼロの命令が各部隊に伝達され、潮が引いてゆくように敵部隊が後退し始めた。ラピュタが食い破った場所だけでなく、ゼロは戦線の持ちこたえている部分からも部隊を後退させていた。
戦線を縮小させることで、すこしでも予備兵力を捻出しておきたかったのだ。

「アースラおよび艦隊主力、後方より接近します!」

カントーの言葉を聞いたあずにゃんは、思わず後方を振り返っていた。タチバナのセイバーフィッシュ小隊がブラックハウスの真横を通り過ぎていったかと思うと、アースラが光信号を発しているのが目に入った。

「ブラックハウス、ラピュタは、再び艦隊主力に先行し、新たな反撃に遭遇するまで前進せよ、です!」

アークが手早く信号を読んで見せた。リンディ提督はこのWフィールドからも要塞への橋頭堡を確保するつもりらしい。要塞内部まで突っ込めと言うのだろうか。

京の乗るラピュタもまた、この信号を受け取っていた。

「大佐、リンディ提督は前進を再開するようにと。」

ムスカに報告すると、彼は満足そうに口の両端をつり上げた。

「さすがリンディ提督。戦いの気運というものをわかっている。艦長、ラピュタを前進させたまえ。ア・バオア・クー一番乗りは、我々がいただくとしよう。」
「ハッ。ラピュタ、両舷前進強速!ブラックハウスと歩調を合わせるのを忘れるな!対空監視を厳となせ!いつ敵の反撃が再開されるかわからないぞ!」

京の命令の下、ラピュタの前進が再開された。要塞の姿は次第に大きくなりつつあった。だが、まだ敵は余力を残しているに違いない。最期の瞬間まで決して戦いをやめないのがジオンの軍人なのだ。
京はこれまでの戦いで身を以てそれを実感していた。それだけに、一気に後退していった敵の動きは不気味に思えてならなかった。

ア・バオア・クー要塞内の司令室では、ギレンが余裕を垣間見せていた。Nフィールドの前面では空母ドロスの部隊が敵を押し戻したというのだ。

「フフ、Nフィールドはドロスの隊で支えきれそうだ。」
「結構なことで。」
「ん?」

ギレンが振り返ると、キシリアがすぐ後ろに立ち、冷たい表情で銃を自分に向けていた。

「グレートデギンには父が乗っていた、その上で連邦軍と共に。なぜです?」
「やむを得んだろう。タイミングずれの和平工作がなんになるか?」

ギレンはさほど気にする様子もなく、さらりと言って見せた。

「死なすことはありませんでしたな、総帥。」

キシリアは銃口をはっきりとギレンの頭部に向けていた。

「ふん、冗談はよせ。」
「意外と兄上も、甘いようで。」

その瞬間、キシリアは引き金を引いていた。発射されたビームはギレンの脳天を貫き、意志を失った体は無重力にふわりと浮いて漂った。
オペレーター達の全員があっけにとられていた。自分たちの最高司令官が目の前で殺された。

「死体を片付けい!父殺しの罪はたとえ総帥であっても免れることはできない。異議のある者はこの戦い終了後、法廷に申したてい!」

キシリアは決然と言い放つ。オペレーター達はどう反応していいかわからない。そのとき、幕僚の一人であるトワニング准将が立ち上がり、言った。

「ギレン総帥は名誉の戦死をされた。ドロス艦隊が破られたぞ。キシリア閣下、御采配を。」

それはキシリアが指揮権を受け継ぐのを承認させることを示していた。ここにギレンの「名誉の戦死」が宣言され、ア・バオア・クーのすべての部隊はキシリアの指揮下に置かれることが通達された。
だが、それは思わぬ混乱を生じさせることとなった。指揮権の移行は部隊によってまちまちに伝達され、指揮系統は麻痺した。その一瞬の隙をつき、連邦軍はNフィールドを突破しようとしていた。
戦線を支えていた空母ドロスを突出したまま連邦軍に包囲され、ついに午前9時40分、ドロスは轟沈した。

