「見つけた!オレンジのMA!右手下の方!」
ナノハが叫び、
レイジングハートがスナイパーライフルを連射した。シンのディスティニーが即座に反応し、敵機に向かってビームライフルを向ける。
「フェイト、俺についてきてくれ!ナノハはここから援護を!」
「了解!!」
シンの指示に短く答え、フェイトは愛機のバルディッシュを駆った。ディスティニーは敵機の右側に回り込もうとする。フェイトはそれに続き、敵機との距離を一気につめた。
「そこぉ!」
シンがビームライフルを撃つ。しかし敵機はたやすくそれを避けた。オレンジ色のMA、ジークフリートの機動力は、さきほど戦った時とそれほど変わっていないように思われた。この短時間で応急修理をしてきたらしい。おそらく修理をした場所は、ジークフリートがやってきた方向に見える巨大空母ミドロであろう。
「接近して撃ちこめば!」
フェイトはさらに間合いをつめ、かなりの近距離にまで迫った。と、ジークフリートは巨大な突起物、スラッシュハーケンを射出してきた。不意を突かれたかたちだが、フェイトはとっさにビームスピアーをかざし、繰り出されたハーケンを一刀両断してみせた。
「いいぞフェイト!」
シンが叫び、ディスティニーも敵機に迫る。ジークフリートは今度は無数のミサイルを撃ち放ったが、シンはよけようともしない。
「あぶないっ!」
フェイトが叫んだ次の瞬間、ディスティニーの後方から別のミサイル群が駆け抜け、ジークフリートが放ったミサイルと激突し爆発した。
「サンキュー、ナノハ!」
シンが言って、フェイトは後方を振り返った。白亜の機体が頼もしくライフルを構えていた。レイジングハートがやや距離を詰め、多弾頭ミサイル「ディバインシューター」を放ったのだ。
「空母が近づいてくるよ!
ゲルググ三機が接近中!!」
ナノハが遠くから迫りくる新たな脅威を知らせるが、いまは目の前のジークフリートを討つことが先だ。
「私とシンでジークフリートを仕留める。ナノハはもう一度援護をお願い!」
フェイトはナノハにそう告げ、改めて敵機に肉迫した。シンはすでに敵との白兵戦距離にまで到達し、次々に繰り出されるスラッシュ―ハーケンと格闘していた。
「無駄な抵抗を!また戦争がしたいのか!あんたたちは!!」
シンが叫び、スラッシュハーケンがまた一つ切り落とされた。だがジークフリートはなおも抵抗をやめず、機体を高速回転させてディスティニーめがけて突っ込んできた。
「このオレンジ野郎!」
シン毒づきながらもそれを回避する。
「オレンジ?ふふっ、それは我が忠誠の名前。」
敵パイロットの声が聞こえ、フェイトはこの機体のパイロットがやはり
ジェレミア・ゴットバルトであることを知る。
「ジェレミア卿!どうしてゼロを止めないのですか?!」
フェイトは叫びながらジークフリートの目の前にまで迫った。MAの巨大さに圧倒されながらも、持ち前の俊敏な機動力を駆使して敵と切り結ぶ。
「君こそなぜ主君に忠誠を尽くさない?いや、主君を思うゆえの反逆か。」
「それがわかるならどうして?!」
「仕えるべき主がゼロであったなら…マリアンヌ様のためにも!!」
「わかりあえないと言うんですか?!」
「君のゼロへの忠義は本物であった。ならばこそ、私は決意しよう。君を尊敬すると!」
ジークフリートの機体が高速回転を始め、その巨体がバルディッシュに迫った。間一髪でかわしたフェイトの耳朶をナノハの叫び声がうつ。
「敵に更なる増援!MS多数接近中!」
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01/06 23:29 Windows(PC) [559]エルザス
558
「まだこれだけのMSが?!」
シンの驚きの声がそれに続き、フェイトはいったん敵との距離をとった。レイジングハートがスナイパーライフルを撃つ。フェイトはその弾道を目で追った。確かに複数の敵機が接近しつつあった。そしてその中に、見間違えるはずのない機体が一機含まれていた。
「あれは、
蜃気楼?!」
「ルルーシュ様?!」
フェイトとジェレミアが同時に叫んだ。
黒の騎士団の増援部隊を率いているのは、ほかならぬゼロだったのである。
「黒の騎士団の全軍に今一度告げる!この戦いこそが、世界を賭けた決戦となる!いかなる犠牲を払おうとも、連邦軍の侵攻を阻止せよ!」
通信機ががなり立て、指揮官自ら最前線に現れたゼロの声が響き渡った。
「こんなところに、敵の司令官が?!」
ナノハが驚愕しながらもライフルを放つ。蜃気楼を狙った弾丸はしかし外れてしまった。まだ距離が遠すぎるのだ。
