ア・バオア・クーの最期の時が近づきつつあった。要塞のあちこちに連邦軍が突入路を切り開き、すでに戦闘は要塞内部でも繰り広げられていた。そして両軍のあまりに熾烈な攻防戦のため、もはや要塞内の防衛司令部は指揮能力を喪失していた。外部からの連絡は途絶し、どの部隊がどこで戦っているのか、そして敵はどれ程まで攻め込んできているのか、全く把握できなかったのである。
その結果、防衛司令部が認識している戦力と実際の部隊数との乖離は大きくなるばかりであった。防衛司令部のマップ上では、いまだに
黒の騎士団がWフィールドを支えていることになっていた。だが、事実は全く異なっていた。
カレンとアルフに殿を任せて脱出したWフィールド方面軍は、すでにサイド3方面へ向けて全力避退中だったのである。反対側のEフィールドにはデラーズの艦隊が脱出のために殺到していた。そのほかにも多数の部隊が脱出を開始しており、連邦軍の追撃もすでに始まっていたのである。
ここに至ってキシリアは、もはやア・バオア・クーの防衛に望みがないことを確信した。
彼女は自らも要塞を脱出することを決心し、要塞の指揮をトワニングに任せた。
自分が生き残らなければザビ家は滅亡する。それが彼女を脱出へと駆り立てた理由であった。
キシリアは足早に秘密戦艦ドックへと向かった。そこには巡洋艦ザンジバルが停泊しており、これが彼女の脱出の足となるはずであった。
ザンジバルの艦橋で指揮官席に腰を下ろしたとき、キシリアはこの船が自分の棺桶になるとは思っていなかったに違いない。すでに機関は始動し、ザンジバルは要塞内のドックから上昇を始めた。その時だった。ピンク色のノーマルスーツを着た一人の兵隊が、艦橋の正面に現れたのである。その人物は左手でキシリアに敬礼し、右手には歩兵用のジャイアント・バズーカを握っていた。
「ガルマ、私の手向けだ。姉上と仲良く暮らすがいい。」
意味深な言葉をつぶやいたこの人物は、シャアであった。
「ん、シャアか?」
キシリアがそう言いながら身を乗り出した瞬間、シャア・アズナブルはバズーカの引き金を引いていた。
「っ!?」
キシリアが声なき悲鳴を上げた瞬間、バズーカの弾頭はザンジバルの艦橋に飛び込んでいた。弾頭はきれいにキシリアの首をねじ切り、爆発した。
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11/12 01:10 URBANO BARON(e) [461]エルザス
460
この時偶然にも、一隻のサラミスがザンジバルを発見し砲撃を開始していた。初弾から命中したビームはザンジバルを轟沈させ、キシリア・ザビはここア・バオア・クーで命を落とした。時刻は12時05分であった。
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11/12 01:11 URBANO BARON(e) [462]エルザス
461
「
アースラが撃沈された?!」
ブラックハウスの艦橋であずにゃんが叫んだ。はちゅねが深くうなずく。
「そんな…総員退艦の指令は出されていますか?」
「大破撃沈の直前に出されています。生存者は三隻のランチに分乗してアースラから脱出した模様。」
「カントーさん、レーダーでランチはとらえていますか?」
「後方距離450に確認しました。戦闘区域内です。このままでは危険です。すぐに回収しないと!」
「はちゅねさん、
ムスカ大佐あて打電、『我これよりアースラクルーの救助に向かう』、急ぐので平文で構いません。ブラックハウス回頭!ランチへ向かいます!」
矢継ぎ早に命令が飛ばされ、弾丸とビームが飛び交う戦場の真っただ中でブラックハウスが旋回し始める。
「こちら黒猫、ブラックハウス、どこへ向かってるの?」
最前線にいるはずの黒猫が通信を入れてきた。ブラックハウスからは彼女の機体は確認できない。
「こちらアーク、ブラックハウスはアースラクルーの救助に向かいます!MS隊はこのまま戦闘を継続してください!」
アークがそれに答え、前線にいた黒猫はちらりと後方を振り返った。ブラックハウスは要塞から遠ざかる方向へ突っ走っていく。
「ユーノからの通信が途絶えたかと思ってたら、そういうことだったのか。」
「まさかアースラが撃沈されるとはな…仇はここで討つぞ。」
