一方ナガモンたちは、第二連合艦隊の壊滅を見てはやくも行動を起こしていた。BlackCatは敵艦のメガ粒子砲を次から次に切り落とし、
フラッグⅡはその推進装置を破壊し、RXは砲座を叩き潰していた。一刻も早くこの敵艦隊を無力化しなければならなかった。いまや第二連合艦隊にのこっている戦艦は二隻だけだ。敵の戦意を削ぎ、
ブラックハウスとウォースパイトだけはやらせはしない。彼女たちの意図はそのようなところにあった。いまやナガモンたちによる攻撃は殲滅戦の様相を呈していた。MSに戦艦が蹂躙されていく様はかつてのルウム戦役を思わせたが、ナガモンたちの機動はそれよりもはるかに洗練されていた。
一隻のチベがあっというまにすべての砲座をつぶされ、丸裸同然の状態となってただよった。嵐のごとく敵艦を襲うナガモンたちは、はたから見れば狩人のように狡猾だった。
黒の騎士団艦隊はもはや完全に戦闘能力を喪失していた。艦船の内部から時折起こる小爆発は、内部のミサイルなどが引火した結果であろうか。ナガモン、黒猫、グラハム、ダリル、そしてホウライの徹底的な攻撃の結果、黒の騎士団艦隊はついに回頭し、離脱を始めた。向かったのはソーラ・レイの方角ではなく、サイド3の方角だった。もっとも、推進装置を破壊されて自力航行をできない船もかなりいた。このような戦艦では総員退艦が発令されたらしい。大型の艦船からいかにも貧弱なランチが発進してきた。小型のランチではサイド3までたどり着くのは至難の業であろう。それでもランチは高速で進んでいく味方の戦艦に追いすがった。その様は儚く、弱々しかったが、しかしなぜか崇高であった。たとえ生きて戻れないとしても、自分たちは祖国へ帰る。黒の騎士団の兵士たちのそんな決意が見て取れた。
退却していく敵艦隊を見つつ、ナガモンは仲間達に言った。
「こうなったらオレ達でソーラ・レイを破壊するしかない。まだ時間はあるんだ。行こう!」
BlackCatがバーニアをふかしてソーラ・レイへと向かい、他の機体がそれに続いた。ただ一機、ホウライだけが動かなかった。黒猫がそれに気づき、ナガモンに注意を促した。
「ナガモン、ホウライが!」
ナガモンが後方に目をやった瞬間、ホウライの機体に火花が走り、あっというまに爆発してしまった。ひどくあっけい最期だった。
「ホウライが……役目を終えたんだな…」
ナガモンは、つぶやいたが、しかし歩みはとめなかった。さっきまでのホウライは、まるで完全に自立した意志を持っているかのようであった。それはきっとアリスの意志だ。ブラックハウスを守りたい、仲間を守りたいというアリスの意志が宿って、ホウライは戦いを続けられた。
そんな夢物語みたいな空想をしながら、ナガモンはたったいま散った大切な仲間に感謝の気持ちを抱いた。いままでありがとう、ホウライ。
ソーラ・レイを目指して進むナガモンたちの眼下では、空母
ミドロが戦域からの移動を開始していた。その巨体をじわじわと動かし、ミドロもまたサイド3へと向かっていく。ついにソーラ・レイは丸裸となった。もうそれを守る者は存在しない。
[削除][編集][コピー]
01/28 00:25 Windows(PC) [579]エルザス
578
ソーラ・レイを守る可能性がある者といえば、スザクが率いるMS隊がそうであったかもしれない。しかし彼のMS隊もまた、タチバナやパチュリー、それにほんの一握り残ったジム隊の活躍によって撃破されていたのである。カレンとの戦いの合間に、スザクは一発の信号弾を打ち上げた。部隊に全面退却を指示する信号弾であった。激戦を潜り抜け、なおも戦い続けようとしていたMS隊の動きが止まった。彼らは自分たちの艦隊がナガモンたちによって撃滅されたことを知っていた。もう帰る母艦はいない。しかし、今ならまだ空母ミドロに追いつける。スザクが下したギリギリの判断であった。直後、黒の騎士団のMS隊はいっせいに退却を始めた。追撃しようとするジムを巧みにけん制しつつ、互いに援護しあいながら引いてゆく。
しかし、スザクの
ランスロットだけは、まだ戦場にとどまったままだった。ランスロットはカレンの