「ジェレミア、この部隊を任せる。敵はここに進撃路を構築しようとしている。何としてもそれを阻むのだ!」
「Yes, your Majesty!」
ゼロが引き連れていたMS部隊はジークフリートのもとに集まり、シン、ナノハ、フェイトと対峙した。状況は圧倒的劣勢になってしまった。
「ここが橋頭保である!閣下の作戦成功まで!!」
猛るジェレミアの機体からは、執念にも似た殺気がみなぎっていた。
「シンくん、このままじゃ不利だよ!味方のところまで下がろう!」
ナノハが言ったが、シンはそれを頑なに拒んだ。
「ダメだ!俺たちがここでゼロを討たなきゃ、ソーラ・レイは止められない!ゼロを討つなら、俺が討つ!!」
ディスティニーの機体が加速し、敵部隊めがけて一直線に突っ込んでいく。反射的にフェイトもそれに続いていた。無茶なのはわかっていたが、躰が勝手に動いていた。
「お前たちなんかがいるから、世界は!!」
シンの怒りの一撃が敵のゲルググを襲う。巨大な制動刀に一刀両断にされたゲルググは爆発し、ディスティニーはその爆炎を突っ切るようにして蜃気楼をめざした。だが、その進路にジークフリートが立ちはだかった。蜃気楼は戦場からの離脱をはかっている。
「邪魔をするなぁ!」
シンが一喝しジークフリートにライフルを向けたが、そのジークフリートはディスティニーに向かって真っすぐ突っ込んできた。シンがトリガーを引くより早く、双方の機体が激しくぶつかり合い、ディスティニーは制御を失って投げ出された。
「シン君!」
フェイトが叫んだが、ジークフリートは一瞬にして方向を変えたかと思うと今度はバルディッシュに向かって体当たりしてきた。
「くっ!」
そのあまりの素早さに後れをとり、バルディッシュは体当たりをかわしきることができなかった。バルディッシュをかすめたジークフリートはそのままレイジングハートへと向かった。
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01/06 23:30 Windows(PC) [560]エルザス
559
「ナノハ!危ない!!」
フェイトはナノハに警告した。あの機体とまともに接近戦になれば、レイジングハートに勝ち目はない。
「来るんだね!受けてみて、これがわたしの全力全開!!」
レイジングハートはその特大のビームライフルを構えた。ナノハは渾身の力を込めて叫ぶ。
「スターライトブレイカァァーーーーッ!!」
刹那、目がくらむほどの光がライフルからほとばしり、レイジングハートの最終兵器、すべてのエネルギーを一撃に込めた必殺技、スターライトブレイカーが発射された。近くで見ればコロニー・レーザーと見間違うような特大のビームは、確かにジークフリートを捉えた。
「くっ!小癪な!!」
ジークフリートの球状の巨体が爆発し、ナノハは勝利を確信した。だが―――
「まだまだぁ!!」
突如として爆炎の中から小型のMS、黒の騎士団のKMFが飛び出してきた。ジークフリートのコックピットをはじめとするコアの部分は、通常のKMFによって構成されていたのだ。
「なっ!」
あっけにとられたナノハが再度トリガーを引くより早く、ジェレミアのKMFはレイジングハートに飛びついていた。
「爆散!!」
ジェレミアの絶叫とともにKMFが自爆し、レイジングハートは零距離からその衝撃を被った。
「あああああああっ!!」
耐えきれず悲鳴を上げるナノハに追い打ちをかけるように、ジェレミアの悠然とした威厳ある声が響く。
「記憶せよ、ジェレミア・ゴットバルト!!」
薄れゆく意識のなか、モニター越しにナノハは見た。真空の宇宙を、ノーマルスーツもつけずに漂う男の姿を。
「諸君らに敗北をもたらした、記念すべき男の名前だ。」
刹那、レイジングハートの機体が誘爆を起こし、男の姿が爆炎に呑み込まれると同時に、ナノハの意識もまた四散していった。
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01/06 23:30 Windows(PC) [561]エルザス
560
ブラックハウスの直援に回っていたタチバナは、その右舷カタパルトから射出された機体をみてわが目を疑った。全身を目も覚めるような紅に染めたMS。
紅蓮弐式だ。
「ブラックハウス!どういうことです?!捕虜が脱走している!」
タチバナはその機体がカレン・コウヅキのものであることを百も承知していた。あの機体を戦闘不能にしたのは、ほかならぬタチバナ小隊だったからだ。もっとも、その小隊の生き残りはいまやタチバナだけになっていたが。