黒猫といっしょに戦っているナガモンが苦々しげにつぶやき、向かってきた敵戦闘機を一蹴する。
いまWフィールドの最前線では、戦艦ラピュタ、ナガモン、黒猫、そして第二連合艦隊所属のジムとボールが総力を以て要塞への突入口を確保しようとしていた。第二連合艦隊はついに要塞に取りついたのである。ナガモンと黒猫は要塞表面をなめるように飛び、岩陰から飛び出してくる敵を次から次へと撃破していた。
「魔理沙たちの姿が見えないな。いったいどこ行ったんだ?」
「わからないけど、何となく存在は感じる。アリスとパチュリーと魔理沙、三人一緒にいるみたい。」
「レーダーみたいなやつだな。」
「三人の心を感じるんだよ。姿が見えるわけじゃないし、どっちの方角なのかもよくわからない。」
「まぁ無事ならそれでいい。それよりオレたちはどうする?要塞表面の橋頭保はほぼ確保した。要塞内部に入るか?」
「そうだね。行こう!」
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11/19 22:50 URBANO BARON(e) [463]エルザス
462
二人の機体、BlackCatと
ブラックRXが要塞のゲートへと飛び込んでゆく。ゲートの奥から猛烈な砲火が二人を狙うが、ナガモンがアームストロング砲を発射して敵を沈黙させる。敵の砲火に射すくめられて身動きもとれなかったジムがようやく動き出し、すでに猛烈な勢いで進んでいる二人のあとに続いた。
無数のジムとボールがゲートに入っていくのを見ながら、ムスカは自分の船もあそこへ突入させてしまいたい衝動に駆られていた。いよいよ戦いの行方ははっきりとしてきた。もうあと数時間で戦闘は終わるであろう。それまでに一人でも多くのジオン兵を地獄へ送ってやらねばならない。
「ムスカ大佐、ブラックハウスからまた緊急電です。」
京がムスカの正面に立ち、電文がタイプされた紙を差し出す。ムスカはそれを受け取らずに言った。
「読んでくれたまえ。」
「ハッ。『旗艦アースラの撃沈に伴い、第二連合艦隊のすべての部隊はこれ以降、ブラックハウスの指揮下に入られたい。』以上です。」
「ふん。ナカノ少佐もここにきて手柄がほしくなったか。第二連合艦隊の指揮権をほしがるとは。」
「お言葉ですが大佐、自分はそうは思いません。ナカノ少佐はブラックハウスが現時点でもっとも広い視野を持てる位置にいる、その一点において指揮権を主張したものと推察します。」
「君の慎重な意見は痛み入るがね、京大尉。まぁいい。了解したと返電したまえ。どのみちラピュタが最前線にある限り、私の自由裁量権は邪魔されないだろう。」
「どういうことでありますか?」
「最前線においては現場判断が優先、ということさ。特に、停戦命令が出たときにはな。」
いやに冷酷な笑みを浮かべて、ムスカはそうつぶやいた。京に言っているわけではない、単なる独り言のようであった。京はその言葉の意味が分からず、ただムスカがあずにゃんの指揮権をとりあえず認めたらしいことがわかってほっとしていた。
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11/19 22:54 URBANO BARON(e) [464]エルザス
463
ア・バオア・クー要塞内部の一角で、連邦軍の兵士たちがあわただしく廊下を歩いていた。といっても彼らは要塞内に突入した白兵戦部隊などではない。これまでの戦争で武運拙く捕虜になり、この要塞に収容されていた者たちだった。彼らはマシンガンを構えたジオン兵に監視され、あちこちから爆発音が聞こえてくる不気味な廊下を歩かされていた。
そんな捕虜の一人、フェイ・ロシュナンテは、自分の中に湧き上がってくる期待感を抑えることができなかった。彼女はこの爆発音が連邦軍の攻勢によるものであることを察知していた。捕虜になって約半年。彼女はこの日を長いこと待ち続けていたのである。彼女は情報部に所属していたから、ア・バオア・クーが陥落すればジオンはきっと降伏するだろうと予測していた。そして今まさに、待ちに待ったア・バオア・クーの攻略作戦が進んでいるらしい。捕虜を監視するジオン兵たちの様子からして、戦況は連邦軍に有利であるようだ。
ならば、自分は解放されるのではないか?いま自分たちが廊下を歩かされているのは、釈放の準備のためなのではないだろうか?