紅蓮弐式といまだに死闘を繰り広げていた。すでに双方の機体はボロボロだった。斬っては斬られ、斬られては斬る。果てなき戦いはどこまでも続くかに思われた。だが、機体の活動限界が近づいてきていた。その前に、なんとしても決着をつける。スザクはそう決意し、渾身の一撃を繰り出した。捨て身の勢いで敵にぶつかり、ヒートサーベルを繰り出す。だが、紅蓮弐式はそれを受け流し、ものすごい勢いで反撃してきた。間一髪のところで敵のヒートサーベルをかわすと、スザクは唸った。
「決めきれない…!カレン、なんて強さだ!」
一方のカレンもまた、スザクの強さに感嘆していた。
「スペックはこっちが上のはずなのに、これだけの力が……スザク、なぜ!?」
「終わりにしよう、カレン!!」
スザクが叫び、ランスロットは紅蓮に向かって突っ込んでいく。
「あなたに正義さえあれば!!」
カレンも叫んで機体を駆る。突き出されぶつかり合った双方の剣が火花を散らし、一瞬の間があいた後、紅蓮弐式のシステムがダウンした。機体の活動限界を迎えたのだ。モニターが真っ暗になり、カレンはコックピットの中で外の世界と隔絶された。
「そんな…届かなかったの…?」
カレンは絶望の声をもらした。しかし、スザクの声がそれに答えた。
「いや…届いているよ、カレン。」
スザクは口から血の塊を吐き出した。コックピットの装甲を貫いた紅蓮弐式の剣先は、スザクの躰にまで届いていた。刹那、ランスロットの機体が爆発した。スザクの躰は消滅し、直近で衝撃を受けたカレンも意識を失った。紅蓮弐式が爆風によって投げ出されたが、それをワイヤーで捕らえた機体があった。タチバナの
セイバーフィッシュである。
「そうか…勝ったのか、カレン。」
タチバナはつぶやき、紅蓮弐式をブラックハウスへと曳航していった。カレンが無事であってほしいと、彼は心から願っていた。
[削除][編集][コピー]
01/28 00:25 Windows(PC) [580]エルザス
579
フェイトとの近接戦闘を強いられていたルルーシュは、このあたりが潮時であろうと感じていた。黒の騎士団は艦隊もMS隊もいまや自分の指揮下を離れ、祖国の姿を今一度見ようと旅立っていった。さみしくはあったが、彼はこれでいいと思っていた。これだけの破壊を超えて、なお生きてゆくものがあるのなら、俺はそれでいいと思う。
ルルーシュはフェイトとの回線を開くと、言った。
「ここまでのようだ。もはやソーラ・レイを守る術は、わが手にはない。」
フェイトはそれを聞き、はっと息をのんだ。
蜃気楼は機体の周囲に展開していたシールドを解き、動きを止めた。恭順の意を示しているようにみえた。
「それじゃあ、投降してくれるんですね?」
バルディッシュを蜃気楼の正面に停止させて、フェイトはルルーシュに訊いた。救われた気がした。これでもう一度、ルルーシュと直接あって話をできる。そう思った。だがその時、ルルーシュの冷たい声が響いた。
「だが断る!」
刹那、蜃気楼が胸部のビームをバルディッシュに向かって撃ち放ち、バルディッシュは頭部を吹き飛ばされた。強烈な振動がコックピットを襲う。
「あああああああああああっ!!」
突然の攻撃にフェイトは悲鳴を上げる。
「フェイト、俺の手はとっくに汚れているんだよ。それでも向かって来るなら構わない。歓迎してやるさ、俺達は友達だからな…」
ルルーシュはそう言うと、損傷を負ってすぐには動けないバルディッシュに背中を向けた。蜃気楼がバーニアをふかし、その機体がフェイトのもとから離れていく。フェイトはそれを追おうとするが、機体が言うことを聞かない。
「ゼロ!ゼロ、待って!!お願いバルディッシュ、動いて!動いてよ!!」
フェイトは泣き叫ぶが、蜃気楼は歩を進め、バルディッシュは沈黙したまま動かなかった。
「ゼロ…どうして…」
置き去りにされたフェイトの瞳から、悲しみの涙が無重力へと浮かび上がった。
[削除][編集][コピー]
01/28 00:26 Windows(PC) [581]エルザス
580
ナガモンたちは、ソーラ・レイを形成する巨大なコロニーの壁にとりついていた。彼女たちは残された少ない武装を駆使して懸命にコロニーを傷つけようとしていたが、しかしコロニーは巨大すぎた。ビームライフルやバズーカの弾丸は撃ちつくし、いま彼女たちの手元にある武器と言えばビームサーベルと機体頭部のバルカンくらいのものだった。