「こちらブラックハウス、大丈夫です。彼女はゼロを止めるために一緒に戦ってくれます。」
アークの終えが返ってきたが、タチバナはまったく納得できていなかった。
「なにを言ってるのかわかりません!あれは京大尉を殺した敵ですよ!」
次に答えたのはアークではなくあずにゃんだった。
「タチバナさん、聞いてください。私たちにはいま、一人でも多くの仲間が必要です。戦争は終わります。いつまでもジオンを敵視しているわけにはいきません。」
「艦長?!だからって、なにも京大尉を殺した敵と共闘することはないでしょう?!」
「私たちもカレンさんの仲間を殺しています。それも一人や二人ではありません。」
「しかし…むちゃくちゃだこんなの…」
見れば、紅蓮弐式はタチバナの
セイバーフィッシュに向かって近づいてきていた。タチバナは思わず身構える。あの機体と死闘を演じたのは、つい昨日のことなのだ。
「タチバナ少尉、ですね?」
おずおずとした声が聞こえ、タチバナは息をのんだ。カレン・コウヅキの声だった。
「あなたが私を許してくれるとは思っていません。だけど今は力を貸してほしいんです。ゼロを止めたいという気持ちは、私もあなたも一緒なはずです。」
「だからともに戦おうっていうんですか?」
「はい。」
今度ははっきりとした声だった。
「俺たちは、お互いに仲間を殺して、殺されあってる。そんな俺たちが、本当に協力できると思ってるんですか?」
タチバナの態度は冷ややかだった。自分も彼女の仲間を殺したという事実から目を背けていたかった。そのためにも協力はできないというしかなかった。彼女と協力するということは、彼女と向きあうということだ。当然、彼女の仲間を殺した自分の罪とも向き合わなくてはならない。戦争だからしかたない。そんな一言ですべてを片づけるのは嫌だった。
タチバナはこれほど大きな戦争の中でも正気を失ってはいなかった。人を殺すことが罪だと感じる、その正気を失ってはいなかったのである。
「お互いに許しあうことができれば、私たちは協力できます。私はあなたを許します。そして、あなたに許しを乞います。」
カレンの声は切実で、いっさいの欺瞞もない、ナマのままの心で語っていた。それがタチバナの心を揺り動かさないはずがなかった。彼は正気だ。情もある。そして、自分の醜さを呪う頭脳もあった。
「すまない…君に謝らなければいけない。」
タチバナは言った。心から謝った。自分だけが被害者面をして、同じ立場にいるはずの、いや、自分より弱い立場にいるはずの彼女を傷つけた。ほかに頼れる者もいない彼女が、こうして自分に力を貸してほしいといっている。罪を悔い改め、自分に許しを乞いながら。
「君の気持ちはわかった。どうか俺を許してください。自分の弱さを棚に上げて、君をむやみに困らせた。許してください。」
「いいんです。私はあなたの力が必要だから、あなたに許してもらわなきゃいけない。だけどあなたはそうじゃない。きっとあなたは、私の力を必要としてはいないでしょう。」
「そんなことはない。たしかに今は、一人でも多くの仲間が必要だ。ゼロを止め、この戦争に終わりをつげるための仲間が。」
「一緒に戦ってくれますか…?」
またおずおずとして口調に戻って、カレンが訊いた。タチバナは確信をもって答えた。
「行こう。ゼロを止めるんだ。」
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01/06 23:30 Windows(PC) [562]エルザス
561
† † † † †
オレとグラハムはついに、ソーラ・レイのもとへとたどり着いていた。近くで見るその巨大な構造物はまったくもって非現実的で、なぜか目をそらしたくなった。まがまがしい憎悪の念がその周囲に渦巻いている気がした。
「これを破壊するには我々だけでは力不足だ。やはりダリルを伝令にやって正解だった。」
グラハムが言った。オレたちは先ほどグラハムの部下のダリル・ダッジ中尉と遭遇し、彼をブラックハウスへのメッセンジャーとして後方へ派遣したのである。
「人間が作った兵器なら、どっかでこれをコントロールしているはずだ。それを潰せば一時的にでも無力化できるんじゃないか?」
「知らん。私はあくまで
フラッグファイターであって技術者ではないからな…ただ…」
「ただ?」
「ソーラ・レイのコントロールは黒の騎士団旗艦、
ダモクレスで行われているだろう。私の勘がそう告げている。」