彼女がそんな期待を持ってしまったのも無理はなかった。捕虜の身柄は南極条約によって保障されていた。これまでの収容されていた施設での扱いも、厳しくはあったが不当なものではなかった。もしジオン兵がこの要塞から退却していくとしたら、足手まといになる捕虜は置き去りにするに違いない。そうなれば要塞を占領する連邦軍が自分たちの身柄を収容してくれる。
彼女の描いた未来予想図はこのようなものだった。
先頭を歩いていたジオン兵は、長い廊下のとあるドアを開け、その中に捕虜を誘導した。10人ほどの捕虜がその中に入り、二列に整列させられた。
「これから君たちを釈放することになった。名前を呼んだものから前に出て、所持品を受け取れ。」
妙に緊張した様子で、ジオンの下士官がそう説明した。フェイはその言葉に思わず感激した。ついにこの時が来た。長い捕虜生活とはもうお別れだ。
あんまり感激していたので、フェイは下士官が自分の名前を三回も呼んだのに気付いていなかった。四回目でようやく気づき、彼女は慌てて列の前に出た。下士官の隣に立つジオンの二等兵が、小さなトレーをフェイに差し出した。
「…これだけ?」
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11/19 22:57 URBANO BARON(e) [465]エルザス
464
返却されたフェイの所持品は、捕虜になったとき没収された手荷物のうちのほんのわずかだけだった。腕時計と手帳と財布、そして家族の写真、それだけだった。
「……」
フェイはあっけにとられたが、とにかく列に戻った。下士官が有無を言わさぬ目つきで彼女を見ていたからだった。よけいなことをいって釈放を取り消しにされてはたまらない。それに、一番大切だった写真が返ってきただけでもうれしかった。ようやくこの家族のもとに帰れるのだ。いまさら荷物なんてどうでもよかった。
その場にいた捕虜全員の所持品がすべて返却され、捕虜たちはまた廊下に出て歩き始めた。フェイの見る限り、所持品がすべて返却された者など皆無だった。むしの彼女の返却物は多かったくらいだ。
不気味な爆発音が何度も響き、そのたびに通路がひどく鳴動した。だが、フェイはそんなことは気にしていなかった。どういう形で連邦軍に引き渡されるのか、それだけを考えていたからだ。
「この部屋に入れ。入ったらまた整列しろ。」
下士官がまた別のドアを開いた。あそこが自分の捕虜生活の最後の地になるのか、そんなことを思いつつ、フェイはドアをくぐった。
明らかな殺気が、その部屋に満ち満ちていた。薄暗い部屋の中には、ライフルを持った兵隊が5人、一列に立っていた。その眼には生気がなく、代わりに冷酷な光が宿っていた。
「さっさと並べ!」
下士官が叫び、フェイやほかの捕虜たちはおびえるようにして列を作った。足が震え始めた。いったい何が始まるというのか。
「一列目は三歩前へ。」
下士官がくぐもった声で命令し、前列にいた捕虜が三歩進み出た。人数はちょうど5人、ライフルを持っているジオン兵の数と同じだった。フェイは後列の一番端に立っていた。位置的には11人目。彼女は下士官をちらりと見た。下士官はライフルを持った兵士たちに向かってちいさくうなずいたようだった。フェイは背筋が凍りついたような気がした。
兵士たちは、捕虜たちの背後に並んだ。そしてライフルを構えたかと思うと、即座に発砲した。
「ひっ!?」
フェイは小さく悲鳴を漏らした。それとほぼ同時に捕虜5人の死体がくずおれ、床に倒れこんだ。
「二列目は後ろを向け。」
下士官が冷たく命じた。フェイ以外の捕虜たちは、すでにあきらめたかのようにその命令に従った。
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11/19 22:59 URBANO BARON(e) [466]エルザス
465
「お前もさっさと後ろを向け!」
下士官はフェイの腕をつかみ、無理やり後ろを向かせた。部屋の壁を目の前にしながら、フェイは瞳いっぱいに涙をためていた。自分は殺されるのだとようやく理解した。恐ろしくて、恐ろしすぎて抵抗なんてできるはずもなかった。ただ、自分の運命が悲しかった。