「ダメです!こんな武装じゃびくともしない!!」
ゲルググのビームサーベルを壁面に突き立て、ダリルがやけくそになって叫んだ。その隣では黒猫がRXの拳を壁面に打ちおろしていた。だが、コロニーの外壁はほとんどへこみもしなかった。
「もう時間がないのに…だけど私たちの力じゃどうしようもないよ…」
黒猫は時計を見ながら言った。もう時間は30分も残っていなかった。ブラックハウスとウォースパイトはまだ姿を見せない。このままではソーラ・レイが発射されてしまう。敵の戦闘部隊を撃滅したところで、ソーラ・レイの発射を阻止できなければ意味がないのだ。
「機体の核融合炉を暴走させて、ここで爆発させたらどうです?大穴を開けることができると思いますが。ただし、パイロットが無事に脱出できる保証はありませんが…」
ダリルが言った。
「ならば私のフラッグを犠牲にしよう。エネルギーの総量ならどの機体にも引けを取らないはずだ。」
グラハムがこともなげに言った。彼はフラッグを犠牲にするといったが、それが意味するのはつまるところグラハム自身が犠牲になるということである。
「却下だ。この中の誰かが犠牲になる方法なんて認めない。」
ナガモンがきっぱりと言い放った。戦争は終わるのだ。これ以上仲間を失うことがあってはならない。彼女はそう確信していた。
「ではどうするのだ?このままグラナダが灼かれるのを黙って見ているつもりか?!」
グラハムがナガモンを問い詰める。彼女はしばらく沈黙したかと思うと、おもむろに叫び声をあげた。
「くそっ!」
短く叫んでから、ナガモンはBlackCatを操作した。BlackCatは両腕を伸ばしてソーラ・レイの壁面を押すと、その体勢のまま勢いよくバーニアを噴射し始めた。
「何をする気だ?」
グラハムは怪訝な表情でナガモンに訊く。
「たかがコロニーひとつ、ガンダムで押し出してやる!」
「バカなことはやめろ!」
「やってみなければ分からん!」
「正気か!?」
「貴様ほど急ぎすぎもしなければ、状況に絶望もしちゃいない!」
「もう時間がないんだぞ!」
「BlackCatは伊達じゃない!!」
[削除][編集][コピー]
01/28 00:27 Windows(PC) [582]エルザス
581
ナガモンの絶叫は宇宙にこだまするようだった。あっけにとられるグラハムを横目に、黒猫が動いた。
「ブラックハウスがここに間に合わない可能性だってあるしね。やれるだけのことはやろうよ。それに、やっぱりグラハムさんを犠牲にするなんてできないよ。核融合炉を爆発させるんだったら、みんな一緒になってやろう。誰か一人だけを犠牲にして生き残るほど、わたしたちは邪悪にはなりたくない。だいたいその方法をとるのは最後の手段だよ。発射ぎりぎりの時間までは、まだあきらめるわけにはいかないんだ。」
RXはBlackCatの隣に寄り添い、やはりソーラ・レイを押し始めた。
今度はダリルが動いた。ゲルググがソーラ・レイにとりつき、バーニアが最大出力をたたき出す。
「連邦軍だけにいい思いはさせませんよ!」
ダリルはそういってさりげなく親指を立てるサインをだした。
「ダリル、お前まで…」
「月が駄目になるかならないかなんだ!やってみる価値はありますぜ!」
懸命にソーラ・レイを押す三機のMSを見て、グラハムは天を仰ぎたい衝動に駆られた。これほどまでに純粋なものたちを巻き込んで、ゼロはいったい何をしたかったのだ。彼らの命を弄び、あまつさえ多くの若者の命を奪ったゼロ。かつて自分とともに戦ったあの名将はその地位を自らの手で貶めた。そのいっぽうでこの目の前にいる戦士たちは、かつてお互いが敵同士であったにも関わらず、こうして一心不乱にゼロの野望を阻止しようとしている。あまりにも崇高なその精神に、グラハムの目頭が熱くなる。微力ながら、自分も彼らの力になろうではないか。
フラッグⅡがついにソーラ・レイの壁面を押し始め、四機のMSが一列に並んだ。それぞれが持てるすべての力を絞り出し、ソーラ・レイを懸命に懸命に押していく。機体の核融合炉は臨界ぎりぎりにまで加熱していた。それでも出力を押さえることはしない。今は信じて押すしかない。