「ダモクレス…フェイトやシンが目指してるザンジバル級の巡洋艦か…ソーラ・レイ、いやマハルコロニー自体の港湾…管制施設とかじゃないのか?あのドロス級空母の可能性だってあるぞ。」
「ふむ、確か君の言うとおりだ。無論、用心深いゼロのこと、他にもソーラ・レイをコントロールできる設備をいくつか用意しているだろう。少なくともソーラ・レイのマスター・キーさえあれば射撃指示を出せるくらいのものをな。もっとも確証はないがね。」
「いずれにせよソーラ・レイ本体を破壊しなきゃいかないのか。」
オレは再びソーラ・レイを見上げた。と、その向こう側から、黒の騎士団のMSが現れた。
「やっときたか。このあたりは随分手薄だったな。」
グラハムは退屈していたとでもいいたげだ。
「第二連合艦隊が到着する前に掃除しておこう。艦隊が到着したらすぐソーラ・レイの破壊に取り掛かれるように。」
オレはグラハムにそう言い、敵目指して愛機を駆った。時刻は午前6時を過ぎた。ソーラ・レイの発射まであと3時間をきったことになる。ブラックハウス、早く来てくれ。
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01/06 23:31 Windows(PC) [563]エルザス
562
† † † † †
戦艦ウォースパイトを先頭として進む第二連合艦隊は、ついにソーラ・レイを射程内に捉えていた。
「ナガモン中尉が敵と交戦中!」
ブラックハウスの艦橋でカントーが叫び、あずにゃんは受話器を取って右舷格納庫のハルヒを呼んだ。
「ハルヒさん、MSの発艦準備は?」
「済んでるわ!RXはカタパルト上!」
「発進させます。
リトルデーモンも続けて発進!」
「ホウライは?」
「まだ戦えるんですか?その…母機であるストロードールを失って…」
あずにゃんの言葉が色あせる。アリスを失った悲しみがこみあげてくるが、いまは悲嘆に暮れているわけにもいかない。心を鬼にして戦わなければならない。
「ホウライはまだ戦いたいみたい。ユキはそう判断してるわ。損傷も少ないし、出した方がいいでしょ?」
「ではお願いします。出撃後は先行するタチバナさんやカレンさんと合流するように。」
「了解。」
艦内通信が切れ、あずにゃんは受話器を置いた。それと同時にアークがあずにゃんを振り返った。
「ゲルググが味方の識別符丁を発しつつ接近中です。ダリル・ダッジ中尉と名乗ってますが…」
「
ツィマッド社から参戦した味方です。たぶん伝令です。撃たないように砲術長に伝えてください。」
「了解。」
遠くから見る見るうちに近づいてきたゲルググ・マリーネは、最大船速で進撃するブラックハウスの真横にならんで飛び始めた。
「ゲルググより光信号!『ソーラ・レイにとりついたナガモン中尉より伝令、ブラックハウスにあっては、ソーラ・レイを射程に捉え次第攻撃を開始されたい。我が方の存在に躊躇する必要はなし』です!」
はちゅねがゲルググ・マリーネからの通信を読み取り、あずにゃんに報告する。
「了解しました。ゲルググにはRXと一緒にもう一度前線に向かうよう言ってください。」
「了解!」
「第二連合艦隊全艦、ソーラ・レイに対して攻撃を開始します。全砲門開いてください!ここでこの戦いに終止符を打ちます!撃ち方始め!!」
あずにゃんの号令一下、第二連合艦隊の全力射撃が始まった。レールガン、メガ粒子砲、ミサイルなどの弾幕が展開し、正面に見えるソーラ・レイへ向かって吸い込まれるように飛翔してゆく。その下をくぐるようにして、再びブラックハウスを発進した黒猫のRX、パチュリーのリトルデーモン、ダリルのゲルググ、そして無人のホウライが編隊を組んで飛んでゆく。この砲火の先にいるナガモンやグラハムのもとへ、一刻も早く。
† † † † †
「ソーラ・レイが狙われ始めたか…」
ダモクレスの艦橋に戻ったゼロは、舌打ちしてそうつぶやいていた。まだそれなりに距離があるので命中弾こそすくないが、このままではソーラ・レイはあっさりと破壊されてしまう。コロニーは頑丈とはいえ、艦隊の集中砲火を浴びてはそう長くはもたないだろう。
「
ランスロットが戻ってきます。ランスロット以下のMS隊は右翼の敵艦隊を撃滅した模様!」
オペレーターが叫び、ゼロは一時ソーラ・レイから視線をそらした。ダモクレスの前に白亜のMSが戻ってきていた。
「スザク、よくやった。お前のおかげで右翼の敵艦隊は撃滅できた。」
ゼロは鷹揚な口調をくずさず、連邦軍の第六艦隊を見事に敗走させたスザクの武勲を讃えた。しかし、スザクのほうはそれどころではないといった様子だ。