突然いくつかの銃声が同時に起こって、フェイはびくっと肩を震わせた。彼女の横で、ほかの捕虜たちが音もなく倒れた。ライフルを持っていた兵士は5人。11人目の位置にいたフェイは、まだ撃たれなかったのである。
だが、それがなんになろうか。ほんの数秒間命を長らえただけで。
フェイは背後にジオン兵が立ったのを感じた。そして、冷たい銃身が首筋のあたりに突き付けられた。
なにも考える暇などなく、彼女は首を思いっきり捻じ曲げていた。それと同時にくぐもった銃声が響き、首筋に焼けるような痛みを感じた。力なく倒れこみ、彼女は死んだ。
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11/19 23:02 URBANO BARON(e) [467]エルザス
466
カレンが目を覚ました時、彼女は自分の機体が勝手に飛んでいるのに気が付いた。
「な、なんで?!」
慌てて叫ぶと、聞き覚えのある声が返ってきた。
「あ、気が付いたんだね。よかった、まだ大丈夫そうで。」
「ア、アルフ?」
よく見てみると、アルフのドム・グロウスバイルがカレンの
紅蓮弐式を抱えるようにして飛んでいたことがわかった。どうやらアルフは、アースラを撃沈して失神してしまったカレンを助けてくれたらしい。二人が飛んでいるのは要塞からやや離れた宙域で、すでに連邦のア・バオア・クー包囲網を突破している地点だった。
「待って、いま放すから。
アルフはそういうと、紅蓮弐式をがっしりとつかんでいたドムの腕を解いた。
「ありがとう、アルフ。あなたのおかげで命拾いしたわ。」
「いいっていいって。それじゃあ、あたしはもう行くから。」
「行くってどこへ?
ダモクレスに戻るんじゃないの?」
「ごめん、カレン。あたしはもうダモクレスには戻らないと思う。」
「じゃあいったいどこへ?」
「ア・バオア・クーさ。フェイトが呼んでるんだ。」
「ア・バオア・クー?!無茶よ!いまさら戻っても…!」
「行かなきゃいけないんだ。フェイトの存在を感じるから。」
「感じるって…」
ニュータイプ。その言葉がカレンの脳裏をよぎった。
「そう…どうしても行くのね。」
「うん。たぶんフェイトは捕虜になってるから、あたしはフェイトのところに言ってそのまま投降すると思う。敵前逃亡っていうのなら間違いなくその通りだよ。」
あっけらかんとした口調で言って見せたが、アルフの表情は真剣だった。自分が敵前逃亡を阻止するつもりだと思っているのだろう。
「わたしは止めはしないわ。ただ、あなたにも、フェイトにも、生きていてほしいの。それだけは忘れないでいて。」
「わかった。あんたって優しいんだね。」
「そうなのかな…?」
「そうだよ。その優しさで、きっと誰かが救われてる。あんたも生き残んなきゃダメだよ?それじゃあね。」
「あ、アルフ、あっ!」
カレンが別れをいう暇もなく、アルフのドムは飛び去って行った。カレンはそれを見送った。要塞の周りでは、爆発の光が途絶えることを知らずに瞬き続けていた。少なくともまだ戦いは続いていた。
「おいおい、いったい私たちはいまどこにいるんだぜ?」
「魔理沙がどんどん進むからこんなことになるんでしょ?!」
「魔理沙もアリスも黙って!作業に集中できないわ!」
魔理沙、アリス、パチュリーの三人は、大胆不敵にもア・バオア・クー要塞内部に突入していた。当初は味方のジムやボールの支援、そして通信の中継に徹していたのだが、魔理沙が次から次に現れる敵をどんどん深追いしていったために、三人は味方とはぐれて孤立してしまったのである。
「検索終了。一応脱出ルートを設定したつもりよ。今から送るデータの通りに進んで。わかったわね魔理沙?敵が出てきてもこれ以上奥へ進んじゃダメよ?引き返すんだから。」
パチュリーが
リトルデーモンの能力をフルに使った作業をようやく終え、言った。
「引き返せって言われると進みたくなるな。」
「ダメ!ゼッタイ!アリス、先頭を進んで頂戴。魔理沙は後方の警戒を!油断しないで!バズーカ携行の歩兵にも注意!」
「「了解!」」
魔理沙とアリスが同時に答え、三人の機体が要塞内の通路を進み始める。
「敵と遭遇しなければ5分で出られるはずよ。遭遇するだろうけど。」
「なにより味方に撃たれないようにしないとな。要塞のかなり奥から出てくるんだ。普通に考えたらジオンしかいないよな。」
「誰のせいだと思って…ストップ!」