それでも、各フィールドの前面ではジオン軍将兵が懸命の抵抗を繰り広げていた。彼らにはすでに補給も行き届かない。増援を出すはずの司令部は麻痺し、押し寄せる連邦軍はますます勢いづいていた。
たった一機のザクがマシンガンを乱射しながらジムの小隊につっこみ、ジムはよってたかってザクを痛めつける。ビームサーベルに片腕をもがれたザクはそれでも射撃を続け、ジム一機を撃破した。
だが、そこでザクの命運は尽きた。背後からつき出されたビームライフルに貫かれ、ザクは大爆発を起こして宇宙の塵と消えた。

学徒兵が操縦するゲルググにも、ジムは無慈悲な攻撃を重ねていた。弾切れを起こしたゲルググは周囲に援護してくれる味方がいないか探し回る。だが、ジオンのMSは完全にバラバラになって孤立し、つぎつぎに各個撃破されていった。
そして午前10時10分、今度はSフィールドの空母ドロワが撃沈された。船体のあちこちから爆煙を吹き上げながら沈んでいくドロワは、周囲のザクを何機か巻き込んでバラバラになっていった。
ア・バオア・クーは急速に戦力を失いつつあった。それは戦闘によるものが大部分であったが、そうではない理由も存在していた。

戦艦グワデンで自らの艦隊を指揮していたエギーユ・デラーズ大佐は、連邦軍MS部隊がSフィールドにとりついた直後、「ギレン総帥戦死」の報告を受け取った。
「なに!?ギレン総帥が戦死されたと?!」
「ハッ!ア・バオア・クーは全権、キシリア閣下のもとへ移行しました!」
もっとも安全な要塞司令室にいる総帥が戦死するはずがない。デラーズは、ことの真相にいち早く気づいていた。
「謀ったな…キシリア!」
全身にわき上がる怒りをにじませて、デラーズはぎりと歯を食いしばる。忠誠を誓ったギレンのためならば、彼は喜んで自らの命を差し出す覚悟だった。だが、ギレンは死んだ。
いまやキシリアがア・バオア・クーの全権、すなわち自分をも支配下に置いていると知ったとき、デラーズは直ちに行動を起こした。
「全艦、および全MSを集結させよ!我が隊は、この空域より撤退する!」

時を同じくして、「ソロモンの悪夢」として連邦軍を震え上がらせた闘士、アナベル・ガトー大尉が、グワデンの格納庫でMSに乗り込もうとしていた。すでに撤退の命令が下ったにもかかわらず、彼は断固として戦うつもりだった。
すでに自分の機体は使えないため、彼はデラーズ専用機であるリック・ドムに乗り込もうとしていた。整備兵が彼を止めるが、ガトーは聞く耳を持たない。
そこへ、事情を聞いたデラーズが自らやってきた。
「待て、ガトー!」
コックピットのハッチを開けようとしていたガトーは振り返った。
「貴公の母艦、ドロワは沈んだ。」
「ドロワが!?」
「我が総帥ギレン閣下も亡くなられた。我々は、ア・バオア・クーより撤退する。我らは生きて総帥の志を継がねばならんのだ!」
「生き恥をさらせと!私は行きます!」
「ならん!」
なんとしても出撃しようとするガトーの肩に手を置き、デラーズはガトーの目を見据えた。
「今は耐えるのだ。生きてこそ得ることのできる栄光をこの手に掴むまで、その命、わしが預かる!いいな?」
「くっ…」