「ゼロ、ソーラ・レイが叩かれているぞ。このままでは…」
「わかっている。お前はもう一度移動し、MS隊を率いて今度は左翼の敵艦隊へ向かえ。位置的に考えて、敵艦隊の側面をつけるはずだ。護衛のMSも少ないだろう。お前たちの力で敵の進撃を止めろ。これ以上ソーラ・レイをやらせるな。」
「わかった。」
スザクは即座に機体を駆った。彼の部下のMSがそれに続く。連戦で立ち向かう敵としては、第二連合艦隊はあまりにも頑強だ。第六艦隊との戦闘を終えたばかりのスザク達を向かわせるのはあまり好ましいことではない。ゼロはそれを百も承知していたが、彼らのほかには手元に兵力がないのも事実だった。艦船の半分はソーラ・レイの前面に振り向けた。敵艦隊の攻撃を遮り、ソーラ・レイを守るためだ。のこる半分はまだ空母ミドロを中心として扇状に展開している。連邦軍の討伐部隊は第六艦隊で終わりではないはずだ。戦いを一気に決められないよう、ゼロは敵のさらなる増援に注意を払わなくてはならなかった。新たな敵艦隊が現れればいよいよ兵力差は歴然としてくる。しかしまったく太刀打ちしなければ、ソーラ・レイはいともたやすく破壊されてしまう。新手が出てきた場合に備え、全兵力をあずにゃんの第二連合艦隊に差し向けるわけにはいかなかったのだ。
「頼むぞ…スザク。」
ゼロはぽつりとつぶやいた。その時、オペレーターが声を張り上げた。
「月のグラナダから黒の騎士団全軍に通信が入ってきます!映像通信のようです!」
直後、艦橋にある大型モニターがとある人物を映し出していた。車いすに座り、両の眼をとじ、それでもなお豊かな理性を感じさせる少女、
ナナリー・ランペルージ。
「ナナリー?!」
ゼロは目を見開いた。ナナリーがなぜグラナダにいるのか?そしてこの通信はなんなのか?
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01/14 01:35 Windows(PC) [565]エルザス
564
「ゼロと、彼に与する者たちに通告します。わたしはナナリー・ランペルージ、ジオン共和国使節団の一員です。私の使命は一つ、この悲惨かつ残酷な戦争に終止符を打つことです。」
ナナリーは確固とした意志をもって語り始めた。なぜ彼女が共和国の使節団にいるのか?なぜ危険なグラナダから退避していないのか?疑問と驚きは尽きないが、彼女の実の兄であるゼロは、いやルルーシュは、ナナリーが何を成さんとしているかをすでに把握していた。
彼女は、俺をとめるつもりだ。
「今すぐ抵抗をやめ、ソーラ・レイを共和国軍の手にゆだねなさい。あなた方のやろうとしていることは、人間ができることの中で最も醜い蛮行です。これ以上、無実の人間の未来を奪わないでください。グラナダへの攻撃を即座に中止してください。そして、連邦軍と共和国軍に降伏してください。」
ナナリーは閉じられていた目を開けた。ルルーシュは息をのむ。
「ナナリー、お前…見えているのか?」
グラナダからの通信はダモクレスに対してだけでなく、黒の騎士団のすべての部隊と、それを鎮圧すべく戦っているすべての連邦軍部隊にも送られてきていた。突然始まったナナリーの演説に、両軍の戦いがほんの一瞬だけ停止する。
「強大な力によって、平和をもとめる人々の心を捻じ曲げ、人の尊厳を踏みにじるソーラ・レイは卑劣です。その光はあってはならないのです。」
マハル宙域から遠く離れたグラナダ、そこにいるナナリーは、どうすれば兄を説得できるか悩んでいた。聡明な兄は人としての外道に堕ちた。兄の行為はすべての者を力によって支配しようという、およそ人の道からかけ離れた願望に立脚している。それをとめる責任が自分にはある。兄がどれほど自分のために尽くしてきてくれたか、ナナリーは知らないわけではない。しかし、いまは兄に背かねばならない。兄の敵となり、兄の道を阻み、兄の願望を打ち砕かねばならない。自分は兄を愛しているからこそ、彼が本当に人の道を踏み外す前に彼を救わなくてはならない。それがナナリーの悲願であった。だが、彼女の言葉はルルーシュ本人の言葉によって拒絶された。
「ならば共和国の行為はどうだ?戦争で散って行った兵士たちの死を無意味なものとし、自分たちが生きていられるうちに戦争を終わらせようとする腰抜けどもの存在が、この戦争を敗北へ導いたのではないのか?!」
突如として返ってきた映像通信に、ナナリーは戦慄した。マスクをかぶった兄、ゼロが、そこに映っていた。肩を震わせ、怒りに任せるようにして兄が叫ぶ。