魔理沙に言いかけていたセリフを途中で切り、アリスが急制動をかけた。
「敵よ!ザク二機がその角を左へ曲がったわ!」
「思いっきり進行方向ね。片づけるしかないわ。私とアリスとでやりましょう。魔理沙はいま曲がったT字路を警戒、いいわね?」
「合点だぜ。」
「アリス、行きましょう。」
「ええ。合図で飛び出すわよ?…3、2、1…!」
ストロードールとリトルデーモンが同時に通路に飛び出し、ゆっくりと移動していたザクの背後から襲いかかった。バズーカを装備した一機をストロードールが押し倒し、ヒートホークを持っていた一機にリトルデーモンが殴りかかる。アリスはAI制御のボール、ホウライを操り、押さえつけたザクの頭部を打ち抜いた。そして素早くリトルデーモンに視点を移す。
「パチュリー!」
驚いたことに、不意を突かれたはずのザクはリトルデーモンと取っ組み合っていた。ザクの手に握られたヒートホークがぐぐぐと押し出され、リトルデーモンの頭部に近づいてくる。
「パワーが足りない…!」
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11/19 23:09 URBANO BARON(e) [469]エルザス
468
パチュリーが絞り出すように言うと、アリスはホウライのビームライフルをザクに向けた。だが、アリスは背後から強烈な一撃をくらってしまった。
「…なにっ!?」
振り返ると、頭部を失ったザクが不気味に両手を突き出して迫ってきていた。首なしのザクはやみくもに腕を振り回し、それがたまたまストロードールをとらえたらしい。
「往生際の悪い!」
アリスは一括し、今度はビームライフルをコックピットに向かって発射した。首なしの不気味なザクは動かなくなり、倒れた。
「アリス!こっちも何とかして!」
パチュリーの叫びにアリスは再び振り向いた。ザクと取っ組み合っているリトルデーモンを撃たないよう慎重に狙い、引き金を引いた。狙い澄ましたビームは一撃でザクの腹部側面を貫き、ザクはスローモーションのようにゆっくりと倒れた。
「はぁ…はぁ…ありがとアリス。助かったわ。」
「接近戦になるとこんなに不利なのね。やっぱり要塞内に入るんじゃなかったわ。ま、それもこれも全部魔理沙のせいなんだけど。」
「魔理沙、聞こえる?ザクはアリスが片づけたわ。こっちまで来て頂戴。」
パチュリーが魔理沙に通信を入れるのを見ながら、アリスは脱出ルートを再確認していた。この調子で進めばすぐに出られるはずだ。戦いはもうすぐ終わるだろう。そう思った。
「魔理沙、聞こえないの?こちらパチュリーよ?魔理沙?」
いまだに呼びかけを続けるパチュリーを見て、「おや?」と思った。魔理沙はなぜ応答しないのだろう。
「おかしいわね。この距離で通じないなんて。」
「敵の通信妨害?」
「そんなはずはないんだけど…リトルデーモンの通信機器はそんなにヤワじゃないわ。」
「まぁ、ちょっと戻ればいいだけだし、直接呼びに行きましょ?そこを曲がればいいだけでしょ?」
「…そうね。」
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11/20 00:13 URBANO BARON(e) [470]エルザス
469
パチュリーがゆっくりと同意するのを見て、アリスは来た道を戻り始めた。たった今まがったばかりの角を曲がれば、そこには魔理沙のマスタースパークが…
いなかった。
影も形もなくなっていた。その代わりに、細かい破片のようなものが一面に漂っていた。分厚い装甲がばらばらになったような破片だ。
「魔理沙…?」
半ば呆然としながら、アリスはつぶやいていた。
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11/20 00:13 URBANO BARON(e) [471]エルザス
470
「方位201から敵MS急速接近!単体で突っ込んできます!」
アースラから脱出したランチの一隻、そのコックピットでレーダーを見ていたエイミィが叫んだ。
「ナノハ!後方から敵のMSが来る!迎撃してくれ!」
ユーノがすかさず指示を下し、ナノハの
レイジングハートがライフルを構えた。
「弾がもう二発しかないよ!救援はまだこないの!?」