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11/08 15:04 URBANO BARON(e) [443]エルザス
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かくして、デラーズ大佐率いる部隊が戦域を離れ、暗礁領域へと発進していった。彼らがそれをどれほど無念に思ったかはわからない。ただひとつ確かなのは、ア・バオア・クーの防衛はもはや不可能であるということだけだ。
デラーズ艦隊に呼応するように、あちこちの戦場から部隊が脱出に取りかかっていた。そんな中、ゼロが指揮をとるWフィールドはまだ持ちこたえていた。リンディ提督麾下の部隊にかなり攻め込まれたとはいえ、ゼロはまだ敵が要塞にとりつくことを許していなかったのである。それは彼の手元にあった戦力を思えばほとんど奇跡に近いことだった。
Sフィールドの前面に形成されていた戦線は、とうに崩壊していた。雲霞のごとき連邦軍は、ガンダムがこじ開けた突破口にMS部隊を集中的に投入し、要塞の表面に橋頭堡を築くことに成功していた。連邦軍はここから要塞内部への突入を開始し、戦いはいよいよ壮絶さを増していた。
そんな中で、ゼロは次第に連絡が取りづらくなる一方の要塞司令部から、新たな命令を受け取っていた。キシリアから届いた命令にはこうあった。
「Wフィールド方面軍は、戦力の一部を崩壊したSフィールドに回し、現地の戦線の再構築に奮闘せよ。Wフィールド前面における任務も継続されたし。」
ダモクレスに戻っていたゼロはこれを読んで我が目を疑った。すでに兵力は絶望的に不足しているのだ。他へ回せる余裕などどこにもない。現に今、敵の主力はゼロが苦労して再構築したWフィールドの第二防衛ラインを突破しつつあるのだ。いま正面の敵から目をそらせば戦線は一気に崩壊するに違いない。どうにか持ちこたえている戦線もあちこちでゆがみが生じ、進出してくる敵の圧力で今にもはち切れそうになっている。

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11/08 15:18 URBANO BARON(e) [444]エルザス
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ゼロは要塞司令部へ返電を打った。この任務はとても遂行できないと。兵力の増強が無ければWフィールドも崩壊するのだと。
意外なことに、要塞司令部は兵力の増強を確約してきた。温存していたオッゴ一個中隊が控えているのだという。ゼロは信じられなかった。この期に及んでまだ兵力がのこっているとはとうてい思えない。キシリアはいったいどんな魔法を使ったというのか。
程なくして、ダモクレスのゼロのもとに一人の将校がやってきた。ギレン青年団の指導者、アルトゥール・アクスマン大尉である。ギレン青年団とは、今は亡きギレン総帥が未成年の若者、とくに徴兵年齢に達しない子供たちに軍事教練を施すために創設した準軍事組織のことだ。メンバーは大部分が14歳から16歳の、ほとんど少年と呼ぶべき若者によって構成されていた。
やってくるなり、アクスマン大尉は自信満々にゼロに報告した。
「ギレン青年団の学徒兵は全員オッゴに乗り込み、戦闘準備をしております。彼らは士気旺盛で、黒の騎士団の背後の陣地に展開しつつあります。」
押さえてはいたが、この高飛車な大尉を前にゼロは激怒していた。長年彼のそばに寄り添っていたカレンがその場にいたが、彼女すら初めて見るという勢いでゼロは怒っていた。
「連邦軍がこの精鋭を破るには、少なくとも2時間15分はかかるでしょう。」
「ゲラゲラ笑うのに2時間、叩き潰すのに15分か?」
ゼロがそう言うと、アクスマンは明らかに不機嫌そうな表情になった。
「国に命を捧げた青年達を信頼しないのですか?それはもはや国家に対する反逆ざ…」
アクスマンが言い終わる前に、ゼロの怒りが爆発した。

「これ以上若い命を散らしていったい何がしたいのというのだ!これが祖国を守るための戦争か!すでに失われた目的のために、未来ある若者を犠牲にすることはできない!
ゼロが命じる!ギレン青年団は即刻、ア・バオア・クーから離脱しろ!ここにいても無駄死にするだけだ!ジオンの未来は彼らに託すしかないのだから!」
あまりの剣幕に圧倒されたアクスマンは、ゼロの命令を受けてそそくさと立ち去った。だが、その命令は実行されなかった。ギレン青年団はキシリアによって丸ごとSフィールドに投入され、すでに崩壊した戦線のために何人もの少年達が命を落とした。
彼らの攻撃は連邦軍にとってなんらの脅威にもならなかった。まず、艦船からの対空砲火でオッゴの三分の一が失われた。健気な少年達は、仲間が炎に呑まれても決して諦めようとはしなかった。教えられたとおり、彼らは敵陣のど真ん中へと突っ込んでいった。編隊も組まず、てんでばらばらになりながら、荒れ狂う砲火の中へと飛び込んでいった。
結果は全滅だった。少年達の誰一人として帰ってこなかった。たしかにアクスマンの言うとおり、彼らは士気旺盛であった。だが、それがいったい何の役にたったのであろうか。