「共和国政府こそ、前線で命を削って戦った兵士たちの意志を踏みにじったのだ!なぜお前がそれに加担している!ナナリー!!」
ルルーシュはかぶっていたマスクを取り、地面にたたきつけた。彼は理解できなかった。なぜナナリーまでもが、自分の行く手を阻むのか。力を求めた自分は間違ってはいない。間違っているのは世界のほうだ。彼はそう確信していた。ゆえに、彼はナナリーを許すことができなかった。
「8年振りにお兄様の顔を見ました。それが人殺しの顔なのですね。」
ナナリーもまた、ルルーシュのことが理解できなかった。確かに兄は意地っ張りで、だけど優しい人間だった。幾万ともしれぬ人々を一瞬にして葬り去ろうなどと、自分の知っている兄ならば決してできないはずだ。それなのに…
† † † † †
「9時方向から敵MS!」
タチバナの声が聞こえ、カレンは示された方向を注視した。確かに一群のMSが接近しつつあった。その先頭に白亜のMSを見つけたとき、カレンの鼓動がひときわ大きく脈打った。
「スザク…」
カレンはその機体を睨みつける。ゼロの最大の理解者、ルルーシュの最高の親友であるスザクは、いま自らの責務を完璧に遂行しようとしていた。彼を討たなくては、ゼロをとめることはできないだろう。
「タチバナさん、私はあのMS隊に向かいます。タチバナさんはこのままソーラ・レイへ進んでください。」
「バカな!あれだけの数ですよ!?一機じゃ無理だ!自分も行きます!」
「だけどそれじゃソーラ・レイにいる味方が…」
カレンが反論しようとしたその時、センサーが接近してくる味方の機体を捉えた。
「RX?黒猫中尉ですか!」
タチバナが声を上げ、カレンは後方を振り返った。第二連合艦隊の弾幕を背景に、RX、リトルデーモン、ゲルググ・マリーネ、そしてホウライの四機が近づいてきた。
「黒猫中尉!左翼から敵のMS部隊が来てます!艦隊が狙われてます!」
タチバナが黒猫に呼びかけた。即座に具体的な指示が返ってきた。
「チームを二つに分けよう。私とホウライ、それからダリル中尉はこのままソーラ・レイに向かう。パチュリーはタチバナくんに合流して左翼のMSを迎撃!いいね?」
「了解!」
皆の返事がそろい、彼らは二手に分かれた。タチバナ、カレン、そしてパチュリーの三人が、スザク率いる敵MS隊に向かう。その先頭をゆくカレンは一直線にランスロットへと向かっていった。
「この白い奴は私に任せて!!」
叫びながらランスロットとの距離を詰める。スザクもこちらに気付いたはずだ。
「了解!幸運を祈る!」
タチバナからの通信がきれ、紅蓮二式はランスロットと向かい合った。
「カレン、どうしても邪魔をする気か?」
スザクからの通信が聞こえた。カレンはそれに答える。
「スザク、私はあなたを誤解していた。やり方は違うけれど、あなたはあなたなりに、ジオンのことを考えていると思っていた。でも…!」
「自分は…俺とルルーシュには、やらねばならないことがある。」
「そう…そんなに力が欲しいの?だったら…」
「だったら?」
「あなたはここにいちゃいけない。あなたを倒し、ルルーシュをとめる!」
「そうは、させない!!」
双方の機体が身をひるがえし、熾烈な戦いが始まった。どちらかが倒れるまで、この戦いは決して終わることはないであろう。カレンとスザク。ゼロを支えた二人の戦士が、それぞれの信じるゼロのために命の火花を散らす。
† † † † †
「ナノハ!ナノハ!!返事をしてくれ!」
シンは完全に動転していた。敵機の自爆に巻き込まれたレイジングハートからは、一切の反応が消え果ていた。それもそのはずだ。レイジングハートのコックピットハッチは誘爆によって吹き飛ばされ、そこにいるはずのナノハは姿を消していたのだから。
「ナノハ!お願い!返事をして!!」
シンと同様にフェイトも叫ぶ。二人はいま、レイジングハートの周囲を飛び回りながら、おそらく宇宙に投げ出されたのであろうナノハの姿を探していた。呼びかけることに意味はないのかもしれないが、叫ばずにはいられなかった。
遠景には、激しく撃ちあう黒の騎士団艦隊と第二連合艦隊の姿があった。第二連合艦隊は進路を敵艦隊に阻まれ、思うように前進できていなかった。ソーラ・レイは移動してきた空母ミドロの陰に隠れて狙えないようだ。
だがしかし、そんなことは今の二人にとってどうでもいいことだった。ナノハがいない。この事実だけが二人の頭を支配していた。ほかのことが何も考えられない。ゼロをとめるという目的すら、その影をひそめたかのようだった。ナノハのことしか考えられない。ナノハのいない世界なんて、もっと考えられない。そんな世界はいやだ。そんなことがあるはずはない。二人ともそう思っていた。