敵機を探しながらも、ナノハは一抹の不安を感じずにはいられなかった。アースラが沈んだ今、もはやレイジングハートに補給をしてくれる船は存在しない。弾が切れたらそれまでだ。
「ブラックハウスがもうすぐ到着する。それまで持ちこたえればいい!」
ユーノの言葉にも自然と力が入る。戦争がもうすぐ終わる、その実感は強まるばかりだった。だからこそ、今ここであきらめるわけにはいかない。
「わかった!最後まで戦い続ける!力を貸してね、ユーノ君!」
「任せといて!」
ユーノとナノハのやり取りを聞きながら、クロノはキャビンにいる一人の少女のことを気にしていた。その少女、フェイト・テスタロッサは、まるで敵機が見えているかのように、エイミィが報告した敵のいる方角をじっと見つめていたのである。
「なにか見えるのか?フェイト?」
ついにクロノは直接フェイトに声をかけた。窓から視線をそらさず、フェイトはこう答えた。
「私の…私の仲間が来ます。私のところへ…」
「間違いないのか?」
「はい。でも、攻撃の意図はないはずです。私を迎えに来るだけだから。」
「……」
クロノは黙ったままコックピットに戻った。エイミィがやや焦った様子で敵の状況を報告した。
「敵は大型のヒートナタを装備したドム、方位は267に修正、なおも接近中!距離187!」
「そろそろ確認できるはずだ!ナノハ、落ちついてよく狙って撃って!」
はげますような口調でユーノが叫ぶ。
「まかせて!かならず一発で仕留めてみせる。」
ナノハの言葉は、冷静なクロノからしてみればこの上なく恐ろしいものだった。かならず一発で仕留める。仕留められたほうはいったいどんな気持ちで死んでいくのだろう。いや、そうはさせない。
クロノはおもむろにマイクをつかむと、ナノハにはっきりと命令した。
「ナノハ、あの敵を撃つ必要はない。あれはフェイトの仲間だそうだ。攻撃の意志はない。接近してきたら投降を呼びかけてみてほしい。」
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11/20 00:19 URBANO BARON(e) [472]エルザス
471
一瞬、その場の空気が凍りついた。ユーノもエイミィも、もちろん通信相手のナノハも、クロノの言葉にまったくもって絶句していた。
「しょ、正気なのクロノ君!?だって、近づいてくるのはジオンのドムなんだよ?」
エイミィがまず口を開き、続いてユーノもクロノに反論する。
「そうだよ。なにもしないでいたらこんなランチなんてあっという間に…」
「何もしないわけじゃない。投降を勧告するんだ。」
「いったい何を言って…」
呆然としたユーノの言葉はエイミィの叫びにかき消された。
「敵機、距離100まで接近、減速しています!」
「減速?!」
ユーノが今度こそあっけにとられて叫んだ。クロノは確信した。やはりあれはフェイトの仲間だ。彼女を迎えに来たのだ。
「ナノハ、絶対に撃っちゃだめだ。あれは撃ってはいけない敵なんだ。フェイトをこれ以上悲しませるようなマネは、君もしたくないはずだ!」
「クロノくん…」
ナノハの声もまたあっけにとられているようだった。当然だろう。直属の上官から「敵を撃つな」と命令されたのだから。
だが、ナノハは判断を迷わなかった。
「フェイトちゃんが、あれは仲間だって言ってるんだね?」
「そうだ。」
「わかった。本当にフェイトちゃんの迎えだったら撃たない。その代わり、フェイトちゃんを敵から見える位置にいさせてあげて。」
フェイトは自分たちに心を開き、ブラックハウスに投降してくれた。今度は自分たちがフェイトを信じる番だ。ナノハはそう考えたのだ。幾度となくつらい思いをしてきたフェイトを、仲間と再会させてあげたい。それがナノハの想いだった。
「ドム、来ます!」
エイミィが切迫した声で言った。だが、ナノハの意志は固まっていた。
「ドムの人、聞こえていますか?こちらは
地球連邦軍、
ナノハ・タカマチです!もしあなたがフェイトちゃんの仲間だったら、いますぐ武器を捨てて、スピードを落としてください!さもないと撃墜します!フェイトちゃんはここにいます!」
一気にまくしたてた。言葉の一つ一つに願いを込めるような気持だった。