刻一刻と悪化する状況下で、ゼロは重大な決断を迫られていた。このままア・バオア・クー要塞と運命をともにするか、デラーズのように戦域を離脱するか。
Wフィールドの最前線では、まだスザクたち黒の騎士団が孤軍奮闘を続けていた。だが、このWフィールドでも連邦軍が要塞にとりつくのは時間の問題だと思われた。
もしこのままずるずると戦い続ければ、黒の騎士団は全滅するまで戦い続けるよう命令されるに違いない。それも前線の状況を把握しないキシリアによって。
ゼロはダモクレスから戦場を見やった。あちこちで瞬く光。そのたびに敵味方のMSや艦船が暗い宇宙に照らし出され、まもなくそれらが炎に包まれる。いったい1分間にどれだけの人間が死んでいるのだろう。
戦場の狂気は人の命を無限に吸い込んでいくかのようだった。
ゼロは決断した。

「ゼロが命じる!黒の騎士団、およびWフィールド方面軍は全軍、サイド3方面に向かって脱出せよ!我が軍はア・バオア・クーを離脱し、次なる戦いに備える!!」

一瞬、ダモクレスの艦橋がしん、と静まりかえった。クルー全員の視線がゼロに突き刺さった。非難するのでも賛成するのでもなく、ただただ確認を求めているような視線だった。「本当にそれでいいのか?」と。
ゼロは言葉を継ぐ。
「すでに我が軍は、このWフィールドにおいて獅子奮迅の働きをしてきた。だが、連邦軍はすでにNフィールドおよびSフィールドから要塞内部に侵入しつつあり、これ以上この戦線を支えることは戦略上意味がないと思われる。
我々は生きてこの戦場を脱出し、次の戦いで連邦軍に決定的打撃を与える機会をうかがうものである。この戦場で散った仲間達の無念を晴らすため、我々は今この場で死ぬわけにはいかない!諸君の命はこのゼロが預かった!
全軍、進路を方位345にとれ!MSで艦隊を護衛しつつ、全速力を以て当戦域を離脱する!先頭はダモクレス!全艦、我に続け!!」

途端にクルー達が動き始めた。ダモクレスの機関に息が吹き込まれ、他の戦艦も回頭し始める。意外にも退却に反対する意見は出なかった。誰もが皆ここで死ぬと思っていたのだろう。どうせ死ぬのなら最後まで戦うが、少しでも生き残る可能性があるのなら途端に人はその道を模索するものだ。少しでも希望があるのなら。
「カレン、話しがある。」
ゼロはカレンを呼び寄せた。
「実は、君に殿を頼みたい。」
マスクをつけたままで、ゼロはカレンに言った。
「私が、ですか?」
さほど驚くこともなく、カレンは淡々と対応していた。命令されなければ志願していたところだ。ソロモンで一人残ったフェイトの姿を見ていただけに、カレンは自分にその責任があると思い込んでいた。
「そうだ。だが決して死んではいけない。もしもう戦えないと思ったら、無理をせず降伏しろ。全軍が脱出できるまで、いや、反対側のEフィールドにたどり着ければそれでいい。すこしだけ時間を稼いでくれ。」
「………」
カレンは不満だった。命令の内容がではない。ゼロの態度が、だ。カレンはゼロのためなら命を捨てる覚悟があった。だから、せめて最後の命令くらいマスクを取って命じて欲しかったのだ。
ゼロが、いやルルーシュがどんな顔をして自分に命令してくれるのか。自分の命を奪うことになるかも知れない命令を、ゼロはどんな気持ちで命令しているのか。カレンはそれが見たかった。今のゼロは卑怯だ。
「… 私は、命令とあらばどんな任務だってやって見せます。だけど、今のあなたは…あなたは卑怯よルルーシュ!そんなマスクで顔を隠して、私がどんな気持ちになると思うの?!もし、マスクの下のあなたの顔がいつもとまったく同じで、冷静な表情だったら、あなたにとっての私はその程度だったのかと、私は思ってしまう…実際にあなたの顔が見えないから、もしそうだったらと思うと足がすくんでしまう…
でも、でもねルルーシュ、もしあなたが、あなたが泣きながら私に命令してくれてたら、私は嬉しいよ?…もしそうだったら、私は喜んで出撃していって、いつまでも敵を食い止めてみせる。だから、ルルーシュ…最後は、マスクを取って、本当のあなたの姿で命令して。そうしたら私、この命、あなたにあげます。」
カレンの瞳には悲哀の涙が浮かんでいた。彼女が戦う理由。それは、このルルーシュという少年の存在に他ならない。