ふと気づくと、黒の騎士団の旗艦ダモクレスがすぐそばを通過しようとしていた。ほかの艦艇同様、ソーラ・レイと第二連合艦隊の間に入り込むつもりらしい。そのまま過ぎ去っていくダモクレスを、フェイトは呆然として眺めていた。もはや思考が停止していた。ナノハのいない世界を守ったところで、いったいなんの意味があるのだろうか。
「それはちがうよ、フェイトちゃん。」
「えっ?」
不意にナノハの声が聞こえ、フェイトは周囲を見渡した。だが、あたりにナノハの姿は見えない。それに今の声は、自分の内側から聞こえてきたような気がした。それでいて、どこか遠くから聞こえてくるような声。
「フェイトちゃんは絶対に、ゼロをとめなくちゃいけないの。それが私の願いであり、フェイトちゃんの願いでもあるから。」
「ナノハ…どこにいるの?私は、ナノハがいないと…ずっとずっと、ナノハと一緒に…」
「私はいつだってフェイトちゃんと一緒にいるよ。フェイトちゃんとは、また会えるから…」
その時、フェイトは確かにナノハを感じていた。この宇宙のどこかにいるナノハが、確かに自分を後押ししてくれている。そう思った瞬間、フェイトの中に力がこみあげてきた。
「シン、ダモクレスを沈めよう。」
フェイトはシンにそう言った。シンは半ば怒ったように答えた。
「なにいってるんだよ!ナノハを探さなきゃ!!ナノハのことは諦められないだろ!!」
「もちろん、諦めてなんかいない。大丈夫。ナノハは、また会えるって言ってくれた。」
「フェイト…何を言って…」
その時、シンの中にもナノハの声が響いた。
「シンくん、フェイトちゃんをサポートしてあげて。」
「ナノハ?!どこに、どこにいる?!」
「私のことはいいから、いまはフェイトちゃんのことを見てあげて。フェイトちゃんはシンくんの助けを必要としてる。彼女に応えてあげて。ナノハからのお願い、ね?」
「ナノハ…?」
その声の正体はわからなかったが、シンはナノハに従うことに決めた。
「行こう、フェイト。ダモクレスを沈めるんだな?」
「うん。ありがとう、シン。」
「大型だ。装甲も厚い。」
「うん、それに上部の砲塔も…」
「だけど、二人でなら。」
「うん…!」
バルディッシュとディスティニーが加速し、通過していったダモクレスを追ってゆく。
† † † † †
ルルーシュとナナリーの舌戦は最高潮に達しつつあった。二人の意見は真っ向から対立していた。ナナリーが何を言っても頑なに降伏を拒むルルーシュ。兄からの辛辣な批判をまっすぐ受け止めるナナリー。
「お兄様に、この世界を好きにする資格はありません。ゼロを名乗って、人の心を踏みにじってきたお兄様に。」
「では、あのまま隠れ続ける生活を送ればよかったのか?暗殺に怯え続ける未来が望みだったのか?お前の未来のためにも…」
「いつ私がそんなことを頼みましたか?私は、お兄様と二人で暮らせればそれでよかったのに。」
「しかし、現実は様々なものによって支配されている。抗うことは必要だ。」
「抗う方法を間違えています!ソーラ・レイのような邪悪な兵器に頼らなくても、お兄様ならできたはずです!」
「では話し合えばよかったとでも?ザビ家の独裁がまかり通るジオンで、そんなことができたと思っているのか?そしてかつては自らザビ家を支持しておきながら、いまになって手のひらを返したように共和制に寝返ったジオンの民衆は、今ではザビ家こそ最大の戦争犯罪人だと喧伝し、欺瞞に満ちた平和を手にしようとしている!」
「ザビ家は、憎しみの象徴になります。」
「…!」
不意に声のトーンを落としたナナリーに、ルルーシュは思わず目を見開いた。
「憎しみは、ザビ家が背負うんです。みんなが明日を迎えるためにも。」
その瞬間、ルルーシュは最愛の妹の真意を理解した。彼女はザビ家を代表して自ら悪人となり、民衆の怨嗟の声を一身にうけながら、明日の未来を切り開こうとしているのだ。そうすることで民衆が二度と戦争を望まないようにする。ザビ家が悪の象徴として民衆の記憶から消えない限り、彼らは戦争を望むことはしないだろう。そしてナナリーは一人、生けるザビ家として民衆に警鐘を鳴らし続ける。人々が欲すれば戦いは再び起こるであろうことを、自ら憎まれることによって。あぁそうか、ナナリー…お前も…
「ふん、なんにせよ、俺は俺の意志を貫くだけだ。話せて楽しかったぞ、ナナリー。そしてサヨウナラ、だ。」