その時、ソーラ・レイがほんの少しだけ動いた気がした。かと思うと、その巨大な構造物はみるみるうちに向きを変え始めたではないか。
「やった!やったぞ!!」
ナガモンが歓喜の声を上げた。黒猫がそれをかき消すほど叫びを発する。
「やったあああああああああ!!」
「やりましたよ隊長!」
ダリルがグラハムに笑顔を見せる。
「あぁ、まさか本当にやれるとは…」
グラハムの顔もほころぶ。四機はそのままソーラ・レイを押し続け、いよいよその照準は狂ったかに思われた。その時だった。
「な、なんだ?!」
突然ソーラ・レイが四機を押し戻し始めた。到底太刀打ちできる出力ではなかった。
「コロニーそのものの姿勢制御ブースターだ!押し返されるぞ!!」
グラハムが叫んで、その言葉通りになった。コロニーの反対側では、強力なブースターがMSのそれを軽く上回る出力を発揮していた。ナガモンたちはあっけなく押し返され、反動でソーラ・レイから引きはがされた。
「ダメ…なのか…?」
ナガモンの沈みきった声がむなしく響いた。
[削除][編集][コピー]
01/28 00:28 Windows(PC) [583]エルザス
582
あずにゃんは、ブラックハウスのクルーに対して新たな指示を出していた。
「ここまで来てあきらめるわけにはいきません。ブラックハウスをソーラ・レイの内部に突入させ、そこで核弾頭を起爆させます。」
「核、ですか?!」
カントーが驚きの声をあげた。核兵器の使用は南極条約によって禁止されているはずだ。その核兵器が、このブラックハウスに搭載されているというのか。
「補給艦ダンボールより内密に運び込まれたMk-82核弾頭が、ガンペリー用デッキに保管してあります。これを使用するしかありません。責任は私がとります。」
「それじゃ、ガンペリー用デッキが立ち入り禁止になっていたのは…」
「核弾頭の存在を外部に漏らさないためです。ベーダー卿の命令で積んでおいたのが役に立つとは…私も本当に使うことになるとは思っていませんでしたから。だけど今はもう迷いません。核弾頭を使用し、あの恐ろしい兵器を破壊します。もう二度と、あれを光らせてはならないんです。」
あずにゃんの断固とした声を聞いて、カントーは押し黙った。状況は差し迫っている。月のグラナダが灼きはらわれようとしているのだ。いまさら条約を持ち出している場合ではないのかもしれない。それに、ここで核兵器を使用したとしても、巻き込まれる人間はまずいないはずなのだ。やるしかない。
「ソーラ・レイの発射口は、いまは反射鏡でふさがれている状態です。これにブラックハウスをぶつけ、ソーラ・レイの内部で核を起爆させる。ソーラ・レイを確実に破壊するにはこれしかありません。針路をソーラ・レイにむけた状態で総員退艦を発令します。はちゅねさん、戦艦ウォースパイトにはブラックハウスクルーの収容準備をするように伝えてください。」
「了解しました。」
はちゅねがウォースパイトと連絡を取り始める。
「ジョーンズさん、ブラックハウスをソーラ・レイ発射口への直進コースに乗せてください。あとは進むだけです。もう後ろは振り向かない。」
ジョーンズが黙ってうなずき、ブラックハウスは回頭する。艦橋の真正面にソーラ・レイの巨大な発射口が見えてきた。この状態を維持して全速力で進めば、ブラックハウスは発射口を覆う反射鏡を破ってソーラ・レイの内部に突入できる。
「ナガモン中尉、こちらアークです。すぐにソーラ・レイから離れてください。これからブラックハウスが内部へ突入し、そこで核弾頭を起爆させます。」
「ブラックハウスが?!間に合うのか?!」
アークは時計を見た。午前8時40分。ソーラ・レイの発射まであと20分。総員退艦にかかる時間を差し引いても、充分余裕はあるはずだ。
「大丈夫です。ソーラ・レイの破壊はこちらに任せてください。それより、ブラックハウスには総員退艦が発令されます。その際に発進するランチの護衛をお願いします。」
「ブラックハウスを捨てるのか…」
ナガモンの口調に一抹のさみしさが混ざった。無理もない。長い間そこで生活し、絶望的な状況を何度も生き残ってきた船なのだ。そこはまさにナガモンたちにとっての家であり、帰るべき場所だった。だが、あずにゃんも同じようにブラックハウスを愛しているはずだ。その彼女がブラックハウスを破壊することに決めた。もう決定は覆らない。