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11/20 00:20 URBANO BARON(e) [473]エルザス
472
アルフは、突然がなり立てた無線を聞いて思わず面喰らっていた。聞いたことのある声。声の主はナノハ・タカマチと名乗った。
「サイド6で会ったあの子か!」
サイド6のレストランで、フェイトと楽しそうに話していた少女。そのナノハが、フェイトはここにいると言っている。
アルフは迷うことなく武器を捨てた。たった一つの武装である、巨大なヒートナタを。そして一気にスピードを落とした。
小さく見えるランチがだんだん迫ってくる。ランチは全部で三隻いて、その前面に見たことのある白い機体がライフルを構えていた。あれがナノハの機体であるらしい。
「そう、そのままゆっくりと。フェイトちゃんはここにいます。」
ナノハが静かな声で言った。アルフは一隻のランチの小さな窓に目を凝らした。どうしても会いたかった人がそこにいた。
「フェイト!!」
彼女は泣いていた。そして笑っていた。きれいな瞳から涙を次々に流して、それでも表情だけは優しく、自分に向かって微笑んでいた。
もう会えないと思っていた。ソロモンで別れた時、どれだけ悲しかったことか。
「フェイト…よかった…」
アルフは自分も笑いながら泣いていることに気が付いた。戦場で果たした愛する人との再会。奇跡ってこういうことを言うんだろう。アルフはそう思った。
「来てくれた…本当に来てくれた…」
涙を流しながら、そして微笑みながら、フェイトはつぶやいた。
ソロモンでゼロからしんがりを任され、アルフと別れた時、とてつもない寂しさを覚えた。一人になるのがこんなにも怖いものなのかと、膨らんでいく孤独や不安に押しつぶされそうになった。本当は離れたくなんてなかった。ただ、アルフには生きていてほしかったから、あの時は無理矢理に離れたのだ。
だけど今は違う。もう離れなくていい。
「ずっと一緒だよ…アルフ…」
また一粒涙があふれ出して、フェイトの頬を濡らした。ドムの両手が優しく差し出され、フェイトは抱きしめられているような感覚をおぼえた。
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11/20 00:22 URBANO BARON(e) [474]エルザス
473
次の瞬間、フェイトはナノハの絶叫を聞いた。
「シン君、だめええええええええええええええええええええ!!!!!!」
刹那、アルフのドムはシンのディスティニーによって串刺しにされていた。
「…え…?」
フェイトは目の前の光景が信じられなかった。ディスティニーがドムに突き刺したアロンダイト・ビームソードを引き抜くと、ドムは力なく真空中を漂った。そして次の瞬間、爆発した。
「…そんな…」
アルフが、死んだ…?
「嘘…」
「やっと見つけた!ナタドム!!」
シンは一度見失ったアルフのドムを追い続けていた。アースラを撃沈される直接の原因を作ったのはこのドムだ。たっぷりと礼をしてやる。
ドムはアースラから脱出したランチを狙っているようだった。この期に及んでまだアースラにこだわるのか。シンはドムに対して怒りを覚えた。
ランチを守っているはずのレイジングハートは沈黙していた。弾が切れているのかもしれないと思い至った。だとすれば、自分以外にランチを守れるものはいない。
シンはビームソードをしっかりと構えた。ソロモンであちこちに傷を負ったディスティニーが扱うには、その剣はあまりにも巨大だったからだ。
ディスティニーはドムの背後に回り込んだ。理由はわからないが、ドムはスピードを落とし、さらには武器まで投げ出した。最大のチャンスだ。
だが、シンはドムが手を伸ばしていることに気が付いてしまった。MSの力をもってすれば、素手であってもランチなどひとたまりもない。万事休す。シンは覚悟した。このまま突っ込むしかない。ビームソードを突き出して、一気に増速してゆく。
「やらせるかよぉ!!」
気合一閃、ディスティニーのソードは、ドムを見事に貫いていた。
そのソードを冷徹に引き抜くと、ドムは爆発を起こして四散した。
やった。
自分はランチを守ったのだ。
シンはそう確信していた。あるいはその考え自体は、罪ではなかったのかもしれない。
最終更新:2010年12月23日 19:37