ゼロはそう言い残し、回線を強制的に切断させた。
「お兄様!お兄様!」
ナナリーは取り残されたように感じた。もう二度と兄には会えない。そう思った。切なさに涙がこみあげてくる。嗚咽をこらえることができない。
「ナナリー様…」
控えていたダルシアがナナリーに見かねてナナリーに声をかけた。ナナリーのあまりにも痛々しい姿に、ダルシアさえも胸が締め付けられるような思いだった。あれがはたして本当に彼女の兄なのか。ルルーシュという青年は、あそこまで残酷になりきれるものだったのか。
ダルシアは愕然としていた。ナナリーならばルルーシュを説得できると思っていた。だが、ナナリーを責めるつもりはない。責められるべきはルルーシュだ。しかし、ダルシアにはそれも腑に落ちない。あれがルルーシュの真意とは到底思えない。もしかすると、長い間かぶり続けていたあのマスクが、ルルーシュの人間性を変えてしまったのかもしれない。
ダルシアは泣き続けるナナリーの肩にそっと手を置いた。時計を見ると、時刻は午前7時10分であった。ソーラ・レイの発射まで、あと二時間弱。
† † † † †
ダモクレスの艦橋に立つルルーシュは、奇妙な喪失感にとらわれていた。それでいて、やるべきことははっきりとしていた。ナナリーは、もうすでに立派な考えを持って生きていた。だからこそ、自分は自分の道を歩むことができる。
ルルーシュはナナリーに感謝していた。最後に突き放すような真似をしたのが無念でならないが、それも自分の目的を達成するためだ。ナナリーはいずれわかってくれよう。
「仮面をかぶり続けたな。ナナリーの前でも。」
不意に背後から声をかけられ、ルルーシュは後ろを振り返った。艦橋の入り口のところに、C.C.がもの憂げに立っていた。
「マスクならかなぐり捨てた。そこに転がっているだろう?」
「そういうことじゃない。お前の意志の強さは分かったが、ナナリーがかわいそうだ…」
「ナナリーはもう自分の考えで生きてゆける。俺はもう必要ない。」
「…ルルーシュ、もう十分じゃないのか?お前は良くやった…」
「…俺が悪を成さねばならない理由は分かっているだろう?」
「だけど、お前は今までナナリーのために…」
「もう、特別扱いはできない。消えて行ったあまたの命のために、俺たちは止まるわけにはいかないんだ。そうだろ、C.C.?」
「…そうだな…」
その時、ひときわ大きな爆発音が響き、ダモクレスの船体が激しく揺さぶられた。体勢を崩したC.C.をルルーシュが抱き留める。
「後方より敵のMS!これは…ば、バルディッシュです!」
オペレーターが驚きの声を上げると同時に、ルルーシュもまた目を見開いた。
「バルディッシュだと?!確かか?」
「はい。連邦軍のガンダムタイプと一緒にいます。追撃してきます。」
「蜃気楼で出る。ダモクレスはこのまま敵艦隊へ向かえ。ミドロからの増援を要請しろ。」
素早く支持を飛ばし、ルルーシュは格納庫へと向かう。
「私も暁で出よう。兵力が足りないのだろう?」
C.C.がついてきてルルーシュに言った。しかし、ルルーシュはゆっくりと首を振った。
「お前にはこの世界を見守る義務がある。サイド3へ行ってくれ。アサクラという男に会うんだ。悪いようにはしないはずだ。」
「それが…お前の望みなのか?」
「そうだ。この戦いの真実を、誰かが記憶しなければならない。お前が適任だ。いつも俺たちの戦いをすぐそばで見てきたお前なら。」
「それでお前はどうする?結果がどうあれ、お前がもたらしたものは破壊と恐怖だ。私は確かにお前たちのことを忘れない。だがそれがなんになる?私はこの戦いの真実を誰にも語るつもりはない。お前との思い出は、人に語るにはあまりにも特別だ。」
「それでいいんだ。誰か一人でも、俺たちのことを覚えていてくれれば、俺たちの行為は無駄にはならない。思い残すこともなくなる。」
「ルルーシュ…」
二人は格納庫に着いていた。蜃気楼と暁が整備を終えて並んでいる。
「お別れだC.C.。元気でな。」
あっさりと言って蜃気楼に向かうルルーシュの手を、C.C.がぐっとつかんだ。
「最後に一つだけ、頼みがある。」
「なんだ?」
振り向いた瞬間、ルルーシュの唇はC.C.のそれによってふさがれていた。永遠のような一瞬が通り過ぎ、背伸びしていたC.C.はルルーシュから離れた。
「お別れだルルーシュ。お前は優しいな。」
C.C.はそう言い残し、暁のもとへと駆けて行った。ルルーシュはフッ、とほほ笑み、蜃気楼へ向かった。
最終更新:2011年01月30日 14:44