「あずにゃん艦長の判断です。私たちが嘆いても仕方ないでしょう。艦長ご自身もつらいと思います。」
「…そうだな。わかった、これよりソーラ・レイを離れ、ランチの護衛に向かう。もうこのあたりに敵はいないみたいだが、念には念を、だな。」
「お願いします。」
アークがナガモンとの通信を終えたときには、すでにエイミィが艦内に総員退艦の命令を通達している最中であった。
[削除][編集][コピー]
01/30 01:04 Windows(PC) [584]エルザス
583
「一人も残すな!!戦死者の遺体も一緒に連れて行くんだ!!」
医務室では、アベ軍医の渾身の叫びが響き渡っていた。ミチシタをはじめとする衛生兵が総出で動けない負傷兵、そして戦死した兵士の遺体までをも運んでゆく。そんな中で、先ほどブラックハウスに着艦したばかりのタチバナは一人の少女の躰を抱き上げていた。抱えられているのはカレン・コウヅキである。タチバナはセイバーフィッシュでカレンの紅蓮弐式をブラックハウスまで運んできたのだ。着艦してすぐに紅蓮のコックピットを確認した。カレンは気を失っていたが、命に別状はなかった。タチバナは彼女を医務室へと運んだ。その途端に総員退艦が発令されたのだ。たったいま下ろしたばかりのカレンの躰をしっかりと抱えて、タチバナは廊下を歩き始めた。
「タチバナ少尉、ここにいたのね。」
後ろから声をかけられ、タチバナは振り返った。小走りに近づいてくるのはヒタギ・センジョウガハラであった。
「セイバーフィッシュはまだ稼働状態にあるわ。無事な機体はブラックハウスから出した方がいいと思うのだけれど…」
ヒタギはそう言いながら、タチバナが抱きかかえているカレンに視線を落とした。
「だけど愛機よりも人の命を取るでしょうね、少尉なら。」
「ご名答です。もうソーラ・レイを破壊できる目途は立ったんでしょう?戦争は終わりだ。もう、戦闘機も戦艦も必要ない時代がじきにやってくる。少なくとも自分はそう信じています。だからセイバーフィッシュはブラックハウスに置いてゆく。ブラックハウスがさびしくないようにね。」
「わかったわ。では私はこれで。まだ整備班には作業が残っているから。」
ヒタギはそう言うと、素早く回れ右をして走り去っていった。衛生兵と死傷者はみんなランチへ行ってしまったらしく、タチバナはいつの間にか一人になっていた。いや、カレンと二人、というべきか。
薄暗い廊下を歩きながら、タチバナは不意に一句を思いついた。
「身はたとひ 銀河のはてに 朽ちぬとも とどめおかまし 大和魂。」
浮かんだ句を口ずさみ、タチバナはランチへと向かう。これでいいのだ。自分は戦った証を残した。もう充分だ。小隊の仲間はみんな死んでしまった。自分一人をのこして。
タチバナは気を失ったままのカレンを見下ろした。自分の腕に抱えられて、カレンは以外にも安らかな表情をしていた。今は一人でも多くの命を救いたいと思った。一人でも多くの人の命を、残酷な死の淵から掬い上げるのだ。人をすくうとは、そういうことなのだ。
[削除][編集][コピー]
01/30 01:05 Windows(PC) [585]エルザス
584
ナガモンたちはソーラ・レイを離れ、ブラックハウスのもとへと向かっていた。案外近くまで来ていたブラックハウスの横には、ようやく生き残った戦艦ウォースパイトが控えていた。二隻の戦艦の間をランチが行き来していた。ブラックハウスには撃沈された
アースラのクルーも乗り込んでいたため、小さなランチは複数回往復しないとクルー全員をウォースパイトに運びきれなかったのだ。ブラックハウスの周囲では、激戦を生き延びたわずかなジムがランチの護衛にあたっていた。それらを指揮しているのはパチュリーだ。
「よし、オレと黒猫は上下に分かれてひし形の陣形をつくる。それでランチとウォースパイトを囲んで警戒に当たる。気を抜くなよ。」
「了解!」
ナガモンの指示に黒猫が応じる。二人は上下に大きく離れ、グラハムとダリルの二人は左右にすこしだけ開いた。形成され縦長のひし形はウォースパイトを中央に据え置き、停止した。
「パチュリー、シンとナノハ、それにフェイトはどうした?