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11/08 15:43 URBANO BARON(e) [448]エルザス
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ルルーシュはゆっくりとマスクを外した。綺麗な瑠璃色の瞳とつややかな黒髪があらわになったが、彼は泣いてはいなかった。
もっとも、それに限りなく近い表情にはなっていたが。
すべてに達観して、世の中の哀愁を全部引き受けているかのような、ものすごく寂しい表情だった。

「カレン…俺は無力なんだ。わかるか?…お前や、フェイトや、スザクやジェレミアや、とにかくたくさんの人に守ってもらわないと、俺は何もできなかった。今お前に殿を命じたことだって、自分の無力を証明して見せたにすぎない。
そんな俺の情けない姿を、カレンは見たかったって言うのか?俺はそこまでして、自分の憐れさを噛みしめなければいけなかったのか?」

それはゼロが初めて見せる「弱さ」だった。重すぎる責務をずっと背負ってきた彼が、戦争ももうすぐ終わるという今このときまで決してみせることのなかった弱さ。しかし胸にはずっと抱き続けていたであろう自己嫌悪の念を、ルルーシュは初めてカレンに見せたのだ。
カレンは途端にゼロへの怒りを忘れていた。いままでどれほどルルーシュが苦しんできたのか、察するに余りあった。
それと同時に、なぜ彼のために自分が戦うのかを思い出していた。
そうだ、自分が彼を、ルルーシュを守らなければならない。そう気づいた日から、彼女は彼のためにひたすら戦ってきたのだ。
戦略に抜け目なく、常に冷静な指揮官であったゼロは、それでもなお完璧な指導者とは言い難かった。
いや、彼が不完全な存在だったからこそ、ゼロの騎士達は彼についてきたのだ。
ゼロの大きな懐で安らかさを得るかわりに、彼を守るために戦う。
それはカレンに限ったことではなく、黒の騎士団のメンバー全員が同じだったに違いない。
カレンは悲しい目をして力なく笑っているゼロを見ていた。やはりこの人は、自分が守らなければならない。

「やっぱり、マスクをつけて。」
「カレン…?」
「ゼロはいつも通りのゼロがいいわ。情弱のルルーシュなんかに命令されると私まで弱くなっちゃう。」
「な、なにを…」
「いいから早くマスクをつけて!もう一度私に命令して!」
「…わかったよ…」

ルルーシュはマスクを被った。そうなってしまえばゼロはゼロだ。

「さ、もう一度命令して。もうこれっきりよ。」
「あ、あぁ。…ゼロが命じる!カレン、君はWフィールドに残り、全軍の脱出のために時間を稼げ!…なっ!?」

ゼロが命じ終わった瞬間、カレンはゼロに抱きついていた。

「ありがと、ルルーシュ。これで元気百倍。じゃあ、行くね。」
「……」

ゼロは何も言わなかった。何を言って良いのかわからなかった。カレンはすぐにゼロから離れる。

「また逢えると信じています。」

カレンは敬礼を一つ残して、ダモクレスの艦橋を出て行った。残されたゼロは奇妙な喪失感に捕らわれていた。
いままで何度もカレンの出撃を見送ったが、こんなに寂しい気持ちになるのは初めてだった。
心から何かが抜け落ちていったようで、不安だった。

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最終更新:2010年12月23日 19:33
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