リトルデーモンでは捕捉できないか?」
ナガモンは警戒配置についてさっそくパチュリーに尋ねた。今となっては味方の安否が最大の心配事項だ。ソーラ・レイを押し出そうとした試みが敗れたときはどうなることかと思ったが、もはやソーラ・レイの発射は阻止したも同然だ。ならば肝心なのは、みんなが生きて終戦を迎えられるかどうかだ。しかし、パチュリーの言葉はあまりに生々しく、冷酷だった。
「ナノハの
レイジングハートはシグナルを完全に消失、フェイトのバルディッシュは捕捉できず、シンのディスティニーだけが、いまこちらに向かっているわ。」
「なん…だと…?」
ナガモンは言葉を失った。ナノハとフェイトがやられた?あの二人が?どうして?
「そんな…そんな…」
耳をふさぎたくなるような、目をそらしたくなるような事実だった。もう取り戻せない人の命。もうナノハやフェイトとは会えないのか。あんなに元気だったナノハが、あんなにも健気だったフェイトが、もうこの世にはいない?
「オレは…言ったんだぞ……みんな、死ぬなよって…なのにあいつら…」
ナガモンは両の手で自分の顔を覆った。深く息を吸い、そして吐く。事実は事実だ。受け入れなければならない。だが…
「人の命って、どうしてこんなに儚いんだよ…」
絞り出した言葉は震え、ナガモンは瞳に涙を浮かべていた。
[削除][編集][コピー]
01/30 01:06 Windows(PC) [586]エルザス
585
「総員退艦、ほぼ完了しました。あとは私たちだけです。」
ブラックハウスの艦橋で、はちゅねがあずにゃんに言った。艦橋はいまや静まり返っていた。二人のほかに人影はなく、それはブラックハウス全体を見渡してもおなじことだった。
「行きましょう。ブラックハウス、最後の仕事です。」
あずにゃんはそう言って、ブラックハウスの操縦コンソールに立った。針路はジョーンズが完璧に設定してある。あとはこれを操作して船をまっすぐ進めればいいだけだ。
「ブラックハウス、両舷前進強速。針路そのまま。」
声に出して確認し、あずにゃんは操縦用のパネルを操作した。艦尾の推進装置がうなりをあげ、ブラックハウスはソーラ・レイに向かって前進し始めた。
「急ぎましょう艦長。低速のランチだと核爆発の余波を受けるかもしれません。」
はちゅねがドアのところであずにゃんをせかした。あずにゃんはもう少しだけこの艦橋に残っていたかった。さすがに後ろ髪を、いやツインテールを引かれる思いだったのだ。初めて艦長として指揮した船。いろいろな経験があった。喜びも悲しみも、生も死も、ともに味わった。この船とともに。数々の苦難を乗り越えてようやくたどり着いたこのマハル宙域で、いまブラックハウスはその生涯を終えようとしている。
「ありがとう、ブラックハウス。そして、さようなら。」
あずにゃんはつぶやき、誰もいない艦橋に敬礼を送った。心からの感謝の気持ちだった。本当に、本当にありがとう。
敬礼をゆっくりと解き、あずにゃんは艦橋を出ようとした。その時だった。艦橋正面の窓の向こう、窓枠いっぱいにまで迫りくるソーラ・レイの陰から、銀色に光る何かが飛び出してきた。その物体はあっという間に近づいてきて、あずにゃんの視線を捉えて離さなかった。
「あれは…」
近づいてくるその物体とは、銀色のMS、
シャドームーンであった。シャドームーンのコックピットでは、興奮した様子の一人の男が、狂乱の叫びをあげていた。
「逝っちまいなぁ!!」
その男、
アリー・アル・サーシェスは、正確に照準されたジャイアント・バズーカをブラックハウスの艦橋へ向けて発射した。
ブラックハウスの歴戦の艦長、アズサ・ナカノは、迫り来る弾頭を見ながらこんなことを願っていた。「生き残ったみんなが、最後まで戦い抜けますように」と。
「センパ…」
艦橋に飛び込んだ弾丸は彼女を押し潰し、一拍おいた後でその本分を完璧に果たしたのだった。あっという間の出来事だった。艦橋を破壊されたブラックハウスはそれでもますます加速しながら直進を続け、ついにソーラ・レイの発射口へと突入していった。反射鏡の破片が周囲に飛び散り、ブラックハウスはとうとうソーラ・レイの内部へと入り込んだ。刹那、あらかじめ信管を調節されていたMk-82核弾頭が、その威力を存分に発揮した。
最終更新:2011年02月01日 01:03